殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

年季明け

2011年10月25日 17時38分01秒 | みりこんぐらし
             「スーパーのチラシ…くっくっく…」


昨日は、記念すべき日であった。

夫の両親の治療食を作って持って行き、一緒に夕食を食べ始めて1年半

昨夜でそれは終わった。


どうにかだましだまし、義父アツシの人工透析を伸ばしてきたつもりだが

いよいよ彼の腎臓は、のっぴきならない状況となった。

今は透析する時に必要な“シャント”という部品を

腕に埋め込む手術日を決める段階。

しかしアツシ、断って逃げ回っている。

透析をすれば体は楽になるはずだが、次の扉を開けるのが恐ろしいのだ。

そのうち力尽きて、観念すると思われる。


そうなると一般常識では、食事療法はますます重要になってくる。

しかしずいぶん前から、アツシは治療食を食べなくなっていた。

好きなものしか食べられない、気ままという名の持病ゆえ

世間一般で言う“ごちそう”でないと、ハシさえ持たない。


毎日インスリン注射を打つためには、毎日ごはんを食べるのが大前提である。

欲しがるものを中心に与える方針に変えたところ、アツシは食欲を取り戻した。

私はアツシの体調や寿命を捨て、まず食べさせる策を選んだのだった。

何を食べたって、せいぜい1~2年の長生きなら

好きなものを食べさせてやりたいという、ヨシコの強い希望もあった。


好物だけでいいなら、私がいつまでも出しゃばることはない。

作るのはどうってことないが、タダに慣れきって

カニが食べたい、和牛が欲しいと、どこまでも無邪気に要求する彼らと

つい喜ぶ顔が見たくなってしまう自分。

かさむ一方の食費に、軽い恐怖を感じていた私だった。


親の好物にうんざりしている夫。

しかし手間を省いて節約するためには

集合して同じものを食べさせる必要がある。

腰の重い彼の尻をたたいて、実家へ通い続けるのはどうなのか。


毎晩我ら一家が押しかけるのは、弱ったアツシにとって体力的にどうなのか。

あり合わせや外食で軽く済ませたい時でも

大量のごはんを炊いて我々を待つ、ヨシコの気持ちはどうなのか。

いつも賑やかで嬉しかろうというのは、よくある勘違いだ。

ひとたび手を借りると「今日は間に合ってます」とは言いにくい。

みんなが心から嬉しいとは思えない。

どうも幸せ人口が減ってきているような…。

これがマンネリである。


そこで昨夜、ヨシコに軽く問うてみた。

   「今みたいに三食作って持って来るのと

    それやめて毎月小遣いあげるのと、どっちがいい?」

“このまま続けていても、どうたらこうたら…”と

倦怠期のカップルみたいに切り出すのは、もめる元である。

自分だけでなく、相手にも利益のある選択肢を用意してから臨むのが

正しい交渉だ。


「時々来てくれるんでしょ?」

   「もちろん。

    今までどおり夫婦で手分けして、家事や送迎もするよ」

ヨシコはあまり迷うことなく、後者を選んだ。

やはり現物支給より、現金のほうがいいらしい。

   「では些少ですが、お納めくだされ」

「かたじけない」

月末までの当座の小遣い3万円を置いて帰り

メシ炊きの日課は、あっさり終了した。


最初は物だけでありがたがっていた人でも、だんだんお金のほうが良くなる。

良かれと思って続けていても

いつしか本来の目的からズレていることだってある。

新しい態勢も、ずっとこのままではないだろう。

その時その時の状況に合わせて、変化させていくつもりである。


10月24日…この日は、昔の夫の愛人

女教師M子の誕生日である。

他のメンバーのはすっかり忘れているが、たまたま記憶していた。

誕生日に入籍するのが夢とおっしゃり、その日に向けて

夫も彼女も、我々母子の始末に苦心していたからである。


女の誕生日、出会いの日、発覚の日など

忌まわしき裏記念日に苦しむ奥様もおられようから

思い出して書き添えることとした。

嫌な日も、やがて良い日になるのだ。

今後10月24日は、私が3万で自由を買った記念日である。
コメント (51)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

続・続長靴談義

2011年10月18日 16時45分13秒 | みりこんぐらし
先月の話になるが、安子さんのご主人の初出勤がやっと決まった。

   「月曜日の朝6時半までに行ってくださいと伝えて」

「あんた、月曜日の6時半だって」

安子さんは、そばにいるらしきご主人に伝える。


「げ~つ~よ~び~?何日~?」

ご主人の声が聞こえる。

いかにも不機嫌そうな口ぶり。


「26日よ」

安子さんはご主人に言う。

「26日~?」

「そうよ、26日の6時半」

「ろ~く~じ~は~ん~?」


何べん聞き返したって、日にちも時間も変わりゃせんわい。

往生際の悪い男め。

本当は働きたくないのだ。

   「難しかったら、無理しないでよ」

「ううん、行く、行く…ね、あんた」


安子さんのご主人は、1日だけ働いて月末を迎えた。

30日の夕方、安子さんから電話があった。

「給料はまだかって、今朝から旦那がうるさいのよ」

さすが!どこまでも、はずさない男!

こうでなくっちゃ!

私は心中でひそかに拍手する。


「面接の時、月末締めで現金手渡しと言われたそうなんだけど

 もう月末よね…」

    「締めが月末で、支払いは翌日よ。

     今月は土日がかかってるから、遅くて3日になるかもしれない」

「あんた、3日だって」

安子さんは、かたわらで聞き耳を立てているらしきご主人に伝える。


「3日っ?!何曜日っ?!」

電話の向こうから聞こえるご主人の質問は

仕事の日程を連絡した時と違い、かなり真剣なご様子。

「月曜日よ、月曜日!」

安子さんも気合いが入っている。   


    「ごめんなさいね…はっきり何日って、言っておけば良かったのよね。

     配慮が足りなかったわ。

     ご主人の性格がここまでとは知らなかったもんだから」

「いいのよぉ、気にしないでぇ」
   
私にすれば、けっこうイヤミのつもりだが

安子さんには冒頭の謝罪だけ通じた様子で、かなり満足げである。


人からの謝罪を栄養に生きる人は、いるものだ。

チャンスと見れば、小さなことでも栄養に変換したがる。

欲しがる人には、与えてやればいい。

引き換えに、多くのものを失えばいい。


「たった1日分のことで悪いんだけど

 はっきりしておいてもらわないと…ねえ」

    「申し訳なかったわぁ。

     働くほうにしてみれば、まだかまだかと思うわよね…

     口に出すか出さないかだけで。

     ほんと、すみませんでした」

前後に謝罪の言葉をくっつければ

間で何言ったってわかりゃしないのだ。


「利用されてタダ働きさせられたんじゃないかって

 あんまり心配するもんだから」

そこまで言うか。

拍手!拍手!

大変、大変と人に訴え、気の毒、気の毒と同情してもらう暮らしが長引くと

言っていいことと悪いことの区別が、あいまいになるらしい。


これを夫にそのまま伝えたら、怒り狂うのはわかっているので

給料日がいつだか聞いていた…とだけ伝えたが、やはり怒った。

「給料日は明日だ!1日が待てんのか!

 旦那も旦那だけど、シャーシャーと電話してくる女房も女房だ!

 もういらん!もう知らん!」

労働する者の気持ちがわからない者と、首を長くして待つ者…

本当は、間に立つ私が両者の調整をしてやらないといけなかった。

日光あたりのお猿さん程度にハンセイ。


翌日のこと、夫は雇い主から

安子さんのご主人の給料1万円也をことづかった。

一晩経ったらケロリの夫は、その足で安子さんの家まで届けたので

お礼の電話があった。

「ありがとう!さっきご主人が、わざわざ届けてくださったの!

 3日と言ってたのに早くて、旦那とびっくりしちゃった」

金さえ届けば、謙虚で明るい夫妻であった。


もう声をかけない!と断言していた夫であるが

今月に入って忙しくなり、安子さんのご主人に

お出まし願わなければならない状況になった。

その上、もう一人必要になったので

前から仕事の口を頼まれていた人に行ってもらう。

しかしその人は、向こうの社員の口のきき方が気に入らないと言って

初日に途中で帰ってしまった。


夫の中で、安子さんのご主人の株、急上昇。

「あの旦那はえらいよ。

 ちゃんと頑張ってくれるもんな。

 今月分の給料日は来月の1日だから、早めに言ってあげてくれ」

この変わり身…あきれながらもちょっと嬉しくなって、安子さんに電話した。

夫が言っていたことも話す。


「旦那に聞いた、聞いた。

 途中で投げ出すなんて無責任だって、うちのも言ってたわ。

 いまどきはどこも厳しいんだから、少々のことは我慢しないとねえ」

働かない亭主のことをバカだアホだと言いながらも

そこはやはり女房…人から良く言われると嬉しそうだった。


ところで、気になっていた長靴。

買ったのか、と聞いてみた。

「別に無くても働けるみたいだから、買ってないわ」

ということであった。
コメント (40)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

きよラーときよゲー

2011年10月12日 10時29分14秒 | 前向き論
              「朝陽の目玉焼き」


古典なんぞよく知りもしない身の上で、こんな話を出して恐縮だが

源氏物語の原文の中に「清(きよ)ら」と「清(きよ)げ」

という言葉が出てくる。


主人公の源氏亡き後、物語の舞台は

源氏の孫と、源氏の戸籍上の息子の世代に移る。

孫は、源氏の娘が天皇に嫁いで生んだ皇子で

天真爛漫、派手なムードの女好き。

息子のほうは、表向きは源氏の子だが

実は源氏の妻が浮気して生まれたワケありで

中途半端に仏道をかじった真面目かつ少々陰のある男。


同年代の彼らは、ある時、同じ女の子を好きになった。

二人のイケメンは、互いにライバル心を燃やす。


孫は皇子という身分上、自由がきかないが

女の子に会いたい一心で、遠い道のりを無理して通う情熱系。

しかし彼の奧さんは、女の子の腹違いの姉だった。

姉の旦那の浮気相手になってしまったことを、女の子は恥じる。


息子は、女の子を奪われたくない気持ちは強いが、孫ほど熱心には通わない。

女の子は、彼から経済的援助を受けており、元はこっちのカノジョだった。

がんじがらめの複雑さに、女の子は苦しむ。


作者の紫式部は女の子の口を借り、孫のほうを“きよら”

息子のほうを“きよげ”と表現した。

今で言うと“きよら”が「イケてる」

“きよげ”が「イケてる感じ」というところであろうか。

どちらも誉め言葉だけど“きよら”のほうが、ワンランク上となる。

女の子は内心、わかりやすいシンプルを歓迎したというわけだ。


やがて、手放しで愛情を注いでくれるきよラー(孫)と

義理のあるきよゲー(息子)との板挟みに耐えられず

女の子はノイローゼ状態で自殺未遂。

女が軽く扱われる時代であり、乳母や侍女など扶養している人達もいて

自分の思いだけでは、どうにもならないのだった。

死にそこなった女の子は、二人の前から姿を消して尼になるという結末に終わる。


どちらかに決められずに、悩み苦しんだ女の子もまた

きよゲーだったのではあるまいか。

きよラーであれば、自分がズタズタになる前に片方に決めるか

「両方好きなの!」と開き直って手玉に取る手段もある。

きよげはパッと見美しいけれども

人の都合や機嫌を気にしてグズグズしていると、ろくなことは無い。

罪の意識が、義理が、恩がとつべこべ言ったって

結局は両方と寝ちゃってるんだから。



物事を正邪でなく、この“きよら”と“きよげ”で眺めると

なかなか味わい深い。

何年も前の話になるが、例えば私の知人、当時55才の初美さん。

初美さんは次男と結婚しており、姑は近所の本家で長男一家と暮らしていた。

お決まりではあるが、姑と兄嫁は犬猿の仲。


初美さんのご主人は、自分の母親に対する兄嫁のぞんざいな言動に

心を痛めていた。

加齢で母親への思慕が強まると同時に

暇ができて周りのことが気になり始めたとも言えよう。

初美さんもまた、夫を愛する優しい女性であるから

ご主人の心の痛みを自分の痛みとして受け止めていた。


ある時、本家に集まった親戚の前で

兄嫁さんは例のごとく、おばあちゃんを邪魔者のように扱う。

初美さん夫婦は腹に据えかね、兄夫婦に抗議した。

口喧嘩になったのは言うまでもない。


「そんなに粗末にするんなら、私達が引き取ります!」

「どうぞ、どうぞ!やれるものなら、やってみなさい!」

兄嫁に言われて憤慨した二人は、そのままおばあちゃんを連れ帰った。

が、見ると住むでは大違い…

おばあちゃんのわがままなこと、手のかかること。

数ヶ月後には参ってしまい、離婚や一家心中まで考えるようになってしまった。


そこで初美さん夫婦はどうしたか。

本家に詫びを入れ、おばあちゃんを返品したのである。

兄嫁の勝ち誇った顔もだが、返品されると知って

90才の老人とは思えない素早さで荷物をまとめ

いそいそと本家へ帰ったおばあちゃんの後ろ姿に打ちのめされた…

と初美さんは言う。

彼女は挫折を恥じて滅入っていたが

この話を聞いた私は「あっぱれ」と賞賛した。


おばあちゃんがかわいそう、かわいそう、と

夫婦でただ兄嫁を非難していた頃は、ありきたりな偽善者だった。

兄嫁の悪口が夫婦和合の媚薬になっているようないやらしさすら、私は感じていた。


理想に燃えて、引き取ったのはきよげ。

この時は、初美さんを見直した。

でも仏心というのは、仏じゃない者にしか湧かない。

仏じゃないので、美しい思いやりは継続しない。

一時の同情や親切ではどうにもならないことが、この世にはある。


謝って返品したのは、きよら。

印象からすれば、これはザンネンな行為なんだろうけど

建て前も格好もかなぐり捨て、魂で動いたのがきよら。

意地を捨てて頭を下げ、何ものにも代え難い自由と平和を取り戻した。


謝られ、返されたことで、自分は弟夫婦にできないことをやっていると

証明された兄嫁は、気持ちが良かったはずだ。

それが兄嫁を立てることになったのではないか。

だからこそ兄嫁は、帰って来たおばあちゃんをすんなり受け入れた。


そしておばあちゃんも、終(つい)のすみ家は本家と

はっきりわかったのではあるまいか。

初美さん夫婦のきよらが、嫁姑の迷いを消し

結果的により多くの人数に幸せをもたらしたといえよう。


私達の日常でも、応用してみると面白い。

深い悩みの中に暮らし、いつか幸せになりたい…

いつかすべてを許したい…と願う人は多い。

その志は崇高で、きよげ。

しかし過去の積み重ねが今日、今日の積み重ねが未来である。

過去の悲しみと、ばくぜんとした未来に思いを馳せるだけで

今日という日を忘れては、なかなか願う心境にはたどり着けない。


先で幸せになりたいなら、今日の幸せを噛みしめる…

すべてを許したいなら、今日の悲しみを許す…

それがきよら。

きよげときよら、どちらも美しいが

早くて確実、いわば合理的なのは、きよらである。
コメント (50)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ビックリダディ

2011年10月05日 14時12分12秒 | みりこんぐらし
子だくさん家庭のドキュメンタリー番組で、今一番熱いといえば

奄美大島のビッグダディ。

先週見て驚いた。

なんと、奧さんと離婚した後

18才年下のシングルマザーと再婚しているではないか。


同じ整体院に勤めていた28才の新妻には、5人の連れ子がいる。

さらに彼女のお腹には、早くもビッグダディとの赤ちゃんが…。

この節操なき急展開、もはやビッグダディと言うより、ビックリダディである。

色々ご意見はありそうだけど、エンターテイメントはこうでなくっちゃ!


一家はご新規の妻子と共に、奄美へ引き上げようとするが

住民の反対により断念。

妊娠中だし、子供手当てもたっぷりもらえるし

メドがつくまで、じっとしていればいいようなもんだけど

新しい土地へと急ぐのは、なんだか事情がありそうよ。


社内恋愛で、整体院に居づらくなったんじゃないかしら。

愛知は前の奧さんの地元らしいし。

あの奧さんが「おめでとう」と祝福してくれるとは思えないわ。

それに繁殖能力の高さと、移動のバイタリティは

比例するのかもしれない。

ほら、鳥だってそんなのがいるじゃない。

立つ鳥は、跡を濁さないけどさ。


とにかく一家は、新天地を島根県の隠岐島に設定するも、あえなく撃沈。

まず定職を持たなければ、町営住宅に入れない。

ダディは漁師になるつもりで漁船に試乗したが、就職を断られたのである。


身勝手な私見だが、あの島は確か、とある女性演歌歌手が

地元の町会議員(だったっけ?)と結婚し

やがて離婚してから、まだ年月が浅いんじゃなかったっけ。

言わば有名人が、さんざん賑やかした祭の後。

ちょっと知られている程度の一般人が甘えても、通用しない。

命がけで行かにゃ。


この土曜日にも放送があるそうだ。

すでに、どこか親切な島へ落ち着いているのだろう。


先週の放送で注目したのは、一家の移住計画の窓口となった

隠岐町役場の青山さん。

就職活動だというのに、履歴書を持たずに来たダディに注意したり

断られても「移住したい」とだだをこねる新妻に

「ご主人に熱意が感じられない」というようなことを

きっぱりとよどみなく話す。

それでいて、冷たさや不機嫌は感じない絶妙な口調。

誠実でブレない態度は、立派であった。

こういう公務員が育つ隠岐、あなどれん。



青山さんといえば、先日お話しした青山夫人を憶えておいでだろうか。

関東地方で暮らす息子さんが、会社に行けなくなって実家に戻っており

拝み屋さんを紹介してと私に言った人である。

詳しくは、2011年8月27日『汗の効用』を見てちょ。


あれから私は2回、青山家を訪問して夫人の話を聞いた。

「髪が重たい」と、自分で丸坊主にし、体が痛いと泣く…

息も絶え絶えに「苦しい、お祓いをして欲しい」と頼む…

病院で検査をしても悪いところは無く、心療内科を紹介された…

なんとも壮絶な状態である。


私は最初、具合が悪いのは独身の次男のほうだと思い込んでいた。

話を聞くうち、既婚の長男だとわかって驚いた。

「35才ともなると、会社で責任あるポストにも就くじゃない?

 息子は他の人より昇進が早かったのね。

 やっかみもあるし、責任ある立場がつらかったらしいのよ」

青山夫人は、理由をそう述べた。


だが、仕事も、あちらで建てた家も、妻も3人の子供もほっぽって

遠い実家へ逃げ込むのは、よっぽどのことである。

   「昇進の早い優秀な息子さんが、やっかみや責任だけでおかしくなって

    一ヶ月も実家でくすぶるとは思えない。

    別の問題も重なっているんじゃないかしら。

    家庭が円満だったら、ここまでにはならないよ」


家庭…と夫人はつぶやいた。

「あの子、お嫁さんには支えてもらえないから…」

   「何で?」

「息子には、好きな人がいるの」

キタ~!

こっちも別の意味でビックリダディかもよ!


    「不倫じゃん」

「そうなんだけど…」

   「はよ言えや」

「まさか、そんなことで…」

   「そんなことで、簡単にああなるのよ」

「彼女には、会社の悩みを話したりして、支えになってもらってたそうなの」

   「逆、逆。

    浮気するから、家も会社もグチャグチャになるのよ」


息子さんの相手は、同年代の人妻。

初めての浮気にのぼせ上がった息子さんは

「離婚して家を出て、アパートを借りる」と言い出した。

しかしその段階で、人妻は急に冷たくなり、連絡が取れなくなった。

人妻にとって、楽しいのは火遊びであり

本当の火事は、ご所望ではなかったのだ。

 
   「失恋よ。

    息子さん、捨てられたのよ」

「そんな…」

   「ほっときゃいいわよ。

    親が不倫の片棒かついでどうすんの!」

息子に聞こえるのを心配して、青山夫人はリビングのドアと窓をしめる。

聞こえたって、かまうもんか。


数日後、息子さんはひょっこり元気になり、勤務先の関東へ帰って行った。

失恋の痛手が終了したのだ。

青山夫人は、とても喜んでいた。

ああ、あほらしい。
コメント (40)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする