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会社は解雇したのだから直ぐ社宅から退去せよというが

2009年06月15日 | 借地借家の法律知識
(問) 毎月8万円の家賃を支払って社宅に住んでいたが、人員整理を理由に会社を解雇された。会社は即刻社宅から退去せよというが、直ぐ立退かなければならないのか。
 


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(答) 社宅とは、会社が社員に貸す住宅ですが、その使用関係は様々で、その法的な取扱いは、貸す目的の違いや使用料の有無・金額によって違ってくる。

1 会社の業務運営のための社宅で、会社組織の必要な構成部分になっているもの  
  例えば、①住み込みの管理人や警備員用の部屋のように会社施設に付随している社宅(業務社宅)や②支店長・工場長・部長などの地位に相応して与えられる専用の社宅(いわゆる役付社宅)などの場合がこれに当たる。

 このような社宅の使用は、使用料の有無・額に関係なく、会社での職種や地位など労働関係と密接に結びついているため、借地借家法の適用を受ける賃貸借ではないと言われている。従って、社員が解雇・退職・転勤などによってその会社や職場の労働関係から離れる場合には、社宅を使用する権利も同時に無くなることになる。

 しかし、その場合、解雇・退職と同時に明渡すのではなく、下記の2・(1)で述べる最高裁判決に準ずる明渡し猶予期間が与えられるべきである。


2 会社が社員(従業員)の福利厚生のために設けた社宅
  このような社宅が一般的な社宅であり、借地借家法との関係が問題になるのは福利厚生施設としての社宅である。

 学説は無料の社宅は勿論、市場家賃の数分の一程度の低い名目的な使用料で提供されている住宅にも、「有償性」を認め、社宅の使用を社員の労働力に対する労働対価(一種の現物給与)と理解し、社宅の使用関係を賃貸借関係として、借地借家法の適用を肯定している。

 しかし、判例は社宅の使用料が賃料として社会的に認められるかどうかを判断基準(使用料の高低)として、借地借家法の適用の有無を判断している。

 (1)使用料が無料か、有料であったとしても低額で名目的な場合
  例えば、使用料を毎月2万円出しているが、その社宅と同程度の利用価値のある普通の借家の家賃水準が月10万円以上もするような場合は、その使用料は借家を使う対価として支払われる家賃とは考えられず、その使用関係は、社員である期間に限って社宅の使用を認められる特殊な契約関係で賃貸借関係ではないというのが判例( 最高裁判所 昭和29年11月16日判決(民集8巻11号2047頁)、同旨最高裁判所 昭和39年3月10日判決(判例時報369号21頁)、同旨最高裁判所 昭和44年4月15日判決(判例時報558号55頁))である。

 従って、借地借家法の適用はなく、会社に社宅使用規則があれば、それが著しく居住者に不利でない限り使用規則は有効ということになる。

 しかし、最高裁の判例では、明渡期間しについて、国家公務員宿舎法と同様に無料の場合は60日、有料の場合は6か月の明渡しの猶予期間を基準とすべきであるとしている。明渡期間については、この猶予期間が基準になる。

 (2)使用料が普通の借家の家賃水準と同等かそれに近い場合
  この場合の使用料は借家を使う対価として支払われる家賃であり、その使用関係は賃貸借関係で借地借家法の適用があるというのが判例(最高裁判所 昭和31年11月16日判決、民集10巻11号1453頁)である。

 このような場合に「退職と同時に明渡す」というような社宅使用規則があっても、借地借家法の規定に違反して無効である。即ち、 会社は借地借家法に従って、6か月以上前に明渡を申し入れなければならず(同法27条)、また、会社に明渡を求める正当な理由がなければ明渡しは認められない(同法28条)。

 居住者が社宅からの退去を拒否した場合は、その判断を裁判所に委ねることになり、明渡しという裁判の結論が出るまでは退去を強制できない。

 ただ、社員の福利厚生のため社宅という性格上、解雇・退職の場合、会社に明渡を求める正当な理由が認められ易いことは否定できない。

 なお、これまで述べてきたのは、解雇が有効である場合の話しである。解雇が様々な理由から無効である場合は明渡す理由はなく、解雇の無効を争っている間は、社宅を明渡す必要はない。(東京借地借家人新聞より)



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