殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

母二人

2023年04月29日 08時19分00秒 | みりこんぐらし
ゴールデンウィーク、始まりましたね!

毎年この時期になると、なぜかワクワクしてしまう私。

これといったお楽しみの予定があるわけじゃないけど

大好きな新緑、過ごしやすい気候、そして若かりし頃の楽しい思い出が

そうさせるのでしょう。


今日は、実家の母のベッドを買いに行きます。

病気はおろか肩凝りすら知らない元気印のまま、一人暮らしを続けてきた母も89才。

腰痛が出てきたので、今月半ばから通院の送迎をしています。

私が実家にかまけるので、義母ヨシコが不安定になって寝込みましたが

今は慣れて落ち着いています。


母の診断結果は、椎間板ヘルニア。

朝の数時間がものすごく痛いそうで、医師からは

「痛みが引かないようならブロック注射か手術しか無い」

と言われました。

が、そこは高齢者、安易に治療すると生命の危険が出てくるため

病院も躊躇して、鎮痛剤を少しずつ増やしながら様子を見ているところです。


そこでとりあえず、ベッドを買うことにしました。

というのも、母は布団派です。

朝は痛みで立ち上がれないため、這ってトイレに行くのですが

ほふく前進を続けるうちにヒジがすりむけ、そっちの痛みまで加算されました。


診察室でダブルの辛さを延々と訴えても、医師は困るばかりでラチがあかないので

「ベッドにしてみたら?」

私が言うと、医師は驚きました。

「ベッドじゃないんですかっ?そりゃ起きられんわ。

布団じゃダメですよ…ベッドにしてください」

医師は、腰痛の老人が布団で寝ていることに驚いたと同時に

思わぬ手段が見つかってホッとした様子でした。


そういうわけで、ベッド買わなきゃ。

置き場所は、一階の祖父の部屋に決定。

母は祖父が生きていた頃と同じく、ずっと二階の自室で寝ていたので

その生活スタイルも変えると決定。

寝具と寝室を変えるとなったら、部屋の模様替えもすることになるため

この連休は実家通いになりそうです。



さて話は変わりますが、5年前の西日本豪雨で

ボランティアをしたのがきっかけとなり

1年前、関東から隣のそのまた隣の市へ移住してきた30代のK青年が

この度、市議選に立候補したことはお話ししました。

そして70代のハッスルレディ、レイ子さんとそのお仲間が

ポスター貼りのお手伝いをすることもお話ししました。


やがて選挙戦が始まると、レイ子さんはK君のポスターを貼って歩きながら

「お仲間シリーズ」という動画を撮影しては、私に送信してくれたものです。

K君と一緒に掲示板に並ぶ立候補者のポスターの中から

これは!という人を選び出して、楽しくレポートするのです。


「こちらは◯◯◯◯さん。

背景が樹木葬のようですね。

このまま天国へ連れて行ってもらえそうな安らぎを感じます」

「◇◇◇◇さん…ポスターには、市民を守ると書いてございます。

とっても頼もしいですね。

いざとなったら自分だけを守らないようにしていただきたいものです」

おしゃべり上手な彼女のレポートは、そりゃもう面白く

私は動画が届くのを楽しみに待った一週間でした。


さてK君の結果は予想通り、見事落選。

地元に知り合いがほとんどいない彼のために

関東から数人の友だちが駆けつけて彼の選挙を手伝ったそうですが

どなたも投票権が無いため、残念ながら当選には及びませんでした。


ただ、ある程度の票はあったので30万円の供託金は返還され

ポスターの制作費用その他、選挙にかかったお金も税金から戻ってきます。

立候補を知る者としては、ひとまず安心というところです。


が、落ちた後がいけんかったですな。

思いつきで立候補して落選する人にありがちなことですが、後始末がマズい。

SNSで、「皆さん、お世話になりました。ありがとうございました」

サラリとしたお礼の言葉に続き、早くも別の活動に手を出す旨を発表。

選挙のことは、それっきり。


年配のレイ子さんは、その薄口な対応を残念に思いました。

「ボランティアは承知でやったんだから、感謝してもらいたいわけではない…

だけど応援してくれた地元の人たちや遠くから来てくれた彼の友だちにも

その態度ではあまりにも失礼ではないのか…」

その点が、レイ子さんの感じる残念な部分です。


私も同感でした。

しかしこれはもう、世代の違いかもしれません。

私ら年寄りと若者では、SNSの重さが違います。

私らはSNSといったら遊びと受け止めていて

その遊び道具で「ありがとう」と言われたら、「ざけんなよ」と思ってしまうけど

若い人にはSNSだのインスタだのが、その人の全てを現す重要なものなのかも。


だけど、やっぱり選挙でこれはアカン。

手伝ったり投票するのは、若い人だけじゃないもの。

年齢層を考えないとね。


何だかスッキリしないレイ子さんは

選挙用に立ち上げたグループLINEを脱会することにしました。

「選挙が終わったので、抜けさせていただきます。

K君のさらなる飛躍を心からお祈りしています」

LINEには、そんなはなむけの言葉を添えたそうです。


それに対するK君の返事は

「ごめんなさい、今までお世話になりました」

以後、K君はSNSでレイ子さんをブロック。

彼女との個人的な電話もLINEもブロック。


K君の母親代わりを自負していたレイ子さんにとって

この仕打ちは衝撃でした。

彼女にしてみれば、グループLINEを抜けることに関して

お互いを思いやった温かいやり取りが行われ

最終的にK君が、自身のそっけないやり方を省みて

次に活かしてくれたら…と思っていたのです。

しかし速攻で遮断されたら、とりつく島もありません。

そこで、どうしようもない気持ちを私に打ち明けたというわけです。


同じ年配者として、レイ子さんの気持ちはよくわかります。

若者の無謀な挑戦をボランティアで手伝い

「お礼の言葉が聞きたかったらインスタ見てね」

じゃあ、バカにされて使い捨てられた気がするのも無理はありません。


が、LINEをブロックしたK君の気持ちもわかるような気がするのが

私の物悲しいところ。

彼は子供の頃に母親を亡くし、父親に育てられていますが

こういう子は人との距離の調節がヘタ。

私がそうだから、わかります。

もちろん例外もあると思いますけど

幼い時に、一番大切な母親との絆を不可抗力によってぶち切られたら

その他の人のことはあんまり考えられなくなって

人との絆を大切に紡いでいく…その根気や誠意が育たないんです。

だから自分のためを思って口うるさく言ってくれる人や

自分に対して思わしくない態度の人を容赦なく切り捨ててしまう。


私もこの性分によって、数々の失敗を重ねてきました。

それでも何とか努力して、一応は年相応の人付き合いができるようになったと

自分では思っています。

できるというより、自分の子供を教材に少しずつ学んで

どうにかそれらしく装うのがうまくなってきたという感じです。

ましてや彼は一人っ子、しかも独身で若いので

この傾向が強いと思いますが、それにしてはまだ彼は、よくやっている方だと思います。


選挙中のレイ子さんは、K君のお手伝いをしながら

ものの考え方や心構えについても、彼に色々とアドバイスしてきました。

彼女から、その細やかな指導をつづったLINEを見せてもらいましたが

微に入り細に入り、まさに母親のようでした。


だけど母親のいない子には、マジでわからんのですよ。

「オバさんが何か面倒くさいこと言ってら〜」

くらいの受け止め方で、ありがたいとは思わない。

両親が長く健在だったレイ子さんに説明しても

こればっかりはわかってもらえないと思うので言いませんが

K君が私と同じ、母親亡くした組合の組合員だとしたら

昔の私のように、口うるさい人と縁を切ってせいせいしているかもしれません。


では、楽しいゴールデンウィークをお過ごしください。

最後になって申し訳ありませんが、お仕事のかた、お疲れ様です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

