<3599> 野鳥百態 (31) マガモの警戒心
安心は信頼の上に成り立つ
信頼は経験に基づくところ
経験によって裏打ちされる
不安はその逆の状況による
私がよく訪れる奈良県営馬見丘陵公園の溜池には冬季になるとカモの仲間が飛来する。今冬も既に多くのカモが越冬のため来ている。観察するに訪れるカモは十種以上に及ぶが、中でもよく見かけるのがカルガモ、マガモ、コガモ、オオバン、ハシビロガモ、ヨシガモ、キンクロハジロ、ホシハジロといったカモたちである。
これらのカモの中で、最も警戒心が強く、人を避けるようにしているカモがいる。マガモで、他のカモと比較して明らかに人を避けて位置取りをし、暮らしているのがわかる。ときおり飛来するオシドリもマガモと同じ傾向にあるように思われる。
こうしたマガモとは逆に、人をあまり恐れず、近寄って来て、エサに与かるカルガモ、オオバン、コガモといったカモもいる。警戒心がないわけではないが、これらのカモは明らかにマガモのそれとは異なる。この違いは何に起因しているのだろうか。思うに、それは長い歴史におけるマガモの人に対する不信感の大きさによると言えようか。
マガモのオスは色彩豊かで、首から頭にかけて美しい緑青色で、その長い首の付け根のところに白い線状のリング模様があるので一目でわかる。この特徴によりアオクビ(青首)の異称でも呼ばれ、大型のカモで、肉が豊富なうえ、草食で、肉に臭みが少なく美味しいということもあって、狩猟カモの代表的なカモとして狩りの的になって来た。
現在は狩猟制限により、無暗に捕獲することが禁じられているが、マガモは最も集中的に狙われたカモだった。カモはオスとメスがいつも一緒に行動するので、マガモもよく目につくオスを狙えば、メスをも捕獲出来る。こうして出来上がった関係性が人とマガモの間には長い歴史の中で続けられて来た。
このため、マガモは人に恐怖心と警戒心を抱くようになり、それが普通に日ごろの暮らしの中にも見られるというようになったのではないか。言わば、これはマガモの人に対する長い間の経験的悲しい関係性における一つの現象と見なせるという次第である。 写真は人への警戒心が強いマガモの雌雄(上段)と人のいる近くまで泳ぎ来るオオバン(下段)。