女三界に家なし(おんなさんがいにいえなし)。
この言葉を最初に聞いたのは、中学生の時だった。
良き妻、良き嫁になるために…
例のごとく、祖父の明治教育の一端に含まれていた。
聞いた私はといえば
あら、二階までしか住んじゃいけないんだ…
というオツムの程度。
その教育が何ら功をなさず
裏ぶれすさんだ妻道・嫁道・ケモノ道を歩んできたのは
皆様ご存知の通りである。
その後、色々な所で色々な人から耳にする。
三界とは仏教用語で、欲界、色界、無色界のことらしく
仏教で言うところの“世界”とは、この三つで構成されているそうだ。
つまり「女三界に家なし」は
「女は世界中どこにも安住の地は無い」という意味らしい。
「マゾか!」
若い頃は、腹を立てたものだ。
女性蔑視もはなはだしい!
偉い人が言ったことにして、男に都合のいいように女を縛る気だな!
「女三界に家なし」…みりこん辞典の中で
これは脅迫ということになった。
ところが結婚してシミジミ思うのが、まさに「女三界に家なし」だった。
夫はせっせと女房取り替え作業にいそしみ、追い出しにかかっている。
実家へ帰ろうにも拒否される。
これが、かの有名な「女三界に家なし」か!
どこにも行き場が無くて、絶望のあげく絞り出す言葉が
これだったのね!
みりこん辞典に掲載される「女三界に家なし」は
脅迫から絶望のページへと移動。
お前に家は無いと言われれば、追い求めたくなり
追い求めても無理となると、なおさら憧れる。
安住の地を求めてさまよう私は、いっぱしのヒロイン気取りであった。
そのうち夫の浮気にも慣れて余裕が出ると
女に無いとされる安住の地を、ちゃんと持つ人がいるのに気がつく。
だって、うちには嫁ぎ先から毎日実家に帰って来る夫の姉
カンジワ・ルイーゼ様がおられるではないか。
彼女の夫は銀行員。
大口顧客(あくまで当時)の娘、ルイーゼと結婚できたのを
「男の名誉」と公言し、気を使って下へも置かぬもてなしぶりだ。
もちろん日課の実家帰りは奨励されており
実家も諸手を挙げて娘を迎える。
ルイーゼ、三界に家が無いどころか
実家と婚家の2ヶ所をやすやすとゲット。
全国共通じゃないと知ったこの時点で
女三界ウンヌンには見切りをつけ、時代遅れの遺物として辞典から削除した。
それから幾年月…
「女三界に家なし」は、完全におばさんと化した私の元を再び訪れた。
安住の地をダブルで掌握していたはずのルイーゼが
本当は違ったと知ったからだ。
安住の地が消える!
不変のダイヤモンドではなく、生もの!
これはちょっとした衝撃だった。
そこで再考の必要ありと踏んだのであった。
ルイーゼは相変わらず毎日通って来る。
しかし弟一家に乗っ取られた格好の実家は
もはや彼女にとって安住の地にあらず。
機嫌を損ねて母親を押し付けられたら困るので
別人のようにおとなしくなってしまった。
嫁ぎ先の安住も失われていた。
妻の実家が経営不振で、金融事故予備軍になったことは
銀行員である義兄の立場を日夜脅かし、昇進を阻んだ。
彼の豪語した「男の名誉」は、地に落ちたのだった。
閑職に追いやられた彼は精神を病み
そんな一人息子を案じる、彼の両親の態度も推して知るべし。
金融事故をまぬがれて廃業し、義兄が定年退職した現在も
肩身の狭い状況は続いている。
いつ、何がどうなるかわからない。
私が安住の地保有者と認識していた他の人々も
あんまり楽しそうじゃない。
安住の地ダブル確保の先に待っていたのはダブル介護だったり
大好きな母親の死が更年期と重なり、病気になった人もいる。
沖縄を安住の地と定め、早期リタイアして移住した友人も
このほど帰って来た。
本当は、仕事を辞めてブラブラしていると言われるのが辛くて
逃亡したのだと、今になって打ち明けた。
結局私は、安住の地で延々と心安らかに暮らし続ける人を
見たことが無いのだった。
私は、安住の地そのものの存在を怪しみ始めた。
適温適湿、家族円満、経済安定、無事故無違反が
しばらく続いたとしても、明日何か起きれば
安住の地はたちまち消えてしまう。
消える可能性があるのなら、そこはただの通過点に過ぎず
安住の地とは呼べない。
無いんだ、そんなモン。
はかなくて危うい理想郷なんか、無くていいんだ。
無いものを無いと言っている「女三界に家なし」は、正しいんだ。
安住の地とは、場所じゃないんだよ…
探すものじゃなくて、なるものなんだよ…
あんたが周りの人にとっての安住の地となるんだよ…
だから三界に家なんて、いらないのよ~ん…
「女三界に家なし」とは、ミジメな言い伝えではなく
案外こんな積極的な意味かもしれない。
やがて、そうとらえるようになった私である。
あんた、いいこと言うわねぇ!
