東京多摩借地借家人組合

アパート・賃貸マンション、店舗、事務所等の賃貸のトラブルのご相談を受付けます。

地主と借地人との間で、借地人が地主に相当額の更新料を支払う旨の合意をしたと認め、更新料の相当額を認定して支払いを命じた事例(東京地方裁判所令和2年7月31日判決)

2024年05月01日 | 最高裁と判例集
借地契約における更新料の支払に関して、多くの裁判例では、裁判所において客観的に更新料の額を算出することができる程度の具体的基準を契約書等で定めておかなければ、具体的権利性を認めることはできないとされています。しかしながら、更新料の支払いを巡る交渉段階での地主とのやり取りによって、たとえ契約書に更新料算出に関する具体的基準が定められていなくても(しかも、法定更新であったにもかかわらず)、更新料の支払義務が認められた事例がありますのでご紹介します。
 本事例における借地契約では、期間は平成30年7月18日までとされ、更新については、「地主と借地人の合意により更新する場合には、借地人が相当額の更新料を地主に支払う」とされていました。
本借地契約は、結果として法定更新され、法定更新に基づく更新料の支払いは認められませんでした。しかし、当事者間で別途更新料の支払の合意があったとして、更新料の支払いが認められてしまいました。
地主の代理人弁護士は、期間満了が近付いた平成30年7月3日、本件更新条項を前提に借地人と面談し、更新料の支払を申し入れました。借地人も同弁護士から更新料の提示があることを認識して面談に臨み、更新料の額及び根拠には納得しませんでしたが、持ち帰って検討すると述べたほか、更新料の大幅な減額と引換えに多少の賃料増額には応じる余地があるとも述べ、更新料の額について、地主のみならず借地人からもその額の提案をしました。
 裁判所は、上記事実を踏まえ、平成30年7月3日の面談当時、従前の経緯及び本件更新条項の合意等から、本件借地契約を更新する場合は、借地人が地主に相当額の更新料を支払うものと認識していたといえ、この限度で意思の合致を認め、相当額の更新料を支払う旨の合意が成立したと認めました。その上で、当該合意の際にも具体的な金額の合意はなかったのですが、更新料の額につき更地価格の4%程度が妥当と判断しました。
 このように契約書に更新料の金額について明確な基準がない場合でも、慎重に交渉することが必要ですし、事前に組合や弁護士等にご相談してもよいかと思います。

(穐吉 慶一弁護士)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

家主の建替え理由による明渡しの裁判で借家人が完全勝訴

2023年11月01日 | 最高裁と判例集
 借家で,大家から,建物の老朽化や耐震性を理由に建て替えたいから,更新拒絶や解約を言われることが増えているように感じます。このような場合,大家からの明渡し請求に,正当事由があるか(大家と借主のどちらが建物を使う必要性が高いか,立退料の支払により大家の必要性が補完できるか)が問題になります。この点,老朽化や耐震性については,築年数によるところが大きく,特に,昭和56年に耐震基準が見直されたので,それ以前の「旧耐震」と「新耐震」で,耐震性に大きな差があります。昭和56年というと,42年前です。木造の建物であれば,大家が建て替えを考える時期でもあります。

 今回,ご紹介するのは,私が担当した,築40年で新耐震の物件の明渡し請求の判決です(東京地方裁判所令和5年8月1日判決,大家側からの異議申立てはなく,確定しています。

この判決では,まず,大家の必要性について,「原告は,本件建物のような築年数の古い建物は今後も貸室としての競争力が相対的に低下していくといえることから,本件建物を取り壊し,新たに建物を建てることを計画しているところ,原告の目的や資産活用,土地の有効利用の観点からは,本件建物を時代の要請に沿った建物に建て替えることについても一定の合理性があり,原告が営利目的で本件建物を必要とする事情は一定程度認められる。しかしながら,上記認定事実によれば,本件建物の現状は,原告が指摘する付属施設や設備等について,相応の不具合は認められるものの,建物の躯体部分に関する老朽化には当たらない程度にとどまっている。」としました。また,借主の必要性については,「他方で,被告が,今後も本件貸室に継続して居住する必要性については,本件建物の立地する地域の住宅事情等に鑑みても,代替不可能であるとか,必要不可欠とまではいえないものの,原告の上記必要性との比較においては,なお相対的に高いものであるといえる。」としました。さらに,立退料については,「本件解約申入れは,原告による立退料の提示をもってしても,相当な立退料の支払により正当事由が補完され,これが認めらえるべきものとまでは言い難い。」としました。
今後も使える,良い判決だと思います。(弁護士 種田和敏)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

