東京多摩借地借家人組合

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分譲マンションの区分所有法改正要綱案 マンションの建替え決議でマンション入居中の賃借人の権利が消滅に 

2024年01月18日 | 区分所有法改正
 法制審議会区分所有法制部会は、昨年11月に区分所有法制の改正に関する要綱案を発表した。同部会では6月に中間試案を発表し、意見募集を行い、131件の意見が法務省に寄せられた。
 老朽化した区分所有マンションの建替え決議がされた場合の賃借権の消滅に関しては、存続期間中の賃借権の消滅については反対したのは全借連、自由法曹団など5団体と個人2名で、賃借人の使用の必要性を全く無視するもので正当事由制度の賃借人の権利保障を骨抜きにするもの等の反対意見が寄せられた。

A案の建替え決議によって賃借人の権利消滅に賛成したのは、不動産協会など7団体。B案の賃借権消滅により通常生ずる損失の補償金の支払いを請求することができる案には11団体が条件付きも含め賛成した。日弁連は条件付きでB案に賛成し、建替え決議の多数決要件の緩和を前提に建物に耐震性に危険がある場合で「補償金の支払いと賃借権の消滅による明渡しを同時履行とすべき」と意見が寄せられた。
 区分所有法制部会の要綱案では、B案の意見が採用され、①建替え決議がされた場合に専用部分の区分所有者は、賃借人に対し、賃借権の終了を請求することができる。②請求があった日から6カ月を経過する時に賃借権は消滅する。③区分所有者は、賃借人に対して賃貸借の終了により通常生ずる損失の補償金を支払わなければならない。④①の請求をした者は専用部分の区分所有者と連帯して③の債務の弁済の責めに任ずる。⑤賃借権が消滅しても賃借人は補償金の支払いを受けるまで、専用部分の明渡しを拒むことができる。

なお、通常損する損失の算定について、法務省の補足説明では公共用地の取得に関する用対連基準の通損補償の算定方法(昭和37年10月12日)が参考になるとしている。また、建替え決議がされた場合に、賃貸借の更新等に関する借地借家法の適用除外の規律は反対の意見が多く削除された。

(東京借地借家人新聞より)



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区分所有法改正 賃借権終了請求権創設反対 増田尚弁護士(生活弱者の住み続ける権利対策会議事務局長)

2024年01月16日 | 区分所有法改正
 マンションなどの区分所有建物の建替要件を緩和するべく、法制審議会区分所有法制部会で、区分所有法の改正が審議されています。中間試案では、いわゆる分譲貸し物件があると立退に時間がかかり、賃貸人である区分所有者が協力しないなど建替が円滑に進まないとして、区分所有建物の賃借権を消滅させる制度を創設し、借地借家法の正当事由制度の適用を除外する考えが示されました。賃借権を消滅させる制度は、建替決議において賃借権の終期を定めることにより、専有部分の賃借権が当該期間を経過後に当然に終了する制度(A案)や、一定の補償金の支払と引換えに賃借権を消滅させる制度(B案)が提唱されました。
 しかしながら、このような制度は、建物賃貸借契約の存続を図ることにより、賃借人の居住や営業の安定を確保しようとした借地借家法の正当事由制度を否定するものというべきです。
 借地借家法28条は、賃貸人からの更新拒絶や解約申入れは、賃貸人と賃借人の双方の建物使用の必要性を主たる要素として、このほか、従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況、立退料等の財産上の給付をする旨の申出を補充的要素として、正当の事由がなければ、効力を有しないと定めます。このように、区分所有建物において建替決議がなされたとしても、それだけで正当事由を認めるのではなく、専有部分の賃借人の使用の必要性と比較衡量しつつ、正当事由の不備がある場合に、これを補完するものとして、相応の立退料等の財産上の給付をすることを勘案しています。ところが、中間試案は、建替決議がなされれば、賃借人の使用の必要性をまったく無視して、一律に正当事由を認めるに等しいものです。
 また、B案の補償金の算定については、公共用地の取得に伴う損失補償基準(用対連基準)における賃借人が受ける補償(通損補償)と同水準とすることを想定しています。しかし、立退料は、あくまで正当事由の不備を補完する要素として考慮されるものであり、建替決議がなされた場合には用対連基準で立退料を算定すればよいという機械的な判断をしてよいことにはなりません。
 賃借権を消滅させる制度は、分譲貸し物件において建替決議がなされた場合という限定された場面ではありますが、このような考え方が法定されれば、他の立退事件にも影響を及ぼすことは必至であり、まさしく「蟻の一穴」として、正当事由制度が瓦解しかねません。
 当対策会議や全借連などが中間試案に反対する意見を提出したことを受けて、部会では、借地借家法の適用除外とする考え方が撤回されました。しかし、B案をベースとして、賃借権終了請求権を創設することになお固執しています。昨年11月21日の部会に示された「要綱案のたたき台(1)」では、賃借権終了請求権を創設したとしても、借地借家法に基づく「解約申入れや更新拒絶により賃貸借を終了させることができなくなるわけではなく、賃貸借の終了請求の…補償金の考え方は、従前の解約申入れ等による賃貸借の終了についての立退料の要否や額の考え方に変更を生じさせるものではない」と弁解します。しかし、賃貸人の都合により賃貸借契約を一方的に終了させるという点で共通する以上、正当事由の解釈に影響を与えないはずがありません。
 審議会で要綱案がとりまとめられ、24年の通常国会にも法案が提出される見通しです。そもそも、賃借権消滅請求はディベロッパー側からの要求に基づき導入が検討されたもので、賃借人が求めたものではありません。賃借人の住まいの権利をいっそう不安定化し、正当事由制度を骨抜きにする賃借権終了請求権の創設に断固として反対する運動を繰り広げましょう。(全国借地借家人新聞2024年1月号)



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