殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

スカートをはいた男友達

2008年11月30日 13時28分24秒 | 不倫…戦いの記録
彼女の手形のついたフロントガラスを拭いていると

義母が来たので、予定どおり

町内の病院へお見舞いに行きました。


帰り道、道ばたにたこ焼きの屋台が出ていました。

義母はそれをたくさん買って

「会社に持って行ってみんなに食べさせよう」


義母の気まぐれには慣れています。

いつも家に居るので、一度出たらなかなか帰りたくないのです。


会社に着くと、まぁ、なんということでしょう。

さっきの営業車が停まっていました。

そういえば、会社の玄関マットとモップは

長年そこのものを使っていたのでした。


ちょうど交換日だったのか、それとも私と会ったことを報告しに来たのか。

どちらにしても、営業関係の人がする横付けでなく

奥まった場所へ隠すように停めたことになんとなくムッとしました。

そこで、頭から突っ込んだ営業車が出られないように

後ろへピッタリと車をつけてやりました。


先に降りた義母は、たこ焼きを持って事務所に入って行きましたが

入れ違いにあの女性が出て来て、私とすれ違いました。



双方チラリと視線を交わし、値踏み。

     へん!帰ろうとしたって、おまえの車は出られんわい…


義母は何やら夫に意見しているところでした。

「マットの交換に来た人にまで

 応接セットに座らせてコーヒー飲ませるなんて間違っている」

という内容でした。


「お父さんがあんたを頼りないと言うのは

 そういう甘さじゃない?」


       たまには正論言うじゃんか…


そこへ夫の携帯が鳴りました。

メールをちらっと見た夫は

「車、動かしてやってくれ」 


携帯を持たない義母は意味がわからずポカンとしていました。

ちなみに当時の私たち夫婦は

双方のアドレスどころか番号も知りませんでした。

必要なかったからです。


人違いをしておいて逃げ出すぶしつけなミスに

嫌がらせをしたつもりでしたが

結局自分で後始末…あぁ、馬鹿馬鹿しい。


営業車に乗り込み、前を向いたまま

まんじりともしなかった彼女は

車が出せるスペースが空いたとたん

バックで飛び出して行きました。


帰り道も、義母は納得していないようでした。

「長椅子に二人並んで座ってたのよ!