賃貸借契約の期限付解約合意が無効になった事例

2023年07月14日 | 最高裁と判例集
賃貸借契約の期限付解約合意をめぐって

賃貸借契約の期限付解約合意(例「10年後に解約する合意」「賃借人が死んだら解約する合意)は、賃借人に不利な合意であるとして、旧借地法11条又は旧借家法6条に反し無効であると主張して紛争となるケースがあります。この期限付解約合意については、合意に際し、「賃借人が真実土地賃貸借を解約する意思を有していると認めるに足りる合理的客観的理由があり、しかも他に右合意を不当とする事情の認められない限り」は有効とされます(最判昭和44年5月20日)。しかし、具体的にどういった場合有効になるのか明確とは言いがたく、そのため、実務では、明渡猶予付合意解約(合意時に解約して、○年間明渡しを猶予する)が使われることが多いです。
期限付合意解約が問題となった裁判例を2つ紹介します。

1つ目は、調停における合意を無効とした事例(大阪高判昭和55年11月14日)です。これは調停において「賃貸借契約期間10年」「賃借契約終了と同時に建物を収去して土地を明け渡す」旨が合意されていたところ、同調停合意に基づく、賃貸人からの建物収去土地明渡請求の是非が問題となりました。判決では、この「10年」は残存賃貸借契約期間を確認したものに過ぎないとし、この調停合意は期限付解約合意ではなく、かつ、賃借人の有する更新請求権を否定するものではないことを理由に、旧借地法11条により調停調書の明渡条項を無効として、賃貸人からの建物収去土地明渡請求を否定しました。これは上記のとおり、結論こそ期限付解約合意ではないとされていますが、賃貸人側は期限付解約合意を主張しており、期限付合意解約として肯定されなかった事例といえると思います。
2つ目は、賃貸人と賃借人の間で、賃借人が死亡したときは土地賃貸借契約が失効する旨を合意した事例で、賃貸人が賃借人の死亡後にその相続人に対して建物収去土地明渡を求めた事例(東京地判昭和57年3月25日)です。判決は、この合意は、賃借人が更新料全額を支払う資力がなかったことからやむを得ず一代限りで借地を明渡す旨の不確定期限付合意解約に応じたものであって、真に一代限りで解約となる結果の生ずることまでも認識していたとはいえず、賃借人が真実解約する意思を有していたと認めるに足りる合理的理由がないとして、上記合意は旧借地法11条に該当するため無効としました。
今後の参考にして下さい。(弁護士 西田穣)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

家賃保証業者の「追い出し条項」を無効とした2022年12月12日最高裁判決

2023年02月20日 | 最高裁と判例集
事案の概要

 適格消費者団体が家賃債務保証会社に対し、消費者契約法12条3項に基づき、保証委託等の契約条項の差止等を求めた事案。
 問題となった契約条項は以下のとおり。
①賃料3か月分以上の滞納があったときは、家賃債務保証会社が、無催告で、賃貸借契約を解除できるという条項
②賃料等の支払いを2か月以上滞納し、家賃債務保証会社が合理的な手段を尽くしても賃借人と連絡がとれないなど所定の4要件を満たすときは、家賃債務保証会社が、建物の明渡があったものとみなすことができるという条項

判断

上記条項①について
最高裁は、賃貸借契約の解除は、賃借人の生活の基盤を失わせるという重大な事態を招来し得るものであるから催告の必要性は高いとした上、上記条項①は、所定の賃料等の支払いの遅滞が生じた場合、賃貸借契約の当事者でもない家賃債務保証会社がその一存で何らの限定なく賃貸借契約を無催告で解除権を行使することができるとするものであるから、消費者契約法10条に該当すると判断した。
上記条項②について
最高裁は、上記条項②は、賃貸借契約が終了していない場合でも、家賃債務保証会社に建物の明渡しがあったものとみなすことができる旨を定めた条項であり、賃借人の建物に対する使用収益権が一方的に制限されることになる上、賃借人は明渡義務を負っていないにもかかわらず、法律に定める手続によることなく明渡が実現されたのと同様の状態におかれることになり著しく不当であるとして、消費者契約法10条に該当すると判断した。

