殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

バレーボール・亀山夫人の青春

2009年03月31日 11時08分20秒 | みりこんぐらし
昨日、バレーボール人口が思いのほか多い(2名)のに気を良くし

続編をつづることにした。





亀山夫人(仮名)。

ポジション…不動のセンターレフト。

創部以来、このポジションを守り続けて何十年。

来たタマは絶対に取るのが信条だ。

私の後方に鎮座する、頼もしいチームメイトである。






守備範囲…手が届く範囲。

したがって「不動」。







試合の日、亀山夫人の足はピカピカ光っている。

ストッキングをはくからだ。

ストッキングの上に靴下をはくと

踏ん張りがきかず、靴の中ですべって動けない。


しかし、そんなことよりも

美しい足で試合に出るほうが重要らしい。

よって、やはり「不動」。







ブロックカバー率ゼロの記録は更新され続けて久しい。

しかし、この大記録の前に

亀山夫人はおごり高ぶるそぶりをみじんも見せない。

そしてブロックをはずした私を叱咤激励する。


「あんたがちゃんとブロックしないから

 私が失敗したと思われるじゃないのっ!

 人前で恥をかかせて!」


亀山夫人にとって、試合のコートは

まさに女優の舞台なのだ。



私がアタッカーよりもブロッカーとして成長したのは

ひとえに亀山夫人のおかげである。
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バレーボール・山田屋の誘惑

2009年03月30日 09時33分45秒 | みりこんぐらし


ママさんバレーをやっていた時期がある。

チーム名…一丁目バレークラブ(仮名)。

一丁目の住人ではないが

若手がいないということでスカウトされた。







初めての練習日。

体育館へ入ってボーゼン。








あ…あれはもしや…

チョウチンブルマー?







練習が始まり、さらにガクゼン。









こ…これはもしや…








あれか~~!!








「あなたのもあるわよ。700円ね!」

そのおかた…一丁目バレークラブのドン

山田夫人(仮名)は、問題の渦巻きサポーターを差し出す。

ちりちりパーマに、なぜか後ろ髪だけをイカのように垂らした

一丁目で一番イケてるヘアスタイルが印象的だ。







山田夫人のお宅は一丁目集落に唯一ある商店。

その名も「よろず山田屋」

一丁目の住人であるメンバーは

山田屋で練習着を揃えるのがならわしであった。


地元の店を大切にする

古き良き日本の心という見方もあるが

スピーカーと言われる山田夫人の機嫌をそこねると

後が怖いという雰囲気モリモリ。

よって、山田屋に残存する昭和の在庫を

処理する身の上となるらしい。







若手が続かないのは、これが原因だったのかっ!

逃亡はできない。

監督は夫の親戚なのだ。


「入部祝い」と称して

監督が現代的?なサポーターをプレゼントしてくれた意味がわかった。


私は死にものぐるいで練習に励んだ。

強くなって、自由を手に入れるのだっ!

