殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

現場はいま…しばしの平和か・3

2022年05月31日 09時51分17秒 | シリーズ・現場はいま…
夫の親友、田辺君は同業の会社で営業をしている。

同業と言っても、うちは建設資材の卸業と

ダンプによる運送業という二種類の仕事があり

チャーターという名称が出てくる同業者というのが運送のほうで

田辺君は建設資材卸業の方で、同業者である。


彼は県内で、ちょいと名の知れたカリスマ営業マン。

広く、そして深いネットワークを持っているため

たいていのことは彼に聞けばわかる。

夫が永井部長とD産業の関係をたずねると、さっそく調べてくれた。

田辺君も永井部長には何度も煮え湯を飲まされているので、永井関係は燃えるのだ。


2日後、田辺君は会社を訪れて夫に言った。

「永井はD産業から、金をツマんどるわ」

「なんぼ?」

「200」


田辺君の説明によると、永井部長とD産業の社長は

藤村つながりで親しくなったそうだ。

藤村と同じく専属契約をちらつかせ

D社長にたびたび接待をさせるようになったという。


けれども藤村の言う専属契約と、永井部長の言う専属契約には少々違いがある。

藤村は、営業所という狭い範囲の専属だが

永井部長は本社の専属をひけらかすので話が大きい。

藤村にはすでに小遣いを渡していたD社長だが

同じ専属なら永井部長のほうに飛びつきたくなるのは当然である。

永井部長がD社長から200万円を引き出したのが

その流れであろうことは間違いなかった。


永井部長がどうやって200万円をゲットしたか。

その手口は聞かなくてもわかる。

「近々、大きな工事が出る。

その仕事が取れたら、お宅の会社を参加させる予定で動いている。

しかし確実に獲得するためには、ある人物に裏金を握らせる必要がある。

着工すれば元が取れるのはわかっているが、表に出せない金なので

お宅で出してもらえないだろうか」


これは、いにしえより業界で使われる伝統の手口。

うちの義父アツシも、何度か騙された経験がある。

だから、この手口でお金を巻き上げられたと聞いても誰も驚かない。

本当にコロコロと、面白いくらい騙されるのだ。


ただし、この手口を使う相手は吟味しなければならない。

まず年商が数千万から数億までの、小ぶりな会社のワンマン社長が望ましい。

年商が少ないと、お金に余裕が無いので出せず

数十億や数百億を超える規模の大きい会社だと

取締役や金庫番が家族でなく他人になり、人数も増えるので

反対する者が出てきてうまくいかないからだ。


その点、ワンマン社長を騙すのはたやすい。

ワンマン社長というと

人の言うことをきかないワガママな社長さんを想像するかもしれないが

実はそうではない。

お金の管理を始め、経営に関する様々な決定権を社長一人が握る状況を言う。

つまりワンマン社長本来の意味は、ワンマンバスと同じなのだ。


一人の判断で堅実にやっている社長さんもおられようが

中にはワンマン経営を続けるうちに

お金を社長自身の見栄や楽しみに使う割合が増える場合も少なくない。

それを周囲に指摘されると、本当のことだから腹を立てる。

関わるとうるさいので、周囲は黙る。

これを繰り返して名実共にワンマン社長となっていくが

冷静な第三者の干渉が無いため、悪人としては作業がしやすい。

相手さえ選べば、お金を引き出す成功率は高いのだ。

ボヤボヤしていたり、労せず利益を得ようと欲を出したら

たちまちカモにされる…それがこの業界なのである。


ともあれワンマン社長はお金を渡して待つが、朗報はなかなか聞けない。

何ヶ月も待ったあげく、しびれを切らしてたずねると、悪人は軽く言う。

「あの話は、まだ時間がかかりそうです。

でも次の話があって、そっちの方が先になりそうですから

もう少し待ってください」


こうして悪人は何年もの時を稼いで忘れるか諦めるのを待つが

これも伝統の手口。

公にするには金額が少なめに設定してあり、そもそも証拠となる領収が無い。

これで民事訴訟を起こしたら弁護士費用で目減りするし

裏金と知って出したのだから刑事告発もしにくい。

しかし何よりのブレーキになるのは

騙されたことを人に知られるのが恥ずかしいという羞恥心。

そして、このまま待てば本当に仕事が舞い込んでくるかもしれないという期待である。


が、ここにきて永井部長は、200万円のことでD社長に

やいのやいのと責められているらしい。