コメント

 本判決の原審判決である大阪高裁判決は、上記条項①および②について、いずれも限定的な解釈をすることで消費者契約法に違反しないとした。
 これに対し、本判決は、上記のとおり上記条項①および②の問題点を正面から認め、賃貸借契約の解除や明渡が賃借人の生活の基盤を失わせるという観点から、消費者の利益を一方的に害すると判断したものである。また、上記条項②の判断において、法的手続によらない明渡(自力救済)につき厳格な判断を行っており実務上も重要な意義のあるものである。(弁護士 瀬川宏貴)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

家賃保証業者の不当契約条項の使用差し止めを命じた最高裁判決 弁護士 増田尚

2023年02月07日 | 最高裁と判例集
 昨年12月、最高裁は家賃保証会社フォーシーズの保証委託契約書の家賃滞納など際の「追い出し条項」が消費者である賃借人の権利を一方的に害しているとして同条項は無効であると画期的な判決を下しました。提訴した適格消費者団体である消費者支援機構の主任弁護士である増田尚弁護士に最高裁判決の解説と意義について語っていただきました。

 家賃債務保証業者のフォーシーズが、保証委託等の契約条項に、消費者契約法により無効とされるべきものが使用されているとして、適格消費者団体である特定非営利活動法人消費者支援機構関西が、同法12条3項に基づき、使用の差止等を求めた事件で、最高裁第一小法廷(堺徹裁判長)は、昨年12月12日、同社に、契約の差止めや契約書ひな形の廃棄を命じる判決を言い渡しました。

 問題となった契約条項は、①賃料3か月分以上の滞納があったときは、フォーシーズが、無催告にて、賃貸借契約を解除できるとする13条1項前段、②賃料等の支払を2か月以上怠るなど所定の4要件を満たすときは、フォーシーズが、建物の明渡があったものとみなすことができるとする18条2項2号の2つです。

 最高裁は、①13条1項前段について、賃貸借契約の当事者でないフォーシーズがその一存で何らの限定なく賃貸借契約を無催告で解除権を行使することができるとするものであるから、賃借人が重大な不利益を被るおそれがあるとして、消費者契約法10条に該当すると判断しました。

 また、②18条2項2号の趣旨について、賃貸借契約が終了していない場合でも、フォーシーズに建物の明渡しがあったものとみなすことができる旨を定めた条項であり、賃借人は、賃貸借契約の当事者でもないフォーシーズの一存で、建物に対する使用収益権が一方的に制限されることになる上、建物の明渡義務を負っていないにもかかわらず、法定の手続によることなく明渡しが実現されたのと同様の状態に置かれ、著しく不当であるなどとして、消費者契約法10条に該当すると判断しました。

 最高裁判決は、住宅が「賃借人の生活の基盤」であると指摘して居住の権利を重視するとともに、法定手続によらずに契約で明渡の実力行使(自力救済)が可能になるかのような原審大阪高裁判決を厳しく批判しています。フォーシーズのみならず、他の家賃債務保証業者においても、保証委託契約の不当な条項の改善を迫る内容になっており、家賃債務保証業の義務的登録制を含む見直しにつなげていきましょう。

(全国借地借家人新聞より)
           
       










コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

借地上の建物の利用方法が借地契約の特約に反していても特約違反に当たらない

2022年11月16日 | 最高裁と判例集
 借地契約において、特約が有効であり、文言上その違反が疑われるような場合であっても、特約違反を認めなかった事例(東京地方裁判所平成28年6月15日判決)

