殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

まさかさま・お姑様篇

2016年10月26日 10時54分08秒 | みりこん童話のやかた
森のお屋敷に嫁がれて

心のご病気になられたまさか様。

療養生活が長引いてきますと

「本当にご病気なのか?」

と不審の目を向ける村人が増えてきました。

しもじもの立場から眺めて

明らかにかったるそうなことは病欠され

明らかに楽しそうなことには

率先してお出ましになるからです。


「少しは休み方が上達しそうなもんだが

こうもあからさまでは‥」

村人たちは渋い顔でささやき合いながら

まさか様のお舅様とお姑様である

お屋敷の当主ご夫妻を案じるのでした。

「跡取りの嫁がこれでは、さぞかしご心痛だろう」


そして10数年が経った頃

当主ご夫妻を案じ続けた村人たちの心には

こんな疑問が生まれていました。

「嫁にご指導はなさらないのだろうか?」

当主様はともかく、お姑様のマチコ様には

まさか様を教え導くお役目があるのではないかと

村人たちは思ったからです。


とはいえ、それがいかに空虚な発言であるかは

彼らにもよくわかっていました。

息子が惚れて、迎えた嫁が今ひとつ‥

これを体感する者は、村にも数多くいたからです。


可愛がろうと思えば実家へ逃げる。

孫には滅多に会わせない。

婚家の行事は仮病でサボり、実家の行事は飛んで行く。

優しくすればつけあがり

厳しくするとふくれあがって、可愛い息子が当たられる。

げに嫁というのは

この世で一番扱いにくい生き物なのです。


マチコ様もまた

嫁の扱いに戸惑う姑の一人だということは

しもじもにもわかっていました。

まさか様と同じく

民間から高貴なお屋敷に嫁がれたマチコ様も

お若い頃は、窮屈なお屋敷の慣習に苦しまれ

時折お倒れになったり、ご病気になられて

療養されたご経験がおありですから

まさか様に「ちゃんとしなさい」と

言いにくいであろうことは、庶民にも想像できます。


マチコ様の場合、強い味方がありました。

マッチーブームです。

若く美しいマチコ様は、ご婚約当時から大人気。

ご結婚後、早々とご長男をご出産された頃には

押しも押されぬ大スターで

村人はマチコ様の一挙手一投足に熱狂しました。


スターのマチコ様を敵に回すと、村人が黙っていません。

この際、どちらが正しいか否かは無関係。

マチコ様がお悲しみになったら

悲しませた方が悪いことになり

「嫁いびり」と騒がれます。


この現象によって、村へ嫁いだお嫁さんたちは

ずいぶん楽になりました。

マチコ様が倒れられたり、ご病気になられると

すぐさま犯人探しが行われ

周りが悪者として非難されるさまを

村人たちは何度も目の当たりにしたからです。


嫁いびりをしていると思われたら

何を言われるかわからないので

嫁に対する村人たちの意識は変わりました。

他人の目が光っているという認識が

広く浸透したからです。

嫁の地位を向上させたのは

マチコ様の大きな功績といえましょう。


その功績の代償として、お屋敷は

人気に左右される存在へと変化していきました。

ひとたび味わった興奮を手放したくない村人たちは

お屋敷にアイドルを求めるようになったのです。


マチコ様がお年を召すにつれて

マッチーブームは静かに去り

次のアイドルはまさか様のはずでした。

これがパッとしないとなると

お姑様として心配なのは当然です。


軌道修正したいのは山々ですが

一応はご病気と聞いていますから

へたに干渉して悪化すると大変です。

まさか様の激しい性質もご存知ですから

機嫌をそこねて暴露本でも出されたらおおごとです。

手をこまねき、お心を痛めつつ

ひたすらまさか様のご回復を待つしかないのが

現状でした。


マチコ様にマッチーブームという味方があったように

まさか様にも強い味方がありました。

ご実家のご両親です。

自らを「準お屋敷族」と名乗って何かと口を出し

自分たちの孫であるサイコ様を当主にしたがり

うっかりするとお屋敷を乗っ取られそうな勢いです。

まさか様のご両親の、まさかの行状は

上品なお屋敷の方々にとって脅威でした。


家を守るという大意のためには

多くの現実を黙認するしかない時もあるものです。

それを甘やかしと言われようとも

夫妻が衰えて静かになるか

まさか様が人として成長されるか

その時をひたすら待つしかないマチコ様でした。


マチコ様は、ある機会にこう話されました。

「屋敷に関する重大な決断が行なわれる場合

これに関わるのは当主の継承に連なる方々で

その配偶者や親族が関わってはならないとの思いを

ずっと持ち続けておりましたので‥」


解釈の仕方によっては、お屋敷の重大事に

配偶者と親族が関わろうとする状況が

ずっと続いているということであり

まさか様のご両親に対する牽制と

受け止めることもできるご発言でしたが

いつもながらにオブラート二枚重ねの

遠回しな表現でしたし

マチコ様には、嫁を甘やかす姑のイメージが

すっかり定着していたので

取り立てて話題になることはありませんでした。


どっとはらい。



この物語はフィクションであり

実在する団体や人物とは一切関係ありません。
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まさかさま・海外篇

