大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2021年11月14日 | 植物

<3588> 奈良県のレッドデータブックの花たち(136) ササユリ(笹百合)                          ユリ科

                    

[別名・古名] サユリ(さ百合)、サイクサ(三枝)、サイ(佐韋)

[学名] Lilium japonicum var. japonicum

[奈良県のカテゴリー]  希少種

[特徴] 二次林の林縁や草地に生える多年草で、地中の白い鱗茎から太い1茎を立ち上げ、高さが大きいもので1メートルほどになる。単子葉の葉は披針形で、互生し、ササの葉に似るのでこの名がある。花期は6~8月で、茎頂に香りのよい白色乃至淡紅色の花被片6個の長さが10~15センチの漏斗状の花を1個横向きに開く。成長すると茎頂から普通3枝を出し、それぞれの枝先に1花をつけるので1茎3花に見える。

[分布] 日本の固有種。本州の新潟県以西、四国、九州。

[県内分布] 平地を除くほぼ全域。

[記事] ユリの登場は古く、『古事記』の神武天皇の条に、天皇と皇后が出会った三輪山の麓の佐韋河(現狹井川)の畔に佐韋(さゐ・別名山由理草)が咲き盛っていたとあり、これが初出と言われる。佐韋はササユリの古名サイクサの「サイ」に同じで、ササユリだと言われる。このサイクサは3枝の意で、ササユリの1茎3花の特徴に因むと言われる。

     毎年6月17日に行われる大神神社の摂社で神武天皇の皇后と皇后の父母3神を祀る奈良市の率川(いさがわ)神社の例祭三枝祭(さいぐさまつり)は百合祭とも呼ばれるが、この『古事記』の逸話に因み、ササユリが献納されることで知られる。1茎3花のササユリは皇后神を父母神が両脇にあって守る意にあり、このことを象徴している。この形は3棟社殿にも見られ、率川神社は子守の神としても名高く、崇められている。

 祭りはちょうどササユリの花期に当たり、以前は野生の花を求め、花の保管技術等によって祭りに合わせて開花させていたと聞くが、最近は栽植技術の開発によって難しいとされていた栽培にこぎつけ、大神神社の神域で育てた花が用いられるに至ったと聞く。

   奈良県内の分布域は広く、昔は普通に見られたようであるが、濃紅色の花粉が化粧用の紅としてブームになった時期があり、このころ激減したという。また、イノシシやシカによる食害も考えられるという次第で、その数を減らし、奈良県ではレッドデータブックに名を連ねている次第である。

 写真は1茎3花の典型的な個体(左)、林縁の繁みで花を咲かせる淡紅色タイプの若い根茎の花(中)、白色タイプの花(濃い紅色の葯が印象的。これを紅に用いた時代があったという)。

  時の間に存在するものその全てにおいて

  意識無意識に関わらず歴史が宿っている