大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年04月03日 | 植物

<2645> 大和の花 (761) アケビ (木通・通草)                                         アケビ科 アケビ属

          

 山野に生え、ごく普通に見られる落葉つる性の木本で、他の木などに絡んで長く伸び上がり、樹皮は灰褐色。葉は長さが3センチから10センチの葉柄を有する掌状複葉で、5個の小葉からなる。小葉は長さが3センチから6センチの長楕円形で、先が少し窪み、基部はくさび形。縁に鋸歯はなく、主脈がはっきりしている。

 雌雄同株で、花期は4月から5月ごろ。葉の展開直後に葉腋から長い柄によって総状花序を垂れ下げ、雄花と雌花が別々につく。雌雄とも花弁はなく、花弁状の萼片3個からなり、雌花は雄花より大きく、ともに白色から淡紫色の微妙な変化が見られる。雄花には雄しべが6個、葯は花糸の外側に2個並ぶ。雌花には雌しべが3個から9個見られ、花柱の先端は粘液で粘る。雄しべも雌しべもともに赤紫色で、目につく。

 液果の実は長さが5センチから10センチの少し反ったような卵状楕円形で、秋になると、普通紫色に熟して縦に裂ける。アケビ(木通・通草)の名は、実の色の「朱実」。また、裂開する実の「開け実」によるなど諸説がある。果肉は白色で、甘く食べられる。黒褐色を帯びる種子は多数。

 本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島、中国に見られるという。大和(奈良県)では各地にくまなく自生し、垂直分布の幅も広い。なお、実は生食されるほか、果皮を油でいためて食べる地方もある。また、春先の若葉や若枝は山菜とし、和えものやお浸しなど食用にされる。一方、漢方では乾燥した茎を木通(もくつう)と称し、煎じて腎臓炎や膀胱炎などに効能があると言われる。つるはあけび細工に用いられる。 

 古来より知られていたようで、『万葉集』の2首に登場する狹野方(さのかた)に当てる説が有力で、万葉植物にあげられている。花も実も春秋を代表する景物として知られる。 写真はアケビ。雌雄の花をいっぱいにつけた個体(左)、花序のアップ(中・上側は雄花群、下側は9個の花柱が見える雌花)、熟して大きく裂け、内部が丸見えになった実(右)。明日香村稲渕ほか。

  そこここに木通の花の明日香かな

 

<2646> 大和の花 (762) ミツバアケビ (三葉木通・三葉通草)                       アケビ科 アケビ属

                                       

 山野に生え、普通に見られる落葉つる性の木本で、他の木などに這い上がり、長く伸びる。アケビに似るが、葉と花が明らかに異なるので簡単に判別出来る。また、葉が枯れ落ちず越冬するものも見られるので、冬場でも見分けられる。樹皮は灰黒褐色で、円形の皮目がある。

 葉は掌状のアケビに対し、3出複葉で、長いもので14センチほどの柄を伸ばし、互生する。ミツバ(三葉)の名はこの葉に由来する。雌雄同株で、花期は4月から5月ごろ。葉腋から葉柄より長い花序を垂れ下げ、先端部分に雄花、基部側に雌花がつく。雄花は群れ、雌花は長い花柄の先に1花を開く。花の形はアケビとほぼ同じであるが、雌雄とも濃い赤紫色で日差しに映える。実は液果で、アケビと同じく熟すと縦に裂開する。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、中国にも見られるという。大和(奈良県)ではアケビに引けを取らず全域に見られ、垂直分布の幅も広く、山歩きをすると林縁などでよく出会う。実は生食され、若葉や若芽は山菜として食用にされ、つるは籠などの材料に用いられる。写真はミツバアケビ。他の木に伸び上がって咲く萼片3個の濃い赤紫色の花(左・上側の大きい花が雌花で、下側の固まってついている小さい花が雄花)と熟して裂開した液果の実(斑鳩町ほか)。  春はまた花にも纏ふうららかな

<2647> 大和の花 (763) ムベ (郁子)                                          アケビ科 ムベ属

            

 山地の林内や林縁に生える常緑つる性の木本で、他の木などに絡んで長く伸び上がり、つるの太さは直径8センチほど。若い枝は暗緑色から暗赤褐色。葉は長さが5センチから10センチの楕円形の小葉が普通5個つく掌状複葉で、小葉の先は丸く、縁に鋸歯はない。質は厚く、光沢があり、柄は4センチほどと長く互生する。

 雌雄同株で、花期は4月から5月ごろ。葉腋から短い総状花序を出し、花弁状の萼片6個からなる淡黄白色の花を3個から7個つける。萼片は内外2列に並び、雄花では外側の萼片が内側の萼片より短く、合着した6個の雄しべがある。雌花では外側の萼片が内側の萼片よりも長く、3個の雌しべがある。液果の実は長さが5センチから8センチの卵円形で、秋遅く紫色に熟す。

 本州の関東地方南部以西、四国、九州、沖縄に分布し、朝鮮半島南部、中国、台湾などに見られるという。大和(奈良県)では北部にも南部にも分布しているが、暖帯性で標高の高い山岳では見受けない。ウベとも呼ばれるが、葉が常緑のためトキワアケビ(常盤木通)の別名でも知られる。実を生食するほか、芽はお浸し、根や種子は薬用、つるは細工物の材にされる。 写真はムベ(雄花と雌花が混在する)。花をいっぱい咲かせる野生の個体(左・中・十津川村)と花をつけた植栽の個体(右・春日大社神苑の萬葉植物園)。

   郁子の花春の扉の内外に