殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

料理番組

2023年07月29日 10時05分26秒 | 手抜き料理
家事をしながらテレビの料理番組を見るの、わりと好き。

人が作るのを見ているうちに、ちょっとやる気が出て

全然違う物を作るという奮起用。


が、テレビに出てくる料理の先生には、私の好みが全開。

見る見ないは、先生によって決めると言ってもいい。


何が基準かというと、まず声。

声が高くて時々裏返る人は、こっちがしんどくなるので避ける。

だからこの数年、あちこちの料理番組で引っ張りダコの

京都弁の着物美人は無理。

それから、いつもキャッキャとハイテンションで

近年は息子の嫁と一緒に活躍している可愛いおばちゃんも無理。


私のワガママは、声だけでなく話し方にも及ぶ。

そのためキューピー3分クッキングに出てくる

おかっぱ頭の細い女性が苦手。

「……を……して、これを……ます」

繋ぎの言葉だけは大きくはっきりとおっしゃるんだけど

肝心の名詞や動詞を言う際の声がいたずらに小さい。

料理ってカチャカチャとかジャージャーとか、音が出るじゃん。

フライパンで炒め物なんて紹介するシーンでは

神経を集中させて聞かなければならず、疲れるのだ。


かたや同じキューピー3分クッキングに出てくる

ぽっちゃりした女性が先生の時は好んで見る。

さっきまで家に居ました〜…みたいな自然体で

無表情かつ淡々と流れるように話すので、頭に入りやすい。


それから、先生が左利きなのも無理。

韓国系の名前の素敵な男性はすごく有名で

低めの落ち着いた声が魅力だけど、残念ながら左利きだ。


決して左利きを差別しているのではない。

料理人にも左利きは多いし、うちの長男も外では右利きだが、家では左利き。

私も長男ほどではないものの、本来は右利きでありながら

ほんの少しだけ左利きのケがある。


だからなのかは不明だが、料理を教える立場の人が左利きだと

当たり前だが左手で包丁や箸を扱う。

その状態でテレビの画面越しに向かい合わせになると

私の古びた頭に入って来ないのだ。

よって参考にならないため、見ても仕方がないという身勝手な理由。

先出の京都弁の着物美人も左利きなので、どうあがいても私には無理。


さらに、ご自分で個性的な四文字熟語の飲食店を経営し

斬新なアイデアで視聴者を驚かせる中年男性。

芸人みたいなしゃべりが人気で、たくさんの料理番組に登場している人だ。


最初のうちは楽しく見ていたが、途中から苦手になった。

ある時、冷やし中華を紹介した番組で

「冷やし中華はじめました」と書いた自筆の書を披露されたが

冷やしの“冷”の右側のツクリが、“今”になっておったんじゃ。


もちろん、間違いは誰にでもある。

それがどうした、という類いのミスだ。

しかし本人は自信満々、周りのスタッフもそれに気づかないまま

収録して放送する神経に失望。

こんな男の言うことなんぞ聞いとられんわい…

ということでお別れ。

我ながら、ひどい仕打ちである。


そんな私はこのところ、ほぼ毎日

LINEで同級生ユリちゃんの料理の相談に乗っている。

僧侶であるご主人のモクネン君は

現在、1年で一番忙しいお盆シーズンを迎えていて

そのサポートのためである。


お盆に忙しいのは毎年のことだが、今年の彼らは去年とは違う。

2月、モクネン君が突然意識不明になり、本物の仏様になりかけたのだ。

心臓らしい。


数日の入院で生還したが、それ以来ユリちゃんは

モクネン君の身体を気遣うようになった。

憎しみ合った夫婦とはいえ、彼に亡くなられたら

マジで困ることを知ったからである。


なぜなら僧侶の資格を持たないユリちゃんは

モクネン君が亡くなった途端、お寺に住み続ける権利を失う。

「坊主丸儲け」と人は安易に言うが、その分、掟は厳しいのだ。


さらにモクネン君がリアル仏様になりそうだった時

元々ソリの合わない彼の弟夫婦はものすごく張り切り

次期当主としての行動を開始したという。

兄嫁のユリちゃんが彼らに追い出されるのは、決定事項と言ってよかろう。

そうなると、お寺の仕事を手伝うユリちゃんの給料も途絶えてしまう。

憎い旦那がいなくなった途端、家と収入を失って

どうやって暮らすというのだ。


そして最も深刻なのは

モクネン君が面倒を見ているユリちゃんの実家のお寺。

あのいい加減な弟が

兄のようにこまめに通って盛り立ててくれるとは思えない。

するとユリ寺は消滅するしかなく

その上、ユリ寺の仕事を手伝うことで給料を得ていた

ユリちゃんの兄嫁さんまで路頭に迷ってしまう。


家と収入を失ったユリちゃんが実家に帰ったとしても

兄嫁さんと二人、どうやって食べて行くのだ。

どちらも外で働いたことが一度も無いので

当然、厚生年金の支給は無く、仕事を探すしかない。

60半ばになって初めて働きに出るとなると、大変だ。


このように、伴侶を失うことで生じる様々な現実を

ユリちゃんは思い知った。

それを回避する方法は、ただ一つ。

とにかくモクネン君を長生きさせること。

そこで体力を付けさせるため、食事に気を使うようになったのだった。


「色々教えてほしい」

ユリちゃんは言うが、この人は料理が一番の苦手。

登場する食材はできるだけ少なく

調理法は焼くかチンするかの簡単な料理しか受け付けない。

それでいながら、神経質な子供のように食欲の波の大きいモクネン君が

飛びついて食べそうな料理を望む。

料理の苦手な人って、最小限の手間で最大限の評価を欲しがるものなのよね。


そこで提案したのが、主菜は肉屋か惣菜屋で買うか

レンジでチンの冷凍食品でやり過ごし、副菜を手作りして誤魔化す案。

先日、ここでご紹介したエリンギとベーコンのマヨネーズ炒めや

万願寺とうがらしのジャコ炒め、モヤシと焼き豚のゴマ和え…などなど。


が、簡単な物となると、だんだん伝える物が無くなっていく。

直近のはこれ。

市販の調味酢をかけるだけの酢の物。


ほぼ投げやり。

モクネン君の好物、大葉とミョウガで釣る作戦だ。

錦糸卵はそうめんの残り。

ボリュームを出したければ、ハムまたは焼き豚、ツナなどの

動物性タンパク質をプラスする。

または鶏ササミに酒を振り、ラップをかけてレンジでチン…

冷めたら手で裂いて加えても美味しい。


「あの人、酢の物は苦手なのよね」

これを紹介するとユリちゃんは否定したが

モクネン君、お寺の会食では酢の物をけっこう食べている。

こってり料理の好きなユリちゃんが、酢の物を嫌いなのだ。

嫌いな物を作りたくないから、旦那が嫌うと言っているのだ。

自分の好物しか作りたくなくて錯覚を押し通すのも、料理嫌いの特徴である。


それから、オクラの和え物。


茹でて刻んだオクラ、ネギ、カツオ節、ゴマに

醤油をかけて混ぜるだけの病院メニューだ。

モクネン君の好物、ミョウガと大葉を混ぜても美味しい。


サイドメニューばっかりではナンなので、牛丼も紹介。


牛肉とタマネギを炒め、市販のすき焼きのタレをかけたら

すぐできる。

私はダシと酒、砂糖、醤油で味付けをするが

彼女の場合、すき焼きのタレの方が簡潔で良いだろう。


今時分はキュウリのお裾分けも押し寄せているだろうから

浅漬けも紹介。


キュウリ小2本か大1本を3ミリぐらいのスライスにして

そのままビニール袋へ入れたら

そこへ顆粒の昆布ダシを一パック、塩昆布をひとつかみ

あれば七味か唐辛子を少々投入してビニール袋の空気を抜き

口を縛って冷蔵庫へ。

朝作ったら、夜には美味しい浅漬けになっている。


実は彼女の魂胆はわかっている私。

簡単で効果の高い料理を伝えることに辟易した私が

実物を届けるのを待っているのだ。

現に公務員OGの梶田さんは、お得意のグリーンカレーを

すでに彼女の元へ届けたそうだ。


ユリちゃんは料理を教えてと言いながら

毎日、梶田さんの立派な行いを伝える。

私のライバル心を刺激したいらしい。

が、残念ながら何とも思わない。

その手に乗るか…と思いながら、連日のレクチャーに勤しんでいる。
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近時事・3つ