「女三界に家なし」
これを考えた人の肩を叩いて、そう言いたい気分だ。
この言葉を最初に聞いたのは、中学生の時だった。
良き妻、良き嫁になるために…
例のごとく、祖父の明治教育の一端に含まれていた。
聞いた私はといえば
あら、二階までしか住んじゃいけないんだ…
というオツムの程度。
その教育が何ら功をなさず
裏ぶれすさんだ妻道・嫁道・ケモノ道を歩んできたのは
皆様ご存知の通りである。
その後、色々な所で色々な人から耳にする。
三界とは仏教用語で、欲界、色界、無色界のことらしく
仏教で言うところの“世界”とは、この三つで構成されているそうだ。
つまり「女三界に家なし」は
「女は世界中どこにも安住の地は無い」という意味らしい。
「マゾか!」
若い頃は、腹を立てたものだ。
女性蔑視もはなはだしい!
偉い人が言ったことにして、男に都合のいいように女を縛る気だな!
「女三界に家なし」…みりこん辞典の中で
これは脅迫ということになった。
ところが結婚してシミジミ思うのが、まさに「女三界に家なし」だった。
夫はせっせと女房取り替え作業にいそしみ、追い出しにかかっている。
実家へ帰ろうにも拒否される。
これが、かの有名な「女三界に家なし」か!
どこにも行き場が無くて、絶望のあげく絞り出す言葉が
これだったのね!
みりこん辞典に掲載される「女三界に家なし」は
脅迫から絶望のページへと移動。
お前に家は無いと言われれば、追い求めたくなり
追い求めても無理となると、なおさら憧れる。
安住の地を求めてさまよう私は、いっぱしのヒロイン気取りであった。
そのうち夫の浮気にも慣れて余裕が出ると
女に無いとされる安住の地を、ちゃんと持つ人がいるのに気がつく。
だって、うちには嫁ぎ先から毎日実家に帰って来る夫の姉
カンジワ・ルイーゼ様がおられるではないか。
彼女の夫は銀行員。
大口顧客(あくまで当時)の娘、ルイーゼと結婚できたのを
「男の名誉」と公言し、気を使って下へも置かぬもてなしぶりだ。
もちろん日課の実家帰りは奨励されており
実家も諸手を挙げて娘を迎える。
ルイーゼ、三界に家が無いどころか
実家と婚家の2ヶ所をやすやすとゲット。
全国共通じゃないと知ったこの時点で
女三界ウンヌンには見切りをつけ、時代遅れの遺物として辞典から削除した。
それから幾年月…
「女三界に家なし」は、完全におばさんと化した私の元を再び訪れた。
安住の地をダブルで掌握していたはずのルイーゼが
本当は違ったと知ったからだ。
安住の地が消える!
不変のダイヤモンドではなく、生もの!
これはちょっとした衝撃だった。
そこで再考の必要ありと踏んだのであった。
ルイーゼは相変わらず毎日通って来る。
しかし弟一家に乗っ取られた格好の実家は
もはや彼女にとって安住の地にあらず。
機嫌を損ねて母親を押し付けられたら困るので
別人のようにおとなしくなってしまった。
嫁ぎ先の安住も失われていた。
妻の実家が経営不振で、金融事故予備軍になったことは
銀行員である義兄の立場を日夜脅かし、昇進を阻んだ。
彼の豪語した「男の名誉」は、地に落ちたのだった。
閑職に追いやられた彼は精神を病み
そんな一人息子を案じる、彼の両親の態度も推して知るべし。
金融事故をまぬがれて廃業し、義兄が定年退職した現在も
肩身の狭い状況は続いている。
いつ、何がどうなるかわからない。
私が安住の地保有者と認識していた他の人々も
あんまり楽しそうじゃない。
安住の地ダブル確保の先に待っていたのはダブル介護だったり
大好きな母親の死が更年期と重なり、病気になった人もいる。
沖縄を安住の地と定め、早期リタイアして移住した友人も
このほど帰って来た。
本当は、仕事を辞めてブラブラしていると言われるのが辛くて
逃亡したのだと、今になって打ち明けた。
結局私は、安住の地で延々と心安らかに暮らし続ける人を
見たことが無いのだった。
私は、安住の地そのものの存在を怪しみ始めた。
適温適湿、家族円満、経済安定、無事故無違反が
しばらく続いたとしても、明日何か起きれば
安住の地はたちまち消えてしまう。
消える可能性があるのなら、そこはただの通過点に過ぎず
安住の地とは呼べない。
無いんだ、そんなモン。
はかなくて危うい理想郷なんか、無くていいんだ。
無いものを無いと言っている「女三界に家なし」は、正しいんだ。
安住の地とは、場所じゃないんだよ…
探すものじゃなくて、なるものなんだよ…
あんたが周りの人にとっての安住の地となるんだよ…
だから三界に家なんて、いらないのよ~ん…
「女三界に家なし」とは、ミジメな言い伝えではなく
案外こんな積極的な意味かもしれない。
やがて、そうとらえるようになった私である。
あんた、いいこと言うわねぇ!
「女三界に家なし」
これを考えた人の肩を叩いて、そう言いたい気分だ。