殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

薬膳忘年会

2014年12月31日 22時10分06秒 | みりこんぐらし
暮れも押し迫ったある日。

本社の経理部長ダイちゃんから電話があった。

「忘年会のことだけど…」


やるんかいっ?!

我々一家は驚愕した。


今年は無事お誘いも無く、終われると思っていた。

昨年のように高速ではるばる遠い都会へ赴き

本社の経営する気取った店でモヤシを食わされる恐れは

もう無いとタカをくくっていたのだ。


「今年はそっちの町でやろうと思うんだ。

あさっての土曜日なら河野常務も空いてるから

どこか取っといてくれる?」

ダイちゃんは気軽におっしゃる。

再び驚愕する我々。

いくら田舎だって、年末の土曜日だ。


信仰する邪教が悪いのか、加齢のせいなのか

今年の初めあたりから、彼の忘れっぽさは重症化している。

超多忙かつ律儀な河野常務の性格からして

空いている日を早くから伝えられていたのに

ダイちゃんが忘れていたに違いない。

ハッと思い出した時には、3軒ある本社の店は満席だったのだ。


よその店を使ってお茶を濁そうものなら

勘の鋭い常務にどやされるのは必至。

でもそこはダイちゃん、持ち前の機転で乗り切る。

開催する町を変え、こっちにゲタを預ければ

彼の信用だけは保持できるのだ。

思えば、このパターンで振り回された1年であった。


我々は困惑し、話し合った。

空いてりゃどこでもいいわけではない。

パリッとスーツで来るのに

破れ障子やすすけた畳の居酒屋では困る。

癌から生還した河野常務の胃腸への配慮も必要だ。


こういう時、我々には強い味方がいた。

「おっさん」である。

おっさんとは、おじさんの意味ではない。

和尚さんの略だと思うが、この辺りでは僧侶のことを

そう呼ぶのだ。

おじさんのおっさんとは異なり、最初の“お“にアクセントがくる。


おっさんは、夫の同級生。

由緒ある寺の跡取りだが、気取らず、偉ぶらず

芭蕉や山頭火を連想させるひょうひょうとした人柄は

檀家や同級生の崇拝を集めている。


「お内儀に」と、しょっちゅうお供え物や贈答品をくれる。

全国各地から届く寺への貢ぎ物は、品質がすごい。

本当にうまい物は寺に集まるらしい。

美味な果物やお菓子にすっかり魅せられた私は

義父アツシの葬式は、彼にお願いしようと決めている。

宗派が違うしお経は長いが、少々は我慢だ。


夫から話を聞いたおっさんは

「では薬膳がよかろう」

と、薬膳しゃぶしゃぶの店に予約を入れてくれた。

頑固な店主のこだわりの店で

この時期にイチゲンの我々が電話したら

まず断られること間違いなし。

だがここは、おっさんの檀家である。


おっさんの紹介ということで、サービスもたくさん付くらしい。

さすがおっさん!と喜ぶ我々であった。

かくして忘年会は、薬膳しゃぶしゃぶの店で行われることになった。


今年の忘年会は、我が社の営業課長、松木氏が抜けた。

営業成績ゼロ更新のままなので、我が社の職は解かれ

遠くの生コン会社だけの勤務になったのだ。

河野常務の使い走りとして、こちらへはたまに顔を出すだけだ。


こうなるとおかしなもので

松木氏をあれほど忌み嫌っていた夫は、すっかり彼と打ち解けた。

夫は、松木氏が変わったと言う。


松木氏もこの1年、苦労したのだ。

会社の新年会で「今年は結果を出す年にします!」

と宣言したばっかりに

「結果はまだか」「いつ結果を出すんだ」

ことあるごとに上層部から言われ続け、ほとほと参っていた。

続けるか退職するか悩んだあげく

河野常務に可愛がられている夫に歩み寄る方針が

最善と気づいたらしい。

背伸びをして小利口を装う者より、結局はバカが勝つのだ。


さて、忘年会は盛況であった。

健康志向の都会人達は、薬膳の配慮を喜んだが

最も賞賛されのは、デザートに出されたイチゴである。

見た目は硬そうでマズそうなのに

びっくりするほど甘い不思議なイチゴは

都会人のハートをわしづかみだった。


上機嫌の河野常務は、皆をカラオケに誘う。

町で唯一のカラオケボックスへ案内すると

その裏ぶれぶりにうろたえたが

遊び慣れているだけあって、歌はうまかった。

日頃、カラオケ上手を主張していたダイちゃんは

口ほどではないことが判明。


常務からトリを譲られた息子達は

鳥羽一郎の「兄弟船」を歌った。

兄と弟で頑張る姿…河野常務のツボを心得ているのだ。

彼らは最後まで、忘年会でなく接待をするつもりらしい。


2人の歌を聞きながら、涙ぐむ常務。

3番あたりになると、ほぼ号泣。

♩たった一人のおふくろさんに~ 楽な暮らしがさせたくて~♩

「そうか、そうか、お母さんを大事にして、えらいな」

歌詞をそのまま子供達に当てはめている。


♩熱いこの血はよぉ~ 親父譲りだぜ~♩

「うん、うん、親父譲りなのか、そうか、そうか」

メガネをはずし、涙を拭く常務。


歌い終えて、長男が言った。

「僕らの熱い血は、母譲りです」

ワハハと笑う常務。

泣いたり笑ったり忙しい人である。


大満足の河野常務とダイちゃんを自宅まで送り届け

忘年会はやっと終わった。

来年はやりたくないと祈る、我ら一家であった。


皆様、今年も本当にお世話になりました。

良い年をお迎えください。
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みりこんおばちゃんのお勝手相談室・小姑

2014年12月28日 19時40分06秒 | みりこんおばちゃんのお勝手相談室
「これも美談?」

今日、夫が買って来てくれた和菓子。

私のイメージで選んだと言い張るんだけど…。





こんにちは!