 本件事案では、借地人Yらが借地権付建物(2棟)を購入するにあたり、地主Xとの間で借地契約を締結し、この契約において「借地上建物は賃借人自ら住居として使用する」との特約が付されていました。そもそも、借地人Yらは、本件借地の隣地を既に地主Xから借り、そこに自宅を建てて生活をしていたのですが、自宅が手狭になったことから、借地権付建物(2棟)を購入しようと考え、新たに借地契約の締結に至りました。そのため、借地人Yらは、借地権付建物(2棟)について、1棟には家財を置き、庭でガーデニングをしたり、来客を迎えたり、テレビを見たりしてくつろいだりする家屋として使用し、もう1棟は、主として絵のアトリエとして使用していました。また、住民票も隣地上の自宅建物に登録したままでした。このような使用方法につき、地主Xは、本件借地上の建物を住居として使用することはなかったのであるから、本件特約に違反しているとして、借地契約の解除を主張しました。
 裁判所は、「建物所有のために土地の安定した利用を図るという社会目的を有する借地借家法の立法趣旨に鑑み、著しく借地権者の権利を制限するような特約は、それ自体無効というべきである。」としつつ、「本件特約は、目的物の用法として、賃借人自ら住居として使用することを定めるものであるところ、かかる特約は、著しく借地権者の権利を制限するものとはいえず、特約自体は有効である。」と判断しました。
 他方で、裁判所は、借地契約締結前から、隣地上の建物を自宅として居住しており、地主Xも、本件特約の趣旨について、借地人Yらが本件借地上建物を住所として定めたり、生活の本拠とするものではなくてもよく、借地人Yらが使用していればよいと認識していることが認められるとして、本件借地上建物の利用方法は、本件特約に反するものではないとしました。このように特約が有効で、「住居」としての利用が疑わしい場合であっても、特約の趣旨を解釈し、特約違反とならないことは十分あり得ます。地主から何らかの特約違反を主張された場合、まずは本当に違反にあたるか否か、ご相談いただければと思います。

(弁護士 穐吉慶一)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

毎年のような賃料増額請求は認められない

2022年09月05日 | 最高裁と判例集
 東日本大震災以降,コロナ禍にあっても,この10年は,全国的に土地や建物の価格は,上昇傾向にあり,この傾向は,今後も続くと予想されています。不動産の上昇局面で,賃料の増額請求をされると,毎年のように増額請求されたら大変だと,不安に思う方も多いと思います。
賃料増額は,貸主から一方的に行えるものではなく,貸主と借主の合意を基本とし,協議や調停で合意ができない場合には,借地借家法(旧借地法,旧借家法)の定めに基づき,「事情変更」があれば,裁判で増額される場合があります。この事情変更について,裁判所は,前回の増額から時間の経過を必要としています。例えば,東京地判平成5年9月27日は,「このように長年にわたって当事者間の合意により形成されてきた賃料額及びその形成過程は,将来における賃料改定に当たっても十分考慮されるべきものであり,原告らとしても,賃借人の存在を知った上でこれを買い受けたのであるから,従前の賃料額の形成過程を尊重すべきものである。ところで,最近における本件建物の賃料月額の推移をみると,昭和六二年ころ以降が三万円,平成元年九月分以降が四万円,平成三年九月分以降が六万円と,原告らが本件建物を取得する直前と比較すると,三,四年の間に倍額になっているのみならず,原告らが本件において増額を求めている時期は,前回の増額の時期からわずか一年経過後にすぎないのであって,賃料上昇の程度が従前に比べて甚だしくなっていることが認められる。」として,「近隣建物の賃料額に比較して本件建物の賃料額が低廉であるからといって,現時点において改定を要するほど本件建物の賃料額が相当性を欠くに至っているとまでは認め難い。よって,賃料増額事由の存在は認められない。」と判示しています。つまり,1年経過した程度では,事情変更は認められないので,増額は認めないとしています。これは,2年経過でも同じで,3年経過以降,不動産の価格が上昇していれば,増額の可能性が出てきて,年数が経つにつれて,その可能性は高まってくるというイメージです。このように,毎年のように増額請求は難しいので,貸主の言うとおりに,値上げに応ずる必要はありません。(弁護士 種田和敏)



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

更新料の支払合意について(裁判例比較)

2022年07月06日 | 最高裁と判例集
 更新料の支払合意についての2つの裁判例を比較します。

 東京地裁平成27年2月12日判決は、賃貸借契約書に更新料の規定がない事案において、前貸主、前借主の間で、「賃貸期間の満了に伴って契約を更新する際には、更新時の相場により算出される金額の更新料を支払う旨の黙示の合意がされ」たと認定し、前回更新時にはその更新料支払合意に基づき更新料として780万円が支払われたことを指摘して、「その後の相続により、賃貸人や賃借人の地位が原告と被告にそれぞれ承継されたことに伴い、原告と被告にこの合意が承継され、存続されていることになるから、被告は、更新料支払合意に基づき、賃貸人である原告に対し、更新時の相場により算出される相当額の更新料を支払う義務がある」と認定しました。この判決は、「黙示の」更新料支払合意を認めた点、明確な金額もしくは基準の定めがない更新料支払合意の具体的権利性を認めた点、従前当事者間の更新料支払合意の相続を認めた点で、やや特異な判決といえるのではないかと考えます(なお、本件は東京高裁で和解により終結)。

