殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

手抜き料理・鍋とパン

2021年10月29日 13時35分31秒 | 手抜き料理
秋が来た!

冬が来る!

ランララ〜ン♩


何で喜んでいるかというと、鍋の季節だから。

鍋…それは〜主婦の〜♩ 鍋…それは〜味方〜♩

宝塚、『ベルサイユの薔薇』に出てくる歌のフシでお願いします。

そんな手抜きの王者、鍋物。

ダシから具材まで凝ったらキリがないけど

こだわらなければ、これほど楽な献立は無い。


ただし三世代が同居する我が家の場合、鍋なら何でもいいわけではない。

昆布ダシにフグなどの白身魚を主役にする…

つまり透明なダシで具材を煮てポン酢とモミジおろしで食べるちり鍋や

しゃぶしゃぶなどの“淡水系”は姑の好物だが、夫と二人の息子には不評。

男どもに別の料理をあてがう必要が出てくるため、ちっとも手抜きにならない。


鍋物に限らず、少し前までは、姑と男どもにそれぞれ別誂えの料理を出していた。

しかし私も寄る年波には勝てず、85才の姑と3人の働くオッさんが

同じ物で歩み寄れる献立を考えるようになった。

その折衷案が、ヒガシマル・ラーメンスープの素で作る鍋。


私がヒガシマル・ラーメンスープの素を多用しているのは

過去に何度かお話しさせていただいた。

中華のダシは色々と試してきたが、中華系の料理やスープには

今のところヒガシマル・ラーメンスープが

一番簡単で美味しく仕上がると思っている。

この粉末スープの素を鍋のダシに使うのだ。


『テキトー鍋』

一般的な土鍋、あるいは電気で温める鍋に水を張り

スープの素を2袋、鍋の大きさによっては3袋、好みの濃さで溶く。

沸騰したら好みの具材…白ネギ、キャベツ、キノコ、豚肉なんかをテキトーに入れてグツグツ。

以上。


野菜や肉の旨みが味をグレードアップさせるので

誰もスープの素を使ったなんて気がつかん。

具材もダシも、奪い合うようにして腹におさめる。


ベースが中華系なのでニラ、モヤシ、チンゲン菜、人参も合うし

もちろん鶏肉やエビ、肉団子も合う。

煮ているうちに具材のダシが出て、スープが無国籍となるため

餅や葛きり、豆腐や油揚げなどの和風食材も違和感無し。

黒胡椒や粉チーズともよく合い

ダシが余ればシメとやらの中華麺、うどん、雑炊も旨い。

具材を変えると、作らない人の頭の中では別の鍋ということになるので

鍋の種類は組み合わせ次第で無限大に広がる。


給料日前であれば、キャベツと少しの豚肉、あるいは鶏肉

どっちの肉も無ければウインナーでも十分美味しい。

肉っ気すら無い時は、スープの素に肉系のダシの香りが入っているので

野菜だけでも大丈夫。


野菜は白菜でもいいが、水分が多くなるので

スープの素は濃いめにしておく方がいい。

モヤシもしかり。


昨今は多種多様な味の鍋ダシが、レトルトパックで店頭に並ぶ。

少人数の家族なら、それを一つずつ買って色々な味を楽しめばよかろうが

うちのように大人数かつ大食漢揃いでは、2パックか3パックは必要。

いわば鍋ダシを調達するお金で、いくばくかの肉が買える。

ラーメンスープの素で上等じゃ。


このテキトー鍋と他の鍋とを交代制にすれば、ひと冬が難なく過ごせる。

使用するスープの素は、使いそびれたインスタントラーメンのスープや

生麺に添付されている液状スープでもいい。



ついでにあと一つ、鍋ではないけど料理でもない

私の強い味方をご紹介しておこう。

『チーズパン』

食パンの上に四角い溶けるチーズを乗せ、マヨネーズをテキトーに絞って

オーブントースターでこんがり焼く。

以上。


以前はやってましたよ、ピザトースト。

スライスした玉ねぎ、ピーマン、ベーコンなんか乗せてさ、ピザソースなんてかけてさ。

ところがある時から、玉ねぎの匂いが鼻につくようになった。

年かしら。

ほら、パンが焼けてチーズが溶けるタイミングと

玉ねぎの焼けるタイミングは必ずしも一致しないじゃん。

玉ねぎが生っぽいと、自己主張がすごいのよね。

で、そんなにとんがるつもりなら、あんたはもういいわ…

ということで、玉ねぎは解雇。


やがて食パンだけがたくさんあって、ピーマンもベーコンも無い日が訪れた。

でもサンドイッチを作る気分じゃない。

そこでチーズだけ乗せて、マヨネーズをクルッとひと回しして焼いてみたら

ピザトーストよりずっと美味しかった。

チーズの持つミルクの香りが引き立って

焼けたマヨネーズは酸味が消え、大人しくなって食べやすい。

家族も皆これが大好きになり、おやつとして

またはサラダやスープと一緒に軽食として食べている。


あまりに簡単なので、より美味しくするにはどうしたらいいかを

これでも一応は考えた。

食パンの両面をまず焼いてから、チーズを乗せて再び焼くというもの。

でも、これはあかんかった。

食パンが硬くなって、チーズのミルク感が失われる。

やっぱり簡単な物は、簡単でいいみたい。



ところで話は変わるが、私の住む界隈では新しい宗教が流行の兆しを見せている。

つい先日、近所に住む一人暮らしのおばさんが電話をかけてきて

「知らない人が来てボランティアだというから、紙に署名してしまった」

と不安がった。

「もしうちに来たら、何の署名か確かめてみる」

私はそう約束した。


はたして翌日、自称ボランティアはうちへ来た。

見てすぐに、この人たちのことだとわかった。

私と同年代の3人連れのおばさんだ。

自分もおばさんだけど、知らない家を訪問して署名を欲しがるのであれば

もうちょっと痩せて身綺麗にすりゃいいのに、というレベル。


3人連れの一人が賞状未満、終了証以上といった風情の

金色の縁取りが入ったB5ぐらいの用紙を差し出して言った。

「コロナで家族の絆が薄れてきて、自殺、孤独死、虐待などが増えています。

私たちは家族の大切さをもう一度見直すために勉強していて

周りの人たちにもボランティアとして声かけをしています。

この誓約書をお読みいただいて、ご賛同いただけたら署名をお願いします」


