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有料老人ホームの入居一時金の差し止め請求と消費者契約法

2015年08月25日 | 消費者トラブルと消費者契約法
平成27年8月24日
消費者支援機構福岡と株式会社LIXILの控訴審判決について消費者契約法第39
条第1項の規定に基づき下記の事項を公表する。
http://www.caa.go.jp/planning/pdf/150824_1.pdf


1.判決の概要
(1)事案の概要
 本件は、適格消費者団体である特定非営利活動法人消費者支援機構福岡(原審原告・控訴人。以下「控訴人」という。)が、有料老人ホームや高齢者専用住宅の運営等を業とする株式会社LIXIL(原審被告・被控訴人。以下「被控訴人」という。)に対し、被控訴人が運営する福岡市所在の施設(以下「本件施設」という。)への入居契約における、①入居一時金の一部(20%相当額)を非返還対象とする旨の条項及び②入居一時金の償却期間を180か月(15年)とする旨の条項(以下これらを併せて「本件契約条項」という。)は、消費者契約法(以下「法」という。)第10条に該当して無効であるとして、本件契約条項を含む入居契約締結の意思表示の差止め等を求めた事案である。
 原判決(福岡地方裁判所が平成26 年12 月10 日に言渡し)(※)が、本件契約条項はいずれも法第10条前段の「民法、商法(明治32年法律第48号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」に該当するとはいえないとして、控訴人の請求をいずれも棄却したところ、控訴人がこれを不服として控訴した(平成26年12月22日付けで福岡高等裁判所に控訴)。
(※) 参考:第一審判決の概要
http://www.caa.go.jp/planning/pdf/150130_3.pdf
(2)結果
 控訴審(福岡高等裁判所)は、平成27年7月28日、原判決に付加・訂正を加えてこれを引用した上で、以下のように判断して、控訴人の控訴を棄却した(上告期間の満了のため確定)。
ア 差止対象行為を行うおそれの有無について
① 法第12条は、少額でありながら高度な法的問題をはらむ紛争が拡散的に多発するという消費者取引の特性に鑑み、同種紛争の未然防止・拡大防止を図って消費者の利益を擁護することを目的として、適格消費者団体が、事業者による不当な行為を差し止めることができる旨を規定しているものと解される。このような趣旨から、差止めの対象となる事業者の行為としては、拡散する蓋然性を有することが必要と考えられることから、同条は、差止めの要件として、当該行為が不特定かつ多数の消費者に対して現に行われている場合又は行われるおそれがある場合であることを必要としているのであり、同条に規定する「現に行い又は行うおそれがあるとき」に当たるためには、当該事業者により現実に差止請求の対象となる行為が!
されていることまでは必要ではないものの、当該事業者により当該行為がされる蓋然性が客観的に存在していることを要するものと解される。
② 控訴人は、被控訴人が、本件施設の入居契約を締結するに際し、不特定多数の消費者との間で、本件契約条項を含む契約の申込み又はその承諾の意思表示を「現に行う又は行うおそれがある」として差止め等を請求するものであるが、被控訴人は、かつて、本件施設入居者との間で、本件契約条項を含む入居契約を現に締結していたものと認めることができるものの、平成25年10月1日頃、入居契約書のひな形を改訂して、本件契約条項を削除又は変更しており、同時期以降、被控訴人が消費者との間で本件契約条項と同趣旨の条項を含む入居契約を締結したことがあるとは認められないのはもとより、本件契約条項と同趣旨の条項を含む入居契約の勧誘や、その準備をしたことがあるともうかがわれない。
 さらに被控訴人は、現状において、本件契約条項を使用する予定はないことを明らかにしている。
 以上のことからすれば、現在、被控訴人が、本件施設の入居契約を締結するに際し、不特定多数の消費者との間で、本件契約条項を含む契約の申込み又はその承諾の意思表示をする蓋然性が客観的に存在しているとはいえず、被控訴人が当該意思表示を「現に行い又は行うおそれがある」とは認められない。
イ 関連する当事者の主張についての判断
① 被控訴人は、現状において本件契約条項を使用する予定はないとする一方、将来にわたって本件契約条項を一切使用しないとすべき状況にはないとも主張するが、この主張は、本件契約条項の将来的かつ抽象的な使用の可能性をいうものに過ぎず、被控訴人がこのような主張をしていることをもって、被控訴人が本件契約条項を含む意思表示を「現に行い又は行うおそれがある」と認めることはできない。
② また、被控訴人は、紛争の一回的解決の観点から、裁判所に対し、本件契約条項の法第10条該当性の判断を求めるとも主張するが、前記ア①のとおりの法第12条所定の差止請求権の趣旨に照らせば、事業者が差止対象行為を「現に行い又は行うおそれがあるとき」との要件は、適格消費者団体が訴訟手続により当該行為の差止めを請求することを認めるための要件というべきであり、単に事業者が当該行為の法第10条該当性の判断を求めているというだけで、これを満たすことになるような性質のものとは解されない。
 また、被控訴人のこの主張は、本件契約条項の使用の差止めの成否というよりも、本件契約条項の有効性自体についての裁判所の判断を求めるものとも解されるが、法第12条は、適格消費者団体に差止請求権を認めたものであって、確認訴訟を規定したものではないから、特定の行為の有効性についての裁判所の判断を受けることを目的とする訴訟は、同条の予定するところではない。
 したがって、被控訴人が上記のとおり主張しているからといって、被控訴人が本契約条項を含む意思表示を「現に行い又は行うおそれがある」と認めるのは相当ではない。
ウ 結論
 以上のとおり、本件において、被控訴人が、本件施設の入居契約を締結するに際し、不特定多数の消費者との間で、本件契約条項を含む契約の申込み又はその承諾の意思表示を「現に行い又は行うおそれがある」とは認められないから、法第12条3項に基づき当該意思表示の差止め等を求める本件各請求は、いずれも理由がなく、これを棄却すべきである。
2.適格消費者団体の名称
 特定非営利活動法人消費者支援機構福岡
 理事長 朝見 行弘
3.事業者等の氏名又は名称
 株式会社LIXIL
 代表取締役 藤森 義明
4.当該判決又は裁判外の和解に関する改善措置情報(※)の概要
 なし
(※) 改善措置情報とは、差止請求に係る相手方から、差止請求に係る相手方の行為の停止若しくは予防又は当該行為の停止若しくは予防に必要な措置を採った旨の連絡を受けた場合におけるその内容及び実施時期に係る情報のことをいう(消費者契約法施行規則(平成19年内閣府令第17号)第14条、第28条参照)。

以上

【本件に関する問合せ先】
消費者庁消費者制度課 電話:03-3507-9264
URL:http://www.caa.go.jp/planning/index.html



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