年度初め

2023年04月21日 11時33分00秒 | みりこんぐらし
世の中には、バカがいるものだ…

語弊はあるだろうけど、久々にそう思った。

と言うのも先日のこと…

その日は私が籍だけ置いている、しょうもない集合体で新年度の総会が行われる。

この4月から会計役員の順番が回って来た私は、仕方なく出席することにしていた。


すると朝、電話が鳴った。

前年度の会計役員、50代のヤッちゃんからだ。

「おはようございますぅ。

あの、会計報告は今日ですよね」

総会では、前年度の会計役員が大ざっぱな会計報告を口頭で行い

細かい内訳は会計報告書に記載して全員に配るのだ。


「そうよ、今日よ…報告書できた?」

悪い予感がした私は、恐る恐るたずねたものであった。

「いえ、全然!」

ヤッちゃんは明るい。

「さっきやろうと思ったんですけど、さっぱりわからないんです」

なおも明るい。

「ヤッちゃん、これから全部やるつもり?2時間後には総会が始まるんよ?」

「はは…やっぱり間に合いませんよね。

それで、みりこんさんにお願いしようと思って電話したんです」

依然として明るいヤッちゃんであった。


彼女は明るくていい子だが、のんびりノビタなのは若い頃から知っていた。

日本で一番有名な新興宗教の、俗に言う二世信者で

選挙の時だけ、お仲間と連れ立って頼みに来るからだ。

信仰に熱心過ぎるからか、年を取るにつれ、ぽわ〜んと浮世離れしてきた様子も知っている。

そんな彼女、近頃は子供が大学生になったということで

パートを二つ掛け持ちして頑張っているそうだ。

つまり、ひどくのんびり屋なのに、ひどく忙しい生活をしている…

そこが私の感じた悪い予感の原因だった。


会計役員は二人いるはずだが、もう一人はフルタイムで働いているので忙しく

この日の総会にも出られないという。

よって、忙しいその人は、昨年4月に会計を引き受けた時点で行う

通帳の名義変更を始め、各方面への届出などの面倒な仕事を先にやり

ヤッちゃんがシメの会計報告をすることになったのだった。


例年なら他人ごとなので放っておくが、次は自分が引き継ぐとなると

心配になってきた私。

「大丈夫?大変だったら手伝うから、早めに言ってね」

ヤッちゃんには、そう言って二度ほど連絡した。

しかし彼女は、その度に大丈夫だと言い切り

「私、ギリギリにならないとできない性格なんで」

と明るく答えた。

その空明るさがますます心配だったが、この子は結婚前

国の機関で事務職だったという、田舎では輝かしい経歴があるため

あんまりヤイヤイ言うのも失礼かなと思っていたのが裏目に出た。


この子、何でもかんでも教祖様を拝めばどうにかなると思ってるんだろうか…

とすら思いつつ

「これから、総会の会場に集合しようや。

通帳と金銭出納帳と印鑑、忘れずに持って来て」

と告げる。


すると彼女…

「通帳はありますけど、出納帳にはまだ何も書いてないから白紙なんです」

「え…?!」

「あるのは通帳と〜領収書と〜それから〜色んな書類がいっぱい…」

「あんたさ〜、1年間、何しよったんよ〜」

「すぐできると思ってたんですよ〜。

だって私ね、仕事を二つ始めたから忙しかったし〜。

みりこんさん、私みたいなのに会計を任せるのは間違ってると思いません?

