<1206> マツグミ
松茱萸の 冬に入り その実の硬さ
久しぶりに植物の話を一つ。法隆寺には参道からずっと境内まで多くの立派なマツの古木が見られる。その古木にヤドリギ科のマツグミ(松茱萸)が着床しているのをこのほど見かけた。マツグミは奈良県のレッドデータブックである『大切にしたい奈良県の動植物』二〇〇八年版に絶滅危惧種としてあげられている大切にしたい植物の一つである。
アカマツ、クロマツ、ツガ、モミ、トガサワラなどの常緑針葉樹に半寄生する常緑小低木で、先が丸い小さな葉を対生し、光合成も行なう。七、八月ごろ、葉腋に長さ1.5センチほどの赤い筒状の花を咲かせ、その後、小さな球形の実をつけるが、熟すのは翌年の三月以降で、熟すと赤くなり、この実がグミに似ていることと、マツに寄生することからマツグミの名が生まれたという。
ヤドリギと同じように、実の種子の周りが粘液質で、他物に付着するように出来ている。鳥たちがこの実を食べた後、消化されない種子が糞とともに排出され、この粘液質によって前述の常緑針葉樹に着床する。ヤドリギがサクラ、ブナ、ケヤキ、エノキなどの落葉高木に寄生するのを見ると不思議に思われるが、この違いは同類の住み分けかも知れない。
ヤドリギは落葉高木に宿るので冬場にはよく目につき、その存在がつぶさに確認出来る。これに対し、マツグミの場合はともに常緑なので見つけ難いところがある。これに加え、近年、アカマツがマツクイムシのために枯死する被害が出、この影響によってマツグミも減少し、奈良県では絶滅危惧種にあげられたと、二〇〇八年版の『大切にしたい奈良県の動植物』は説明している。
それにしても、マツグミは目と鼻の先にあった。「灯台下暗し」とはこういうことを言うのだろう。下北山村で見られるというので、出かけたこともあるし、大塔町ではアカマツ林に色めき立ったこともあったほどである。大和郡山市の矢田丘陵なんかでも、登るとマツに目がゆくありさまで、よく探した。何年がかりだろうか、マツグミは大望の植物の一つだった。花は来年の夏には見られるだろう。撮影が楽しみである。 写真は左から法隆寺のマツの古木、マツに寄生して実をつけるマツグミ(法隆寺で)、マツグミの実。右端はサクラに寄生したヤドリギ(吉野山で)。
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