 これに対し、ほぼ同時期に出された東京高裁平成28年5月25日判決は、賃貸借契約書に「契約が更新されたときは、乙は、甲らに対して、甲乙協議により定めた金額を更新料として払わなければならない」と記載のある事案です(また、前回更新時に500万円の更新料が支払われていました)。この事案の原審は、上記文言は「合意更新の際に当事者間の合意によって定められる更新料についてのみ規定したものと解すべきである」として、更新料支払義務を否定しました。この控訴審である上記東京高裁判決は、この原審判決の結論及び理由を維持しつつ、さらに以下のような踏み込んだ論証をしました。「いわゆる更新料条項は、一般的には賃貸借契約の要素を構成しない債務を特約により賃借人に負わせるという意味において、賃借人の義務を加重するものであるから、控訴人主張のように当事者の意思を当然に推定することは合理性がない」、「付言すれば、控訴人の主張によっても、更新料の額は当事者双方の協議によって定めるべきものであるから、その協議が調っていないという本件事実関係の下においては、控訴人の行使する237万2386円の更新料支払請求権が、具体的な権利として発生しているものとは解されない」。この東京高裁判決は、安易に当事者の意思を推定することなく、更新料の支払合意が「一義的かつ具体的」に契約書に記載されているかどうかを重視したと解されます。また、更新料の金額について明確な合意(金額・基準)がない場合、具体的権利性を認めることに消極的な立場をとったともいえます。

 最近は、借地契約でも金額・基準まで定めた更新料条項を散見しますが、多くは更新料条項がないか、あっても解釈が多義にとれるケースが多いです。参考にして下さい。(弁護士 西田穣)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

賃貸人がビルの管理を十分に行っていなかった場合、共益費は当然に減額される

2022年05月09日 | 最高裁と判例集
2020年4月の改正前の民法611条1項は、「賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したとき」に「その滅失した部分の割合に応じて」賃料の減額を請求することができると規定していました。
これに対し、改正後の611条1項は、「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」で、それが賃借人の責任でないときは、賃料は、「その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて」、当然に減額されると規定しています。

東京地裁令和元年5月30日判決は、旧民法下の判決ですが、民法611条1項の趣旨により、当然に共益費の半額の減額を認めた判決です。同判決の事案は、以下のとおりです(一部簡略化しています)。

ビルの一部を賃貸していた原告会社が、賃借人である被告に対し、未払賃料等の支払いを求めたのに対し、被告会社が、原告がビルの管理を怠っており、空調設備がほとんど稼働しない状況が続いていること等を理由に、賃料の半額及び共益費の全額が減額されると主張するとともに、原告が管理を怠った債務不履行による損害賠償請求として、業務に支障をきたした損害及び移転費用を反訴請求した事案。

判決は、管理について賃貸人の義務違反を認定しつつ、賃料の減額については物理的に利用すること自体はできていたことを理由に認めず、共益費については、空調設備は共用部分の設備の中でも比較的大きなウエイトを占めていること等を理由に半額の減額を認めました。また反訴請求について、被告会社に生じた業務妨害、信用毀損等の無形損害として300万円、移転費用として約62万円の支払いを認めました。

賃貸人がビル等の管理を怠っているケースは相当数あると思います。このようなケースの対抗策として民法611条により賃料の一部を不払いとすることが考えられますが、上記の判決ではこれを認めないとしました。一方で共益費の半額の減額を認め、反訴請求として相当額の賠償金の支払いを命じたことに特色があると考えられます。上記の判決は、改正後の民法の適用のある事案でも、同種事案の参考となるものと思います。
(弁護士 瀬川宏貴)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

耐震性不足を理由とする契約解除・更新拒絶を認めなかった事例

2021年11月17日 | 最高裁と判例集
 耐震性の不足を理由とする契約解除・更新拒絶請求を認めなかった事例(東京地判平成25年12月25日)

1 事案の概要
 建物は昭和53年築の居住用マンションで、契約書には「天災、地変、その他賃貸人の責によらない事由により、賃貸借物件を通常の用に供することができなくなったと賃貸人が認めたときは、本件賃貸借契約は当然に消滅する」という終了特約があった。耐震性能調査では図面上の耐震壁が実際には存在しない、梁の鉄筋本数が耐震基準の2分の1から3分の1程度であることなどから、「震度6弱程度の地震にみまわれた場合、構造体に損傷が発生する可能性が高い」との結果が出ている。賃貸人は、この調査結果を踏まえて①終了特約に基づく契約の終了と②期間満了による更新拒絶(立退料の提供あり)を主張して、賃貸人に対し明け渡しを求める裁判を起こした。
2 裁判所の判断
(1)終了特約による契約解除の主張
 建物の状態については、先の耐震調査結果を踏まえて、「耐震構造上の問題があって、マンションの入居者のほか第三者の生命、身体へ危険を及ぼす危険性を有している」と認めた。しかし、終了特約については、「(賃貸人は)賃貸借の目的物に瑕疵がある場合には、その瑕疵を修繕する義務を負っている(民法606条1項)のであり、終了特約が直ちに賃貸借契約が終了するという賃借人にとって著しく不利益な効果をもたらすことを踏まえると、終了特約の『通常の用に供することができなくなった』状態とは、「賃貸人において通常の用に供するための修繕をすることが不可能な状態であることをも要する」と判断した。そして、賃貸人が耐震補強(修繕)工事を行うことは多額の費用を要すると主張している点について、どのような耐震補強工事が可能または不可能なのか、どれだけの費用がかかるのかなどについて「なんら具体的な主張立証をしていない」として否定し、終了特約に基づく契約終了を認めなかった。
(2)更新拒絶の主張について
 賃貸人が住居以外に、生計を維持するための事業としても使用していることから自己使用の必要性は高い。他方、建物については解体して新たな建物を建築する必要性があることは否定できないとしつつも、(1)で述べた耐震補強工事を行うことが不可能であるか否か等が明らかにされていない状態では、立退料の提示があることを考慮しても、なお更新拒絶には正当事由がないと判断し、契約解除を認めなかった。
3 コメント
 本事例から、耐震性能検査で建物に問題点が指摘されたとしても、取り壊しではなく補強工事によって対応が不可能か、可能であっても多額の費用がかかることを賃貸人側で具体的に明らかにしなければ容易には契約解除が認められないことが分かる。立退請求を受けた場合、このような観点から賃貸人側の理由を具体的に精査することが必要であるといえる。

(弁護士 松田耕平
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

建物の老朽化により建て替えの必要性があり、相応の立退料を支払うことを前提にした契約の解除、明渡請求を認めなかった事例

2021年11月01日 | 最高裁と判例集
東京地方裁判所2019年12月12日判決を紹介します。

事案としては,賃貸人は,建物(本件建物)が,木造建物の貸与年数(22年)を優に超過し,旧耐震基準の建物であるため,倒壊の危険性があるところ,耐震補強工事には多額の費用がかかるので,建替えの必要性があり,相応の立退料を支払うことを前提に,契約の解約予告(本件解約予告)をしました。これに対し,賃借人は,一級建築士(A)の意見書を提出し,早急に耐震補強工事や建替工事を要する状況になく、比較的平易かつ安価の補強が可能であると反論しました。
判決では,「我が国の木造建物には旧耐震基準の建物が多数あると考えられ、その全てが現在直ちに建て替える必要があるといえるものではない。そして、A意見書によれば、本件建物は、①昭和34年の新築当時、建築確認及び完了検査を受けた建物で、②その基礎は、現在でも一般に採用されている鉄筋コンクリート造の布基礎で、全体として矩形のそれほど複雑でない平面をした瓦葺き平家の建物である上、③全体的に壁量が多いことから平成12年改正後の壁量に関する基準に準じている可能性が高く、④仮に適合しない場合にも、同基準に示された補強は比較的平易に行い得、⑤土台等に白蟻による被害も見当たらず、東日本大震災を含む地震等による損傷の跡は殆ど見当たらないとされ、これらのことから、現況のままで、ある程度の規模の地震には対応することができ、早急な耐震補強工事や建替工事が必要とはいえないとされている。」などと述べ,「立退料による正当事由の補完を検討するまでもなく、本件解約告知に正当事由があると認めるのは困難である。」として,賃貸人の請求を棄却しました。

