大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年03月01日 | 植物

<1888> 大和の花 (155) フクジュソウ (福寿草)                   キンポウゲ科 フクジュソウ属

       

 明るい落葉樹林の林床や山畑の畦などに生え、群生することの多い多年草で、黒褐色を帯びる太い根茎には多数のひげ根を束生し、直立する茎も太く、高さは20センチ前後になる。柄のある葉は羽状複葉で、細かく裂け、軟らかい。花期は2月から4月ごろで、茎頂に1花を開く。花は直径3、4センチで、自生するものは光沢のある黄金色の花弁が、パラボラアンテナのような形に開く。早春の花らしく、太陽光を求める向日性の強い花で、いつも太陽と交信しているような雰囲気の花である。そして、花は夜や天気のよくないときは花弁を閉じ、萼片によって雨や霜雪、寒気などから花芯を守るように働く。

 北海道から本州、四国、九州に自生し、国外では朝鮮半島から中国東北部、サハリン、東シベリアに分布する。どちらかと言えば、寒冷地に多く見られ、温暖地では深山にのみ生え、大和(奈良県)においては、紀伊山地の山間に自生し、五條市西吉野町の自生地の群落は珍しいとされ、奈良県の天然記念物に指定されている。西吉野町では、近年、自生地の保全が進められ、フクジュソウ観察の遊歩道なども整備され、減少に歯止めがかかっているようで、奈良県のレッドデータブックは絶滅寸前種から絶滅危惧種に変更した。なお、フクジュソウの専門家の北海道教育大の西川恒彦氏のフクジュソウ4分割の見解を入れ、奈良県産のものをシコクフクジュソウとしてレッドデータブックは扱っているが、ここでは旧来通りに扱った。

 旧暦の正月ごろに花が咲き始めることから、その縁起によってこの麗しい和名は生まれたが、別名も、元日草、歳旦草、正月花、福神草、報春花、賀正蘭、長寿菊などみな福々しい名がつけられているのがわかる。明るい黄金色の花が1年の初めを飾るということで、この花の特殊性により、フクジュソウは正月の床飾りにされるようになった。フクジュソウが観賞されるようになったのは江戸時代で、人気を博したと言われる。なお、フクジュソウはキンポウゲ科の仲間らしくシマリンという有毒物質を全草に含む毒草で、「強心薬と早合点してはならない」と薬草書では警告している。この点、注意が必要である。

 写真は左からクヌギの落葉が散り敷く山間の地で群落をつくり花を咲かせるフクジュソウ、積雪の中で咲き出たフクジュソウ、花のアップ。多くの雄蕊も黄一色で、花にはアブの仲間が来ているのが見られた(いずれも西吉野町での撮影)。

 蕊(しべ)多きことも福なる福寿草

 

<1889> 大和の花 (156) イチリンソウ (一輪草)                           キンポウゲ科 イチリンソウ属 

    

  植物の中には、一面に生えるものから狭い場所を限って、そこを領域にして生えるもの、また、個々が点々と独立して生え、孤独に見えるものなどがさまざまにある。花を求めて山野を歩いているといろんな様相の植生のあることに気づく。今回紹介するイチリンソウ(一輪草)は狭い場所を限ってそこを領域にしている部類の草花で、私がこれまで数箇所で出会ったものを見ても、山地や山足のあまり日が当たらない湿気のある限られた場所、殊に斜面になっているようなところに陣取って生えているのがわかる。この小群落をつくっているイチリンソウの花に出会うと、私には映画「七人の侍」の農民たちが思い起こされて来る。狭いけれども自分たちの領域を一生懸命に守っているという印象が強いからである。

  根茎によって広がり、群落をつくる多年草で、高さは20センチ前後。2回羽状複葉の茎葉3個がつく。花期は4月から5月ごろで、一つの個体に2花をつけるニリンソウ(二輪草)や3花をつけるサンリンソウ(三輪草)に対し、茎の先に一つの花柄を伸ばし、その先に1花を開くのでイチリンソウの名がある。花には花弁がなく、内側が白く外側が淡紅紫色の萼片が花弁の役割を果す仕組みになっている。長楕円形の萼片は普通5個見られる。本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、関東地方以西に多く、大和(奈良県)でも中南部で自生が確認されているが、自生地の荒廃が見られ、奈良県では希少種にあげられている。 写真はイチリンソウ(五條市西吉野町)。 一輪に一輪 春に春の意義 