紙には、誓いの言葉が8項目ぐらい印刷してある。

パッと見ただけなので全部は覚えてないが

家族を愛します、不倫をしません、虐待をしません…などなど。

誓えないわ、特にうちは2番目に心当たりが多いし。

不倫に毒された家庭の主婦であるワタクシが

そんな高尚なことに関わっては申し訳ないですわよ。


誓いの言葉の下に住所、氏名、電話番号を書くようになっていて

一番下にある団体名は、世界統一家族連合…だったと思う。

うろ覚えですまん。

小汚いおばさんと長く話す気が起きず、からかう気にもなれず

「うちはけっこうです」

と言ってお引き取りいただいた。


署名したら団体の趣旨に賛同したことになり

手紙や電話で勉強会に誘われて、最終目的は寄付だ。

ボランティアのふりをしたら、うっかり署名する人もいるだろう。

近所のおばさんには、手紙や電話がきても無視せぇ、とでも言っておこう。

というわけで、気をつけていただきたい。
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沈黙の美徳

2021年10月27日 10時47分04秒 | みりこんぐらし
前回の記事『奇襲』のコメント欄で、しおやさんとお話しした。

彼女の80代のお母様とお姑さんもしゃべり過ぎなんだそうで

それを“80乙女”と優しくおっしゃる。

同じ状況を“魔の80代”と呼ぶ、私の冷酷なことよ。


そしてご自身は50代になられて

相手が何を考えているか読んで最小限の言葉でやり過ごすのが

一番安全と気づかれたそうだ。

私も激しく同意。

とはいえ、しおやさんのように自ら気がついたわけではない。

身内やご近所といった80代の高齢者に囲まれて暮らすうち

ようやく沈黙の大切さを学んだ。

あの人たちのおしゃべりを聞いていて、何やらメカニズムめいたものを体感し

年を取って人に迷惑をかけるのは、なにもシモの世話ばかりではないと知ったからだ。


そのメカニズムの第一は、加齢による理性の欠如。

第二は、しゃべらないことで陥りやすい鬱状態を回避するための自衛本能。

長くて面白くない話は、これら脳の作用によるものではないかと思う。

この基本作用に暇が加算されたら、もう手がつけられない。

理性が薄らいでいるので、相手の都合を考えることなく

誰かれ構わずつかまえては鬱回避の自衛本能を全開させる。


それだけなら、まだマシなほう。

さらに加齢が進むと、自分の歩んできた人生を周囲に知らしめたい欲求の強まる人が出てくる。

80代って、人生の総決算をしたくなるお年頃なのかもしれないが

なにしろ長い人生なので、話もより長くなる。

そして多くの場合、その内容は独りよがりである。

理性が希薄になって客観視が難しくなるため

自分から見た一方的な見解しか話さないので、あんまり面白くない。


話が長いから避けられて孤独になり、孤独だから話が長くなる悪循環。

やがて自分もああなると、覚悟はしている。

できればその前にお迎えが来て欲しいところだ。

しかしそうなる前に沈黙の美徳を身につけ

来たるべき魔の年代に備えたいと願う今日この頃である。


で、このおしゃべりのメカニズム。

女性特有のものではなく、男性にも見受けられる。

近所に80代半ばの爺さんがいて、時々入院する時以外は週2のペースで来る。

話が長いのは前からだが、近頃は言葉が出にくくなって

う〜…え〜と〜…なに〜…あの〜…ばっかりだ。

話そのものより、次の言葉を思い出すまで一時停止する時間の方が何倍も長い。

辛抱強く待ったところで、聞き飽きた昔自慢と家族自慢のリピートなのが残念なところよ。


また、義母ヨシコが昔やっていた社交ダンスの仲間、85才の平井氏もあなどれない。

去年、寝たきりだった奥さんを見送って以降

週3のペースで門の前にチャリを乗り付けて長話をするようになった。

ヨシコは一つ年下の彼を憎からず思う一方、ダラダラと長い話にはウンザリしている。

だからあんまり長い時は、ヨシコに電話がかかったふりをして強制終了させるのだ。


どちらの御仁も、暑かろうと寒かろうとおかまいなし。

もはや暴力に等しい。

90代になったら体力が衰えてペースが落ちるのではないかと、淡い期待を持っている。



ところで話は飛ぶようだが、義母ヨシコに腹違いの妹がいることは、過去に何度かお話しした。

その人、ミエちゃんは71才。

この姉妹は別々に育ったこともあって

親しい中にも、どことなくよそよそしい屈折した関係だ。


そのミエちゃん、おととし旦那が病死して以来

週に一、二回のペースでうちへ来るようになり、ヨシコも歓迎している。

お互い伴侶に先立たれて、姉妹の共感が強まったのだろう。


一人になると食事を作らなくて済むよう立ち回る人がいるもので、彼女もそのタイプ。

昼どき、あるいは夕方を狙って訪れる確信犯だ。

うちは毎食、大量に作るので構わないが

この人は昔から、何かと我が家を揉ませるのが好き。

私の発言を両親にねじ曲げて伝えられては、よく怒られたものだ。

美人で物言いが柔らかいので、人は油断するが、そういうシンネリしたところがある。


その性分は現在も継続中。

あえて飯どきにやって来ながら

「みりこんちゃんに迷惑かけるから、来にくいわぁ…」

「みりこんちゃんは、こすずちゃんにも私と同じようにしてあげてるのかしらん?」

などと、さりげなくヨシコを刺激するのが非常にうまい。

ダイレクトに言うよりも、このように遠回しな方が人の心は波立つものだ。

ミエちゃんが帰った後のヨシコはいつも様子がおかしくなり

ツンケンしたり、引っかかったりするので面倒くさい。


これが私のよく言う、血の作用。

お互いに甘えが出たり、強気になって結束したりで

無意識に血の繋がらない者を敵と想定してしまう本能である。

夫の姉カンジワ・ルイーゼの里帰りが開始されて41年

血の作用によって生じる、勝ち目のない戦いを強いられてきたが

ここにきてヨシコの妹まで参戦するようになった。

ああ、呪われし我が半生。

(ここ、笑うところよ)


ともあれ娘をはべらせ、妹まで来るようになって、ヨシコはご機嫌だ。

そんなある日…正確には先週のこと。

買い物から帰った私は玄関で、「ただいま」と言った。

が、ヨシコは電話中で、私が帰ったのに気づいてなかった。


電話の相手はミエちゃん。

この姉妹はしょっちゅう会うようになっただけでなく

頻繁に電話をするようになっていた。

ヨシコは耳が遠くなって話し声が大きいので、台所にいても聞こえる。

「きつい」、「がめつい」、「意地が悪い」なんて言ってる。

「私も我慢してるのよ」、「こすずが来てくれるから耐えられる」とも言ってる。

よく聞いたら、私のことじゃん。

しかも当たっとるし。


血を分けた肉親が相手だと、甘えてつい愚痴が出るものだ。

やんわりとたたみかけ、人の心の底に溜まった本音を引き出すのが

天才的にうまいミエちゃんにかかれば、おぼこいヨシコなんぞひとたまりもない。


やがて電話を切り、台所へ来たヨシコ。

「帰っとったん?!」

私がいるのを知って、ぶったまげていた。

が、こんなことでいちいちドンパチやっていたら同居なんかできないので

お互いに触れない。


そして何ごともなく迎えた翌朝9時半、チャイムが鳴る。

ヨシコのダンス仲間、平井の爺さんだ。

今日はえらく早いではないか。

朝ごはんが終わったヨシコは、ちょうど玄関に立っていた。

姿を見られたので、応対するしかない。


二人は門を挟んで立ち、ずっとしゃべっている。

1時間が経過したが、平井の爺さんはまだしゃべっている。

いつもなら、このあたりで電話がかかったふりをしてヨシコを呼び

強制終了する時間だ。

しかし前日のことがあるので、もう余計なことはしないと決めた。

ヨシコはパジャマのままだけど、知らんもんね。

どこまでしゃべるか、見物しようじゃないの。


…やがて3時間半が経過。

午後1時になって、ヨシコはようやく解放された。

新記録だ。

さすがに疲れた様子だが、長い立ち話に耐久できることが判明。

よく頑張った、ヨシコ。


やがて夕方になった。

ピンポ〜ン…チャイムが鳴る。

また平井の爺さんだ。

この人、やっぱりおかしいんだわ…今日を平井デーと呼ぼう。


1時間後に爺さんは帰り、家に戻ってきたヨシコ。

「また来て何の用事かと思ったら、ミエちゃんの電話番号が知りたかったみたい。

来月の大きなダンスパーティーに誘いたいらしいわ。

家の電話と携帯の番号教えたら、すぐ帰った」


ミエちゃんも社交ダンスをやっていて、平井の爺さんとはダンス仲間。

ヨシコは引退して久しいが、ミエちゃんも爺さんも現役で、二人は顔見知りなのだ。

どうやら爺さん、ミエちゃんにほの字らしい。

わかるよ…細くて綺麗なミエちゃんは、界隈のダンス界で花形。

年配の男性は皆、彼女と踊りたいはずだ。


爺さんがしょっちゅう来ていたのは、ヨシコがお目当てではなかった。

ミエちゃんがヨシコの妹だと知ったからで、それとなく電話番号を知るためだったらしい。

ダンスパーティーが近づいたので、午前中は3時間半ねばったが

聞き出せないままに終わった。

だから日が暮れて、再びトライしたのだ。

いじらしい乙女のようではないか。


今後、平井の爺さんはミエちゃんに電話をしまくるだろう。

おしゃべりがやめられない、止まらない…

かっぱえびせんのような、魔の80代に魅入られたのだ。

電話攻勢は、爺さんが墓に入るまで続くと思う。

辟易したミエちゃんの矛先は、安易に番号を教えたヨシコに向くかもよ。

知〜らんっと。
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奇襲

2021年10月22日 10時32分24秒 | みりこんぐらし
夫はこの数年、町内にある一軒の青果店に入り浸っている。

店が休みの日曜以外は毎日欠かさず夕方に行くのだから、どう見ても入り浸りだろう。

夫はそこで、お手伝いをしているわけではない。

仕事の終わった4時半から店が閉店する6時まで、事務所でおしゃべりをするのだ。


店主は64才の夫より2〜3才年上。

元は銀行員だったので若い頃から夫の両親と親しく、夫とも旧知の仲である。

夫より1〜2才年上の奥さんは、趣味のバドミントンで夫とペアを組んでいる。

夫婦は夫を弟のように可愛がり、夫もまた彼らを兄や姉のように慕う良好な関係だ。


この集合体にいつの頃からか、メンバーが増加した。

一人はKさん。

団体職員を定年退職後、店の近所に再就職した。

老舗のお茶屋の息子で、店主の大学の後輩であり夫の野球部の先輩。

そして彼の奥さんは、私の友人。

次男が幼稚園の時、私がPTA会長で彼女が副会長だった。


二人目は、夫より一つ年下のYさん。

町にある老舗菓子店の店主。

店の顧客であり、夫の中学の後輩だ。


三人目はギリギリ50代のCさん。

元は仕出し屋の息子で、親の借金のために廃業した後は

企業の社員食堂で調理長をしている。

つまり店の顧客。

そして彼の両親と夫の両親は昔から懇意で、彼と夫は柔道の同門だった。


以上の6人組が、事務所で毎日おしゃべりをする仲間である。

どの人も坊ちゃん育ちだからか、この集いが始まって以来

夫は目に見えて品行方正になった。

メンバーの不信を買えば、愛する集いとバドミントンの二つを同時に失うからだ。

良い傾向だと、ありがたく思っている。



ところが今年の春から、6人組はある女性の存在に悩まされ始めた。

その女性は70代後半の後期高齢者、ミコちゃん。

ただし、可愛いのは名前だけ。

縦も横も態度も大きく、いかつい顔に眼鏡とチリチリパーマが乗っかった

鬼瓦のようなおかただ。

人を人とも思わず、地球は自分を中心に回っていると信じて疑わず

その人物が歩いた後は草木も生えない嫌われ者というのが、どこの町にもいると思う。

彼女は紛れもなく、その一人である。


そんなミコちゃんは、娘時代から夫の両親と懇意だった。

たまたま義父アツシの知り合いと結婚して以降は、一家でうちに遊びに来ていたが

私には遊びに来るというより食事や物をねだる厚かましい人たちという印象しかない。

義父母はなぜ、こんなのと付き合うんだろうと疑問に思ったものだが

彼らの一人娘の名は、こすず。

年を取ってからできた娘に、夫の姉カンジワ・ルイーゼと同じ名前をつけていたのだ。

お母さんに似て、ものすごく大きな幼児だった。

こういうことをするから、義父母はミコちゃんを切り離せなかったのだろう。


やがて、家にある座卓をくれ、あげないで義父母と揉めたことをきっかけに

彼らは来なくなった。

義父アツシが台湾で買った黒檀の座卓を欲しがっていた彼らだが

すっかりもらうつもりになって軽トラでやって来たのが、アツシの逆鱗に触れたのだった。


それから30年以上が経過した現在、あのミコちゃんが青果店に来るようになった。

たまたま買い物に来たら、顔見知りの若い衆がいた…

(世間では爺さんでも、ミコちゃんにとっては若い衆なのである)

彼女はその雰囲気が気に入ったらしく

ほぼ毎日、メンバーが集まる時間帯に合わせて訪れるようになったのだ。


来るだけなら害は無い。

しかし事務所にズカズカと入って来て、どっかりと腰をおろし

娘自慢に孫自慢が延々と続く。

6人の悩みが始まった。


夫は、ミコちゃん一家がどのような人物かを昔から知っているので取り合わない。

実は十何年か前、うちの次男がバイクで住宅街を走行中

自宅のガレージから出ようとしたミコちゃんの娘、こすずちゃんの車にはねられたのだ。

あの大きな幼児だったこすずちゃんが、車を運転する年頃になっていたのに驚いた記憶がある。


ごく軽症だったので保険屋との交渉だけで終わり、こすずちゃんからは何のアクションも無かった。

もちろん、ミコちゃん夫婦からもなしのつぶて。

謝罪してもらいたいとは思わないが、まんざら知らぬ仲ではないのだから

大丈夫か?などの様子うかがいがあってもいいのではないか…

アツシはそう言って怒っていたものだ。


夫も当時のことを快く思っていない。

人の子供を轢いておきながら知らん顔のバカ娘が

嬉しげに自慢するほどのタマか、という基本精神は揺るがないので

撤退無視を決め込んでいた。

するとミコちゃんは怒るのだという。

「ヒロシ!あんた、ちゃんと聞きょうる?!」

父親のアツシが死んだ時、弔問すら来なかった女に

知り合いヅラで呼び捨てにされる夫は大いに面白くない。


誰かが別の話題に変えようとしても、ミコちゃんは許さない。

「黙ってうちの話を聞き!」

面白くないので帰ろうとすると

「待て!まだ帰るな!」

事務所の入り口に立って、通せんぼときた。


わずかな買い物で、「買ってやった」と威張られる店主夫婦もうんざりしているが

一応は店のお客なので文句を言うわけにもいかない。

ミコちゃんは運転免許を持たないので、移動はいつもご主人の車だ。

そのご主人はミコちゃんを店の前で降ろすと、必ずどこかへ行ってしまう。

猛女の伴侶なんて、無責任で逃げ足が速いと決まっている。

それっきりなかなか迎えに来ないので、ミコちゃんの独壇場は長いのだった。


やがて、夏が来た。

暑いからか、ミコちゃんが来なくなったので、6人は胸をなでおろした。

だが、それもつかの間、この間から突然、秋が来た。

涼しくなると、ミコちゃんは再び毎日やって来るようになったのである。


メンバーは対処法を話し合った。

彼女の車が見えたら即、おしゃべりを切り上げて逃げるというものだ。

店主夫婦は逃げられないが、自分の店だから仕方がない。

たくさんいるから燃えるのであって、6人のうち4人が消えれば

勢いが違うのではないかという結論に達したのだった。


最初の2〜3回はうまくいき、メンバーは上機嫌。

楽しいおしゃべりタイムは短縮されるが、娘自慢と孫自慢を

壊れたレコードのように繰り返し聞かされるよりマシである。


しかし、敵もさるもの。

店の裏手にご主人の車を止めさせ、裏口からこっそり入るようになった。

敗北だ。


が、4人は負けなかった。

事務所にある机や椅子の配置を変え、裏口の見える場所に座って

見張りながら歓談することに決定。

やはり2〜3回はうまくいった。


しかし、ミコちゃんの方がウワテだった。

今度は店から離れた場所で車から降り、歩いて来るようになった。

日によって表から、あるいは裏から、神出鬼没。

しかも奇襲の時間帯が、どんどん早まっている。

相手は暇な年寄り、夫たちが4時半に行ったら、すでに来て待ち構えていることも増えた。

このところの6人は、お手上げ状態である。


「バカ娘の自慢話ばっかり、聞き苦しい!どうにかならんもんか」

夫は真剣に悩んで私に相談する。

あんたの母親と同じじゃん…と言ってやりたいが、それは彼もわかっているだろうから

優しい!私は言わない。

「死ぬのを待つしかなかろう」

いつもそう答える私である。
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お茶

2021年10月18日 11時15分01秒 | みりこんぐらし
先日、同級生のマミちゃん、モンちゃんと3人で

市内の某所へお茶を飲みに行った。

コーヒーや紅茶ではなく抹茶、つまりお茶席である。


話は一週間前に遡る。

同級生のユリちゃんが、やはり同級生の男子、リッくんと偶然会った。

彼とは小学校が違うので、同窓会の活動で会うことはない。

うちらの生まれた町では、同窓会といったら小学校。

小学校は町内に二つあり、彼はもう一つの小学校の同窓会に入っているのだ。


ユリちゃんが聞いたところによると、リッくんは独身のまま

長らく東京で働いていたが、母親が年を取ったため

数年前に早期退職して実家へ帰り、こちらでアルバイト生活をしているという話だった。


東京時代、茶道に目覚めて師範の免状をもらった彼は

現在、弟子を募集中だそう。

ピーアールのため先月から月に一度、市内某所でお茶席を主催している…

そのお茶席に自分は忙しくて行けないので、あんたらが行ってやれ…

お茶代は600円だ…

というのがユリちゃんからの司令だった。


彼女の魂胆はわかっている。

リッくんを自分とこの寺の行事に引っ張り込もうとしているのだ。

そのための足がかりとして、まず友人を送り込んでリッくんを喜ばせ

恩を売ってフレンドリーになる。

それが手口だ。

我々も、この手口で蜘蛛の糸に引っかかった。

もっとも我々が引っかかったのは、お祭に呼ばれて食事をご馳走になったというもの。

そもそもは、うちらのいやしさが発端の自業自得だ。

反省しているが、時すでに遅し。


ともあれユリちゃんが崇拝する芸術家の兄貴は、食器の収集が趣味の一つ。

良い抹茶茶碗をたくさんコレクションしているのは、聞いていた。

それを使って何かイベントをしたいという話も、本人から聞いたことがある。

そのイベントに鯛茶漬けの屋台を出して

人間国宝が焼いた茶碗に入れて有料で振舞ったら面白い…

なんてことも言っていた。


盛り上がる兄貴とユリちゃん夫婦の横で、ケッ…と思いながら聞いたものだ。

彼らはあえて触れないが、その鯛を釣ってくるのはうちの子で

茶漬けを作るのが私というのは、改めて確認するまでもない決定事項である。

どう考えてもケッ…だろう。


が、茶碗の方も鯛茶漬けを入れられるより、本業である抹茶の方が嬉しいに違いない。

私だって鯛茶漬けを作らされたり、バカ高い茶碗をドキドキしながら洗うよりも

リッくんにお茶を淹れてもらう方が楽じゃんか。

というわけでリッくんに下話でもしておこうと考え、ユリちゃんの司令に従った。


そのリッくんだが、彼がどんな子かを表現するのは難しい。

少年時代の彼は中肉中背、可もなく不可もなく、アクやインパクトも見当たらず

かといって印象が薄いわけでもなく、さりとて濃いわけでもない

サラッとした子だった。

男子も女子も、彼のことだけは一様に「リッくん」と呼んでいて

苗字や名前は忘れ去られていた。

親しみやすい水、というところか。

確か軟式テニス部だったが、それがどうして茶道に目覚めたのかは謎だ。


そういうわけでマミちゃん、モンちゃん、私の3人は

リッくんがお茶席をやっている所へ出かけた。

お茶は、よく知らない。

実家の母が裏千家の免状を持っていて、子供の頃はお手前の真似事をしていたが

すっかり忘却の彼方よ。


会場に付くと、テーブルと椅子が置かれた屋外のテントが

いわゆるお茶席であった。

我々にはリッくんが、すぐにわかった。

着物姿で身振り手振り、二人の先客に向かって説明をしていて

我々が近づいたことにも気づかない様子だ。


3人は、後ろのベンチで順番を待つ。

何十年ぶりに見るリッくんは、ちっとも変わってないような

我々と同じく年取ったような、やっぱりよくわからない。

けれども説明の熱心さはかなりのもので、小うるさいおじん、という感じ。

独身のまま年取ってこだわりが強まったのか

こだわりが強くて独身なのかは不明だが

いずれにしても、うちの息子たちが行く道じゃ…と思いながら眺める。


やがて先客が去ったので、リッくんの前に進み出た。

「あれ?マミちゃん?モンちゃんも?」

私のことはわからなかった。

「みりこんちゃんがわからないって、あんた、モグリ?」

マミちゃんは言ったけど、いいの、慣れてます。

私って、そうなのよ。

長いこと会ってない人は、たいていわからない。

特に男子はそう。

なぜって顔より何より、とにかく細いというイメージが定着してるからよ。

男って、目鼻より全体のシルエットで認識するのよね。

エンピツがバットになってるんだから、わかるわけないのよ。


お茶は沸騰ポットで沸かしたお湯で立てる、カジュアルな形式。

お菓子は上品な柚子味の寒天系。

ゆっくり話ができるよう、遅い時間に行ったので柚子寒天は2人分で終了。

私は自ら望んで、予備の胡桃(くるみ)ゆべしに変更してもらった。

クルミ、好きなのよ。


茶碗は安物だけど、お茶もお菓子も美味しかった。

お代わりちょうだいと言ったら、「もう600円出せ」だとよ。

寿命の話になって、「私、120才ぐらいまで生きるかも」と言ったら

「よせ、人に迷惑がかかるぞ」だとよ。

そういえば中高生の頃、リッくんとはこんな風に話していたっけ。

懐かしい。

いいお天気に、懐かしい人に、心の許せる楽しい仲間…

なんと幸せな良い日だろう。


それから茶道のレクチャーを受けて、お茶席は終了。

なにしろこだわりが強くなっている様子なので、レクチャーはちょっと面倒くさかった。

何であんたが茶道なんだ?と聞いてみたかったが

絶対長くなるので面倒になって聞かなかった。


その後、ユリちゃんには確認してないが

彼女が目論んでいるであろうリッくん吸収計画を話す。

話したのは私の独断だが、彼にとってはいい話だ。

やればやるだけ負担が増えるお寺料理と違い

彼が取り組んでいる茶道は、外に向けて発信するものだ。

お寺のイベントに参加するようになったら、地元に顔を売ることができる。

弟子が増える可能性が出てくるし、兄貴が彼を気に入れば

企画や紹介の面で何かと引き回してもらえるだろう。


「喜んでやらせてもらうよ!いつでも声かけて!」

彼は言った。

「じゃあ、あとはユリちゃんと話して」

そう言って別れた。

今後、どうなるかは知らない。

「お寺料理が一人分増えるだけかも…」

マミちゃんとモンちゃんは案じている。
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手抜き料理・秋の味覚…なのか?

2021年10月11日 11時05分26秒 | 手抜き料理
昨日は、恒例のお寺料理の日だった。

同級生ユリちゃんの実家のお寺で、料理をつくるのだ。

この日は御会式(おえしき) と呼ばれる、お寺にとって一番大きな行事。

宗祖である日蓮聖人の命日を祝うんだか悼むんだかの日だ。

しかし檀家の少ない過疎寺なので、家族に毛が生えた程度の賑わいと思われた。


「何人ぐらいかねぇ」

一緒に料理をする、やはり同級生のマミちゃんはしきりに人数を気にする。

まだ大人数の料理に慣れていない彼女には、参加人数が最大の心配ごとなのだ。

「去年と同じ、うちらを入れて12〜3人じゃろう」

私は答えた。

集まる人はいつも少ない。

ユリちゃん夫婦に兄嫁さん、今年からお寺の総代になった芸術家の兄貴

それから、いつもお寺の行事や作業を手伝う高齢男性

プラス私とマミちゃんで、すでに7人。

つまり過半数が主催者側のスタッフで、そこに檀家さんが数人。

その檀家さんのうち2人は、ユリちゃんの伯母さんだ。

どう頑張っても、ユリ寺にはこれが精一杯の参加者である。


「はっきりして欲しい」

マミちゃんが言うので、ユリちゃんに問い合わせたら

「まだはっきりしないけど、20人ちょっとになると思う」

と、意外な返事。


盛っとる…私は思った。

お盆にあった施餓鬼供養(せがきくよう)という行事では

確かに前代未聞の21人が会食した。

お経の後、いつもはサッサと帰る何組かの家族連れが

天然ものの鮎があると聞いて残ったからだ。

しかしその盛況は、お盆で仕事が休みだったり帰省していたからである。

秋に、彼らは来ない。


それでも豪勢な人数を伝えたのは、兄貴の弟子だった大食漢A君が辞めたことで

我々が安堵し、手を抜くのを牽制したからと思われる。

「じゃあもう、たくさん作らなくていいね」

「適量に調整しよう」

A君がもういないと聞いて、マミちゃんと私は言ったものだ。

ユリちゃんは、この発言に危機感を覚えたらしい。

お客や自分たちの持ち帰る、お土産のパックが減るからだ。


梶田さんの一件…彼女がユリ寺の近くに別荘を買い、それを聞いたユリちゃんが

ごはんやお茶をおよばれできると喜んだ件…以降、我々料理番は

そのタカリ的な発言に、すっかりやる気を失っていた。

ユリちゃんの本音を知ったからである。


うちらがやってることは奉仕でなく、タカられていただけだったのか…

友情だと思っていたのはうちらだけで、ユリちゃんに利用されていただけなのか…

我々は一時期、この疑問に苦しんだ。

奉仕とタカリ、友情と利用。

お寺の人と付き合うからには、この両方を往来するとわかってはいるが

脱力感にさいなまれた。

が、そこから立ち直り、再び頑張ろうと思い直した我々であった。


ともあれ20人以上と聞いてしまったので

直前になってやはり同級生のモンちゃんを皿洗いとして招集。

彼女はこのところ、仕事とブッキングして参加しなかったが

今回は日曜日、快く承諾してくれた。



そして当日を迎えたが、人数は13人だった。

やっぱり盛っとった。

このところ暑い日が続いて、秋の味覚どころではなくなった献立をご紹介しよう。


メインは、マミちゃん作のガパオライス


ガパオライスは、カレー粉の入らないドライカレーみたいなものだ。

豚ミンチと刻んだバジル、ピーマン、パプリカを炒め

唐辛子とナンプラー、塩こしょうで味付けしたものをごはんにかけるタイかどこかの料理。


横に添えてあるのは左から無限ピーマン、緑色のナスの田楽、キュウリとレモンの浅漬け。

無限ピーマンは、細切りにしたピーマンをサッと茹で

塩昆布と赤唐辛子を混ぜただけのものだが、さっぱりして美味しかった。

近頃はクックパッドなどの影響か、キャベツやらキュウリやら

アタマに“無限”と付く野菜料理が増えている。

言葉通り、無限に食べ続けられるもんなら食べてみろ…

塩分過多で高血圧だ…などとと意地悪く思う私である。


マミちゃん、自腹で紙皿を買ってワンプレート仕様にしていた。

お盆には人数が多過ぎて、我々はテーブルに付けず、ろくに食べられなかった。

ワンプレートなら、席が無くてもちゃんと食べられるというのだ。

私は料理をたくさん作ったら食欲が失せるタイプ。

コロナのご時世でもあり、他人と並んで食事は怖いから

席が無いことをむしろ歓迎したが、マミちゃんは根に持っていたらしい。


あと、マミちゃんは前に作った、かき卵スープを今回も作ってくれたが撮影し忘れた。

味付けは顆粒の鶏ガラスープの素と塩だけ。

絹ごし豆腐と缶詰のコーンを入れ、片栗粉でトロミをつけたら溶き卵を混ぜる。

柔らかい豆腐とプチプチするコーンの異なる食感が楽しく、ラー油を数滴たらせば癖になる美味しさだ。



老人担当の私は、オーソドックスな煮しめ



里芋、ごぼう、人参、大根、レンコン、干しシイタケ、昆布、油揚げ

水煮タケノコ、鶏モモ肉、サヤインゲンが入っている。

油揚げはキツネうどんの味を目指すため、別に味付けして煮た。



老人担当第2弾、タコ生酢


タコは、いつぞや息子のどちらかが獲ってきた物だと思う。

冷凍庫を発掘したら出てきた。

貰い物のキュウリ、庭に生えている終わりかけの大葉を添えた。



老人担当第3弾、マグロステーキ


先月末、長男の友達が佐賀沖で釣ったのを刺身で食べた後

残りを冷凍しておいた。

80センチぐらいの小ぶりなものだが、マグロを1本さばくのは初めてで緊張した。

だけど身が柔らかいので、鯛よりずっと簡単だった。


ニンニクのスライスを油で炒め、ニンニクを取り出したら

解凍して適当にカットしたマグロに小麦粉をまぶして焼くだけ。

味付けは酒、しょうゆ、みりん、それから酢を少々混ぜ合わせた物を仕上げに入れて煮詰める。

それほど美味しいとは思わないが、シロウトが釣ったマグロは珍しかろうから

賑やかしの一品として。



老人担当第4弾は、鮎の甘露煮。

前回と同じく圧力鍋で作ったが、同じ物なので撮影しなかった。

どこの鮎か聞かれたので、「四万十川のも混ざってます」と言ったら

皆の目の色が変わった。

何匹かは混ざってると思うよ…。


この辺では水温が下がって釣れなくなったけど、四国は先週あたりまでまだ釣れた。

次男はそれを追いかけている。

四万十川には“尺鮎(しゃくあゆ)”といって、一尺つまり30センチ超えの鮎の王者がいる。

鮎の釣り師は、それを目指すそうだ。

次男も何回か釣って帰った。

とても鮎とは思えないデカさで、鯵(アジ)みたいよ。

大きいから大味と思いきや、さすが四万十川、身がしまって美味しかった。


でもお寺料理には、それを使わない。

大きいのを出すと喜ぶだろうが、それが当たり前になって

小さいのをバカにするようになるからよ。

私も賢くなったものだ。

へへ〜んだ。



「みりこんちゃんが海と川の幸に強いのは、よくわかりました。

で、山の幸はどうですか?特に秋の味覚は?」

会食中、ユリちゃんのご主人モクネン君にたずねられた。

「へ?」

よく聞いたら、松茸のことだった。

松茸を持って来いと言っているのだ。

こんなことを平気で言うから檀家が減るんじゃ。

アケビでも食っとれぃ!
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現場はいま…秋祭編・10

2021年10月02日 10時20分57秒 | シリーズ・現場はいま…
泣きながら床に頭をこすりつけ、田辺君にひたすら謝る藤村。

「許してください!勘弁してください!」

「謝ったら終われる思うとんか!ワレ!」

「すみませんでした!申し訳ありませんでした!」


やがて田辺君は、夫に電話をかけた。

現在の状況をザッと話した後、彼は夫にたずねる。

「許してって言ってるけど、どうしよっか」

田辺君が本当に怒っていて、とことんやる気なら誰にもたずねはしない。

こういう時は、止めてもらいたい時なのだ。

夫もそれをわかっているので、答えた。

「許してやって」

「わかった」


田辺君は電話を繋いだまま、藤村に言った。

「ヒロシさんが許してやれぇ言うとるけん、今日のところは帰れ」

「は…はい…」

「次は無いで!」

「はいっ!」

藤村は急いで立ち上がると、脱兎のごとく帰って行った。


本社の仕事の方は、そのまま立ち消えとなった。

永井部長と藤村が怖がって田辺君を避けているのだから

話の進めようが無いではないか。

こうなることは最初から田辺君も想定していたし

A社もB社も彼らのいる本社と付き合うなんてまっぴらだろうから

どうということはない。

むしろ二人に睨みをきかせる格好のネタを手にして、彼は満足そうであった。


田辺君から聞いた後日談によると、B社は永井部長と藤村を過去を調べ上げていた。

どうやって調べたのか、永井部長の調査は出生した宮崎県にまで及んでいる。

両親が宮崎の片田舎で小さな雑貨店を営んでいたこと

彼が地元に就職していた20代の頃、父親が先物取引にハマり

知人から借金をしたために、一家で夜逃げして広島へ来たこと

永井青年は道路工事のガードマンになり、やがて本社に転職したことなどだ。


夜逃げしようと何をしようと、どうでもいいが

その時、彼がすでに成人していたとなると話は変わってくる。

責任から逃れるのは、親ぐるみの習性だと言うのだ。

さらに大卒のエリートを装っているものの、実は経歴詐称であることが

ここで判明。


藤村の方は、我々が把握していたのとほぼ同じ。

離婚3回、自己破産2回、転職回数は二桁の大台という華やかな半生だ。

知らなかったことといえば、出身高校の詐称ぐらいか。

山口県出身の彼は、自分が甲子園常連校の野球部だったことを

誰かれなく自慢しているが、彼が本当に通った高校には

野球部が無かったというものである。


藤村はいたずらに身体が大きいため、初対面の相手に警戒される。

しかし野球をやっていたと言うと、たいていの広島人は納得して友好的になる。

カープ熱が高いので、野球経験者を名乗るとウケが良いのだ。


二人の素性を知ったB社は

「こんなのと喧嘩したら、こっちが笑われる」

と呆れ、永井部長を取締役に据えている本社の人材の墓場ぶりを哀れんだという。

そして我々は、ひとたび敵と設定したら

徹底した情報収集を行うB社の姿勢に感服した次第である。


我々の業界で、こういうことはままある。

微に入り細に入る聞き苦しい内容に、昔は思っていた。

「他人の過去をほじくり返して、井戸端会議みたいな悪口言って

女より女々しい…」


が、知らない相手の人と成りを判断するには

重箱の隅をつつくような細かい情報が必要だと、徐々に理解するようになった。

「人から何と言われているか」というのは、その人物をそのまま表す。

それは過去に遡らなければ、わからないものだからである。


この業界は、匠の技や先祖代々のお付き合いが必要ない職種。

だから、やろうと思えば一夜にして商売変えが可能だ。

そして、仕事をする距離的な範囲が広い。

県内が主ではあるが、今回のように元請けが県外のケースもあるので

素性を知らない人物と接触する機会が多い。

その中には、いずこからか湧いて出た

「社長でござい」「重役でござい」がゴロゴロいるし

元ナントカ会や、元ナントカ組の人も素知らぬ顔で混ざっている。

押しも押されぬ大手ならいざ知らず

中小企業には、そのような輩に足をすくわれるリスクが付いて回る。

手形の商売なので、名刺や肩書きをそのまま信用するわけにはいかないのだ。


人間は簡単に変われるものではない。

昔を知れば、ある程度の選別が可能になる。

我々にとって、対象者の昔に関わる情報収集は

田辺君のように豊富で確実なデータを持つ有識者を大事にすることと並んで

古くから行われてきた危機管理の一つといえよう。


…ということで、この一件により藤村の暗躍はひとまず封じられた。

夫と息子たちが佐藤君たちに強く出られたのは、そのためである。

藤村が何をしようと、たかが知れているが

そのたびにゴタゴタするのは面倒くさいではないか。

そしてそのゴタゴタには必ず永井部長が絡んで

言うことを聞かないだの、勝手なことばかりするだの

本社でわざとらしく騒ぎ立て、ますます厄介な問題に発展させる。

佐藤、藤村、永井のルートが断ち切られている今、我々は自由を満喫しているのだ。


その永井部長、夫にさりげなくすり寄り始め

仕事のことで質問だの相談だのと頻繁に連絡してくる。

危なくなったらいつもそうするように、夫の機嫌をうかがっては

自分が安全かどうかを確かめているのだ。

しかしゲスは諦めが悪いので、再び復活するだろう。

それまでは、ゲスの変わり身を楽しもうと思う。


ところで今回の立役者、田辺君。

無敵の彼にも病気は訪れる。

心臓の不具合により、先日ステント手術を受けた。

義母ヨシコも同じ手術を受けたが、腕または足の付け根から心臓にカテーテルを通し

詰まった血管にステントという器具を装着して血液の流れを良くするものだ。

ヨシコはあれから10年以上経つが、元気バリバリ…

入院が決まった彼に、夫はそう言って励ました。


手術前、田辺君から夫に電話がある。

「僕、これから手術なんで、3時間ほど電話に出られません。

もし何かあったら、3時間後にお願いします」

永井部長と藤村をペシャンコにした手前

恨みを抱いた彼らが再び何かをしでかさないか、警戒していると思われた。

アフターサービスの万全な田辺君である。


「そんなことは気にしなくていいから、しっかり治してもらいんさいよ。

無事に済むように祈っとるけんの」

「ありがとうございます」

どこまでも律儀な田辺君、手術の経過は良好で、すでに仕事に復帰している。

《完》
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