これからは、そういうのも考えてから役員を決めてもらいたいですよね〜」


「おしゃべりしとる暇は無いけん、わたしゃもう行くよ」

ヤッちゃんのおしゃべりを遮断し

洗濯機の中の洗濯物もほったらかして総会の会場へ急行。

この子のことだから筆記用具も電卓も持って来ないと思い

それら事務用品も持って行く。

その道すがら、私と一緒に今年度の会計役員を務めることになっている

40代のマッちゃんを呼び出した。

「マッちゃん!会計報告がヤバいらしい…助けて!」


彼女は、経理事務のエキスパート。

この子と一緒なら安心ということで、私は今年度の会計役員を引き受けたのである。

年寄りの私が、わけわからんヤッちゃんと二人で頭を突き合わせても

今からでは何もできん。

ここはプロにお出まし願うのじゃ。

自分の秘密が私だけでなく、マッちゃんにまで伝わったと知ったヤッちゃんは

「みりこんさんだけでよかったのに〜」

と不満を口にしたが、そんなことをほざける身分ではない。


マッちゃんもすぐに来てくれたので、無理を言って会場を開けてもらい

会計報告書の作成が始まった。

が、去年の引き継ぎ以来、ヤッちゃんは本当に何もしておらず

彼女が持って来た紙袋には、おびただしい書類や領収書が

メチャクチャに突っ込まれたままの状態だ。


何が何やらさっぱりわからないので

マッちゃんは事務というより推理で作業を進めていった。

私はその横で助手を務め、ヤッちゃんはしょうもないこと…

「私を会計にするのが間違ってる」

「あそこの店のケーキ、美味しいと思います?」

などと関係ないことを延々と口走る。

うろたえて、あらぬことを言っているわけではない。

脱線が通常モードなのだ。

邪魔をするくらいなら、会計報告書が早く出来上がるように祈ってくれた方がマシじゃ。


が、努力も虚しく、総会の開始時刻には間に合わないことが判明。

入出金の処理がずさんなため、マッちゃんの実力をもってしても

収支がなかなか合わないのだ。

やっぱり私では無理だった。


やがて総会に出席する人たちが、続々と会場に入り始めた。

マッちゃんは相変わらず、電卓にかぶりついて計算を続けている。

頭脳で人を助けるその姿は、神々しくすらあった。

ヤッちゃんの崇める教祖様より、よっぽど神だよ。


あと数分で開始時刻という時になって、ようやく収支が合い

口頭で伝える数字が仕上がった。

この数字は前年度の会計役員、ヤッちゃんが言うことになっているが

また脱線したり、あらぬことを口走って数字に突っ込まれたら面倒なので

私が交代。

会計報告書が総会に間に合わなかった理由は

直前にミスプリントが見つかったためで、次の会合で配布すると言っておいた。

難なく通過したので、ホッとしたものである。


総会が終わると、改めて会計報告書を作るための残業だ。

ヤッちゃんの証言が無ければ計算が進まないので

私が一つ一つ彼女に質問、彼女は脱線しながら記憶を辿って解答し

マッちゃんがそのやり取りで推理しながら計算するという厄介な作業を繰り返し

叩き台ができあがったのは、2時間後だった。


マッちゃんはこの叩き台を持ち帰り、報告書を仕上げてヤッちゃんに渡すことになった。

ヤッちゃんの方はそれを人数分コピーして、次の会合で渡すのだ。

「コピー代は、みりこんさんに請求したらいいですか?」

マッちゃんへのお礼の言葉もそこそこに、ヤッちゃんはやっぱり明るい。

殴ってやりたくなった。


ピンチを助けてくれたマッちゃんに、私もお礼がしたいけど

彼女はおそらく拒絶するだろう。

そこで、本来は二人が半年ずつ交代して行う会計の仕事を

私が1年間、全部やると申し出た。

銀行でお金を出し入れしたり、支払い先に振り込んだり持って行く作業を

時間の自由な私がやるのだ。


この団体は使い込みを警戒して会計役員を二人置くシステムだが

やはり警戒の一環で銀行のキャッシュカードも作ってないため

ATMでの入金はできるが、出金はできない。

お金をおろすには銀行の窓口へ行くしか無いので

フルタイムで働くマッちゃんには負担だと思ったからだ。

私からのお礼は時間というわけ。

ついでにマミちゃんの店で買った、マキアージュのリップクリームも付けるぞ。


「本当?嬉しい!平日の昼間に銀行へ行くの、難しいのよ」

マッちゃんは喜んだ。

「その代わり、年度末の会計報告書はマッちゃんが作ってくれる?」

「もちろん!」


この団体、参加しなくなって久しいので辞めようかと考えていたが

マッちゃんみたいな人もいるのだから、もう少し籍を置いておこうと思った。

それにつけても、ヤッちゃんには腹が立つ。

バカはうちの会社だけにいると思っていたが、ここにもいたとはな。

ほんとバカだ、あの子。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

手抜き料理・一応はお花見編

2023年04月17日 09時47分04秒 | 手抜き料理
去る4月5日は同級生の友人ユリちゃんのお寺で、恒例の料理をした。

昨年末以来なので、実に4ヶ月ぶりだ。


この日はお花見。

つまり、お寺の行事ではない。

境内に1本ある桜が咲いたということだった。


以前は行事だろうが花見だろうが、頼まれたら作っていた我々同級生…

正確にはマミちゃんと私、時々モンちゃん。

理由をつけては友だちを呼び、材料費だけで安くランチを作らせ

それを夜も翌日も食べて楽をするというユリちゃんの本音を知ってからは

召集にシブシブ感が漂うようになった。


自分の言動には鈍感だが人の言動には敏感なユリちゃんも、それは感じている様子。

身内の他に、一人か二人の他人を呼んで

家族だけじゃないメンバー構成を装うようになったが、そもそも高齢化じゃん。

付け足しに呼ぶ他人も入院や施設入りで来なくなり

我々に声をかけにくい状況が続いていた。

いつも呼ぶ芸術家の兄貴すら、寄る年波には勝てず入院中である。


しかし敵もさるもの、新たな対処法を編み出した。

料理を作ってもらいたくなると、マミちゃんの経営する洋品店で

服や化粧品を買うのだ。


マミちゃんと個人的に会えば、自然にお寺料理の話も出る。

意地の悪い私より先に、優しいマミちゃんを取り込んで

それを私が手伝う形に持ち込めば、すんなり決まるというわけ。

ここしばらく、ユリちゃんはこの作戦を取っていた。


もちろん我々は、この手口に気づいている。

私は、むしろ諦めがついた。

便利屋として利用されようが、他の料理番と天秤にかけられようが

マミちゃんを手伝うのであれば、多少は気持ち良く参加できる。


けれどもマミちゃんの方は、面白くないようだ。

宮大工が建てた和風建築の豪邸で、お金持ちのご主人と暮らす彼女にとって

親から引き継いだ洋品店は完全なる道楽。

生活がかかってないので売上を気にすることなく

過疎地に生息する老女たちのサロンとして週末だけ店を開けている。


しかしユリちゃんのやり方だと、「買い物するんだから料理してね」

そう言われているようで、何だか嫌な気持ちになるという。

加えて、自分をリーダーみたいに扱われるプレッシャーが大きいそう。

しかし前回から4ヶ月と間隔が空いたし

6月のお祭の打ち合わせも必要ということで、彼女は引き受けたのだった。


そういうわけで、久しぶりのお寺料理。

モンちゃんは、勤務先の農協が窓口入れ替えの日ということで欠席したため

マミちゃんと二人でやった。


この日のメンバーは、合計8人。

他人メンバーは我々を除けば、いつも来て整備作業を手伝うK老人と

公務員OGの料理上手、梶田さん。

梶田さんは入院中の兄貴の代わりに、無理矢理呼んだらしい。


身内部門はユリちゃん夫婦に兄嫁さん、そしてこの日はユリちゃんの従姉妹

ハッちゃんが初お目見えだ。

我々より一つだか二つだか年下で、認知症になった両親の介護のため

関西から帰省中だという。


「ずっと親と一緒だと気が滅入ると思って、気晴らしに呼んだの」

ユリちゃんの何気ない発言を聞いて、マミちゃんは密かに怒っていた。

「私らは、あの人たちの気晴らしの道具なの?!納得できんわ!」

今知ったんかい…選民にとって我々は、最初から道具じゃ。

80才のK老人を見ろ。

車で1時間以上かかる自宅から毎回呼ばれては

老体に鞭打って重労働させられとるぞ。

帰りには兄嫁さんの家にある粗大ゴミを車に積んで

彼の町の廃棄場まで捨てに行くのが恒例じゃ。

あれよりはマシじゃよ。



さて今回の料理は、マジで手抜き。

もう、手の込んだことはせんのじゃ。


『マミちゃん作・スンドゥブチゲ』


豆腐、豚バラ、キムチ、卵なんかを一人用の土鍋で煮たキムチ鍋みたいなの。

貝の出汁というのがキムチ鍋と違うところだそうで

味付けは、スンドゥブ用のレトルト。

私は初めて食べたが、雨が降って肌寒い日だったので温まり、すごく美味しかった。


それよかマミちゃんが、一人用の土鍋を家から8個持って来たのに驚いた。

「家にあった」と言うけど、そんなに無いぞ、普通。


『マミちゃん作・芋餅』


もらったジャガイモがたくさんあったので、作ったそう。

ジャガイモをポテトサラダを作る時みたいに茹でてつぶし

片栗粉、バター、塩をそれぞれ少々加えて練る。

真ん中に溶けるチーズを包んでコロッケみたいに丸め

両面をバターで焼いたら完成だと。

出来上がりが可愛らしい形で、ホクホクと美味しかった。


『マミちゃんの妹作・おから』


マミちゃんの妹が作って、持たせてくれた。

前にもおからを始め、色々作ってくれたが、どれも美味しかった。

今回のおからには、シメジが入っている。

安定の美味しさだった。


『マミちゃん作・キュウリとミョウガとショウガとトマトのサラダ』


ドレッシングは市販のピエトロ。

ミョウガとショウガが、いい仕事していた。


『みりこん作・ミンチカツ』


6月にお寺の夏祭で出すオードブルにしようと思い、試食を兼ねて作った。

去年まではユリちゃんのこだわりでコロッケだったけど、今年はジャガイモが高い。

去年はたまたま、マミちゃんの店のお客さんが一箱くれたので

彼女が作って来たが、今年も祭りの前にイモをもらえるとは限らない。

ジャガイモより高いとはいえ、価格が安定していて入手が容易な合挽きミンチなら

安いタマネギで増量すれば、コロッケとさほど大差無い予算で作れると思ったからだ。


しかもコロッケを作るのは、手間がかかる。

イモを茹でて潰したり、合挽きミンチとタマネギを炒めたりと作業行程が多いのだ。

その点、ミンチカツのタマネギは生でイケる。

合挽きミンチと合わせ、パン粉や卵と調味料をぶち込んで混ぜれば

あっという間にタネが出来上がるのだ。

そのくせ一応は手をかけたように見える、かなりの手抜き料理。

そこで、ミンチカツに切り替える提案をしたわけ。

評判は上々で、この提案はあっさり通った。


『みりこん作・豚バラの味噌漬け』


これは我が実家に伝わる、料理というには簡単過ぎる一品。

豚肉は、バラ肉でもトンカツ用でも肩ロースでもモモ肉でも

少し厚切りのものなら何でもいい。


①味噌汁に使う普通の味噌をボールにたっぷり入れ

酒、みりん、砂糖、ゴマをドバッと投入

ごま油、すりおろしたニンニク、醤油をそれぞれ少々加えて混ぜる

②豚肉1枚1枚に味噌ダレが行き渡るよう混ぜる


④焼く時を考慮して肉を1枚ずつ形を整え直しながら

タッパーがジプロックに入れ、冷蔵庫かチルドルームで2日から4日寝かせる

4日目には、こうなる

⑤焼く時は味噌ダレが付いたままだと焦げやすいので

キッチンペーパーでサッと拭き取ってからフライパンで焼く


味噌ダレは、日数が経つと味噌の塩気が勝つため

普段の自分の好みよらも甘めに仕上げておくと、コクが出て美味しい。

レタスやサンチュなどの野菜と一緒に、忙しい日の晩ごはんにどうぞ。

お酒の肴にしたい人は、味噌ダレの砂糖を少なめにするとキリッとした味になる。


これは何がいいって、柔らかくて美味しいし

味噌ダレはどう作ってもそこそこの味になるのもだけど

何より、数日前に準備が済むので前日や当日にバタバタしなくていいこと。


味噌に漬ける期間は、短いほど味がさっぱりしていて弾力があり

長くなれば柔らかくて濃厚になる。

腐るまで漬けちゃあダメよ。

食べるチャンスを逃したら、冷凍しておけばいい。

焼く時は、室温に戻してからの方が柔らかく仕上がる。


お寺では、炭火焼きにした。

梶田さんが早めに来て、うちの子が釣った魚と共に焼いてくれた。

去年の祭で作った、鶏モモの山賊焼の代替だ。

甘辛のタレに漬けてから焼く山賊焼も簡単ではあるけど

鶏モモは切れ目を入れて成形しても、デコボコしとるじゃろ。

焼くのに時間がかかるんじゃ。

そこで厚みの安定した豚肉。


難点は、豚肉が鶏モモよりお金がかかること。

が、大丈夫。

去年作って大好評だった海老パン…

サンドイッチ用のパンに海老のペーストを塗って揚げる中華スナック…

あれをやめるんじゃ。

品数を減らせば、予算と労働量の問題はクリアできる。

冷凍海老を3キロ買うお金で、豚バラの冷凍ブロックが2個、買い足せるんじゃ。

今年の祭は品数を減らして一品ずつの量を増やし、手抜きに徹する所存。


ユリちゃんのご主人モクネン君もミンチカツ同様

この味噌漬けをたいそう気に入り、祭のオードブルの一品のして

あっさりOKが出た。

あ、モクネン君の許可?