 人に見られたら誤解されるじゃないの」

        誤解じゃないって…


「最近の若い子は、立場ってものを知らないのね。

 たかだかマットを換えに来たくらいで

 いちいち勧められるままに座りこんで、コーヒーまで飲んで」


      あんたの息子の女だからだよ…



その夜、夫は案の定帰って来ませんでした。

亭主持ちの上、親と同居だったE子と違い

今度は気楽に泊まれる相手らしく、確かに外泊は増えていました。

その日は特にいろいろあったのですから、無理もありません。


いつからでしょう。

子供たちは、日が暮れると必ず聞きます。

「今日、父さんは?」


夫は彼女が出来ると、たいてい同時に男性の親友が出来ます。

「今日は○○君と遊びに行くから遅くなる」

「○○君たちと徹夜で麻雀だから」

急に仲良くなった男の友達と交流、という形を取るのが

夫にとって話しやすい言い訳でした。


言い訳をしないと出してくれない奥さんならいざ知らず

我が家は野放しですが、それでもするわけです。


毎回あれこれ考えなくてもいいウソだし

うまく言い訳してやっと出て来た…

そんな障害が無いと、燃えないのかもしれません。


実在する人物の場合もあれば、架空の場合もあります。

最初は数人を使い分けますが

そのうち面倒になるらしく、最終的には1名にしぼられます。


子供たちはもう大きくなり

父親がどんな人間か、およそ理解していました。

頼みもしないのに、ご丁寧に教えてくれる人々もいました。

車やバイクで遠出をするようになった彼らが

自身で目撃したことも何度かありました。


「今日、父さんは?」

私は一応答えます。

      「○○君のところだってさ」

「髪の長い、スカートをはいた○○君のところ?」


そしてみんなでアハハーと笑うのです。

行事みたいなものです。

知らない人が見たら、いびつに感じると思います。


夫にはすでに、友人と呼べる人はいませんでした。

行動を共にすると、どんな誤解を招くかも知れず

本人はもとより奥さんたちにも警戒されていました。


同級生や趣味の仲間だった人たちも離れて行きました。

自ら招いた孤独ですが

その代償は依然として手近の素人女性に求められます。

今度は出入りの営業レディというわけです。


コマーシャルを見て

○○コちゃんと○○○○う君のキャラクターが可愛いと言うと

夫はすぐにそのイラスト入りの布製バッグを

各種のモップと一緒に持ち帰ってくれたことがありました。

 
         即刻廃棄
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悪代官

2008年11月29日 12時23分50秒 | 不倫…戦いの記録
我が家に届かなかった品物から

すでにおよそのことは理解できました。


クリスマスブーツやクッキーを喜ぶ人間が存在する家庭。

家族で食べるお餅やおせち料理を

よそからポンともらって、誰も違和感を感じない家庭。


            …大黒柱が存在しない家庭…


夫は確かに家庭人としては

極悪非道で悪行三昧の悪代官みたいな存在ですが

本来の性質は、涙もろくマメで優しいのです。

その長所は結婚前、私にも充分に施行されました。


今は長所を家でなく、よそでご披露したがるので

家族にとっては「そんなご無体な…」

という結果になってしまうだけなのです。


釣った魚にエサをやらないどころか

釣った魚にエサの催促をするようなものです。 


力の入れどころのズレと移り変わり…。

ぼんやりの私にも

さすがにそろそろ夫の心理がわかってきました。


夫のスイッチは「ちょっとかわいそう」がキーワードです。

「とってもかわいそう」では手に負えず

「まったくかわいそうじゃない」には自信がないので近づきません。


それは、夫独自の物差しであって

一般社会では通用しない基準です。

弱い自分が、JAS規格に認証されないオリジナルの物差しで

格下に思える相手を探す。

たいへん失礼なことです。


それは、差別心と英雄願望と歪んだボランティア精神が混濁した

一種の優越感ではないかと思います。


私もまた、夫と交際していた頃は

どこかに「格下感」「ちょっとかわいそう臭」が漂っていたのかもしれません。

そんなことを考えついたところで、何の解決にもなりませんが。


人に迷惑がかかるだの、みっともないだの思えるうちは

まだ愛なのです。

馬鹿は馬鹿のまま、馬鹿を道連れにどこまでも落ちて行けばいいのです。

悪代官には、越後屋がお似合いです。



そのまま日は過ぎて行きました。

義母は、夫に荷物をことづける時は

事前に連絡してくるようになりました。


私は休日になると、時々義母に呼び出され

家まで迎えに行っては

車で用事や買い物に連れて行くことがありました。

ガソリン代を経費で払ってもらっているので

たまにはお返しのつもりで足の役を買って出ていました。


義姉は、デパートやスーパーなど

物を買ってもらえる時は必ず義母を連れて行きますが

他の雑用の時は、急に仕事が忙しくなるらしく 

たいていの用事は、私と一緒の時に済ませます。


その日は、美容室まで迎えに行って

その後、知人のお見舞いの予定です。

店に行って声をかけると、今おしゃべりが楽しいと言うので

少し離れた共同の駐車場で待っていました。


車を運転しない義母は

待つ身のつらさを知らないので、平気で人を待たせます。

よって義母と行動する時は、文庫本必携です。

シートを半分倒し、読書にふけっておりました。


すぐ隣に一台の営業車が入って来ました。

某レンタルモップ会社の軽ワゴン車です。


制服を着た30代半ばの女性が降りて来て


「わっ!」


と言いながら、おどけた仕草で

私の車のフロントガラスに覆い被さりました。


       こっちが「わっ!」です。


びっくりして飛び起きた私を見て、女性も驚いたようです。

急いで営業車に乗り込むと

すごい勢いでバックして走り去ってしまいました。



         なんだ…あれ…



重要なことを思い出しました。

その日、私の車は点検に出す予定だったので

夫と車を交換していたのでした。



       夫とお間違えになられたのね…
 
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サンタはよそにやって来た

2008年11月28日 10時25分33秒 | 不倫…戦いの記録
E子の四人目の赤ちゃんが

夫の子供かそうでないか

もう案じてみる気はありませんでした。


そんなことを心配するのは無駄というものです。

まだ起きてもいない問題を予測して気をもむのは

夫を責めたい気持ちが残っているからです。


10ヶ月前には完全に別れていたのか確かめたい。(ヤツは言わない)

反応が見たい。(ヤツは反応しない)

苦しめばいい。(ヤツは苦しまない)

もしそうだったらどうするのか、答えが聞きたい。(ヤツは考えてない)

以前の私だったら、きっとそうやって苦しんでいたでしょう。

それは、女特有の思考回路なのかもしれません。


当人たちが気にしていないのだから

こちらがあれこれ先回りして気をもむ必要はありません。

Nの赤ん坊の時に一度ひととおりは考えたので、今度は気が楽でした。


義母の知人に、ある金持ちのお妾さんがいます。

大きな家を建ててもらい、二人の間に生まれた娘を育てました。

表札は、彼の名字です。

義母がいつも通販で買っているお茶を分けてほしいということで

両親の家に同居していた頃は、時々私が届けに行っていました。


もうかなりのお年ですが

白髪を金髪に染めていつも原色の服を着た

後ずさりしそうなほど派手なおかたです。


行くといつも歓待してくれます。

一人暮らしで寂しいのでしょう。

「主人がいつ来てもくつろげるように

 人づきあいは最小限にしてるの」

意地も筋金入りです。


彼女の娘は、県外の医師に嫁いでいました。

本妻の子供として。

どうしても医者と結婚させたかったからだそうです。

お見合いの前段階から、妾腹の子供という事実は隠されました。

ばれたらいけないので、結婚式には出られませんでした。

もちろん里帰りも、本家だけです。

自分は本来存在していないはずの人間なので

めったに会うことはできないそうです。


「でも、娘の幸せのためだから後悔はしてないわ。

 私は主人を一筋に愛して、娘という愛の証を残したんだもの」

彼女はいつもそう言って胸を張るのでした。


たいして親しいわけでもない、ただの「お使い」の私にまで

わざわざ口に出して言うのは

自分にそう言い聞かせたいからだと思いました。



彼女の言う「主人」は、義父の友人です。

その彼が家に来た時、しみじみ言っていました。

「我が人生に悔い無しと言いたいけど

 ”あれ”と関係して子供を生ませたのだけは

 墓場に行っても消せない汚点だよ。

 うちの子たちにも申し訳なくてね。 

 いまさら放り出すわけにもいかなくて、面倒見てるけどね」


かたや愛、かたや汚点。

この温度差に背筋が寒くなり、思わず義母と顔を見合わせたものでした。


燃え立つ瞬間は同時でも

男女の保温機能の違いが

様々な悲劇を生む恐ろしさを知った一件でした。


囲われる立場の女性を何人か知っていますが

みんなおしゃれで家事上手

細やかな気配りのできる可愛いタイプの女性です。

そして先のことをあまり深く考えない。

自分より先に相手が死んだら生活は…なんてくよくよしないのです。

ケセラセラを地で行くのが

逆に男性の注意を引き、保護を一身に受ける秘訣かもしれません。

それがプロの愛人…。


男性というのは

自分だけが楽しめる「お店」を持ちたいという願望があるのかもしれません。

酒場だったり、隠れ宿だったり、ヒーリングルームだったり。


我が家の場合は「ママさん」の手腕がいまひとつの上

お客の払いが悪くて、もはや独身寮のおもむき…。


その器もない者に限って、高級クラブを高望みするのです。


           甘いんじゃ…



さてさて、前置きが長くなりました。

夫の様子をうかがう習慣のなくなった私ですが

あらぬ方向から、不審な動きがあぶり出される結果となりました。


義母の機嫌が悪いのです。

時折電話をかけてくるのですが

話していてなんだか様子がおかしいので、聞いてみました。


「お礼を言ってほしくてあげてるんじゃないけど

 息子にことづけたおせちのセットやお餅くらいは

 ひとことおいしかったと言ってほしい…」


         「…?」


もらい物が多いので、仲が復活してからは

義母は夫を介してよく食品を届けてくれました。


この正月は、当番出勤をしたので、両親に会っていませんでした。

そういえばこのところ、貢ぎ物が届いていません。


    「悪い…知らない。でも気持ちだけ頂きますわ。

     ありがとう」


「えぇ~っ?お歳暮にもらった海苔の詰め合わせはっ?

 クッキーはっ?」


          「知らね…」


「もしかして…ク…クリスマスのブーツも…?ケーキも?」

義母は孫が大男になった今でも

クリスマスにはケーキと

お菓子の入ったあのギンギラの紙で出来たブーツを買ってくれるのでした。

      
       「よそでサンタさんしたんじゃないの?」

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お大事に

2008年11月27日 12時00分05秒 | 不倫…戦いの記録
それっきり、E子夫婦の干渉はありませんでした。

その後も夫と会っていたのかどうかもわかりません。

知りたいという気持ちが無いからです。


愛情らしきものが残っているうちは、全部知りたい気持ちがありました。

どこでどうやって知り合ったのか…

女性とどこへ行き、何を食べたか…

どれだけ彼女を愛しているのか…

二人の交際を知らなかった頃からさかのぼって知りたくなります。


妙なプライドがそうさせるのか

とにかく何もかも知って、空白の部分を埋めておかないと

気がすまないのです。


知れば知ったで、また新しい苦しみの始まりです。

自分の未知の場所へ行ったと知っては

「私にそんなことをしてくれたことはない…」

と腹を立て

知っている場所へ行ったと知っては

「思い出を汚された」

と怒るのです。

そして、女性を憎んでもいい理由をまたひとつ、ふたつと

確保していきます。


頭の中には、一応人を憎んではいけないという立て札が立っています。

その立て札を引き倒しても無理はない…という状態にしたいわけです。

自分が納得するには

「こんなひどい目に遭った」と声を大にして言える事柄を

ひとつひとつ数え上げていくしかないのです。


思考のパターンは、無意識のうちに2対1になっていきます。

夫と女性VS自分…です。

今この瞬間も、夫と女性は赤い口を大きく開けて

自分をあざ笑っている…

そう思えてくる…思いたいのです。


知ればますます激しい憎悪が渦巻くのに

知らないままではすまされない。

でもわからないから想像する。

想像しては悶々と苦しみ、さらに深い淵に墜落。 

それも今では懐かしい感情になりました。


こちらがあれこれ想像するまでもなく

案外、彼らは何も考えていません。


考えないから

妻子があってもよその女性のパンツを脱がせることが出来るし

考えないから

他人の旦那の前でパンツが脱げるのです。


それによって何人の人間が悲しむか…

発覚したらどうなるか…

いちいち考えていたら、不倫なんてできません。


いえ、決して非難ではありませんよ。

あらぬ想像をして人を憎み

絶望する姿を子供にさらしながら

洗剤をかけられたゴキブリのようにもだえ苦しむ自分のほうが

本能のままに密着したがる彼らよりも

本当は醜いのではないかと思うのです。

余計なことを考えないぶん

案外彼らの魂のほうがクリアなのかもしれません。


源氏物語に「六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)」

という女性が出てきます。

いいとこの未亡人ですが、プレイボーイの源氏くんを愛してしまいます。

源氏くんは女好きなので、あっちへふらふら、こっちへふらふら。

プライドずたずたで、キーッ!てなった六条さんは

怨念が生き霊となって

源氏くんの彼女たちを憑き殺してしまいます。


あの話をその頃知らなくて本当にホッとしています。

家庭に色恋の異臭がしている時って

本でもドラマでも、恋愛ものは精神的にキツいのです。


内容によっては身につまされたり

登場人物が全部夫と女性に思え

ことさら惨めな気分になるからです。


あの頃、この話を知っていたら

私は呪詛や黒魔術の方向へ一直線だったのではないかと思うのです。

      
         くわばら、くわばら…


何の気なしに恋愛ものに触れられるのは

本当はとても幸せなことなのかもしれません。



知る必要が無くなったら

これがまたどうしたことか

知ってしまう状況に置かれるものです。

お金が欲しくてしかたがない時は恵まれず

どうでもよくなったら入ってくるのと同じです。



1年後、E子が四人目の赤ちゃんを産んだことを聞きました。

会社の繁忙期に短期アルバイトとして入った女性が

たまたまE子の幼なじみでした。


結婚して私たちが暮らす町に来たその女性は

私とE子の関係を何も知らないのですが

一緒に買い物に出かけた時

「友達の出産祝いを選んでほしい」

と言われ、話しているうちにわかりました。


「四人目だから、お金にしようかと思ったんですけど

 品物なら、このまま送れるでしょ?

 去年あたりから旦那さんが鬱病っぽくなっちゃって…。

 そういうの苦手だから、家に行きたくないんです」


       「ふ~ん…」


世間の狭さを改めて実感しながら、お祝いの品を選びました。

大きなドクロの絵が書いてあるTシャツを。


「あ、E子、ドクロ好きなんです~!

 よくわかりましたねぇ!」


      わかりますとも…オホホ…   

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疑惑と倒錯

2008年11月26日 12時33分01秒 | 不倫…戦いの記録
語気に強弱をつけながら、自分本位の理屈をこねて押したり引いたり…。

本人はご満悦でしょうが

ごくオーソドックスなユスリのパターンにそろそろ飽きていました。



        「証拠があると言ったろう!」


「なんだと…」


め○かは、乾燥した薄い唇を曲げて

こちらをにらみつけます。
     


    「あんたの奥さん、太ももの内側に赤いアザがあるよね。

      おへその横に二つ、ホクロが並んでるよね」


「…どういうことだ…」



     「それを私が知ってるってことだよ!」


             キマッた~!






「…レズか…?」




          えっ…

    写真のことなんですけど…。





「…おまえら…レズなのか!」



め○かは細い目をまん丸に見開いて、呆然としています。



行きがかり上、ここでひるむわけにはいきません。


     「なんでもいいさね。とにかく裁判やってみようや。

      そこで証拠を全部出すわ」



「…」


め○かは、まだ立ち直れないようです。



     「多分、びっくりするよ」



「…見せろ…その証拠を見せてみろ!」

   

       見せられるか…とっくに捨てとるわい…
   
   

     「出る所へ出てから公開するわ。
   
      それがスジってもんでしょ。あんたの好きな」       

       

「…」



    「あんたも女房の監督不行き届きだよね」




その時です。


「みりこんちゃ~ん!大丈夫~?」

大家さんがドアをドンドン叩きました。

アパートの隣人が騒ぎを聞いて大家さんを呼んでくれたようです。


め○かを押しのけてドアを開けると

大家さんとその娘、隣人…

その後ろに幽霊のような顔をしたE子が立っていました。



「ハ~ッ!」

空手2段の大家さんの娘は

め○かに向かって

ウルトラマンのスペシウム光線みたいなポーズでかまえています。


「ちょっと!なによ、あんた!」

大家さんはバットを持っていました。



め○かは黙ってその横をすり抜け

ずんずんと大股で車のほうへ歩いて行きました。

E子も無言で後を追います。


車が走り去るのをみんなで見送りました。


この後、あの夫婦には

疑惑と倒錯の世界でおおいに戸惑っていただきましょう。


思わぬ展開になりましたが

多分誰も深く傷つかないように思えるこの結果に

私はひとまず満足していました。

こっちのほうが断然おもしろいです。



泣きわめいて責め合ったり、なにもかも暴露して傷つけ合うなんて

初心者のすることです。

同じパターンを繰り返していては、進歩が無いと思いました。

芸人の血が騒ぐと言ったら、不謹慎でしょうか?


色事で問題の多い夫を持つ身としては

レスビアンと間違えられるくらいなんでもありません。


夫は、いつの間にか騒ぎを抜け出し

寝転がってテレビを見ていました。


それにしても…

私はちょっぴり残念なのです。


め○かにはぜひ

「今日はこれくらいにしといてやらぁ!」

と言って欲しかった…。           
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脅されて…

2008年11月25日 21時02分44秒 | 不倫…戦いの記録
ドアを開けると、長身のE子の後ろから

小柄な男性が首を出しました。


「旦那、いるか」


私を見上げて精一杯背伸びをし

ポケットに手を突っ込んで、タチの悪いチンピラを装っています。

その仕草は、新喜劇の池野め○かにそっくりです。

E子よりかなり年上に見えました。


「おぅ!いるんなら出て来いや!」


夫はしぶしぶ玄関に来ました。


「おぅ、人の女房に恥かかしといて

 タダですむと思ってんのか、コラ!」


「私、あなたとは何もないですよね!…ね!

 おたくのお母さんの勘違いですよね!」

E子が必死の形相で言います。


夫は、小さく「はい…」と答えました。


「ほら、言った通りでしょ?

 帰ろうよ、早く!」


E子はめ○かの腕をつかみ、向きを変えようとします。


「なに言うとる!

 ここまでコケにされて、黙って帰れるか!

 オイ、謝れや!」


夫がどうするか、私も興味があったので見ていました。

しかし、ピンチの時の癖である

短い髪をしきりに引っ張る仕草をするばかりで、謝る気は無いようでした。


「はよ手ぇついて、謝らんかい!」


「あんた、もういいじゃん、帰ろうよ!」


「どうしても謝りたくないんなら、それでもいい。

 誠意で示すということだな?

 そういうことだな?おい!」

め○かは、待ってましたとばかりに言いました。

結局その交渉がしたくて、のこのこやって来たのでしょう。

E子は生きた心地がしないと思います。



     すぐ口を出すより、もう少し苦しんでから…
  
やはり夫は黙って立ち尽くしています。

め○かは、夫の後方にいる私に目標を変更しました。


「なぁ、奥さんよぉ…悪いことしたら謝るってのは

 スジだよなぁ」


     
        フッフッフ…来たな…

      
      「スジですか?」


「そうよ。スジよ。

 なんの罪も無い人間に疑いをかけて

 人前で罵倒したんだからなぁ。

 母親がやったことだと逃げたらいけないよ。

 あんたの旦那がちゃんとしてないから

 こういうことになるんだからな!

 奥さん、あんたも管理不行き届きだよ」


       「…それで?」
 
  
「それで…って…おまえなぁ!」

「あんた…もういいから…帰ろう」

「うるさいっ!」


E子はめ○かに突き飛ばされ、外へ出されました。

め○かはE子を閉め出して、ご丁寧に鍵までかけました。

この夫婦もなかなか大変そうです。



「あいつはこうやって止めるんだ。

 私さえ我慢すればいいんだから…ってさ。

 でも奥さん、俺はね、あいつの亭主として

 気が済まないわけよ」


     「なるほど…それはごもっともですわね」


「だろ?そう思うだろ?

 それを証拠があるだの

 文句があるなら息子のところへ行けだの

 あんたのところの婆さんに言われてさ。 

 馬鹿にしてるじゃん?

 でもね、俺もそんなにわからない人間じゃあない。

 何なら示談にして、きれいさっぱり水に流してもいいわけよ」 


      「示談ですか。告訴でいいですよ」


「いや、俺も男だ。そこまで追い込むつもりは無いよ」  

 
      「いえ、ぜひ裁判でお願いします」


「…いいのか?とことんまでやったるぞ?」

      
      

           「…言いたいのはそれだけか」
 

「…」


                
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E子来襲

2008年11月24日 16時04分28秒 | 不倫…戦いの記録
夫はすっかり元気になりました。


中学生の次男は、父親と同じソフトボールチームに入り

一緒に練習に行っていたのですが

ある日、ポツリと妙なことを言い出しました。


「昨日の晩、練習していると

 女の人が来て父さんを呼び出したんだ。

 みんな、いつものことだからって放っておいたけど

 なんか、もめてるみたいだった。

 怒られてたと思うよ」

 
    「頭、おダンゴにしたすらっとした女子?」


「暗いからよくわからないけど、多分。

 僕、父さんのこと、好きだけど 

 あんなの見るのはいやだな…

 ねえ、結婚する時、もっと普通の人いなかったの?」


         「ワハハ!すまん」


   他の組み合わせでは

       君は生まれなかったのだよ…



義母からも電話がありました。

病院でのことを我慢出来ずに

義母はK病院に行った時、E子をつかまえて文句を言ったのだそうです。



「まぁ、腹が立つったら、あの女

 知らない関係ないの一点張りなのよ!

 しまいにゃ私に向かって

 ボケたんじゃないかって言うのよっ!」



「まあ、それはいいんだけど…」

       義母の本題はここからでした。


E子の母親が電話をかけてきたのでした。

無実の娘に大恥をかかせたと怒っていました。

たまたま義母とE子のやりとりを聞いていた人がいて

E子の母親に伝えたのだそうです。


「娘に聞いたら絶対に事実無根だと泣くし

 一緒に住んでいる娘婿も怒っています。

 勘違いではすまされません。

 ちゃんとした謝罪をしない場合は

 名誉毀損で訴えますよっ!」

と、すごい剣幕だったと…。 



「どうしよう~…」

最初はしおらしくそう言っていましたが

だんだん怒り始めます。


「だいたいあんたたち夫婦のことじゃないの!

 なんで私が責められなきゃいけないわけっ?」

   

       余計なこと言うからだろ…


どこも、娘がかわいいようです。


「証拠を持ってると言っておいて。

 今後、電話や訪問は私のとこにしてもらいなさいよ」


「本当?証拠があるの?

 じゃあ、そう言うわ!」

 
よせばいいのに、つい出しゃばってしまいました。

一緒になって、どうしよう、どうしようと言っていれば

そのうちどうにかなるもんなのです。

この性分がいけないとわかってはいるのですが…。


義母は、その証拠とやらを聞きたがりましたが

また先だって余計なことを言われたら困るので、言いませんでした。


E子の来襲に備えて、少しは情報収集をしておこうと考えました。

来るか来ないかはわかりませんが

勝負に勝つにはまず敵を知ることです。


これは私にとって、確かに勝負でした。

もはや夫も不倫も関係ありません。

訴訟でもなんでも、気がすむまでやれば良いのです。

しかし、現実にあったことを無かったことにするわけにはいきません。

いくら破綻した夫婦とはいえ

彼らの恋は、一応私たち母子の我慢によって成り立っているのです。


とは言っても、たいしたことをするわけではありません。

すぐ下の妹に電話をするだけです。

30代前半で3人兄弟のお母さん…

どれか一人は幼稚園児がいてもいいはずです。


病院で会った時

「子育ての真っ最中だけどとりあえずおしゃれをして来た感」が

E子の服装からうかがえました。

はっきりこれ…と言える現象ではないのですが

まあ、余裕の無さみたいなものです。

かわいいセーターの胸のあたりに発生した毛玉は

まだ抱っこが必要な子供がいるからだと思いました。


妹は、E子の住む町にある唯一の幼稚園で先生をしていました。

「あ~、その子なら担任だよ」


妹は保育のプロを自負しています。

普段、園児の個人情報は、たとえ身内でも明かさないのですが

「父親のことだけ」

という条件で教えてくれました。


「妹の愚痴として聞いてね。

 とにかく不気味なのよ。

 ちょっと何かあると、すぐキレてねじ込んで来るの。

 しかも理屈がねちっこい。 

 目つきがもう違う。

 関わらないほうがいいよ」


       「もう関わっちゃったんですけど…」


「多分、旦那さんが怖いから

 そっちのせいにしたいんだと思う。

 昔からずっと思ってたけど

 お義兄さん、本当に馬鹿だね」


             まったくです…


「お姉ちゃんは、旦那を顔で選んだからいけないんだよ。

 私をごらん!

 顔で選ばなかったから、こういう苦しみは無いわ」  

妹は、ことあるごとにそう言うのです。


その日は妹の婿殿もそばに居たらしく

 「どういう意味じゃ?」

と受話器の向こうから突っ込みが入っていました。



2日が経過した夜

E子とその夫は、我が家を訪ねてやって来ました。
   
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吐け!

2008年11月23日 19時44分16秒 | 不倫…戦いの記録
手術が終わり、意識不明の夫が病室に運び込まれました。

それぞれの思いから、冷やかに見つめる義母と私。


なにやらうわごとを言っています。

「今日は無理…もう少し…◎×<÷○√…」


「なんだって?何が無理だって?」

義母がいまいましそうに夫の耳元で言います。

まだ怒りがおさまっていないのです。


「今度はあの女が相手か!」

義母の尋問に

夫は知ってか知らずか、しかめっ面で首を振ります。


「…吐けっ!」

小さく、しかしドスをきかせて攻撃。



そこへ手術をした医師と看護師が説明にやって来ました。

「おや?吐き気があるようですか?」


「まぁ~おほほ…

 いえ…ちょっとそう聞こえたような気が…」

義母、笑ってごまかす。

夫の枕元には膿盆が置かれました。


誰もいなくなると、再び…。


そのうち麻酔から覚めた夫は

いきなり起き上がって怒鳴りました。


「おまえら、帰れ!」

私たちはそそくさと退散したのでした。


外は薄暗くなっていました。

私は駐車券を車に置いたままなのを思い出し

印鑑をもらって無料にしようと

義母をロビーで待たせて車に戻りました。


          「…」



「…」


向こうから歩いて来たE子とばったり。



出直して来たのでしょう。

車で待機していて

私たちが帰ったので、夫が連絡したのかもしれません。


     「もう手術が終わって部屋にいますよ」


「そうですか…」

機械的に言って走り出すE子。


義母が待っている正面玄関でなく

通用口のほうへ行ったので、ホッとしました。


まさか不倫相手の女房に

尻の穴まで見られていようとは

夢にも思っていないでしょう。

少し気の毒な気分でした。



私はそれきり夫のところへは行きませんでした。

仕事が忙しかったし、遠いし

E子がいるので、いいだろうと思っていたのです。

E子の家から病院は近いのいです。


    ついでに支払いもしてくれりゃいいのに…


しかし、数日後、夫は外出許可を取って帰って来ました。

「もう着る物がないんだぞ!」

    「あれ?やってもらえないの?」

「誰にだよ」


洗濯はしてもらえないようです。

よく考えれば、旦那持ちでした。

しかし、家が無理ならコインランドリーでも…

と思うのは私の勝手でしょうか。

おいしいとこ取りだけでなく

これくらいの根性は持ってもらいたいものです。


入院中、夫は一日おきに帰って来ては

洗濯物の交換をして行きました。

E子と私が会わないように

早め早めに気を使っている様子でした。

忙しいことです。


半月後、退院して来た夫が

そっと白い封筒を差し出しました。

お礼状でもくれるのかしら…と思ったら

病院からの請求書でした。



              ちっ…

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はちあわせ

2008年11月22日 16時52分10秒 | 不倫…戦いの記録
手術は午後2時からと聞いていました。

しかし、当日は休みをとっていたので

1時間ほど早めに行きました。


早く行けば、承諾書のサインや術後の衣類の準備などが早く進行します。

夫は30分も早く、手術室へ運ばれて行きました。


3時間ほどかかると聞いていたので

私は個室のベッドの上に座ってサザエさんの漫画を読んでいました。
       

2時少し前、誰かがツカツカと慣れた様子で病室に入って来て

ベッドの周りに張り巡らせたカーテンを

いきなりサーッと大きく開けました。


「…」


          「…」




両者、状況を把握できずにお見合い。




         「…どなたですか?」



「…あの…手術は2時からじゃぁ…」

       「少し早めに行きましたよ」


「そ、そうですか。失礼します」


その女性は、そそくさと部屋を出て行きました。


          開けたカーテン、しめろよ…



見知らぬ人ではありません。

あの裸の写真の人でした。


ラブホテルらしきベッドや床の上で

横になり逆さまになり

顔を半分隠してみたり、髪を乱してみたりして写っていたので

顔はうろ覚えでしたが

ブロンズ色をした大きなドクロの指輪には

はっきりと見覚えがありました。

カエルの死体のように開いた足に添えた

右手人差し指にはめられていたものです。


カーテンが開いた時

まずそのドクロと目が合いました。

あんな奇妙な指輪をする人間は、そうたくさんはいません。


ドアの外で、なにやら大きな声がします。

そっとのぞいて見ると、その女性と義母でした。


「ちょっと!待ちなさいよっ」

 
女性が小走りに階段のほうへ向かう後ろ姿が見えました。


        そっとドアを閉める…


義母は肩で息をしながら病室へ入って来ました。


「さっきEさんがここへ来たでしょ!」

          「Eさんて?」

「赤いセーター着た、派手な人よっ!」

      「あぁ…」
 
「なによっ!声かけたのに、無視すんのよっ!」

      「誰…?」

「K病院の看護師よ。

 何しにうちの子の病室なんかへ…」


K病院は、夫の懐かしき最初の相手が勤めていた病院です。

近場のしろうとを漁る夫の恋の旅路は、振り出しに戻っていたのでした。


義母は血圧や中性脂肪の薬をもらいに

相変わらずそこへ通院しています。

買い物に次いで、義母が張り切るサロンのような場所でした。


E子はそこの看護師で、義母とも仲が良いそうです。

実家が小さな店をやっているらしく

義母は彼女に頼まれれば

宝くじや食品などを買っていたと言います。


「年賀状も、買って買って、言うから

 たくさん買ってやったのに!

 子供が三人もいて

 亭主が安月給だから大変とか言って同情させてさ! 

 それをなに?あの態度」


義母の沸点は、いつもちょいとズレています。

「何しに来たのか聞いてるんだから

 答えりゃいいじゃないの、ねぇ」



        答えられねぇだろ…



「もう何も買ってやらんっ!」



       「…お義母さんもサザエさん、読もうや」


しぶしぶ漫画を受け取った義母ですが

老眼鏡忘れたわ…とつぶやいていました。
   
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グラビアねえちゃん

2008年11月21日 20時36分07秒 | 不倫…戦いの記録
男というのは、まことにかわいそうな生き物です。

“我が家”とは申しますが、我が家のどこにも

秘密を隠せる場所がありません。


夫が寝室にしている部屋で

季節の洋服を入れ替えていた私は

衣類の隙間に押し込まれていた困ったものを見つけてしまいました。


一糸まとわぬ裸の女性のポラロイド写真数枚。

グラビアモデル気取りでポーズを取る女性…。

30代前半というところでしょうか。

股を大きく広げて、大事なところを正面から写したのまであります。


               げ…


美人でスタイルも良いかたですが

胸やお腹に妊娠線の痕跡があるので、一般のお母さんです。

今さら何をコレクションしてもかまいませんが

年頃の男の子がいることも考えてもらいたいものです。

その時は、だまって捨ててしまいました。



携帯電話が一般に普及して久しく、夫のことは完全に野放しでした。

私にとってそれは、一種の安堵でした。

嫌がらせの電話を受けることがなくなり

腹を立てる必要がなくなったからです。


うるさい…面倒臭い…

おまえらの「シモ」のことで人に迷惑かけるな、という怒りです。


しかし、もしもまだ、夫を信じて疑わない自分だったら

またはうすうす何かを感じていて、どうにかしたい自分だったら

携帯の存在にとても苦しんでいたと思います。


便利な携帯に支配された婚外恋愛は、発覚した時が大変です。

こんな便利なものを利用していながら発覚するのは

携帯を見られた、何か態度に出てしまったなど

大きなヘマをやらかした結果です。


連絡の取りやすさによって深く密かに進行した恋は

予兆もなく一気に白日のもとにさらされ

したほうは、恥ずかしいやら情けないやらで動揺しまくりでしょう。

されたほうは、疑惑や気配などの助走期間のないまま

一気に証拠を突きつけられるのですから、その衝撃は計り知れません。


バレた者は、そこで何が一番怖いかというと

暴風圏内に入ってしまった家庭ではなく

失いそうな恋でもなく

メールで浮気相手に信じ込ませた

とってもステキな自分の虚像の崩壊です。


のぼせ上がっているピエロにとって

本当の自分を知られてしまうのが最高の恐怖なのです。

したてに出て謝ったりしたら

図に乗った配偶者は何をするかわかりません。


謝った時点で、刑が確定します。

運が良ければ執行猶予ですが、自白の強要は必至です。

悪くすると死刑に値する

「相手の所へ乗り込んで何もかも暴露される」

の刑かもしれません。


それを少しでも先延ばしにし

ほとぼりが冷める期間を確保するには

逆ギレのふりをして居丈高に振る舞い

「何を考えているのかわからない」ふうを装うのが

とりあえずの安全策です。


ピエロのガラスのハートは

すでに不倫相手云々の騒ぎではなく

おのれの命の象徴とも言える理想像を死守するために

苦肉の策をこうじているだけなのですが

配偶者は配偶者で

「悪いことをしておいて謝罪の言葉もない」

「そこまで相手をかばうのか」

といっそう傷つき嘆いて消耗する…。

携帯電話はそんな争点のちぐはぐが生じやすく

離婚増加の一因ではないかと思います。



夫は待望?の厄年を迎えました。

変わったことといえば、扁桃腺炎で入院しました。

下の妹の結婚式が北海道で行われ

夫婦で出席した時に風邪をひいたのです。


三日間、真冬の札幌でこっそり外に抜け出しては

夜昼なく電話やメールをしまくっていました。

   
         あの素っ裸のネエちゃんかいな…


人目を避けるためにホテルの非常階段に出て

ラブコールをしていたら閉め出され

長時間凍えて、すっかりこじらせてしまったのでした。


         凍死しろ…


命からがら部屋へ戻り

真っ青な顔で震えている夫を見て、心から思ったものです。


夫は私には悪行三昧ですが

昔から私の父とはなぜか仲が良いのです。

父にとって夫は「娘を苦しめる悪い婿」ではなく

かわいい息子のままでした。

夫もまた、おだやかな父が大好きだと言います。


「彼と君は、相性が良すぎて

 かえってぶつかり合ってしまうんだ。 

 つらいだろうが、もう少し辛抱してごらん。

 あの子はきっと改心して、君を幸せにするよ」
  
滞在中、父は幾度となくそう言うのでした。


M子の時、子供を置いて帰るようにと言う祖父にあえて反対しなかったのは

そうすれば絶対私が離婚しないと考えていたからだそうです。

父に言わせれば、私は離婚に向いておらず

さらに苦労を背負い込むだけに思えるのだそうです。


無関心に見えた父が、内容はどうあれ

わりといろいろ考えてくれていたのを知り

驚きましたが、嬉しくもありました。


せめて離婚しないのが唯一の親孝行だろうか…。

             うぅ…痛いぜ…

          
夫はこの際、昔から難聴だった片耳を手術して

人工鼓膜にすることになりました。

一応全身麻酔なので、術中は身内が付き添う決まりだそうです。

義父が付き添いを申し出ましたが、病院から

「奥さんがいるのになぜ?」

と言われ、私が行くことになりました。


明日手術…という日の夜、義母が泣きながら電話をしてきました。

声を聞くのは九州以来5年ぶりのことでした。


開口一番

「あの子、死ぬかもしれない…」

         「死にませんよ」

「でも、大手術らしいわ。頭だもん。どうしよう…」

     
      「同じ手術するんなら、下半身切るとか

       もぐとか、してもらやいいのにさ」


「ワハハ!本当よ~!」

      5年の空白は、これで終了でした。      
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バドミントン男

2008年11月20日 13時33分49秒 | 不倫…戦いの記録
I子と会わなくなり、Nとも別れ…

夫は何をしていたかというと、すでに新しい恋を見つけていました。


パスポートの更新時期がきて

ナルシストの夫は自慢げに写真を見せてくれました。

その時、ある記憶から

ふと最後のあたりにある緊急連絡先を見ました。


今度もやはり汚い字で「妻」と名字だけ書いてあり、下の名前は空白です。

まだまだ、妻を取り替える気満々というところです。


前の時も、同じように妻の名前が空白のパスポートで

組合やゴルフ仲間と買春旅行にでかけては

I子にはブランド品や指輪を

私には3枚1組の趣味の悪いスカーフなんぞを買って来てくれました。


いつかここに違う名前を書きたい…。

いかにも夫らしい一種の願掛けみたいなものです。

              頑張れよ…

              でも…

         おまえの思い通りにはならんわい



そういえば、家の中に○ッ○ーマ○スのキャラクターグッズが

増えているのに気がつきました。

メモ帳、タオル、クリアファイル、コーヒーカップ…。

いちいち気にしませんでしたが

確かに我が家では○ッ○ー増殖中です。

ちょっと常識的には考えられないほどの充実したラインナップ。

とある生保会社の景品です。


夫はいつからかバドミントン愛好家になり

野球はあまりしなくなっていました。

体力的なこと、チームのスポンサーである企業が経営不振で

解散が相次いだことが原因です。


巨体に小さなラケット

きつそうなリストバンドに

取ってつけたようなヘアバンドも痛々しく

張り裂けそうな短パンをはいて、いそいそとお出かけです。


合間ではなぜか、あちこちに知り合いを訪ねることが増えていました。

保険のことで…と電話がかかることもあり

中には

「派手な女性と保険を勧めに来た。今度は生命保険を始めたのか」

といぶかしがって連絡してくる人もいました。


今度の相手は、枕営業が得意なバドミントンガールのようです。


しかし、これはじきに終わりました。

気付いた頃には終わりかけていたようです。

紹介する相手が尽きた時が、別れの時でした。


少なくとも相手は、ギブアンドテイクの仲と割り切っていたらしく

こちらに害を及ぼさないので気がつきませんでした。

けっこうなことです。

さすが一流生保。

こうでなくてはいけません。


後に残ったのは、ガットの切れたラケットと元気のない夫

死亡保障だけが多額の生命保険の引き落とし二つでした。
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なかよし

