殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

OH!イタリアン

2018年04月27日 09時16分46秒 | みりこんぐらし
昨年、私の住む町に小さなイタリア料理の店ができた。

経営者は夫のバドミントン仲間、Aさんの娘夫婦だそう。

そこでバドミントンクラブの忘年会は、その店で行われることになった。


「どんな感じ?良かった?」

忘年会から帰宅した夫にたずねる。

「食べられるモンがあんまり無いし、出るのが遅くて量が少ない」

夫はチーズとオリーブオイルと生野菜が苦手。

この3点セットはイタリアンに欠かせないので

採点が辛いのは致し方ないと思われた。


年が明け、夫は再び同じ店で新年会を行うことになった。

今度は同級生の集まり。

「どうだった?」

私はまたもや、帰宅した夫にたずねる。

この熱心は、ひとえに我々同級生で行う女子会のためだ。

去年のゴールデンウィーク

いつも使うマミちゃんのお義兄さんの店が休みだったため

夫の協力のもと、代わりの店を探すのに苦労した。

以来、キープ店のリサーチに励むようになった私である。


さて、夫の感想は今回も冷ややか。

「女はおいしい、おいしい言うて喜んどったけど

男はやっぱり量が少ないとか、遅い言うとった」


以後、その店に行った人の話を何度か耳にしたが

いずれも男は酷評し、女は絶賛する。

田舎の男というのは

パスタやピザは女子供の食べ物と決めつけているフシがあり

イタリアンと聞けば、その二つしか思い浮かばないし

チーズが苦手な人も多い。

一方、女は食べ物に対して柔軟だし

そもそも自分で作らない物であれば何だっておいしい。

それを考慮しても、この男女差はいったいどうしたことか。

私は首をかしげるのだった。



そして遅ればせながらこの3月、やっとその店へ行く機会に恵まれた。

メンバーは、義母ヨシコと義姉こすず。

微妙な関係の女3人で、ランチだ。

この店の前身は裏ぶれた居酒屋だったが

イタリアの古い農家風に改装が施されている。

全部で20席ほどの店内はほぼ満席で、我々はカウンターに並んで座った。


料理は洒落ており、おいしくてボリュームがある。

盛り付けやサービスを行う30代半ばらしき奥さんは

まだ慣れてない様子だったが、清楚で可愛らしい。

これをなぜ、男たちは気に入らないのだろうか。

私は首をかしげるのだった。


しかし疑問は、じきに解明された。

原因はシェフ。

「おいしい!」

小さくつぶやいた私の声を耳にして

「ありがとうございます!」

と厨房から出てきた彼は、大変なイケメンであった。


顔が綺麗なだけでなく、長身で小顔。

しかも爽やかで愛想がいい。

全国ネットのコンテストに出場したら

優勝してそのまま俳優になれるランクだ。

背が低くても、顔が大きくても、足が短くてもなれる海の王子なんざ

目じゃねえわ。

男どもが気に入らないのは、料理以前にこれだったのね〜!

原因が究明できて、非常に満足する私だった。


デザートを食べていると、我々の正面にある店の勝手口から

70代のおじさんが入ってきた。

「あら、Aさん!」

ヨシコは驚いた。

「あら、奥さん!」

彼も驚いた。

彼は現役時代、ヨシコ夫婦と親しかった元銀行員だそう。


「次女夫婦の店なんよ‥ワシは皿洗い」

そう言いながら、Aさんはおぼつかない手つきで皿を洗い

大音響を立てながら皿をしまう。

この程度のサポートで容認されているところを見るに

彼もいくばくかは開店資金を出しているのだろう。

ともあれ、思わぬ所で古い知り合いに会ったヨシコはたいそう喜び

昔話で盛り上がるのだった。


帰宅した私は、新しい店のレポートを同級生の女子会に発信。

「シェフが鑑賞に値するイケメン」と添えたからか

皆は興味しんしん、ぜひ行ってみたいと言う。

そこで夫に頼み、Aさんに5人分の予約を取ってもらった。

Aさんは、とても喜んでいたそうだ。



ところが、それから一週間が経ったバドミントンの練習日。

Aさんは申し訳なさそうな顔で夫に言ったという。

「予約をキャンセルさせてもらえないだろうか‥」

昨日、我々が予約しているのと同じ日に

どこかの会社から15名の予約が入ったので

そっちを受けてしまったそうだ。


「料理をするのが娘婿一人なので、回しきれないと思うので‥」

つまり後からおいしい予約が入ったので

先約を蹴りたいという申し出である。

予約をキャンセルするのは客の方だと思っていたが

店からのキャンセルもあるらしい。


商売の常識を持ち出すなら、これはあり得ないことだ。

何の商売であろうと、先約という縛りは重い。

信用はいりません、ということになるからだ。

うちら建設業界は、もっと厳しい。

不義理な会社と呼ばれて、明日から死活問題だ。


が、そこは人口の少ない田舎。

そこは客単価の低い飲食業。

客に甘えながら営業を続ける店は、珍しくない。

しかもAさんは元銀行員。

客商売には慣れていないが、値踏みは得意だ。

庶民のおばはん5人のために、15人の会社の宴会を逃すのは惜しい。

田舎の飲食店は、会社という団体が一番好きなのだ。

Aさんは悩んでいる娘婿のため、言いやすい夫にキャンセルを頼むという

汚れ役を買って出たのだろう。


もちろん、この“言いやすい”には

親しさもあるが、夫がおとなしいことや

物事を深く考えないので扱いやすいことも含まれている。

相手がもしも名高い名士、あるいはヤクザだったら

どうするつもりだったのだろう。

それでも同じことをしたら、見上げたものである。


この大胆な申し出を私は快く承諾し‥

と言っても、すでに夫が承諾しているんだからゴネたって仕方がない。

店はすでに我々を切り捨て、会社の宴会を選んでいるのだ。

皆には詳しい話をせず、「予約が取れなかった」とだけ伝えた。


「料理屋が、客の合い見積もり取りやがって」

夫はAさんの措置をひそかに怒っていたし、私も同じことを思った。

でもいいの。

二度と行かなければいいんだから。

それが我々の主義。

「どうせそのうち潰れるわい」

夫と私は負け惜しみを言い合うのだった。


で、いつ潰れるか楽しみにしているのに

このところテレビのローカル番組で取り上げられて

店は連日大盛況という。

残念だ。
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人生の楽園・2

2018年04月21日 17時24分05秒 | みりこんぐらし
土曜日の夕方6時から放映されている『人生の楽園』。

現役をリタイアした夫婦の田舎暮らしを見せる番組だ。


我ら一家はこの番組が大好きで、都合の許す限り視聴する。

一家といっても夫は除外する。

彼は毎週土曜の夕方、バドミントンに出かけるからだ。


長男はテーマソングまで作っている。

♩じ〜んせ〜い‥♩

高らかな歌い出しは、水戸黄門のテーマソング。

その後、小さくつぶやく。

「‥の、らくえん」

これで終わり。

この番組を「じんらく」と縮めて呼ぶ次男も

かなりの親しみを持っている様子だ。


一家で好きと言っても、感じることはそれぞれ異なる。

義母ヨシコは、亭主が生きている頃を思い出して懐かしみ

「あんな田舎へ、よう住まん」

「旦那に死なれて一人になったら、どうするつもりじゃろ?」

などと毎回言っている。


私は、出演する夫婦の家族構成に注目。

番組が進行するにしたがって、次第にあらわになる諸事情から

自分の見立てが当たっているか否かを検証して楽しむのだ。

「あ〜、この息子、塩が効いてなさそうだもんね〜‥

親の手伝いをするしか‥」

自分の亭主と息子もそのクチなのを棚に上げ、ほくそ笑む。


「親が近くで商売を始めたら

娘はよそへパートに行かなくて済むわね〜。

ごはんをよばれて、子守りまでしてもらいながら

“支えてる”な〜んて言ってもらえるし」

「おやおや、娘婿まで取り込まれちゃって。

やっぱ、若いうちはお金持ってる親の方へなびくもんよね〜。

でもそのうち、義理親にハベるのは飽きると思うよ」

こういう良からぬことを考える。


楽園の夢を叶えた夫婦の職種は

飲食、農業、木工、民宿など、いくつかのパターンがあるが

見ていて面白いのは飲食業。

パン屋と蕎麦屋が多いのは短期間で技術が習得可能なことや

利益率が高く、初期投資が安価で仕入れの無駄が少ないことなど

現実的な理由からだろうと思う。

他には、自分たちの作った作物を食材に利用できる農家レストランや

メニューが少ないので体力的に楽なカフェも人気がある。


私はひそかに待っている。

正統な和食や中華、フレンチを

一から修行して開業するカップルを。

修行しているうちに寿命が来るから、無理か。



飲食業を始めた夫婦を見る醍醐味は

テキパキした妻と、役立たずの夫を眺めること‥

きっといつまで経ってもこのままだ。

長年、奥さんに苦労をかけた贖罪か。

向いてないことがわかってないまま、引きずられたのか。


似合わぬエプロンをかけて右往左往する男の姿はいじらしく

また腹立たしい。

私だったら怒って店に出入りさせないと思うが

テレビの奥さんたちは寛容である。

そうでなければ楽園なんて作れないのだろゔ。


店が一段落する頃、ゾロゾロと現れる子供や孫たち‥

これも味わい深い。

きちんと躾けられた子孫を見るのは気持ちのいいものだが

そいつらがいい年をしてヤンキー風味だったら、私の心は躍る。

潤沢な退職金で満を辞して楽園生活に入った夫婦と

破れかぶれでなだれ込んだ夫婦の違いは

子供の姿に現れやすいものだ。


はてさて、今日はどんな楽園が登場するだろう。

私は会合で外出するので見られない。

行ってきま〜す!
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キクイモ

2018年04月12日 10時06分23秒 | みりこんぐらし
同級生の女子5人で結成している女子会は、5人会という。

月に1〜2回のペースで食事に行ったり

毎日のようにラインでおしゃべりするのが主な活動である。


時々、他愛のないプレゼントを交換し合うのも5人会の習慣。

どこかへ行ったお土産や、可愛いと思ったハンカチ

今ハマっているお菓子なんかだ。


先月の女子会ではユリちゃんが焼き豚、マミちゃんがキクイモを持って来た。

ユリちゃんの住む街で売られている焼き豚は

美味しいのがわかっているため、皆喜んだ。

が、一方、マミちゃんのキクイモには微妙な反応を示す一同。

「身体にすごくいいんだって!

これ食べて、みんなで長生きしよう!」

明るく言うマミちゃん。

日帰りのバス旅行に出かけ、どこかの道の駅で買い求めたらしい。


キクイモは、近年注目されている食材である。

食物繊維が豊富で、糖尿病にとても効果があるという。

味もアクも無いので、生食はもちろん

たいていの食材と相性がいいため、調理のしやすさも人気だそう。


ショウガにそっくりな可愛げのない姿のイモを受け取り

一同は複雑な表情で顔を見合わせる。

さもありなん。

料理の苦手なユリちゃん、面倒くさがりのモンちゃん

一人暮らしのけいちゃんにとっては、多分ありがた迷惑。

マミちゃんからもらわなければ

おそらく一生、手にすることはない食材と思われる。


「どうやって食べたらいいんだろ‥」

手元のキクイモを見つめ、頭をひねる面々。

私も皆と同じく、頭をひねって見せるのだった。



キクイモはそのまま数日間、我が家の冷蔵庫に突っ込まれていた。

以後もラインでおしゃべりするが

誰一人、キクイモのことには不自然なほど触れない。


私はだんだん、落ち着かない気分になっていった。

キクイモ1kg入りの袋を自分のと含めて5つ買い求め

旅先から持ち帰ったマミちゃんの気持ちに何とか応えたい。

どうにかしてマミちゃんに「おいしかったよ」と伝えたくなったのだ。


ネットでキクイモ料理を眺めもしたけど、今ひとつ。

掲載されている料理が悪いのではない。

お世辞にも食欲をそそる外見とは言えないコイツのために

切ったり煮たり焼いたりの手間をかける意欲が湧かないのである。


悶々としていたある日、ふとひらめいた。

「お焼きに入れたら、どうだろう?」

ニラや千切りのニンジンなど

水分の出にくい野菜を入れたお焼きは

たまに昼ごはんのおかずとして作る。

野菜ばかりでは男どもの食欲をそそらないので

撒き餌としてベーコンなどの動物性タンパク質を入れることもある。

これにキクイモの千切りを混ぜたって、わかりゃしないと思った。


作り方は簡単。

お好み焼きの粉を牛乳で溶いて、マヨネーズを適当に入れ

材料を混ぜて、薄く小さく焼くだけ。


で、キクイモのお焼き、大成功。

キクイモは見た目と違って本当にクセが無く

シャリシャリと歯ざわりが良い。

ポン酢で食べたらとてもおいしく、家族も喜んで食べた。

どんなに身体に良くても、家族が食べなければ意味が無い。

うちには焼きものが合っているようだ。



お焼きを写真付きで5人会に発表したら、たいそう喜ばれる。

煮物にして、すでに食べたというけいちゃんを除き

あとの3人は、さっそくお焼きをこしらえたそうだ。

彼女たちも、キクイモの処理に困っていたらしい。


評判が上々で、すっかりいい気になった私だが

後で心がチクリと痛んだ。

実はキクイモに関しては前科がある。

何年か前、知り合いに段ボールいっぱいのキクイモをもらった。

今は亡き義父の糖尿病を心配してくれたその人は

家の畑でわざわざ作り、持って来てくれた殊勝なお方であった。


その時も私は頭をひねった。

泥にまみれたそれは、お世辞にも食欲をそそる物体とは言えず

洗って皮をむいてまで、食べてみたいという気持ちは湧かなかった。


キクイモの入った段ボールは、しばらく裏の小屋に放置された。

始末に困るものが小屋に鎮座する、重苦しい日々を過ごしていたある日

名案がひらめく。

その名案とは、埋葬。

私はこっそり、庭の隅に埋めた。


が、ホッとしたのもつかの間

暖かくなると、たくさん芽が出てきた。

人の善意を踏みにじった私の悪行は

白日のもとにさらされる運命となったのである。


私はひたすら芽をむしった。

芽にはことごとく、小さなイモがくっついていた。

むしり損ねた芽もある。

そいつはものすごい早さで成長し

油断していると、黄色いマーガレットのような花を咲かせる。

急いで剪定バサミでぶった切る。

この作業を毎年やっている。


「すごくおいしかったから、お店で探してるけど見つからない」

「私も探すね。あったらみんなの分も買っとくね!」

「お願いね!」

ラインは今日もキクイモで盛り上がっている。

キクイモの季節が終わったことは、皆、知らないらしい。

心が痛む。

キクイモを初めて見たふうを装ったため

うちの庭を掘れば出てくるなんて、今さら言えやしない。


今年もキクイモは、芽を出し始めた。

いっそ増やして、来年は皆に配ろうかと思っている。
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近時事二題

2018年04月10日 16時42分02秒 | みりこんばばの時事

大相撲の舞鶴巡業で、舞鶴市長が突然倒れ

救命のために女性が数人、土俵へ上がった件。

誰も予測できなかった緊急事態なんだから、仕方ないわよ。

女人禁制を通したいなら、男性の医療従事者を雇って

常駐させときゃよかったのよ。

市長さん、ご無事で良かったわ。


こういうことがあると

土俵に上がって挨拶できなかったことを恨みがましく言う

女性市長さんや元女性市長さんを始め

男女同権思想を振りかざす人がいるじゃない。

私、そういうのは好きじゃないわ。

あの人たちのプライドが傷ついたことと

今回の緊急事態は別ものだもの。


とはいえ、騒動自体にはあんまり興味ないのよ。

最初に謝っとくわね。

ごめんなさい、ホント、ごめんなさいっ!

私が食いついたのは、土俵へ上がった女性の服装なの。

手前の右側の人。


「まだバックスリットの入った、ロングタイトをはく人がいるんだ!」

これに驚いて、食いついてしまったのよ。

しかも上は懐かしのブラウス。

このコーディネート、お年寄りならたまにいるけど

中年の女性では、今どき滅多とお目にかかれないわよ。

私の目は皿だったわ。




刑務所の工場を脱走した事件も気になるわ。

私の住む広島県で起きてるんだけど

行き詰まって、立てこもりなんてことにならなきゃいいけど。

小さいお子さんのいる人や、一人暮らしの人は特に心配だと思うわ。


ところで、事件が起きた愛媛県の松山市にある造船所。

1961年の開設以来、17回も脱走があったというじゃない。

塀のない作業所って、やっぱり無理があるのかしら。


でもまた、ごめんなさい!を言わなきゃならないわ。

私が食いついてるのは、受刑者が脱走した造船所。

受刑者を受け入れて、一般社員と一緒に働かせるって

なかなか真似のできない立派なことだと思うけど

完全なボランティアなのかしら?

無責任な憶測だけど、国から造船所に

なにがしかの補助金が支払われたり

税制面で便宜がはかられたりはしないのかしら?


もしもあるとしたら、少額じゃないはずよ。

造船は円高に左右される業種だから

経営手段の一つとして、いいかもしれないわね。


だけど受刑者は、昔と違ってシャバの楽しさを知ってるわ。

一日一緒に働いた社員は家に帰る‥

自分は刑務所に帰る‥

立場上、何だかきつい仕事をふられそうだし

いくら模範囚でも、あと少しで出所でも、逃げたくなるかも‥

システムが時代に合わなくなったら再考しなくちゃね‥

な〜んて考えてる私よ。

いつも身勝手で、ごめんなさいね〜!
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2018年04月03日 19時41分48秒 | みりこんぐらし
所属する小学校の同窓会で

