大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年08月02日 | 植物

<2406> 大和の花 (572) ヒキオコシ (引起こし)                                           シソ科 ヤマハッカ属

                

 丘陵や高原の草むらなどに生える多年草で、草丈は大きいもので人の背丈ほどになる。茎の断面は4角形で、よく枝を分け、全体に細毛が密生する。葉は広卵形で、先が尖り、縁には鋸歯が見られ、対生する。

  花期は9月から10月ごろで、枝の上部に小さなミリ単位の唇形花を多数つける。花冠は淡青紫色で、上唇が反り返り、紫色の斑点が入る。花冠は光線の加減で、白く見えるときもあり、斑点がよりくっきり見えることがある。

 北海道南部から本州、四国、九州に分布する在来種で、朝鮮半島、中国にも見られるという。大和(奈良県)でも普通に見られる。あまり目立たず、雑草然として生えていることが多いが、薬草として古くから知られる。

  エンメイソウ(延命草)の別名もあり、その名は弘法大師が行き倒れの行者にヒキオコシのしぼり汁を含ませたところ、たちどころに回復し、行者はまた旅を続けることが出来たという故事に因むもので、起死回生の妙薬、苦味健胃薬として広く一般にも知られるようになったという。これはつる性木本のマタタビ(木天蓼)と同根の名である。

 写真はヒキオコシと花のアップ(曽爾高原ほか)。  昭和あり且つ平成の時代あり我が顳顬の中の風景

<2407> 大和の花 (573) タカクマヒキオコシ (高隈引起こし)       シソ科 ヤマハッカ属

                         

 鹿児島県の高隈山に因んでその名がある多年草で、本州の福島県以南の主に太平洋側、四国、九州に分布する日本の固有種として知られる。茎は4角形で、下向きの毛が生え、高さが40センチから80センチほどになる。葉は長さが5センチから13センチの広披針形乃至は長卵形で、先は尖り、縁には鋸歯が見られ、対生する。

 花期は9月から10月ごろで、花は茎頂の花序に多数つく。花冠は淡青紫色で、長さ1センチ前後。上唇は4裂し、斑紋はなく、下唇は縁が巻き、舟の形になって突き出す。花冠、花柄、萼に腺毛が密生する。ミヤマヒキオコシによく似るが、本種は葉が細身。写真はタカクマヒキオコシ(川上村ほか、葉の形状によりタカクマヒキオコシと見た)。   如何にあっても生は現在進行形の存在である

<2408> 大和の花 (574) ミヤマヒキオコシ (深山引起こし)                      シソ科 ヤマハッカ属

        

 深山の林内に生える多年草で、茎は4角形、高さは40センチから80センチほどになる。葉は長さが3センチから8センチの卵形で、先端は長く尖り、縁には鋭い鋸歯が見られる。基部はくさび形になり、葉柄に続き、対生する。

 花期は8月から10月ごろで、茎長の花序に唇形花を多数つける。青紫色の花冠は長さ5、6ミリで、筒部が短い。萼は2唇形で、上唇は3裂し、裂片は三角形になり、反り返る。下唇は2浅裂し、上唇よりやや長い特徴があり、花が散っても残るものが多い。

 本州の紀伊山地と四国に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では、「1000m(時に800m)以上の高地に限られ、シカの食害が激甚で絶滅に瀕していることが最近判明した」と奈良県版レッドデータブック『大切にしたい奈良県の野生動植物』2016年改訂版は懸念し、絶滅危惧種にあげている。写真はミヤマヒキオコシ(西大台ほか)。葉の形状などからミヤマヒキオコシと見た。

  痩身の父があり我が炎天下

<2409> 大和の花 (575) ヤマハッカ (山薄荷)                                            シソ科 ヤマハッカ属

             

 日当たりのよいやや湿り気のある山野の草むらに生える多年草で、茎は4角形。下向きの毛があり、高さは40センチから1メートルほどになる。葉は長さが3センチから6センチの長楕円形乃至は広卵形で、先は鈍く尖り、基部は急に細くなって葉柄の翼に続き、対生する。

 花期は9月から10月ごろで、茎の先と上部葉腋に唇形花を多数まばらに連ねる。長さが1センチ弱の花冠は青紫色。萼は赤褐色で、花後も残りよく目につく。この花が咲き始めると棚田の周辺はいよいよ秋の訪れである。 

  北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国に見られるという。大和(奈良県)では山足や棚田の土手などで見かける。なお、ハッカに似るところからその名に「ハッカ」とあるが、ハッカ特有の匂いはない。 写真はヤマハッカ(五條市小和町ほか)。

      悲しいかな 熟さず落ちた ピーマンの実

      嬉しいかな 真っ赤に熟れた トマトの実

      ああ 言わば 悲喜こもごもは 生の一端

<2410> 大和の花 (576) アキチョウジ (秋丁字)                                           シソ科 ヤマハッカ属

                            

 半日蔭になる山地の草地などに生える多年草で、秋に丁字形の花をつけるのでこの名がある。木質化する地下茎より4角形で下向きの毛がある地上茎を出し、草丈は70センチから1メートルほどになる。葉は長さが7センチから15センチの卵形乃至は長卵形で、先は尖り、縁には鋸歯が見られ、基部はややくさび形で、葉柄に続き、対生する。

 花期は8月から10月ごろで、茎の上部にやや一方に片寄った細長い花穂を伸ばし、青紫色の唇形花を多数連ねて咲かせる。同属の中では筒部が著しく長いので判別点になる。上唇は浅く4裂し、下唇は舟形で、前に突き出す。

 本州の中部地方以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では南北にかかわらず見ることが出来る。なお、別種のセキヤノアキチョウジ(関屋の秋丁字)は花がまばらで、大和(奈良県)には分布しない。 写真はアキチョウジ。群落を作って花を咲かせるのに出会う。    体力と精神力を問ふ酷暑