殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

予定・Ⅱ

2010年12月31日 13時03分44秒 | 異星人



Kには、夜7時に千賀子の店へ行けと伝えてある。

ホイホイと嬉しそうであった。

「またキンキラキンのついた制服着て来るんじゃないのか」

参加者からは、この声しきり。

Kが初めて同窓会に来た正月、わざわざ制服で現われた。

あの衝撃は、誰しも忘れられない。

が、セーター姿だったので、ちょっと残念。


シンプルに輝く頭、オイリーなお肌

レイバン型の遠近両用メガネが、ナウでヤングなフィーリング。

帰省、帰省と言いながら、手ぶらで来るのも彼らしい。

「みりこん、なんか体がゴツくなったな…昔は細かったのにな」

などと近付いて来て、背中を触る。

ゾ~!


嫌われる人間というのは、おしなべてこんなこと言う。

話題が貧困なので、太った痩せたを会話のとっかかりにする。

キャー!セクハラよ!なんて言わない。

ますます喜ばせるだけだ。

    「あんたも、さらに薄くなったな!昔は髪もあったのにな!」

普段、本人の努力ではどうしようもないことは

面と向かって言わない主義だが、今日は言って、一座の失笑を買う。


千賀子は手足の包帯姿もなんのその、張り切ってKにガンガン飲ませる。

総勢8人の宴会は、Kだけが盛り上がっていた。


気の進まぬ集まりではあっても

男子が唯一聞きたいのは、国防の情勢である。

例のごとく、大げさに話を振っておいては「国家機密だから…」

などと得意げにもったいぶるはずが、今回は触れたがらない。

配置転換で移動になったとだけ言うので、皆もそれ以上聞かなかった。

左遷…どうやらそれは、K王国の国家機密であるらしい。


九州に住む年上妻が編んだというセーターを自慢しいしい

いかにできた立派な妻かを延々と語る。

おまえらも見習え…とまで言う。

「単身赴任先から、同級生の女子に電話しまくっている」と

その立派な妻に教えてやったら、どんなに気持ちがいいだろう。

家族を悲しませたくないから、我慢してやっているのだ。


今年、母親を老人施設に入れたのも、彼にはこたえている。

母親は、ずっと四国で一人暮らしをしていたが

ボケ始めたので、そのまま四国の施設に入れたそうだ。

「何もわからずに、また家へ帰るつもりでいるんだ…。

 オフクロを残して一人で帰る時、悲しくて、悲しくて…」

母親をあわれみ、涙ぐむK。


「奧さん、九州でしょ?なんで四国の施設?

 そんなに立派な奧さんなら、普通、近くの施設へ呼び寄せようとか

 言うんじゃない?」

モンちゃんが無邪気にたずねる。

仕事をしながら、姑の施設に通うモンちゃんにとっては、素朴な疑問であろう。

モンちゃん、グッジョブ!


「それとこれとは、別なんじゃ!」

Kはムキになって叫ぶ。

痛い所であるらしかった。

左遷と母親…今回の帰省に絡む執拗さは、そのあたりから来ているようだ。 


その夜は、フィギュアスケートの女子ショートプログラムが放送されていた。

皆、Kそっちのけでテレビに夢中になる。

放送が終わると同時に、おひらき。


私はウタゲの幹事として、挨拶をする。

「え~、これで被害者の会を終わります。

 子供の頃にさんざんいじめ抜いておいて

 今さら懐かしがられても、こっちはいい迷惑でございます。

 お集まりくださった皆様のご支援、ご協力、心より厚く御礼申し上げます」

皆は笑う。

Kも笑う。


拍手がおさまったところで、モトジメが穏やかに言った。

「K、次に帰る時は、黙って帰れよ」

一同、酔っているとはいえ、凍りつく。

「おまえの希望は叶えて、義理は果たした。

 おまえも同窓会の一員として、最低限の礼儀は守れ。

 同窓会名簿を悪用するな。

 淋しくて電話するんなら、オレら男子にしてこい」 


「アハハ!ごめん、ごめん!

 今日はみんなに会えて、嬉しかったよ」

取りつくろっているのではない。

真実、どこまでも明るいKなのであった。


そのまま店の奥の民宿に泊まるKは、我々を見送りながら言った。

「みりこん、楽しかったよ!また電話するからな!」

一同は呆然と立ちすくむ。


だめだ、こりゃ…モトジメがつぶやいた。

「チエちゃんとよっちゃんのために、おまえが犠牲になれ」

    「ギャ~!」

しかし、ありがたさのほうが勝っていた。

今夜は私がお布施をもらった。


解散する前に、外でちょこっと来月の相談をする。

家族ぐるみの一泊旅行に行くのだ。

皆、とても楽しみにしている。

こういうのが、まっとうな“予定”というものであろう。


                    完


本年もお世話になり、ありがとうございました。

来年もよろしくお願い致します。

皆様にとって、幸多き1年でありますように。
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予定・Ⅰ

2010年12月29日 16時50分39秒 | 異星人
同級生のK…彼のことは、以前書いた。

中学の時に転校して行った、大変ないじめっ子である。

もし詳しくお知りになりたい方がいらしたら

カテゴリー“異星人”を見てちょ。


行方不明のままで良かったものを

25年の歳月を経て、同窓会の幹事が彼を捜し出してしまった。

以来、同窓会に入って名簿を入手した彼は、うちへ電話をしてくるようになり

暗に男女をほのめかすような態度をとり始めた。

あのツルツル頭の中で、私は、ヤツに恋する人妻になっているのだ。


三つ子の魂百まで…若ハゲの乱暴者が

国を護(まも)る某機関という閉ざされた環境の中で

おのれを振り返ることもなく、生きてしまった。

しかも単身赴任中…もう誰にも止められない。


しばらく連絡が無かったが、今月になって、また電話がかかり始めた。

「25日に墓参りで帰省することにしたから、連絡をくれ」

と、留守電に何回もダミ声で入っている。

メールも来る、郵便も来る。

無視。


そんなある日、同級生のチエちゃんから電話があった。

チエちゃんは、我が同級生のマドンナ的存在。

お寺に生まれ、お寺に嫁ぐように躾けられ、お寺に嫁いだ。

子供の頃から、なんだか悟ってる美女である。


「K君が、みりこんちゃんと連絡が取れないって

 なんかワケありみたいな言い方してたよ」

ギャー!やられた!…これが嫌だったのだ。

 
   「ヤツ、日本語、通じないんだよ…」

「わかるよ…」

刺激したんだろう…などと、非難めいて言われるかと思ったが

チエちゃんは意外にもそう言った。


「実は私も、時々K君から電話やメールがあるのよ」

    「ええ~?!」

「あの人、どんどん勘違いしていくの…危ない性格だわ。
 
 社交辞令を素通りできない人っているけど、彼の場合はもう、病気ね」

そうであった…美しく生まれた女は、それだけで人生ご優待である。

反面その美貌ゆえに、男の勘違いや迷惑を山ほど越えているので

症状の比較ができる。


転居を知らせるハガキに

“お近くにお越しの際は、ぜひお立ち寄りください”

