大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年01月11日 | 植物

<2563> 大和の花 (701) トガサワラ (栂椹)                                 マツ科 トガサワラ属

         

 トガサワラ属は世界に6種が知られ、日本にはトガサワラ1種のみ見られ、本州の紀伊半島と四国の高知県に分布を限る日本の固有種として知られる常緑高木の針葉樹で、学名はPseudotsuga japonica。「生きている化石」と呼ばれ、昔は広く分布していたと見られる。環境省は貴重な樹種としてレッドリストの絶滅危惧Ⅱ類にあげ、川上村の三之公川右岸の群落は「三之公川トガサワラ原始林」として国の天然記念物に指定されている。奈良県でも希少種にあげられ、保護の対象になっている。

  高さは25メートル、幹の太さは直径60センチほどになる。樹皮は褐色または茶褐色で、粗い割れ目が出来、剥がれる。葉は長さが2センチから2.5センチの線形で、左右に開いて枝につく。葉の表面は緑色で艶があり、裏面には紛白色の気孔の帯が2本見える。ツガ(栂)に似て、材がサワラ(椹)に似ることによりこの名があるという。

 雌雄同株で、花期は4月ごろ。雄花は長さが7ミリから9ミリの楕円形で、前年枝の先に集まりつく。雌花も前年枝の先につき、はじめは上を向くが、次第に下向きになり、成熟期には斜め下向きになる。球果は秋に熟し、卵形でツガよりも大きい。 写真はトガサワラ(川上村の三之公川右岸の群生地)。成木群(左)と雌花をつけた枝(右)。 

      哀愁は生きてゐる身に生じ来る過ぎゆく時に添ふものならむ

 

<2564> 大和の花 (702) ツガ (栂)                                                マツ科 ツガ属

                                     

 ツガ属は世界に10種あると言われ、日本にはツガ(栂)とコメツツガ(米栂)の2種が自生し、大和(奈良県)では両種とも見ることが出来る。では、ツガから見てみよう。ツガは低山帯のやせ尾根、急斜地、岩崖地などに生えることが多く、標高の高い深山、山岳になるとツガに代わってコメツガが分布する。

 高さは大きいもので30メートル、幹の直径が1メートルにもなる常緑高木の針葉樹で、樹冠は広円錐形になり、モミ類に比べるとまとまりがない。樹皮は赤褐色から灰褐色で、古木になると亀甲状に剥がれる。葉は長さが1センチから2センチの扁平な線形で、先がわずかに凹み、裂片はモミのようには尖らず、丸みがある。表面は緑色で、やや光沢がある。裏面は粉白色の2本の気孔帯があり、白っぽく見える。葉は同じ枝で長短が見られ、ごく短い葉柄が曲がってつく。この点もモミ類と異なる。

 雌雄同株で、花期は4月から6月ごろ。雄花は枝先につき、卵形で、黄色く、柄を有する。雌花も枝先に1個ずつつき、卵形で紫色を帯びる。球果は長さが2センチから3センチのほぼ卵形で、淡黄褐色になり、熟すと果柄が極端に曲がり、下向きになる。

 本州の福島県以西、四国、九州(屋久島)に分布し、国外では韓国の鬱陵島に見られるという。大和(奈良県)では北西部を除き、暖温帯域から冷温帯域の下部で見られるとの報告がある。コメツガによく似るが、分布域が異なることと球果がコメツガよりも大きく、果柄が極端に曲がり、あまり曲がらないコメツガとの判別点になる。

  ツガはマツやモミと同じく古来より知られ、トガ(栂)の別名を持つが、古名はツガノキ(樛)、トガノキ(樛)と呼ばれ、『万葉集』の5首に見える万葉植物である。ツガはトガの転で、トガは曲がっていることを言い、モミなどの他種に比べて枝などが曲がっているからという説が見られる。栂は国字で和製漢字である。学名はシーボルトによってつけられ、Tsuga sieboldiiと、ツガの名が見える。なお、なお、ツガ(栂)は皇嗣秋篠宮さまのお印(御印章)で知られる。材は紅色を帯びた淡褐色で、成長が遅く、年輪による木目が細かいため建築、器具材にされる。だが、利用されるのはアメリカツガの外材が多い。 写真は球果をつけたツガ(天川村の御手洗渓谷)。   生きるとは過去を内在して今を未来に向かひゆくにあるなり

<2565> 大和の花 (703) コメツガ (米栂)                                               マツ科 ツガ属

                   

 主に寒温帯域に生える常緑高木の針葉樹で、高さ20メートル、幹の太さ60センチほどになる。枝を水平に伸ばし、樹冠が広円錐形になるが、尾根筋の風衝地では風雪の影響を受け、低木化しているものも見られる。樹皮は灰色で、古木では鱗片状に剥がれる。葉は長さが1センチから2センチの扁平な線形で、先端は少し凹み、基部には短い柄がある。葉の表面は緑色でやや光沢があり、裏面は白い気孔帯が2本ある。

 雌雄同株で、花期は6月ごろ。雄花も雌花も前年枝の先に単生し、短い柄を有する。球果は1.5センチから2.5センチの楕円形乃至は卵形で、開花年の秋に成熟する。球果の柄は多少曲がるが、ツガほど極端には曲がらない。コメツガ(米栂)の名は小さい葉を米粒に見立てたことによる。

 本州の中部地方以北と紀伊半島、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では大峰、台高山地の寒温帯林でトウヒ、ウラジロモミ、オオイタヤメイゲツなどと混生しているが、衰退が著しく、奈良県では絶滅危惧種にあげられている。 写真はコメツガ。球果のアップ(左・大台ヶ原)。果期の樹冠(右・山上ヶ岳)。     悲喜苦楽喜怒哀楽の身のほどは未熟未完のゆゑと言ふべし

<2566> 大和の花 (704) カラマツ (唐松)                                             マツ科 カラマツ属

              

 日当たりのよい山地に生える落葉高木の針葉樹で、山崩れの跡などにいち早く生え出す陽樹として知られ、宮城県の蔵王から石川県の白山まで分布する日本の固有種で、大和(奈良県)に自生地はないが、大台ヶ原ドライブウエイ傍の標高1400メートル付近と十津川村の蛇崩山(だぐえやま・1172メートル)の標高1100メートルの稜線付近に植林されているのが見られる。

 いつの時代に植えられたか、成木に育ち、落葉樹だけに四季の姿に変化が見られ、新緑や黄葉が美しく、存在感を示している。樹皮は褐色で、マツ科の仲間らしく剥がれる。葉は長さが2センチから3センチの線形で、軟らかい。なお、カラマツ(唐松)の名はこの葉の姿が唐絵のマツに似ることによるという。

  雌雄同株で、花期は5月ごろ。束生する葉の開出と同時に花を咲かせる。雄花も雌花も短枝につき、球果は広楕円形で、種鱗の先が反る特徴がある。 写真はカラマツ。左から開出する束生する葉とともに雄花をつけた枝々、雄花のアップ、未熟な球果(いずれも大台ヶ原ドライブウエイの傍)。   あまたなる生の存在かくはあり折り合ひつけてみな生きてゐる