殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

春爛漫・1

2023年03月31日 15時23分18秒 | みりこん流

『庭にある、しだれない枝垂れ桜』


春は爛漫、殿は乱心。

今回の記事は、久々の乱心モノじゃけん。

記事にするのは久々だけど、それらしきことはちょこちょこあったわよ。

色情の悪癖は、一生治らないのよ。

病人と生活してるようなもんだから、木の芽どきになると持病がね。


夫も65才、最後のひと花やふた花は咲かせたい年頃さ。

絶対やらかすと思ってたわ。

だからブログのタイトル、変えてないでしょ。

シロウトだったら途中で変えるわよ。

姑日記とか、老夫婦の穏やかな日々とかさ。

伊達にこんなタイトル、付けてるわけじゃないけんね。


とはいうものの、何だかホッとしてるのは確か。

いい人のまま死なれると、こっちが辛いじゃんか(自分の方が長生きする気でいる)。

あ、カラ元気や負け惜しみじゃないの。

相手の女の不倫体験なんて、たかが1回か2回、多くて数回程度だろうけど

こっちは百戦錬磨、そこまでスレたということよ。

まあ連戦で鍛えられたというより、介護と姑仕えの方が

亭主の浮気なんかより断然きつくて、今さらどうでもいいというのが正解かも。


夫も親に振り回されて、はや12年。

1月の交通事故以来、ワガママ放題の母親と毎日一緒に病院通いだし

ガラスのハートは限界だったと思う。

彼を救うのは、恋しか無さそう。


義父もそうだった。

年取って病気で動けなくなるまで、女性関係は細々と続いてたわ。

義父の場合、商売が左前になって、膨らむ一方の借金を忘れるためだけど。


年寄りになってもまだ女がいるんかい…

そう思うだろうけど、これは体質だからどうしようもない。

アレらが求めるのは性的関係じゃなく、脳内麻薬。

恋をするとウキウキワクワクするのは、脳内麻薬のせい。

あれが出てる間は、一時的に恐怖や苦しみが消える。

その一瞬が欲しいのよ。


それには奥さんじゃダメ。

よその人じゃなければ、脳内麻薬は出ない。

万引きとか、こっそり悪いことをしたらドキドキするのと同じだと思うけど

この背徳心が、脳内麻薬の噴出量を高めるみたいよ。


今、実際に悩んでいたり、過去の恨みが忘れられずに苦しむ方はいらっしゃると思う。

そんな方々や、これから経験するかもしれない方々に向けて

何かの参考になればと思い、テキスト形式にしてみました。

さあ、張り切って行くわよ!



『伏線』

後で思い出すと、必ず伏線はあるもの。

これは気づいても気づかなくても、どうでもいい。

うちの夫は社会経験が少なく、一般常識に疎い所があるため

わかりやすいだけである。


今回の例だと、最初はゴールデンウィークの計画。

まだ3月の半ばだというのに、夫の頭は早くも5月に飛んでいた。

その内容は「広田や同級生と車で、カズヨシの納骨をしに京都へ行く」というもの。

広田とは夫の同級生の僧侶で、夫はいつも彼のお寺の行事を手伝っている。

一方、カズヨシとは1月に亡くなった同級生。

そしてカズヨシ君は、広田君のお寺の檀家である。

つまり僧侶の広田君はお寺の慣習にのっとり

カズヨシ君の遺骨の一部を京都の本山へ納めに行くそうだ。


ここでピンとこなければ、熟練者とは言えんよ。

分骨した遺骨を本山へ納めに行く…この行為自体は怪しげなものではない。

禅宗、真宗など、様々な宗派で行われていることだ。

宗派によってやり方が違うと言われればそれまでだが

いくら同級生でも僧侶が自ら京都へ持ち込むのは親切過ぎる。


京都くんだりまで行く交通費は、途中の食事代は

宿泊費その他の必要経費は誰が持つのだ。

寺か、それとも遺族か。

檀家が減って同級生に手伝ってもらうしかない貧乏寺が

自腹を切って行くはずもなく、遺族がスポンサーというのも不自然極まりない。


それに本山への分骨は家族の手で運ばれ、納められるのが一般的だ。

そして家族は納骨が終わると、京都を観光して帰途につく。

私は身内の分骨で京都へ行ったことがあるが

夫の一族は死人に無頓着なので、彼は知らないまま

寺で聞きかじった分骨云々を悪用したと思われる。


さらに私はカズヨシ君の奥さんを知っていた。

旦那の分骨をお寺に任せるような人物ではない。

しっかりしていて旅行好きなので、身内をゾロゾロ引き連れ

観光がてら絶対に自分で行く。


しかも夫が運転手だなんて、命知らずにもほどがある。

加齢で目の衰えた夫に、京都まで行く実力は無い。


「怪しい」が複数重なると、ビンゴ。

これは以前から私が主張している事柄だ。

つまり夫は、ゴールデンウィークに車で一泊旅行がしたい。

この願望を満たすため、納骨と運転の言い訳が必要になったらしい。

友だちのための仏事と言えば、私が奨励するのを知っており

2日間、夫の車が家から消えても、運転手として皆を乗せて行ったことにすれば

何ら違和感を持たれないと踏んだのだろう。


誰とどこへ行こうと、好きにすればいい。

しかし、この程度の嘘で騙せると思われているのは気に入らん。

少しは闇バイトを見習うがいい。

ともあれ「広田や同級生と車で、カズヨシの納骨をしに京都へ行く」 

この一行を聞いた一瞬で、ここまで察知しなければ熟練者とは言えまいよ。



さて伏線は、もう一つあった。

納骨発言と同時期の今月半ば 

夫は事務員のトトロ35才、推定体重100キロ超をついに辞めさせたのだ。


仕事をほとんどしない彼女を雇い続けるのは、そろそろ限界ではあった。

彼女を紹介したのは夫の友だちであり、市会議員のO氏。

どこに勤めても続かないトトロを心配した親が、O氏に頼み込んで実現した就職だ。

精神が不安定と聞いた夫は、接し方がわからないので難色を示したが

紹介者が市議と聞いて、議員に弱い本社の河野常務が食いつき

その場で入社を認めてしまった。


ただし条件は良くない。

最低時給、社保厚生年金無しのアルバイト扱い。

常務、こういう所はシビアなのだ。


で、トトロのようにメンタル弱めの子は、暑い真夏や寒い真冬も不安定になって休むが

木の芽どきは重症化するので、春は特に休む。

それで誰も困らないのはともかく、たまに出勤すれば

寝るか、くわえタバコでスマホのゲームをするのが日課。


夫は何度かO氏に紹介の責任を問い、親に言って引き取ってもらうよう依頼した。

けれどもO氏は、自分の支持者が減るのを恐れて逃げ回るので

夫とO氏の友情は終わった。

昨年、私がウグイスをやっている別の市議、Y君の選挙ドライバーを

夫が買って出たのは、それまで選挙を手伝ってきたO氏への当てつけである。


ともあれトトロの不安定はこの春も例外ではなく

珍しく出勤したその日はずっと寝ていたらしい。

「しんどいなら家に帰って寝ろ」

夫はそう言って帰宅させた。

そして彼女は、それっきり辞めた。

《続く》
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対岸の火事

2023年03月26日 16時23分53秒 | みりこんぐらし
先日、『ラスボス』という記事で70代のパワフルな女性、レイ子さんのことに触れた。

そこに登場した30代の男の子、K君。

関東から近くの市に移住して1年も経ってないが

この春、その市で行なわれる市議選に出ると言い出したこともお話しした。

知名度が無いだけでなく、高卒の学歴を聞いて勝ち目が無いと踏んだ私は

関わり合いを避けて逃げ出したものである。


その春が来て、K君はやっぱり選挙に立つという。

せっかく非常勤で勤めていた役場を退職し、立候補の準備に入っているそうだ。

意志だけは固いらしい。


選挙スタイルは、初志貫徹の自転車メガホン。

「選挙カーを用意して普通の選挙をやるのは、税金の無駄遣いだと思うんです。

まずそこから財政を見直しませんか?ということを訴えていくつもりです」

彼と会った時にそう言っていたのも、「こりゃアカンわ」と感じた要素である。


確かに事務所を構えて選挙カーを借り、ウグイスや運動員を雇って

普通の選挙をするのはお金がかかる。

そして一定数の得票があればの話だが

それらに使った経費は選挙終了後に税金から戻ってくる。

だから自転車メガホンで税金を使わないように選挙活動をするのは

一見、良いことのように聞こえる。

しかしこれは、経済を知らない子供の考え。

お小遣いを貯めたかったら、お菓子を我慢して使わなければいい…

というのと同じである。


選挙で税金を使っても、議員になったらそれ以上の利益を

市や県、国に還元できる政治を行うのが為政者の使命だ。

例えば選挙で百万の税金を使ったとしても

千万の利益をもたらす政策を提案して実現するのが政治家。

実際はそうでない人の方が圧倒的に多いとしても、表向きの基本精神はこれ。

有権者は、その利益還元に期待して投票するのである。

それを理解しないで、財政を語るものではない。


私がウグイスをやっている市議Y君も、最初は一人で自転車メガホンをやって落選したが

彼は「資金不足」とはっきり言っていた。

しかしK君のように選挙資金の乏しさを税金の無駄遣いに転嫁するのはお門違いであり

有権者には、その理論の浅さが伝わってしまうものだ。

有権者は、彼が考えているよりずっと賢い。


そういうことを説明しても、彼にはわからないと思う。

ウグイスで雇ってもらえないからゴチャゴチャ言うんだろう…

そう誤解されるのがオチなので、やはり関わらない方が安全である。



で、パワフルウーマンのレイ子さん、乗りかかった船ということで

彼の選挙を手伝うことになった。

K君は私も手伝ってくれると思っていたらしいが、そこはオトナのレイ子さん

「落ちるとわかってる選挙を手伝わせて

あなたのウグイスに傷がついたらいけないから、私が勝手に断っておいたわよ」

と言っていた。

傷がついたら困るようなウグイスでもないが、ありがたい配慮だ。


レイ子さんは手始めに、選挙掲示板のポスター貼りをするという。

もう一人のお仲間と二人で、何百ヶ所かの掲示板に

10日ほどかけて貼るのだと張り切っている。


こら、ちょっと待て…

私は恐る恐る切り出した。

「あの…ポスターを貼る番号は告示日の朝8時に抽選で決まるの、知ってる?」

「え?…選挙が始まるまでにボチボチ貼ればいいんじゃないの?

ドライブがてら通って、楽しみながらやるつもりなんだけど?」

いたって無邪気なレイ子さんであった。


「告示日に選管でクジを引くまで、わからんのよ。

10日もかけて貼りよったら、7日目で選挙終わるよ?」

「知らなかった…」

まあ、いいわ…と切り替えの早いレイ子さん。

「できるだけ急いで貼るようにする」


しかし私には、まだ伝えておくべきことがあった。

「それから言いにくいんだけど…選挙が終わったら

貼ったポスター、剥がして歩かんといけんの知っとる?」

「え?知らない…私、そんな暇は無いわよ」

「市によって違うかもしれんけど、うちらの市では一応そういうことになっとるけん

K君に確認して、もし剥がさんといけんようなら彼にやらせたら?

当選したら足取りも軽かろうけど、落選したら押し付け合いになるけん

選挙戦に入る前にきっちり決めといた方がいいよ」

「…終わった後のことなんて考えもしなかった…

わかりました、K君と話し合うね」


こっちも細かいことは言いたくない。

手伝いたくて、仲間に入れてもらいたくて、口を出していると思われたら心外じゃないか。

もっとも私は該当の市の地理をよく知らないので、ポスター貼りの手伝いはできない。

そこが安心材料ではある。


「それから…」

「まだあるの?」

レイ子さんは驚くが、こんなのは初歩中の初歩だ。

「抽選で若い番号を引いたら、ポスター貼る位置が高い場所になるじゃん。

ポスターの掲示板の高さは統一されてないけん、場所によって高低差があるんよ。

手が届かん場合もあるけん、小さい脚立か踏み台を車に乗せといた方がいいよ」

「若くない番号だったら、いらないのよね」

「クジ引きじゃけん、当日までわからんのよ」

「わかった、用意するわ」

素直なのがレイ子さんの長所である。


言えば、まだまだあるんよ。

どの地区から貼って行くのが効率が良くて効果的か…

これは念入りに検討するべきテーマだし、ポスターを貼る画鋲の数だって

この人たちは多分、1枚に4個と思い込んでいるだろう。

ポスターは縦長だから画鋲は最低でも6個、念入りな所は8個使う。

選挙期間中にポスターが破れたり、いたずらされて選管から連絡があった場合

誰が補充に行くというのも決めてから臨む。

選挙ポスターは有権者の視覚に訴える大切なアイテムなので

ポスター貼りの作業は奥が深いのだ。


が、キリが無いので言わない。

年配のレイ子さんが、疲れ果てて寝込まないようにと願うだけだ。

さて、K君の運命はいかに…。

怖いような楽しみなような。
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言うに言えぬ

2023年03月23日 13時23分52秒 | みりこんぐらし

『やる気、無し』


最近、真知子さんと遊ぶことが増えた。

真知子さんは以前、『他人の夢』という記事に登場した70代の女性。

一人暮らしの自由を活かして、様々な文化的活動している。

記事で話した移住希望者のお世話も、その活動のほんの一端だ。

あ、記事に出てきた東京のアパレル女子?

あれっきりよ。

どうなったか聞くのもアホらしい。


その真知子さんを、同級生のマミちゃんとモンちゃんにそれぞれ紹介したところ

彼女の控えめで優しい人柄に魅せられて、すっかりファンになった。

だから、このところはもっぱら

真知子さんとマミちゃん、モンちゃん、私の4人で女子会をしている。

昔からの友だちと錯覚するようなこの感覚、すごく楽しい。


4人がこうも惹かれ合ったのには、理由がある。

真知子さんは日々の活動の一環で

あるワークショップのお手伝いをしているが

その主催者は、我々の地元に住む男性A君。

彼と我々は年が近いこともあり、古くからの知り合いだ。

ワークショップの方は興味が無いので参加しないが

モンちゃんと私は真知子さんと話すようになった。


月に一度のA君のワークショップは、数年前から開催されていた。

しかし男のやることだから、殺風景。

そこで先生然としているA君は、立派というよりイタい部類に属していた。


が、真知子さんが手伝うようになって、ワークショップは急にグレードアップした。

会場の飾り付けに彼女のセンスが光り、明るく楽しげになったからか

人あしらいが上手いためか、参加者は倍増。

彼女とA君は気が合うようで、姉と弟のように和やかな雰囲気も

参加者にとってはホッとできる空間のようだ。


ところが先日のある日、真知子さんは突然

ワークショップのお手伝いをやめると言い出す。

私とモンちゃんは、たまたまその場に居合わせていた。


彼女がお手伝いをやめると言い出した理由…

それは、A君に弟子入りして知識と技術を継承したいという

物好きな若者B君の出現が発端。

非常に喜んだA君は、次回からB君を含めた3人でやると真知子さんに伝えた。


そしたら彼女は、明るく言ったそうだ。

「一回の参加者が5人程度なのに、スタッフは3人もいらないから

今日でお手伝いを卒業します」

そして後片付けには戻ってくると言い残し、どこかへ行ってしまったという。

これからも3人で仲良くやって行くつもりだったA君は困惑し

近くにいた私たちに事情を話したという経緯である。


「弟子ができたからって、浮かれてんじゃないわよ。

真知子さんのお陰で参加者が増えたから、弟子にたどり着いたんでしょうが。

むくつけき男が2人並んでたら、女性が来にくいじゃんか。

私らも真知子さんがいなくなったら、もう来ないからね。

ちゃんと話し合って、何とかしなさいよ」

参加したことが無いにもかかわらず

私はA君にさらなる追い打ちをかけたものだ。


それから数日後、我々は真知子さんと会う予定があった。

マミちゃんはまだ彼女と面識が無いので、紹介を兼ねたランチ会である。


私がA君に言った悪質な発言は、すでに彼から真知子さんに伝わっていた。

彼女はそれを聞いて、救われた気持ちになったという。

そしてA君と話し合い、彼は自身の配慮が足りなかったことを謝罪して

お手伝いは続行することになったそうだ。


詳しく聞いてみると

真知子さんの思いはA君から聞いたのとは全く違っていた。

A君は2人から3人に増えるという人数問題と受け止めていたが

真知子さんの方は弁当問題だったのだ。


というのもワークショップは午前中に2回

午後に2回ぐらいあるので昼を挟む。

親切な真知子さんは毎回、A君と自分のお弁当を作っていた。

しかし、彼もいただくばかりではない。

おむすびは彼の担当で、真知子さんは二人分のおかずを持って行くのだそう。

ずっとこの分担でうまく行っていた。


けれども弟子ができたとなると、当たり前だが

ワークショップを手伝うことになる。

そこでA君は、真知子さんに言った。

「次からお弁当のおかずを3人分、お願いします」


それを聞いた真知子さんは、「やっとられん」と思ったそうだ。

「弟子になったB君に悪い感情は全然無いの。

だけど彼の分まで、何で私が?という気持ちになっちゃって

ここらが引き際なのかな?って思ったの」


「わかる、わかります!」

身を乗り出して真っ先にそう言ったのは、真知子さんと初対面のマミちゃん。

そうよ、うちらもユリ寺のお寺料理で

真知子さんと同じ気持ちをいつも噛み締めている。

お役に立てればと思って始めたことが、いつの間にか当たり前になって

気がつけば善意は踏みにじられ、便利な飯炊き要員として使われている現実…

この言うに言えぬ無念は、真知子さんが味わった気持ちと同じだ。


おむすびとおかずでは、味と予算の面から見て、おかずを作る方が断然気を使う。

自分とA君の2人分なら、自分プラスアルファの軽い気持ちでいられるが

3人分となるとひと仕事。

しかもA君もB君も独身。

独身男の食欲に遠慮は無い。

そして自分で作ったことのない人は、作る側の気持ちなんか知らない。

タダ飯が食えるなら、どこへだって顔を出すものだ。

そのような作り手の負担を一切考えず

「一人分増やして」と当たり前のように伝えられたことに

彼女は傷ついたのだと思う。


「私、お料理は嫌いじゃないから、作りたくないわけじゃないの。

だけど、ほんの親切のつもりが、なぜか義務みたいになってて

勝手に人数が増えるのって、何か違うんじゃない?と思って

どうしても納得できなかったのよ。

こんな気持ち、誰に話したってわかってもらえないと思ってたの」

嬉しそうな真知子さん。


「いえいえ、ここに同じ気持ちの人が3人」

「こういうのって、我慢してたらエスカレートする一方なのよね」

「早めに話し合った真知子さんとA君はえらいと思う」

激しく賛同する我々3人。

かくして4人は、強い絆で結ばれたのだった。


ところでユリ寺のお寺料理は、正月の雑煮以来、お休み中。

うちらが断っているのではなく、寺に人が集まらないのだ。

4月にお花見があるそうで、その時には招集されるらしい。

というのも5人会のラインで別のおしゃべりをした別れ際

「じゃあ次は4月5日のお花見でお会いしましょう!」

ユリちゃんは、そう言って締めたからだ。


こういう時に、人の本心が出るものよ。

何を勝手に日程決めとんじゃ。

グレてやる。

「お花見があるの?私らが料理するってこと?」

意地悪く返したら、長時間の沈黙後

「桜が咲く頃だから、お花見もいいかな?と思って。

ご都合はいかがですか?ご無理の無きよう」

何かやらかしたら、時間を置いて何ごともなかったかのように

気取って仕切り直すのはいつもの手だ。


モンちゃんは年度始めだから仕事で行けないと言い

私も、まだわからないと返した。

今年は厳しくするんじゃ!

…と決意したのもつかの間、今年初の招集にマミちゃんが張り切っているため

結局行くことにした。 

意志薄弱。
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手抜き料理・節約モード

2023年03月18日 08時04分08秒 | 手抜き料理
物価高よね〜!

特に光熱費と食品。

消え物にお金が持って行かれるのって、虚しいよね。


だけど絶望しないでもらいたい。

テレビを始めとするマスコミは、うちら庶民を絶望させよう、させようと企てているのじゃ。

なぜなら絶望案件を声高に唱えると、人は注目する習性がある。

平和なことよりも、危ないことや怖いこと、不安になることの方が

人は長く見続けるから視聴率が取れるのじゃ。

「主婦は大変」「お店も大変」「日本が大変」などとさんざん恐れさせておきながら

次のコーナーでは能天気にスイーツや動物なんかを紹介しとるじゃないか。

こんないい加減な奴らに乗せられてはならん。


よく考えれば、値上げ値上げと騒いでいる小麦粉や油、お菓子とか色々…

飲食店ならいざ知らず、値上がりが家計にこたえるほど買いまくっているとしたら

あんまり褒められた食生活じゃないと思うぞ。


一方で米は、地味に値下がりしている。

早くて簡単に食べられるパンや麺類の需要が増えて、米が売れなくなったからだ。

需要が減ると安くなるのは世の常。

天変地異で生産量が減れば米も値上がりするだろうが、今のところは何とか大丈夫。

日々の食事にパンや麺類を多用する人は、ごはん中心の食事に立ち戻って

食生活を見直すのもいいんじゃなかろうか。


かく言う私とて、別に余裕こいてるわけではない。

数年後に訪れる年金生活に向け、少しでも準備をしておきたいこの時期に

値上げラッシュは迷惑だ。


そこで考えるんだけど、うちの食費っておそらく高過ぎると思う。

身体が資本なので食事には気を使っているが、いいモンばっかり食べているわけではない。

我が家は三世代同居。

老人と若い者の好みが異なるため、食事はたいてい

義母用の特別食と我々親子4人用の二種類を作るので、どうしても食費がかさむ。


そう言ったら、「おばあちゃんのために柔らかくてあっさりした物を作るのね」

などと美しき誤解をしてくれる人がいるかもしれないので説明しておく。

義母はとにかく牛肉、そしてエビとカニ、あとは牡蠣(かき)やホタテ、サザエなど

比較的高価な貝類を好み、野菜はあんまり食べない。

あとの男どもは、私の田舎料理に慣らされている。

つまり義母の好みに、男どもが付いて行けないのだ。

よって別メニューになることが多く、ロスが増えるというわけ。


老人があっさりした物を好むというのは、長寿が尊ばれた時代の伝説に過ぎん。

生き残るのは、牛肉がっつり派じゃ。

偏食がひどくて野菜が嫌いでも、長生きはできるのじゃ。


じきに去りゆく人へのモテナシのつもりで頑張ってきたけど

いっこうに去りゆく気配が無いとなると、路線変更もやむを得ない…

と思っていたら、スーパーでいい物を発見。

フグの皮のお刺身。

湯通しした皮の細切りが、ポン酢やもみじおろしと共にパックに入っていて

なんと300円。


義母はフグも好物だが、身より皮の方が好き。

お刺身というより、何だか保存食の珍味という扱いだけど

パッケージには国産トラフグと書いてある。

国産トラフグという名の別の何か…かもしれないけど

義母は喜んでるし、まあいいか…ということで、時々与えるようになった。

助かる。


他の節約といえば、トンカツ用の厚切り肉も最近は

なんだ?喧嘩売ってんのか?と思うほど高くなったので

薄切り肉を重ねてミルフィーユカツにしたり

少し厚めにカットして売られている焼肉用の小ぶりな肉で粉飾することが増えた。

衣を付けて揚げてしまえば、味や満足感はトンカツ用と銘打った豚肉と大差は無い。

男どもは、カツなら何でも喜ぶ。


あとは最近、餃子の出番、多し。


夫は大の餃子好き。

だけど餃子って包むのが面倒くさいから、あんまり作らなかった。

うちは最低でも90個は作らないと、足りないからね。

しかし餃子は、義母も食べられる老若共通メニュー。

こういった家族全員が食べられる物を増やすのも、節約のうちだと実感。


豚ミンチはわりと少なめで、もらった白菜、もらったシイタケ、庭に生えてるニラとネギが主体。

量は一度にたっぷり作り、余ったタネは平たいタッパーかジプロックに

平たく伸ばして冷凍しておく。

そして何週間後かに、また餃子の皮を買って来て包む。

タネをわざわざ解凍する必要は無い。

平たくして冷凍してあるので、凍ったままスプーンで一口大に分けることができ

チンタラ包んでいるうちに柔らかくなる。


他には、こんな料理も増えた。

『ナスと平天の炒め煮』

田舎料理丸出しじゃろ。

年だからか、こういう地味なのが好きになってきたのよ。


①ナスを輪切りにして水にさらし、水分を切ったら油でしっかり炒める

②適当に切った平天…地方によって呼び名が違うけど、さつま揚げの平たいやつね…を加え

ダシ、砂糖、醤油、ミリンを加えて甘辛く煮詰めたら出来上がり


好みで七味唐辛子を振ってもいい。

長く煮詰めるとガスの無駄なので、ダシは控えめに。

ダシはもちろん、水と顆粒ダシでも大丈夫。

味付けは麺つゆに砂糖を加えただけでも大丈夫。


以前は平天じゃなく、油揚げと鶏肉を入れていた。

が、平天なら油揚げと鶏が嫌いな義母でも食べられるし、いいダシが出る。

材料を変えて、お金だけでなく労力の節約を企てるのも、なかなか楽しいものよ。


お好み焼きも出番が増えた。

キャベツ、天かす、ネギをたっぷり、あとは豚バラだけの関西風。

この上にお好みソースや青のりをかけて食べる。


コツは市販のお好み焼きの粉を牛乳とミリンで溶き、30分ほど冷蔵庫で寝かせること。

寝かせている間にキャベツやネギを切れば、時間が有効に使える。


大きく焼かず、小さく作ることを心がければ失敗が無い。

フライパンは2つ用意して、一つはお好み焼きを焼く用

もう一つは仕上げの卵用。

卵用のフライパンに割り入れた卵は、箸でクルクルと混ぜ

表面を平たくしてからお好み焼きを乗せると綺麗に焼き上がる。

店で買うより評判がいい。


アヒージョの出番も、年に一、二度から二ヶ月に一度ぐらいに増えた。


オリーブオイルに市販のアヒージョの素を入れ

弱火で材料を煮たら出来上がる、楽ちんメニュー。

軽く焼いた薄切りのフランスパンを添える。

スキレットとかいうアヒージョ用の小さい鉄鍋は、惜しいから買わない。

一人湯豆腐用の土鍋を使用。


冷凍エビやパプリカ、マッシュルーム、パセリなんかは

そうびっくりするほど値上がりしてないので

その功労を讃え、登板を増やしている。

ごはんのおかずにはならないが、見た目が派手なので家族の視覚は撹乱され

他のおかずはテキトーなものでごまかせる。


節約の苦手な私の節約ったら、こんなもんだけど

ご紹介してみました。
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変えて良かったもの

2023年03月15日 10時46分42秒 | みりこんぐらし
長年の習慣を変えるって、勇気がいるものよね。

年を取ると、特にね。

でも、変えざるを得なくなった。

サイフォンが割れたんじゃ。

ガ〜ン!


夫の一家はコーヒー好きで、昔からサイフォンを使う。

サイフォンは上部にある筒型の漏斗(ろうと)と、下にある丸っこいフラスコ

二つのガラス製のパーツでコーヒーを作る道具だ。

嫁に来て、まず最初にやらされたのが換気扇の掃除で

次がサイフォンの使い方の指導だったのはさておき

夫の家はコーヒーをサイフォンで沸かすのが習慣。

味へのこだわりというより、来客に対するエンターテイメント性を重視しているフシがあり

このコーヒーを目当てに訪れる人々が数多く存在したのも確かである。


ともあれサイフォンは、数年に一回の頻度で割れる。

下のフラスコは丈夫で割れないんだけど、上の漏斗は薄い作りで安定感に乏しく

手や食器が当たって倒したり、洗う時、水道の蛇口に当たったりして

そりゃあ景気良く割れてくれる。

割ったのが私だと責められるのはさておき、割れたら上だけバラ売りで買う。

新品一式を買うつもりなら大きめのスーパーに行けばいいが

不死身のフラスコやアルコールランプが貯まっても仕方がないではないか。


けれどもバラ売りの部品を常備した近辺の店は、年々減っていった。

チンタラとサイフォンでコーヒーを沸かす暇人が減少したのと、店の撤退によるものである。

そこでこの10年余りは、都会へ出た際にデパートへ行き

漏斗を複数買ってストックしていた。


ストックがあると気が緩んでよく割れるのは、サイフォンあるある。

先日、最後のストックを割っちゃった。


ということで、数年ぶりにサイフォンが使えなくなった。

本日中に何とかしなければ、義母ヨシコが発狂するのは明白だ。

年寄りって習慣が変わるのを嫌う。

それが他者のミスであれば、なおさらだ。


ネットや市外のスーパーで、上の漏斗だけを注文して取り寄せる手は使えない。

届くまでに日数がかかるからだ。

今日中に何とかしなければならない。


ここで私は岐路に立った。

町内にある生活雑貨の店で、上だけ買うか否かだ。


その店なら、すぐに買える。

だったらそこへ行けばいいようなものの、その店に近づくと余計な物が付いてくる。

実際に過去、サイフォンの上を何度か買ったことがあるけど、奥さんは大変な商売上手で

食器や雑貨を買わされるか、メーカーの積立に入らされ、サイフォンだけでは済まなくなるのだ。

義母のガラクタコレクションをこっそり捨て活中だというのに 、新しく買うどころではない。


その奥さん、私より10才近く年上で地元が同じ…むしろ近所。

お互いの子供が同級生なので、一緒に幼稚園の役員もやった。

気さくでいい人だが、大学生の頃は学生運動をやっていたそうで

うちらの田舎町では「娘を東京の大学に行かせると赤く染まる」と言われるようになり

女子受験生の進路にいくばくかの影響をもたらした猛者。

赤かろうと白かろうと自由だが、私の口数がナンボ多いとはいえ

学生弁士を張った彼女に太刀打ちできるはずもなく

帰らせてもらいたかったら何か買うしかなくなるのだ。


しかも彼女は、夫の浮気相手だった女の従姉妹。

義父の会社に就職した未亡人、I子である。

30年近くも前のことなのでどうでもいいし、顔も覚えとりゃせん。

が、今になって、わざわざI子一族の軍門に下るのもなぁ。


そういうわけで岐路には立ったものの、決断には至らないまま

ちょうど日曜日だったので、夫と一緒にあてもなく隣市のスーパーとホームセンターを目指す。

予想通りと言おうか、サイフォンの上だけなんて売ってない。

そればかりか、サイフォンの本体も売ってない。


もう一軒、ハシゴをしたかったが、気の短い夫には耐えられないので断念し

ダメ元でスーパーの中にあるニトリに行った。

ここに無ければ、家にある電気式のコーヒーメーカーに転向し

その間に通販で取り寄せると心に決めた。


と、ニトリにドリップ式のコーヒーメーカーを発見。

いつぞやテレビで見た、ステンレス製のドリッパーだ。

ステンレス製は紙製より当然ながら高いが、半永久的に使えて

しかも美味しいのだと、テレビでコーヒー通が言うておった。




で、買うた。

迷う私に、夫の言ったひと言が決め手だった。

「もう、楽になれや」

サイフォンが厄介なのを、彼は知っていた。

私に頼まれてアルコールを買いに行かされるのも、嫌になったらしい。


価格は一式で2,380円。

サイフォンの漏斗だと、うちのは大きいから6,000円ぐらいなので

それに比べりゃ可愛いもんよ。


で、家に帰って、さっそく使ってみた。

湯を注ぐだけなので、サイフォンよりずっと手軽。

適当にやったのに、しかもウマいでやんの。

ヨシコもまんざらではない様子。


漏斗、濾過するネル(布)、アルコールランプの芯、アルコール…

いつもサイフォンの部品を気にかけ、使用後に洗う時は細心の注意を払い

その割に味の方はたいしたことなかった。

私の数十年は何だったんじゃ?という疑問は残るが、朝のコーヒー製作がすごく楽になった。



サイフォンに続いて変えたのが、アイブロウ。

眉墨のことね。

これを眉マスカラに変更した。


最近、正確には昨年の選挙の時から気になっていた。

というのも、トイレ休憩で寄らせてもらうコンビニ。

そういった休憩で立ち寄る場所では、候補の名前の宣伝にならないよう

いちいち腕章を外す必要があるのはさておき、コンビニって若げな女の子が働いてるじゃん。

その中に知り合いの子がいて、この子は40代後半なんだけど

元々美人な上に、お化粧がうまいのですごく綺麗。

特に眉が自然で素敵なので、聞いたら「眉マスカラ」だそう。

髪より少し明るい色を選んだら、今風になるんだと。


だけど新しいことって、なかなか手を出しにくい。

ドラッグストアでゆっくり迷ったり選んだりする時間も無くて

それ以来ウジウジしていたけど、この度、思い切って購入。


ケイトの眉マスカラ。

800円だったと思う。

色?写真そのままよ。

ピンクベージュ。

買って失敗するなら大胆に失敗したいから、派手な色を選択。


私は眉が薄めなので、そりゃもう化粧の工程の中では一番、時間をかけていた。

「ここに毛が欲しいぞ」と思う箇所に、細いアイブロウで1本1本描くから

時間がかかるわけよ。

それが、眉マスカラって、すごいわね。

眉頭をシュッと上に向けて撫でたら

あとは眉マスカラでカバーできない眉の付け根と眉尻を

従来のアイブロウで描き足して終わり。

早いのなんの。

色が明るいから、ホンワカと淡くて柔らかい眉ができる。

この私でさえも、優しそうに見えるって寸法よ。

これが今風ってわけね。

たまげたわ。


利き手でない左側の眉に使うのはちょっと難しいけど

横に描こうとせずに、上に向けて使ったら大丈夫。

私の数十年は何だったんじゃ?という疑問は残るが、今のところすごく満足。

他の色も試してみようと思います。
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原因と結果・5

2023年03月12日 11時25分04秒 | みりこん流
そのうち、還暦旅行に出発する日がやってきた。

当日になってUを発見した女子は、どんな顔をするだろう…

彼の参加は極秘にしていたので責められるかもしれないが、仕方がない…

朝、そんなことを思いながら集合場所の神社へ向かう。

出発の前には地元の神社に集まり、旅行に行く者はもちろん

都合や体調不良で行かない者も、それぞれ正装に身を包んで還暦のお祓いを受けるのだ。


…と、神事が始まる直前、会長の携帯にUから連絡が。

「インフルエンザで行けなくなった」

岡山在住の彼は、関東や関西から来る子たちと一緒に

姫路駅で合流することになっていた。

しかし早朝、急に具合が悪くなった彼が病院へ駆け込んだところ

インフルエンザと診断されたのだった。


「残念だけど、みんなにはよろしく伝えてくれ」

Uは、会長に言ったそうだ。

ドタキャンされてブツブツ言いながら、旅行会社に欠員の連絡をする会長。

その傍らで、密かに喜ぶ私。

よろしく伝えるも何も、Uが来るのは秘密だったんだから無視。

神の御前で、Uの存在は闇から闇へ葬られたのである。



このUに関する一連により、私の長く抱いていた疑問にようやく答えが出た。

「天の優待券は無い」

結論は、これに尽きる。


Uは、女の子をいじめて滅茶苦茶にしたいという自身の欲望に忠実だった。

「このような悪さをしたら、相手はどんな気持ちか」

そういうことは全く考えなかった。

変質的な実像の上にワンパク坊主の仮面を被って世間を欺き

補導に至らないギリギリの所をうまく渡り歩いた。

彼はそれほど周到で巧妙だったのだ。


Uの所業は、乱暴や過ぎたイタズラだけではなかった。

彼が転校していなくなり、安堵したクラスメイトから聞くまで

私はこのことを知らなかったのだが、例えば夏、プールの授業がある。

彼はプールの授業を見学する女子の名前をノートにせっせと記録し

各自の生理の周期を割り出した。

秋になると、ニヤニヤしながらノートをめくっては該当する女子に近づき

「そろそろ生理じゃないのか」と小声でささやく。

そして恐怖で固まる相手に、卑猥なことを言いながら付きまとうのだ。


彼がこれ見よがしに、一冊のノートと周りの女子を

交互に見比べる姿は目撃したことがある。

あのノートで、また何か悪さをするんだ…気色悪!

そう思ったが、そのまま何もされなかったので忘れた。

後から思えば、初潮の遅かった私はプールを一度も休まなかった。

だから彼の変質ノートには記載されず、ノーマークだったのだ。

あのノートの使用目的を知った私は、Uの腐った性根に改めて驚いたものである。


ともあれ彼が何をしても、先生たちはあてにできない。

Uに説教するだけだ。

Uは素直に謝り、もうしないと誓うだろう。

先生は、それを解決と思っている。


しかし現場は違う。

中途半端な解決では、報復がひどくなるだけだ。

さらにバージョンアップした、とんでもない地獄が訪れるくらいなら

今の地獄に黙って耐える方がマシというのを女子は皆、知っていた。


そしてUもまた、そのことをよく知っていた。

自分を止められる者は誰もいないこと、そして人に言いにくいことをすればするほど

女子は黙っていることを、である。


このような彼の抜け目の無さが、やがて入隊した自衛隊で国防に役立ったのかどうかは知らん。

けれども、はたして天というものが存在するならば

その天はUの悪事そのものより、彼のそういう心根を見過ごさなかったのではないだろうか。



人を苦しめたり傷つけたり、人を利用して得をする人は世の中にたくさんいる。

そしてその人たちは大抵元気いっぱいで、勢いがあるように見えるものだ。

この分だと未来永劫、幸せに違いないと思えるほど自信に満ち溢れている。


が、彼ら彼女らを数年ではなく、数十年単位の長いスパンで見ていると

「あ〜、なるほど〜」と納得する時が来る。

やりたい放題でストレスの無い彼ら彼女らは、たいてい長生きなので

こっちもそれまで生きなければ見届けられないが

それぞれにふさわしい未来が訪れるのを目撃することになるだろう。


彼ら彼女らが自ら作った原因と、歳月を経て訪れた結果…

それを縮めて“因果”というのを目の当たりにしたら

とてもじゃないが、「ほれごらん!天罰よっ!」などと勝ち誇る気にはなれない。

あ〜、なるほど〜とつぶやいた後は、沈黙するしかなくなるのだ。


長い時が経ち、こっちは彼ら彼女らへの恨みなど忘れている。

たまに思い出すとすれば、まんまとやられた自分のアホに苦笑したり

生命まで取られなかったことに幸運に感じたり

あるいは、あんなことがあったからこそ、人付き合いの選球眼?が鍛えられた…

などと思う程度だ。

それが、憎くも何とも思わなくなった相手の亡くなり方や、訪れた思いもよらぬ運命

以前とあまりにも変わり果てた現在の姿を知るのはいささかショックで、口をつぐむしかない。


わかりやすくポピュラーなところでは、例えば孤独。

若い人にはピンとこないだろうが、年を取ると誰でも孤独感が増すものだ。

寂しさ、心細さ、不安、恐怖…

周りに家族がいようがいまいが関係なく、ふとした瞬間に

これらが束になって押し寄せ、心をさいなむ。

その状況は、老人と接触していたらよくわかる。

年寄りになると、幽霊より怖いのが孤独なのだ。


その孤独感は、自身が過去にやらかした行いと比例して強まる。

人間はそのようにできているので、本人にその意識は無くとも自然にそうなる。

つまり同じ孤独の二文字でも、人を足蹴にしてきた人の感じ方は強烈で

善人のそれとは雲泥の差があるのだ。


並行して、それまで自分が人に対してやってきたことが自分の元へどんどん戻って来る。

良いことも悪いことも、寄せては返す波のごとくだ。

ただし波と同じなので、自分が人にやってから時間が経っている分だけ

戻ってくる勢いは何倍にもバージョンアップしている。

良いことなら嬉しいが、そうでなければちょっと困ったことになる。

善悪のツケが回ってくるのが、ちょうど心身が衰え始める、数えの還暦あたりではなかろうか。

だからお祓いとか、するんじゃないのか。


人に意地悪をされる人が不運なのではない。

人に意地悪をせずにはいられない人こそ、不運だ。

私はそんな人を見るにつけ、心配になる。

「あなた、大丈夫?先できついんじゃない?」

余計なお世話だろうが、そう案じてしまう。

ずっと人を耐えさせる側、人を泣かせる側の片方だけで来た人間は

耐え方、泣き方を知らないからだ。


その無知が鋭い刃となって、必要以上に自身を傷つけ苦しめるのを

彼ら彼女らはまだ知らない。

これが気の毒でなくて何なのだ。


というわけで、人に意地悪をしたら自分に返ってくるどころじゃないぞ。

キャッチバーもびっくりの高額請求が回ってくる。

まだ若いか、そんなものが存在したら自分が困る人は

「そんなものは無い」と言うだろう。

さて、どうなるか。

皆様にはぜひ長く生きて、見届けてもらいたい。

《完》
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原因と結果・4

2023年03月08日 10時10分06秒 | みりこん流
同窓会長から転送されてきたUのメールは、長いものだった。

ユリちゃんの名をかたった手紙で悪質ないたずらをした彼は…

そのユリちゃんと何十年も文通していた彼は…

さすが筆まめらしく、娘の死について細やかに書き連ねてある。


「去る◯月◯日、最愛の娘が亡くなりました。

まだ20才でした。

大学の関係で北陸に住んでいましたが、18才の時に難病にかかりました。

病院で毎週一回の治療をしながら学校に通い

病気と闘いながら一生懸命に勉強していました。

通院日に病院に来なかったことを不審に思った看護師さんが

娘のアパートに行ってみると、娘はベッドで冷たくなっていたそうです。

娘の人生はまだこれからだというのに

たった一人で亡くなったと思うと、かわいそうでたまりません。

あまりにもショックが大きくて、しばらく誰にも話すことができませんでしたが

今になって、やっと各方面に連絡できるようになりました。

諸事、よろしくお願いします。

尚、口座番号はわかると思いますが、不明でしたら御一報ください」

うろ覚えだが、そんな内容だった。


「そういうわけだから、Uの口座に香典、送っといて。

子供の場合は確か、1万円でよかったよな」

後で会長は、私に電話をかけてきて言った。

Uが出世コースに乗っかっていた時はチヤホヤしまくり

「制服に金のラインが何本だと何の地位」などと

まるで自分のことみたいに得意げだったのが

もう現役でないとなると、あっさりしたものである。


私は会計係をやっていたので、遠方の会員に不幸があると香典を振り込むのも仕事のうち。

だから会長は、自分に届いたUからのメールを私に転送したのだった。

ひねくれた考えかもしれないが、最後の2行は香典の請求以外のなにものでもなかろう。

Uらしいと思いながら、振り込みに出かけた。


振り込み作業は簡単だ。

同窓会の口座はゆうちょ、Uの口座もゆうちょ。

郵便局のATMで、口座から口座へ振り込めば終了。

他の銀行口座でも同じだが、ゆうちょ同士だと手間が一つ少ない。


なぜUの口座番号を知っているかというと

数年前に彼の母親が愛媛の老人ホームで亡くなり、その時にも香典を振り込んだからだ。

やはり母親の死を嘆き、最期の様子をさめざめと語ったメールの最後に

ゆうちょの口座番号が添付されていた。

何だかちゃっかり感が漂って、死を悼む気持ちが薄れたものだ。


ともあれ他の銀行口座のことは知らないが、ゆうちょ同士の振り込みの場合

料金を数百円ほど足せば、振り込む側のメッセージが相手の通帳に印字されるという

粋なサービスがある。

不幸であれば「お悔やみ申し上げます」、結婚や入学などの慶事であれば

「おめでとうございます」などの短い例文をATMの機械で選べるのだ。

時間をかけて文字を入力すれば、制限以内の文字数でオリジナルメッセージも可能。

その辺の判断は私に一存されている。

滅多に無いけど、相手がゆうちょの場合はやっていた。


娘を失ったUにも、何か励ます言葉を印字するのがいいんだろうけど、やらない。

慰める気が起きない。

逆縁に打ちひしがれた手負いの虎に余計なことをして

妙な色恋の方向に受け取られたり、思わぬ展開になる恐れは十分にある。

彼は他の同級生とは違うのだ。

触らぬ神に祟りなし。


そればかりか、Uの娘が亡くなったことを知っても同情の気持ちは全くわかなかった。

「とうとう来た」

頭に浮かぶのは、そのフレーズだけである。


彼を恨む気持ちは、その頃にはもう無かった。

我々にとっては血塗られた地獄の歴史が、彼にとっては反省どころか

楽しい思い出に過ぎなかったことを知って諦めがついたのだ。

むしろあの男と同じ学年だったにもかかわらず

無事に生き延びられた自分と同級生に喝采したい気持ちでサバサバしていた。


それなのに何ということだ…自分はここまで冷たい人間なのか…

彼の娘さんには何の罪も無いというのに…

一応はそう考えて自身をいましめ、方向転換を試みたものの

やはり、とうとう…しか浮かばないのだった。


Uは幼少期から、実に多くの女の子を苦しめてきた。

その彼が家庭を持ち、女の子に恵まれた。

彼がその女の子を目に入れても痛くないほど溺愛していたのは

送られてきた年賀状や、個人的に交流を続けている同級生男子の話で知っている。

男女両方の子供を持つ父親というのは、息子の話はあんまりしないが

娘のことになると饒舌になるものだ。


私はそういう話に触れるたび

「自分とこの女の子はいじめないらしい」

「彼が我々にやったのと同じことを娘がやられたら、どんな気持ちになるやら」

密かに、そして軽くそう思っていたのはともかく、彼は最愛の娘を失った。

その3年前に離婚して以来、娘がより一層、彼の心の支えになっていたことは想像に容易い。


還暦間近になって、その一番大切な女の子を持って行かれる…

彼がよその女の子にやってきたことは、それに値するものだったのだろうか。

年を取って気力も体力も衰え、一人ぼっちになってから清算が訪れたのだろうか。

子を持つ親であれば皆、明日は我が身であるにもかかわらず

Uの悲しみを共有することができずに、そんなことを考えてしまう自分。

私には彼の娘の急死よりも、そういった思いがおこがましくも頭に浮かび

さらにそれが腑に落ちてしまったことが、ちょっとした衝撃だった。

ここで重ねて申し上げるが、逆縁の全てが、犯した罪に対する罰と言っているわけではない。

あくまでUの場合の話だ。



それから2年が経った。

我々同窓会の役員は還暦旅行の準備を着々と進め、いよいよ出発が近づく。

この旅行には、Uも参加すると聞いていた。

「久しぶりにみんなと会って、元気をもらうよ」

彼は会長にそう言ったという。

しかし彼の参加は、当日まで伏せられていた。

「Uが来るなら行かない」と言い出す女子が出現すると踏んだ会長は

参加人数が減ったり悪い雰囲気にならないよう配慮したのだ。


私は主催者側なので、あからさまに嫌とは言わない。

しかしUのことだから、誰かれなくつかまえて娘のことを延々と話して泣くんだろうな

止めるわけにもいかんしな、と思うとゲンナリはしていた。

《続く》
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原因と結果・3

2023年03月06日 08時45分43秒 | みりこん流
Uが初めて同窓会に顔を見せて以来、彼のわかりやすい出世は

うだつの上がらない同級生男子にとって羨望の的となり

同窓会の集まりではよく話に出た。

しかし同級生で唯一のセレブ、ユータローは

「ヤツの名前を聞きたくないな」

私にこっそり言ったものである。


ユータローとUは、家が近かった。

そして学校区ギリギリ、つまり小学校から遠かった。

ユータローの親は企業の社長で、広い工場は町外れにある。

彼の住む豪邸はその敷地内にあり、Uの家はその付近の長屋だ。

ユータローは学校の行き帰りにUから毎日、暴力を振るわれていたという。

男子には何もしないと思っていたが、彼にだけはやっていたそうだ。

それを聞いたら誰でも、やられたらやり返せばいいと思うだろうが

上品な家庭で御曹司として育てられたユータローが

無限の体力と発達した運動能力を持つ仁王みたいなUと戦っても、報復がひどくなるだけである。


「学校から遠い分、暴力も長いわけよ」

彼は苦笑いをしながらサラッと言うが、そのことを大人になってから初めて知った私は

ずっと黙って耐えたユータローを尊敬した。

Uは異性への歪んだ興味も強かったが、金持ちへの嫉妬も強かったらしい。


時は10年ほど流れ、単身赴任地の横須賀で定年の55才を迎えたUは、めでたく退官。

長崎の妻子の元へ帰って、再就職すると聞いていた。

最後の数年は、護衛艦だかの事故などトラブル続きが元で第一線から退き

早い話が左遷状態だったそうだが、それを聞いてほんの少し溜飲は下がったものの

「いよいよヤツにも天罰が?」

とまでは思わなかった。

退職金も年金も御の字、本人は花道を歩いた時だけ思い出していればいいのだ。

小中学校時代の悪行三昧を皆の前で「楽しかった思い出」と言ってのけたUなら

それができるだろう。


一方で55才の同じ頃、ユリちゃん、マミちゃん、けいちゃん、モンちゃん、私の

仲良し同級生5人は、“5人会”を結成した。

以下の話も『宇宙人』でお話ししたことがあるが

5人会のメンバー、ユリちゃんと頻繁に会うようになった私はある日

彼女から悲しい思い出を聞かされたのだった。


ユリちゃんのパパは、我々の中学で国語の教師をしていた。

中2の終わり、どのような経路を辿ったかは不明だが

職員室に居たユリパパに、他の先生から宛名の無い手紙が渡された。

花柄の便箋と封筒が使われ、差出人は彼の娘、ユリちゃん。

定規を使ったカクカクした文字で、筆跡を隠していたという。


手紙の内容は

「あなたが好きでたまりません。

私の全てをあげたいので、◯月◯日の日曜日、△時に町のどこそこで待っています」

というものだ。


ユリちゃんは、パパからひどく叱られた。

昔はこんなことがあると、ターゲットになった方に隙があるということになったものだ。

今じゃドラム缶と化したユリちゃんだが、当時は細くて可愛く、学年男子のマドンナだった。

美少女の居る家庭は、何かと大変なのである。


特にユリちゃんの家はお寺、つまり古風な業界である。

そして父親は、教師兼住職。

教師はプライドが高い。

僧侶はさらに高い。

変な手紙によって、職場で恥をかかされたユリパパの怒りは強かっただろう。

町の人々の目に留まったり噂にならないよう

家族で一度も外食に出かけなかったほどの厳格な家に、この手紙は甚大な衝撃をもたらした。


家族会議の結論は、手紙に書かれた日時にユリちゃんと母親が遠出するというものだ。

地元にいなければ、手紙の相手と会ったことにならないからである。

その後、家はますます厳戒態勢になり、ユリちゃんは何年にも渡って

両親からこの件を蒸し返されては小言を言われたという。

「あの時の悲しさは、今も忘れられない。

どこの誰だか知らないけど、心底憎たらしいわ」

ユリちゃんは、そう結んだ。


しかし話を聞くうち、私にはそれがどこの誰だかわかった。

中2の終わり、転校を前にしたUが花柄の便箋をヒラヒラさせながら

「これで誰を泣かせてやろうかな〜」

私の目の前でニヤニヤしながら言ったのを思い出したからだ。


当時はその便箋で何をたくらんでいるのか、全くわからなかった。

自分がやられるかもしれないという悪い予感はあったが

結局、Uがターゲットに選んだのはユリちゃんだった。

そして私は変質的な手紙の代わりに、音楽室の忘れ物ノートへと差し替えられたのだ。


ユリちゃんに、そのことは言わなかった。

他のメンバーを交えて、たまたまUの話になったからだ。

Uの仕打ちは、今だ頻繁に女子の話題にのぼっていた。


その時、ユリちゃんは我々の悪口をたしなめたものである。

「私、U君とはずっと文通してるけど、あの子、本当はいい子なのよ」

Uを信じ切ってかばう彼女に、「手紙の犯人は、そのUじゃ」とは言いにくい。

自分だけでなくユリちゃんまでが

人生に影響するほどの目に遭わされていたのにも驚いたが

何食わぬ顔で何十年もの間、文通していたUの性根にも改めて驚いた。


それにしても、あんなヤツがイッチョマエに出世して、家族を持って

国防だの国家機密だのと日本単位で物を言い、偉そうにできるなんて。

やっぱり天の優待券は、あるんだろうか。

それとも大人になってものすごく頑張れば、過去は帳消しになるんだろうか。

55才の時点で、私はまだ結論には至っていなかった。


しばらくしてUが退官と同時に離婚した話が、同級生の男子から伝わってきた。

長崎のマンションと退職金の半分は奥さんのものとなり

帰る家を失った彼は岡山の民間企業へ再就職したそうだ。

離婚を強く希望したのは奥さんの方で、Uは何が何だかわからないまま

応じるしかしなかったとこぼしていたという。

Uと結婚した奥さんはかなりの勇者だと思っていたが、普通の女性だったようだ。


とはいえ住まいを得、子供が成長し、さらに退職金が入ったタイミングでの離婚は

よくあるケース。

周りにも何人かいるので、それ以上の何かを感じることはなかった。


次にUの消息を知ったのは、それから3年後。

同窓会で行く還暦旅行に向けての準備が始まった頃で

私は会計係だったので、役員同士は密に連絡を取り合っていた。

そんなある日、同窓会長がUからのメールを私に転送してきた。

「去る◯月◯日、最愛の娘が亡くなりました」

メールは、この一文で始まっていた。

《続く》
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原因と結果・2

2023年03月04日 10時31分47秒 | みりこん流
Uは小学校時代から、本当に悪質な男児だった。

以下は『宇宙人』の記事でも触れたので重複すると思うが

我慢して聞いてもらいたい。


通う幼稚園が違っていたUとは小学校で合流し、我々女子の受難が始まった。

校庭のブランコで遊んでいたら、後ろから飛び乗ってきて

ものすごい勢いで高く漕ぐので、落下して怪我をした者もいた。

縄跳びなんかしようものなら、その縄を奪い取り

鞭にして周りの者を執拗に追いかけて、しばきまくる。

同い年とはいえ身体が大きく、足が速く、運動機能が発達していた彼に

小さい女の子がかなうわけはないのだった。


校庭も受難だが、校内でも油断はできない。

使用中のトイレのドアをこじ開けるなんて、朝飯前。

昔のトイレのドアは木製で、鍵らしきものといったら内側に細い掛け金があるだけなので

彼の腕力で引っ張られたら、ひとたまりもない。

授業中は髪を切られ、服を破られ、釘や針金で手足や背中を刺される者、続出。


先生の目が届かない登下校はもっと危険だ。

待ち伏せされてランドセルを奪われ、中身をぶちまけられるぐらいなら、まだマシな方。

突進してきて突き飛ばしたり、石を投げたり、川や側溝へ突き落とす。


我々女子は彼から身を守るため、いつもグループで行動するようになっていた。

誰かがやられたら誰かが微力ながら応戦し、その間に誰かが大人を呼びに行くためだ。

しかしその程度の手段が防御になるはずもなく、毎日が恐怖の連続だった。


そして彼は巧妙でもあった。

叩いたり蹴ったりの、はっきりした乱暴はしない。

元気が余って、ついこうなってしまったテイを装う。

走っていて、ぶつかった…一緒に遊ぼうとして力が入った…

つい手元が狂った…誰がやったか、はっきりしない…

彼の悪事は大半がそういうことになり、先生たちも彼の所業をワンパクとして片付けた。

家庭環境に同情すべき点があるというのがその理由なのは、子供の私にもわかっていた。

つまるところ呑んだくれで働かず、暴力を振るうお父さんがいるらしい。


「うちの子とU君を同じクラスにしないでください」

毎年の年度末には父兄からの嘆願があったが、学校は取り合わなかった。

それは差別になるという建て前があるので、取り合うわけにはいかないのだ。

しかもU君と同じクラスになりたくない者を募れば、学年の女子全員になる。

男女共学の公立小学校で、そのようにイビツなクラス編成ができるわけはない。


4年生の4月、Uは担任の勧めで学級委員に立候補した。

担任の考えついた苦肉の策であろうことは、子供にもわかった。

「ワンパクな子は良いリーダーになる」

選挙の前に担任が皆に言い、それに騙された子は彼に投票。

見事、学級委員になったが、それで彼がおとなしくなることはなく

目立たぬよう、さらに巧妙になっただけだった。


中学に進学しても、彼の暴挙は続いた。

ヤツは野球部に入ったので放課後の悪事は無くなったが

日中の手口はさらに巧妙、かつ性的な方向に近づいた。

ニタニタと笑いながら卑猥な言葉を連発し、女子の反応をうかがうのは日常。

授業で使う棒状の木切れを握って、女子の尻を追いかけたりもした。


さらにはビンに入れた複数のゴキブリを学校へ持って来て

女子の背中に入れることもよくやった。

その上から背中を叩き、中のゴキブリを潰して喜ぶのだ。

もちろん女子は泣き、その子の周りに居た誰かが注意する。

注意したら、次はその子に同じことをやる。

やり遂げた時のUの表情は歓喜に満ちて高揚し、それがまた恐怖を増した。


ちなみに私は、このゴキブリ作戦をやられてない。

目撃して文句も言ったが、報復は無かった。

やられるのは、可愛い女子限定だ。


それにつけても学校へゴキブリを持って来ようと思ったら、前日から準備する必要がある。

いったいどんな心境で、せっせとゴキブリを捕まえるのか。

考えるだけでもおぞましい。

じきに婦女暴行事件なんて起きるんじゃないのか…

ヤツは長身で身体がゴツく、力も強いので、襲われたらまず逃げられまい…

それでもまたワンパクで済ませるのか…

我々女子も成長してきて、そんな懸念が浮かび始めた中2の終わり頃

父親が他界したということで、彼は母親の故郷、愛媛県に転校することになった。

見知らぬ愛媛の女の子たちが心配になったが、ヤツがいなくなるのは本当に嬉しかった。


転校直前、最後っ屁のつもりか、彼は音楽室に置いてあった忘れ物を付けるノートに

私が音楽の授業で毎回、忘れ物をしたように工作していた。

私は学期末に成績表をもらうまで、このことを知らずにいた。

3学期の成績表は、親でなく生徒に直接配られるシステムだ。

音楽の成績は、小学校から5段階評価の5が続いていたのが

初めて4に転落していて、大いに当惑したものだ。


呆然とする私に近づいた彼は、得意そうに言ったものである。

「 どう?俺の置き土産」

一瞬、何のことかわからなかった。

「音楽室のノート、ノート」

アゴの張ったホームベースのような顔で、彼はさも楽しげにささやくのだった。


成績ダウンが彼の仕業によるものと知り、大きな衝撃を受けた私は

この時点で、おぼろげながら描いていた音楽系への進路を頭から消した。

このことが無ければ希望する進路に進んだかどうかは不明なので、彼のせいにするつもりは毛頭ない。

背中にゴキブリを入れなかった代わりとして、こんなことをされたのだと思うと

気持ちが悪くなり、やる気が削がれただけである。


彼とはそれっきりだったはずが、40代の頃、Uは同窓会に現れた。

大学卒業後は海上自衛隊に入って、そこそこ出世したらしい。

わざわざ制服を着て来たのが、いかにも彼らしい。

問題児が立派に成長した姿を見て、先生たちは涙を流して喜ぶのだった。


「ケッ!あんな酷いことをしても出世できるなんて。

やっぱり優待って、本当にあるんだ」

故郷に錦を飾っただの、ヒーローだのと

先生や男子たちにもてはやされてご満悦の彼を横目に、私は思ったものだ。


以後、里心がついた彼は時折、墓参りに帰省するようになった。

こちらに彼の家は無いため、図々しくも同級生の家に泊まろうとして色々あったが

それはさておき、彼は5〜6才だか年上の女性と晩婚し、男の子と女の子を授かっていた。

奥さんの故郷の長崎にマンションを買った…

妻子はそこで暮らし、彼は単身赴任を続けながら出世街道をまい進中…

年を取ってからできた娘が、可愛くてたまらないみたい…

彼と連絡を取り合っている同級生男子が言っていた。


ほぉ…相変わらず我が世の春じゃんけ…

やっぱり優待なんだ…

私は苦々しく、その報告を聞いたものである。

《続く》
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原因と結果・1

2023年03月03日 10時59分23秒 | みりこん流
前回の記事、『ええ〜?!・2』で、私がお話しした一文。

「人としてやるべきことを怠ったため、忘れた頃になって

他人から次々と似たようなことをされるのは、この世の法則みたいなものだ」


これについてのコメントで、まえこさんがおっしゃった。

「結構、人から嫌なことされて来たんですけど

やった側って絶対幸せな毎日送ってるはず…って思ってました。

似たようなことされちゃうのか、やっぱ。」


私も昔は思っていた。

「やった側って、ずっと幸せなんだろうな。

だってさ、あんなことを人にやらかしておいて平気でいられるんだもん。

平気でいられるってことは、バチが当たらないってことなんだから

天から見逃してもらえる優待付きで生まれたんじゃないかしら。

そういうのを、生まれつき運が強いと言うんだろうな」

そんなことを考えては、自身で決めつけた運の弱さを嘆き

自分を苦しめた彼ら彼女らの強運ぶりにため息をついたものだ。

あの心境は、ブランド品のバッグに憧れる心境に似ている。

バッグはお金を出せば買えるが、運は買えないのが残念なところよ。


特に一番身近な、夫ヒロシ!

何だ、あいつ。

次々と愛人をこしらえて家庭を顧みず、私をさんざん苦しめておきながら

世間の評判ときたら「あんないい子はいない」などと、すこぶる上々。

バチが当たる気配など全く無いまま、色恋を謳歌しているではないか。


が、年月を経た今はどうだ。

夫は合併した本社の面々から、あの当時の私と同じ目に遭わされている。

誤解、曲解は当たり前、重箱の隅をつついてはガミガミ、ネチネチ、クドクド。

指導や注意という正義に名を借りた残酷な仕打ちは

夫の家族から私が受けた行為そのものじゃんか。


私の場合は彼らの娘を浮かばせるために、これが執行された。

家に似たような年頃の女子が二人いたら、片方を沈めれば片方が浮く。

片方がダメだから、もう片方を毎日帰らせて家事と家業を手伝わせるしかない…

彼らは世間に説明のつく大義名分を欲しがった。

我が子のためなら他者の抹殺もいとわない、親の本能全開である。


夫の場合は本社直接雇用の一部の社員が、自分たちの身を守るためにこれをやる。

世間知らずの元ボンボンに手を焼くのが忙しくて、仕事どころではない…

針小棒大、嘘いつわり捏造によってそのテイを装い

上層部の注目を夫に集めておけば給料が出ることを、仕事しないヤツほど先天的に知っているのだ。


その様子を見るにつけ、卑怯なヤツらの立ち回りに腹を立てる一方

アレらの描いた子供っぽいシナリオに唖然とするしかなく、事態を把握するのに月日がかかる…

昔の私と同じで、なされるがままに転がされるしかない夫を痛々しく思う。

ゲスにプライドをズタズタにされ、ゲスに笑い者にされ、ゲスに蔑まれる…

それがさも正しいことのように展開していく不条理の中で

なすすべもなく立ち尽くすのがどんなにつらいか、身をもって知っているだけに気の毒でならない。

ことに夫は大の男であり、一応は二代目ボンボンとしてチヤホヤされてきた。

世が世なら鼻にも引っかけなかった人々から侮辱を受ける悔しさ、悲しさ、情けなさは

嫁という名の奴隷として、ある程度の諦めをつけていた私の比ではあるまいよ。


これを放置しておくと、アレらの行為がどこまでもエスカレートすることは経験で知っている。

最後は28年前に私が家出した時のように、死にたくなかったらその場を去るしかなくなるのだ。

数年後に70才を迎える夫は、そのうち嫌でも去る予定ではあるものの

去る時は追われるのではなく、満期で堂々と去らせてやりたいではないか。

だから私は無い頭を振り絞り、夫を鼓舞しながら応戦するのだ。

どんなにバカバカしい事柄に対してであっても、夫婦で何かと戦うってけっこう楽しいぞ。


それと同時に、ある種の感慨もおぼえている。

「天に見過ごしは無い」

このひと言だ。

長く生きて、様々な人間模様を見てからやっとわかるのだが

優待は無いのである。


みんなのアイドルだったヒロシ君も、例外ではなかった。

彼の行いで一番良くなかったのは浮気そのものではなく

見るべき事柄に目を向けなかったことなのかもしれない。

まあ、気持ちはわかるのよ。

自分の親が卑怯で残酷だなんて、誰も知りたくないからね。


特に60才の還暦が近づくと、それまでのツケが一気に

あるいはジワジワと小出しに訪れる。

ツケは忘れた頃にやってくるのだ。

だから還暦を大厄と呼び、お祓いをするのではなかろうか。


こういう話をさせていただく前に重々お断りしておきたいのは

若い頃に良くない行いをしたから、年を取って不幸を体験するというわけではないこと。

「私は病気になったけど、若い時に何か悪いことしたって言うんですかっ?」

決してそのような話ではないことをご承知いただきたい。


さてと、前置きはこれぐらいにして…(前置きだったんかい!長過ぎじゃん)

年を重ねるにつれ、不可解だった事柄について

「そういうことだったのか…」と腑に落ちることが増えてくるものだ。

幸せを絵に描いたようなあの人が、ずっと先で実はそうじゃなかったことがわかったり

いつも明るいこの人が、実は私など足元にも及ばないような深い悲しみを乗り越えていたり。

十人十色と言うけど、皆、表面からは絶対にわからない何かを抱えているらしい。


そんな中、「そういうことだったのか…」を確信せずにはいられない出来事があった。

「やった側ってずっと幸せで、天から見逃してもらえる優待付きで生まれてきた」

そう思っていた人物についてである。


彼の名はU。

このブログでは『宇宙人』というカテゴリーに特記している同級生である。


彼は小学校時代から、本当に悪辣な男児だった。

もっとも最初の出会いは、彼が保育園、私が幼稚園の時。

彼の通う保育園で人形劇が行われることになり、我々幼稚園の子供たちも保育園で鑑賞することになった。

大っぴらな行事ではないので、幼稚園の子供たちは一旦帰宅し

希望者だけが町外れの山寺にある保育園まで各自が自由に向かうことになっている。

5才の私は人形劇にワクワクしながら、一つ下の妹を連れて山道を登った。


すると鬱蒼とした木々の陰から、一人の男の子が太い木の枝を持って躍り出た。

「幼稚園のヤツは来るな!」

叫びながら木を振り回す、大柄な男の子。

それがUだった。

《続く》
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