2023年07月26日 15時48分09秒 | みりこんばばの時事
札◯の首狩り事件ね〜。

最初は反社の見せしめ事件か、変質者の猟奇事件かと思ってたのよ。

この大作業をゴロツキやアウトローじゃなくて

一定の地位、信用、経済力を持つであろう

医療従事者の一家がやらかしたなんて、怖さ倍増ね。


主犯の女の子、小学校6年当時の写真とは思えないほど大人びてる。

細い肩幅で、やっと子供だとわかるけど、すでに見事な三白眼。

引き締まった口元あたりは、大切に育てられた頭のいい子という印象。


こうなると、動機が気になるところだけど

未だに被害者の氏名が公表されないところをみると

何かやらかしていて複雑なのかも。

脅迫があった…しつこくて困っていた…ぐらいしか思いつかないけど。


あるいは家庭内DVあるあるで

暴力を振るったり暴言を吐く人物が家族を支配してしまうって

ありがちなことじゃん。

お母さんがパートに出ていたのも、家に居られないからかも。

手に負えなくなった娘が「人を◯したら気が済む」と言い出して

悩んだ両親が協力したとか。

今の時点では、想像しかできないけどね。
 

いずれにしても、ハイソな人たち特有の

「うちらは何をやっても許される」

という雰囲気は感じてしまう。

やっかみじゃなく、選民意識ってそうなのよ。

みんなじゃないけど、歯車が一つ狂ったら

日頃尊重されてる選民だけに、修正方法…

つまり泥沼からの立ち上がり方を知らないもんで

どんどん深みにハマっていく危うさがある。

ちょっと前にどこかの県外議員が不倫して

邪魔になった奥さんを手にかけて

しばらくは被害者遺族を装っていたのも同じ感触。



さて、ビッグ◯ーターの自動車保険金不正請求。

社長と副社長の辞任と謝罪会見で、ひとまずの消火に持ち込むのは

不正が発覚した会社が行うシナリオ通りね。

保険会社とグルになって不正請求で売上を伸ばしていたなんて

知らなかったわけないじゃん。


サンドペーパーでこすったり

ドライバーで傷をつけていたことはスルーでも

靴下にゴルフボールを入れて振り回して車を凹ませる手口に

社長は強く反応して

「ゴルフをやる人への冒涜」と言いなすったけど

話題のすり替えとしか思えなかった。

あの人も、ゴルフ好きなのね。

お客様の車に傷をつけて儲けたお金で

その大好きなゴルフに行ってらしたのよね。


今後は経営に参加しないと宣言するついでに

一生ゴルフはしませんと言えばよかったのに。

本当なら、ゴルフボール見るのはもう二度と嫌でしょ。

でも行くんでしょうね、ゴルフ。

社長を退いて暇になったら、ますますね。



某芸能事務所のセクハラ問題も、なかなか収まらないわね。

少年に性加害を行っていたとされる社長さんが亡くなった途端に

次から次へと大変そう。

自分の子が世間で言われているような目に遭ったとしたら

本人も親も耐え難いと思う。

折しもLGBTQへの理解が叫ばれている昨今

この問題が完全理解への足止めになっている感じ。


もしも亡くなった社長さんが存在しなければ

日本の娯楽は淋しいものになっていたと思う。

だって日本のテレビ業界の偉い人は

自分と同じような醜いオジさんと、若い女の子が好きじゃん。

美しい男の子は徹底的に排除されて

どのチャンネルもオジンと若い娘ばっかりになりそう。


そこへあの方向性の人特有の審美眼と芸術性で

男性の宝塚みたいなチームを作り上げ

日本独自のエンターテイメントを供給したのが社長さん。

わたしゃ別に推しはいないけど、その功績はすごいと思ってる。


だけど何かを成し遂げたら、必ずその功罪ってあるのよ。

輝かしい成功の裏には、迷惑をかけたり犠牲にした人が存在するってこと。

そんな功と罪の狭間で、関わった人々が揺れ動いている感じね。

成功に導かれた人たちは黙して語らず…

そうじゃなかった人たちは糾弾…

何だか二手に分かれている気がする。

どこかモヤモヤ感がぬぐえないのは、そのあたりかしらね。


報道されている性加害が事実だとしたら、本当に罪なことをなさったものよ。

自分の子供だったら、本人はもちろん親も耐え難いわ。

スカウトが来るような綺麗な子を産めなかったことに

胸を撫でおろす日が来ようとはね。


あの事務所とは関係ないけど話のついでに言うわね。

30年近く前に知り合いから聞いた話。

知らないおじさんに襲われた、小学生の男の子がいたの。

同性加害って残酷よ。

もちろん異性加害も残酷には変わりないし

どちらも心に深い傷を残す。

だけど被害者が男の子の場合、お尻って毎日トイレで使うじゃないの。

その度に傷が開くから、何回縫合しても完治しないって

親御さんは泣いてらしたそう。

自分の子だったらと思うと、絶望するわ。


女の子じゃないから、男の子だから安心…ってことは無いわけよ。

男の子も女の子も、危険はあるのよ。

こういう現実的なことって、あんまり語られないから

知らない人も多いんじゃないかしら。

小さい子や少年への性加害は、エスカレートしたら

こういうことになっちゃうって話。


今は医学が発達して、その子の傷が治っていればいいな、と思う。

でもその前に、そういうことをする大人が

いなければいいと思う。


ともあれ力のある者が弱い者を性的に苦しめるのは

卑怯以外の何ものでもない。

弱い者を苦しめなければ素晴らしいエンターテイメントが生み出せないなら

そんな娯楽、いらんわ。


あ〜あ、今日も勝手なこと言っちゃった〜。

ごめんなさいね〜!
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現場はいま…BBQてん末・2

2023年07月21日 09時29分37秒 | シリーズ・現場はいま…
梅雨どきにバーベキューは困難と、今さら気づいたものの

ヒロミの推奨するお好み焼き屋では

歓送迎会としてのグレードに問題がある…

アイジンガー・ゼットと女王から

やいのやいのと言われてウンザリした夫は私に意見を求めた。


この場合、多くの人は言うだろう。

「お好み焼き屋でいいじゃないか」

私も面倒くさいので、それでいいじゃないかと言いたい。


しかし、簡単には決められない事情があった。

今回の歓送迎会の予算は我が社からではなく、本社から特別支給される。

いつになく機嫌の良かった河野常務が、気まぐれで言い出したことだからだ。

ということは領収書が本社に行き、どこで開催したかが知れ渡る。


本社は新年会や忘年会、歓送迎会などのイベントを

ことのほか大事にする所だ。

その大事な歓送迎会を、カジュアルなお好み焼き屋で開催したとなると

常務から小言を言われるのは必至。


会社組織というものは、建前で回っている。

平素はどうあれ、歓送迎会では

長く勤めてもらいたかったが、病気でやむを得ず引退する松木氏…

常務自ら抜擢し、忙しいのを承知でこちらへ配属した板野さん…

急きょ、そのように特別な存在に祭り上げられるものだ。

この特別な二人をお呼びする場所がお好み焼き屋では

イベントの格式が、かなりダウンしてしまう。

夫もそれを懸念していた。


店名もいかん。

店主の苗字をもじった“◯◯ちゃん”という、カジュアル中のカジュアル。

あのふざけた名前の領収書が本社へ回され

気位だけは高い人々の目に触れたあかつきには

「やっぱり田舎」と失笑を買い、常務に恥をかかせることになりかねない。

強引な手腕でのし上がった彼は、社内に敵が多いのだ。


さらに儲からないので閉じてしまったが、本社には数年前まで

高級店やチェーン店を複数抱える飲食部門があった。

そのため食通を気取る人口割合が多めで、食に関しては変にうるさい。

閉じた飲食部門の中には高級鉄板焼きの店があり

市内の一等地で目玉が飛び出るような料金を取っていたが

広島で鉄板焼きを名乗るからには、メニューに高級お好み焼きも当然あった。

言うなれば失敗した店の中に、お好み焼きも含まれていたわけだ。


歓送迎会でお好み焼きとなると、常務を始め

取締役の爺さまたちの古傷をほじくる恐れが発生する。

ヒロミは善意で提案しただろうが

彼女には知るよしもない内情が存在するのだった。


ここまで神経を使うのが、中途合併の継子という立場。

ビクビクしているわけではなく、妙な誤解を避けるためだ。

突っ込みどころを与えないよう、先の展開を考えて臨むのは

継子道の基本である。



「焼肉屋にしたら?」

夫に意見を求められた私は、最も盤石な路線を口にした。

なにしろ我々が住むのは田舎。

常務のお眼鏡にかなった店は、今までに二軒しか無かった。

その焼肉屋と、もう一軒は鍋料理屋である。

鍋の店は店主の高齢化により、すでに閉じられているし

存続していたとしても、夏に鍋は厳しいだろう。


そしてヒロミの提案を通したら

あの子の性格上、図に乗って、今後も何につけ口を出す。

思慮の浅い女に口出しの癖をつけて、良いことは何一つ無い。

それを回避するためには、こちらが別の店に決めるしかない。


しかし夫は、焼肉屋に難色を示す。

座敷が狭いため、ギューギューで身動きが取れないと言うのだ。

なるほど、あの店の座敷はウナギの寝床状で

ひとたび座ったら身動きができず、奥の者はトイレにも行けない。

今回、本社からは誰も来ないので、夫は立場上、天敵の松木氏と

まだよく知らない板野さんに挟まれる運命は決定事項。

夫はそのことを憂慮しているのかもしれなかった。


さらに深読みすれば、図々しいアイジンガー・ゼットが

夫の隣に座ろうと、奥の上座へ陣取る可能性はかなり大きい。

今の時代、女は…事務員は…

下座に座って給事の手伝いをせぇと言えないのだ。


密着できて嬉しかろうとも思うが、あの手の女はおしなべて逆デバガメ体質。

見られて燃えるというやつだ。

口では秘密、秘密と言いながら、チャンスさえあれば

人前で自分たちの仲をさらして注目を浴びたがる。

自己顕示欲を満たしながら、オトコを困らせて楽しむのだ。


私も浮気されて長いが、夫も浮気をして長い。

他人の旦那に興味を示す女たちが、例外なくこのような性癖であることは

私以上に熟知しているはずだ。

家族のいない場所なら、嬉し恥ずかしのひとときを過ごせようが

会社のイベントだと息子たちがいる。

彼らにその光景を見られるなんて、気の小さい夫には耐えられまいよ。

そういうわけで、親切!な私は焼肉屋の案を引っ込めた。


他の店といっても日にちは迫っているし

今回は各自の通勤距離を考慮して、開始時間を午後4時に決めていた。

そんな中途半端な時間に宴会を受け付けてくれそうな所といえば

葬式や法事の折り詰めと同じ物を食べさせられるホテルしか思いつかない。


「今回はお好み焼きにして、常務に怒られんさい」

私はこの問題を投げた。

「ええわ…そうする」

かくして夫は女王の提案を受け入れ、バーベキューは幻に終わった。


それについてアイジンガー・ゼットが、どんな反応を示したかは知らないが

梅雨時期ということで納得させたのではなかろうか。

夫にはせっかくバーベキュー着を買ってやったというのに

残念なことである。

こうして7月7日の金曜日、お好み焼き屋での歓送迎会が決定した。


当日はやはり、朝から雨。

私はこの日、たまたま女子会だった。

6月に、同級生ユリちゃんのお寺で開催した夏祭りの打ち上げだ。

ユリちゃんの都合が合わなかったのでこの日になったが

まる1ヶ月も経つと炭酸の抜けたサイダーみたいな気分。


そして夜9時、家に帰ったら

7時に歓送迎会を終えた夫が待ち構えていた。

話したいことがあるらしい。


その話とは…

まず松木氏は、体調が思わしくないため欠席。

本社の人が来ないのであれば、わざわざ来ないのが彼だし

最後ということで息子たちの報復を懸念したのかもしれないし

本当に体調が悪いのかもしれない。

いずれにしても予想の範囲だ。


それからなんと、板野さんも欠席。

その日の午後、隣の人が亡くなったという。

山奥村なので、夫婦で手伝わなければ村八分になるそうだ。

つまり歓送迎会の意義は、この時点で失われたのである。

バーベキューだ、お好み焼き屋だとゴチャゴチャしておいて

フタを開けたらこれ。

私は大いに笑った。


困った夫は急きょ、この宴会をシゲちゃんの快気祝いにしたという。

そういえばあの人、会社で倒れて入院したっけ。

ずいぶん前のことで、それこそ炭酸の抜けたサイダー状態だけど

この際、仕方がないわよね。

突如、主役にされてしまったシゲちゃんの当惑を想像して、また笑った。


後日、夫はやはり河野常務からお叱りを受けた。

「お好み焼き屋じゃと?うちの系列会社が、みっともない!

ワシがせっかく予算を回してやったのに、何でもっとええモン食わんのじゃ!」


お好み焼き屋ではステーキも出たし、料理は頑張ってくれたそうだが

事情説明や言い訳はできない。

領収書の店名からして気に入らないんだから

ここで何か言ったらおしまいよ。

継子道は厳しいのだ。

ひたすら黙って聞く…常務はそんな夫を可愛がっていて

言いたいだけ言ったら可哀想になり、さらに良くしてくれる。

それが常務である。


かくしてバーベキュー騒ぎは終わった。

イベントは、もうこりごりだ。

《完》
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現場はいま…BBQてん末・1

2023年07月19日 09時39分00秒 | シリーズ・現場はいま…
現場は今、安定している。

夫も息子たちも社員も、それぞれ落ち着いていて

特に夫と長男は顔つきまで柔らかくなった。

この安定感は、過去に経験が無い。

本社の回し者、松木氏と藤村に振り回された12年の年月を経て

ようやく手にした環境である。


これはひとえに、肺癌で引退を決めた松木氏67才の後任

板野さん62才の功績によるもの。

彼が特別に何かをしたわけではない。

事務所で寝ない、威張らない、わからないことには口を出さない…

そんな、松木氏にも藤村にもできなかった普通のことができるだけである。


もっとも相手が普通か否かを確かめるには

夫の親友である任侠出身の営業マン、田辺君を見せるのが一番確実。

板野さんの着任早々、田辺君が遊びに来たが

「あのかた、並の人じゃないですよね…」

板野さんは、後で夫にたずねたという。

夫はこの反応に満足していた。


板野さんと同い年の田辺君は、俳優の玉木宏似のイケメン。

顔もいいが肌も美しく、長身でモデルのようなプロポーションを持つ。

昼あんどんの藤村は、それを見てヤサ男と踏み

自分の方が年下でありながら横柄な言動を重ねた。

松木氏の方は田辺君が来ると挨拶もせず、脱兎のごとく逃げ出すクチ。


その点、板野さんは愛想良く応対し、田辺君と夫の会話を黙って聞いていた。

しかし田辺君が只者でないことは感じ取ったようで

後から素性を確認するあたり、あの2人よりずっとマトモである。


カタギと任侠が混在するこの業界は、ファーストインプレッションがイノチ。

相手の格をひと目でキャッチし、それに見合った対応をする能力が不可欠だ。

この能力が標準装備されているか否かが、普通かそうでないかの判断材料となる。

仕事を円滑に進めるには、まず普通であることが大事。

夫にとって田辺君は、何かあれば助けてくれる守護神であると同時に

相手の質を見極める踏み絵なのだ。



この板野さんの歓迎会と松木氏の送別会を

7月初旬に開催することになったのが、6月の中旬だか下旬だか。

我が社に生息する“アイジンガー・ゼット”の強い希望により

歓送迎会の形態は会社でバーベキューということになった。


…説明しよう。

アイジンガー・ゼットとは

我が社の事務員ノゾミのことである。

この女が入社した経緯をここでお話しした時

コメントで田舎爺Sさんが、テンポの良い歌を作ってくださった。

『古いジープは、隠れ蓑

スパイの素顔を隠すのさ

だけどもさ、隠すつもりが現れる

こちらはどっこい百戦錬磨

酸いも辛いも嚙み分ける』


この滑り出しが、今は亡きアニソン界のカリスマ

水木一郎さんの歌う“マジンガーZ”の主題歌とマッチ。

大いに喜んだ私は、ノゾミのことをアイジンガー・ゼットと呼ぶことにした。

念願の就職をはたした今、もはや夫の愛人かどうか怪しくなっているが

隣の社長の愛人をやっているのは確かなので、遜色は無かろう。



話は戻り、バーベキューの提案を聞いた私は思ったものだ。

「バカか…」

煮炊きをするようにできてない会社でイベントをやるのが

どれほどの労力か。

例えば、学校のグラウンドの真ん中で焼肉をするのと似たようなものよ。

水道は遠く、食材や道具を始めゴミ一つ運ぶのも

右から左というわけにはいかない。


義父の会社だった頃、私は何度も後片付けをした。

皆、準備だけは面白がってやりたがるが

後片付けの頃になると、要領のいいのは帰ってしまうものだ。

残されるのはお人好しと酔っ払い、そして何もできない夫。

その時に手伝ってくれた人の恩は忘れてないが、マジで大変だった。

アイジンガー・ゼットは何も知らないから、無責任なことを言い出せるのだ。


まあ、人の旦那に色目を使って就職をゲットするような女が

バカなのはわかっている。

そのバカが、バーベキューという単語に異様に燃えるのも知っている。

アレらの言うバーベキューは、肉の漬け汁やソースにこだわるものではなく

ただの焼肉だ。

しかしアレらは、それをバーベキューと呼ぶ。

そこからして、バカ。


28年前、運転手として会社に入り込んだ未亡人イク子も

このようなことがあったら燃えたと思う。

夫と早々に駆け落ちしたのでチャンスは無かったが

キャミソールなんか着て尻を振り振り、最初の20分ぐらいは

甲斐甲斐しく飲み物や皿を配って見せるはずだ。

外見が多少違うだけで中身は全く同じ…それがあの人種の特徴である。



さて、7月に入ると、うちで唯一の女性運転手ヒロミが

バーベキューの計画を知って文句を言い始めた。

自分の嫌いなアイジンガー・ゼットが言い出しっぺと聞いてからは

なおさら強く反対し、店でやった方がいいと主張。


バツイチのヒロミは一時期、社員の佐藤君とネッチョリコンだったが

去年だったか、結局それまで同棲していた男と再婚した。

同棲時代から、相手の男の2人の子供とその連れ合い

そして、その子供たち…

総勢10人を超える義理の間柄の人々と交流する際は

いつもバーベキューと決まっている。

料理が苦手なので、もてなしといったらバーベキューしか無いのだが

ヒロミは自身をバーベキューの女王と豪語しているのだった。


その女王ヒロミがバーベキューに反対するのは

後片付けの大変さを知っているからである。

「ノゾミは絶対何もしない…となると、女の自分がやらされる…」

豊富な経験から、女王はそう感知したようだ。


女王とアイジンガー・ゼットは、女の意地をかけて真っ向から対立した。

松木氏の送別や板野さんの歓迎というイベントの主旨は

すでにどこかへ吹っ飛んでいる。

どちらも言い出したら聞かないので、夫は板挟みになっていたが

身から出たサビ、せいぜい困ればいいのだ。


しかし40そこそこのアイジンガー・ゼットより

50を過ぎた女王の方が一枚ウワテだった。

独断で、町内のお好み焼き屋に歓送迎会の話を持ち込んだのである。


ヒロミの顔がきく店といえば、お好み焼き屋ぐらいのものなのはともかく

その店は、彼女の友だちの両親がやっている所。

「お好み焼きだけでなく、他の料理も出して豪華なコースにする」

友だちと打ち合わせたヒロミは、夫に直談判。

その店には広い座敷があり、夜は居酒屋の営業形態になっているため

彼女はまんざら見当はずれのことを言っているわけではなかった。


一方、夫は7月に入って雨続きなのを気にしていた。

アイジンガー・ゼットにせがまれてバーベキューに決めたものの

屋外での歓送迎会が現実性を伴わないことに気づき

どこかの店でやった方がいいと思い始めていた。


が、ヒロミの提案には難色を示す。

くだんのお好み焼き屋の店主、つまりヒロミの友だちの父親は

夫の知り合いなので嫌というわけではない。

けれども主賓である板野さんの自宅は、市外の山間部。

山奥からわざわざ呼んで、連れて行くのが裏ぶれたお好み焼き屋では

申し訳ないという理由からだった。

《続く》
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手抜き料理・お暑うございます

2023年07月17日 08時41分50秒 | 手抜き料理
いよいよ本格的に暑くなってきましたね。

年のせいか、今年はまた一段と暑さがこたえるわ〜。

ごはん作るのもおっくうよ〜。

というわけで卑怯者の私が作る、卑怯なおかずをご紹介します。


どこが卑怯なんだって?

あのね、メインのおかずはどうにでもなるの。

食べたい物を作ればいいんだから。

自分の食べたい物だったら何とか作れるし、嫌なら買えばいいじゃん。

だけど副菜を真面目に作るのは、しんどいものよ。

だから、少ない材料で短時間で作れる野菜のおかず。

私なんて、ごはん作りたくない時は副菜から取り組む。

その方が、すんなり作れたりするのよ。


『ズッキーニのカナッぺ』

 
①ズッキーニを薄めの輪切りにする

②マヨネーズと醤油を適当に混ぜる

③マヨネーズソースをスプーンでズッキーニに塗り

魚焼きレンジかオーブントースターで焦げ目が付くまで焼く


以前にもご紹介したことがあるけど、写真は無かったと思うから

改めて載せました。

ズッキーニ、うちでは評判良くないの。

だけど夏になったら、家庭菜園をやってる人からもらってしまう。


そりゃあね、色々やりましたよ。

サラダ、ラタトゥイユ、グラタン…

だけどズッキーニを怪しむ家族が

少しは食べてくれる調理法といったら、これ一択。

簡単で本当に美味しいから、やってみて。



『エリンギとベーコンのマヨネーズ炒め』


①フライパンでベーコンの細切りを軽く炒める

②拍子木切りにしたエリンギを加えて軽く炒める

③そこへ塩胡椒、マヨネーズ大さじ1杯、醤油小さじ1杯

たっぷりのネギを入れてサッと炒めたら出来上がり


またマヨネーズ味で申し訳ないけど、これは夫の大好物。

エリンギをサクサクと切るのも小気味良い。

食欲が出るので、季節を問わず作っとる。



『モヤシと焼き豚の和え物』


茹でて絞ったモヤシと適当に切った焼き豚を麺つゆで和えて

ゴマを振りかけただけ。

ちょっくらオシャレげな器に盛って出せば

チープな和え物も、何だか良さげに見えるという卑怯。

切った茹で卵でも添えたらボリュームが出るし

トマトで飾れば、気分だけは和風サラダ。

焼き豚は特別な物でなくても

お中元のハムのセットに入ってるようなので十分です。



『シシトウとチリメンジャコの炒め物』


①フライパンに油を小さじ1杯入れ、シシトウを弱火で炒める

②シシトウに焦げ目が付いて柔らかくなったら

チリメンジャコを適量加え、醤油とミリンで味付けしたら終了


これは病院の厨房メニュー。

シシトウはまだ売ってなかったので、これは辛くない唐辛子で作った。

シシトウはさておき、カリカリになったチリメンジャコが美味しい一品。

弱火で炒めるのは、音がうるさいから。

シシトウは箸であんまりかき混ぜなくても、ほっとけば焼ける。

味付けは、醤油とミリンの代わりに麺つゆでもOK。



『パック入りの生野菜』


実は、こういう物に偏見を持っていた私。

仕事で忙しいわけじゃないのに

生野菜までインスタントな物に頼るわけにはいかない…

とカタクナに思っていたわけよ。


だけど少し前に仕事で

こういう野菜を育ててパック詰めする工場の建設に関わったんよ。

ゲンキンなもので、それ以来、急に親近感が湧いて

このような完全手抜き食材を買うようになったんじゃ。


洗わなくていいのは、何と言っても楽ね。

葉っぱが柔らかいし、濡れてないからドレッシングの絡みも良くて

家族の食べっぷりも良好。

しょっちゅう使うようになった。

これはおすすめ。



『番外…お茶漬け』


これは、とあるお店でメインの料理の後に出される物で

私の作ったモンじゃありません。

タラコ、塩昆布、鮭、梅干し、海苔、漬物…

この組み合わせがすごく美味しい。


実はこれで、お茶漬けに目覚めた私。

市販のお茶漬けの素は、あんまり好きじゃないのよ。

で、家で一人の食事の時はやってる。

一人で食べること?ありますよ。

朝ね。

誰もいない台所で、一人お茶漬けをすする幸せといったら!


タラコと塩昆布は必須。

鮭はいちいち焼くの大変だから、瓶詰めの鮭フレーク。

梅干しと海苔と漬物は、登場したり、しなかったり。

だって、食が進んでおかわりしたくなると困るもの。

暑くて食欲の無い時にどうぞ。
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耳を疑え

2023年07月14日 10時48分44秒 | みりこん流
前回の記事、「お勝手相談室・他人の就職」で

しおやさんから身につまされるコメントをいただいた。

彼女も私と同じく、ご主人に先立たれたお姑さんと実家のお母さんがいて

その対応に追われているそうだ。


『怒りと諦めフォルダ』

『理解不能。20代女子か?フォルダ』

『おんどれら批評するだけで動かんでよくてええのう!フォルダ』

『「80代にならないとあんたもわからないんよっ!」

ハア?60代でもそう言っとったじゃんかフォルダ』

これら、老人を相手に四苦八苦する我々次世代のフォルダは

増えることはあっても減ることはなく、これから続くのが怖い…

もちろん良いことフォルダもあるが

今までとこれからの労力&気苦労で残念ながら相殺されてしまう…

そんな内容。

私と全く同じ心境である。


うちの場合は義父が他界して8年

介護が無くなって一息つけるかと思いきや

残った方がモンスター化するとは考えてもみなかった。

義父がいなくなることで

確かに意地悪や罵倒は無くなり静かになったが

伴侶という歯止めを失った女が、ここまで厄介な生き物に変貌するとは

想像だにしていなかったのだ。


が、私もこの8年、色々と考えた。

身内はもとより、周辺の他人も見回した。

明日は我が身、自分も夫を見送ったら

ああなるかもしれないのだから、その視線は真剣だ。


で、観察と研究の成果、いたって平凡な結論に到達。

「程度に個人差はあるものの、ほぼみんな、ああなる」。


人間は加齢と共に理性が薄れ、本来の人格が露呈していく。

それを「子供に帰る」と美しく表現する人もいるが

見た目が子供とは違うので、可愛いとは思えない。

加齢によって背中が曲がると、自動的にアゴを前に突き出すようになり

そうなると目線が下がるので

やはり自動的に上目使いで睨むような目つきになる。

するとバランスの問題で、口の方もやはり自動的にへの字になり

その口から延々と出るのは命令、不満、自慢。

可愛いわけがなかろう。

自分もああなるのだ。

こわっ!


じゃあ、少しでもマシな年寄りになるにはどうしたらいいのか…

私のテーマはこれに絞られ、あの人たちを反面教師に

外見や心がけを磨こうと考えもした。

まあ、横着な私のことだから、80才ぐらいになったら

そうしようと思う程度。


それにしても現実問題として困るのは

あの人らと接触するにつけ痛感する、とある症状だ。

その症状とは、こちらの生気を吸い取られるような疲労感。


残り少ない若さや水分をモンスターたちに吸い取られ

カラカラになって◯ぬしか無いのか…そんな絶望感が頭をよぎる。

私のような、VS老女生活を送る者にとって

これはゆゆしき問題であるから、早急な解決が望ましい。

何しろ「いつまで」という期限が未定なのだ。

カラカラになるのをまんじりともせずに待つわけにはいかない。


そこで、この疲労感の原因を考えるようになったが

ひとまずの答えが出るまでに、さほどの時間はかからなかった。

その答えとは、これだ。

「もしかして、耳が聞こえてないんじゃないのか」


結論が早かった理由には、同級生の友人けいちゃんの存在がある。

彼女も50代の前半あたりから、耳が遠くなりつつあるのだ。


彼女の場合、病院や老人ホームで調理の仕事に携わった年月が長いため

換気扇で耳をやられている。

家庭や飲食店と違って病院や老人ホームなど大型の施設は、設備の規定が厳しい。

調理場の規模に見合った大型の換気扇を取り付けるため

「ゴ〜」という換気扇の爆音を一日中、聞かなければならない。

大丈夫な人もいるが、中には聴力にダメージを受ける人が出てくるのである。


そのけいちゃんと会うと、彼女はしゃべり通しにしゃべる。

同級生5人で結成する5人会の女子会は

彼女のおしゃべりで始まり、そして終わったものである。


けいちゃんの声は、年々大きくなっていった。

万象繰り合わせて集まる楽しいはずの女子会は

黙ってお話しを聞く傾聴会と化す。

私はノンストップの大音響とうなづき過ぎで

女子会がお開きになる頃には頭が痛くなり

疲れが数日後まで残るようになった。

さりとて、それを指摘することはできない。

間違いなく傷つけてしまうからだ。


そのうちけいちゃんは東京、それから横浜へと転居。

会えなくなった寂しさを感じながら、ホッとしたのも事実である。


余談になるが、先月の彼女の帰省では

おしゃべりにとことん付き合う覚悟をして臨んだ我々。

彼女の高くて大きい声が周囲の迷惑にならないよう

食事の店は、さりげなく個室を選んで対応。

もっとも彼女は現役で働いているし、住まいも遠い横浜となれば話のネタは豊富だ。

こちらもそのうち会えなくなる期限付きとあって、楽しく過ごすことができた。



ともあれ老女と接触した時と、けいちゃんがいた頃の女子会…

この二つに共通点を発見した私だった。

身体にまとわりつくような疲れが、同じ種類なのだ。

彼女らが自分勝手なのではなく

聴力という物理的問題と考えるようになったきっかけである。


老女も機関銃のようにしゃべりまくる。

壊れたレコードのごとく、同じ内容の話を延々と聞いて

相づちを打つのは疲れるものだ。

が、聴力の衰えと仮定すると、気持ちはわかる。

人の話が聞こえないのは、つらい。

彼女らが最も恐れる孤立や疎外感に繋がるからだ。


これを回避するには、自分がしゃべる側になるしか無い。

自分がしゃべってさえいれば、人の話を聞かずに済む。

だから息継ぎもそこそこに、しゃべりまくるのではないのか。


さらに彼女らは、たまにこちらが話すと

「え?」、「はあ?」、「何?」…何度も聞き返す。

そのため、こちらは何度も同じ言葉を言い直す。

一回で終わることは滅多に無いので

聞き返される度に声のボリュームを上げる羽目に陥る。


そうしてやっと伝わったかと思えば、すでに向こうは無関心。

「フ〜ン…それでね、私はね」

こっちはハ〜ハ〜言ってるのに、早くも次の話題に移っとるし。

長いおしゃべりの傾聴と言い直しの繰り返し…

これで体力を消耗し、ヘトヘトになっているのかも。


しかも大きな声で何度も言い直すと、彼女らは機嫌が悪くなる。

こちらは親切のつもりでも、プライドが傷つくらしいのだ。

うちの義母ヨシコなんて、バカにしていると言い出し

キレて暴言を吐く。


かと思えば、私の話は聞こえなくて何度も聞き返すのに

医者の話すことは聞き返しもせず、ハイ、ハイと素直に聞いている。

もしかして、嫌いな人間の声は聞こえにくくて

好きな人の声だけ聞こえるのか。

何という勝手な耳じゃ!

どおりで聴力検査に引っかからんはずじゃ!


…と思っていたが、聴力の衰えという観点で見ると

男性の声の方が聞き取りやすいのかもしれない。

女性の声はキーが高くて早口だが、男性…特に医者は

適度な低音でゆっくり話す人が多い。

彼女らの耳には、その方がよく聞こえるのかも。


で、以後は低めでゆっくり話すことを心がけるようになった。

「え?」、「はあ?」、「何?」は相変わらずだが

言い直す回数は減ったように思う。

しかし今度は「機嫌が悪いのではないか」という疑惑を持たれ

「同居は苦労」などとこぼす。

やっとられん!


とまあ、何かと難しいのがVS老女生活。

彼女らの扱いにくさが、本人の性格や生き方に由来していると思えば

解決法が見当たらないので情けないが

聴力という物理的な問題だと考えたら、少しは気が楽になったように思う。

私は彼女らの魔力ではなく、聴力に疲れているのであった。
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お勝手相談室・他人の就職

2023年07月07日 10時36分09秒 | みりこんおばちゃんのお勝手相談室
先日、用があって、知り合いの久子ちゃんがうちに来た。

私より10才ぐらい年下の、50代の女性だ。


彼女は私と違って、心の美しい人である。

15年前ぐらいに相次いで亡くなった

お舅さんとお姑さんが大好きだったそうで

今でも義父母のことを話す時は涙声になるという珍種だ。


県外在住の義理親とは別居のままだったので

お互いに良い所しか見えてなかったのもあろうし

彼女の親友が、先にご主人の弟と結婚していて

義理親をあからさまに敬遠するので、兄嫁としての意地があった…

私はそう踏んでいる。

しかし彼女の美しい心の中では、実の親より好きだった…

ということになっているのだ。

いずれにしろ早めにいなくなると、こうしていつまでも慕われるらしい。


さて彼女は用が済むと、息子の話を聞いて欲しいと言った。

今、そのことで非常に辛い思いをしているという。


彼女の息子、A君は25才。

東京にある大学を卒業すると、そのまま東京で就職した。

勤務先はベンチャー企業。

職種も聞いたのだが、忘れてしまった。


A君は、やり手と評判の若い社長に心酔し、一生懸命働いた。

都会的な社長は、田舎育ちのA君にとって

素晴らしい人に見えたという。


将来は全国展開を予定している…

君を幹部にして、その管理を任せたい…

社長に言われたA君は、ますます一生懸命働いた。

早出残業代もボーナスも無く

仕事の合間には社長の運転手をさせられるなど

労働条件は良くなかったが、幹部への昇進を励みに寝る間も惜しんで働いた。


が、そのうち激務に耐えられなくなって退職。

半年前、失意のうちに帰郷した。

大学時代から一人暮らしに慣れているので、今さら親と住みたくない…

A君はそう言って地元にアパートを借り、仕事を探していた。

すると友だちが自分の勤務先を紹介してくれて、ほどなく再就職をはたす。


A君は3ヶ月の試用期間を経て、このほど正社員になった。

この会社は地元の企業だそうで

息子が近くに居てくれる心強さに、久子ちゃんはとても喜んだ。


しかしそれも束の間、新しく入った会社の東京支店に配属が決定。

せっかく近くへ帰って来たというのに

また東京へ行ってしまうとなると残念で仕方がなく

久子ちゃんはどうにも自分の気持ちに折り合いをつけられずに

悩んでいるのだった。


同じ東京なら、前の会社に居た方がよかったではないか…

前の会社の社長は有名な芸人やタレントと友だちのビッグな人…

運転手を務める時の息子は、それら芸能人と社長を車に乗せて

銀座や六本木へ行くこともよくあった…

だからあのまま社長の元で頑張っていれば

息子にも輝かしい未来が拓けたのではないか…

いそいそと上京の準備をするA君と、サバサバしたご主人を横目に

久子ちゃんはそんな思いにかられて、毎日苦しいのだという。


心美しき人は、悩みが多いものである。

心が美しい=経験値が低い…ということかもしれない。

涙を溜めて苦しみを吐露する久子ちゃんを

気の毒なような羨ましいような気持ちで眺めつつ、私は言った。

「芸能人とチャラチャラする社長に、ロクなのおらんよ」


「えっ?そうなんですか?」

驚く久子ちゃん。

「電波芸者は飲み食いさしてくれて、小遣いくれる人の所に集まるわいね。

そんなことするより、きちんと残業代払うたり

専属の運転手を雇うのが先じゃが。

お金の使い方を間違う人の会社は続かん。

辛抱しても倒産したら、責任押し付けられるよ」


「ええ〜?!」

呆然とする久子ちゃん。

「じゃあ…息子は…辞めて良かったんですか?」

「当たり前じゃん」

「そう言えば、息子が言ってました。

会社が恵比寿にあったけど、家賃がすごく高いって。

別に恵比寿じゃなくても仕事ができるんだから

そんな大金があったら残業代欲しいって、ボヤいたことがあります」

「地代の高い所に会社が無いと信用されんけん、無理をするんよ。

今どきは家賃の安い田舎に会社を構えて

浮いた経費を社員の福利厚生に使うようになってきとるんよ。

ベンチャーどころか、時代遅れじゃが」

「そういうものなんですか…」

「そういうものよ。

格好で仕事する人の所に長居をしても、あんまりいいこと無いけん

キッパリ諦めんさい」

「わかりました」

ホッとした顔になった久子ちゃんであった。


「ところで息子さんは、どこへ就職したん?」

私は彼女にたずねた。

「◯◯社…」

久子ちゃんは涙を拭きながら答える。

なんだ、ユータローのとこじゃんか。

同級生で唯一のセレブ、ユータローが

親から受け継いで社長をやっている会社だ。


そのことを言うと、久子ちゃんの顔がパッと明るくなった。

「本当ですか?!」

「本当よ。

彼の所だったら大丈夫。

ユータロー社長は、人の痛みがわかる子よ」

「そう言えば、息子も言ってました。

社長は温かい人だって」

「それがわかる子なら、絶対に大丈夫よ。

東京は大事な拠点じゃけん、わざわざ経費を使うて

バカを行かせるわけないじゃん(バカに経費を使う本社みたいな所もあるけど)。

大学も最初の就職も東京じゃったら安心して任せられるけん

行かせるんじゃが(多分)。

息子さんは期待されとるんよ(知らんけど)。

笑うて送り出してやり」

「それでいいんでしょうか…」

「いいんですっ!

出世して、社長の右腕として帰って来ますっ!(どうかわからんが)」

「わかりました!

これで気持ちの整理がつきました!

あの、社長さんに会うことがあったら

息子のことをよろしく言ってもらえませんか?」

「言っときます(同窓会は解散したから、会うかどうか知らんけど)」

「嬉しい!みりこんさんに話して、本当に良かった!」

「私も聞いて良かった。

息子さんに、社長を信じて頑張れって言っといて(我ながら無責任に呆れる)」

「はい!言っておきます!」


ありがとうございました〜…

手を振って帰る久子ちゃんを見送りながら

またいい加減なことを言ってしまったと反省した。
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手抜き料理・夏バージョン

2023年07月05日 08時30分47秒 | 手抜き料理
気がつけばもう7月。

雨は大丈夫でしたか?

何だか心配な夏になりそうです。


夏と言えば、料理が好きなほうの私でも

夏の料理は年々きつくなる一方よ。

だけど今年の夏は、一歩前進したかも。

だって、ナスの画期的な料理を知っちゃった。


義母ヨシコはナスが好き。

ナスは偏食女王の彼女が食べられる、数少ない野菜の一つ。

だから夏は、冷たく冷やした焼きナスの出番多し。


だけど、焼きナスを作るのは面倒よ。

切れ目を入れたナスを丸ごと、魚焼きのレンジで焼けばいいんだから

取りかかるのは簡単。

でも、丸こげになったナスの皮を熱いうちに剥がして

身だけにするのが厄介。

手が熱いじゃん。


丸コゲのナスを冷ましてから、皮を剥がせばいいのはわかってる。

だけど熱いうちでないと、皮が薄く剥けないのよね〜。

熱々の皮を剥がした時、ちょっとだけ焦げて色づいた

グリーンの身が出てくる。

あれが香ばしくて美味しいのよ。


それを適当に切って冷やし

カツオ節やおろしショウガを乗っけて醤油で食べる…

ヨシコでなくても、美味いと思うわよ。

ショウガを食べないヨシコの焼きナスは、ショウガ抜きだけどね。


そのヨシコ、ナスへの情熱が年々増してきて

最近は焼きナスを酢味噌で食べたいと言い出した。

オッケー…ということで作るようになったんだけど

皮を剥いたナスに、トロッと酢味噌をかけたら

ナスの水分が出て味噌汁みたいになるんだわ。


酢味噌は食べる直前にかけるなんて常識は、通用しない。

食べるのが遅い彼女が焼きナスに取り組む頃には

味噌汁に変わり果て、「これ何?」状態。


そうこうしていたら、いつもの女子会があり

突き出しに酢味噌をかけたナスが出てきた。

ナスは皮ごと、蒸してある。

だから色の方は淡い緑色じゃなくて、地味な茶色だけど

カラシを効かせた酢味噌が無事じゃん。

しかも美味しい。


で、真似してみた。

《蒸しナスの酢味噌がけ》


わざわざナスを蒸したのかって?

ノー!

蒸し器を出そうと手をかけたけど、かったるくなってやめた。


ヘタを取ったナスに一ヶ所、ブスッと切れ目を入れて

1本ずつラップで巻いて電子レンジへ。

切れ目を入れておかないと、破裂するかもしれないからね。


レンジにかける時間は、1本につき2分ぐらい。

レンチンが終わったら、すぐにラップを外して放置すると

皮の紫色が残る。

ラップを外さずに放置すると、地味な茶色になる。


冷めたら縦半分に切り、1センチぐらいの厚さで斜めにスライス。

台所も暑くならないし、簡単じゃ〜ん!

しかもナスの皮でブロックされるので、酢味噌が味噌汁にならない。

トロリを保った酢味噌がナスによく絡み、オツな一品になった。


酢味噌は白味噌、酢、カラシ、酒、砂糖、ミリン、ゴマを

好みで適当に混ぜ合わせて完了。

あれこれ材料を混ぜるのがかったるければ

「そのまんま酢の物」みたいな味付け酢に

白味噌とカラシ、ゴマを混ぜてもいいし

市販の酢味噌を買ってもいい。

ヨシコの反応も上々で、この夏のナスはこれに頼るつもり。


《豚バラの味噌漬け》


5ミリくらいの厚さの豚バラを味噌漬けにして焼いた一品。

これは前に、お寺料理で作って評判が良かった。

親切な梶田さんが炭火で焼いてくれたけど、味噌は焦げやすい。

思い切り焦げていて、何だか残念だったので

先日、家で作ったのをごらんください。


今回は、いただき物の味噌が家族に不評だったため

迷わず味噌漬けに使った。

田舎って、手作り味噌が横行してるのよ。

美味しい手作り味噌というのに当たったことは無いんだけど。


味噌ダレは味噌、砂糖、酒、ミリン、ニンニク、少量の醤油を好みで。

味噌ダレに漬けたら数日間、冷蔵庫で保存。

焼く時は味噌を拭き取り、フライパンで裏表を軽く焼けばできあがり。


炭火でなくフライパンで焼く時は脂がたくさん出るので

キッチンペーパーに脂を吸わせながら焼く。

人はどうだか知らないが、うちでは家族が大好きな一品。

焼く時は当然暑いが、脂っこいのでそうたくさん食べられないため

量が少なくて済む。



しかし料理については、もっと涼しくて楽な方法を発見した。

きっかけはこの春に起きた、卵の不足。

「スーパーへ行ったら、卵がひとパックしか買えなかった」

「高くなった」

実家通いが日課で、結婚以来42年

毎日来る夫の義姉カンジワ・ルイーゼがぼやくようになった。

何事も計画で動く彼女は、不測の事態が起きると人一倍こたえる性分である。


優しい!私は、すかさず卵のパックを彼女に差し出す。

だってうちは生協の宅配で、週に40個の卵を買っている。

ダブついた時は注文を控えて、調整しながらやってきた。

卵が不足するようになってからは

値段は上がったものの、変わらず供給されているので

ルイーゼに分けてやるぐらい何ともない。


すると彼女はお礼のつもりか、翌日、前の晩の残り物を持って来た。

残り物を持ち込む習慣は、以前から細々と続いているが

月に数回、母親一人分だった。

しかし今回は我々のことも考えてか、量が多い。

塩分を憎む彼女の料理は味が無く

しかも前夜の残り物なので味が落ちているため、誰も喜ばない。

それでも、その気持ちが嬉しいではないか。


私は毎週、生協が届いた日には

ルイーゼに1パックの卵を捧げるようになった。

卵の心配が無くなったルイーゼは、料理を持って来る回数が増えた。

非常にありがたい。

義母ヨシコは娘の持って来た物を珍重し

そちらを主に食べるので、彼女の特別食を作る回数が減ったからだ。


偏食の多いヨシコには、家族と別の料理を作って出すことがほとんど。

やった人でないとわからんだろうが、そりゃもうしんどい。

頭の中にはいつも、ヨシコ用の別メニューが引っかかっている。

メンタルの弱い人や、料理の仕事をしたことのない人だったら

生きる意味すら見失うほどの苦行だと思う。


何でそこまで姑を甘やかすのか…

同居したことの無い人は、そういった疑問を抱くと思う。

私だってやりたくない。


が、生き残るのはワガママな人と相場は決まっている。

「私の食べる物は無いのね」

低い声で言い捨て、ふくれっつらで冷蔵庫を引っかき回して肉を探し

これ見よがしに一人分のしゃぶしゃぶなんか作って

無言で食べられてごらんよ。

一緒に食事をする他の者は、どんな気持ちか。

毒気で胃をやられるよ。

何度か経験して懲りたので、この状況を避けるためにやっている。

家族の健康と平和のためには、主婦が負担を背負うしかないのだ。


これが卵1パックで少しでも軽くなれば、言うことは無い。

娘が作ってくれた、届けてくれたと大袈裟に言いながら

皆に食べろ食べろと執拗に勧めるのはうるさいが

ふくれて毒を撒き散らされるよりはマシだ。


私は、この卵作戦を続けるつもりだった。

しかし最近、卵の量も価格も元通りになりつつある。

それはとても良いことだと思うが、もう卵と料理の物々交換は終了かも。

なにげに残念だ。
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