大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年12月01日 | 写詩・写歌・写俳

<2164> 余聞、余話 「 横綱日馬富士による暴行騒動 ~追記~ 」

        真実を求むるところ及ばねば美しくこそものは見るべし

 横綱日馬富士の暴行騒動は本人の引責による引退会見があって新展開を見せているが、昨日開かれた日本相撲協会の定例理事会後の記者会見で、今回の暴行問題を調査した危機管理委員会の中間報告が行なわれ、暴行の深層が少し見えて来た感がある。また、暴行を受けた被害者貴ノ岩の証言が得られていないので不十分な調査内容であることもうかがえる。

  会見によると、モンゴル人の相撲留学生を受け入れている鳥取城北高校の関係者らによって同窓力士を激励する会が開かれ、同窓生である貴ノ岩ら三人に加え、モンゴル出身の白鵬、日馬富士、鶴竜の三横綱も同席し、総数十人ほどが二次会に赴き、ラウンジ形式の密室で酒席のテーブルを囲んだ。このとき暴行が行なわれたという。

  接触を拒否されている貴ノ岩を除く、同席力士の聞き取り調査の結果、一次会の終わりに、白鵬が東京都内の飲食店であった貴ノ岩の粗暴な言動を持ち出し、説諭したという。その場は日馬富士がかばって何事もなく終わったが、二次会で白鵬が「高校の恩を忘れないように」と説諭したとき、貴ノ岩がスマートフォンをいじっていたということで、日馬富士が腹を立て、謝罪させようと貴ノ岩の顔面を平手で殴ったところ貴ノ岩がにらみ返したため、カラオケのリモコンで数回殴った。白鵬が止めに入ったが、貴ノ岩は頭部を医療用ホチキスで縫う怪我をしたという。

                                 

 これが会見による暴行当時の内容で、その凡その経緯が示されたが、貴ノ岩の聞き取りが出来ていないという不十分は否めない会見内容だったと言える。不十分ではあるが、この会見内容から見えて来るところはあった。この会見から見るに、三点の問題点があると思われる。まず、一点は白鵬と貴ノ岩の人間関係である。何故貴ノ岩が白鵬の言葉をありがたく聞かないのかという疑問が湧く。会見では、貴ノ岩が格上、それも横綱である先輩力士に反目するような態度を示すのか。ここのところが調べられていないので、この会見のみによると、貴ノ岩の人間性が問われ、被害者であるにもかかわらず悪者扱いにされている感が否めず、この会見がまことに不誠実で、片手落ちだということが出来る。

 二点目は二次会が始まってどのくらいの時点でこの暴行は起きたのか。そこのところが会見では明らかにされていない。また、日馬富士のその時の酒量も明らかにされていない。酒量はこの暴行事件の要であるが、この点がはっきりしていない。本人は引退会見に際し、暴行を酒の影響ではないと言っている。だが、日ごろ穏やかな資質の持ち主として見られている日馬富士の姿からしてしらふでカラオケのリモコンを振り上げることは考え難い。やはりここは酒の影響があったと考えるのが当を得ていると思われる。

 堅いリモコンで頭を殴るということは、頭も壊れるし、リモコンも壊れる。そういうことが、酒の勢いでなく、平常に理性を働かせる身体状況において判断され行なわれたということになれば、酒よりもこちらの方が恐ろしく、罪が重いと思われて来る。引退会見以前には二度と酒は飲まず土俵を勤めて行きたい旨の報道があったので、会見の言葉には「えっ」と思われた。そして、「酒を飲まず」という言葉の方が本音で、酒の影響はないというのは礼を失する貴ノ岩の非を強調したいがために言ったのではないかと思えて来た。この点を明らかにするためにも日馬富士の酒量の調べは欠かせないと言ってよい。

                                                    

 三点目は暴行の経緯が、三横綱の揃う一種密室で行なわれたという点で、閉鎖的な大相撲の序列の中で行なわれたという事実である。暴行のあった密室では白鵬が頂点にあって日馬富士と鶴竜が上の位にいて、下に向かって説諭するという図が成り立っている。暴行があっても白鵬以外は止めに入ることが出来ない雰囲気の状況下、ほかの参加者は竦んで手出しが出来なかった。早く止めに入っていれば、これほどの問題には至らなかっただろう。これは喧嘩ではなく、しおき、言わば、体罰と称せられる仕儀に等しいということがわかる。

 こういう視点で今回の暴行事件を見ると、これは、二〇〇七年に起きた時津風部屋の新弟子リンチ死事件の構図にそっくりなところがある。密室状況にあって行なわれ、酒の影響ではないというのが、一層、この時津風部屋の事件とダブって来る。頭を堅い物で殴るということは死ぬか後遺症に及ぶかも知れない。酒の影響がない平常心にあってこの暴行がなされたというのであれば、このことは想定出来たことになり、そこでは加減がなされたはずであるが、序列の正当性の中にあってはその加減が計れなかった。言ってみれば、これは二〇〇七年の反省が全くなされていない状況の現れと受け止められる。この点をして言えば、引責引退の日馬富士だけでなく、現場に居合わせてその暴力の加担に与した横綱白鵬並びに鶴竜にもそれ相当の責任が問われるところであり、そうしたところの管理が出来ていない日本相撲協会の組織も問われて然るべきで、トップには辞任にも値する今回の暴行事件ではあると言える。日馬富士の引退だけでは済まない。

 なお、つけ加えるならば、引退会見で日馬富士が述べた「弟弟子に礼儀と礼節を教えようと叱った」という言葉が一見美しく語られているが、見方を変えれば、貴ノ岩は暴行を受けながらも反撃せず、怪我を負ってもじっと我慢して格上力士の酷い暴行に耐えた。思うに、貴ノ岩は礼儀がなってないと非難される雰囲気にさらされているが、この無抵抗な我慢ほど上に対する礼節はないと私には哀れでも貴ノ岩の事後の態度は美しく見える。果して、真相はどうなのであろうか。

 ここでまた思い出されるのが太宰治の箴言の言葉である。下が上に対する礼(礼節)はいやというほど教えられて来たが、上が下に対する礼(礼節)は教えられて来たことがないという意味の言葉である。これはどういうことを言っているのか。それは、上が温情ある礼をもってなさなければ、下は慕わず、従わないということに繋がるということである。白鵬の昨今の相撲の取口や言動に礼節を欠くところがそこここに見られ、勝負に勝てば何でも言えるという驕りが見え隠れするゆえに慕われず、反目するということがあるのではないかと、このようにも思われて来るのである。  思うに、二〇〇七年の教訓は生かされず、また、同じような事件が起きたと言わざるを得ない。 写真は日本相撲協会の理事会と白鵬が物言いをつけた九州場所の嘉風戦 (テレビの映像による)。


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