建物の老朽化を理由にした更新拒絶(解約予告)の相談は多く,築後50年前後の木造建物の場合,賃貸人は,旧耐震基準で倒壊の可能性が高いと主張し,裁判所も,特に東日本大震災以降,その主張に好意的な印象を受けます。しかし,この判決は,建物の構造・現状によっては,賃借人側でも,一級建築士などが作成した意見書を提出するなどして,専門的・具体的な反論をすることにより,明渡請求を棄却した事例として,参考になります。

(弁護士、種田和敏)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

借地上の建物を離婚した妻に夫が財産分与したら借地権の無断譲渡になるのか

2021年07月01日 | 最高裁と判例集
借地権付建物の共有者間の譲渡の際の地主の承諾の要否(最高裁判所第1小法廷昭和29年10月7日判決)

 古い判例ですが、ついこの前、共有者間の借地権譲渡の事案で地主から要求された承諾料を拒否する根拠として使った判例ですので、紹介します。

この事案は、相続によって相続人4名が借地権付建物の共有者となっていたところ、共有者のうち2名が、残る共有者のうちの1名にこの借地権付建物の持分を譲り渡し、建物の所有権移転登記を完了したところ、地主から無断譲渡を理由に賃貸借契約解除を主張されたというものです。この事案の第1審判決は、借地権譲渡の際に地主の承諾を必要とする趣旨を、借地権の譲渡により賃借人が交替し最初の賃借人と別個の者が土地の使用をするようになることが相互の信頼関係を破壊し賃貸人に不利益を与えるおそれがあることから解除原因としたものと解した上で、4名の共同賃借人がそのうち2名に減少したに過ぎないような場合はこの趣旨に含まれず、民法612条によって賃貸借契約を解除することはできないとしました。この判断は、高等裁判所でも肯定され、上記最高裁でも肯定されて確定しました。

法は「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない」(民法612条1項)とした上で、これに違反した場合「賃貸人は、契約の解除をすることができる」(同条2項)と定めています。この「譲渡」には、売買や贈与だけでなく包括遺贈なども含まれるとされています。共有者間の持分移転も、形式的にはこの「譲渡」に該当するのですが、この裁判例は、賃貸人に不利益がないという観点から解除原因にあたらないとしたもので、常識的な結論であると思われます。

 同じく賃貸人の不利益がないという観点から、借地上に一緒に居住していた夫婦の離婚に伴い、元夫から元妻に借地権付建物が財産分与された事案において、無断譲渡を理由とする賃貸借契約解除を否定した事例(最判平成21年11月27日)もあります。
 これらは賃貸借契約解除まで請求されていないが、承諾料を請求されている事案で承諾料を拒否する理由としても使えると思いますので参考にして下さい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

借地の法定更新の際の更新料の支払合意も支払慣行も否定した最近の判例

2021年04月19日 | 最高裁と判例集
【東京地方裁判所2021年3月22日判決(原告が控訴)】弁護士 黒岩哲彦
 地主は更新料支払いの合意又は慣行に基づき、更新料299万円を請求して本件訴訟となりました。私は賃借人の代理人です。

訴訟前の交渉
 私は事前交渉で「平成11年10月16日付「土地賃貸借証書」には、賃借人が更新料を支払う義務があることについて一切記載がなく、通知人には更新料を支払う義務がございません。」と回答しました。

訴訟の争点①
賃借人の先代の更新料の支払いで更新料支払合意を認定はできない
 賃借人の先代は前回の更新時に更新料を支払いました。そこで、地主は「黙示の合意」を主張しました。
 判決は「前回の更新料の支払いは、合意更新された際に、賃貸人と賃借人で協議した結果、賃借人が賃貸人に更新料を支払ったものであって、これによって直ちに、本件賃貸借契約が法定更新された際に賃借人が賃貸人に更新料の支払義務を負う旨の合意の存在を認定することは困難といわざるを得ない。」としました。

訴訟の争点②
更新料の支払慣行を認めることはできない
 判決は、「本件土地の近隣(足立区梅田)において、大正時代から現在まで、契約書に更新料の支払の条項がなくても、更新の際に更新料が支払われてきたとしても、それは、賃貸人と賃借人が合意更新の際に更新料の支払の合意をしてきたことを意味するにすぎないものとみられたのであって、賃貸借契約が法定更新された際に賃貸人が賃借人に対して更新料の支払義務を負う旨の慣行の存在認めるには足りない」
としました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「相当の更新料」は払わなくてよい!

