殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

娘うぐいす

2011年02月26日 20時48分19秒 | 選挙うぐいす日記
今回、私がうぐいすとして参加する選挙は

現職に、我々の応援する元市議が挑むという一騎打ちだ。

静かな水面に、わざわざ石を投げたのはこちらであるから

何かと神経を使うことが多い。

こっちで何かあって背を向けられたら

そのままあっちに票が行くという厄介が待ち受けている。


消耗夫人が強気なのは、現職の地盤である市外のとある町が

彼女の出身地だからである。

我が市とその町は、離れていながら同じ選挙区になっているのだ。

さらに現職の遠縁にあたるという触れ込みが

発足したばかりの陣営の心をつかんだ。

「自分の人脈で現職の地盤をひっくり返す」と豪語する彼女を

一同は歓迎した。


人脈だのひっくり返すだの、おのれと世間を知らないからこそ、簡単に言える。

こっちで嫌われている者が、故郷で好かれているわきゃ~ないし

狭い田舎町のこと、住民の大半は、辿っていけばどこかで縁続きだ。

自己申告を素直に信じて、うっかり中枢にまで入り込ませ

消耗の原因を作ってしまった。


しかし反面、水も漏らさぬ鉄壁のチームワークなんて理想に過ぎず

張り詰めてしまうので、長続きがしないものだ。

ちょっとは変なのにも出入りしてもらわないと、かえって危険である。

共通の敵は、陣営のガス抜きのために必要だ。


明日は消耗夫人の案内で、その町…つまり敵陣に乗り込んで

お願いに歩くという日、陣営では遂行の希望者を募った。

「私、明日は仕事が休みなので、行かせていただきます」

候補の娘さやかちゃんが、名乗り出る。


彼女はお年頃の美人で、結婚間近。

前回の選挙から、私のうぐいす部隊に志願入隊した。

長女らしく、親思いの頑張り屋だ。

何より、美しくて人目を引くというのは、うぐいすとして最高の素質である。


消耗夫人によって、うぐいす部隊の解散が企てられていた時

彼女は両親に「みりこんさんじゃないと、さやかは絶対手伝わない!」

と言ったそうだ。

候補の夫人からそれを聞いた私は、かわいく思った。


うぐいす総替えの話は、こちらが思うよりも、かなり激しかったらしい。

古いのをできるだけ排除して、新顔の中で威張りたかったのだろう。

早く言ってくれれば喜んで辞退してあげたのに、もう遅いわい。


この娘も消耗夫人とは色々あったようで、私にポツポツと話す。

自分の紹介する宝石店でエンゲージリングを買えとうるさいので

彼氏と一緒に行って、仕方なく買ったそうだ。

「私の紹介だから安くなると言ってたけど、2万しか負けてくれなかった。

 それはもういいんだけど、あの人もついて来て

 行きも帰りも、ずっとお父さんとお母さんの悪口言い続けるの。

 お店は遠いし、車の中だし、逃げられないでしょ。

 はい、はいって、我慢して聞いてたけど

 私、このままじゃ両親が壊れてしまうんじゃないかって

 家に帰ったら涙がボロボロ出てきて…」

そう言って、大きな瞳に涙をたたえる。


そんな所にまで口を出しているとは知らなかった。

消耗夫人の図々しさにも驚くが、絶対逃げない客と踏んで

ふっかけた宝石店の性根も恥ずかしい。


結婚前の若い娘にとって、エンゲージリングを選ぶのは

予定では生涯でたった一度の、心浮き立つ大イベントだ。

そこで大好きな両親の悪口をさんざん聞かされながら

選挙のために辛抱したなんて、さすが、我が部隊の精鋭である。


「みりこんさん、お父さんとお母さんを守って!」

さやかちゃんは言う。

「大丈夫!みりこんさんが来てくれるようになってから

 あの人、すっかりおとなしくなったもの」

炊き出しのご婦人がたも、口添えして励ます。


と~んでもございません…私は何もしておりませんのよ。

時々そそうはいたしますけど。

先日は、候補専用の湯飲みを“うっかり”割ってしまいましたの。

「はい」という素直な心・「ありがとう」という感謝の心…など

円満五心を書いた湯飲みですわ。

消耗夫人が「候補は私への素直さと感謝が足りない」と贈ったものですの。

これを見て、私に感謝の心を持て!そう言って贈ったと

彼女の口から直接聞きましたわ。

候補は、その湯飲みに注がれたお茶は、飲みませんの。

そんな大切な湯飲みを…本当に申し訳ないことをいたしました…うっうっう。


さて、さやかちゃんは、けなげに言い切る。

「明日もやられると思うけど、私は両親と違って

 毎日言われるわけじゃないので、頑張って来ます!」

私は炊き出しを手伝っているので、行かないつもりだった。

パソコン入力なんかは順番待ちするぐらい希望者が多いのに

地味で重労働の炊き出しは、やる者がいないのだ。

しかしそんな話を聞いたら、黙って見送るわけにいかないじゃないか。


炊き出し部隊の女性達が、口々に言う。

「明日の炊き出しは、私達だけで何とか乗り切ります!行ってあげて!」

というわけで、ご両親より先に、お嬢様をお守りすることになった。   
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偵察うぐいす

2011年02月22日 23時13分48秒 | 選挙うぐいす日記
対立する現職候補の事務所開きが、こちらより半月遅れで行われた。

その日、我が陣営を引っかき回す消耗夫人は休みであった。

彼女の子分は2人出てきており、偵察に行くと言う。


裏で炊き出しをしていた私は、ちょうど手が空いて、その場に居合わせた。

    「行ってらっしゃい!しっかりミヤゲを持って帰ってね」

「は?お菓子、買って来たらいいですか?」

    「アハハ!座布団1枚!