と印刷してあったとしたら、Kは、本当に立ち寄るようなヤツなのだ。

同じ思いの人間がいた…私は心から嬉しかった。


「K君、よっちゃんにも電話してるみたいよ。

 モテて困るみたいなこと言ってて、気持ち悪かったわ。

 彼女も嫌な思いをしてると思う」

よっちゃんも、かわいいモテ子だった。

Kめ…自分の容貌は棚に上げて

相手をきっちり選んでいるのが憎々しいではないか。


多くの男がそうであるように、Kも、ええとこ育ちの美人が好みなのだ。

本来はこういうのと、どうにかなりたい。

しかし、チエちゃんもよっちゃんも地元在住者ではない。

赴任先の関東から、自宅の九州へ帰省する途中

年に1度は、生まれ故郷へ墓参りに寄るK。

その際に何かと便利な、地元在住の露払いを所望しているのだ。


男子に連絡すればいいものを、女子に行くのがヤツなのだ。

男子が快く歓迎してくれる自信が無いのだと思う。

ブラブラして暇そうな地元女子は、私だけ…ザコで妥協というわけである。


Kは、年々執拗になってきている。

適当なウソで逃げるのは、もうやめだ。

次にKからかかってきた電話に、私は出た。


「何べん電話しても、おりゃせん…何しとったんじゃ」

偉そうに言いやがる。

「オレが帰る日の予定を立てといてくれ」

    「何が予定じゃ」

「25日、空けとけ言うんじゃ…予定ぐらい立てられようが」

    「年末のクソ忙しい時に、何であんたのモリをせんとならんのじゃ!」

「そんなこと言うなよ…久しぶりに会えるんじゃん」

    「やかましい!人に迷惑かけるな!」

「とにかく、予定を立てといてくれや」

…ハゲの耳に念仏。


ヤツの“予定”の意味は、わかっている。

足に使ったあげく、うちへタダで泊めて欲しいのだ。

はっきり言わないところが、憎たらしい。

はっきり言われても、憎たらしいが。


もちろん、そんなバカなことはしない。

しかし今回は、我が家を探してでも来る予感というか、確信があった。

やっぱり病気なんだと思うことにする。

嫌なヤツと歯ぎしりするより、病気と思えば気が楽だ。


予定、予定と言うんだから、予定を立ててやろうじゃないの。

卑怯な私は、先日お好み焼きのイベントを手伝った千賀子に連絡した。

幸運なことに千賀子の店は、Kの親戚や墓のすぐ近所なのだ。

25日は彼女の民宿に泊まる“予定”を立ててやり

とにかくうちへ来るのだけは、回避するつもり。


千賀子はイベントから3日後、交通事故に遭ったが

25日なら、なんとか復帰できそうだと言う。

お布施が効いたのか

「帰省の度に、うちで飲ませて泊まらせる習慣にすれば、お互いにいいでしょ」

と言うから、頼もしいではないか。


千賀子へのお礼の気持ちで、いっそ人数を集めてみようかという気になる。

千賀子と私だけより、人数がいたほうが心強いのも、もちろんあった。

なにしろ相手は病人なんだから

ケガ人の千賀子と、Kの使用人に堕ちた私だけでは、心もとないではないか。


モトジメと呼ばれる同窓会のリーダーに電話して、事情を説明し

メールの一斉送信を使わせてほしいと頼んでみる。

これで何人かは応じてくれるはずだ。


「おまえ、帰っておいで~とか、適当なこと言ったんじゃろが」

    「口が裂けても言うもんか…チエちゃんも、困っとるんじゃ」

姑息な私は、マドンナ・チエの名を出した。

「チエちゃんが?」

    「よっちゃんもじゃ」

「よっちゃんも?…いかんなあ…よっしゃ!あいつに言うたるわい」

ということで、急遽「K様歓迎の夕べ」が開催される運びとなる。


モトジメの呼びかけで、男子4人が参加してくれることになった。
   
Kに会いたい者はいない。

心優しい有志達は、チエちゃんとよっちゃんを守るために、万障繰り合わせたのだ。

これでもうひとつ“予定”が立った。


男子が4人も集まれば、もう上等であろう。

ヤツのために、女子まで集めてサービスしてやらんでもいい。

新たな犠牲者が出てもいけないので、女子には連絡しなかった。

千賀子と私、それに嫌がるモンちゃんを拉致して、問題の25日を迎えた。


                   続く
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お布施

2010年12月25日 08時39分23秒 | 前向き論


「我が家のクリスマス…ツリー?」


同級生の千賀子は、実家の後を継いで

小さな民宿とお好み焼きの店を営んでいる。

どこも厳しい昨今、千賀子のところも例外ではなく

この数年は、民宿のついでに始めた

お好み焼きのほうに力を入れている。


折りしもNHKの連続ドラマは「てっぱん」放映中。

我が町内でもブームに便乗して

お好み焼きのイベントが開かれることになった。

千賀子はそこへ屋台を出店するにあたり、私に手伝ってほしいと言う。


「うちだけのはずだったのに、テレビ局が来ると聞いたら

 もう一軒の店も名乗りをあげて、バトルみたいになるの。

 絶対負けたくない!」

千賀子は悔しそうだけど、その店は先代から

お好み焼き一本で生活している老舗。

効率の良い活動しかしないのは、当たり前だ。


千賀子とは、電話1本で馳せ参じ、ご奉仕するほど親しいわけではない。

でもまあ、手伝いましたよ。

好き勝手に生かしてもらってるんだもん…たまには人様のお手伝いもしないとね。

お布施みたいなもんよ。


退屈しないよう、親友のモンちゃんを呼んだが

正直、朝集合した時は、私達はいらないんじゃないかと思った。

焼く人…千賀子を入れて2人

材料を準備する人…2人

包装兼レジ…1人

千賀子の民宿で働く中高年女性が、狭いテントの中でひしめいているんだもの。


テントの軒先には、お好み焼きの写真や価格表が

ノレンみたいにぶら下げてある。

小柄な千賀子や店の人に合わせてあるので

長身のモンちゃんと私には、固いプラスチックが

ことごとく顔にぶつかって、拷問じゃん。

うちらだけならいいけど、お客さんにも拷問。


     「この女、自分のことしか考えてねえし」

「この世には背の高いモンだって、いるんじゃ」

ブツブツささやきながら、せっせと位置を変える。

背が届かないので、低い位置にぶら下げたのはわかるけど

負けたくないと言うわりには、こういう所が甘い。


そのうち、お客が集まり始めた。

お好み焼きは買いやすいように、半分サイズや4分の1サイズをもうけてある。

しかもセコい千賀子…店で出す値段より50円増しに設定している上

電卓を忘れているので、レジは大混乱。

レジ係のおばちゃんは、広告の裏を使って筆算と格闘している。

そのうち金をもらった、もらわない、計算が合ってる、合ってないで

お客と険悪な雰囲気になる。


千賀子ともう1人は、見て見ぬフリをして焼くばかり。

材料を用意する2人も、下を向いて粉を混ぜるばかり。

客あしらいがヘタなので、そっちへ逃げる。

「いらっしゃいませ」も言えない。


私達は屋台の横で熱燗を売りがてら、呼び込みだけでいいと言われていたけど

温暖快晴の日曜日、お客は増えるばかりで、そういうわけにもいかなくなった。

計算と接客に慣れている、農協職員のモンちゃんをレジに投入し

筆算おばちゃんは、包装に専念してもらう。

私のほうは、いっこうに売れない熱燗を見捨て、お好み焼きの注文窓口になる。


早くさばくだけではダメ。

ちょっとはグズグズして、うまく行列を作らなければ。

待っている人を不愉快にさせないよう…

忘れてないよ、もうすぐよ…というのを全身で伝えながら、並んでもらう。

ここらへんの調節が、腕の見せ所なのだ。


「ママ、今度絶対店に行くから!」

    「待ってるわ!きっといらしてね!