スポーツ未経験の私が

早晩、エースアタッカーの地位を確立できたのは

ひとえに山田屋のおかげといえよう。
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運命ってやつは…

2009年03月28日 01時15分39秒 | みりこんぐらし
50年ほど前の夏…

小さな町に3人の男の子が生まれました。


年が同じ

家も近所

3軒とも、商売を営む家でした。

しっかり者のお姉ちゃんの次に生まれた

待望の男の子というのも同じです。

そして、偶然にも3人は

「ひろし(仮名)」という

字までまったく同じ名前がつけられたのです。








3人は、同じ町内会の同じ子供会で

同じ幼稚園や学校に通うことになりました。

ぼんやりおっとり、塩がきいてないところもそっくりで

いつしかこの3人は「3バカひろし」と呼ばれるようになりました。











3人は大人になり、それぞれ家の仕事をするようになりました。

小売り業の息子…ひろし。

土建業の息子…ひろし。

飲食業の息子…ひろし。


小売りひろし、土建ひろし、飲食ひろしは

“自分なりに”“出来る範囲”で仕事をしました。











やがて、3人はお嫁さんをもらいました。

お見合いで、いいトコのお嬢さんをもらった小売りひろし。

恋愛で、若いうちに結婚へとなだれ込んだ土建ひろし。

奥さんが土建ひろしを狙って失敗し

乗り換えられた飲食ひろし。


小売りひろしの奥さんは、商売は未経験でしたが

愛する夫のために喜んで手伝いました。


土建ひろしの奥さんは、夫婦で働くのが夢でしたが

家族の反対で断念しました。


飲食ひろしの奥さんは「ママ」と呼ばれるのが夢だったので

自分から店に出ました。










そのうち、不景気の風が平等に吹きました。












飲食ひろしは、客単価が小さい商売ということもあり

3人の中では一番の働き者でしたが

不況のあおりを受け、店は倒産しました。


ともに寝食を惜しんで働いていた奥さんとは

以前からお金のことでいさかいが絶えず

夫婦はそれを機に離婚しました。

飲食ひろしは町を出て行き、今は消息がわかりません。











家族を大切にし、一番心やさしい小売りひろしは

意外にも商売上手だった奥さんの頑張りもあって

店が大きく傾くことはありませんでした。


子供の成長を楽しみに

夫婦仲良く仕事に励んでいましたが

病いに倒れ、亡くなりました。










残った土建ひろし。

一緒にいても何のなぐさめにもならない奥さんと暮らしながら

今にも倒れそうな会社にしがみついています。

人生とは、そういうものかもしれません。

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懺悔の値打ちもない

2009年03月26日 23時38分09秒 | みりこんぐらし
次男が言う。

「昨日、母さんの知り合いに会った。電話ちょうだいって」

      「誰?」

「知らん。しゃべった後で聞けないもん」


この男はいつもそうだ。

人の知り合いと親しげにさんざんしゃべくり回したあげく

名前は聞かない。

      「なんか特徴とか無いの?」

 


「う~ん…カバみたいなご婦人…?」 









「カバ!」

       






あまりに的を得ていたので、笑いまくる。









翌日、ばったりそのご婦人に会った。

「あら~!おととい息子さんと楽しく話したのよ~!」

       「そうですってね」

「名乗るのを忘れてたんだけど

 私のこと、なんて言ってた?」

       「…ほほほ」


大笑いしたのをものすごく反省した。
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タマゴ道

2009年03月24日 13時07分39秒 | みりこんぐらし
タマゴ道(どう)…それは、けわしい道。


掟その1…タマゴは、冷蔵庫にいつもずらりと並んでいなければならない。

掟その2…タマゴは、毎食登場しなければならない。

掟その3…タマゴは、大切に扱わなければならない。



「ヘビが取り憑いてるんじゃないの?」

我々の陰口にもめげず

夫は一人、この道を歩み続ける。




            …最近の話…




「グシャ…」

次男の持ったタマゴが、塀に接触。









それを見た夫

「なにやっとんじゃ~~!!!」









次男…生まれて初めて父親に怒られる。









タマゴ道は厳しい。

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埋める人

2009年03月22日 22時03分33秒 | みりこんぐらし


        昔、病気になった。








つい、つぶやく。

       「あ~あ…死んじゃおうかな~」









         「埋めてあげる…」

…ぼくは、死んだ虫や金魚を埋めるのが、とてもうまいよ…







ヤツは燃え、スコップ、カマボコ板、マジックなどのセットを持って来て

枕元でしばらく待っていた。

あやうく埋められるところだった。

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特派員が行く!

2009年03月20日 18時28分17秒 | みりこん童話のやかた
「あ~、あそこのお嬢さん?

