殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

罠・2

2020年03月30日 14時19分05秒 | みりこんぐらし
本社に中途採用されて数年後

新しい会社の専務に抜擢された昼あんどんの藤村。

当面、週の半分は新しい会社のある大阪

もう半分はこちら広島に滞在することが決まり

新しい名刺を作って有頂天だった。


夫は、彼の昇進を心から祝福した。

行く所が無いので毎朝我が社に来て

昼までタラタラする、暇な藤村…

何も知らないのに仕事を牛耳ろうとして

滅茶苦茶にしてしまう、迷惑な藤村…

誰よりも遅く入社しながら、兄貴気取りで

うちの息子たちを呼び捨てにする、横柄な藤村…

高校球児だったのが自慢で

話すことといったらそれしかない、退屈な藤村…

その彼が、たとえ週の半分でも消えてくれるのは

夫にとって誠にめでたいことであった。



さて、夫の友人、田辺君をご記憶だろうか。

長い間、任侠系の建設会社に営業として勤めていたが

後継者争いで破れた専務と共に退職し

現在は別の建設会社に転職して、やはり営業をしている

玉木宏似のイケメンだ。


少し前、その田辺君が夫の所へ来て

大阪にある船舶関係の会社が

破格の安値で身売りしたがっている話をした。

しかしその会社には反社会的勢力が絡んでいて

利益を吸い上げている…

そのため使途不明金が莫大な額になり

経営不振に陥った…

経営者は一刻も早く会社を手放したくて

四国のブローカーを介し、買ってくれる会社を探しているが

軒並み断られている…

このブローカーというのが、これまた怪しげな人物で…

黒い話は延々と続く。


田辺君は散々きな臭い話をしたあげく

「ヒロシさんとこの本社は安値に飛びつくのが好きだけど

広島の田舎モンが知らずに手を出すと

あっちは本場だから大変なことになりますよ」

そう言って帰った。

こうして文字にすると、いかにも心配そうな感じだが

田辺君、実際には期待の笑みを浮かべていた。

「気ぃつけとくわ」

そう答える夫も、何に気をつけるつもりなのか

やはり期待の笑みを浮かべるのだった。



夫が藤村から買収の話を聞かされたのは、その数日後。

「大阪にある船舶関係の会社が売りに出ていて

売却額は破格の安値。

本社は買収を検討中」

…どこかで聞いた話。


夫は、彼に言った。

「関西進出なんて、すごいじゃん!

海路を抑えれば、本社グループ全体の仕入れが強化される。

本社はますます飛躍するだろうから、話を進めるべきだ」

夫の「気ぃつけとくわ」は、こういうことだったらしい。


夫の意見に自信を得た藤村は、会議で買収をプッシュ。

藤村の主帳は通り、本社はすぐさま買収した。

買収推進派の藤村は行きがかり上、その会社の面倒を見ることになり

肩書きが無くては動きにくいだろうということで

専務の肩書きをもらった。

行きがかり上とは、彼の熱意が汲まれたわけではなく

もしも関西進出が失敗したら

全てが彼のせいになることを表している。

会社組織とは、そういうものだ。



ここで誠実な方は、首をかしげるだろう。

「実情を知っているなら、止めるのが常識ではないのか?