     あらン…指切り?じゃ、ゆ・び・き・り」 

私は今日だけで、店主はこっちで…なんて説明するのが面倒なので

ママになりすます。

店に来たって、おりゃせんわい。


昼メシどころか、水一杯飲む暇も無く、もちろんタダ働きさ。

忙しいのもあるが、店の人間が何か口に入れていたり

休んでいるのを見たら、並ぶ客は興ざめするし、失礼だ。


やがて午後3時…完売して、おひらきとなった。

バトルと言っていたが、テレビ局や新聞社が帰ると

尻切れトンボのように、うやむやになった。

後片付けをすませ、モンちゃんと言葉少なに帰る。

利用された…それを口にしたら、私達の今日が台無しになってしまう。


翌朝、千賀子からメールがあった。

“昨日はお疲れ様でした。

 お客さんや同級生が、あんなに来てくれるなんて。

 みりこんちゃんが、縁を引き寄せてくれたのかも!

 自信がついたので、これからもイベントにどんどん参加して

 お店を盛り上げていきたいと思います。

 また協力よろしくね”


おまえな~…私はカッとしたいのを押さえる。

何が縁じゃ!何が自信じゃ!

もし雨なんぞ降って閑古鳥じゃあいけないと思って

同級生は、うちらが電話して呼んだんじゃ!

ひとたび引き受けたら、最善を尽くすのがうちらのモットーなんじゃ!


モンちゃんにも似た内容のメールが送られてきたそうで

穏やかなモンちゃんも、さすがにプリプリして電話してきた。

「売れ残った酒の燗冷まし、持って帰っても良かったのに…だってよ!

 バカにすんなってぇのよ!