実は全然気にしてない。

私のパフォーマンスよ。

祭りのための試食と言えば、食事会に意義が持たせられるじゃん。

男って、そういうの好きじゃんか。

こうしておだてながら、メニューを変更させてこっちの思い通りにするのは

技術のうちよ。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

春爛漫・7

2023年04月12日 10時39分56秒 | みりこん流
会社は日々、生きて動いている…

愛人の一人や二人、入れたからといってキーキー言ってる場合じゃない…

前回の記事では、そう結んだ。


「それで虚しくないのか…」

人はそう思うだろう。

慣れというのは恐ろしいもので、虚しいと思わない。

それ以上に、会社が面白いというのもある。


利益の問題ではない。

夫は月給制なので、利益の増減が収入に影響することは無いのだ。

面白いのは、こちらの気分がどうであろうと

会社が人間と全く違う意志を持って自転していることである。

もちろん良いことばっかりじゃないし、面倒なことや嫌なこともたくさんある。

それを含めて、私には面白い。

毎日が塞翁が馬なんだから、どうせ別れる男と女に構っちゃおられん。


その面白さは、夫と結婚しなければ入手できなかった。

これには心から感謝している。

夫が色々やらかしてくれるからではなく、彼の業種という物理的なことだ。


製造業や小売業であれば、私は安く使える猫の手の一本として

労働に駆り出されているだろうから、また違った人生を歩んでいたことだろう。

しかし夫の家は、輸送業を兼ねた建設系の卸業。

輸送(広い意味で実家と同じ)、建設(高単価かつ男社会)、卸(利幅が大きい)…

これは私が好みとする業種だ。


得意分野だからこそ、義父は私を警戒して寄せ付けなかった。

未来を託すのは血を分けた娘と息子だけ…

他人の私に触らせるものかという気迫すら感じていた。

夫が駆け落ちしていなくなった時、短期間ながら関わったことはある。

やはり自分に向いていると思ったものだ。


それから約20年後、義父の会社を閉じて本社と合併した以降は

これまた私の得意分野、継子や嫁の身の処し方や

本社側の心理の読み取りが生命線となる。

これがわかる者は滅多といないので、発言権は増した。

好きな仕事に関わることができ、好きなことが言える…この喜びは大きい。

その幸運を手にしながら、夫の行動に目くじらを立てるのは傲慢というものよ。

人は全てに満足することはできない。

皆、「これさえ無ければ」という苦しみや悲しみを抱えて生きているものだ。


ちなみに私の「これさえ無ければ」は、夫の浮気に義姉の里帰りに嫁舅だった。

これらが三つ巴となって、私を苛んだものだ。

けれども40数年の結婚生活を経た今、はっきりとわかったことがある。

三つ巴の三重苦なんかじゃない。

全ては義姉の里帰りが根源。

それを許す甘い親、弟から会社を奪いたい姉、姉の罠に泣く弟、小姑を嫌う嫁…

これで家庭がうまく行くはずが無いのはともかく

私が本当に嫌だったのは彼女の日参だと気づいた。

浮気より、よっぽど嫌だで。


あ、介護と姑仕えも浮気よりきついで。

義父が他界して、一人減ったどころじゃねえぞ。

伴侶というブレーキを失った年寄りは、かなり手強い。


とは言いながら、その代替えなのか、私は健康に恵まれてきた。

明日はどうなるかわからないが、一番大切な健康に恵まれ

好きなことができるのはありがたい。


さらに二人の息子という子宝まである。

この子たちも明日はわからないが、今のところ健康で仕事ができているのだ。

この上、妻として愛されたいだのと、寝言を言ってはいられない。

亭主のオンリーワンになったからといって、それが何になるのだ。

死ぬ時はどうせ一人じゃないか。


オンリーワンが一番大切だと思う人は

それを目指して愛し愛される人生を送ったらいい。

私には必要無い。

要は個人それぞれの優先順位なのである。


この私とて、愛し愛され信頼し合う夫婦に憧れはあった。

しかしこの結婚生活で入手できないことは、わかっていた。

自営業は時間が自由になる。

8時から5時まで拘束されて働き続けることが無いので、疲れない。

つまり夫には暇があり、体力が余っている。

人間、暇があると良からぬことを考えるものだし

体力が余っていれば女でも追いかけようかという気にもなる。


この傾向は夫だけでなく、義父もそうだったし

周囲の自営業者やその二代目たちにも多く見られた。

婚外子を作った知人も、一人や二人ではない。

田舎の自営業者って、浮気するかしないかの二種類しかいないと思う。


そして13年ほど前、義父の会社が危なくなった。

社長が遊んでいるとこうなる例には、すでに事欠かない。

高度成長期とバブル、人生で二つの恩恵を受けて

すっかり傲慢になった町の社長たちは、次々に倒産や廃業へと追い込まれていた。

とうとう、うちの番が来たと思っただけ。


そんな薄氷を渡るがごとくのある日、次男はダンプの給油を突然、止められた。

仕事終わりにガソリンスタンドへ行ったら

「現金でしか給油できない」と言われて、帰るしかなかったのだ。


契約しているガソリンスタンドには、約束手形で支払いをしていた。

ダンプは乗用車と違って、一度に数百リッターの軽油が必要になる。

料金の方も1回の給油が1台につき数万円になるため、それが複数台となると

支払いは1ヶ月で数百万円にのぼる。

それを現金払いでしか受け付けてもらえなくなったということは

会社の信用が地に落ちたことを意味していた。


輸送系の危ない会社を察知し、真っ先に取引を停止するのは

銀行でも車両のディーラーでもなく、いつもガソリンスタンド。

大手のガソリンスタンドは帝◯データバンクなどの情報会社と契約していて

危ない取引先を随時、知らせてもらうシステムが取られている。


危ない取引先とは、一回目の不渡りを出した会社や支払いが遅れている会社のことだ。

その情報を知ることで、ガソリンスタンドは取引停止を決める目安にし

不払いで損益を被らないよう自衛するのである。

私はガソリンスタンドではなく食品会社で事務をしていたが

その時も危ない取引先の情報が、毎日のようにFAXで送信されてきたものである。


ともあれダンプ屋にとって燃料が注げないということは

明日から仕事ができないということだ。

燃料の補給ができなければ、カラで帰るしかない。

ただでさえ経営が厳しいのに、仕事ができなくなったら

「潰れろ」と言われたも同じである。


「現金でしか給油できない」の口上は、取引停止、ひいては出入り禁止を告げる

円滑な言い回しに他ならなかった。

次男がどんな気持ちで帰って来たか。

本人は言わないが、涙が出るほど恥ずかしくて辛かったと思う。


その少し前には、資金繰りのために突然、長男のダンプを売却した。

私はまだ義父の会社がそこまで大変になっているとは知らず

長男が出勤しなかったことで事情をはっきりと把握したのだが

この時も長男の気持ちを思うと、親としてかなり情けなかった。


プータローになった長男は数日後、別のガソリンスタンドでアルバイトを始めていた。

止められたダンプの給油は、そこの社長が「うちで注げ」と言ってくれたので

からくも命拾いをした。

しかしグズグズしていたら、ここにも遅かれ早かれ迷惑をかけることになる。

それを避けたいのに加え、二度と我が子に同じ思いをさせたくないと思った。

この一件が、今の本社との合併を決める決定打となった次第である。


当時の苦労話を聞いてもらいたいわけではない。

性懲りも無く浮気を繰り返す義父と、それを我慢できなくて女に電話をかけたり

薬を飲んで自◯の真似事を繰り返す義母…

夫婦の怒号が響くマイホームがどうなったかを言いたい。

見よ!

彼らが本能のおもむくままにやって来たことが、どんな結果を招いたというのだ。

大切なはずの会社を消滅させて全てを失い、子孫を泣かせただけじゃないか。


彼らの真似はしない…

その決意の前には、たかが浮気、たかが愛人よ。

女の幸せ?妻のプライド?