みりこんおばちゃんよ。


こないだね、検索ワードにこんなのあったのね。

「義母の認知介護で小姑たちの仕打ち」

わかるわ~!口、出したいわ~!

ってことで、今日のテーマはこれ。


そもそも嫁にとって小姑は、存在そのものが仕打ちなのよ。

悪気のある無しは無関係。

顔出しゃ罰、口出しゃ刑。


親が弱ってきたら、仕打ちの登場が増える。

罰も刑も急増よ。

しんどくなるのは当たり前ね。

介護そのものより、全面責任を負うつもりが無い人の

何気ない言動に消耗するもんよ。


私は姉妹だけの家に生まれたので

小姑になるチャンスは一生無いんだけど

だから小姑組合に向ける目が厳しいってわけじゃないのよ。

私に男兄弟がいてごらんなさいよ。

お嫁さんは大変だわよ。


小姑にはなれなかったけど、男の子しか生まれなかったから

姑になる可能性は与えられたわけよ。

はぁん?嬉しいわけないじゃないの。

嫁に死を待たれる身の上ってだけよ。


親に対する考えは、他人である嫁と血を分けた娘で

根本的な違いがあるの。

嫁の頭には、まず「死」ありき。

安らかな旅立ちが目標。

娘は反対に「生」ありき。

痛くても苦しくても、とにかく親には息をしていて欲しい。

基本精神が正反対なんだから、歩み寄るのは無理ね。


義理親には安らかに、そしてできれば早めに

旅立っていただきたい嫁だけど

自分の親にはやっぱり生を望むと思うわ。

一方、自分の親には生きて欲しい娘も

嫁ぎ先の義理親には「まだかいの?」と思ってるはずよ。

立場が変わると、お互い様なのよね。



私の友達の話ですけどね

80才になる認知症の姑さんを介護してたのね。

そのうち姑さんの癌がわかって、家族は決断を迫られたの。

癌は放置して、地元の病院で家族に囲まれながら余生を過ごすか。

遠い都会の大病院で手術をするか。


近くで、できるだけのことをしてあげよう…

手術をしても完治する保証は無いと言われた友達は

ご主人と話し合って、地元の病院の方を選んだの。

生真面目な子だから、毎日通って献身的にお世話してたわ。


ある日、いつものように病院へ行ったら

お姑さんのベッドがもぬけの殻で、荷物も無くなってた。

ぶったまげて聞いたら「今朝、転院されました」。


ご主人の2人のお姉さんが、弟夫婦に内緒で

都会の病院へ転院させていたわけよ。

娘としたら、母親がこのまま衰えていくのに耐えられなくて

手術の可能性に賭けたのね。


友達は何しろ生真面目なもんで

あまりのショックにうつ状態になっちゃって

それきりお姑さんに会うことは無かった。

だって手術を受けたお姑さんは、すぐに亡くなったから。

お姉さん達の賭けは、裏目に出たわけ。


お葬式の時、友達は親族席に座らず

泣きながら一般の参列者が並ぶ庭へ降りたの。

「私は家族じゃないから」って。


どんなに説得しても聞かない。

ほら~、生真面目だからさ。

おかげで介護から解放されたし

そこまでしなくていいんじゃない?

と思うのは他人の考えで

本人は疎外感や絶望で思い詰めていたのね。


ここでご主人はどうしたと思う?

喪主でありながら、奥さんと一緒に庭へ並んだのよ。

私はお葬式には行ってないから

それ聞いて怖いと思ったけど、一応美談らしいわ。


この美談を妻の側から見ると

こういうご主人だから、生真面目が通せる。

お姉さん達の側から見ると

こういう嫁だから、こっそり裏をかくしかなかった。

ご主人の側から見ると、2人のお姉ちゃんと戦うより

妻の差し出す煮え湯を飲んだ方がマシ。

三者の都合が混ざり合って

はい、とりあえず美談成立。


時は流れてその友達、自分の親が具合悪くなったの。

「あれじゃ親がかわいそう」

「兄嫁の気が効かないから、私が…」

「自分の育った家が他人の物になると思うと、なんだかねえ」

あんた、何年か前にそれで悩んでたのと違うんかい…

と思ったけど、そういうもんらしいわ。


余談になるけども、うちの「生きる仕打ち」の話。

先月、姑さんが高い所から落ちて、両足のカカトが砕けちゃったの。

これを目撃した仕打ちはまず、うちへ電話してきたわ。

クールよねぇ。


「すぐ救急車を呼んで、あんたも付いて行きなさい」

母親の指導の元、救急車を呼んで姑さんは手術。

経過は順調だけど、もう歩けない。

だけど入院中に認知症が進んで、来月退院したら

そのまま老人施設へ入所が決まってるの。

そこで終生過ごすと決定。

運の強い人は、どこまでも強運ね。


なんかさぁ、善悪より

クールに強運の鍵があるような気がしない?

あんまり生真面目に考えない方がいいみたいよ。



あ、最後に一つ、この辺の方言をご披露しとくね。

「よおまあ」。

語源は不明だけど、よくもまあ、って感じかしら。

本人は良かれと思い込み、余計な言動で

人の感情や事態を悪化させること。

またはそれを行う人のこと。

常習者になると、もう名前でなく「よおまあ」と呼ばれるの。

嫌われ者の代名詞としては、以前紹介した「カバチたれ」

(さも立派なことは言うが実行は伴わない)と互角の勝負。


何の慰めにもならないけど

「あいつがまた、いらんこと言いやがって、やりやがって…」

と延々言うより、よおまあの四文字で短く断じる方が気分良くない?

え?あんたこそ、よおまあだって?

へへへ。
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ウグイス日記・フィナーレの巻

2014年12月24日 21時22分54秒 | 選挙うぐいす日記
「祝勝会でもらった花束と折り鶴のレイ」



あんた、ナミ様のことばっかりで

肝心の選挙の方はどうなってるんだ…

そう思われる方がいらっしゃるかどうかは知らないが

一応したためておこう。

二期目は大きく票が減るという「二期目のジンクス」に添って

前回より大きく得票数を減らし、お陰様で無事当選した。


「二期目のジンクス」は、2回目という数の問題ではない。

現職で臨む初めての選挙という意味だ。

前回と比較して、現状維持や飛躍は難しいとされている。


初当選で得た票は、期待や激励だったが

今度はその票が成績表になる。

1年生議員がやれる仕事は限られており

成績表はおおむね点が辛い。


各方面にしがらみも生まれている。

現職としてのプライドもある。

陣営も慣れて危機感が薄れる。


4年前、ウグイス修行をした候補のお姉ちゃんは

現在教育関係の仕事をしているので、選挙には参加しなかった。

現職に向けられる目は厳しいのだ。

当選を目標に、やる気だけで臨んだ前回とは異なり

何かとやりにくいのが二期目である。


ジンクスに逆らって、前回より余計に取りたいなんて

青臭い野望は持たないが

せめて前回との差を少しでも縮めたい…というのが

我々の目標であった。

減った票から見えてくるものが必ずある。

若い候補にとって、今後の大きな糧(かて)になるはずだ。


票のほうはさておき、今回の選挙は

候補の演説に重点が置かれた。

うちの候補は街頭演説が得意ではあるが

若さやフレッシュをアピールすればよかった前回と違い

現職としての水準を模索していた。


候補に請われれば、演説の内容を一緒に考えるのも

ウグイスの仕事である。

朝に夕に、何度も2人で構成を練るが今一つ。

そのうち気がついた。

市長が原因じゃないのか…。


「俺は若い頃、毎日山に登って発声練習した」

「人の心をつかむ話をしなきゃダメだ」

子分可愛さから、市長にさんざん言われてきた候補だった。

これも現職のしがらみと言えよう。


しかし出陣式に駆けつけた市長の挨拶を聞くに

話す内容はたいしたことない。

圧倒的な声量と、イントロからサビへの盛り上げ方がうまいだけだ。


このカラクリを説明し

「うまく見せるのがうまいのと、本当にうまいのは違う」

「候補の方が断然うまい」

「あの人の椅子には、いずれ候補が座るのよ。

あ、もっと上を狙ってる?失礼」

構成なんかそっちのけで、そう言っていたらぐんと良くなった。


さて、このブログの検索ワードにも

ウグイスに関するものがたくさんある。

「選挙 ウグイス セリフ」

「ウグイス 最終日 セリフ」

「ウグイス しゃべる内容」

などである。


セリフに限界を感じたウグイスの検索によるものか

単に興味のある人が検索しているのかは知らないが

たいしたことを言う必要は無い。

一番大切なのは、名前だ。

時と場所に合わせ、候補の名前を心を込めて

幾通りにも言えるウグイスが良いウグイスだと

私は思っている。


また、多くの候補がひそかに、そして最も

ウグイスに望んでいるのは機転や美辞麗句ではない。

細かい地名である。


町名の改訂が行われ、一丁目、二丁目と

大まかにまとめられた場所で、あえて古い字(あざ)を使い

「○○地区の皆様」と呼びかけるのを好む。

そこに住む人にしか馴染みの無い呼び名を使って

親近感を表わしたいのだ。


しかし字名に詳しい地元在住のウグイスは

就職や高齢化で、もはや絶滅状態。

よそ者では難しいので、無理な要求をしないだけである。


ウグイスにとって、これはもろ刃のヤイバに等しい。

言えば候補は喜ぶだろうが、うろおぼえで言い間違えたら

致命傷である。

そんなに旧名がいいんなら自分で言えや!と言いたいが

そこはまあサービスの一環で、わかる所は言うように努める。

何十年も前の古い電話帳が、こんな所で役に立ったりする。


名前が大事、地名が有効といったって

やっぱり他のセリフも必要だ。

今回、候補を始め、各方面に一番ウケたオリジナルのセリフを

ご披露させていただこうかいの。

選挙カーの方向転換中など、時間的に余裕のある時の

長ゼリフだ。

「義理や人情、お好みご都合、さまざまおありでしょうけれども

どうか○○市の未来を見据えたご英断で

○○、○○を議会に送ってくださいませ」


ギャラが破格だったことと、4年後の予約を申し添えて

今回のウグイス日記を終わるとしよう。

メリー・クリスマス

〈完〉