     行くからには、どこの誰が来てるか

     よく見ておいでってことよ」

「え~?そんなのわかりませんよ。

 私達、ここの生まれじゃないし、誰が誰だか…」

    「じゃあ何しに行くのよ」

「偵察…」

    「そりゃ偵察じゃなくて、見物(けんぶつ)じゃん」

事務所にいる一同は、どっと笑う。


「みりこんさん、一緒に来てもらえませんか?」

ということで、私も付いて行くことになった。

事務所の向いに車を停め、様子をうかがう。

現職らしく、早くから賑やかな人だかりができている。

私の知り合いもいて、受付けをしている。

あ!あいつ、こっちだったのか!と、ひそかに思う。

ま、お互い様だけどね。


「スパイになったみたい!ドキドキするぅ!」

「私、手が震えてきた」

2人の子分は、車の中で大興奮。


駐車場の誘導係とおぼしき若者が、揃いのジャンパーを着込んで

道の両側に10人ほど立っている。

私は車から降りて、その1人に「事務所開きですか?」と話しかけてみる。

「あ…はい…」と仏頂面で答えた後は、無言。

何を言っていいかわからず、戸惑っているのだ。

もう一人にも同じことを言ってみるが、やはり同じ反応。

こういう時は、私のようなオバンだろうと、通りすがりのよそ者だろうと

フリでもいいからちゃんと受け答えをして、好感度を上げなければねえ。

誰が見てるかわからないんだから。


各自、真っ昼間から大げさに誘導灯を握りしめてはいるものの

車の誘導はしていない。

やりようが無い…立ち位置が見当違いだからだ。

何もわかっちゃいないまま、事務所の前に、ただ立たされているのだ。

立たされたまま、何か特別なことをしているような錯覚の使命感で

コワモテを気取っている。

事前の打ち合わせ…つまり教育は、行き届いてないようだ。


ただの寄せ集めかどうかは、末端を見るのが手っ取り早い。

人材に余裕はなさそうなので、ホッとする。

こっちの偵察隊と、いい勝負である。


外で候補のお出ましを待つ人々の中に、我が夫を発見。

今、神経痛で動けない義父アツシの代わりに行っているのだ。

アツシはこっちを応援している。

    「ちょっと行ってくるわ」

「み、みりこんさん、そんな危険な…」

    「どこが危険よ。参加は自由よ」

夫のそばに行き、回りの人としゃべって、車に戻る。


2人は「すごいスリルだった…」と感動している。

絶対、何か勘違いしていると思う。

こんな物知らずの身の上で、選挙を手伝ってるつもりになれる

その度胸のほうが、すごいスリルじゃ。

物知らずだからこそ、誤解されたら面倒なので

自分の旦那がいたとは言わない。


緊張して喉がカラカラ…と言う2人と、帰りにコンビニへ寄った。

子分1号は、財布を持たずに来た私に

「みりこんさん、何飲まれますか?」と聞き

抹茶ラテを買ってくれる。

子分2号は「すいません、私も財布を持たずに来たので、せめてサービスを…」

と言いながら、抹茶ラテを開封して渡してくれる。

なかなか可愛いところがあるじゃないか。


吊り橋効果(一緒に危険な目に遭うと、相手を好きになる心理)ではないが

以来2人は、すっかりなついてしまった。

抹茶ラテを買ってくれたから、というのもあるけど

バラけたら、おとなしくていい子達だ。

くっつく相手を間違えて、損をしているだけ。

かといって、こっちにくっつかれても困る。

群れるのは嫌いじゃ。

消耗夫人に返品したい。
     