 売れた、売れたと言ったって、半分はうちらが呼んだ身内みたいなもんじゃん」

    「昔っから、あのセコさは変わらないよね」

「バカだね、うちら…」


しかし、やっぱりそれでいいと思い直す。

事前に頼んでおいた同級生や友人が来てくれた。

遠くから、近くから、わざわざ駆けつけて、たくさん買ってくれた。

ありがたかった。

この気持ちは、何ものにも代え難い。

それに、時にはいいように利用されて、厄落としをするのも悪くない。

やっぱりお布施よ…私達はそう言い合うのだった。


数日後、私は地方紙に小さく載っていた。

写真を撮られたのは知らなかったが

特集記事の中で、ヘラヘラとにやけて立っている。

細め(当社比)に写っていたので、ホッとする。

テレビのニュースは翌日放送だったが、恐ろしくて見ていない。



余談ですが、広島県尾道市に嫁いでる友人が

「てっぱん」のテーマソングの踊りに参加しました。

彼女は一回だけの出演だったのですが、踊りはしっかり習ったそうです。

あの風変わりでユーモラスな踊りは、お好み焼きを作る行程を表現しており

手はコテのつもりなんだそうです。

ゆらゆらと立ち上る湯気や、作り終えて汗をぬぐう仕草が入っています。
 
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えびまよ

2010年12月23日 10時14分19秒 | みりこんぐらし
殴ったの、殴られたのと、色々騒がしいようだ。

新婚早々、お嫁さんがかわいそうという声もあるが

火中の栗を拾ったのは、わかっていたはずである。


人々もまた、絶頂からの転落を予感していたはずである。

「素敵」「うらやましい」の次は

「それみたことか」と言える瞬間を待つのが、世の常である。

「それみたことか」と言いたい群衆の気持ちがピークに達すると

「それみたことか」の事態が起きやすいものなのだ。

ま、美しいものに甘い私であるから、心は一応

リオンより梨園だ。


そんなことはどうでもいい。

この騒ぎで、命拾いをしたおっさんが一人いる。

皇族に暴言を吐いた、中○衆議院議員…あなたですわよ。

海○蔵が夜遊びさえしなければ、糾弾されるのは彼のはずだった。


「早く座ってくれないと、こっちが座れないじゃないか」

天皇皇后両陛下がお出ましになるのを起立して待たれる

秋篠宮殿下、妃殿下に向けて言ったといわれている。

不敬だ、とんでもないヤツだ…と、思ってはいるが

それについてブツクサ言うつもりはない。

うっかり自分だけ座ってしまい、カッコ悪くて

照れ隠しに口走ったのであろう。

おじんがよくやることで、悪気は無かったと思う。

しかしまた、こういうとっさの時に、本来の人間性が出るものだ。


「遅刻した人間が何人もいる」と、稚拙な言い訳で逃げているうちに

海○蔵の事件がどんどん大きくなって

この一件が、いつの間にか消えてしまった。

この幸運により、彼は追求をまぬがれ

与党解散の火だねは、ひとつ消えた。

なんとはなしに残念なので、ここで小さい火~たいてるだけ。


彼は、今年の初め頃だったか、議員宿舎へ銀座ホステスを

常習的に引き入れていたのがばれて問題になった。

続いて、その女性と路上でチューしていたとされる写真も出回る。

その時は「私は独身だから不倫ではない」と言った。


そう…彼は独身。

奧さんは、亡くなっている。

死因については色々噂されているが、とりあえず正真正銘の独身なのだ。

さっぱりと幼稚な言い訳を、臆面もなく言える度胸がすばらしい(イヤミです)。

さすが、国家の重鎮である(皮肉です)。

このゴリ押し話術を生かして、ぜひ外務大臣をやってもらいたい(冗談です)。


とはいえ、議員宿舎の出入りが問題になった時

私はある種の感慨めいた気持ちをおぼえたのも確かだ。

共に若き日を過ごし、やがて老いさらばえて

見映えがしなくなったのであれば

お互い様として、どうにか我慢もできよう。

しかし、途中乗車でそれができるのは、すごい。

いくらゼニのためとはいえ、この人と泊まったり、チューできる…

その勇気に感心したものである。


話は戻るが、海○蔵に大ケガをさせた子の一味である

暴走族の元リーダーとやら…

彼の弁護士が解任されたということで

私は弘○弁護士が出てくるんじゃないかと、ひそかに期待していた。

見かけは地味だが、黒やグレーを白にすると定評があり

著名人が絡んだ事件では、よくお見かけする。

白い人にとってはもちろんだが

黒い人にとっても、非常に頼りになる大物である。


その弘○弁護士は、なんと麻○久仁子に雇われておるではないか!

そうか~…やっぱり付くんなら、無名人より、有名人のほうよねえ。

この衝撃と喜び!