いらんわ、そんなモン。

私には、我が子と会社という大切なものがある。

この上、女の幸せや妻のプライドまで欲しがるのは欲張り過ぎじゃ。


今回は、たまのサービスのつもりで記事にしてみた。

私は今で十分、幸せだ。

《完》
コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

春爛漫・6

2023年04月10日 08時22分25秒 | みりこん流
話は少し戻るが、最初に「知っている」と言うことが

なぜ礼儀になるのかを説明しておきたいと思う。


あんたらが、ただならぬ関係なのを知っている…

これは浮気者にとって、一番聞きたくない言葉。

これを聞いた途端、アレらが楽しんでいる桃色の世界は消える。

いつまでも、どっちつかずの桃色ワールドで漂っていたいのに

知られてしまったとなると否が応でも現実に引き戻されるのだ。


一方で言う方は「知っている」と短く伝えるだけで、それ以上言わない。

そして以後は、普段通りに接する。

山ほど文句を言いたいだろうが、それでスッキリすることはない。

言葉で追い詰められた浮気者はキレて暴言を吐き、逃げる。

すると、ますます辛くなるだけだ。


黙って耐えろというのではない。

こちらの情報を与えないという、れっきとした戦法である。

戦いは戦略が全て。

どう思っているかを自らしゃべり、情報を与えてしまったら

向こうに余裕ができるので長引くばっかりだ。


妻がどう思っているかがわからなければ、アレらは対処のしようがない。

表向きは平静を装っても、内心はビクビクしているものだ。

妻は、ヘビの生殺しを眺められるというわけ。

生殺しなんて悪趣味!と思わないでもらいたい。

そもそも浮気をして妻を苦しめ、不安地獄に突き落として

生殺しにしているのは向こうだ。

「関係を知っている」という宣言は、“忍法生殺し返し”である。


知っているということを伝えれば、今度は向こうが身の振り方を考える番。

秘密だから、誰も知らないと思うからこそアレらは楽しかったのに

知られたとなると、先行きを考えなければならない。

旦那にボールを預けるとは、そういうことだ。


離婚、慰謝料、噂、あるかどうかわからんが信用失墜による社会的制裁…

そういった現実的なことを考えて、楽しいわけがない。

アレらから楽しさを奪ったら、妻の溜飲も少しは下がって冷静になれる。

冷静な頭で対応すれば心の健康が保てるので、自ら生命を断つなんて考えないし

恨みつらみを泣き叫んで旦那を責め、子供を怖がらせたり悲しませなくて済む。


知っていると告げ、こちらの情報を与えず、普通に接する…

それは、お互いが不必要に傷つかないための技術。

だから礼儀なのである。

これで全てのケースが解決するとは言えないが

文句を言いまくって家庭を修羅場にするよりも

圧倒的にリスクが少ないので、試しにやってみて損は無い。



さて、3日から出勤を始めたノゾミ。

息子たちが言うには社員は皆それぞれ、夫と彼女を見比べて

小指を立てるゼスチャーをしたという。

やっぱり隠せんか。


長男は無関心を通しているが

次男は「トトロより頭がいいから大分マシ」と言っていた。

さらには仕事を教えると言い、張り切って本社から訪れたダイちゃんに

「教え方がヘタだからわかりにくい」などと厳しく連発し

意地悪なダイちゃんがコテンパンにされるのを見て、次男は胸がすいたそうだ。

頼もしい限りである。


「あんたが気に入ったんなら、良かった」

私も喜んだ。

いつまで続くかわからないが、夫の支えになってもらいたいものだ。

家に持ち帰って私にやらせる面倒くさい書類も、ぜひお任せしたい。


ちなみに夫と私は平常運転。

いつもと変わらずよく話し、よく笑い、楽しく生活している。

知っている発言以降、私に「おはようございます」と敬語を使ったり

朝食の後、自分の食器を洗うようになったので、しめしめと思っていたが

しょせん続かない男…

私が言った通り、ノゾミの就職を邪魔する気配が無いとわかったら元に戻った。


夫は、というか浮気者は、女を守りたいわけでは無いのだ。

そんな力なんて無いのは、本人が一番よく知っている。

無いからこそ、装ってみたくなる…それが浮気者。

私が河野常務に電話をかけてノゾミのことをぶちまけたら

自分はものすごく怒られ、ノゾミの就職がオジャンになるのは明白だ。

浮気者というのは自分で自分の顔に泥を塗るような行いをしておきながら 

自分の顔に人から泥を塗られるのを異常に恐れる。

それをされたくいない一心であり、女のことなど実はどうでもいいのである。



ところで、ノゾミの初出勤を待つばかりとなった3月末日。

会社ではちょっとした事件が起こった。

昼が近づき、会社に戻ってきた社員の一人が、敷地内で倒れている男性を発見。

てっきり夫かと思ったら夫のアシスタント、シゲちゃんだったという。

その日の午前中、夫は本社命令で

統一地方選の立候補者の事務所へ顔を出していて留守だったのだ。


未亡人イク子以来28年ぶりとはいえ

愛人を会社に入れる行為を二度までもやらかした夫は

長生きをしないのではないか…

つまりは冥土の土産のコレクションにラストスパートかと思っていたのだが

今回は違ったというわけ。


50代半ばのシゲちゃんも、トトロと同じ頃に入ったので入社2年。

人間は悪くないが、要領が悪いので夫をアシストするどころか

夫にアシストされながら、一向に上達する気配も無いまま何とか勤めている。


意識不明で倒れているのを発見された所へ、ちょうど夫も帰って来た。

シゲちゃんは糖尿病なので、夫は低血糖だと思い

ジュースを飲ませたら気がついたそうだ。

どうして倒れたのか、本人は全然わからないという。


彼は救急車を呼ぶのを嫌がり、自力で病院へ行った。

とりあえず低血糖の処置をしてもらい、その日は早退して数日休むことになったが

2日経っても頭痛が治らないため、夫の提案で市外の脳神経外科を受診。

倒れた衝撃で頭蓋骨を骨折していたことが判明して、そのまま入院となった。

原因は低血糖でなく、脳の細い血管に不都合があったらしい。

幸いにも軽症で、彼は数日の入院を経て先週末に退院し

2週間ほど自宅療養することになっている。


これで一件落着…とはいかない。

仕事中に社員が倒れたとなると、会社はどうなるか。

ただの怪我ではなく、労災として扱うことになる。

各種の手続きを開始して、シゲちゃんの医療費や休んでいる間の手当を

労災保険から出してもらうのだ。


しかし本社の回し者として会社に居る松木氏は

何か勘違いをしているらしく、労災にすまいと必死だった。

これは労災にすると色々調べられて面倒だし、会社の恥になるという

大昔の小さい会社の経営者の考えだ。

今はさっさと労災扱いにして

社員の生活が立ちゆくよう便宜をはかるのが常識であり

労災隠しが発覚したら重い罪が課せられ、社名と責任者の名前が新聞に載る。

そっちの方が、よっぽど恥ずかしくてリスキーだ。


そんなことを知らない松木氏は、病床のシゲちゃんに電話をして

治療費は自分の保険を使うように言った。

経営者でもないのに知ったかぶりをする松木氏は

自分が労災になるのを未然に防いだという手柄が欲しかったのだ。

67才の彼の頭は、永遠にバブル期。

時代錯誤の思考を独断でゴリ押ししては、人に迷惑をかけるのが仕事である。


いくら要領の悪いシゲちゃんでも、この発言には違和感を持つ。

そこで話しやすい次男に相談したところ、次男はとんでもないことだと怒り

即座に本社へ言いつけた。

労災隠しが発覚した松木氏は本社に呼ばれ、社長から激しく叱責された。

怒られただけで、クビにならなかったのが残念なところよ。


このように会社は日々、生きて動いている。

愛人の一人や二人を入れたぐらいで、キーキー言ってはいられないのが実情だ。

《続く》
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

春爛漫・5

2023年04月07日 13時52分20秒 | みりこん流
スギヤマ夫人と自分の関係が、バレてないと思い込んでいる夫。

彼女の入社が私の検疫を無事にクリアしたと感じてホッとしたのか

たずねもしないのにスギヤマ夫人のプロフィールをペラペラと話す。

名前はスギヤマノゾミさん…

年齢は41才…

子供はいない…

教師の資格を持っている…などなど。

また教師だよ、ケッ!