2020年11月05日 | 最高裁と判例集
借地について,契約書などの書面に更新料の記載がない場合,借地人が更新料を支払う法的義務はないとされています(最高裁判所昭和51年10月1日判決)。

それでは,書面で更新料を支払うという記載があった場合,借地人は,更新料を支払う法的義務があるのでしょうか。

今回,ご紹介するのは,書面に「相当の更新料」を支払うという記載があった場合のケースで,東京高等裁判所は,令和2年7月20日,「更新料の支払請求権が具体的権利性を有するのは,それが,更新料の額を算出することができる程度の具体的基準が定められていることが必要であるところ,本件合意第3項は,その「相当の更新料」という文言が,抽象的で,裁判所において客観的に更新料の額を算出することが出来る程度の具体的基準ではないから,具体的権利性を肯定することはできない」と判示しました(なお,地主から,この判決に対する異議申し立てはなく,この判決は,確定しています。)。

 この判決は,一義的かつ具体的に記載された更新料条項に関し,高額に過ぎるなどの特段の事情がないかぎり,消費者契約法に反しないとした最高裁判所平成23年7月15日判決と同様,その記載を見ただけで,誰が計算しても,更新料の金額にブレがない場合でなければ,更新料を支払う必要は法的にはないと明言したものです。

 つまり,「相当の更新料」だけでなく,「相応の更新料」や「相場の更新料」という記載でも,更新料を支払う必要はありません。さらに,「路線価を基準にした更新料」や「更地価格の5%の更新料」という記載も,見た人によって,金額にブレが出るので,同様に,更新料を支払う必要はありません。他方,借家であれば,「新家賃の1か月分の更新料」,借地であれば,「更新日に確認できる最新の路線価に借地面積を乗じた金額の3%の更新料」と書いてあれば,誰が計算しても,同じ金額になりますから,このような場合のみ,更新料は支払わなければならないということです。

 この判決を受け,ご自身の契約書に,誰が見てもブレない金額の更新料の定めがあるかを確認し,そういう定めがなければ,更新料を支払わないという選択肢を検討することをお勧めします。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東京高裁が地裁の相当額の更新料の支払い義務を認める判決を覆す画期的な判決

2020年07月31日 | 最高裁と判例集
 組合ニュース601号で紹介した「相当額の更新料を支払う」特約を有効とし、坪8万円で215万円の更新料請求を認めた東京地裁の判決の控訴審で、東京高裁は本年7月20日に判決の言い渡しがあり、地主の更新料請求を棄却し、借地人が逆転勝訴の判決が下りました。

 「相当額の更新料を支払う」の合意が更新料支払い義務を発生させるかが控訴審の最大の争点となり、高裁判決では以下のように判断を示しています。

「被控訴人(地主)は、本件本訴の根拠として、本合意書3項(契約満了時、更新を希望する場合、………相当の更新料を支払う)を主張する。しかしながら、更新料の支払請求権が具体的権利性を有するのは、それが、更新料の額を算出することができる程度の具体的基準が定められていることが必要であるところ、本件合意第3項は、その「相当の更新料」という文言が、抽象的で、裁判所において客観的に更新料の額を算出することが出来る程度の具体的基準ではないから、具体的権利性を肯定することはできない。………したがって、本件合意第3項において、具体的な更新料支払い義務を定めたとは認めることができない」と判事しています。

 東借連の常任弁護団では、東京地裁の判決について担当した種田和敏弁護士と協議し、不当な判決であり判決を覆すために4名の弁護士が加わり、弁護団の尽力で今回の逆転勝訴につながりました。

 契約書の特約条項で「相当の更新料を支払う」、「適正な更新料を支払う」で書き込まれる事例が増えています。高額な更新料を請求されることに借地人の不安は高く、今回の判決は借地人にとっては大変勇気づけられる判決です。地主側は最高裁に上告することが予想される中、最高裁でも同様な判決が下されることを期待したいと思います。(東京多摩借組ニュースより)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする