<2411> 余聞、余話 「アキアカネの異変」
燃えてゐる我が眼球の視野の夏
この間、花を求めて大台ヶ原に出向き、駐車場から大蛇嵓までの往復を歩いた。その間、トンボのアキアカネをよく見かけた。アキアカネは田に水を張る田植えの時期に卵が孵化して幼虫のヤゴになり、田の水の中などで成長した後、本格的な夏になるころ羽化して、トンボになる。
アキアカネは暑さに弱く、気温が三十℃以上になると耐えられず、真夏の時期は標高の高い山の避暑地に移って過ごし、秋が近づき涼しくなると、また元の田んぼ周辺に戻って、そこで卵を産むと言われる。つまり、アキアカネには、三十℃越えの猛暑が続く平地の今の時期は標高の高い山で暮らしているものが多いということになる。
標高一六〇〇メートル前後の準平原である大台ヶ原の今の時期にアキアカネが多く見られるのはこの習性による。大台ヶ原では殊に牛石ヶ原のような草地に多く、立ち入り禁止のために張られた登山道のロープなどによくとまっている。ときにはロープに連なるほど見られることもある。
ところが、今夏は異変が起きているようで、牛石ヶ原の草原にアキアカネの姿はなく、代わりに日蔭の多い涼しい樹林帯のそこここにその姿が見られた。これは長く続いている猛暑が標高の高い大台ヶ原にも及んでいる異変の現象の一端と見てよいのではないか。
つまり、今夏の猛暑は、段階的に一つの指標を越え、標高の高い山岳にも及んで、小さな生きものであるアキアカネの姿にそれが現れた。もちろん、この異常な猛暑の事態はアキアカネだけではなく、一帯の植生全般にも及んでいるはずで、移動出来ない植物には何らかの変化があるのに違いない。そして、私たちはそれに気づかずにいるだけということもあり得る。大台ヶ原に見られるアキアカネの異変の姿は現実を示しているとともに私たちへの教示とも受け止められる。 写真は樹林帯に見られるアキアカネ(大台ヶ原)。