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ウグイス日記・伝説の巻

2014年12月19日 10時52分27秒 | 選挙うぐいす日記
火曜日の朝、ママの携帯に電話してみた。

電話に出たママは、挨拶もそこそこに

「ネエさんの言う通りだった!」

を繰り返す。

ママは学校行きを口にしないが、言う通りだったというのは

遅刻の取り消しを断られたことを指すと思われる。


母娘が電話を奪い合いながら、代わる代わる説明するには

警察で事故証明をもらった後、警官が相手の家に連絡を取って

一緒に行ってくれたそうだ。

母親と息子は別人のようにおとなしく

警官の言い渡すことにハイ、ハイと笑顔でうなづいて

保険を使うことに快く同意したという。

あまりの変貌ぶりに驚き、2人はただ呆然と見守るだけだった。


「でも、心配なことが…」

ナミ様は言う。

「あんまりコロッと変わったので、かえって怖くて。

後から遅刻のことで訴えられたら、最悪ですよね…」

「ありえん」

裁判の勝ち負けや、請け負う弁護士がいるいないの問題以前に

着手金や訴状に貼る高額な収入印紙代を払ってまで

訴訟を起こす情熱が、あの親子にあるとは思えない。

私は一笑にふしたが、2人は真剣だ。


「もしそうなったら、イケメンの弁護士を紹介しちゃる」

「イケメン?!」

ナミ様、食いつく。

「任しとき!」

「なんだか…最悪が楽しみになってきました!」


これで暗雲は晴れたと思いきや、甘かった。

「Aさんに申しわけない」

母娘の心配は、そっちへ行っちゃった。


Aさんというのは、相手の車と接触して警察を呼んだ時

ママに付き添った58才の男性だ。

昨年の市長選で、ナミ様や送迎係のママと親しくなっており

立会いを買って出てくれたのである。


「保険を使うまでも無いから、後は話し合いで…」

警察はそう言って帰り、Aさんは

「こういう時だから穏便に…」と言って

ママを謝罪に行かせると相手に約束し

その場を収めたつもりだった。

「穏便じゃなくなったことがAさんに知れたら

気を悪くするのではないか…」

母娘はそう案ずるのだった。


「モメたあげくに保険使いましたって

Aさんの家に手紙が届くわけじゃなし」

私は見当違いを再び一笑にふすが、2人はやはり真剣である。

人はプライドがズタズタになっている時

あらぬ方向へ心配を向けてしまうものだ。


「何かの拍子に耳に入って、Aさんの機嫌を損ねたら

次の市長選で雇ってもらえなくなるかも。

だってAさんは…」

ナミ様は昨年の市長選で誰かから吹き込まれた

Aさんの個人情報を教えてくれる。

「アパレル関係の元社長で、市長の腹心という話です。

権力のある人だから、気を使うんです」


ママも口添えする。

「私のせいでチームの仕事が減ったら

Aさんだけでなく、師匠にも合わせる顔が無いでしょう。

一応、プロとして…ねえ」

“市長選でお声がかからなかった人には、そういう人間関係や

こちらの気遣いなんてわからないでしょうけど…”

そんな口ぶりであった。


アパレル関係の元社長で、市長の腹心というAさん。

しかしその実態は、モンペやジャージのぶら下がる

ひなびた衣料品店を数年前に経営難で閉じ

年金が出るまで選挙の手伝いで細々と食いつなぐ

私の同級生のお兄ちゃんである。


何しろ暇なので、朝から晩まで事務所にピッタリ張り付ける。

寡黙で斜に構えたところが腹心らしく見えないこともないが

彼の家系をかんがみるに、勉学に優れている反面

浮き世のことには疎い血筋。


彼の弟は、同窓会の会費を7年滞納したあげく

昨年の母親の葬式で、会からの香典をせしめた直後に退会した。

その兄であるから、およそ知れている。

虫食い穴がアクセントのチョッキをご愛用の

浮き世離れしたお方だ。

今回の選挙では「市長から回された人材」として

そこそこ尊重されてはいたものの

ウグイスの人選に影響を及ぼすような人物ではない。


見てわからんのか?!と言いたいが

選挙には時として、プロフィールがグレードアップするサービスがあり

「信じるも信じないもあなた次第」という

都市伝説が生まれる場でもある。


そもそも師匠のチームは、3年後も市長に雇ってもらう予定でいるが

肝心の市長は二期目の出馬が危ぶまれている。

親族に関わる公金の問題が浮上しているからだ。

つまり師匠のチームが再度、現市長に雇われる可能性は

彼女達が考えているより少ない。


それを見越して、別の人が出馬の準備中である。

準備といっても、他の立候補者を抑える根回しだ。

草の根で一票から始めるより、ずっと効率が良い。

言い方を変えれば、立候補を準備中の人が

市長の問題を浮上させたとも表現できる。

選挙とは、クロいものなのだ。


ウグイスの打診もあったが、その人はケチで

ギャラが少ないのを知っているため、引き受ける気は無い。

ナンなら師匠のチームを紹介してやってもいい。


現市長がこの難局を乗り越え、再び出馬できるか…

別の人が本当に立候補できるか…

私の注目はこの2つに絞られている。

楽しみで、ウグイスやってるどころじゃない。


だが、この母娘にそんなことは言わない。

善人というのは恐ろしい生き物なのだ。

世の中の人が、みんな自分と同じ善人と思い込んでいるため

よそで何を言うかわからないので滅多なことは言えない。

「同級生のお兄ちゃんだから、もし何かあれば説明してあげるよ」

そう言うと、母娘は安心した様子であった。


で、選挙のほうはどうだったのかって?