会計係を請け負って7〜8年になるだろうか。

会長以下、三役の任期は3年なので

本当ならとうに終わっているはずである。

もちろん私もそのつもりだったが、年を重ねるにつれ

会計にとって一番必要なのは『暇』だと知った。


この仕事自体は、チョロい。

会社の会計と違って間違えても困らないし

自治会の会計みたいに

「自分の方が数字に詳しい」とアピールしたがるバカから

つまらぬ物言いがつくこともないので気楽だ。


けれども同窓会の会計は、実務だけではない。

60才も近くなると、親がバタバタと亡くなる。

そのたびに同窓会からの香典を用意して駆けつけるのは

暇でなければできない。

仕事で行けないからと、誰かに頼んでことづけたり

立て替えてもらうとなると、それはそれでお互いに消耗する。


葬式だけでなく、さまざまな連絡を取る場合も同じく。

いつ電話しても話ができる態勢というのは

仕事を持っている人には難しいが

時たま夫の会社の事務、あとさき主婦の私にはそれができる。


皆には無くて私にはある『暇』‥

1円にもならないと思っていた『暇』‥

それが役に立つのだから、まんざらでもない。

他の皆も便利だったらしく

役員の中で会計のみが改選されないまま何年も経った。

このまま来年の解散まで続行するらしい。


楽しく会計の仕事に取り組む私だが、唯一苦手なものがある。

そやつの名は、くらたストア(仮名)。

地元の八百屋である。


同級生の親が死ぬたびに、私はここへ電話をしなければならない。

同窓会から贈る供物の手配である。

親が亡くなると、2万円の香典と1万円の果物かごを贈るのが

我ら同窓会の決まりなのだ。

香典だけの学年もあるし、何もしない学年もある。

香典と果物かごを贈るのは、おそらく我々だけだと思う。


葬儀用の果物かごを扱う店は、町でただ一軒しかない。

果物を大きな盛り籠に飾りつけるには、それなりの在庫が必要だし

葬儀場まで配達するには人手がいるしで

よその店は面倒くさがってやめてしまったからだ。


葬儀屋に頼むという手もあるが、同窓会には

「地元の商店に貢献する」というモットーがある。

同じ注文するなら、経営者が時々変わる葬儀屋より

古くからある、くらたストアにしてもらいたいというのが

地元で暮らすメンバーの希望。

だから、くらたストアに頼むしかない。


ここは親の代から八百屋。

今の店主は、私が子供の頃

お母さんの背中におぶわれた赤ん坊だった。

愛想が良くて働き者だった親が亡くなり、跡を継いだ長男は

商売っ気のカケラも無く、電話をかけるたびに砂を噛む。


「はい‥」

不機嫌な声で電話に出るのは、たいてい昼あんどんの女房。

店の名前を名乗ることはしない。

亭主が昼あんどんなら、女房も輪をかけた昼あんどんなのだ。


私のかけた電話は女房から店員、店員から店主へとリレーされる。

やっと注文ができると思いきや

店主は女房よりもさらに不機嫌で、知らない人間を大いに怪しむ。

同じ町内にある実家の苗字を言えば

向こうは安心するのかもしれないが、私にも意地がある。

ことあるごとに実家の苗字を名乗り、優遇を求めてきた小姑を

37年に渡って見てきた身の上としては、死んでも名乗らないもんね。


「お葬式の果物かごをお願いしたいんですが

明日の晩6時までに、◯◯会館へ配達していただけますか?」

「はあ‥」

「名札には△△会と書いてください」

「えっ?△△会‥?」

暴力団か何かと思うのか、ますます怪しんで沈黙。

「同窓会の名前です」

「どんな字ですか‥」

私は漢字を一文字ずつ説明し

同窓会発足以来、決まっている支払いの方法を伝える。

「はあ‥」

わかったのやら、わからないのやら。

通夜に行くとちゃんと届いているので、わかっているみたい。


年に7〜8回、多い時は月に2回注文するが、毎回同じやり取り。

信じられないかもしれないけど、本当だ。

急な電話で果物かごを作らされる店主の気持ちは

同じ商売人として理解しているつもりだが

ナンボ私が暇でも、ほとほと嫌気がさす。

同級生の親の訃報を聞くと、ゲンナリしてしまう私よ。



そして去年、地元で夏祭が行われる日に同級生の親が急死。

お祭なので、家族が遠方から集まっていたため

その日のうちに通夜をすることに決まった。


夕方連絡を受けた私は、急いでくらたストアに電話をした。

店主、いつもにも増して強い抵抗をみせる。

「え〜?これから店を閉めて祭に行くんですよ‥」

この昼あんどん、町内では有名な祭好きなのだ。

「そこをどうにか」

「いや、もう出かけるから無理」


わかりました‥と私は言った。

「じゃ、けっこうです。

出がけにすみませんでしたね」

果物かごが間に合わなければ、その分を香典に上乗せすればいい。

消費税の分、支出が減る。


電話を切ろうとすると、くらたストアが言った。

「明日なら、いいですよ?」

「え〜?明日?

お通夜に間に合わないんだったら、けっこうです。

無理をお願いしてすみませんでした」

「明日、持って行きますから」

「けっこうです」

今度は立場が逆転。


「じゃあ今晩、遅くなってもいいんなら持って行きます」

「大事なお祭が楽しめないでしょ?いいです、いいです」

「じゃあ、これから‥」

やろうと思えばできるらしい。


「せっかくのお祭なんだから

縁起の悪い所へ出入りしない方がいいですよ」

「いや、ぜひ!」

結局この時は私が折れ

翌日の葬儀に間に合わせることで話がついた。

その後はもちろん、同窓会の名前を言って沈黙され

漢字を説明する、いつものパターン。


以後は独断で、私の住む町にある懇意な八百屋に変更。

ツーと言えばカー、迅速丁寧、集金も家に来てくれるので助かる。

うるさい面々からクレームがつくかと思っていたが

果物かごが以前より豪華になったために不問となり

ホッとしている。
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