<1890> 大和の花 (157) ニリンソウ (二輪草)                 キンポウゲ科 イチリンソウ属

       

  イチリンソウが1茎に1花をつけるのに対し、ニリンソウ(二輪草)は普通1茎に2花をつけるのでこの名がある。草丈は15センチ前後になり、イチリンソウより高さも花の大きさもひと回り小さい。イチリンソウには根生葉のないものが多いが、ニリンソウには長い柄を有する全裂する根生葉がある。茎につく葉は無柄で、3個が輪生する。花期はイチリンソウとほぼ同じ4月から5月ごろで、茎頂から2個の花柄を伸ばし、その先端に5個から7個の白い花弁状の萼片からなる花を咲かせる。ときに萼片の外面が淡紅紫色を帯びるものもある。

  山野の日当たりのよい湿気のあるところに生える多年草で、全国的に自生し、国外では中国や朝鮮半島、サハリンなどにも分布する。大和(奈良県)では山間地に多く、金剛山のカトラ谷の群生地はよく知られ、花の時期には多くの人が訪れる。なお、北海道や東北地方ではニリンソウの若菜をお浸し、てんぷら、あえものなどの山菜料理に利用する。根茎は水洗いをして日干しにし、煎じて服用すればリュウマチに効能があるとされ、生薬として用いられて来た。 写真は群生して花を咲かせるニリンソウ(左・中、金剛山)と珍しく3花。1つはつぼみ(右、五條市西吉野町)。川中美幸の「二輪草」はこの草花がモデルである。  見るほどに仲良く咲ける二輪草

<1891> 大和の花 (158) ヒメイチゲ (姫一華)               キンポウゲ科 イチリンソウ属

        

  主に亜高山から高山の湿気のある落葉樹林の林床に生え、ときにコケに被われた中から伸び出すものも見られる。草丈は15センチ前後で、根生葉と茎葉を有する。根生葉は三出複葉の広卵形で、粗い鋸歯があり、茎葉は3個輪生し、これも三出複葉で、小葉は全裂して裂片は細長く鋸歯が見える。花期は5月から6月ごろで、茎葉の基部から花柄を伸ばし、その先端に1花を開く。草丈も花も小振りで、1花をつけることからヒメイチゲ(姫一華)の名がつけられた。

 花はイチリンソウ属の特徴で、花弁がなく、白い長楕円形の萼片5個が花弁状に開く。花の大きさは直径1センチほどで、葯も白く、実にかわいらし花で、いつ出会ってもカメラを向けたくなるところがある。本州の近畿地方以北と北海道に分布し、国外では朝鮮半島、サハリン、千島、中国東北部、シベリア東部などに見られるという。大和(奈良県)では近畿の屋根と言われる大峰山脈や隣りの台高山脈の標高約1400メートル以上の高所に点々と見られ、大峰山脈は南限地に当たり、奈良県のレッドデータブックには希少種として見える。 写真は数個が固まって花を咲かせるヒメイチゲ(左)と仲良く並んで咲く花(右)。 

 水取りや三寒四温の日々の中

 

<1892> 大和の花 (159) ユキワリイチゲ (雪割一華)                 キンポウゲ科 イチリンソウ属

                                        

  山地の谷沿いや林縁などに生える多年草で、イチリンソウと同じく、生育に適合した限られた小範囲の場所に群落をつくるので、その場所の環境の変化によって消滅することが考えられる草花の一つである。草丈は20センチほど、根生葉と茎葉を有し、長い葉柄のある根生葉は三角状卵形の3小葉からなり、濃緑色で白斑が入るが、越冬した花時の葉はくすんだ淡褐色で汚れて見える。根生葉と同色の茎葉は3個が輪生する。

  花期は3月から4月の早春の花で、雪を分けて咲き出す意によりこの名がある。茎頂の輪生葉の中心から花柄を伸ばし、その先端にキクに似る白色乃至は淡紅紫色の1花を開く。花は3センチ前後の花弁状の萼片10個から20個で構成され、雄しべも雌しべも多数に及び、葯は黄色を帯びる。近畿地方以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)ではごく限られた場所に生え、「自生地が少なく、園芸用に採取されるおそれがある」として、保護啓発の意味もあり、奈良県版のレッドデータブックには絶滅寸前種としてあげられている。なお、金剛山の園地には仲間のキクザキイチゲが見られるが、これは植栽起源であろう。 写真はユキワリイチゲ(桜井市内の山足)。  一輪の花 一輪に纏ふ春

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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