大○美代子の別れた旦那と、不倫していたのいないのともめている

アレである。


「双方とも事実上の結婚生活は終了しており、不倫ではないと思っています」

冷蔵庫裏のゴキブリみたいなすり抜け方は

誰に教わったんだろう…と思っていたら

弘○氏が麻○久仁子に寄り添っているではないか。

彼を引っ張り出すほどのヤバい問題であると

世間に露呈してしまうリスクは負っても

最終的に白まで持って行く構えなのは、一目瞭然である。


こういう痴情のもつれは、冷静さを欠いたほうが

あとあと損をするケースが多い。

行いの善悪ではないのだ。

イメージが命の芸能人…感情に走って騒いださまを

人はいつまでも忘れない。

これもまた、世の常である。

大○美代子の健闘を祈りたい。
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たまたま族

2010年12月18日 08時27分39秒 | みりこんぐらし
義母ヨシコは、先日入院した。

春にした手術の経過を見る検査入院なので、すぐ帰って来られる。

問題は、その病院が中途半端に遠い、都会にあることだ。


昔から入退院の交通手段には、こだわるヨシコ。

家族の車で、手厚く送迎されなくてはならない。

春の入院の時は、次男が送迎した。

今回は年末なので、仕事が忙しくて無理みたい。

そこで誰が行く?ということになる。


ヨシコは、義父アツシに「一人で行け」と言われ

「病人に対して、冷たすぎる!」と憤慨していた。

遠く、慣れない街までの運転は、高齢で病身の自分には無理と

素直に言えばいいんだけど、アツシの性格上、それは言いたくない。

二人はしばらくゴタゴタしていたが

たまたまヨシコの入院と同じ日、アツシも自分の病気の検査が決まり

アツシ送迎案は完全に消えた。


息子…つまり我が夫ヒロシは、仕事を理由にヨシコの包囲網から脱出。

急なゴルフには行けても、病院は無理らしい。

仕事と聞けば、ヨシコがそれ以上言わないのをよく知っているのだ。


娘…つまり夫の姉カンジワ・ルイーゼは、聞こえないふりで対処。

それから間もなく、ルイーゼは癌検診に引っかかった。

精密検査は、たまたまアツシと同じく、ヨシコの入院の日である。

送迎どころか、ショックで食事も喉を通らないルイーゼ。

ヨシコ、アツシ、ルイーゼの3人が

それぞれ同じ日に、別々の病院の門をくぐる運命となった。


よって送迎は、私に回ってきた。

運転が得意であれば、もちろん喜んでやらせてもらう。

しかし、私の苦手なもの…蛾と運転。


30年前のことではあるが、自動車学校は補習無しで卒業したから

技術的な問題はあまり無いと、自分では思っている。

ただ、田舎は大丈夫でも、高速道路や都会は恐い。

無事故の経歴は、ひとえに恐がりのたまもの。

あんまりウロウロしないので、事故に遭う確率が低いだけだ。


自力で遠出をした記憶は、15年前に家出した時

子供達を乗せて、九州まで行ったぐらいだろうか。

あの時は、本当によっぽどだったんだなあ…と、今も思う。

生きるか死ぬかになったら、九州まで行けたんだから

今度も同じ気持ちになるしかない。


そこで日曜日、ルイーゼの癌疑惑で上機嫌の夫と

現地まで運転の練習に出かけた。

しかし都会はなんと、こわや、おそろしや…

どうにか無事に帰ってきたものの、疲れ果てて横になる。

練習に行ったはずなのに、これをもう一回やると思うと、クラクラしちゃう。

向かないというのは、こういうのを言うんだろう。


残る望みはただひとつ…当日、雨が降ればいいのだ。

雨さえ降れば、仕事が休みになる。

夫と次男の体は空くから、どちらかが行けばいい。

雨よ降れぇ…嵐よ吹けぇ…私は祈った。


前日は、一日中雨。

よし!よぉ~し!このまま頑張ってくれ…明日まで降り続けてくれ…。

しかし無情にも「明日は曇り時々晴れでしょう」と天気予報は言う。

ヨシコ、普段は自称雨女だが、こういう時は晴れるのだ。


人知れず苦しむ私を察した長男は

「オレが休みを取って連れて行くよ」と言う。

そう言われると、ありがたい反面、何だか釈然としない。

病気をふりかざし、甘え放題のヨシコと同じじゃないか…

姑の送迎ひとつできなくてどうする…

私は、行くと覚悟を決めた。


ところがである。

その夜遅く、たまたまアツシが交通事故を起こした。

高齢運転者なので、ずっと夜間の運転は控えていたが

たまたま人を送るために、数百メートルほど運転する必要にかられた。


大きな事故ではなかったが、車は大破。

アツシも相手も無傷だったのが、不幸中の幸いである。

事故の相手は、たまたまヨシコの親戚だった。

我が家によく起きる「たまたま」であるが

このところ、内容が良くも悪くもグレードアップしているみたい。


車が1台欠けたこの時点で、ヨシコの送迎システムが変化した。

夫はかき入れ時の仕事をあきらめて、次男をヨシコにあてがった。

「慣れない代車で、また事故でも起こしたら大変」ということで

アツシは自分が送ると言う。

ヨシコもアツシも、おとなしく連れて行かれた。

そして私は、自動的に運転から解放される。


次の関門は、ヨシコの退院時であるが、今度こそ私が行かせてもらうと決めた。

苦手だからとグズグズしていたら、克服できない。

頑張るのよ!みりこん!

…と思った矢先、ルイーゼから、癌の疑いが晴れたと連絡があった。

夫、激しく残念がる。


ルイーゼはすっかりはしゃいで、母親は自分が新幹線で迎えに行くと言う。

ヨシコも娘の無事を喜び、それでいいと言う。

また、運転からまぬがれた。

都会の克服は、まだ先になるらしい。
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ハンドパワー

2010年12月14日 08時32分06秒 | みりこんぐらし
おととい、スーパーで買物をしていたら、後ろから声をかける者がいる。

「腰は良くなりましたか?」

      「はあっ?」

まったく見覚えが無い中年女性。

片手にスーパーのカゴを下げ、素顔にメガネをかけた

いかにも地味でおとなしそうな人だ。


「腰、大丈夫ですか?」

その人は、にっこりと微笑みながら、なおもたずねる。

私は頭も顔も性格も、悪い所はいっぱいあるけど、腰はなんともない。

    「お人違いじゃありませんか?

     私はあなたを存じ上げませんし、腰も悪くはありませんのよ」


女性は、気にも留めずに言った。

「私、○○町の斉藤といいます」

知るかい…。

「私、ハンドパワーがつく修行をしたので、腰の痛みが治せるんです。

 もし腰が悪かったら、治してあげたいなと思って」

おまえはミスターマリックか…。

    「痛くないから、いいですよ」

されてたまるものか、気味の悪い…。


「痛くないですか?痛ければ、ハンドパワーで治してあげられるんですよ」

私の腰が健康なのを残念がっておられるご様子。

断られたら、さっさとあきらめればいいものを

もったいぶって次の展開に進もうとする。

こっちもまた、おかしいと思ったら、さっさと離れればいいものを

変に引っかかってつつきたくなるのが悪い癖。

腰はいいから、このヤマイを治してもらいたいもんだ。


よくいらっしゃるのだ。

ちょっと宗教めいたことをかじって勘違いし

人の弱みにつけ込んで、自分の力…あればの話だが…

を見せびらかそうとするバカが。


元々人と接触するのがヘタで、日常生活がうまくいかないから

こういう変な方向に目が向く。

動機から間違っているのに気づきもせず

おかしな武器を手に入れたつもりになって、人をどうこうしようなんて

厚かましいにもほどがある。

冷酷かつ邪悪な私であるから、間違いを正してやろうなんて

だいそれた望みは毛頭無い。

ただ、いじりたくなる。


   「治すことはできても、いい悪いは、わからないものなんですか?」

失礼な質問だろうから、できるだけ愛想良くたずねた。

「いい悪いは、見ればおよそわかるんですけど…」

    「私はわからなかったと?」

「はい」

    「体がでかいから、きっと腰痛持ちだろうと思われた…と」

「あの、いろんな人に声をかけるのも、修行なんです。

 ちょっと体験してみませんか?どこか気になるところがあれば…」

敵もさる者…行き詰まったら、強引に本線に戻そうと

手のひらをそろりそろり、私に向けようとする。

どこにパワーがひそんでいるのか、何の変哲もないハンドである。


    「じゃあ虫歯」

「虫歯はちょっと…傷むんですか?」

    「ううん、銀のとこ、元通りにしたい」 

「そういうのは…」
 
    「じゃあ絶壁…ほら、後頭部がぺっちゃんこでしょ?」

「そういうのも、ちょっと…」

    「なんで?頭蓋骨も腰骨も、同じようなもんでしょ?」

「骨は…」

    「じゃあ肉?肉ならいいの?痩せさせて!」

「そういうのは…」

    「骨もだめ、肉もだめ、じゃあどこの何が治るの?スジ?」

「体験してもらって、効果を実感したらわかると思うんですけど」

    「だから、絶壁治してほしいんだってば。

     ハンドパワーでプーと膨らませてくれたらいいのよ。

     修行なされたんでしょ?」


女性は意を決したように言った。

「これ以上ひどくならないように、パワーを送ることはできます」

    「これ以上って、あなた、もう無いですよ。

     目の後ろ、すぐ後頭部なんですよ?

     ポニーテールにしたら、武士みたいなんですよ?」


「失礼します」

女性は不機嫌に言い捨てると、早足に去って行った。

これぐらいでひるんでいたのでは、修行にならんではないか。


体に痛みを抱えていれば、ワラにもすがる思いで

ハンドパワーとやらを施術してもらう人も、中にはいるだろう。

それで治ればいいけど、仲間に引き入れられたら

なんだか医者に行くより金がかかりそう。

人を治したかったら、医大へ行け。

こういうのがいるから、気をつけてくださいね。  
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ハリウッド・メモリー

2010年12月08日 09時00分28秒 | みりこんぐらし
私のカラオケの十八番は、郷ひろみの“ハリウッド・スキャンダル”。

前にも書いたが、好きで歌いたい歌と

宴会で歌う盛り上げソングは、別ものとして区別している。

好きな歌と、宴会用の歌とが同じなら問題は無いはずだが

元々歌がヘタなので、そんな器用なことはできんのじゃ。


宴会用としては、従来の山本リンダの他に

近年ではメンバーが揃えば、矢島美容室などにも手を染めている。

なんとか歌えるようになった頃、いささか古手の歌になっているのが

中高年の哀しいところ。


ハリウッド・スキャンダルは、歌いたい歌。

イントロが華やかだし、音域が狭く

スローテンポなのでついて行きやすい。

だから、気の置けない仲間内だけの時に歌うようにしている。


ところがここ最近、歌えなくなった。

原因は、同級生の祐太朗。

先月あった、同級生の飲み会のことであった。


♪女と見たらば すぐ誘い出す♪

目の前に座っていた祐太朗が、ボソッとつぶやいた。

「あ~、みりこんの旦那のことか~…」


彼は、決して人を茶化すような人間ではない。

子供の頃から、穏やかで優しく、人望厚い秀才で

みんなのお兄ちゃんみたいな存在である。

その彼が、誰に言うわけでもなく、ほろ酔いでそんなことをつぶやいたのだ。

ブッと吹き出しそうになるが、一曲ナンボと思うと

セコい私は、何が何でも歌おうと心に誓う。


♪薬をたくさん 飲んだけれども♪

   「ああ、年だからなあ…あっちこっちなあ…」

♪眠っただけよ まだ生きてると♪

   「良かったのう…」

♪君 髪の芯まで びっしり びっしり 君 髪の芯まで♪

   「白髪だったよ~…」

さっき、忙しくて白髪を染められなかったと話していた

女の同級生に向いて、祐太朗は、軽く歌っておるではないか。

   
もうダメ。

変に無理をしたのが悪かった。

頬肉が自動的に持ち上がり、口が勝手にゆるんで

意志と関係なくヒヒヒと笑ってしまう。

ツボにすっぽりハマッてしまったのだ。


十八番を失った私は、当惑した。

このところ飲み会が頻繁なのに、歌う歌が無い。

しばらくこれ一曲で、乗り切っていたというのに。


そしてまたまた先日、今度は同級生の忘年会があった。

当たり前だが、やはり祐太朗がいる。

あの時の笑いが、さらに強烈にこみ上げてくる。

もうハリウッド・スキャンダルは、完全にあきらめねばなるまい。


眉間にシワを寄せ、重たい歌の本をめくるなんぞ

私にはできない…できやしない…

だって、メンドクサハズカシイのだ。

お待たせしたって、お時間いただいたって

たいしたものは出てこんのだ。

「え~?次、ワタシ~?」なんてもったいぶるより

義務はサッサと終わらせて、おしゃべりに興じるほうが性に合っている。


そこでひらめいたのが、松田聖子の“スイート・メモリー”。

とあるブログに貼り付けてあったのを思い出したのだ。

いや~、ブログも時には役に立つ。


コマーシャルに出てくるペンギンのつもりか

別のマイクを取り、バックコーラスを始める者達もいて

そこそこの盛り上がりを見せた。

祐太朗、ポツリといわく…

「紆余曲折乗り切った感じが、聞かせたよ…」

新たな十八番が見つかり、満足の夜であった。
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泣いたうぐいす