 美人って噂は聞くけど

 見たことないのよ~。

 噂は夫婦が流してるらしいわ。(近所の主婦)」



「月夜の晩に、よく縁側で泣いてるよ。

 オレは美人だと思うね。

 暗くてよくわからないけどさ。(裏のご主人)」

 

「おじいさんがよその女に生ませたらしいわ。

 それを竹ヤブで見つけたとか言って

 連れて帰ったそうよ。

 おばあさんも人がいいから信じちゃって…。

 竹から生まれるのはタケノコだけよ。(裏の奥さん)」



「困るのよね~。

 男性が毎日たくさん押しかけるでしょう。

 ゴミとか騒音とかね~。 

 そりゃ、若い娘にいいおべべ着せりゃ

 誰だって綺麗に見えるわよ。

 私だってそこそこになると思うわ。(隣の奥さん)」



「思わせぶりに、髪の毛や着物のスソをチラッと見せるんだな。

 あれはじいさんのアイデアらしいぜ。

 男はチラ…がいいんだよ、チラ…が。(隣のご主人)」



「男の貢ぎ物で食ってるらしいよ。

 玉の輿を狙ってるみたいだけど

 あんまり欲張るのは良くないねぇ。(向かいのおばあさん)」



「最近、月から来たとか言ってるよねぇ。

 だんだん言うことが大きくなってるよ。

 竹ヤブから…なんて言ってた頃のほうが

 まだかわいげがあったね。 

 それもまぁ、竹が光ってるからって、スパッと切るか?ふつう…

 って感じだけどさ。(向かいの息子)」   

  
         

           以上、現場からお送りしました。
  
  
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音楽教室

2009年03月19日 11時31分36秒 | みりこん昭和話
♪小鳥がね お窓でね

♪お首をふりふり聞いてるよ

♪一緒にね 楽しいね

♪きれいな声だと聞いてるよ

♪ヤ○ハ ヤ○ハの音楽教室…



40年以上も前の話だ。

その日は、初めての発表会に向けて

受け持つ楽器の発表がある。

4才の私は、エレクトーンを狙ってひそかに燃えていた。


うちにはピアノしか無かったので

あの軽く触れるだけで響き渡る

震えるような音色はあこがれなのだ。


シンバル、タイコ、タンバリン…先生が次々に名前を呼ぶ。

カスタネット、ハーモニカ…

おお、どうか呼ばれませんように。


私の野望はただひとつ。

あの木目も神々しいエレクトーン!


そしていよいよ…。

ドキドキ。


「エレクトーンは…ノブちゃん」



…がっくり。

しっかり者のライバル、ノブちゃんはうれしそう。

お母さんも満足げに、ノブちゃんの背中をなでている。


エレクトーンは一人だけなのだ。

夢…破れたり。


「次に、エレクトーンの…」

なに?もう一人あるのか?

祈るような思いで、望みをつなぐ。


「エレクトーンの足…」


エレクトーンの下にくっついている

重低音を出す大きな鍵盤だ。


周りの親たちから、かすかな失笑がもれる。

察するに、どうも恥ずかしい役どころらしい。



「エレクトーンの足は…みりこんちゃん」


「うっ…!」


今度は子供たちがクスクスと失笑。

「しっ…!」

それをたしなめる親たちのヒソヒソ声が

さらに私をうちのめす。


私もボー然だが、母チーコもガク然。

パートがどうのというより

「足」と言われて、すでに笑いを取っているのが問題だった。


人が笑うものを引き受けねばならない

このクツジョク!


今はそうでもないが

昭和中期のいにしえは

この「笑われる」という現象が

人としてもっとも恥ずかしいことだったのだ。

みりこん、4才にして人生初の絶望を知る。


我々母子の尋常ならぬ形相を見て

あわてた先生が、とり急ぎフォロー。


「あの…この曲はベースの音がないと、映えないんです…

 とても大事な楽器なんです…

 ノブちゃんの足が届かないので…あの…」 


若くてかわいらしい先生は、必死に弁解するが

すればするほどドツボにはまって上滑り。

チーコはおとなしい女なので

ええ、ええ…とうなづいて微笑んだ。



翌日から、チーコは変貌した。

音楽教室に行き

発表会までエレクトーンの足を練習させてほしい…と頼み込む。

本体を買う気は、さらさらないようだ。


連日の特訓につぐ特訓。

チーコと私は、夕方になると黙々と通い

ブースカ、ブースカ、ひたすらキーを踏む。


そしていよいよ明日は発表会という日…

幼稚園から帰ると、デパートの小さな包みがあった。


チーコははるばる

汽車(電車ではない)で2時間かかる都会へ行き

私のためにレースふりふりの靴下を買っていた。

人の足となる私の足のためだと言う。

同じやるなら、やれるだけのことをやるのだと言う。


くどいほどレースのついた

「都会」の香り漂う靴下に喜ぶ私をながめ

チーコは涙ぐんだ。

そして以後、この件に触れることは一切なかった。
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お菓子な家・4

2009年03月18日 09時10分34秒 | みりこん童話のやかた
1年が経ちました。

ヤンデルとグレテルは、今日も忙しく働いています。


ヤンデルは預かった子供たちの世話でてんてこまい。

電話はひっきりなしにかかり

グレテルが応対しています。


「はいはい、大丈夫ですよ。

 ここは悪い子を良い子にする家ではありません。

 悪い子を悪いことができないようにする所です。

 だから確実なんですよ。 

 心なんてころころ変わるものより…」


どこかで聞いたような話です。

二人は、おばあさんの後を引き継いで

このお菓子で出来た家を切り盛りしているのでした。


言葉たくみにおばあさんに取り入り

時間をかけて、この家の経営のノウハウを

聞き出していました。


そして用がなくなったおばあさんを

火のついたパン焼き釜に閉じ込めました。


いえ、二人は人聞きの悪いことを言うな…と

怒るでしょう。


グレテルは、パン焼き釜に火をつけただけ。

ヤンデルは、扉を閉めただけなのです。

そしておばあさんは、突然いなくなっただけなのですから。


「ヤンデル、やっぱり菓子パンと炭酸飲料が

 効率いいねぇ」


「スナック菓子とカップ麺もよく太るぞ。

 アイスクリームも注文しとけよ」


「いちいち作るより

 よっぽど楽だよ」



ちょっと残念なのは

おばあさんの持っていた不思議なつえが

おばあさんと一緒に「消えた」ことです。


おばあさんは若い頃

手品師として舞台に立っていたそうです。


力の弱い老人が一人で経営していくには

いろいろと工夫が必要だったのでしょう。

抵抗できない気持ちにさせるために

あのつえは、小道具としてまことに良い役割りをはたしていました。


しかし、つえが無くても

若い兄妹二人で知恵と力を合わせれば 

たいていのことはできます。


そのうち両親も呼んでやろう…などと話しながら

二人は青少年の更正のために奮闘するのでした。

   
                  完
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お菓子な家・3

2009年03月16日 11時06分12秒 | みりこん童話のやかた
ヤンデルもグレテルも

彼らに初めて会ったような気がしませんでした。


「ああっ!」

二人は思い出しました。

暴走集団「那智’S」のヘッドには

代々腕に卍のタトゥーを入れるしきたりがあるのを…。


卍は太って伸びてしまい、角が丸くなっているけれども

あれはまぎれもなく

彗星のごとく現われ、風のように消えた伝説のヘッド

その名もオヤマノタイ・ショウ!


「ショウ様!おいたわしや!」

ヤンデルは思わず口走りました。


グレテルも、女の子のほうに見覚えがありました。

太って人相が変わってしまっていますが

いまどきなかなかお目にかかれない金髪のなごりと眼つき…

ひところ町を騒がせ、なぜか忽然と姿を消した

レディースの総長「鬼姫」にちがいありません。


その名のとおり、泣く子もだまる女総長が

「これじゃ、おたふくじゃん…」


いなくなったと思っていたら、こんなところに入れられていたのか…。

二人はがく然としました。


ひっひっひ…

おばあさんは、手をポンポン、と叩いて言いました。

「さあ、あんたたちもお部屋に行くんだよ」


椅子にくっついたまま

台車に乗せられて連れて行かれたのは

ホテルのような個室でした。


「テレビもあるし、ゲームもマンガもたくさん。

 部屋の中で、ただ遊んでいればいい。 

 ここは天国さ」


それを全部食べ終わったら、椅子と体を離してあげよう…

おばあさんはそう言うと

外からガチャリと鍵をかけました。


テーブルの上には、今度はお菓子ではなく

山ほどのごちそうと甘い飲み物が用意されています。

ヤンデルもグレテルも

自由になりたい一心で一生懸命食べ続けました。


やっと食べ終わると

おばあさんが来て椅子と体を離してくれました。

おばあさんが手にしているツエで

椅子をポンとたたくと

不思議なことにお尻に張り付いていた椅子が離れるのです。


しかし、体が自由になっても

おなかがいっぱいで動けません。

ふたりはそのまま、柔らかいベッドで

眠ってしまいました。



「どうだい?食べてるかい?」

今日もおばあさんが、ようすを見に来ます。


「えらい、えらい。たくさん食べて、大きくなるんだよ」

おばあさんに優しくそう言われ

ヤンデルとグレテルは、とても嬉しそうです。

二人はどんどん太っていきました。


素直でかわいい二人は、おばあさんのお気に入りです。

近頃では、おばあさんもいろいろな話を

してくれるようになりました。


「太ったら、動くのがおっくうで悪さもできないだろ。

 逃げ足も遅いし、何をしてもユーモラスだし。

 心なんてコロコロ変わる見えないものをどうにかするより

 わかりやすくていいってもんだ」

おばあさんは、ひっひっひ…と笑うのでした。



                  続く






  
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お菓子な家・2

2009年03月15日 15時52分36秒 | みりこん童話のやかた
お父さんとお母さん

そしてヤンデルとグレテルの4人は

山の中にぽつりと建っている

一軒の派手な家に到着しました。


「ここだ!」

お父さんが言いました。

「すてきねぇ…なんだか甘いにおいがしてくるわ…」

お母さんもうっとりしています。

それもそのはず

家は、みんなお菓子でできていたのです。


一人のおばあさんが、家から出てきました。

「ようこそ、ようこそ」

やさしそうなおばあさんは

4人を案内して家の中に招き入れました。


中はいちだんと豪華。

部屋も全部、キャンディやチョコレートやクッキーで

できているのです。


ヤンデルとグレテルは、さすがにびっくりして

ぼんやりと椅子に座っていました。


「さあさあ、ぼっちゃんにおじょうちゃん

 好きなだけ召し上がれ」

おばあさんは、バウムクーヘンのテーブルに

ケーキやアイスクリームを山ほど並べました。


「うわぁ~!」

二人は喜びの声…ではなく

恐怖の叫び声をあげました。

二人は辛党でした。

甘い物が苦手だったのです。


「こんなの、食べられるわけないじゃん!」

「アタリメ持ってこいや!」



こんなとこ連れて来やがって…

ただじゃおかないからな…

お父さんとお母さんに

文句を言ってやろうと思って

あたりをみまわしますが

お父さんとお母さんは、いなくなっていました。


「帰る!」

二人は怒って立ち上がろうとしましたが

アメでできた椅子がお尻にくっついて

動けません。



「ひっひっひ…」

おばあさんが歯のない口で笑いました。

「逃げられないよ。

 あんたたちがここから出られるのは

 ずっと先…いい子になってからさ」


さあ、お友達を紹介しよう…

おばあさんは言いました。

「みんな、出ておいで」


のろのろと出て来たのは、数人の肥満児でした。

それぞれ手にお菓子を持って

おいしそうに食べています。


「この子たちは、もうすぐ卒業さ。

 ずいぶんいい子になったからね」


「どこが!」

ヤンデルとグレテルは一緒に叫びました。

                  

                 続く
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お菓子な家・1

2009年03月14日 22時56分52秒 | みりこん童話のやかた
あるところに「ヤンデル」と「グレテル」という

兄妹がおりました。


二人はあどけない外見とはうらはらに

性格も悪いが行いも悪く、お父さんもお母さんも困っていました。

名前がいけなかったかも…と後悔しましたが

あとのまつりです。


いろいろな方法を試して

二人をなんとかまともにしようと試みましたが

どうしてもだめでした。


困り果てたお父さんとお母さんは

「良い施設がある」と人づてに聞き

二人をそこへ入れようと考えました。


「家族旅行に行こう」とだまし

一家は出かけました。


二人が「かったり~」とブツブツ言いながらも

ついて来たのは

目的地に着いたらお小遣いをたくさんあげると

言われたからです。

             続く
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夜話・小話・毒話

2009年03月11日 11時39分27秒 | みりこん童話のやかた
子供たちがかなり大きくなるまで

寝る前にお話をしてやるのが日課だった。


昔話のレパートリーなど、すぐに尽きてしまう。

しかもやつらは毎回新しいのでないと納得しない。

そこで創作となる。


しかし、乏しい想像力で新しいお話を作るとなると

たいへんなのだ。

そこで考え出したのが「シリーズもの」。

一度考えつくと、あとは適当にごまかせるので半月はもつ。


チ○コカバ太郎…

   生まれつき大事なところに円錐形のカバーがしてある男の子が主人公。

   自慢の3段切り替えつきカバーを見せびらかしながら

   世界中を回る冒険もの。


アヒル隊長…

   臆病者なのに強気を装うアヒル隊長が、卑怯な手で自分はのがれ

   若い隊員を次々と作戦の犠牲にする戦争もの。

など…。


それも尽きると「合体もの」となる。


舌切り眠り姫…

   百年に一度目覚めては城を抜け出し

   通りすがりの人をたぶらかして舌を切る猟奇サスペンス。


浦島すずめ…

   バー・竜宮城のホステスに入れあげ

   経営する名旅館「雀のお宿」を手放してしまったすずめの話。


しらゆきずきん…

   七人のコビトにだまされ、実の祖母を殺害してしまった少女しらゆきが

   オオカミとともに開発した毒りんごで復讐を遂げる人情悲話。    


こぶとり金太郎…

   メスのかわりにマサカリを使う美容整形外科医金太郎が

   熊との相撲で利き腕を骨折。

   失意から立ち上がり、マッチョな鬼を利用して   

   ホストクラブ「きんとき」を全国展開するサクセスストーリー。   
   

などなど…。



その中の「モモデレラ」をご紹介しよう。


貧乏なモモデレラは

美貌を武器にぜひとも金儲けをしたいと考えました。

知り合いの犬、猿、キジに

「きび団子をあげるから、旗を買ってよ」

と持ちかけて金を出させ、日本一と書いた旗を入手。


犬、猿、キジはきび団子を要求しましたが

モモデレラは

「人を集めて来てくれたら、もっと大きいのをあげる」

と言います。

しかも、集めた人数によって大きさが変わると言うのです。


犬、猿、キジは、それぞれ人を集め始めました。

犬は、一軒一軒回って頭を下げて歩きました。

猿はチラシを配りました。

キジはまず悩み相談所を作り「行くと人生が変わる」と説明しました。


たくさんの人がモモデレラのところへ集まって来ました。

ここで「日本一」の旗が効果を上げます。

「これは、神様が私だけにくださった旗です。

 日本一の教祖と認定された証拠なのです」


そして、自分のように美しさと幸せを手に入れたかったら

お守りを買うようにとすすめました。


そのお守りは、人集めの合間に

犬、猿、キジがせっせと夜なべして作ったものです。

人々は、美しいモモデレラを見て心を奪われ

あらそってお守りを買い求めました。


犬、猿、キジは、今度こそきび団子がもらえると期待しましたが

モモデレラは

「今もらえる小さい団子と、もう少し先でもらえるもっと大きい団子

 どっちがいい?」

と言います。


人集めの人数で、キジに負けていた犬と猿は

キジより小さい団子をもらうのはシャクだったので

「もっと先!」

と言いました。

キジも、自分だけ今もらうのは、なんだかはしたないような気がして

「もっと先!」

と言いました。 

モモデレラは

「じゃあ、次は、寄付の金額で大きさを決めます」


犬は、人数が多ければ寄付も多いと考え

また新しいところを一軒一軒回りました。

猿は、今まで集めた人にもっと寄付してくれるよう、頼んで歩きました。

キジは、大富豪を一人連れて行けば金額が上がると思いました…


こうしてどこまでも続く話なのだ。

長持ちはしたものの、単調なので

子供たちにはものすご~く不評であった。            
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はじしらず

