この正月、3年に一度の同窓会があったのは、以前お話しした。
同窓会はいつも、車で30分ほどの町にあるホテルで行われる。
4時からだったが、私は地元の子ばかり4人で午前中から出かけ
ランチにお茶、ショッピングを楽しんだ。
最初は気の合う竹馬の友3人で行くはずだったが
同級生のルリコが、出かける間際になって電話をかけてきたので加えた。
ルリコはこのブログに時々登場する、食堂の女将だ。
「ねえ、○○ホテルって、どこにあったっけ」
ルリコからの電話の言い出しはこれであった。
宴会好きの彼女、同窓会は皆勤賞だ。
転んで両足を骨折した時も、松葉杖をついて参加。
文字通り、這ってでも行くタイプである。
3年ごとに必ず行くホテルの場所が、わからないはずはないのだ。
“一緒に行こう”と言えなくて、ナゾかけをされたと思えば感じ悪いけど
私は近年、彼女から老化を感じている。
身勝手に思えるのは、もしかしたら忘れっぽいからではないのか。
老化で本当に忘れていると思えば、正月から腹を立てることはない。
電話を受けた私は、ルリコに早乗りの計画を話し
ルリコは当然のように言った。
「じゃ、店の前へお願いね」
急な高飛車だって、老化現象の一つかも。
この場合、忘れたのは“モノ”ではなく“立場”。
店の前でさんざん待たせたあげく、車に乗り込んだルリコは
運転する同級生に
「ホテルへ行くには、こっちのほうが近いわ」
と、道を教える。
どうも、ホテルの場所がわからないと発言したのを忘れたらしい。
同窓会に続いて二次会までは無事終了し
割り勘の精算になった時、ルリコが私に言った。
「千円貸して」。
ランチをフンパツしたため、持ち合わせが足りなくなったのだ。
今度は、財布の事情を忘れていたらしい。
私はこころよく立て替えた。
千円は、それっきり。
その一部始終を見ていたのが、几帳面なアツコ。
あの千円はどうした、返してもらったかと、半年経った今でもうるさい。
「帰りに店まで送った時、正月から借金してごめんねって
ルリコは確かに言ったわ!
店に寄ったんなら、レジから返すこともできたはずよ!
何で返さないの?」
会うたびに言う。
「忘れてるんでしょ…1万円なら言うけど、面倒臭いもん」
「金額じゃないわよ!バカにしてるわよ!
たかが千円、されど千円よ!
同窓会の用事で、あれからルリコに何回も会ったのに
すっかり忘れてるじゃないの!
請求しなさいよ!
甘い顔したら、ダメよ!」
千円貸して怒られて、合った話じゃない。
そのアツコは数年前、信号待ちで前の車に追突した。
ごく軽い接触で、前の車は、ボロボロの古い軽トラだったそうだ。
謝ると、軽トラを運転していた初老の男が
「いいよ、いいよ…こんなボロなんだから」
と言ってくれ、それで終わるはずだった。
しかし、同乗していたアツコの父親が
「大丈夫、大丈夫」
と言ったため、話は振り出しに戻った。
「バカにするな!
大丈夫かどうか決めるのは、こっちじゃわい!」
運転手は怒り始め、“誠意”なるものを要求した。
「誠意って…どういった…」
こじれるようなら警察へ連絡しようと思いながら、アツコは恐る恐るたずねた。
「千円でも、二千円でも…気持ちだよ、気持ち!」
アツコが三千円出すと、運転手は千円札を一枚取って、走り去った。
「千円ですんで良かった…」
当時、アツコはそう言い、私は大笑いした。
千円といえば、数日前。
次男が私の前で、千円札をヒラヒラさせた。
「昨日の夜、親父が○○山で、女と手ぇつないでホタルを見てた。
今度のは、ちょっと若い」
「で、この千円は?」
「今朝、親父がオレにくれた。
子供の時は、これで黙ってやったことがたくさんあった。
でも今は、この金額じゃ通用しないから、チクる」
「ワハハ!」
夫は昔からこの季節になると、女を連れて
○○山へホタルを見に行くならわしである。
○○山は、隣の市へ行く近道。
真っ暗闇にホタルが飛び交う、ホタル見物の穴場だ。
次男は遊びに行った帰り、滅多に通ることのない寂しいその場所を
たまたま通りかかったのだった。
我が家にこういう偶然は、よくある。
「まだ子供だと思って、バカにしてるんだ。
オレはもう25だぞ。
口止め料は、諭吉のみ受け付ける」
千円の価値は、父子の間で大きな格差があったらしい。
同窓会はいつも、車で30分ほどの町にあるホテルで行われる。
4時からだったが、私は地元の子ばかり4人で午前中から出かけ
ランチにお茶、ショッピングを楽しんだ。
最初は気の合う竹馬の友3人で行くはずだったが
同級生のルリコが、出かける間際になって電話をかけてきたので加えた。
ルリコはこのブログに時々登場する、食堂の女将だ。
「ねえ、○○ホテルって、どこにあったっけ」
ルリコからの電話の言い出しはこれであった。
宴会好きの彼女、同窓会は皆勤賞だ。
転んで両足を骨折した時も、松葉杖をついて参加。
文字通り、這ってでも行くタイプである。
3年ごとに必ず行くホテルの場所が、わからないはずはないのだ。
“一緒に行こう”と言えなくて、ナゾかけをされたと思えば感じ悪いけど
私は近年、彼女から老化を感じている。
身勝手に思えるのは、もしかしたら忘れっぽいからではないのか。
老化で本当に忘れていると思えば、正月から腹を立てることはない。
電話を受けた私は、ルリコに早乗りの計画を話し
ルリコは当然のように言った。
「じゃ、店の前へお願いね」
急な高飛車だって、老化現象の一つかも。
この場合、忘れたのは“モノ”ではなく“立場”。
店の前でさんざん待たせたあげく、車に乗り込んだルリコは
運転する同級生に
「ホテルへ行くには、こっちのほうが近いわ」
と、道を教える。
どうも、ホテルの場所がわからないと発言したのを忘れたらしい。
同窓会に続いて二次会までは無事終了し
割り勘の精算になった時、ルリコが私に言った。
「千円貸して」。
ランチをフンパツしたため、持ち合わせが足りなくなったのだ。
今度は、財布の事情を忘れていたらしい。
私はこころよく立て替えた。
千円は、それっきり。
その一部始終を見ていたのが、几帳面なアツコ。
あの千円はどうした、返してもらったかと、半年経った今でもうるさい。
「帰りに店まで送った時、正月から借金してごめんねって
ルリコは確かに言ったわ!
店に寄ったんなら、レジから返すこともできたはずよ!
何で返さないの?」
会うたびに言う。
「忘れてるんでしょ…1万円なら言うけど、面倒臭いもん」
「金額じゃないわよ!バカにしてるわよ!
たかが千円、されど千円よ!
同窓会の用事で、あれからルリコに何回も会ったのに
すっかり忘れてるじゃないの!
請求しなさいよ!
甘い顔したら、ダメよ!」
千円貸して怒られて、合った話じゃない。
そのアツコは数年前、信号待ちで前の車に追突した。
ごく軽い接触で、前の車は、ボロボロの古い軽トラだったそうだ。
謝ると、軽トラを運転していた初老の男が
「いいよ、いいよ…こんなボロなんだから」
と言ってくれ、それで終わるはずだった。
しかし、同乗していたアツコの父親が
「大丈夫、大丈夫」
と言ったため、話は振り出しに戻った。
「バカにするな!
大丈夫かどうか決めるのは、こっちじゃわい!」
運転手は怒り始め、“誠意”なるものを要求した。
「誠意って…どういった…」
こじれるようなら警察へ連絡しようと思いながら、アツコは恐る恐るたずねた。
「千円でも、二千円でも…気持ちだよ、気持ち!」
アツコが三千円出すと、運転手は千円札を一枚取って、走り去った。
「千円ですんで良かった…」
当時、アツコはそう言い、私は大笑いした。
千円といえば、数日前。
次男が私の前で、千円札をヒラヒラさせた。
「昨日の夜、親父が○○山で、女と手ぇつないでホタルを見てた。
今度のは、ちょっと若い」
「で、この千円は?」
「今朝、親父がオレにくれた。
子供の時は、これで黙ってやったことがたくさんあった。
でも今は、この金額じゃ通用しないから、チクる」
「ワハハ!」
夫は昔からこの季節になると、女を連れて
○○山へホタルを見に行くならわしである。
○○山は、隣の市へ行く近道。
真っ暗闇にホタルが飛び交う、ホタル見物の穴場だ。
次男は遊びに行った帰り、滅多に通ることのない寂しいその場所を
たまたま通りかかったのだった。
我が家にこういう偶然は、よくある。
「まだ子供だと思って、バカにしてるんだ。
オレはもう25だぞ。
口止め料は、諭吉のみ受け付ける」
千円の価値は、父子の間で大きな格差があったらしい。