2010年12月03日 13時46分02秒 | 選挙うぐいす日記
いよいよ、選挙活動の最終日がやってきた。

実は、一番楽なのが最終日。

あれこれ言わなくていいからである。

「どうか最後の最後まで…」だの「あと一歩…」だのと

ひたすらお願いしていればいい。


ちなみに一番厄介なのは、初日である。

出陣式の司会や祝電披露など、名前や肩書き、順番において

絶対にミスッてはならない行事があり

路上に出れば「○○市議会議員立候補者、○○、○○でございます」

などと、ややこしいセリフを連発しないといけない。


名前の連呼の合間に、経歴や政策、心映えや人柄などを短く織り交ぜつつ

町の反応や、候補のノリ具合を観察する。

つかんだ感触によって、内容をふくらませたり削ったりして

どんどんセリフを変更していくのが、私のやり方である。


同じセリフのリピートだけで、一週間を過ごすなんて芸が無い…

つい、そう思ってしまう。

誰も何とも思やしないのに、サービス過剰の芸人魂が騒ぐのだ。


最終日の話に戻ろう。

候補のお姉ちゃんは、1日でずいぶんうまくなった。

元々声が抜群に良くて、滑舌がはっきりしており

この地方独特のアクセントの癖が無かったので

基礎から鍛えなくてもすんだからだ。

私はすっかりステージママの気分である。


晩秋の夕暮れが迫る。

あちこちで、うぐいすの涙声が響く時刻となった。

あと数時間で、あわただしい一週間が終わる。


私は泣き真似はするけど、本当に泣くことは、ほとんど無い。

誰でもそうだと思うが、泣いたら鼻が詰まる。

これはうぐいすにとって、非常にゆゆしき事態だ。


空気を鼻で吸って、しゃべるついでに口から吐くという

うぐいす呼吸が不可能になる。

鼻が使い物にならないとなれば、出し入れ両方、口呼吸。

外気から喉を守れないし、すぐ苦しくなって、息が続かない。


もうちょっと若い頃は、私もかわいげがあったもんで

雰囲気に飲まれ、うっかり泣くこともあった。

しかし泣き声で明瞭さが失われたら、泣き虫が乗ってるただの乗用車…

死にものぐるいで、言うべきセリフは言う。

酸欠の金魚みたいになるけど、意地と根性で乗り切っていた。


だが、年を取ると、だんだん横着になってくる。

なにしろ体力の消耗が激しいお年頃なのだ。

泣き真似のほうが、かえって人の魂を揺さぶることも覚える。

    「どうか、どうか、お助けくださいまし…よよよ…」

旅芝居ふうの泥臭さが、私の好みでもある。

心はすっかり、みりこん温泉小劇場。


そのまま終了する予定だったのに、夜になってから、珍しく泣いた。

一人のばあさまが、家から走り出て

「あんた、一人でよく頑張ったねえ…ずっと見てたよ。

 いつも変わったこと言うから、楽しみだったんだよ」

と言ったからだ。

 
変わったことを言う…楽しみ…

これこそ、私がひそかに目指すうぐいすの姿なのであった。

ううっと涙が出た。

それからが大変。

ホンマに泣きながらしゃべるのは、まあなんと息苦しいこと、つらいこと。

不覚であった。


活動の終わった夜8時、いつもは控えめな候補の父親が、皆の前に進み出た。

「すみません…これだけは言わせてください。

 みりこんさんのお陰で、息子は立派に戦えました。

 本当にありがとうございました」

ちょっといい気分じゃん…うしし。

だが、そんなことはおくびにも出さない。

    「こちらこそ、勉強させていただきました」

なんて言って、すましているのじゃ。


そして翌日の投票日。

夜には皆で事務所に集まって、結果を待つ。

あっけなかった。

2回目の報告で、いきなり1000票を超え、当確となった。

最終的な順位は、5位。

予想外の得票に、一同は喜ぶよりも、驚いていた。


当選を知ると、どこの陣営でも、面白い現象が起きる。

パッと二手に分かれるのだ。

「おめでとう」と言う者と「ありがとう」と言う者にである。


本人と家族、親戚、後援会長までは「ありがとう」がふさわしいが

その他大勢の身でも、候補の後ろにくっついて

「ありがとう」と礼を言って回る者がいる。

サッとあっち側に行っちゃうのだ。

そのさまを眺めてひそかに楽しむ、私だけの遊びである。


もし落選したら、その人はやはり候補の後ろにくっついて

「すみませんでした」と言って回るだろうか。

おそらく「残念でしたね」と言う側のまま、そそくさと姿を消すだろう。


私はもちろん、奥ゆかしく!おめでとうと言う。

それが、自分への合図。

選挙と自分を切り離し、部外者に立ち戻る瞬間だ。

私のうぐいす稼業で、最大の醍醐味である。

明日から、またダラけた日々を送るのさ~。


余談として書いておこう。

路上でうちの候補を呼びつけ、さらしものにした

ベテラン候補の順位は6位…うちの候補の次であった。

そして以前書いた、私の夫の会社を移転させ

跡地を海浜公園にするという壮大な夢を持つ男は

落選したことを申し添える。


ところで…ギャラがまだなんだけど、どうなっているんだろうか。

♪依頼は~急でも~ 払いは~ゆっくり~ あ~こりゃこりゃ♪…と。



                     完
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