「…一緒に来てくれないかな…」
電話を切った夫は、身支度を始めました。
「何か変わったこと?」
「酒飲んでギャーギャー言ってるから…」
「アホか!一人で行け」
酒が飲めない夫は、酔っぱらいがキュウリの次に苦手です。
自分が嫌だからといって、私に同行を求めるのはお門違いです。
そういう甘えた人間だから、こういうことになるのです。
ふぅ…と芝居じみた大袈裟なため息をもらす夫に
つい引っかかってしまいました。
「自分の女くらい、ちゃんとしつけなさいな」
「俺もこんなことされるとは思ってなかった」
「…携帯、着信拒否してるんでしょ」
「…」
「…会社の電話も居留守使ってるんでしょ」
「…」
「そりゃ、こっちにかけてくるわ。
ちゃんと最後までつきあわないとダメだよ。
向こうは生活かかってるんだからさ~」
「あんなにしつこいとは思わなかった…」
「いつも最後には言うよね。
女って、みんなしつこいんだよ。
知らないのは、あんただけだよ」
「この間、Kの介が車にはねられたんだ…」
「はあ?」
子供を使って寝入りばなを起こされて一緒に来いと言われ
うっかりムッとしたことを後悔しました。
この男は、いつも唐突にそんなことを言います。
言うべき時にはひた隠しておいて
自分で解決できなくなってしまってから、結局しゃべるのです。
しかもその内容が、意外に面白かったりするから始末が悪い…。
寝不足になってしまうではないか。
「骨折なんだけど
あいつ、看病のために仕事休んでるんだ」
このまま辞めて結婚したいと言われて
どうにも困っている…ということです。
「あら、結婚してあげなさいよ」
「うぅ…それは…」
冷めかけている夫は、その要求が苦痛になり
逃げ回っているというのが真相でした。
「これからガソリンまいて、火ぃ付けて死ぬって言ってる…」
「いいじゃん。死んでもらえば」
そう言う女に限って、死ぬわけがないのです。
死ねるものなら、一回死んでみればいいのです。
線香くらい上げてさしあげます。
夫の恋の仕方は、ヘタでした。
「好き好き」の後は、必ず早々に結婚をほのめかします。
最初は自分がいかにも立派なことを吹聴します。
この町の経済は、自分を中心に回っているというランクの嘘です。
日本の…と言わないだけマシかもしれませんが
少し付き合うと、不審が生まれます。
「会話のキャッチボールも苦手みたいだし
これで経営なんて、出来るのかしら…。
ひょっとして、大ボラ吹き?」
どんなにバカでも、たいていの女性ならそう思います。
そこで女性から核心をついた質問が出るようになると
「結婚」です。
その禁じ手を使うと、女性はひとまず大人しくなるからでした。
「親も喜んでくれている。式は…花嫁衣装は…将来は…」
と言われれば、バカな女はだまされます。
夫は自分の発した言葉が
相手の心の中で反芻され、拡大されていく罪深さに
気付かないまま、嘘に嘘を重ねて行きます。
そのトップバッターが、何を隠そうこの私なのでよくわかるのです。
最初なので、たまたま籍に入ったり子供を生んだりしましたが
順番がちょっとズレていたら
歴代の女性たちと同じことになっていたかもしれません。
自営の家に生まれたので、その厳しさは知っており
経営云々、将来云々に期待を持つことはありませんでしたが
そういうソースの無い環境で育った人は
どこまでも自分に都合の良い、甘い想像をふくらませるでしょう。
別れのもめ方は、ふくらんだ大きさに比例します。
ここしばらくは物質的、肉体的に満たされ
明るい未来に手が届きそうな所まで来たら
急激な男日照り…では、酒でも飲んで火のひとつも
つけたくなることでしょう。
「最初は子供と3人で生きて行くから
会ってもらえるだけでいいとか言ってたのに
急に変わるんだから…」
「あんたがそうなるように仕向けたんでしょうが」
「…」
「早く行きなさいよ。
火事になったら大変よ~ん」
車に居てくれるだけでいいから…としつこく懇願するのを
玄関から押し出すようにして、行かせました。
一緒に焼け死んだらいいのに…
おほほ…
C子、頑張れ、有言実行…
♪燃えろ、いい女~♪
♪燃えろ、C子~♪
懐かしの歌を口ずさみながら、再び布団に潜り込んだ私でした。
電話を切った夫は、身支度を始めました。
「何か変わったこと?」
「酒飲んでギャーギャー言ってるから…」
「アホか!一人で行け」
酒が飲めない夫は、酔っぱらいがキュウリの次に苦手です。
自分が嫌だからといって、私に同行を求めるのはお門違いです。
そういう甘えた人間だから、こういうことになるのです。
ふぅ…と芝居じみた大袈裟なため息をもらす夫に
つい引っかかってしまいました。
「自分の女くらい、ちゃんとしつけなさいな」
「俺もこんなことされるとは思ってなかった」
「…携帯、着信拒否してるんでしょ」
「…」
「…会社の電話も居留守使ってるんでしょ」
「…」
「そりゃ、こっちにかけてくるわ。
ちゃんと最後までつきあわないとダメだよ。
向こうは生活かかってるんだからさ~」
「あんなにしつこいとは思わなかった…」
「いつも最後には言うよね。
女って、みんなしつこいんだよ。
知らないのは、あんただけだよ」
「この間、Kの介が車にはねられたんだ…」
「はあ?」
子供を使って寝入りばなを起こされて一緒に来いと言われ
うっかりムッとしたことを後悔しました。
この男は、いつも唐突にそんなことを言います。
言うべき時にはひた隠しておいて
自分で解決できなくなってしまってから、結局しゃべるのです。
しかもその内容が、意外に面白かったりするから始末が悪い…。
寝不足になってしまうではないか。
「骨折なんだけど
あいつ、看病のために仕事休んでるんだ」
このまま辞めて結婚したいと言われて
どうにも困っている…ということです。
「あら、結婚してあげなさいよ」
「うぅ…それは…」
冷めかけている夫は、その要求が苦痛になり
逃げ回っているというのが真相でした。
「これからガソリンまいて、火ぃ付けて死ぬって言ってる…」
「いいじゃん。死んでもらえば」
そう言う女に限って、死ぬわけがないのです。
死ねるものなら、一回死んでみればいいのです。
線香くらい上げてさしあげます。
夫の恋の仕方は、ヘタでした。
「好き好き」の後は、必ず早々に結婚をほのめかします。
最初は自分がいかにも立派なことを吹聴します。
この町の経済は、自分を中心に回っているというランクの嘘です。
日本の…と言わないだけマシかもしれませんが
少し付き合うと、不審が生まれます。
「会話のキャッチボールも苦手みたいだし
これで経営なんて、出来るのかしら…。
ひょっとして、大ボラ吹き?」
どんなにバカでも、たいていの女性ならそう思います。
そこで女性から核心をついた質問が出るようになると
「結婚」です。
その禁じ手を使うと、女性はひとまず大人しくなるからでした。
「親も喜んでくれている。式は…花嫁衣装は…将来は…」
と言われれば、バカな女はだまされます。
夫は自分の発した言葉が
相手の心の中で反芻され、拡大されていく罪深さに
気付かないまま、嘘に嘘を重ねて行きます。
そのトップバッターが、何を隠そうこの私なのでよくわかるのです。
最初なので、たまたま籍に入ったり子供を生んだりしましたが
順番がちょっとズレていたら
歴代の女性たちと同じことになっていたかもしれません。
自営の家に生まれたので、その厳しさは知っており
経営云々、将来云々に期待を持つことはありませんでしたが
そういうソースの無い環境で育った人は
どこまでも自分に都合の良い、甘い想像をふくらませるでしょう。
別れのもめ方は、ふくらんだ大きさに比例します。
ここしばらくは物質的、肉体的に満たされ
明るい未来に手が届きそうな所まで来たら
急激な男日照り…では、酒でも飲んで火のひとつも
つけたくなることでしょう。
「最初は子供と3人で生きて行くから
会ってもらえるだけでいいとか言ってたのに
急に変わるんだから…」
「あんたがそうなるように仕向けたんでしょうが」
「…」
「早く行きなさいよ。
火事になったら大変よ~ん」
車に居てくれるだけでいいから…としつこく懇願するのを
玄関から押し出すようにして、行かせました。
一緒に焼け死んだらいいのに…
おほほ…
C子、頑張れ、有言実行…
♪燃えろ、いい女~♪
♪燃えろ、C子~♪
懐かしの歌を口ずさみながら、再び布団に潜り込んだ私でした。