2016年10月17日 11時08分02秒 | みりこん童話のやかた
高貴な方々の住まわれる

森のお屋敷に嫁がれたまさか様。

心のご病気になられて、長い年月が経ちましたが

ご回復の兆しはありません。


「海外が好き」「海外へ行きたい」

まさか様はご結婚当初から、要望を述べておられました。

そして、それが叶えられないので

ご病気になられたと言われておりました。

「海外へなかなか行けないことに適応するのが難しい」

病名は、まさか様がおっしゃった

このご発言によって決まりました。


「そんなに海外がお好きなら

もっと頻繁に行かせてさしあげたらどうだ」

「海外旅行より男のお子様を生む方が先なんて

封建的過ぎる」

最初の頃、村人たちは憤慨し、まさか様に同情したものです。


しかし年月が経つにつれ

「なぜ海外へ行かせてさしあげられないか」

その理由が、何となくわかる村人が出てきました。

まず、ファッションに敏感でおしゃれな者です。

お屋敷の女性たちのファッションを楽しみに眺めるうち

お身内やお客様と同じ色のお洋服をお召しになり

ご満悦のまさか様に気づいて

強い違和感をおぼえるようになりました。


次は、上流階級のマナーに詳しい者が気づきました。

衣装かぶりは、仲良しごっこや

お茶目ないたずらでは片付けられないからです。


上流階級は身分がすべて。

たとえば真珠のネックレス一つをとっても

上の身分の方より大粒のものは付けられません。

上の方より豪華では失礼になるからであり

張り合うのは下賤のすることだからです。

お屋敷の女性たちは細心の注意を払い

厳格な身分の序列を守っているのです。


この環境で衣装ブッキングした場合、自動的に

位の低い方が礼を欠いたことになりますから

本来は位が高い方ほど気を遣うのがマナーです。

まさか様は跡取りの妻ですから

お屋敷の女性の中での身分は

お姑様の次に位置するナンバー2。

まさか様の行いは、身分を利用した意地悪としか

受け取りようがなく、マナーに詳しい者は

頭をひねるようになりました。


おしゃれとマナーは上流階級の必須アイテム。

これに問題があるとしたら

「一時が万事のザンネンさん」で間違いありません。

この決定に例外が無いことは

おしゃれとマナーの世界を知る者にとって常識です。


彼ら、彼女らは、それぞれに思いました。

「ひょっとして、海外へ行かせないのではなく

ザンネンを受け入れてくれる国が無いのではないか」


そう考える頃には、まさか様は海外で

食欲妻と揶揄されるようになっていました。

とてもよくお召し上がりになるからだそうです。

のどかな村にも外国語のわかる人が増え

庶民でも海外の話を訳せるように

なってきたのでした。

都合の悪いことは村人に隠蔽されますが

遠く離れた海外で、有色の外国人に向けられる目は

冷静で厳しいものなのです。


奥様がナンであっても

ご主人であるご長男がまともであれば

どうにか格好がつきますが、これがまたナンでした。

ご長男は元々、あまり見栄えのしない方ですが

それでも独身の頃は、気品や威厳のようなものが

備わっておられました。

しかしご結婚なさって以降は、恐妻家ひとすじ。


ご長男がナンであることは

海外にもすでに知れ渡っています。

ちょこまかと動き回られるお姿から

小エビと揶揄され、ご評判はかんばしくありません。

端正や優美といった視覚的長所を

持ち合わせておられないご長男は

その点、不利でした。


加えてご長男には、どこへ行かれても

ご趣味のカメラを手離さない困った癖がありました。

降ってもカメラ、照ってもカメラ。


ヨーロッパのある国では

王妃様のお顔をさえぎって、お手を伸ばし

無心に風景を撮影されました。

これは大変無礼な行為で、世が世であり

それを行なったのが庶民であるならば

打ち首になっても文句は言えないお振る舞いでした。


その国の民衆からは非難の声があがりましたが

森のお屋敷は海外においても格が高いため

直接クレームがつくことはありません。

また、真に高貴な方々は口が堅く慈悲深いので

失礼があっても怒ったり笑い者にはせず

温かく見守られます。

そのため、修正の可能性も無いのでした。


ご夫妻がいくら海外へお出かけになりたくても

行けば恥をかきますから

お屋敷の関係者は、出すに出せません。

その上、まさか様の衣装かぶりの問題があります。

まさか様はなぜか

ご自分の行きたい国の要人をターゲットになさるため

嫌われてお招きが無くなるからです。

残っているのは、まさか様が行きたくない国しか

ありません。


出すに出せないお屋敷。

行きたくても行く国が無いご夫妻。

これもマッチングと呼ぶのでしょうか。

どっとはらい。



この物語はフィクションであり

実在する団体や人物とは一切関係ありません。
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偶然

2016年10月09日 15時34分13秒 | みりこんぐらし
前回「宇宙人のその後」の記事を書こうと

病院の厨房に勤めていた頃を思い出していたら

厨房時代に度重なった、人間関係の偶然も思い出した。


調理師免許欲しさと、高齢になった両親の

近くに居たいという里心で

実家からわずか20メートルの場所にある

公立病院の厨房に就職したのは41才の時。

偶然は、就職した時から始まる。


幼稚園から中学まで同級生だった

けいちゃんが働いていた。

高校が違い、それきり会うことがなかったので

中学卒業以来、26年ぶりの再会だ。


離婚して大阪から実家へ帰っていることも

病院で働いていることも全く知らなくて

この偶然に驚いた。

けいちゃんは離婚して日が浅かったためか

懐かしがる私と裏腹に、迷惑そうで

「ひっそり働きたかったのに

なんであんたが来るのよ」と言いたげだった。


1年ほどして、C子という地元の女性が入った。

彼女は偶然、けいちゃんと同じ高校の同じクラスだった。

けいちゃんは電車を乗り継いで通う

遠い町の高校へ行ったが、C子はその高校が地元で

結婚してこの町に来たのだった。

懐かしさに驚くC子を横目に

けいちゃんはやはり迷惑そうだった。


よってC子と私は同い年ということになるが

C子とは、2人いる子供の年齢も同じだった。

6才離れた男兄弟2人という構成である。

さらにC子と私の子供たちは、兄弟それぞれが

違う町にある別々の高校へ行ったが、その高校も同じ。

つまり子供同士は同級生だった。


けいちゃんの実の姉は

結婚前、同じ病院で管理栄養士をしていた。

お姉さんが働いていたので

親しみがあって就職したのかと思ったら

そうではないと言う。

「大阪から帰って調理師の仕事を探したら

募集がここしかなかった」

ということで、全くの偶然らしい。


偶然はさらにある。

けいちゃんのお母さんと、今の管理栄養士は

同じ名前だ。

後に入ってきた栄養士と

管理栄養士をしていたけいちゃんの姉も

偶然、同じ名前だった。


私より少し早く厨房に入った先輩で

一回り年上のエミさんは

ママさんバレーで顔見知りだったが

彼女の兄は義父アツシのゴルフ仲間であり

公務員をしていた兄嫁は、私の母と同僚で

仲のいい友人だったことを何年も後になって知った。


数年後、エミさんが病気で退職し

代わりに入ってきたのが5才年上のD子。

これも偶然だが、彼女の夫は以前

義父アツシの会社に勤めていた。

アツシの会社に入るまでは

どこか大手で労働組合の運動をしていたらしく

何度か家に来て、労働条件や雇用体制について

アツシに改善を求めていた。


妻のD子はそんなことを知らない様子なので

私も触れなかったが

大手から零細に流れた自己責任は問わず

ひたすら願望だけを主張するご主人同様

D子も愚痴の多い女性だった。



狭い田舎で、中高年の女が就職できる職場は少ない。

たどってみれば、それぞれに何らかの繋がりが

存在するのは不思議ではないが

ちょっとばかり多いような気もする。

しかし私にとって最大の偶然は

ある人物に関する事柄であった。


折に触れ、先輩たちが口を揃えて悪口を言う

一人の退職者がいた。

当時40代後半だったその女性は

明るくて可愛らしい人だったそうだが

何年経ってもドジでそそっかしいため

しょっちゅうひどい失敗をしていたという。


失敗は仕方ないが、問題は逃げ足の速さ。

うっかりしていると、いつの間にかギャラリーになっており

「大変でしたねぇ」と、同情する側へ

回っているのだという。

それを悪気でなく、善良風味の天然でやってしまうのが

女たちの神経を逆なでしていたようだ。


やがて病院の経営方針が変わり

給料が減ってボーナスが無くなると決まった。

「いつまでもここで働きたい」

が口癖だった彼女は、すぐさま別の病院に転職した。

その変わり身の早さから、裏切り者と呼ばれていた。


決して悪い人じゃないけど、なぜか腹の立つ女として

厨房で語り継がれる伝説の女性

「山下さん(仮名)」。

私は、彼女の代わりに入ったそうだ。


それが義母ヨシコの従姉妹の娘

「ミワちゃん」だったと知るのは

ずっと後のことである。

たまにうちへ来るので、顔は知っているが

苗字の方は知らなかった。

なかなかの衝撃だった。



《追伸》

さっき友達からメールがあったんですが

今月は土曜、日曜、月曜が5回あるそうです。

あるそうもなにも、カレンダー見りゃわかるんだけど。


これは823年に一度の珍しいことで

「金の袋」と呼ばれているんだそうな。

で、このことを5人か5グループに伝えると

4日後、つまり13日には

お金が舞い込んでくるんですって。

不幸の手紙の幸せ版?

カレンダー的に珍しいのは確かなので

お知らせしてみました。

皆様に幸せが舞い込みますように!
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宇宙人のその後

2016年10月05日 22時36分52秒 | みりこんぐらし
同級生であり、病院の厨房で同僚だった

けいちゃんは、7月に甲状腺癌の疑いが発覚した。

今も厨房で働く彼女が

入院手術のための休暇を願い出た際

厨房のドンである管理栄養士のA子と

部下の栄養士B子は、冷酷にも

「本当に必要な手術?」などと言った。


それを聞いた私は

「あいつらは宇宙人なのだ」

と言った。

「宇宙人だから、地球のバチは当たらない」

とも言った。

(2016年7月20日・宇宙人の秘密)


そして9月、けいちゃんは無事に手術を終えて退院した。

摘出した腫瘍は良性、術後の経過も順調。

そこで先日、元同僚のエミさんと私とで

彼女の全快祝いを催した。

その席上で、けいちゃんから衝撃の発表が。


退院後の自宅療養中、A子から電話があったという。

経過を心配してのことではない。

「話があるから、家に行ってもいい?」

という連絡だった。

さすが宇宙人である。


話があると言われ、親しく行き来する仲でもないのに

家に来ると言われ、当惑したけいちゃんはたずねた。

「いい話?悪い話?」

A子は答えた。

「両方」

そして電話は切られた。


病気を理由に肩叩きが行われると思ったけいちゃんは

首を洗ってA子の訪問を待った。

しかし、訪れたA子の話は全く違う内容だった。

「私、結婚することになったんよ」


けいちゃんが入院している間に、A子は44才にして

結婚が決まったというではないか。

出会いから2週間足らずのスピード婚で

結婚しても仕事は続けるそうだ。

バチどころか、幸せが訪れおった。


けいちゃんはポカンとした後、かろうじて言った。

「お、おめでとう‥それが、いい話?」

「うん」

「どうやって知り合ったん?」

「B子さんの紹介。

でもね‥悪い話の方は、これ」


私がまだ厨房で働いていた10年余り前

病院の拡張に伴う募集で入ったのがB子。

今もそうだが、当時38才の彼女は

横着で横柄な女だった。


A子とB子はウマが合ったのか、すぐに親しくなった。

じきにA子が、B子の亭主と子供たちを

呼び捨てにするようになったので

A子を家族総出でご接待している様子も想像できた。


B子は、そのご接待の一環として

男の紹介も熱心に行った。

B子の亭主は都市部の大手企業に勤めており

田舎ではエリートの部類。

あくまで田舎の基準だが、B子は

ハイクラスの奥様を演じるのが実にうまく

前々からエリートとの結婚を望んでいたA子は

B子の優雅な生活に憧れた。


そこでB子は自分の亭主に同僚の男を紹介させ

見合いを取り持つようになった。

結果はことごとく不発に終わったが

その頃にはA子と厨房は、B子の思うがままに

操られていた。


やがてB子はA子の推薦で、パートから非常勤に昇進し

公務員に準ずる月給とボーナスをゲット。

A子の縁談は身を結ばなかったが

B子の営業の方は結実したのだった。


話は戻って、このたびめでたく

結婚が決まったA子の相手は

B子の亭主のイトコで、バツイチの45才。

A子が年を取ったため、ついに紹介する相手がいなくなり

身内をあてがったらしい。


2人はすぐに意気投合し、結婚を決めた。

これでA子とB子は大親友から親戚に進化し

ますます仲良しこよしになるはずだった。

しかしA子とイトコから結婚の報告を受けた

B子夫婦は大反対。


「なんで反対されるのか、わからない。

紹介しておいて勝手だと思わない?」

同意を求められ、言葉に詰まるけいちゃん。

「その理由は、あなたが一番よく知っているのでは‥」

というやつだ。

B子が反対するのは、A子が今も

妻子ある美容師との不倫を続けているからである。

(2011年9月9日・月光仮面の謎)


B子は早い時期から、A子の不倫を知っていた。

日々、A子のおのろけを聞くのも

B子の重要な仕事だったことは

時折聞こえてくる2人の会話で丸わかりだった。


他人なら許せても、親戚へ嫁に来るとなると話は別。

どうせ今度も不発と思い込んで紹介した

B子夫婦はさぞや慌てたと思う。


20代から次々と不倫相手を変え

今の相手とは13年。

婚期を逃して中年になった、いわく付きの女だと

誰よりも知ってながら

みすみすイトコに添わせたい者は、あんまりいない。

だがA子本人は心当たりがない様子で

日頃いじめていたけいちゃんに

味方欲しさで擦り寄ったのだった。


「ヒトシ(男の名前)は

あなたを幸せにできる男じゃない」

B子は、A子にあきらめるよう説得し

「交際の報告もしないで、いきなり結婚とは何事だ」

B子の亭主はイトコにゴネた。


しかしご存知のように

男女の仲というのは障害があると燃えるもの。

夫婦が騒げば騒ぐほど、結婚の決意は強まった。

そこで夫婦は亭主の母親と、男の母親を味方に付け

反対運動は激化した。


そして先週、B子は最後の手段に出た。

「結婚をやめないなら、私が仕事を辞める」

A子は答えた。

「結婚はやめない」

B子は後に引けなくなって退職願いを出した。

しかし12月のボーナスまでは来るという。

10年余りに渡る仲良しごっこは

こうして終わった。


今、2人は口をきかないので仕事がはかどり

厨房はスムーズに回っているそうだ。

2人で組んで、けいちゃんに

意地悪を言うことも無くなったため

彼女の病後も安全。

楽しい全快祝いだった。
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