2009年03月10日 13時45分05秒 | みりこんぐらし
私は常に冷静沈着でありたいと思っている。

つまらぬことに心乱されることなく

いつも平常心でいたいと願う。

よって人の失敗にも寛大に接したいと考える。


ありたい、願う、考える…。

…すでに危険な香りが漂っている。


子供の頃、その思いに強くかられるきっかけとなった事件があった。

よそさまのブログのコメントに書いたことがあるが

小学1年の6月、初めての父親参観日が発端だ。

日頃忙しい父が来てくれるというので、嬉しくて舞い上がっていた。


昔の父親の多くは照れ屋なのか

授業が終わったらみんな後ろ向きになって、掲示板の絵を眺めている。


私はそっと後ろから近づき、父の手をつかんで振り回した。

反応が無いので、今度は指を口に入れてさんざんなめ回した。

それでも無反応なので、その手を鼻の穴に…。


手の主は、やっと振り返って言った。

「お父ちゃんじゃないよ…」


           ガ~ン!


ずらりと並んでいる手を一本間違えたのだ。

おぎゃあと生まれて以来、最初に「恥」という感情を認識。

当の父は、隣で笑い転げてやんの。

 
       おとっつぁん…そりゃ~ねえべよ…


「恥」という感情は、長い間私を支配した。

今思えばどうってことない出来事だけど

あの瞬間の絶望と孤独は、中学生になるまで私を苦しめ続けた。


失敗や間違い…それ自体は誰にでも起こりうる単なる現象にすぎない。

しかし、それをいったん恥コーナーに分類してしまうと

その記憶は長く心をいたぶりさいなむ

忌まわしい過去となる。


だが、自分にとっては強烈な過去?のおかげで

少々のことは恥と思わなくなったのも確かである。

苦しみ抜いた私は、いつしかそんな自分のために

恥コーナーを閉鎖したのかもしれない。


大人になり、たぶん私は恥ずかしいと形容されることを

たくさんしてきたと思う。

ほとんど記憶に無い。


しかし、自分にとってはまったく恥と思わないことが

人には恥ずかしかったり面白かったりするものだ。

義母を見ていてつくづくそう思う。

一緒に出歩くとかなり恥ずかしい場面に直面することが多い。


スーパーでバナナが売られているとする。

「あ、バナナ!」

義母は必ず言い、買っても買わなくても駆け寄る。

そしてひときわ大きな声で続けるのだ。

「台湾旅行で食べた本場の台湾バナナ、おいしかったわ~!」



海外旅行経験者であることをそれとな~く周囲に告知。

毎回これを欠かしたことはない。

昔はこの手で「すごい」などと言われ

結構いい気分になったこともあるらしい。

だが、海外旅行なんて珍しくもない今では

誰も何とも言ってくれやしないのだ。


義母の頭は40年前のままである。

羽振りのよかった頃、一度だけ訪れたのを

今生の思い出として抱き続けて幾年月。


同じパターンでパイナップル。

今度はハワイ。

これもプロペラ機時代のことだ。

この勢いならゼロ戦にも乗っていそうだ。


しかし、ハワイはとくに思い入れが強いらしく

「今度行く」なんて人とかかわった日にゃあ、おおごとである。


「ハワイへ着いたら、すぐムームーを買いなさいね。

 あっちでは『デナー』の時、ムームーを着るのがエチケットよ」

寛大になりたい私だが、ものすごく恥ずかしい。


人のことを恥ずかしい恥ずかしいと言っておきながら

私も先日、これはたぶん恥ずかしいことなのでは…?

という出来事を体験した。


書留が届いた時、印鑑を押したのだが

どうしても付かない。

ムキになって握りしめ、ぐいぐいと押す。


「あの~…」

配達員は申し訳なさそうに言う。

「これ、ハンコじゃなくてボクの指です…」


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伝説の女

2009年03月09日 17時06分58秒 | みりこんぐらし
運転免許は、結婚してから取った。

学科を終え、初めて車での教習が始まる日

教官が開口一番こう言った。

「途中で車を乗り捨てないでね」

           意味わからん!


「お姉さんは路上教習の時、脱走したんだよ」

夫の姉、カンジワ・ルイーゼのことだった。

名字が同じなので、私はその妹だと思われたのだ。


一時停止を無視したので注意したところへ

ちょうど買い物帰りの母親が通りかかったという。

ルイーゼは教習車から飛び出し

母親にすがって泣いたあげくそのまま帰宅。

以来私が教習所へ通うようになる8年の間、その伝説は語り継がれていた。


ルイーゼは本当に面白くていいヤツだ。

友達が一人もおらず、結婚式で格好がつかないからと

一回だけしゃべったことがあるという女の同級生を二人呼んだ。

ついでに言うと、披露宴のキャンドルサービスで頭が燃えた。


「みんな、聞いて」

一人息子が幼稚園や学校に通っていた頃は

毎年4月に「ご宣言の儀」がある。

「今年は緑でいく!」

「今年は着物!」

参観日に着ていく衣装のコンセプトをご発表。

義母と私は、コウベをたれてそれをうかがう。


几帳面なので初志貫徹

本当にそのとおり、子供が高校を卒業するまでやり通した。

ただ気の毒なのは、その見てくれを賞賛する人が

母親以外誰もいないこと。


先日、両親の家に来客があった。

取引先の跡取り息子だ。

ちょうど私も居たので、コーヒーの用意をする。

ルイーゼは、こういう準備は嫌いなのだ。


持って行きたがるだろうな~…と思いながら

私も意地が悪いもんで、わざと持って行くふりをする。

案の定、取り急ぎ着替えと化粧直しをすませたルイーゼが立ちはだかる。


「私は大学時代に喫茶店でアルバイトしたことがあるの!」

         2日でクビになったくせに…(夫談)

「大切なお客様には、慣れた者が失礼のないようにやらないとね!」


義母も賛同する。

「そうよ。仕事の関係者だからね。顔を見せておくのも大事よ」


フン!とルイーゼは盆をひったくり、いそいそと客間を目指す。

来客は若いイケメン…ルイーゼの好みなのだ。


ガチャン!!

大きな音がして、ウワッ!っという客の叫び声が…。


ルイーゼがものすごい勢いでキッチンに戻って来た。

「うぅぅ…」

床に座り込み、うなだれるルイーゼ。


同時に義父の怒鳴り声が聞こえる。

「早く!水!フキン!」

私はフキンをつかんで走る。

ルイーゼはコーヒーカップを

客のヒザの上でひっくり返したのだ。


冷やしたり拭いたり、ひと騒ぎ済んで戻ってみると

ルイーゼは義母になぐさめられてすでに立ち直り、新聞を読んでいた。



ルイーゼが現在夢中なのは、某団体主催の「女性経営者クラブ(仮名)」。

商売人の奥さんや娘さんで結成された会だ。

建て前は、会員同士の交流によって事業繁栄を図る集まりである。

選民意識と優越感をくすぐり、やれ視察旅行だ、やれ研修会だと

そのたびに会費をゲットしたい主催側と

不況にあえぐ日常から現実逃避して、ちやほやされたい会員の息ぴったし。


お客がたくさん来ないと儲からない商売なら必要かもしれないが

うちのような稼業ではまったく意味がない。

いくら交流したって「じゃ、高速道路ひとつください」

「空港でもいただいときましょうか」ということにはならないのだ。


しかしながら御年53才にして

生まれて初めて同性の他人と交際を始めたルイーゼ。

ただいま青春街道ばく進中。


今年、ルイーゼは副会長の座をゲット。

やる人がいないという噂もあるが、ここは身内…

ひとえに彼女の人望のたまもの…ということにしておこうではないか。


義母は大喜びだ。

出来れば会長にしてやりたいと言う。

「でも、居住地が市外なのと、代表取締役じゃないから

 会長はできない規則なの。

 昔から人に好かれるし、なんでも出来るウツワの子なのに…」

と残念そう。

父親と弟の暗殺も近いと思われる。

楽しみだ。
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