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うぐいす準備

2011年02月19日 21時19分22秒 | 選挙うぐいす日記
私はこの頃、ちょくちょく出かける。

4月にある選挙の準備で、後援会の事務所に通っているのだ。


この陣営とは、初出馬からのつきあいなので

要望があれば裏方のほうにも関わってきた。

が、そろそろおとなしくしないと若手が育たないと思い

選挙が始まるまでは行かないつもりだった。

しかしこの4年の間に、参謀だった人が亡くなり

めぼしい後任のいないまま、活動が始まった。

ブレーキ役がいないので、若手どころか、年取った変なのだけが増殖中だそう。


中でも夫婦でうるさいのがおり、写真が気に入らないだの

ハガキがおかしいだの、陣営にやる気が感じられないだの

何につけ、候補や周囲の者に食ってかかるのだという。

興奮して号泣する者もいて、ひと騒ぎもふた騒ぎもあったというではないか。

なんでその時、呼んでくれなかったのだ…選挙まで来ないつもりでいたのも忘れ

見せ物を見逃した惜しさでいっぱいになる。


この消耗夫婦、私と同年代で、子供が同級生なので顔見知り。

昔から不思議ちゃんで、前回、前々回の選挙の時も

よくもめ事の原因になっていた。

年月を経るにつれ、さらに磨きがかかってきたみたい。


特に彼らが声を大にして主張するのが

みりこん隊長率いる、うぐいす部隊の解散である。

今回、市会から県会へ鞍替えするにあたり

うぐいすはプロを雇うべきだと言う。

候補に言って即座に却下されたので、今度は別の人に訴えて回る日々。

言われた者は、うなづけば一味にされ、首を振ればもっと執拗に絡まれるので

どう対応していいかわからず、困り果てているという。


コモノってのは、やたらと変革を叫ぶもの。

苦手な人間を排除して、小さな自分が居心地良くすごせる土壌を

一から作りたがる。


実は私も、半年前に依頼があった時、鞍替えを機に

プロに切り替えたほうがいいのではないかと、候補に進言した。

しかし、慣れた人で戦いたいというのが、本人のたっての希望であった。

私がしゃしゃり出ているばっかりに、人様が困っているとなれば

知らん顔はできまい。

「とにかく1回、現状を見てほしい」ということなので、陣中見舞いに出かけた。


4年ぶりの再会を懐かしんでいると、消耗夫婦も近寄って話しかけてくる。

国会議員の誰それをこっちに向かせたのは我々…

この団体に話をつけたのは我々…

こんなにあれこれしてやっているのに、誰も評価してくれない…

候補夫妻は、もう口もきいてくれないし、目も合わせてくれない…

結局、浮いちゃって淋しいのよね。


実のところ、その議員や団体を引っ張ったこと自体、陣営は大迷惑なのであった。

選挙区外の者に頼んだって、気を使うばっかりで実入りは少ない。

しかし見当違いとはいえ、その努力は認めてやろうではないか。

「すごい!あなたがたでないと、そんなことは思いつかないわ!」

などと賞賛してやると、激しく喜ぶ。

嘘ではねぇずら…こいつらでないと、こんな無駄なことは思いつかない。


うぐいす総替えの話がなかなか出ないので、こちらから言ってみる。

    「総選挙でしょう…県内のめぼしいプロは出払うから、私で我慢してね。

     もちろん、そういう事情は、おわかりになってるでしょうけど」

「そんなこと…もちろん知ってる…プロは不足するもんね!」

しょせん根拠無き変革…面と向かっては言えないわよね。

“今回は引いてください”なんて言われるのを楽しみにしていたのに、残念。


消耗夫婦のご子息は仕事で煮詰まり、精神的に深刻な状況で休職中だと

涙ながらに語る。

もちろん、会社が悪いと言うのはお決まり。

前の選挙の時は、息子の大学自慢をしまくっていたが

4年という時の流れをしみじみ感じる。

強気な勘違いは、このあたりから発生しているようだ。


よそで人を消耗させるから、一番可愛い者に返ってくる…

それは道理ではあるが、実際には、親が困ったちゃんだと

子供は周囲に気を使う優しい性質に育つことが多く、彼らの息子も例外ではない。

優しい子が新人として働くには、厳しい環境だったのだろう。

そういう出会いの縁が生じるだけで

親が悪いわけでも、子が弱いわけでもないのだ。


女房のほうは、子供の不登校で悩む親のサークルを主宰しており

同じ悩みと同じ雰囲気を持つ、数人の取り巻きも

朝から晩まで金魚のフンのようにくっついている。

夫婦と一緒に泣いたりわめいたりした女どもだ。


皆で熱心にぬり絵をしているので、殺風景な事務所を

飾ってくれるのかと思ったら、サークルで使うイラストであった。

取り巻きの一人が自前のパソコンを持ち込み、熱心にキーを叩いているので

支援者の住所録でも作成中かと思っていたら、サークルの会報を作成中であった。


つまるところ、連日仲良しグループが集まり

事務所で、昼食とお茶つきの会合を開いているのだ。

選挙より、自分の子供を見てやれよ…と思うが、余計なお世話であろう。

こいつらが原因で、不登校ならぬ不登所になった支援者もいるというのに

おめでたいことである。


というわけで、心美しい人ばかりでは、何かと大変なのはわかったので

腐りきった私も、時々顔を出すことにした。

消耗軍団ににらみをきかせて、心美しい人を助けるためではない。

見るのが面白いからだ。

陰でヒソヒソ言いながら、誰かがどうにかしてくれて

胸がすく瞬間を待ち焦がれる、建て前の善より

いっそ無邪気な悪のほうが、私にとっては好ましいから困ったものである。
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過去女房

2011年02月15日 09時16分14秒 | 女房シリーズ
「私は親に夢をつぶされて、人生を狂わされたの…」

シノブさんは言う。

ずいぶん前からの顔見知りではあったが

人見知りが激しいタチらしく、最近やっと話すようになった。


シノブさんは、いい人だ。

タテにもヨコにも大きいのがいい。

二人でいると、私が小柄で華奢に見えるというヨコシマな利点がある。


      「え!虐待?」

「中学の時、バスケットやってて、来て欲しいという高校もあったのに

 親が行かせてくれなかったの」

      「ふ…ふ~ん」

「もしもその高校に行ってたら

今頃は、バスケで有名になっていたかもしれないでしょ?」

      「そりゃ…まあ…」

「未来の可能性をつぶされたのよ」

      「…」


「主人ともね…無理矢理結婚させられたの…

 どうしても私じゃなきゃダメと言われて

 さらわれるように連れて来られて、籍も勝手に入れられたの」

      「拉致?」

ちょっと前のしずちゃんみたいな彼女をさらうのは、大変だぞよ…。


シノブさんは、背丈と腹周りに漂う私の視線を察してか、急いで続ける。

「昔は細かったのよ!

 でも、ストレスで食欲に走らされたの…」

      「だ…誰に…?」

「主人によっ!」

シノブさんは、私の反応が望ましいものでないことに

いら立ちを感じているようだった。


「私…結婚する前に、本当は好きな人がいたのよ…」

55歳の彼女の結婚前って、いつのことなんじゃ。

     「そっちと結婚すればよかったじゃん」

「キャッ!そんなこと…付き合ってなかったんだもん」

     「な~んだ」

「でも、私の心はずっとあの人のものなの」


シノブさんはおもむろに、財布から古びた写真を取り出した。

あどけない坊主頭の男子学生が写っている。

いろんな人にこれをやっているらしく

さんざん出し入れを繰り返した写真は、すり切れている。


     「告白すればよかったのに」

「どうしても無理だったの…事情があったのよ…」

その事情というのを言わないが、なんとな~くわかる。

詰め襟のダブつき加減や、つるりとした幼い顔立ちから見て

この男子、かなりの小柄だったと思われる。


「もし彼とつきあって、結婚してたら

 どうなってるかな~って、よく考えるのよ」

どうなるもこうなるも…セントバーナードとチワワ…。

言いたいけど、我慢した。
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薔薇色暮らし

2011年02月11日 11時08分58秒 | 前向き論
バリカンの故障というアクシデントにより

夫の頭が気の毒な形状となって十日。

理髪店でスポーツ刈りふうに、ごまかしてもらったところだ。


頭は全治?十日ですんだが、足のほうも困ったことになっている。

昨年の夏に傷めた右ヒザが、いまだに祟っているのだ。

デート中になにがしかの原因で、靱帯(じんたい)を損傷し

その足で彼女とバドミントンに興じて、さらに悪化した。

今も、右足を痛そうにひきずっている。

おそらく完治は難しいだろう。


色に溺れたオスが、ヒザを傷めたらどうなるか。

体勢的に、本能の全うが困難となる。

考えてみたまえ…

あれは、健康なヒザがあって初めて成立する行為なのである。


立って歩くだけでも難儀なのに

壊れたヒザにかかる負担は、大変なものだと察する。

最初のうちは、女の同情と両者の創意工夫でどうにかなるにしても

毎回となるとねえ。

よって、密会は自然に減っていく。


今の彼女は、夫より年上…つまり婆さんだ。

これよりマシなのが見つかるまでの、言わば“しのぎ”である。

浮気相手というのは、そもそも皆“しのぎ”だ。

これを唯一無二の一人前と錯覚したい男

ぜひともそう扱って欲しい女

そして、ご親切にもそう思い込んでやる妻。

この三者が揃うと、三角関係が成立する。

しのぎでしかないものを、わざわざ祭り上げてやることはないのだ。


はなからどうでもいい女に、目新しさが無くなると

やっぱり密会は減る。

頭髪に問題が生じて、しばらく姿が見せられなくてもどうってことない。

痛むヒザには、いい休養になったのではあるまいか。


一見、色とは無関係でありながら、実は意外に重要だった箇所が

ピンポイントでイカれるこの妙技。

困るのは本人ほか1名だけで、あとは誰も困らない。

「おみごと…」そっと天をあおぎ、つい口元がゆるむ私である。


そんな夫と私は、相変わらず、共に仲良く暮らしている。

仲良くというのは、ベタベタ・ラブラブのことではなく

腹の立たない間柄のことである。


昔は、この“仲良く”の意味がわからなかった。

誰からも愛され、尊重され、心に一滴の憂いも無い土台が大前提。

もちろんその土台は、夫が用意するものと思い込んでいた。

その上にどっかりと腰をおろして

あはは、おほほと笑い袋のようにはしゃぎつつ

手を取り合って暮らすのが、正しい“仲良く”だと思っていた。

毎日が手放しのバラ色でなければ、そのまま不幸…ということになっていた。


我らの結婚生活は、常によそのネエちゃんと三人四脚。

だもんで、私の毎日はバラ色でない…ということになり

したがって、気分はずっと不幸であった。

自業自得ならあきらめもつこうが、他者の笑顔のために

自分だけが人柱にされている気がした。

こんなにみじめな人生が他にあろうかと、悲しかった。


エラい人は、皆おっしゃる。

「あなたの持って生まれたカルマを刈り取っているんですよ」

旦那と女は楽しんで、わたしゃ草刈りかい!

自分で考えても、誰に聞いても、どんな本を読んでも

この不公平の決着がつかない。


しかし、過ぎ去ってみるとわかる。

あれは、不公平なんかじゃない。

弱い自分から、したたかな自分になるための

特別サービスであった。


年を取れば、子供も大きくなる。

大きくなれば仕事もするし、車の運転も、恋もする。

勉強しないとか、人参を食べません…なんてのとは

レベルが段違いの心配や悩みが出てくる。

親や親しい人も、いつまでも元気じゃないし、やがては死ぬ。

自分だって、顔やプロポーションの造作をチマチマ気にしていたのが

内臓の造作を気にしないといけなくなる。


若い頃と違って、1個1個の問題が重たいのだ。

気力体力が衰えてくると、いっそう重量を増す。

しかし今のところ、たいていのことは

「あの時よりマシ」で乗り切れている。

もし経験していなかったら…ゾッとすることは、たくさんある。


人はどうだか知らないが、私はこうなっていると思う…

子供を追いかけ回しながら、死人を思い出しては涙にくれ

ああつらい、ああ悲しいと、気に入らないことを探し歩く。

人をつかまえては、いかに自分が大変かを延々としゃべり

合間につまらぬ自慢をはさむ。

冷ややかな反応だと「あの人は冷たい」と、よそでふれ回り

なぐさめや同情を得られれば、今度はその人を追いかけ回し、恩を仇で返す。

年金の額を心配し、最期は何の病気で死ぬのだろう…と不安がり

死にたい、死にたいと世をはかなみながら、長生きをもくろむ。


若い者なら、見た目だけでもかわいげがあろうが

年寄りのこんなのは、どこへ行ってもノーサンキュー。

「イタい年寄り」…そう言われて、避けられるのは構わないけど

実際にやるとなると、きっと、すごくしんどいと思うのだ。


目の上にタンコブがあるからこそ、ひとときの喜びや楽しみが輝く。

落ちぶれて途方に暮れた日々があるからこそ、人の情けが身に沁みる。

それを知るチャンスを与えられたのは、幸運であった。

チャンスをなかなかものにできず、棒に振った半生とも言えるが

反面、泣いたり怒ったり、あきれたりしながら奮闘した年月が

心からいとおしい。

そのいとおしい年月を与えてくれたのは、他ならぬ我が夫である。

お礼の印に、せめてヒザの全快を祈ろう。
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逆モヒカン

2011年02月06日 18時17分06秒 | みりこんぐらし
          「お気に入りの場所…逆モヒカン」


最近あんたの亭主はどうなっているんだ…とお思いのかたもおられよう。

夫の頭は、今大変なことになっている。

え?頭は下半身と共に、元々大変だろうって?

いや、髪の毛ね。


夫は会社で求人の必要が生じ、以前勤めていた子のところへ会いに行った。

その彼、太一君は、自分の頭をバリカンで刈ろうと準備したところであった。


夫は、ついやってもらいたくなったそうだ。

こんな時に、こんな衝動にかられる人は、少ないと思う。

それが夫なのだ。

つまらぬことほど、言い出したらきかない。


太一君は、おっとりした優しい子。

夫の性質もわかっているので、こころよく始めてくれたと思う。

しかし、ジャーと刈り始めた時、バリカンが突然故障した。

頭の中心を、後頭部から頭頂部にかけて刈り込んだところであった。

太一君は、壊れたバリカンをハサミに持ち替え、頑張ってくれたようだが

慣れているとはいえ、しょせんしろうと…結果は無残であった。


夫は、トラ刈りの逆モヒカン・前髪少々・カッパもどき

という斬新なヘアスタイルで、さりげなく帰宅。

こういう時、妙に落ち着いているのも、夫なのだ。

    「ひんえ~!」

私はムンクの叫び。


ちなみに会社復帰の話は「お姉さんがいるからイヤ」と断られた。

辞めた原因も、それであった。

お姉さんとは、夫の姉カンジワ・ルイーゼのことである。


若い頃の夫は、某軍団の、昨年禁煙に成功した人によく似ていた。

よく、間違えてサインを求められたり、写真を撮られたものだ。

結婚前の若かりし私は、そのおかたのファンだったので

道を間違えた。

元々バカという不治のヤマイの上、面食いの菌に冒されていたのだ。


あのそっくりさんが、名刺をちらつかせて青年実業家のフリをすれば

妻子があろうが何だろうが、バカな女はコロリとだまされ

貧しく生い立った女ほど、“実業”の実情がわからないので

ありもしない玉の輿を夢見て、略奪に燃える。

タチ、悪し。


しか~し!

その面影は、もはや完全に消え失せた。

切れ長だった目は、40代の半ば

シワの奇跡によって、突然大きなパッチリ二重となる。

太って、顔にもたっぷりと肉がつき

顔の色も黒ずんで、まったくの別人となり果てた。


今では、悪者一味の手先となり下がった桃太郎侍…

または、肥満で使い物にならないゴルゴ13…

そして悪く言えば、ただ顔の濃いデブ。

生々しい暮らしを続けると、自然な“枯れ”に失敗するようだ。


夫はこの数日、ニット帽をかぶって過ごしている。

頭を隠してしまうと、くどい顔が強調されて、とっても不気味。

隠すぐらいならさっさと直せばいいものを、かたくなに拒否する。

いつも月に2~3回のペースで理髪店に行く夫だが

気軽によく行くからこそ、こうなってしまったら、かえって行けない。

こんな頭じゃデートもできまいに…と、一応心配してやるが

それよりも、短い部分に合わせて丸刈りになるほうが恐いらしい。

まったく、おじんというのは厄介だ。


そこで、早く伸びるようにと、ワカメを与える。

頑張って食べる夫。

ただの気休めでも、ヘルシーなのは確かである。
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