大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年05月19日 | 写詩・写歌・写俳

<1968> 余聞・余話 「 矢田丘陵の丘の道を歩く 」

        楢枯れは現代の影瑕疵のごと芽吹くことなく五月となりぬ

 このほど、久しぶりに矢田丘陵の丘の道を歩いた。道は以前とそれほど変わっていなかったが、歩いていて二点感じることがあった。一点はやたらに小バエが多く、付き纏って来ること。これは大峰の山々なんかでも言えることであるが、この小バエについてはイノシシやシカなど獣の多い山に見られる現象であるというのを聞いたことがある。私の体験でもこの言葉は概ね当たっていると言える。

 この小バエは、大峰では六月ごろになると現われ、汗を掻くと寄って来る習性がある。これは獣臭に似る汗の臭いに誘われるのに違いない。歩きはじめは何ともないが、汗を掻き始めるとうるさく付き纏って来るようになる。追い払わずにいると、ときに噛みつき、噛まれると痒みを生じ、その症状は一週間ほど続く。特に襟首から耳許を襲って来るのでそれなりの対策を講じて歩くが、矢田丘陵では薮蚊に襲われることはあったが、小バエの体験は今回が初めてで、隙を衝かれたという感じである。

 この小バエの状況は、最近、矢田丘陵にイノブタが増え、農作物に被害を及ぼしていることに関わりがある現象だということがとっさに思われた。被害に遭っている農家の人に聞くと、普通のイノシシではなく、生駒山系から平群谷を越えて矢田丘陵に棲息域を広げたイノブタだという。イノブタはイノシシとブタをかけ合わせたもので、飼っていたものが何らかの理由によって、野生化し、繁殖力が旺盛なため増えているという。

                

 今一点は、コナラ(ナラ)の高木が丘陵のそこここで立枯れているのが見られることである。これは近年大和(奈良県)で広がりを見せているナラ枯れの現象である。ナラ枯れはカシノナガキクイムシという甲虫の繁殖によって起きる現象で、この虫がブナ科のコナラ(ナラ)やカシ類の幹に取りつくとナラ菌を媒介し、これによって幹の木地が細分化され、細かくなった木地の屑がナラ菌とともに幹の道管を詰まらせ、水分の補給が出来なくなった木は枯れてゆく。

  被害に遭ったコナラ(ナラ)はほとんどが芽を吹くことなく、枯木の状態に陥いるので、この時期になるとよく目につく。中には少し葉の残っている高木も見られるので、ナラ枯れの状況は進行中と思われる。いつまで続くのか、奈良県におけるコナラ(ナラ)は大きな打撃を受けていることが知れる。これは人が山に入らなくなり、山の放置状態が続いていることに関わりがあるのに違いない。山の管理放棄や放置は時代の推移であるが、山に意識を向けない現代社会の一端の現象とは言える。

 私のような山歩きをするものが虫に襲われて痒みに悩まされるなどは個人的なことでどうでもよいように思われるが、これが田畑を荒らすイノブタの勢いによるということに話が繋がって来るから楽観的にはなれないところがある。クマの出没などにも関連するが、これは一端の話で、自然環境という根本の問題にも繋がって来る。「アリの一穴」の例なきにしもあらずということが思われたりする。 写真はナラ枯れの被害が虫食い状に広がる矢田丘陵の雑木林(松尾山付近)。


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