家事をしながらテレビの料理番組を見るの、わりと好き。
人が作るのを見ているうちに、ちょっとやる気が出て
全然違う物を作るという奮起用。
が、テレビに出てくる料理の先生には、私の好みが全開。
見る見ないは、先生によって決めると言ってもいい。
何が基準かというと、まず声。
声が高くて時々裏返る人は、こっちがしんどくなるので避ける。
だからこの数年、あちこちの料理番組で引っ張りダコの
京都弁の着物美人は無理。
それから、いつもキャッキャとハイテンションで
近年は息子の嫁と一緒に活躍している可愛いおばちゃんも無理。
私のワガママは、声だけでなく話し方にも及ぶ。
そのためキューピー3分クッキングに出てくる
おかっぱ頭の細い女性が苦手。
「……を……して、これを……ます」
繋ぎの言葉だけは大きくはっきりとおっしゃるんだけど
肝心の名詞や動詞を言う際の声がいたずらに小さい。
料理ってカチャカチャとかジャージャーとか、音が出るじゃん。
フライパンで炒め物なんて紹介するシーンでは
神経を集中させて聞かなければならず、疲れるのだ。
かたや同じキューピー3分クッキングに出てくる
ぽっちゃりした女性が先生の時は好んで見る。
さっきまで家に居ました〜…みたいな自然体で
無表情かつ淡々と流れるように話すので、頭に入りやすい。
それから、先生が左利きなのも無理。
韓国系の名前の素敵な男性はすごく有名で
低めの落ち着いた声が魅力だけど、残念ながら左利きだ。
決して左利きを差別しているのではない。
料理人にも左利きは多いし、うちの長男も外では右利きだが、家では左利き。
私も長男ほどではないものの、本来は右利きでありながら
ほんの少しだけ左利きのケがある。
だからなのかは不明だが、料理を教える立場の人が左利きだと
当たり前だが左手で包丁や箸を扱う。
その状態でテレビの画面越しに向かい合わせになると
私の古びた頭に入って来ないのだ。
よって参考にならないため、見ても仕方がないという身勝手な理由。
先出の京都弁の着物美人も左利きなので、どうあがいても私には無理。
さらに、ご自分で個性的な四文字熟語の飲食店を経営し
斬新なアイデアで視聴者を驚かせる中年男性。
芸人みたいなしゃべりが人気で、たくさんの料理番組に登場している人だ。
最初のうちは楽しく見ていたが、途中から苦手になった。
ある時、冷やし中華を紹介した番組で
「冷やし中華はじめました」と書いた自筆の書を披露されたが
冷やしの“冷”の右側のツクリが、“今”になっておったんじゃ。
もちろん、間違いは誰にでもある。
それがどうした、という類いのミスだ。
しかし本人は自信満々、周りのスタッフもそれに気づかないまま
収録して放送する神経に失望。
こんな男の言うことなんぞ聞いとられんわい…
ということでお別れ。
我ながら、ひどい仕打ちである。
そんな私はこのところ、ほぼ毎日
LINEで同級生ユリちゃんの料理の相談に乗っている。
僧侶であるご主人のモクネン君は
現在、1年で一番忙しいお盆シーズンを迎えていて
そのサポートのためである。
お盆に忙しいのは毎年のことだが、今年の彼らは去年とは違う。
2月、モクネン君が突然意識不明になり、本物の仏様になりかけたのだ。
心臓らしい。
数日の入院で生還したが、それ以来ユリちゃんは
モクネン君の身体を気遣うようになった。
憎しみ合った夫婦とはいえ、彼に亡くなられたら
マジで困ることを知ったからである。
なぜなら僧侶の資格を持たないユリちゃんは
モクネン君が亡くなった途端、お寺に住み続ける権利を失う。
「坊主丸儲け」と人は安易に言うが、その分、掟は厳しいのだ。
さらにモクネン君がリアル仏様になりそうだった時
元々ソリの合わない彼の弟夫婦はものすごく張り切り
次期当主としての行動を開始したという。
兄嫁のユリちゃんが彼らに追い出されるのは、決定事項と言ってよかろう。
そうなると、お寺の仕事を手伝うユリちゃんの給料も途絶えてしまう。
憎い旦那がいなくなった途端、家と収入を失って
どうやって暮らすというのだ。
そして最も深刻なのは
モクネン君が面倒を見ているユリちゃんの実家のお寺。
あのいい加減な弟が
兄のようにこまめに通って盛り立ててくれるとは思えない。
するとユリ寺は消滅するしかなく
その上、ユリ寺の仕事を手伝うことで給料を得ていた
ユリちゃんの兄嫁さんまで路頭に迷ってしまう。
家と収入を失ったユリちゃんが実家に帰ったとしても
兄嫁さんと二人、どうやって食べて行くのだ。
どちらも外で働いたことが一度も無いので
当然、厚生年金の支給は無く、仕事を探すしかない。
60半ばになって初めて働きに出るとなると、大変だ。
このように、伴侶を失うことで生じる様々な現実を
ユリちゃんは思い知った。
それを回避する方法は、ただ一つ。
とにかくモクネン君を長生きさせること。
そこで体力を付けさせるため、食事に気を使うようになったのだった。
「色々教えてほしい」
ユリちゃんは言うが、この人は料理が一番の苦手。
登場する食材はできるだけ少なく
調理法は焼くかチンするかの簡単な料理しか受け付けない。
それでいながら、神経質な子供のように食欲の波の大きいモクネン君が
飛びついて食べそうな料理を望む。
料理の苦手な人って、最小限の手間で最大限の評価を欲しがるものなのよね。
そこで提案したのが、主菜は肉屋か惣菜屋で買うか
レンジでチンの冷凍食品でやり過ごし、副菜を手作りして誤魔化す案。
先日、ここでご紹介したエリンギとベーコンのマヨネーズ炒めや
万願寺とうがらしのジャコ炒め、モヤシと焼き豚のゴマ和え…などなど。
が、簡単な物となると、だんだん伝える物が無くなっていく。
直近のはこれ。
市販の調味酢をかけるだけの酢の物。
ほぼ投げやり。
モクネン君の好物、大葉とミョウガで釣る作戦だ。
錦糸卵はそうめんの残り。
ボリュームを出したければ、ハムまたは焼き豚、ツナなどの
動物性タンパク質をプラスする。
または鶏ササミに酒を振り、ラップをかけてレンジでチン…
冷めたら手で裂いて加えても美味しい。
「あの人、酢の物は苦手なのよね」
これを紹介するとユリちゃんは否定したが
モクネン君、お寺の会食では酢の物をけっこう食べている。
こってり料理の好きなユリちゃんが、酢の物を嫌いなのだ。
嫌いな物を作りたくないから、旦那が嫌うと言っているのだ。
自分の好物しか作りたくなくて錯覚を押し通すのも、料理嫌いの特徴である。
それから、オクラの和え物。
茹でて刻んだオクラ、ネギ、カツオ節、ゴマに
醤油をかけて混ぜるだけの病院メニューだ。
モクネン君の好物、ミョウガと大葉を混ぜても美味しい。
サイドメニューばっかりではナンなので、牛丼も紹介。
牛肉とタマネギを炒め、市販のすき焼きのタレをかけたら
すぐできる。
私はダシと酒、砂糖、醤油で味付けをするが
彼女の場合、すき焼きのタレの方が簡潔で良いだろう。
今時分はキュウリのお裾分けも押し寄せているだろうから
浅漬けも紹介。
キュウリ小2本か大1本を3ミリぐらいのスライスにして
そのままビニール袋へ入れたら
そこへ顆粒の昆布ダシを一パック、塩昆布をひとつかみ
あれば七味か唐辛子を少々投入してビニール袋の空気を抜き
口を縛って冷蔵庫へ。
朝作ったら、夜には美味しい浅漬けになっている。
実は彼女の魂胆はわかっている私。
簡単で効果の高い料理を伝えることに辟易した私が
実物を届けるのを待っているのだ。
現に公務員OGの梶田さんは、お得意のグリーンカレーを
すでに彼女の元へ届けたそうだ。
ユリちゃんは料理を教えてと言いながら
毎日、梶田さんの立派な行いを伝える。
私のライバル心を刺激したいらしい。
が、残念ながら何とも思わない。
その手に乗るか…と思いながら、連日のレクチャーに勤しんでいる。
人が作るのを見ているうちに、ちょっとやる気が出て
全然違う物を作るという奮起用。
が、テレビに出てくる料理の先生には、私の好みが全開。
見る見ないは、先生によって決めると言ってもいい。
何が基準かというと、まず声。
声が高くて時々裏返る人は、こっちがしんどくなるので避ける。
だからこの数年、あちこちの料理番組で引っ張りダコの
京都弁の着物美人は無理。
それから、いつもキャッキャとハイテンションで
近年は息子の嫁と一緒に活躍している可愛いおばちゃんも無理。
私のワガママは、声だけでなく話し方にも及ぶ。
そのためキューピー3分クッキングに出てくる
おかっぱ頭の細い女性が苦手。
「……を……して、これを……ます」
繋ぎの言葉だけは大きくはっきりとおっしゃるんだけど
肝心の名詞や動詞を言う際の声がいたずらに小さい。
料理ってカチャカチャとかジャージャーとか、音が出るじゃん。
フライパンで炒め物なんて紹介するシーンでは
神経を集中させて聞かなければならず、疲れるのだ。
かたや同じキューピー3分クッキングに出てくる
ぽっちゃりした女性が先生の時は好んで見る。
さっきまで家に居ました〜…みたいな自然体で
無表情かつ淡々と流れるように話すので、頭に入りやすい。
それから、先生が左利きなのも無理。
韓国系の名前の素敵な男性はすごく有名で
低めの落ち着いた声が魅力だけど、残念ながら左利きだ。
決して左利きを差別しているのではない。
料理人にも左利きは多いし、うちの長男も外では右利きだが、家では左利き。
私も長男ほどではないものの、本来は右利きでありながら
ほんの少しだけ左利きのケがある。
だからなのかは不明だが、料理を教える立場の人が左利きだと
当たり前だが左手で包丁や箸を扱う。
その状態でテレビの画面越しに向かい合わせになると
私の古びた頭に入って来ないのだ。
よって参考にならないため、見ても仕方がないという身勝手な理由。
先出の京都弁の着物美人も左利きなので、どうあがいても私には無理。
さらに、ご自分で個性的な四文字熟語の飲食店を経営し
斬新なアイデアで視聴者を驚かせる中年男性。
芸人みたいなしゃべりが人気で、たくさんの料理番組に登場している人だ。
最初のうちは楽しく見ていたが、途中から苦手になった。
ある時、冷やし中華を紹介した番組で
「冷やし中華はじめました」と書いた自筆の書を披露されたが
冷やしの“冷”の右側のツクリが、“今”になっておったんじゃ。
もちろん、間違いは誰にでもある。
それがどうした、という類いのミスだ。
しかし本人は自信満々、周りのスタッフもそれに気づかないまま
収録して放送する神経に失望。
こんな男の言うことなんぞ聞いとられんわい…
ということでお別れ。
我ながら、ひどい仕打ちである。
そんな私はこのところ、ほぼ毎日
LINEで同級生ユリちゃんの料理の相談に乗っている。
僧侶であるご主人のモクネン君は
現在、1年で一番忙しいお盆シーズンを迎えていて
そのサポートのためである。
お盆に忙しいのは毎年のことだが、今年の彼らは去年とは違う。
2月、モクネン君が突然意識不明になり、本物の仏様になりかけたのだ。
心臓らしい。
数日の入院で生還したが、それ以来ユリちゃんは
モクネン君の身体を気遣うようになった。
憎しみ合った夫婦とはいえ、彼に亡くなられたら
マジで困ることを知ったからである。
なぜなら僧侶の資格を持たないユリちゃんは
モクネン君が亡くなった途端、お寺に住み続ける権利を失う。
「坊主丸儲け」と人は安易に言うが、その分、掟は厳しいのだ。
さらにモクネン君がリアル仏様になりそうだった時
元々ソリの合わない彼の弟夫婦はものすごく張り切り
次期当主としての行動を開始したという。
兄嫁のユリちゃんが彼らに追い出されるのは、決定事項と言ってよかろう。
そうなると、お寺の仕事を手伝うユリちゃんの給料も途絶えてしまう。
憎い旦那がいなくなった途端、家と収入を失って
どうやって暮らすというのだ。
そして最も深刻なのは
モクネン君が面倒を見ているユリちゃんの実家のお寺。
あのいい加減な弟が
兄のようにこまめに通って盛り立ててくれるとは思えない。
するとユリ寺は消滅するしかなく
その上、ユリ寺の仕事を手伝うことで給料を得ていた
ユリちゃんの兄嫁さんまで路頭に迷ってしまう。
家と収入を失ったユリちゃんが実家に帰ったとしても
兄嫁さんと二人、どうやって食べて行くのだ。
どちらも外で働いたことが一度も無いので
当然、厚生年金の支給は無く、仕事を探すしかない。
60半ばになって初めて働きに出るとなると、大変だ。
このように、伴侶を失うことで生じる様々な現実を
ユリちゃんは思い知った。
それを回避する方法は、ただ一つ。
とにかくモクネン君を長生きさせること。
そこで体力を付けさせるため、食事に気を使うようになったのだった。
「色々教えてほしい」
ユリちゃんは言うが、この人は料理が一番の苦手。
登場する食材はできるだけ少なく
調理法は焼くかチンするかの簡単な料理しか受け付けない。
それでいながら、神経質な子供のように食欲の波の大きいモクネン君が
飛びついて食べそうな料理を望む。
料理の苦手な人って、最小限の手間で最大限の評価を欲しがるものなのよね。
そこで提案したのが、主菜は肉屋か惣菜屋で買うか
レンジでチンの冷凍食品でやり過ごし、副菜を手作りして誤魔化す案。
先日、ここでご紹介したエリンギとベーコンのマヨネーズ炒めや
万願寺とうがらしのジャコ炒め、モヤシと焼き豚のゴマ和え…などなど。
が、簡単な物となると、だんだん伝える物が無くなっていく。
直近のはこれ。
市販の調味酢をかけるだけの酢の物。
ほぼ投げやり。
モクネン君の好物、大葉とミョウガで釣る作戦だ。
錦糸卵はそうめんの残り。
ボリュームを出したければ、ハムまたは焼き豚、ツナなどの
動物性タンパク質をプラスする。
または鶏ササミに酒を振り、ラップをかけてレンジでチン…
冷めたら手で裂いて加えても美味しい。
「あの人、酢の物は苦手なのよね」
これを紹介するとユリちゃんは否定したが
モクネン君、お寺の会食では酢の物をけっこう食べている。
こってり料理の好きなユリちゃんが、酢の物を嫌いなのだ。
嫌いな物を作りたくないから、旦那が嫌うと言っているのだ。
自分の好物しか作りたくなくて錯覚を押し通すのも、料理嫌いの特徴である。
それから、オクラの和え物。
茹でて刻んだオクラ、ネギ、カツオ節、ゴマに
醤油をかけて混ぜるだけの病院メニューだ。
モクネン君の好物、ミョウガと大葉を混ぜても美味しい。
サイドメニューばっかりではナンなので、牛丼も紹介。
牛肉とタマネギを炒め、市販のすき焼きのタレをかけたら
すぐできる。
私はダシと酒、砂糖、醤油で味付けをするが
彼女の場合、すき焼きのタレの方が簡潔で良いだろう。
今時分はキュウリのお裾分けも押し寄せているだろうから
浅漬けも紹介。
キュウリ小2本か大1本を3ミリぐらいのスライスにして
そのままビニール袋へ入れたら
そこへ顆粒の昆布ダシを一パック、塩昆布をひとつかみ
あれば七味か唐辛子を少々投入してビニール袋の空気を抜き
口を縛って冷蔵庫へ。
朝作ったら、夜には美味しい浅漬けになっている。
実は彼女の魂胆はわかっている私。
簡単で効果の高い料理を伝えることに辟易した私が
実物を届けるのを待っているのだ。
現に公務員OGの梶田さんは、お得意のグリーンカレーを
すでに彼女の元へ届けたそうだ。
ユリちゃんは料理を教えてと言いながら
毎日、梶田さんの立派な行いを伝える。
私のライバル心を刺激したいらしい。
が、残念ながら何とも思わない。
その手に乗るか…と思いながら、連日のレクチャーに勤しんでいる。