8年前、倒産しかけた義父の会社を救ってくれた

大恩ある本社にみすみす損をさせて平気なのか?」


…平気だ。

なぜならその買収額は、本社にとって屁でもない。

バーゲンで衝動買いしたシャツが

似合わなかったという程度のものだ。

そして関西進出は、重役たちにとってゲームに過ぎない。

年齢がそろそろ70才に達する彼らには、最後のゲーム。

負けたって、責任を取るのは中途採用の流れ者、藤村。

倒産や転職が原因で結婚と離婚を何度も繰り返し

現在は独身の彼に、泣かせる家族はいない。

認知症の母親はわけわからんし

交際中のフィリピン人ホステス、テレサも

多分泣かずに次のカモを探すだろう。


そもそも、ゲームをやりたがる者を止めるのは難しいのだ。

勝つ気でいるからやりたいのに

それを止めようとしても言うことを聞くわけがない。

なまじ聞いて、その時は踏み止まったとしても

日が経つにつれ

「やっていれば成功したはず…」

そんな思いが強まってくるのが人間。

だからその後は、何につけ言われるのだ。

「あの時、お前が止めさえしなければ…」

これって、面倒くさいではないか。

止めるより、どうなるかを見る方が楽しい。


それに近年の我々夫婦は

本社を冷めた目で眺めるようになっていた。

合併して9年目になるが、その間に多くの人が本社を辞め

多くの人が入社した。

最初の頃にいた良識ある紳士はいなくなり

知らない中途採用の中高年ばかりになって

早い話、どうでもよくなったのだ。


例えば今年の正月。

我々一家は例年通り、広島駅にほど近いホテルで行なわれる

本社グループの新年会に行った。

正社員でない私に参加資格は無いため

やはり例年通り、ホテルのロビーで家族と分かれ

地下道を歩いてデパートへ向かっていた。


と、向こうから、どす黒い集団が…。

30人くらいが、地下道いっぱいに広がり

対向する歩行者に進路を譲るそぶりもないまま

地下に響き渡る大声でしゃべりながら向かって来る。


至近距離まで近づいてわかった。

どす黒い集団の中に、藤村を発見したからだ。

このドブネズミのような塊は、在来線で広島駅に集合した

本社、あるいはグループ会社のおじさんたちだった。


どす黒く見えるのは皆が皆、新年会に似つかわしくない

くたびれた安背広を着用しているからであった。

その上にコートでなく、黒いダウンを羽織る者が多いので

ますますどす黒い。

酒好きが多いのか、シワシワの顔色もどす黒い。


この、きちゃない群れが通行人に迷惑をかけつつ

地下道を闊歩するのをよけながら、私は思ったものだ。

「ここまで堕ちていたのか…」

夫の日々の苦労がしのばれた。

《続く》
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罠・1

2020年03月28日 09時50分33秒 | みりこんぐらし
年度末が終わりに近づき、ホッとしている今日この頃。

その昔、我々一家が生息する建設業界では

3月の年度末といったら

猫の手も借りたいくらいの忙しさだったが

ここ10年ほど、仕事の量は平常月とあまり変わらない。

ただ、本社の事務が慌ただしいため

問い合わせや確認の電話が多いだけである。


電話の主はたいてい、経理部長のダイちゃん。

私と同い年の彼は物忘れが激しい方だったが

近年はさらに重篤となり、業務連絡の内容を忘れたり

伝票や書類をガンガン紛失するので

問い合わせや確認の電話が多いのだ。


このおかた、とある新興宗教を

家族ぐるみで熱心に信仰しておられるが

新入社員への宗教勧誘がパワハラ問題となり

「定年退職後は再雇用無し」というお沙汰がくだった。

「退職後は信仰に生きる」

当初のダイちゃんは、そう豪語していたが

定年が近づくと重役を拝み倒し

週に3日のパートとして首をつなげた。

チッ。


ダイちゃんから、6年越しで入信を勧められていた我々家族。

一昨年、バッサリ断ったのを機に、彼は敵に回った。

以来、夫に向けて、重箱の隅をつつくような注意や

本社の誤解を招くような告げ口が続いている。


けれども夫は馬耳東風。

打たれ強いからではない。

ダイちゃんがどんなに頑張って意地悪をしても

それは頭の良い人がやる巧妙な意地悪。

目立たず、しかしきつく

万一、公になった場合、悪いのは夫ということになり

絶対に自分には責任が回ってこない…

言わばシンネリとした女性的なものだ。

私も一応は女性だから、わかる。


頭の程度が同等の相手に行えば

奥底に潜む悪意と憎しみを感じて悩むかもしれないが

夫には通用しない。

巧妙過ぎて、意地悪をされていることに気がつかないのである。


そのダイちゃん、私には意地悪ではない。

女に意地悪をしたら、すぐしゃべるからである。

私の口が人一倍軽いのは

この数年の付き合いで知っているはずだ。


それにダイちゃんは

私を怒らせるわけにはいかないのだ。

彼がするべき本社の仕事の一部を

私がやっているからである。

最初は、なかなか入信しない私への嫌がらせで振られた

時間のかかる複雑な仕事だった。

しかし、やっているうちにシステムが大きく変わり

ますますややこしくなったため

ダイちゃんはやり方がわからなくなってしまったのだ。


彼は、その仕事を自分がやっているフリを続けていたが

私から仕事を取り戻しておかなければ

信用問題になるのは百も承知だった。

今月末、ひとまずの定年退職を迎えると

ダイちゃんは我が社の経理を

徐々に後輩へと引き継ぐ予定である。

その前に何とかしておかなければ

若い後輩に引き継ぎができないからだ。


そこで私にやり方の説明を求めた。

例のごとく彼の得意技を使い

「あれは、どうなってたっけ?」

と、軽〜くたずねる。

そこで口頭と文書にて伝えたが

彼には理解できず、キーキー言う。


ダイちゃんは引き継ぎをあきらめ

本社から直接、後輩をよこした。

今後、ダイちゃんの仕事を引き継ぐ予定の男の子だ。

「ちょっと行って、僕の代わりに聞いて来てよ」

この子にも、軽〜く依頼したらしい。

しかしダイちゃんの魂胆は、若い彼も知っていた。

月末を越してみなければわからないが

若い子は飲み込みが早いので、とりあえずは伝わった模様。


それにしてもダイちゃん

脳が付いて行けないのなら潔く退職すればいいと思うが

無収入になると宗教の献金ができなくなる。

何しろ献金が命の新興宗教。

信者の集う会館には、手ぶらじゃ入れない。

会館のフロントには、何の変哲もない安封筒が

1枚50円で売られていた。

この封筒を買って、お金を入れなければ

献金とは認められない。

献金だけでなく、封筒でも儲ける気満々なのはともかく

封筒すら買えなくなったら信仰が続けられないので

是が非でも仕事を続けるしかないだろう。



さて、本社から我が社に配属されている営業課長

昼あんどんの藤村をご記憶だろうか。

このおかた、今月から大出世をなされた。

本社が新しく買収した会社の専務に抜擢されたのだ。

新しい会社は大阪にあるので

彼は大阪と、この広島を行き来しながら両方の仕事をする。


自営していた土建会社も

次に開いたペットショップも倒産し

あちこちの職場を転々としたあげく

本社の求人に応募して52才で入社。

それから数年で、専務に大抜擢だ。

給料は現行と変わらないものの、藤村は得意満面。

彼は中途採用の星と呼んでいいだろう。


本当に働いている者には陽が当たらず

おべんちゃらを使い分ける裏表のはっきりした者が

順調に階段を上がって行く…

それがこの世の常とはいうものの、何だかねぇ…

たいていの人はそう思うだろうが、これは罠であった。

《続く》
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時事つらつら

2020年03月27日 09時33分25秒 | みりこんばばの時事
すっかり春めいてまいりました。

パンデミック(世界的大流行)に始まり

オーバーシュート(爆発的患者急増)

クラスター(感染者集団)、ロックダウン(都市封鎖)…

このたびの武漢コロナ禍で、新しいカタカナが続々。

それらを口にする小池東京都知事のしたり顔に

都知事の役を演じている女優のような錯覚をおぼえたり

昨日、総理との会見後には

多少真剣味が増したような気がしたりの今日この頃です。

外国人の入国に甘くなり

生産や売り上げが中韓頼みの企業や店舗が増えた昨今

何だか天から叱られているような気分になるのは

私だけでしょうか?


武漢コロナ禍のため、無観客で行われた大相撲。

どうなることやら、と思っていましたが

これがどうして、とても見ごたえがありました。

まわしを叩く音、ぶつかる音、転がる音…

これまで拍手と歓声で聞こえなかった様々な音が

ダイレクトに聞こえて迫力満点。

観客がいてもいなくても成立する相撲は

神事なんだと改めて思った次第です。


観客のいない分、土俵とその周辺をテレビカメラが

舐めるように映すので

行司やお世話をする人たちの所作もよく見えました。

アナウンサーがしっかり説明してくれるので

少しばかり詳しくなったような気がしたものです。



さて、武漢コロナ禍で命拾いをしたのは

俳優の東出昌大さんでしょうか。

女優の杏さんの旦那様です。

共演した若い女優との浮気がバレて青菜に塩だったのは

子育て真っ最中の杏さんの怒りはもとより

杏さんの父、大物俳優の渡辺謙さんを

気にしてのことだったと思います。

同業者同士の結婚は、よくあることですが

義父まで同業者となると、良い時は良くても

一旦悪くなると厄介です。


なぜなら東出さんはダイコン。

若いうちは、その長身と甘いマスクで何とかなるでしょうが

芸を磨いて身を立てる種類の俳優ではありません。

杏さんと共演した朝ドラ「ごちそうさん」で

彼が演じた学生役のニックネームは「通天閣」。

何を演じても、背が高いだけの通天閣のまんま

“あの”渡辺謙の娘婿という身の上をよすがに

芸能生活を送る予定でした。


これが女癖の悪い共演者キラーとなれば

義父の渡辺謙さんもさぞや頭にくるでしょう。

なぜなら共演者キラーは、渡辺さんだったはずです。

今をときめく様々な女優と共演しては

浮き名を流しておられましたから。


そうそう、女優の南果歩さんと共演したサスペンスドラマを

たまたま見たことがありますが、メロメロ感がありありでした。

渡辺さんは刑事だか、元刑事だかの役で

南さんは容疑者だか、容疑者の女だかの役だったと思います。

あらすじは忘れました。


肝心なことはすぐ忘れるのに

つまらないことには記憶力のいい私が

配役やあらすじを覚えていないのは珍しいことですが

無理もないのです。

謙さんは、それほど果歩さんにベタベタで

そっちに注目してしまい、あとのことは抜け落ちたからです。


渡辺さんは終始、小柄な南さんを

大切な壊れ物のように扱っていました。

車の乗り降りや二人のシーンでは

赤ちゃんに接するように常に手を添えて

愛おしい眼差しで見つめ

まるで二人のためのドラマのようでした。

いいんです。

大物ですから、何でも有りなんです。


その後、二人は再婚しました。

やがて離婚しましたが。


とまあ、このように

情の深い渡辺さんの娘と結婚した東出さんが

まだ駆け出しに毛が生えた程度の分際で

大物である義父と同じことをやらかし

渡辺さんの大切な娘と孫を泣かせたのです。

父、祖父としての複雑な怒りは、察するに余ります。


渡辺さんは大物として、この件に関わらないか

または寛大なところを見せるでしょうが

東出さんは足がすくむ思いでしょう。

ともあれ、生命に関わる武漢コロナ禍の前には

たかだかダイコン役者の浮気なんて

どうでもいいことになりました。


皆様、どうか気をつけてお過ごしください。

不安な日々ですが、何とか明るく乗り切りましょう。
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足問題

2020年03月19日 11時07分28秒 | みりこんぐらし
還暦を迎えた私に訪れるものといったら

知人の訃報くらいのものだ。

あとは肉体的な変化が二つ。

老人界に足を踏み入れた記念なのか

どちらも足の問題である。


私は以前から、二つの願いを持っていた。

その願いとは、静脈瘤(じょうみゃくりゅう)と

巻き爪になりたくないというもの。

そりゃあ人間だもの、病気になりたくないとか

苦しまずに死にたいとか、願えば際限が無いが

これらは人力でどうにかなるものではない。

ただ、静脈瘤と巻き爪は

努力で回避が可能な気がしたからだ。


というのも、私の生まれた町には大きな食品製造工場があり

そこで働くお母さんたちが多勢いた。

今は衛生法が変わって禁じられたが、当時の工場は

コンクリートの床に常時、水が流れている構造で

仕事は軽作業だが、ただ冷えるのが難点と言われていた。


その人たちの多くは、年を取って静脈瘤になった。

足、特にヒザの裏の太い血管が紫色の蛇みたいに浮き出て

ひどく痛む病気である。

工場のOGだけでなく、町の八百屋や肉屋のおかみさんも

同じ病気になった。

私が少女の頃、中年以降の女性は

ヒザ丈のスカートをはいていたので

静脈瘤を目撃する機会は多かった。

その痛々しさに、震え上がったものだ。


冷える場所での立ち仕事は良くない…

特に産後は気をつけた方がいい…

静脈瘤の当事者、あるいはそれを聞いて同情する大人たちが

話しているのを聞くたび、私はこの二つに気をつけようと

肝に銘じるのだった。


以来、数十年。

還暦が近づいて老人の仲間入りをしかけた去年の晩秋

わずかながら、足のスネに異変が…。

なんだか、血管がデコボコしてる部分があるじゃないの。

人にはわからないかもしれない…

でも長い付き合いの私には、わかるのよ…

これはもしや、静脈瘤の前触れ?

ヒザの裏に出現したら、アウト?

ガ〜ン!


冷える場所での立ち仕事はしていないつもりだったが

我が家は川沿いの鉄筋コンクリート製。

湿気の多い、冷え冷えした環境だ。

特に台所は、腹が立つほど冷える。

その台所で8年も立ち仕事をしてりゃ

年も年だし、血管が浮いてデコボコしてくるわさ。


私は仲良し5人会のメンバー、けいちゃんの話を思い出した。

彼女の母親も、前出の食品工場に勤めていたのだ。

「うちの母親は、年を取って静脈瘤になった。

私はその娘なので、静脈瘤になりやすいかもしれない。

予防のために、夏も冬も必ずストッキングをはいている」

そう言うけいちゃんの足は、ツルリと綺麗だ。


私はけいちゃんの真似をして

毎日ストッキングをはくようになった。

寒くなる時期だったので、始めるにはちょうど良かったのだ。

スネのデコボコは、じきに目立たなくなり

時折出る、むくみも解消された。

「こりゃあ、ええわい…」

私は喜びをけいちゃんにも伝え、礼を言ったものだ。


ところが今年に入り、右足の親指に異変が…。

左足の親指とは、何だか形が違う。

爪が湾曲し、京都土産の八つ橋せんべいの切れ端を

縦にかぶせたみたいな色と形。

しかもその八つ橋、いや、爪の角が

指に食い込んで痛い。

もしや、これがかの有名な巻き爪?

ガ〜ン!


病院へ行くほどでもなさそうだが、自力で治せるものだろうか…

とにかく深爪だけは、やるまい…

あれをやったら、おしまい…

そう心に誓うものの、巻いた爪の角は日増しに食い込んで

痛いのなんのって。

拷問よ。


で、いけないと思いつつ

「ちょっとだけヨ」と、角を削ぎ落とす。

すると、楽になる。

で、何日かすると伸びてくるわいな。

伸びてくると、削ぎ落とした部分が鋭角になって食い込んで

さらなる地獄。

だからまた、角を削る。

この繰り返しで、どんどん深爪になっていくシステム。

いけないおクスリにハマるアウトローの気分よ。


早くやりゃあいいのに、この時点でやっと

巻き爪についてネット検索。

それを見ると、やっぱり深爪はいけないらしい。

でも、すでにやっちゃった人には

テーピングや金属の装具なんかがあるらしい。


しかし驚いたのは、寝たきりになったら

ほぼみんな、巻き爪になるんだそう。

悲惨〜!


寝たきりになると、どうして巻き爪になるかというと

歩かないからだそう。

爪は本来、内側へ巻く習性があり

足の親指の腹を地面に付けて歩くことで

巻く習性に抵抗して平たい爪を保っているそう。

だけど寝たきりで歩けなくなったら、巻く習性の方が勝つのだそう。


足の親指の腹を地面に付けて歩く…

ここで私はハッとした。

心当たりがあるからだ。


近頃、足の裏の土踏まずが無くなってきたのに気づいていた。

私の土踏まずは、橋のようなアーチを描く

深い形状であった。

そのえぐったように深いアーチが消え

足の裏の大半が床に密着するようになった。

加齢と運動不足のたまものだ。


それはともかく、アーチが消えると

足の指に負担がかかってくる。

しかし私の右足の親指には、古傷があった。

小6の時、缶蹴りをして遊んでいたところ

空き缶と間違えて、地面から少し出ていた鉄柱を

思いっきり蹴ったのだ。

右足の親指がものすごく痛くて悶絶し

その後もしばらく痛みが続いた。

あの時、多分骨折したか、骨にヒビが入ったと思う。


土踏まずが消えたことで、足の指に負担がかかるようになったが

古傷を持つ親指は、あんまりあてにならない。

台所仕事や階段の昇降で、私はいつしか親指をかばい

床から浮かしていたのだ。


そこへ静脈瘤回避のストッキングである。

ストッキングだけなら問題は起きなかったかもしれないが

寒冷屋敷に住む私は、そこに靴下まで履いた。

ストッキングと靴下の組み合わせは、暖かいけど滑りやすい。

私の靴下は、いつぞや記事にした二重底仕様なので

普通の靴下よりは滑りにくいが

それでも歩くたび、わずかなズレが生じる。

そこで無意識に親指をくの字に曲げ

ストッキングを手繰り寄せて調節していた。


「いかん!」

そこまで考えてから、私は立ち上がった。

以来、ストッキングをやめ、靴下だけになって

右足の親指の腹をしっかり床につけて歩くことを意識する。

最初は巻き爪がチクチク痛み、古傷もギシギシしたが

負けてなるものかと踏ん張る。


あれから1ヶ月…どうやら快方に向かっているらしく

巻き爪も古傷も、もう痛くない。

ストッキングをやめたら静脈瘤の方が心配になるが

足首までのむくみ防止グッズはたくさん持っているので

いざとなったら、ご登場願うつもり。

とりあえず巻き爪の問題が解消されて、ホッとしている。
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網元(あみもと)

2020年03月12日 16時23分42秒 | みりこんぐらし
夫の姉カンジワ・ルイーゼが我が家へ持ち込む品に

あんまり嬉しい物は無い。

年に一度、義母ヨシコの誕生日か敬老の日にくれる『差肉』

(ヨシコ一人分だけ牛ロース、我々の分は硬くて安い輸入肉と

あからさまな差をつけるので差肉と呼んでいる)

前夜の残り物

(塩分を憎むルイーゼの料理は、味が無いので誰も食べない)

それから、捨てるのが厄介な古い家電ぐらいだろうか。


しかしごくたまに、マトモな物が訪れる時がある。

ルイーゼにとって唯一の友達、通称『網元』がくれる

中元歳暮のハム、ソーセージ。

ルイーゼが、それらを我が家に持って来ることがある。

パーキンソン病と糖尿病を患う彼女の亭主が際限なく欲しがるので

見せたくないという理由からだ。


網元は以前、老人ホームの厨房でルイーゼの同僚だった。

ルイーゼは今も務めているが、網元は早くに辞めて

あちこちの職場を転々としている。

友達いない歴60年余りのルイーゼだが

網元とはウマが合ったらしく、今も時々会って

ランチや日帰り旅行に出かける。


ハム、ソーセージの恩もさることながら

あのルイーゼの友達をやってくれるなんて、どんな人だろう?

我々家族は、この件について話し合ってきた。

ヨシコ情報によれば網元は独身で、ルイーゼより2才年下。

うちの夫と同い年で、夫と同じく

いたずらに遠い高校へ電車通学していたそうだ。

ということは、夫の同級生らしい。

それから私の生まれた町の住民で

小学校は違うけど中学では2年先輩らしい。

つまり網元は、夫とも私とも全く無縁の人ではないようだ。


ちなみに網元のニックネームは、我々が付けたもの。

最初の頃、ヨシコが彼女のことを

「網元のお嬢さん」と言っていたからだ。


一般的に網元とは漁船を何隻か保有し

操縦者や漁師を雇って漁をさせ

獲れた魚をまとめて売る社長的職業。

資本がいるし、漁師をまとめる技量も問われるので

生半可な者には務まらない。

だから名士のうちに数えられる。

しかし私の生まれた田舎町の小さな漁港に

そのような豪勢なシステムは存在しない。

小舟が数隻、それぞれが瀬戸の小魚を細々と獲り

後先は保証金頼りの漁港である。


が、中元歳暮の中にハム、ソーセージが複数あるところをみると

他の贈答品も多いことは察しがつく。

網元は、漁業組合関係者の身内なのだろう。

娘様のお友達をことさら美化したいヨシコの妄言を揶揄し

我々はあえて彼女のことを網元と呼び続けるのだ。


ちなみに去年、ヨシコはルイーゼと一緒の時に

偶然、網元に会ったそうだ。

「あんなに太ったおばさんとは夢にも思わなかった」

ヨシコはびっくりしたと言う。

おばあさんにおばさんと言われる網元が、気の毒になった。


ともあれ、我々の興味は網元の人柄。

ルイーゼと仲良くできるなんて、タダモノじゃないからだ。

思い起こせば40年前、ルイーゼの披露宴では

友人として招待された彼女の同級生3人が

口を揃えて言ったものだ。

「話したこともないのに、何で招ばれたのかわからない」


披露宴に友人はつきものである。

相手は友人を招くのに

こっちは友人がいないからゼロでは格好がつかない。

ルイーゼは友人の席をこの3人で埋めたに過ぎず

披露宴以後も3人と接触は無い。

そんなルイーゼと親しくできるからには

何かしら人類を超越した部分があるに違いないのだ。


私は地元で洋品店を営む友人、マミちゃんにたずねてみた。

彼女は町のことなら、おおかたのことは知っている。

「2コ上の〇〇さんて、知っとる?」

マミちゃんは即座に答えた。

「すっごくいい人!大好き!」

網元は、おしゃれメイト・マミのお客さんだそう。

その温厚な人柄は、仏さんみたいだと言う。

う〜む、確かに人類を超越している。


他に、網元は2人の兄と暮らしていて

兄はどちらも漁協の役員をしていることや

兄妹3人とも独身という情報も得た。

家事をして、兄から家計費と手間賃をもらいながら

外で働いた分は趣味の旅行に使う悠々自適の独身女性

それが網元の正体であった。

ルイーゼとの友情は

仏さんのような網元の深い慈悲によって

成立していると思われる。


その網元が先日、ルイーゼに手作りの黒ニンニクを贈った。

「疲れてるみたいだから、これ食べて」

網元はそう言ったという。

やっぱり仏さんみたいではないか。


しかしルイーゼは変わった物を食べない主義なので

黒ニンニクは我が家に持ち込まれた。

私は黒ニンニクの味が苦手だが、せっかく網元がくれたのに

ルイーゼが食べないのは申し訳なくて、一つ食べてみた。

人生で二度、食べたことのある黒ニンニクと違い

真っ黒ではなかった。

味の方もライトというのか、わりと食べやすかった。

黒ニンニクを食べたから、元気が出るかも…

私は思っていた。


そして翌朝。

予定では黒ニンニクの効果によって

爽やかに目覚めるはずであった。

しかし襲ってきたのは、ひどい倦怠感。

だるくてしんどくて、しょうがない。

体温を測ったら、微熱がある。

頭もガンガンする。

倦怠感、発熱、頭痛とくりゃあ

世間を騒がせている例の肺炎か?

あとは、咳じゃ…

咳が出たら、間違いない…

私はまんじりともせず、咳を待った。


が、いっこうに咳は出ず、別の物が出た。

黒ニンニクに当たったらしい。

黒ニンニクが悪いわけではなく

私と黒ニンニクの相性が悪かったのだと思う。

嫌いな物は、無理をして食べない方がいい。


それからというもの、何も食べられず

熱と頭痛に苦しみながらトイレ通いにいそしむ。

さりとて家事労働はいつも通りなので

わたしゃ息も絶え絶え、チラッとあの世さえ見えたような

厳しい数日を過ごした。

仏さんみたいな人にもらった黒ニンニクで

仏さんになるところだった。


ところで明日、仲良し同級生で結成する5人会は

一大イベントを行う予定だった。

メンバーの一人けいちゃんが、今月末の定年退職を機に

東京で暮らす娘の所へ行ってしまうのだ。

そこでけいちゃんのアパートに皆で泊まり

語り明かすことになっていたが、私は病欠の連絡をした。

だって〜、体調不良なんだもん、仕方ないじゃ〜ん。


これ、残念じゃなく、実は嬉しい。

酒や料理を持ち寄って、友達のアパートに泊まる…

どんなに仲良しでも、けいちゃんと名残惜しくても

自分の家にいるのと同じなので、くつろげないし楽しめない。

だから気が重かったが

黒ニンニクのおかげで堂々と欠席できて、ホッとしている。
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