「資格持っとるんなら、うちなんかへ来んでも先生をやればよかろう」

「いや、公務員試験になかなか通らんけん、とりあえずうちへ来ることになった」

「公務員試験通らんのなら、教師じゃないじゃん」

「そりゃまあ…」

「頭のええモンは旦那の給料が減ったら、どこ行って何してもええ、いうことか」

「いや、トトロと違うて仕事の覚えが早い思うて」

「そりゃ頼もしいことで」

「トトロみたいにタバコ吸わんし、ゲームもせんし」


私は唐突に、無表情で言った。

「あんたらの関係は、知っとりますけん」

「…アハハハハハ…」

しばし沈黙した後、夫はうわずった声で不必要に長く笑った。

笑い飛ばして窮地を脱しようとするのは、バレた時にやるいつものパターンだ。

「何か、勘違いしてない?」

さも可笑しそうに言うが、目は真剣でやんの。


「もう嘘つかんでええよ。

スギヤマさんは、バドミントンのお仲間じゃろ」

「……」

びっくりしとる。


最初に京子さんの名前を出した時から

バドミントンを一緒にやっているのはわかっていた。

現在の夫には、バドミントン以外に出会いのチャンスが無い。

京子さんの親戚と言い出したのも、バドミントン繋がりでひらめいた言い訳だ。

ちょっとした共通点を大嘘に発展させるのは、浮気者の常套手段である。


夫は体制を整え直し、説明に入った。

旦那が専務をしているスギヤマ工業の給料が減ったため

仕事に就く必要性を感じた彼女から相談された…

ちょうど空きが出たと言ったら行くというので誘った…

女に何かされたり、就職をパーにされたら立場が無いので夫も必死だ。

空きも何も、こいつが来たがるからトトロを辞めさせたんじゃないか。

浮気が原因で離婚する妻はたくさんいるけど、浮気そのものよりも

醜い芝居や聞き苦しい言い訳が嫌になって別れるのかもしれない。


夫は最終的に、こう主張した。

彼女の入社は本社からもOKが出ているため、今さら無かったことにはできない…

未亡人イク子を入れた前科があるので、私が傷つくだろうと思い

嘘をつくしか無かった…。


聞きたまえ、これが浮気者の優しさというやつである。

本当に優しいのであれば、愛人を会社に入れなければいい。

しかし先に入れてしまう暴挙をやらかしておいて、それがうまくいったとなると

急に妻のショックを心配する優しさが芽生えたというわけだ。

どこかズレているのが、浮気者なのである。


「そういう情けは、かけていらんよ。

あんたが心配しとるのは私じゃなく、私がスギヤマさんの就職を潰すことじゃろ。

そんなことせんけん、安心して」

オトコに就職を頼むようなダサい女、相手にしたらこっちが恥ずかしいわい。


「ホンマにそういう関係じゃないんよ…バドミントンで頼まれただけじゃけん」

最後まで関係を認めない…それが浮気者。

例え今はそうであったとしても、気に入っているから雇ったのであり

バドミントンも一緒、会社も一緒となると、遅かれ早かれ発展するのは決定事項だ。


「バドミントンで就職の斡旋して、藤村みたいにハーレム作りゃええが」

そう言いながら、プッと吹き出してしまったワタクシ。

妻の笑顔にホッとしながらも、藤村発言は衝撃だった様子の夫。

しかし同じことをした夫に、衝撃を受ける権利は無い。


「あと…」

長くなるのは不本意だったが、これは言っておかなければならないので続けた。

「子供に恥をかかしたら、許さん。

それから旦那の会社の景気が悪いんなら、セクハラで訴えられんように。

ええお金になるけんね」


こっちの本社は大きいので、お金が取れると思ったら

そこは夫婦、いつどう変わるかわからない。

スギヤマ工業程度の会社であれば、慰謝料で倒産危機の一度や二度は救えるだろう。


現に一昨年の藤村事件…自分が目をつけた女を運転手として雇い入れ

結果的にセクハラとパワハラで労基に訴えられた事件…以降

本社は顧問弁護士を倍の人数に増やしてハラスメント対策を強化した。

対策は対策でも、訴えられた時の準備ではない。

ハラスメントを行って訴訟を起こされ、会社に損害を与えた社員を

今度は会社が訴えて賠償責任を問うためである。


会社で起きたハラスメントは、やらかした社員本人だけでなく

ついでに会社も訴えられるのが常識。

訴えられたからには、被害者が休んでいる間の給料や慰謝料など

払うものを払わなければ、会社は営業を続けられない。

だから会社は加害者個人に、その損害賠償を請求するのだ。

世の中は、このように変わりつつある。

愛じゃ恋じゃと浮かれる前に、まずそこを考えなければならない時代になったのだ。

本社もこれに倣い、弁護士を増員したというわけ。


藤村の時はお初だったため、何だかんだで合計800万かかった費用は

本社が全額支払って尻拭いをした。

しかし損害賠償システムが発足した現在は

初回の見せしめとして大変な金額を請求されるだろう。


夫が誰を会社に入れようと、私にとって大きな問題ではない。

どうせ、あと数年の社会人生命…

愛人を入れたことが本社にバレてクビになったとしても

退職がちょっと早まるだけよ。

しかし、こやつのせいで損害賠償を負う責任は回避したい。

老後資金どころの騒ぎじゃなくなる。


そうなったら、一応は離婚を視野に入れるかも。

婆さんをほっぽり出して、どこかへ行く…これも魅力的な人生よ。

するとブログの名前はみりこんじゃなくて、おりこんに変えようかの。

気になるのはその程度のことだ。


夫には、最後のひと花を咲かせてやってもいい。

性懲りも無くここまでやるからには

この人、やっぱり長生きしないんじゃないかという予感もある。

そうなった時に、やりたいことを止めた後悔より

思いっきりやらせた満足の方が良い思い出として残ると思うのだ。


それは私の寛大さではない。

年取ってくると、マジでどうでもよくなる。

夫が働いてくれたお陰で子供も大きくなったし、あとは死ぬのを待つばかり。

不安が無いとなると、怒りも湧かない。

今はのぼせ上がっていても、やがて嫌になるか、なられるかで終わる…

これを何十回も繰り返されてごらんよ。

家庭を揺るがすはずの浮気も、ただの習慣に成り下がるぞ。

ああ、浮気を知ってカッカしていた昔が懐かしい。
 
恋ができるのは元気な証拠、「せいぜいお気張りやす」が正直な本心である。


そういうわけで、私はノゾミの入社を承諾した。

ノゾミは4月3日から、元気に出勤している。

《続く》
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

春爛漫・4

2023年04月06日 08時37分44秒 | みりこん流
ともあれ夫が私に内緒で面接を済ませ

スギヤマ夫人の就職を決めてしまったのは、はっきりした。

就職も名前も全部内緒にしたいが、会社へ入れるとなると秘密にはできない。

仕事や宴会で、関わる可能性があるからだ。

そのためには、スギヤマという名をどうしても私に伝えておく必要がある。

そこで夫なりに考えたあの手この手だが、込み入り過ぎてボロが出たというところ。


その名前を聞いた私は、どう思ったか。

ありゃりゃ…である。

それ以外に何と言えよう。

だってスギヤマ工業の社長の姉は、義父アツシの愛人だったサキ子。

つまり今度の事務員にとっては、旦那の伯母にあたる人物だ。

サキ子と今度の事務員に血の繋がりが無いとはいえ

同じ一族に、またゴタゴタを持ち込まれたのは事実である。


ついでに話すが、アツシの愛人サキ子…

嫁ぎ先も実家と似たような製造業で、ボンヤリ亭主に代わって社長を務めていた。

男まさりの目立ちたがり屋で、能力もあったのだろう

商工会を始め様々な団体で名誉職を歴任し、地元の女名士を気取っていた。

アツシより一回り以上年下だが、共通の趣味であるゴルフを通じて懇意になり

お互いの会社も近いことから、アツシは毎日のように彼女の事務所へ入り浸っていたものだ。


そのサキ子も今では後期高齢者となり、病気をして老け込んでしまったが

アツシと付き合っていた中年の頃は小生意気で気位が高く

何につけ実家の名前を出して威張るという、どこぞの娘と同じ人種だった。

たまに選挙で会うことがあったが

「祖父が議員をしていたので選挙には詳しい」

と言って、選挙事務所を束ねようとするのが恒例。

この人の祖父ったら明治の人だで。

偉そうに腕組みをし、口を歪めて小理屈を並べるさまは見苦しく

モンチッチのような外見共々、私は嫌いだった。


もっとも彼女が私に意地悪だったのは

アツシからさんざん悪口を聞いていたため

彼に代わって私に天誅を下していたつもりだったかもしれない。

そういう軽薄な女が、人の旦那と遊ぶものだ。


付き合い始めて何年も経った頃

アツシと彼女の仲を知って怒り狂う義母ヨシコの元へ

友だちを連れて弁明に来たこともある。

私もその場に居たが

「誤解させたみたいで、ごめんなさいね。

私、心が男だからさぁ!アハハ!」

そう明るく誤魔化した後は、全然別の話でヨシコを丸め込んだ気になり

意気揚々と帰ったので呆れたものだ。

田舎の名士という立場上、関係を認めて謝るわけにもいかず

さりとて身の潔白を訴えるわけにもいかず、笑って誤魔化すしか手は無かろうよ。


男だと言うなら、一人で来い。

それでも男だと言い張るなら、短い足でミニスカートはやめい。

私はこの人が、前にも増して大嫌いになった。


アツシとサキ子の仲は10年以上、続いたと思う。

最後の頃になると、サキ子は自分が持っていた宅地をアツシに売りつけた。

軽自動車しか通れない狭い道路が入り組んだ、ややこしい場所にあり

ひと目で値打ちの無い土地とわかる。

そこを高値、かつ現金でアツシに買わせ、自分はその金で別の土地を買った。

そこには程なくスーパーが建って、彼女はボロ儲け。

彼女は買った土地に大型スーパーが来ることを、知っていたと思われる。

その利益で便利な所へ土地を買い、自分の住む豪邸を建てた。


一方、サキ子にそそのかされ、借金をしてまで買ったアツシの土地は

いつまで経っても二束三文。

やがて会社をたたむ時、この土地を買うためにアツシが借りた借金が出てきて

彼が騙された詳しい経緯を知った。

私はサキ子の狡猾を改めて憎憎しく思ったが、悪いのはアツシなんだからどうしようもない。

彼女の方が、アツシよりずっと頭が良かったということだ。
 

が、そんなことはどうでもいい。

とにかくこの名前を、ヨシコに聞かせるわけにいかない。

未だサキ子に恨み骨髄のヨシコ、彼女の身内と聞いただけで逆上するからだ。

近頃のヨシコは、心臓が弱ってきている。

逆上してポックリいったら、うれ…いや、どうするのだ。

ポックリならいいけど生焼けで介護生活に突入したら、どうするのだ。

持ちこたえたとしても、どこへ電話をして何を言うやらわからない。

絶対やる。

これが一番、面倒くさそう。


「たかがそんなことで、大袈裟な…」

経験の無い人は言うだろう。

女房を甘く見ちゃいかん。

生涯忘れない深い恨みと憎しみ…それが浮気の果実である。


そういうわけで、元々この件をヨシコに言うつもりは無かったが

ますます細心の注意を払って秘密を守ろうと決めた。

ヨシコと私は嫁姑、お互いに嫌なことはたくさんあるけど

浮気亭主に苦しめられたという仲間意識も、お互いに持っている。

こんなしょうもないことで、悲しみを与えるのは残酷だ。


それにヨシコが知ると、娘にしゃべらずにはいられまい。

聞いた義姉が手を打って喜ぶのは目に見えている。

絶対に言わんもんね。

前回、会社に入り込んだ未亡人イク子の時は

腹を立てて騒いだ私も今ではオトナ、それぐらいのことはできますけんね。


もっとも私の冷静は、相手の身元がはっきりしていることに由来していた。

時代遅れの製品を製造し続け、12年前の我々のように倒産寸前の会社とはいえ

創業が明治だか大正の裕福な名家として、一応は老舗のプライドを持つスギヤマ工業。

そこの嫁となると、さほど下卑た家から嫁いではいまい。

未亡人イク子を始め、その後も何人か出現したが

親の代から貧乏育ちの流れ者、とにかくどこかの後妻に収まって

何とか生き延びようとするガツガツしたのがいるものだ。

そういう所は無いだろうから静かなだけマシであり、安心感がある。



『礼儀』

相手の素性がわかったところで、妻にはやるべきことがある。

「あなた方の関係を知っています」

夫にはっきりと、そう告げるのだ。

釘を刺すとか、喧嘩のゴングではなく

これは浮気された妻の礼儀だと思っている。


妻としては、色々と考えるものだ。

言ったら何もかもメチャクチャになってしまうのではないだろうか…

このまま黙って耐えて、嵐が過ぎ去るのを待った方がいいのではないか…。


しかし経験上、どっちも無駄な考えよ。

何もかもメチャクチャになるという未来形ではなく

事態はすでにメチャクチャ、過去形である。

そして黙って耐えるのは無理というもの。

初心者は特に無理。

抑えに抑えた感情は、ふとした瞬間に必ず爆発する。

浮気者はつい、そうなるような言動をするものだ。

何も言われない=気づかれてないと思い、だんだん大胆になっていくからだ。


そうなったらもう、感情を抑えることはできない。

売り言葉に買い言葉の怒鳴り合い、罵り合いになる。

それを聞く家族はどんな気持ちがするか。

言いたいだけ言ってしまうので、夫婦の修復も難しくなる。


向こうが悪いのだから、こっちが一方的に責めて終わりと思ったら大間違い。

旦那もやられっぱなしではないぞ。

普段から拾い集めていたこっちの落ち度…

家事の仕方や義理親への態度なんかをデフォルメし

「おめえ、ここまで言うんか?!」というランクの細かいことや

とんでもないことを言い出す。

追い詰められた男は何を言い出すか、わからんのだ。


最初から自分の勝ち戦だと思っていた妻は

旦那の本心を知って大いに驚き、そして傷つく。

そして絶対に許せなくなる。

離婚するのであれば構わないが、どうせ元のサヤに収まるのなら

知っているということは早めに、はっきり伝えた方がいい。

ボールを浮気旦那に預けるのだ。

《続く》
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

春爛漫・3

2023年04月04日 09時44分32秒 | みりこん流
自分のカノジョを会社の事務員として雇う…

夫の目論見を知った時、俄然興味の対象となるのは

誰しもそうだろうが、女の素性。

不倫相手の会社へノコノコ就職する図々しい女は、いったいどこの誰ぞや。

他人の亭主と必要以上に親しくなる女は、そもそも図々しい生物なので

今さら驚きはしないけど、人並みの好奇心はあるってもんよ。


ともあれ現時点ではっきりしているのは、女が亭主持ちであること。

独り者や母子家庭であれば、うちの事務員の給料ではやって行けない。

もっと条件の良い所を狙うはずだ。


トトロの場合は離婚して実家に戻り、自分と子供の生活費は親頼りだったので

小遣い程度の給料でも大丈夫だった。

また、不倫相手の会社に入り込むといったら

思い出されるのは28年前、夫の愛人だった未亡人のイク子。

夫が弁当を忘れて出社したので会社に届けたら

彼女が出てきて受け取ったという、ほとんど喜劇の幕開けにより

私の知るところとなったため、初給料まで滞在できなかったのは気の毒だが

職種は運転手なので給料形態は男と同じ。

経済的に困窮する可能性は無かったはずだ。


よって今回のは扶養家族として配偶者に養われながら

小遣い程度の給料をせしめ、ついでに恋を楽しむクチと断定。

つまり俗に言うダブル不倫というヤツよ。


チッ…

いまいましく思うワタクシ。

だってダブル不倫だと、慰謝料が取れんじゃないか。

何でって、慰謝料請求の訴訟を起こしたら

向こうの旦那もうちの夫を訴えるじゃんか。

非を突かれてお金を取られるとなったら

人はどんなことをしてでも取られないように防御するものよ。

で、弁護士同士で話し合って相殺

あるいは有責割合の多い方が差額を払うことになり

弁護士費用で赤字になる可能性も出てくる。


そして罪は同じ不倫でも、男と女では女の方が有利。

セクハラされた…嫌だったけど怖くて言えなかった…

女は、そんな後出しジャンケンという手がある。

そうなったら、あたしゃ浮気者の女房だけでなく、変質者の女房じゃんか。

バカバカしい。


そういえば変質系でもダブル不倫でもなかったが

その昔、夫が女教師ジュン子と浮気した時は

彼女の父親が婚約不履行で夫を訴えると言ってきた。

児童の父親と知った上で関係を結び、自分たちが不利になるとこれだ。

まだおぼこかった当時の私は、その身勝手な言いぐさに脱力し

人はここまで汚くなれるのかと驚いたのはともかく

女の方が持ち弾は多いことを知った。

こうして一歩ずつスレて行き、今の私ができあがったというわけである。



『劇場への招待』

ゴールデンウィークの不倫旅行は、納骨にかこつけてOKが出た…

就職の方も親しい京子さんの親戚ということにして、無事にクリアできそう…

およそのメドが立ったところで届くのは、舞台への招待状である。


京子さんの紹介だと今一つ弱いのは、私も懸念していた。

なぜなら私が彼女と次に会った時、話が事務員の紹介に及んだら困るではないか。

嘘なんだから言うつもりは無いけど、夫としては心配なはずだ。


親戚どころか何も知らないとなると、気性の真っ直ぐな京子さんは当然、怒る。

誠実なご主人も怒る。

青果店に出入りできなくなったり、店に集まる仲間にそっぽを向かれたり

京子さんとの共通の趣味、バドミントンまで続けられなくなったら

夫は耐えられまい。

それを回避するためには、もうひと押しが必要だった。


そして先日、正確には3月28日、夫は私に言った。

「今度、商工会に新しい制度ができたらしい。

異業種交流制度ってやつ」


その内容を簡単に説明すると…

例えばAという会社があり、そこは人員が余っている。

そして例えばBという会社があり、そこは人を募集している。

そこで商工会はA社とB社を仲介し、人員の余っているA社から

人員の足りないB社へ1年契約で人員を派遣するという。

そしてこの制度を使った場合、B社へ派遣された人員の給料の一部が

国からの補助金で賄われるという話だ。


あるか、そんなモン。

商工会は、いつからハローワークの邪魔をするようになったっちゅうんじゃ。

さあ、国まで巻き込む壮大な舞台の始まりである。


夫は異業種交流制度の説明をした後、おもむろに述べた。

「うちも別の会社から一人、派遣されて来ることになった。

うちは本社が大きいけん、制度のモデルケースになってくれということで

永井部長の所へ話が行ってしもうた。

で、永井部長がすごい乗り気になってしもうて

事務員の就職はワシを飛ばして本社と商工会の話になったけん

ワシはノータッチよ」

今度は夫の天敵、本社の永井営業部長まで登場。

つまるところ、夫は事務員の就職に関与してないことを主張したいらしい。


「それで?」

「それで…スギヤマ工業(仮名)から事務員が来ることになったけん」

スギヤマ工業というのは、とある建築材料の製造工場。

昭和までは元気が良かったが、時代の流れと共に

その製品を使用する建造物がほとんど無くなったため

別の用途を探し求めながら細々と営業している会社だ。