二期目のジンクスにのっとって、4年前の初当選より大きく票を落とし

真ん中あたりで当選した。

事務所で開票結果を待つ間、ナミ様母娘と充分な話し合いができたのは

当確が出るのがひどく遅かったからである。


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ウグイス日記・通用の巻

2014年12月15日 10時02分47秒 | 選挙うぐいす日記
ゆすられている現実から目をそむけ

島の学校行きに意識を集中させるナミ様母娘に

再度の説得を試みることにした私だった。

似たような母娘はうちにも一組いるが

こういうのは、頭ごなしに否定したらダメなんじゃ。


「つらかったね、よく頑張ったね。

あの島はいい所よ。

うちの姑の出身地だから、よく知ってるの。

私が連れて行ってあげる。

帰りは魚介の美味しい店へご案内するわ」

「本当?!」


食いついたところで、少しずつ核心に寄っていく。

当初「絶対に接触していない」と主張していたママの発言は

「よく覚えていない」に変化してきたため

反撃や復讐でなく、平和的解決に持ち込むしかないのだ。


あんたらは、ゆすられている…

金を出せとはっきり言ったら恐喝になるから、誠意と言うのだ…

頼みに行ったって、国立の学校が遅刻を取り消すわけがない…

そしたら次は金の話しかなくなる…

これ以上、彼らの言いなりになってはいけない…

ゴネれば土下座やお金が出てくるのに

青少年が味をしめたら、この先また犠牲者が出る…

これらを経由して、やっと「だから保険を使え」に到達。


それで決着がつかないのも、よ~く知っている。

「一応行ってみて、私なりに最大の努力をして

それでダメだったら…ねえ」

2人で顔を見合わせて、うなづき合っている。

ナミ様も警察に行きたくないもんだから、離島行きを推奨。


2人は島の学校で遅刻の取り消しを勝ち取り

それをミヤゲに解決できると思っているのだ。

あり得ないとはいえ、万一遅刻が取り消されたとしても

今度は「受けた心の傷」というやつに対して

誠意を要求するプログラムが待っていることなど

想像だにしていない。


娘からの強い洗脳を解くには、娘の次に強いアイテムが必要だ。

男である。

うちにも一人いるが、このような母親は

他人の男性の言うことだったら案外コロリと従うのだ。


男なら誰でもいいというわけではない。

まず口が固く、法律に明るい知恵者でなければならない。

小声で話しても内容を瞬時に理解できる聴力と勘の良さ

他人から相談を持ちかけられても舞い上がらない

世慣れた性格も欲しい。

母娘が納得のいく外見も必要だ。

ナンボ立派なことを言うてくれても、ボロボロ爺さんじゃあ

説得力が半減する。


事務所を見回し、適任者を探すと

難しい条件をクリアできる男が一人だけいた。

共に開票結果を待っていたカリスマ美容師、I氏である。

私は彼に頭髪を任せているが、ついでに頭の中身の方も

時々おすがりしている。


I氏にかいつまんで説明すると、即座に回答。

「向こうのやっていることは、すでに強要という犯罪。

学校に行ってはいけない。

保険を使いなさい、その方が安くつく。

修理代を支払ってないなら、まだ間に合うから事故証明を取りなさい」


私はナミ様母娘の所へ、とって返した。

「ほら!あの男性もそう言ってる!」

効果てきめん、2人は保険を使うことを承諾したのだった。


「いいね?明日、フェリーに乗るんじゃないよ?

警察へ行くんだよ?わかったね?」

「はい…」

しかし2人は生返事。


「付いて行こうか?」

「いやいや、そんなことまでしてもらうわけには…

私達だけで大丈夫」

これまでとはうって変わり、元気よく断るママ。

保険を使うことには従うが、やっぱり島へは行くつもりらしい。


お年寄りって、周りのみんなが年下なので

自分が何か言えば通るのではないかと

変な自信を持っているフシがある。

事故の親子に通用しなかったんだから

あきらめればいいようなもんだが

かえって「今度こそは」という思いが強くなり

学校に舞台を移して、果敢なトライを試みようとする。


周囲はそれを深追いや執拗と呼ぶが

本人にしてみれば、どこかで自信を取り戻さないと

不安で仕方がないのだ。

このようなおばあちゃん、うちにも一人いる。


行って、玉砕するがいい。

自分の考えが甘かったと思い知るのは、悪いことではない。


島のことにはもう触れず、警察での打ち合わせをする。

「かくかくしかじかで、脅されて困っているんです…

はい、言ってみて」

「脅されて困っているんです」

2人は復唱する。

「土下座を強要されて、誠意を見せろと言われました…

今晩も来いと言われていますが、怖いので行きたくありません…

保険を使いたいので、事故証明を出してください…

はい、言って」

「土下座を強要されて…」

「“強要”と“怖い”は絶対忘れずに。

いいね?強がったらだめよ。

恐喝におののく弱者でよろしく。

困ったら、すぐ電話して」

「わかりました!」



翌日、どうなったかを聞こうかとも思ったが

こっそり島へ行っているはずなので気まずかろう。

島で玉砕後、こちらへ戻って警察では忙しいだろうから

中一日置いて、火曜日になってからママに電話することにした。
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ウグイス日記・誠意の巻

2014年12月09日 10時40分03秒 | 選挙うぐいす日記
翌朝…つまり選挙戦6日目。

小柄なママが、いちだんと小さく見える。

なんだかナミ様も、本来の年相応になってきた。

6日目ともなれば疲れが出るだろうが

それにしても昨日より20才ぐらい進化している。


浦島太郎状態になった理由を私はたずねなかった。

たずねるまでもない。

昨夜、謝罪に行って話がややこしくなったのだ。

保険を使わないからだ。


保険を掛けているのに使わない…

心がけの良くない者にとって

それはおいしい可能性を含んだエサだ。

点数の問題や、警察沙汰にしたくない秘密など

保険を使えない事情があると思われてしまう。


ママとナミ様は、相手がそう考えているとはつゆ知らず

頭を下げればどうにかなると思い込んでいる。

しかし下げれば下げれるほど、相手は

「保険を使いたくない、よっぽどの理由があるに違いない」

と思い込んで、事態はますます悪化する。

でも母娘が選んだ道…わたしゃ知らんもんね。


7日目の最終日もそのまま終わり、投票日になった。

夜には皆が選挙事務所に集まって、投票結果を待つ。

早めに行ってナミ様母娘の隣に陣取るが

この2人、さらに外見的老化が進んでいる。

声をひそめて話しているのを聞くと

明日、とある離島へ出かける必要にかられたらしく

車でフェリーに乗るか、向こうでタクシーを拾うかを

決めかねている様子だ。


事故が2人の手に負えなくなっているのは、もはや明らかだった。

その関係で、どうしても島へ渡らなければならない事情ができたのだ。

おそらく、とんでもないことになっている。


「悩みがあるんでしょ?言ってごらん」

今ならまだ間に合う。

私は再び首を突っ込むことに決めた。


「いやいや、もうね、迷惑はかけられないから…」

2人は懸命に手を振り、話すことを固辞する。

「候補にも皆さんにも迷惑だから

何としても、これは私達だけで解決しようと決めたの。

そのうち、きっと何とかなると思う」

言いながら、ママもナミ様も涙を浮かべている。

「いいから言いなさい!」


ようやく聞き出した話はこうである。

5日目の夜、事故の相手から指定された午後10時に

ママとナミ様は謝罪に赴いた。

家で待っていたのは、例の母親とハタチの息子

それにもう一人、母親の彼氏という若い男だった。


彼氏は、おとなしかった。

母親にガミガミ怒鳴られはしたが、一番恐ろしかったのは

ヤンキーでも何でもない、ごく普通に見えた息子だったそうだ。

不細工なおかんに若い男ができて入り浸りれば

年頃の息子が屈折するのは当たり前で

しつけがされておらず、元々の性格も悪いとなれば

歩く凶器に等しかろう。


「土下座しろ!」

息子はまず、玄関で2人に要求した。

言うことを聞いてしまうからいけないのだが

母娘は言われるままに土下座をした。


ママの頭の下げ方が足りないと、ヒステリックに叫ぶ息子。

「床に頭をつけろ!早く!」

「ごめんね、おばちゃんは頚椎にボルトが3本入ってるから

これ以上は首が曲がらないのよ」

しかし息子はきかない。

「それじゃ謝ったことにならない!もっと下げろ!」


ママは、冷ややかに見下ろしている母親に頼んだ。

「あなたも看護師なら、病人のことがわかるでしょう?

これ以上は無理だと、息子さんに教えてあげてください」

母親は、うちの義父アツシが入院する病院へ勤めているそうだ。

「私も仕事柄、それくらいのことはわかりますよ。

でもきちんと謝罪ができないんじゃあ

別の謝り方を考えてもらうしかないですね」

白衣の天使の優しいお言葉であった。


こうして母娘は2時間、冷たい玄関に膝まづき

母親と息子の罵声を浴びた。

「明日、同じ時間にまた来い!」

その頃には、ママは脚が立たなくなっていて

母親の彼氏に抱えられて立ち上がり、やっと帰ることができた。


言われた通り翌日の金曜日の夜も行くと

今度は土下座プラス誠意がテーマになった。

息子は離島にある国立の高等専門学校へ通っている。

5年通って、来春卒業だという。

「5年間、無遅刻無欠席だったのに

この事故が原因で初めて遅刻した!就職に不利だ!

どうしてくれるんだ!」


そこでママは言った。

「学校に頼んで、遅刻を取り消してもらえたらいいのにね…」

人はこういう時、つい妙なことを口走ってしまうものだ。


「思うだけじゃダメだ!行ってから言え!」

息子はますますヒートアップした。

「月曜日に学校へ行って頼んで来い!それから結果を報告に来い!」

「もし…無理だったら…」

「誠意を見せるしかないだろう!」

「どんな…」

「それはお前らが考えることだろうが!」

息子は壁を蹴ったり、物を投げたりした。

「うちの子の将来を潰したんですからね!

謝ったぐらいじゃ済まないですよ!」

こうしてまた母子の罵声を浴び、2時間後に解放された。



「だから明日、島の学校へ行ってみようと思って。

でも初めて行くから、タクシーを拾った方がいいかしら」

この母娘にとって現在最大の悩みは

ユスられている現実ではなく、車かタクシーかの問題だった。


日頃は女の園で静かに暮らす人達である。

土下座したり怒鳴られたりして正常な判断力を失い

現実から目をそむけてしまうのは、無理もないことであった。

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ウグイス日記・説得の巻

2014年12月07日 09時55分57秒 | 選挙うぐいす日記
事故が起きた4日目の朝、ママはいつも通りナミ様を送ってきた。

事務所で選挙カーが出発する午前8時を待っていたその時

中年の女性と若い男が、選挙事務所に駆け込んできた。


「今、うちの息子の車に当たりましたよね!」

「オマエ、当たったろう!」

憎しみに燃えた母とガキは

座っているママをのぞき込んでえらい剣幕だ。


ママはまさか自分に言われているとも知らず

まったりとお茶をすすっていた。

ご高齢のせいなのか、衝撃が無かったからか

狭い道路で離合した時、ママは接触に気がつかなかったようだ。


「逃げましたよね!それも笑いながら!」

母親はヒステリックに怒鳴った。

ママは何のことだかわからず、ニコニコしている。

「とぼけてもダメよ!警察に突き出しますからね!」


こういう時、候補以下、選挙カーの乗組員は関与しない。

うっかり口を出したら、8時に出発できなくなる。

相手が逆上しているため、もつれるのは目に見えており

「時間なのでさようなら」と逃げるわけにはいかないからだ。

出発の見送りのために訪れていた男性が

代わりにママに付き添って事故現場へ行った。


ナミ様は外にある選挙カーで、マイクのガーゼを交換中だった。

そのためこの一件を全く知らず、出発直前に聞いて驚いていた。


そう、ナミ様にとってガーゼ交換はイノチ。

風の音を拾わないためや、衛生管理のためという理由により

マイクの頭にガーゼをかぶせて輪ゴムで留め

てるてる坊主のようにするのが

ウグイスに古くから伝わる「ガーゼ信仰」である。


マイクの性能が進化した今は、昭和の忘れ物的行為に等しいが

車の振動で口紅が付くこともあるので、まんざら無駄な作業ではない。

これをナミ様は毎朝、粛々と行っておられるのだ。


さて、その夜。

ナミ様を迎えに来ていたママに話を聞くと

警察は来たものの、あまりにも軽い接触で

傷の確認ができなかったので事故扱いにならず

帰って行ったそうだ。


「相手の人は、私が笑いながら逃げたと言うけど

すれ違う時に会釈して通り過ぎただけなのよ。

横に乗っていたナミも、事故に気がつかなかったんだもの。

でも私が悪いと言うから、家に行って謝るつもり」

ママはこともなげに言った。

「当たった部分を塗装し直せと言ってるから

保険を使わずに直してもらおうと思って、見積もりを頼んだの」


「何てことを…」

私は必死で止めた。

「狭い道なんだから、どっちが悪いなんて簡単に言えないよ。

事故証明を取って、保険使わないとダメだよ。

あの親子、普通じゃないよ」


しかしママは平然と言う。

「大丈夫、大丈夫。

私は50を過ぎて免許を取ったから、事故には慣れてるの」

得意げに微笑むママ。


それから「あの時も…この時だって…」と、ママの長い武勇伝が始まる。

見ていた通行人が味方してくれた…私はこう啖呵をきってやった…

テーマこそ違えど「つまり世界は私の味方」状の物語が

できあがっているところは、うちの義母ヨシコと同じパターンだ。

こういうおばあちゃん、よくいる。


「保険もね、割引が無くなるから使わない方がいいって

下の娘が言うから」

ナミ様には独身で実家暮らしをしている

一つ違いの妹様がおられるのだ。

実家に生計を頼り、たまにウグイスをする長女のナミ様より

長年社会人を営んでいる妹様の方が

当然ながらママの信頼は厚い様子だった。


「ナミもね、こういう時だから穏便にすませた方がいいと言うし」

「こういう時だからこそ、きちんとしなきゃ」

「でも娘達がそう言うから。

渡る世間に鬼は無しって言うじゃない」

「今どきは、鬼の方が多いんだよ」

「大丈夫、心配してくれてありがとう」


バカ娘どもめ…私はいまいましかったが

母親と娘の結束は、周囲が思う以上に強くて深い。

ナミ様のおうちは父親を数年前に亡くした女所帯なので

母娘の絆は一層強度を増している。

何日か前に初めて会った私の言うことなんか、聞きやしないのだった。


翌朝…つまり選挙戦5日目。

相手の家に行ったのか、ママとナミ様にたずねると

昨日は相手の都合が悪かったので、今夜行くと言う。

「母親は看護師をしているそうだから

夜勤でもあったんじゃないかしら」

「今からでも遅くない、保険使ってプロに任せた方がいいよ」

「でもナミが保険は絶対ダメと言うから…」


私はナミ様にたずねた。

「あんた、マジか?」

「私は…」

ナミ様は口ごもった。

「保険を使うには…事故証明がいるでしょう…

警察へ行かないといけないでしょう…」

つまり先日の暴漢事件で年齢詐称が発覚したため

恥ずかしくて警察に行けないとおっしゃるのであった。


「刑事課と交通課は別の人よ。

嫌だったらママだけ行けばいいじゃん」

「でも…同乗者だし、母を一人で行かせるのもかわいそうだし…」


私はこの時点で説得をやめた。

世間知らずの娘の誤った判断に従い

喜んで地獄に落ちる母親は、うちにも一人いるじゃないか…

母娘で「人が悪い、人が悪い」と憎んでいれば時は経ち

やがて新しい問題が起きたら、前のことは忘れるのだ…

私はそれを目の前で30年以上も見てきたじゃないか…

そう自分に言い聞かせた。

ナミ様母娘が本当に地獄に落ちたのは、その夜であった。
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ウグイス日記・機転の巻

2014年12月05日 10時19分24秒 | 選挙うぐいす日記

7日目…選挙戦は最終日となった。

ナミ様は、師匠へのミヤゲを増やす追い込みのつもりか

私への質問に余念がない。


「どうしてポンポン、新しいセリフが出続けるんですか?」

「本が好きだから」

「読書がいいんですか?」

「気に入った一冊をしつこく読む」

「どんな本ですか?」

「辞書」


「ネエさん、セリフでよく経済に触れますよね。

言えたらセリフが増えるのはわかってるんですけど、私は怖くて…

どうしたら言えるんですか?」

「お金が好きだから」


「政策についてもガンガン言いますよね?」

「候補が望むから」


まともに答える気は無い。

ナミ様、目下一番の悩みは「機転がきかないこと」だそうで

「いつも機転がきかないと怒られるんです。

もっと機転がきくようになれたら…」

そうおっしゃるが、機転の中でかなり重要な

車関係を投げているからだ。


長年ペーパードライバーのナミ様は、安全走行に無関心。

後続車や離合のやり繰りを始め

脱輪防止、事故防止のための目視ができない。

都会ではいざ知らず、狭い道路の多い田舎の選挙では

これが付いて回る。

選挙カーの運転は神経を使うので、ことのほか疲れるものだ。

目視でドライバーに協力しながら

おりに触れて褒めたりねぎらったりするのも

ウグイスの大切な業務である。


「どうぞ先にお進みください」

渋滞で明るく後続車を促し、サンキュー事故未遂になることも

一度や二度ではない。

そりゃ師匠に怒られるはずだ。

「いつも途中でマイクを奪われて、後で叱られるんです」

悲しそうにおっしゃるが、当たり前である。

たとえ短時間でも、完全にマイクを預けられる信頼を得なければ

いつまで経っても追い回しの下働きのまま叱られ続け

やがてはおばあさんになって引退だ。


車のあれこれは、機転というより常識の管轄なので

運転の練習を勧めもしたが「怖いから無理」だそう。

だから車関係以外の機転を得ようと、ナミ様は一生懸命だ。

しかし、命あってのモノダネ。

安全運転してこその選挙運動。

練習さえすれば簡単に得られる機転を捨てたナミ様に

他の何を言っても身につくわけがない。


私の方は車関係をクリアできなければ

他を頑張ってもダメだと思っているが

ナミ様の方は車が無理だからこそ

余計に他の機転が欲しくなるようだ。

「懐中電灯を振ってくれる人にお礼を言う時

LEDと普通のやつとで文言を使い分けていますよね!

“その青く清涼な輝きのごとく

市政を導く光となりたい◯◯でございます”とか。

“◯◯も暖かい灯りで町の未来を照らしとうございます”とか」

「あんたとこ、まだ旧式かい?って言えないじゃん」


「道を間違えた時

“◯◯は道には迷っても、政策に迷いはございません”

って言われましたよね!

行き止まりになった時は

“◯◯は道には行き詰まっても、政治には行き詰まらない即戦力”

って言われましたよね!」

「あれはついでの遊びじゃ」


こういうのがナミ様のツボらしく

「バッチリメモりました!次の選挙から使わせてもらいます!」

と張り切る。

それよか、やっぱ車だろう…と思うが、虚しいのでもう言わない。


車といえば、こんなことがあった。

年季入りのペーパードライバー、ナミ様の送迎は

高齢の母親が担当している。

ナミ様が老女になった姿を連想させる、可愛らしいおばあちゃんだ。


ナミ様より先に、このママが私になついた。

初日の朝、自身の離婚歴を嘆くナミ様と

娘を不憫に思いつつも、孫に恵まれなかったことや

実家頼りの不甲斐なさに小言が出るこの母に

例のごとく、えらそうに自論をぶちまけたのが発端である。


「離婚~?

女一人幸せにできない男と、いつまでもくっついてたって

一生ロクなことありゃしないわよ!

そんなヤツの子孫、増やさなくて正解よっ!」

ママはこれで目からウロコが落ち、楽になったとおっしゃる。

昔ウグイスをしていたママは、根性無しの娘が歯がゆいそうで

「みりこんさんにしっかりくっついて、習いなさい!」

と、毎日ナミ様を叱咤激励するのだった。


が、そこは親子。

当時はまだ暴漢も出ておらず、ナミ様のウグイス年齢はバレていなかったので

ママも娘に合わせて「ウグイスママ年齢」を使用し

72才と言わされていた。

娘は5つ、母は6つ、逆サバを読んでいたのである。

一つ嘘をついたら、周りも固める必要が出てくるから

大変なのだ。


ナミ様の5つはわからなかったが、後期高齢者の6つはやり過ぎだった。

色白で可愛いとはいえ、杖をついたカツラのおばあちゃん。

今にして思えば、やはり無理があった。


4日目の朝、このママに事件が起こった。

いつものようにナミ様を送って来た時

選挙事務所のそばで対向車と接触したのである。

ここから母娘の苦悩が始まろうとは、思いもよらなかった私だった。

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