大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年01月04日 | 写詩・写歌・写俳

<2556> 余聞、余話 「正月早々に見かけたイカル」

     未来とは期待と不安 生の身が向かふ不明の時の領域

 正月早々、思いがけない鳥に出会った。斑鳩町の鳥に指定されているイカル(鵤)で、三日の朝、広陵町の奈良県営馬見丘陵公園に出かけた際、自然公園の林の一角に三十羽ほどの群がいた。モミジの古木の枝にかかった柄のついたエノキの黒く熟し切った核果をしきりに啄んでいた。

 近づいても一向に逃げる気配がないので、かなり接近して撮ることが出来た。最初は何を啄んでいるのかわからなかったが、どうも残存しているモミジの翼果や枝先に赤く膨らんだ冬芽ではなく、モミジよりも高木のエノキが近くにあって、そのエノキから散り落ちたようで、細い蜘蛛の糸のごとく張り巡らされたモミジの細枝に引っ掛かって、その黒い実が沢山ぶら下がっていた。イカルにはその枝に引っ掛かったエノキの黒い実を啄んでいたのである。

       

 イカルはアトリ科の小鳥で、体長は二十三センチほど。体は灰色で、翼、尾、頭の部分が黒色に近い濃藍色。また、鮮やかな黄色の大きな太い嘴を持ち、一見してイカルとわかる。この黄色の嘴は丈夫で、堅い草木の実を砕いて食べる。エノキの実は熟すと赤褐色になり、その後、しなびて黒くなる。熟すと甘みがあり、イカルの好物と見える。堅いが、この嘴によってなんなく食べる。

 因みに、漢字では鵤と書くが、これは角のような丈夫な嘴を持つ鳥の意によると言われる。また、別称のマメマワシ、マメコロガシ、マメワリなどは堅い実をその丈夫な嘴に挟んで食べる様子を言ったものである。耳を澄まして聞いていると、ぴちぴちという音がモミジの木のそこここで聞こえた。エノキの実を食べる音だったということである。

 イカルはロシア東部の沿海州一帯と日本に分布し、日本では北海道から九州まで見られ、繁殖期は五月から七月ごろ、俳句の季語では夏で、繁殖期以外は群をつくって生活する習性を持っている。この度見かけた群は何処から来たのか、寒さが厳しくなって、山から下りて来たものか、寒い地方から暖かい地方に向かうものか、定かでないが、極めて元気な様子には、正月の光景に相応しい感があった。斑鳩の地名に所縁があると言われるから昔からイカルの姿がこの辺り一帯に見られたのであろう。