2008年11月19日 12時32分19秒 | 不倫…戦いの記録
自慢じゃありませんが、私の根性は

あまり無いばかりか腐っています。


その頃、友人のご主人が亡くなりました。


お酒に関して問題が多かったので

美人の彼女は、美しい眉をひそめていつも言っていました。

「あなたのところは女だから、相手が必要じゃないの。

 探してる間だけでも小休止できるわ。

 でも、酒は…酒ときたら、どこにでも売っているのよぅ!」

なるほど…と妙に納得していた私でした。


友人のご主人は、少々酒乱のケがある上に

お酒が原因で肝臓が深刻な状態でした。

家で飲むと妻子がうるさいので

実家に泊まって飲む毎日…酒で別居というわけです。

女房が飲ましてくれないと訴えれば

親が「かわいそうに」といくらでも飲ませるのだそうです。


体のために酒を控えてほしい気持ちは

いつしか、飲むことそのものが家族への裏切り…という方向に

変換されていくようです。


彼女は離婚を決意しました。

実家暮らしのご主人のほうにも異存はなく

サインをもらって市役所へ行ったのですが

記入モレがあり、また出直すことになってそのまま帰りました。


その夜、ご主人は実家で急死しました。

籍を切ってなかった彼女は新築の自宅のローンが消え

遺族年金や各種手当て、生命保険金を手にしました。

離婚後の経済的不安が一気に解消したわけです。


「やったわ!」

彼女は心底嬉しそうでした。

そして私に言うのです。

「うちの旦那、厄年だったの。

 あなたのところも、あと2、3年でしょう。

 待ってみる価値あると思うわ。

 今まで無茶苦茶して家族を苦しめた人間が

 元気で長々と生きられるわけないわ」


とてもそんなふうには見えない…と言うと

「今まで辛抱したんだから、もう2、3年くらい何よ!」


ローンも無く、遺族年金もあまり期待できない身の上…

夫の死を望むというより

一つの区切りとして、それまで様子を見てもいいかな…と考えました。

神様が本当にいるなら、夫をそのままにしておくはずはない…

とも思いました。



さて、350万円を欲しがっているNですが

片方の言うことだけを聞いて支払う馬鹿はいません。

夫の帰りを待って話を聞いた上で

またこちらの意向を連絡するということで、帰ってもらいました。


夜、帰宅した夫に話すと

「そんなに使ってない…」

       「じゃあ、使ったことは使ったんだね?」

「あいつが旦那に浮気されて悲しんでいたから

 旅行やなんかにつきあってやってただけだ」

       「あっちは子連れで?」

「うん。置いて行くわけにいかないだろう」

       「自分の子は留守番させて?」

「一緒にってわけにいかないだろ」

     そりゃまあ、そうだけど…

よその家族と父親気取りで遊び歩いていたのか…

Nのお産をはさんで今までつきあっていたのか…


我が子とお産に関することとなると、野生の血が騒ぐというか

コントロールがきかなくなるのに驚きですが

私も居なかったのですから、大きなことは言えません。


そんな私の気持ちに気付いてか

「行きがかり上…っていうのを

 わざとと、とらえないでくれよ」

夫は予防線を張ります。



「金の要求をしてくるなんて…。

 離婚の相談にのってやったり、いろいろしてやったのに

 フトいヤツだ…」

 
   「よその離婚に首突っ込んでる段じゃないだろっ!」



法律に詳しいわけではありませんが

Nの要求に多少無理があるのはわかります。

Nは夫に甘えているのです。

なんとなくかわいらしいと思ってしまうのは

ついしたたかなI子と比べてしまうからかもしれません。


夫は二股かけているうちに、自然とI子から離れたようでした。

とにかく新しいのがいいのです。


数日後、Nから電話がありました。

「あの、お金のことですけど、もういいです」

         「え…?」

「よく考えたら、私の横領から始まったことだし

 もし大きいことになったら、私、奥さんからも訴えられますよね」

    「そんな気はありませんよ。面倒臭いから」

「私、なんだか、そちらへうかがったことでスッとしました。

 請求書送った時は、私一人だけ損してるみたいな気持ちになってたんです。

 ごめんなさい。忘れてください」


        あんたはスッとしたろうけど…


いらないと言われれば払いたくなるような気持ちを押さえながら

長いことおしゃべりしていました。


以後、時々Nから連絡があります。

すっかり友達になってしまったような錯覚が今も続いています。


もう大きくなってしまったあの赤ちゃんは、夫の子ではなかったようです。

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夫リサイクル

2008年11月18日 15時05分27秒 | 不倫…戦いの記録
夫に事情説明を求めましたが、要領を得ません。


「知らない…わからない…」

と言いながら、脂汗をダラダラ流しています。


       「わからないなら、放っておいていいんだね」

「う…ん」

            「払わないよ」

「うん…自分で何とかする」


自分で…と言うのですから

しっかり心当たりがあるのでしょうが

私も首を突っ込んだばかりに

大金を失うような事態になってはたまりません。

放っておくことにしました。


離れた町に越して来て

心安らかな日々が送れるのは確かですが

全く雑音が聞こえないのも不気味なものです。


それから数日後の日曜日でした。

「今、駅にいるんですけど」

電話をかけてきたのは請求書の主…Nと名乗る女性でした。

とにかく会って話がしたいというので、仕方なく駅へ行きました。


車で待っていたNさんは、赤ん坊を負ぶい、幼児の手を引いていました。

若いですが、やつれた感じの地味な人でした。


「お呼びだてしてすみません」

         「どんなご用件ですか?」

「あの…請求書をお送りしたと思うんですけど。

 ご主人にも何度も請求しました」

    「見ました。でも、お支払いする理由がわかりません」
 
「困るんです。払ってもらえないと…」

寒空の下に子供を立たせておくのも忍びないし

そこらの店へ入って話すような用件でもなさそうです。

夫も子供たちもそれぞれ出かけていた自宅へ誘いました。


「私、N工業の嫁です」

        「あぁ、あそこの…」

たまにですが取引のある会社の奥さんでした。


「ご主人と交際してました」

          「…」


「うちの主人、女性問題がすごくて、愛人を会社に入れたりして…」


どこかで聞いたような話もあるもんです。

「自暴自棄になっているところへ

 こちらのご主人に優しくしてもらったのでつい…。

 だって奥さんは九州へ行かれて別居中だったんでしょ?」


      「それが350万とどういう関係が?」


「私、経理を一人でやっていたので

 お宅のご主人と遊んだり旅行に行ったりするのに

 ヤケになって会社のお金を使ってたんです。 

 同時進行で離婚することになって  

 調停で決まった慰謝料が200万

 当面の生活費として舅が150万くれました。

 それを全部、穴埋めに使ってしまったんです」


             「…」
 

「もうじき実家に帰るんですけど

 その分を返してもらえたらなと思って」


        「350万全部、うちの主人が原因ですか?」


「はっきりとは計算していませんが

 とにかくそれだけ足りなかったんです」


それに…Nさんは赤ん坊を抱き直して言いました。

「この子、どっちの子かわからないし…」


私もその四ヶ月になるという男の赤ちゃんのことは気になって

最初から観察していました。

しかし、夫家の血筋の特徴である濃さや骨太さ

天パーが見受けられないので、安心していたところでした。


      「そのお子さんの血液型は?」


「O型です。私もO型。うちの主人もOだから

 わからなくなったんですけどね」


うちの夫はB型だとでも言い張ってやれば良かったのですが

このNさんという人、あまりにも天然で

こちらも正直に対処してやりたい気持ちになりました。


     「じゃあ、こちらの希望を言いますね。

      まず現物支給として、うちの主人と再婚していただくというのは

      どうですか?」


「あ~…」

彼女は首を振って言いました。

「私、あんまりタイプじゃないんです。

 あの頃はどうかしてたんです。

 うちの人じゃなければ誰でもよかったというか…。

 それにもう、こちらのご主人とは別れましたから」


需要と供給は合致しないようです。    
 
リサイクル失敗。  

        


     
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今度は何だ

2008年11月17日 13時49分06秒 | 不倫…戦いの記録
次男はほどなく小さい荷物と一緒に、夫に連れられてやってきました。


義母は謝罪を心待ちにし

義姉のことに文句をつけたこと

病人を置いて家を出たことを挙げては

夫に再三の伝言をしていましたが

その気配すらないので根負けし、次男を手放したようです。

なんだかんだ言っても、やはり孫のことを考えてくれる

良いおばあちゃんです。


今回、気持ちに押されるままに焦って行動しないほうが

うまくいくこともあるということを学んだ私は

なしのつぶてを決め込んでいました。


ニブい私も

夫に対して、裏切られた…してやられた…という思いでいると

もっと腹の立つことをしでかしてくれる不条理な法則に気付いていました。


次男の件も、奪われただの取り返すだの

被害者意識にとらわれた物騒な表現をすると

本当にそれにふさわしい波乱が起きるでしょう。

おばあちゃんの家に泊まりに行っていると考えれば

気が楽になりました。


発想の転換といえば聞こえがいいですが

そんな立派なものではなくて

生きるために苦肉の策として履行した「すりかえ」のひとつです。

四年生の次男の転校手続きをすませると同時に

事務のアルバイトをすることになりました。


アパートの隣室の女性が

ご主人の転勤で引っ越すことになり

働きやすい職場だから代わりに行ってみないかと紹介されたのです。

そこはある企業の地方営業所でした。


またこれが楽しく、わいわいやっているうちに

週三回のデータ入力のアルバイトから、毎日のパートに

パートから正社員に…

と短期間でわらしべ長者のように身の上と給与が変わりました。

管理職と相性が良かったのと

退職や統合が続いて、ちょうどタイミングが良かったようです。


夫は主に実家で暮らし、相変わらずI子と付き合いながら

時折子供たちの顔を見にアパートを訪れる生活でした。

別居というやつです。


籍を切るのを急がなかったのは

夫が家に入れてくれる毎月10万円の生活費への欲からでした。

全額入れろと要求したら、そのうちまた入れなくなって

喧嘩のタネになるでしょう。

10万だったら無難に渡してくれると踏んだのでした。


会社で金庫番をするようになった私は忙しくなり

そのうち家事や子育てに、夫のサポートをあてし始めました。

私の帰宅が遅くなるので

知らない土地で新しい学校に通う次男が不安がるようになったのです。


大家さんも面倒を見てくれたり

犬や鶏を調達してきて飼うのを勧めてくれたりと

かなり協力してくれましたが

やはり子供は父親のほうが良いようです。


夫もまた、別人のように子供をかわいがりました。

私と離れている間に、親としてかなり進歩したようでした。

収入では夫を上回っていましたが

女一人で子供を育てるのはまことに大変だと痛感した次第です。


夫がアパートから職場に通う回数が多くなり

そのうちそのまま居着いてしまいました。

何のために…と自分のふがいなさに少々自己嫌悪ですが

子供たちと暮らせる喜びはそれを大きく上回りました。


またとんでもないことに巻き込まれるのは、わかっているのに。

お産と同じ、前回の痛みを忘れてしまうのです。


でも、この次からは違う自分で対応できるような気がしました。

悲しいうち、悔しいうちは、まだ愛が残っているのです。

恨み、憎しみは、愛情が腐ったもの…。

そんな気がしていました。



一年が、あっという間に経過しました。

ある日、一枚の請求書が届きました。

その額、350万円。

知らない女性からのものでした。
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帰郷

2008年11月16日 14時31分43秒 | 不倫…戦いの記録
夫とも久しぶりの再会でしたが

これといった感情は無く

強いて言えば、卒業以来会わなかった

あまり親しくない同級生のような感じでした。


帰る、帰らない

子供をよこせ、渡さないの問答を蒸し返す気分にもならず

ただ食事に行ったり観光地へ行ったりして過ごしました。


次男は、義母がどうしても会わせないと言うので

置いてきたそうです。


顔が私にそっくりな長男は

その顔のためになにかと割を食うことが多く

夫に瓜二つの次男は、生まれた時から祖父母に溺愛されていました。


彼らが帰り支度を始める頃

私は帰る決心に至っていました。

「僕が受験する高校のある町に、アパートを借りよう。

 子供じゃ無理だから、僕が父さんに話す。

 アパートを用意させて

 引っ越しがすんでから離婚すればいいじゃん」

長男がこっそり言いました。

         「よっしゃ」


店に退職の意思を伝えました。

社長はびっくりして止めましたが

妻である女将さんは社長を制して言いました。

「よし、わかった。

 帰れる時に帰らないと帰れなくなる。

 でも、もしうまくいかなかったら、いつでも戻っておいで」 


女将さんも、夫の浮気で苦労した人でした。

愛人を囲った上に、子供まで出来ていました。

金持ちには金持ちなりの苦労があるようです。


長男は受験に合格し、アパートも決まりました。

たくさんの恩人に別れを告げ、九州をあとにしました。


新しいアパートに向かう途中

夫の携帯に義母から頻繁に電話がありました。

「家に寄るようにって」

        「なんで?」

「今謝れば許すって」

        「まだ言ってんのか」

「謝らないと、次男は渡さないって」

        「無視無視」


おばさんの家に居た時、遠く離れて気が大きくなった私は

帰れだの謝れだの言って来る義母に

それまで絶対に言わなかった鬼門…義姉の里帰りについて触れました。


      「出た人間が毎日帰って来るから

       居るべき人間が出たくなるんじゃありませんか!」


これをすっごく根に持っているのです。

娘への非難を撤回させるために、私の謝罪を欲しているのです。


             知るか!



アパートは、高台の見晴らしの良い所でした。

大家さんは、偶然にも私の実家の町出身の人で

それは良くしてくれました。


初日の夜、さっそくI子の嫌がらせの電話がありました。

最初は夫が電話を取ったのですが、私に替わらせたのです。

どこまでもチキンな男です。


「子供を捨てて出て行った者が、よくのこのこ帰って来れたわね」


もちろん決して名乗りません。

I子の名前は出さずに

あくまで他人が嫌がらせをしているふりをしたいようです。

しかし、そんな物好きなどめったにいるものではありません。

自分たちがそうだからといって

世間もそうとは限らないのです。


こちらに戻ったことを知っているのは、家族とI子だけです。

そばで赤ん坊のむずかる声がしました。

I子の妹がお産で里帰りしていることは、夫から聞いていました。

電話の主は、妹のようです。

私と面識のあるI子に代わり

姉妹愛と、一方的に聞いた内容への稚拙な正義感から

代役を買って出たのはあきらかでした。

遠くで母親らしき低いガラガラ声も聞こえます。


     「夫ならあげますよ。いらないから」

「えっ?でも一緒に帰って来たんでしょ?」

     「引っ越しのためですがな」

そんなことは初耳の夫はきょとんとしています。

電話は切られました。

しょせん姉の代行です。

しつこく食い下がる情熱は無いのでした。


     「そういうことだから、出て行ってね」

少しはこっちも仕返しくらいしたいです。


後は、次男を取り返すだけです。


        
コメント (2)
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