「スギヤマ工業は人が余っとるん?危ないと聞いとるけど、余裕じゃね」

「余っとるというか…これはスギヤマ工業の社長が希望したことで 

事務員を派遣する代わりに本社を紹介してもらいたいらしい。

売上が落ちるばっかりじゃけん、本社のネットワークで販路を拡大したいんだって」

あるか、そんなモン。

自分とこの取引先をよその会社に紹介して

商売の手伝いをしてやるようなお人好しが、どこの世界にいるのだ。


「京子さんの親戚の人は、どうなったん?」

「じゃけん、その人が来る」

「京子さんの親戚が、たまたまスギヤマ工業の事務員で

たまたま商工会の制度ができて、たまたまその事務員がうちへ来る…

すごい偶然」

「ワシはわからんけど、そういうことになったけん」

「名前は?」

「スギヤマさん」

「スギヤマ工業の家族?」

「息子の嫁」

「あそこは嫁が事務しよったっけ?」

「いや、無職で仕事探しよったけん…」

「は〜ん」


夫は何が言いたいか。

自分の女がスギヤマ工業の嫁だと、うっかり自白しているのだ。

2割の事実に8割の嘘を混ぜる…それが浮気者。


最初は京子さんの親戚に決まったと言っておきながら

次は商工会の制度が出てきて、話は広島の本社へ飛び

今度は本社と商工会が決めたと言う。

辻褄が合わないにもほどがある。

そして来るのはスギヤマ工業の事務員でなく、無職の嫁。

様々な登場人物を引っ張り出して撹乱したつもりだろうが

話が長くなって、最初についた嘘を忘れたらしい。


京子さんの名前を出したのは、私を信用させるため。

商工会の名前を出したのは

夫の意思でなく制度だから仕方がないということにするため。

永井部長の名前を出したのは、私の手が及ばないようにするため。

女を守るために考えた、渾身のストーリーだ。

家族は守らないが、よその女は二重三重に手厚く守ろうとする…それが浮気者。


その光景を見るのは、鼻の奥がむず痒くなるような気恥ずかしさを伴うが

本人は演技に一生懸命である。

しかし彼らが、女を最後まで守り切ることは絶対に無い。

女は必ず、途中でいきなり放り出される。

彼らは誰かを守るという、滅多にしない珍行為をする自分に酔っているだけで

女を愛しているわけではないからだ。

酔いが冷めたらいとも簡単に、そしてふいに手を離す…それが浮気者。

いずれにしても大根役者、アカデミー賞は獲れそうにない。

《続く》
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

春爛漫・2

2023年04月02日 09時24分14秒 | みりこん流


『このボケがっ!もとい、庭に咲いてるボケの花』


夫に帰れと言われたトトロは、そのまま来なくなった。

本社が退職手続きに入ろうとしたが電話に出ないので

彼女の親が手続きを代行し、うちとは縁が切れた。


トトロが入社して2年。

今まで辛抱しておきながら、ここに来て強行手段に出た夫。

辞めさせるならもっと早くてもいいはずなのに、何で今頃になって急に?

私は違和感を覚えていた。


2年も勤続させれば、彼女のような子はこのままでいいんだと勘違いしてしまう。

それをいきなり切ったら本人や家族から恨まれて、こじれる可能性が高まる。

仕事や掃除をしないなら根気よく教え、それでも駄目でどうしても向かないとなれば

次の就職が見つかる若いうちに、一日も早く解放してやるのが経営者側の常識ではないか。

それを怠っておきながら、いきなり容赦なくコトを運ぶ…

しかも後から不当解雇で問題にならないように

くわえタバコでゲーム中の姿や睡眠中の姿を密かに撮影して保存する念の入れよう…

これが違和感でなくて何であろう。


夫は普段、思い切ったことをあんまりやらない。

人を退職させるなど、もってのほか。

それができる男であれば、松木氏や藤村なんぞとうに辞めている。

自ら手を下すことができないから、市議のO氏にやらせようとして

長年の友情を壊したのだ。


しかしそんな夫でも、たまに周りがびっくりするような思い切ったことをやる。

ただし、それをやる原動力はただ一つ。

女のためだ。


今回のトトロに対する策は、夫にすればかなり思い切った行動なので

それがどこかの女のためであることは明白だった。

よその女のためなら家出もするし、ヤクザとも争うし、人も辞めさせる…

それが夫である。


ゴールデンウィークの納骨計画と、トトロの急な解雇。

この二つの伏線から、私の出した結論を申し上げよう。

夫は自分の女を会社へ入れるつもりである。


女は仕事を探していて、希望の職種は人気の事務職であろう。

ややこしいことは本社がやってくれるので、資格も経験も必要無い。

給料は少ないが、誰でも…そう、あのトトロでもできるんだから仕事はチョロい。

うちに二人も事務員はいらないので、女の希望を叶えるためにはトトロが邪魔。

そのためにトトロを排除したと見て、間違いない。

可哀想なトトロ。



『始まりはいつもベタ』

始まりはいつも雨…と歌ったのはチャゲ&飛鳥だが

うちの場合、始まりはいつもベタだ。

伏線を張る→突然、大胆な行動に出る→何か厄介なことが起きる。

昔から、このパターン。


そして大胆な行動はすべからく、夫と女には都合が良くても

周りが大迷惑する事態になるのが決定事項。

もはやマンネリの域だ。

我々夫婦の戦いは、いつもこうして幕が開く。


私は夫以外の男性と結婚したことが無いので、浮気者の皆が皆そうだとは言えないが

義父やその兄弟たちを始め周囲の浮気者を観察してきた限り

家庭の浮気問題は、このベタなプロローグによって始まると確信している。

とんでもないことをやらかして家族がびっくりする頃には、邪恋の関係は深まっている。

深まるのは、愛情ではない。

女の前でええカッコしてしまった男が後に引けなくなり、前に進むしか無くなるのだ。


ともあれ、それらを知ったところで私は何も言わない。

この時点で、浮気者が口を割ることは無いからだ。

脳内麻薬によって、恋の予感やら実感やらに有頂天なので、元気いっぱいに抵抗する。

嘘八百並べて、こちらの勘違いに持ち込むべく全力を尽くす醜いあがきを

わざわざ聞いてやるのもアホらしいではないか。


自白して赦しを請い、二度としないと誓うなんて、死んでもやりゃせんぞ。

これを知らずして先走り、感情のままに喧嘩をしたら勝ち目は無い。

嫉妬による、ただの夫婦喧嘩にされてしまう。


その上、一回派手にドンパチやったら、二回目以降が難しくなる。

言い争いが度重なると、こっちが「しつこい」、「疑り深い」ということにされ

あげくは「女房がこれじゃあ、よその女に走るのも無理はない」と

本人からも周囲からも浮気を正当化されて終わりなのは経験で知っている。

憐れな妻は払拭できない疑惑に苦しみつつ、異常者の濡れ衣まで着せられるという

ダブル不倫ならぬダブル理不尽に痛めつけられるのだ。


だから、コトを焦ってはならない。

魚釣りだってそうだろう。

針にかかってすぐに引き揚げたら、逃げてしまう。

糸を巻きながら泳がせ、疲れさせてから一気に引き揚げるのが正しい。


慣れないと、火を小さいうちに消したくて、伴侶を口うるさく問いただしたいものだが

これで消火できると思わない方がいい。

妻に疑惑を持たせてしまうような旦那は、女房が騒ぐ程度のことで

自らの楽しみを葬りはしないのだ。



さて、事務員がいなくなると、新しいのを募集することになる。

水面下では後釜が決まっているにせよ…

いや、実際は後釜が決まっていたからトトロを辞めさせたのだが

夫としては一応、次を探すフリをしなければならない。

ご苦労なことである。


腹は立たない。

私は全くもって冷静だ。

どんな演技をするか、むしろ楽しみにしていた。


疑いを持たれてないと思い込んでいる夫は、これから素晴らしい演技に入る。

バレてないという安堵は、浮気者を俳優にしてくれるものだ。

アカデミー主演男優賞ばりの名演をぜひ見たいではないか。

松木氏、藤村、永井部長…本社のアレらもかなりの名優だけど

夫はそれを超えられるだろうか。


ここでわかる人にはわかると思うが

夫がいつもアレらから煮え湯を飲まされ続けるのは、自分も同類の名優だからだ。

アレらは給料をもらうため、夫は女のためという目的が違うだけである。


ついでに言えば、そんな夫をいつも助けてくれる親友の田辺君を始め

数々の実力者はおしなべて、奥さんを複数回、取り替えている。

我々の業界で、これは珍しいことではない。

如才ない彼らは支払うべきものを支払って上手に取り替えるし

人前でプライベートを話さないので

奥さんと年が離れていて子供が小さめなのを知らなければ、誰も気がつかないのはともかく

彼らと夫は自身の中にある似た部分が共鳴し合い、ウマが合えば最強の絆になる。

だから不器用な夫がアレらにやられたら、全力で助けてくれるのだ。



さて、それから10日ほどが経ち、夫は私に言った。

「新しい事務員が決まった。

京子姉さんに頼まれて、親戚の人を入れることになった。

年は40過ぎらしい」


京子姉さんというのは、夫が親しくしている町内の青果店の奥さん。

年が一つ違いの夫とはバドミントン仲間であり

私も子供が幼稚園の時、一緒に役員をした仲だ。

元銀行員のご主人も、夫とは旧知の仲で、夫婦双方の両親と夫の両親も親しかった。

つまり家族ぐるみで付き合える気のおけない人たちで

夫は毎日、店の事務所でおしゃべりをするのが日課になっている。

「京子姉さんの親戚なら、安心じゃね」

私はその報告を喜んで見せたものである。

《続く》
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする