元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

食事を楽しくする器

2007-08-16 | 万年筆
丹波の立杭で平焼の展示があることを駅で見たポスターで知り、車を2時間走らせて行ってきました。
若い頃の長距離のドライブや、京都からの山越えの帰路でたまたま通り掛かったりしていましたが、立杭に降りるのは初めてでした。
展示が行われている兵庫陶芸美術館は、なかなかの設備を誇る立派な建物で、それも楽しむことができましたが、ポスターに写っていた何とも妖しい光を放つ黄色い蓋付きの器がとても印象に残っていました。
それ以前にも興味を持っていましたが、備前の浅野氏との交流が最大のきっかけとなって焼物の器を真剣に見るようになっていましたので、その大規模な展示をひとつひとつの作品を手にとるように、大切に見ることができました。
しかし、そういったものに興味を示していなかった家族もかなり魅せられていたようだったので、その分かりやすい魅力も平焼のもうひとつの持ち味なのかもしれません。
確かにひとつの技法に捉われず、様々なものにチャレンジしていて、鉄器、漆器、蒔絵、竹細工にそっくりに仕上げたものもあり、非常に自由な発想で江戸時代から近代まで作り続けられていたようでした。
お盆の15日でほとんど観光客もなく、食事をするところがほとんどありませんでした。
ようやく1件の民家に暖簾を下げただけのような家を見つけ値段も分からずに、恐る恐る入りました。
お婆さんが一人で店番をしていて、入っていった私達に驚いたようでしたが、食事をさせていただきました。
その家では器も焼いていて、食器全てが自家製の立杭焼でした。
素材感が手に伝わり、シンプルで何の飾りも、技巧も凝らされていないものでしたが、なかなかの逸品で、素朴な家庭料理のような自然な味付けとお婆さんの気遣いと相まって、私達はとても気持ちよく食事をすることができました。
良い器人の気持ちが食事を楽しくするということを体験し、気分良く他に客のいない家を後にしました。