うるさいD社長に仕事という飴玉をしゃぶらせて

ひとまず静かにさせるしかないではないか。

「D産業を使え」の発言は、そのためだった…

以上が田辺君の話である。


「D産業だけじゃないんよ。

永井は同じ手口で、いろんな会社から小金をつまんどる」

田辺君は言うのだった。

「何でそんなに金がいるんだろうか」

夫の素朴な疑問に、田辺君は即答する。

「ギャンブルよ。

あいつ、女房とは離婚寸前で家に帰れんけん

平日や週末は競輪なんかの場外車券場に入り浸って、夜は酒。

金はナンボでもかかるよ」

「仕事中も競輪しよんか」

「前から時々、尾行付けようるけん、間違いない。

ほとんど毎日、競輪か競馬か競艇。

あっちこっちで不義理しとるけん、今さら営業に行ける所は無いじゃろうね」

尾行まで付けるとは、やっぱり敵に回すと怖い田辺君であった。


永井部長の秘密を聞いた次男は、さっそくある人に連絡した。

「社長よりウワテがいましたよ。

D産業は永井部長から200万、つままれてます」

「え〜?ワシ、50万、負けとるの?」

「惜しかったですね」

「アハハハ!」

電話の相手は、永井部長に150万を借りパクされたF工業の社長。

こんな冗談が言えるF社長の太っ腹に、我々は改めて感心するのだった。

《続く》
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現場はいま…しばしの平和か・2

2022年05月28日 16時39分13秒 | シリーズ・現場はいま…
地元貢献発言から少し経つと、永井部長は何かと用事を作って

何度か会社を訪れた。

M社を使い始めたことは、松木氏から報告を受けているだろうが

自分の目で確認するためだと思われる。

M社のダンプを見て満足げだった…夫は笑いながら、私にそう言った。


そして1ヶ月後の先月、永井部長からアクションが。

やはり請求書で、だまされたことを知ったのだろう。

しかしそのことには全く触れず、彼は松木氏を介して伝言してきた。

「M社はやめて、D産業を使え」


「…D産業?」

松木氏からその名を聞いた夫は、開いた口がふさがらなかったという。

だってD産業は、愛媛県の島にある会社。

県外やん。

あれほどワーワー言うとった地元貢献はどうなったんじゃ。

しかし、それが永井部長なのだ。

直接言いに来たら反論されると考えて、松木氏に言わせたのだ。


そのD産業だが、お初の会社ではない。

取引の実績はある。

藤村が所長だった頃の話だ。


M社と癒着して小遣いを手にした彼は

さらなる利益を得ようと、次男から配車の仕事を取り上げた。

しかしいざやってみると、ダンプは集まらなかった。

当然である。

腹を立てた次男は、親しい同業者に連絡を回していた。

「藤村からチャーターの依頼があったら、断ってもらいたい」

連絡を回した複数の同業者は、横柄な藤村を嫌っていたため

ことごとくが賛同。

その結果、藤村の配車ではダンプが集まらず、次男に泣きつくことが続いた。


やがて彼は、遠い都市部にある同胞の業者に

高速料金を上乗せして仕事を依頼するようになった。

もちろん大赤字。

河野常務から大目玉をくらい、その会社との取引を禁止された。


頼みの綱が切れた藤村。

あちこち当たって最終的に行き着いたのが、愛媛県にあるD産業。

しかし何しろ島から呼ぶので、藤村は日当にフェリーの運賃を上乗せしていた。


いくら藤村でも、フェリーの運賃まで面倒を見ていたら

また大目玉を食らうのはわかる。

大型車のフェリー運賃は、高いのだ。

このままでいいはずは無い。


そこでフェリーの運賃を渋り始める一方、D産業との専属契約をちらつかせ始めた藤村。

専属契約と聞いて、燃えるD産業。

藤村とD産業の癒着は、ここから始まった。


島しょ部にある運送系の会社は、交通の便とフェリー運賃がネックとなって

規模拡大などの飛躍は難しい。

つまりD産業は小さい。

ダンプを抱える小さい会社は、仕事が途切れるのを一番恐れる。

仕事があっても無くても人件費はかかるし

3ヶ月毎の点検と毎年の車検が義務のダンプは

じっとしていてもお金のかかる乗り物だからだ。

藤村に数万円の小遣いを与えるのと引き換えに

安定した仕事がもらえるのなら、言うことを聞く。


D産業はさっそく、ダンプ置き場とプレハブの休憩所を本土に設け

そこに運転手を交代で泊まらせて出勤させることにした。

藤村からフェリー代の悩みを取り除けば

専属契約に王手をかけられると考えたD産業の設備投資である。


が、専属を狙うには場所が遠過ぎた。

フェリー乗り場に近いということで決めたらしいが、うちからはものすごく遠い。

市外のF工業よりもずっと遠い、大市外。

ほぼ隣の県だ。


しかし藤村にとって、そんなことはどうでもいい。

専属契約をエサに、D産業から小遣いをもらうことのみが彼の目的。

これを複数の会社で行えば、彼のフトコロは潤う寸法である。

そのために彼は何としても、次男から配車を取り上げる必要があったのだ。


そして以前お話ししたように、やがて藤村は

自分がスカウトした女性運転手へのセクハラとパワハラで訴えられ

営業所長の肩書きを外されて本社に戻った。

これは本社の措置というより、ハラスメントで労基に訴えられて内容が認められたら

降格処分などのわかりやすいペナルティーに処すのが決まりなのだ。


藤村と縁が切れた即日、夫はM社とD産業を切った。

我が物顔で事務所に出入りしていたM社とD産業の社長や運転手たちが消え

我々は溜飲を下げたのだった。


そして3月、永井部長はそのM社を使えと言い出し

それが不発に終わると今度はD産業を使えと言う。

藤村と癒着していた二社の名前が出たからには、背後にヤツがいるのは明らかだった。

小遣いが入らなくなって、はや何ヶ月か。

一度吸った蜜の味を忘れられない彼が

永井部長をたきつけているのは手に取るようにわかる。


夫は永井部長の命令を断るよう、松木氏に言った。

本土の休憩所がまだあるのか、あるいはたたんでしまったのかは知らないが

いずれにしても遠過ぎて、現実的でないという理由からだ。


松木氏も納得し、その旨を永井部長に伝えた。

すると永井部長、今度はこう言った。

「D産業を使いこなす自信が無いんだろう。

藤村ならできるから、そっちへ行かせて配車をさせよう」

永井部長の最終目的は、これだったようだ。


これには夫でなく、松木氏が激しい反応を見せた。

せっかく藤村より上の次長という肩書きで、こちらへカムバックしたというのに

再び藤村が出入りするようになったら自分の立場が危うくなるからだ。

怒り狂う松木氏に、夫は言った。

「藤村が復帰するなら、俺は退職する。

あいつと一緒に仕事をする気は無い」


藤村といい松木氏といい、つまらぬコモノほど

普段から「辞める、辞める」と口にするので耳タコだが

夫が辞意を表明したのは、この時が初めて。

彼もF工業から誘われているもんで、なにげに強気なのだ。


驚いた松木氏は永井部長だけでなく、本社の上層部にもこのことを伝えた。

藤村の復帰を阻止したい気持ち半分、夫の退職を推進して対岸の火事見たさ半分で

尾ひれをつけて触れ回った様子だが、その結果、夫を引き留めるために

藤村の復帰は消滅した。


しかし、永井部長はD産業をあきらめなかった。

「1台でもいいから、使ってほしい」

今度はした手に出て、頼んでくる。

何かあると思った夫は、いつもの親友、田辺君に調査を依頼した。

《続く》
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現場はいま…しばしの平和か・1

2022年05月25日 08時53分16秒 | シリーズ・現場はいま…
現場は今、ひとときの平和に包まれている。

事務員のトトロが体調不良ということで、しばらく休んでいるが

居ても居なくても同じなので全く支障は無い。

彼女が休んで変化したことといえば、トイレットペーパーが減らないことぐらい。


さて前回の3月、このシリーズは

我々のボスである本社の河野常務が癌の手術でめっきり弱り

さらにコロナ感染したところで終わった。

最悪の事態を想定していた我々だが、彼はこのほど復活を遂げた。

体力の回復と共に気力の方も戻ってきたらしく

再び社内で睨みをきかせるようになった今日この頃である。



話は3月に戻るが、常務がいなくなると踏んでいた永井部長は

すっかり常務気取りとなり、たびたび訪れては無茶な指図をするようになっていた。

中でも最高に迷惑だったのは、地元のM社を使えという命令。

山陰の仕事でF工業の社長から150万円を借りた永井部長が

社長と顔を合わせられなくてF工業の排除に乗り出した経緯は前回、お話しした。


「チャーターは市外の業者でなく、地元のM社を使え。

こちらの言うことが聞けないなら、辞めてもらってかまわない」

永井部長は地元貢献の御旗を振りかざし、配車係の次男にきつく言い渡した。

同席していた河野常務は、病気で弱っていたのもあるが

バリバリの地元貢献主義者でもあるため、この脅迫めいた発言を黙認したものだ。


言うなれば永井部長は、常務の地元貢献主義を利用し

F工業を切るか、次男を切るかの勝負に出たのだった。

しかしこの業界、30代の若い運転手は貴重である。

親バカに聞こえるかもしれないが、10年以上の経験があり

無事故無違反(事故には遭ったが落ち度無し)に加えて

車両メンテナンスや配車までこなす次男のような運転手は、実際に探しても滅多にいない。

それを切り捨ててまで守りたいものが、永井部長にはあるのだ。

守りたいものとは、F社長に借りた150万円の秘密。

彼にとって次男の価値は、150万に満たないということだ。

他に強いて言えば、腰巾着の藤村をこっちへ復帰させたいのだろう。


この一件以来、次男は今後の身の振り方も含めて色々と考えたようだ。

F工業からは引き抜きの話が来ており、次男も行きたがっていたので

彼はこれを機に退職してもいっこうにかまわない。

辞めてもらってかまわないとまで言われたのだから

むしろ良い機会ととらえて、相変わらずF工業を使い続けるのだった。


当初は次男に任せて眺めていた、我々夫婦。

けれどもやがて、夫がソワソワし始めた。

このままF工業を使い続けたら、また永井部長が出てきてゴタゴタするからだ。

そうなれば、次男は啖呵を切って辞めればよかろうが

事故が起きたり、別の思わぬ問題が勃発するのはこういう時だと

夫は長い経験で知っていた。

「あそこまで言われて反抗したい気持ちはわかるから放置していたが

いつまでも感情を優先していると、次男にも社員にも良くない」

要約すれば、それが夫の主張。


これには私も賛成だった。

男の意地もけっこうだが、張る相手が永井ごときではもったいないという理由からだ。

次男が意地を通して退職した場合、永井部長にクビを切られたことになる。

雇用も解雇もヤツの胸先三寸という前例を、わざわざ作ってやる必要は無いではないか。

この子には直進だけでなく、そろそろ汚い手も覚えてもらいたいところである。


以上のことを親子で話し合い、F社長に相談してアドバイスを受けた次男は

地元貢献という永井部長の命令に従うことにした。

F社長のアドバイスは、こうだ。

チャーターは今まで通り、F工業に発注する。

F工業はその仕事をM社に振り、実際のチャーターはM社から来る。

つまりM社はF工業の下請けとなって、F工業に我が社の仕事に参加するのだ。


このような場合、M社は1台につき千円程度の紹介リベートを

F工業に支払うのが業界の常識。

しかしF社長にとって、そんなハシタ金は目じゃない。

永井部長の命令を聞いて、地元のチャーターを使って見せることが重要なのだ。


一方で、F工業は切らずにそのまま。

うちに切られたところでF工業は困らないが、あえて切らない。

これで地元貢献と、F工業を使い続けることが両立するわけである。


やがてF工業からの請求書が届けば

M社を下請けとして使ったに過ぎないことが永井部長にバレる。

けれども知ったところで、彼は何もできない。

こっちはF工業を名指しで手を切れとは、一言も言われてないからだ。

地元を使えと言われたから、言いつけを守ってM社を使っている。

下請けではなく直で使えとも言われてないので、命令にはそむいてない。


F社長にも、文句は言えない。

150万の借りパクがあるからだ。

彼の感じるジレンマは、いかほどであろう。

さすが、上り調子の会社の社長は考えることが違う。

社内に良い手本がいないのだから、よその人に習えばいいのだ。


これに、どのような形で報復してくるのか。

またバカなことを考えつくのだろうが、少々楽しみでもあった。

《続く》
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近時事・誤送金騒動

2022年05月19日 10時16分15秒 | みりこんばばの時事
山口県阿武町で起きた、4630万円の誤送金。

連日に渡ってけっこうな騒動だったけど

間違えて振り込まれたお金を全額使っちゃった24才の男の子

とうとう逮捕されちゃったわね。


妥当だと思うわ。

スマホでネットバンクを利用すれば、銀行に足を運ばなくてもお金を移動できるし

賭け事だってできる時代になったんだもの。

今後も同じようなことが起きた場合に備えて、規範になる前例を作っておくのは大事。

いきなり大金が振り込まれたら常軌を逸してしまうだろうけど

逃げ得は許さないということね。


この事件、町役場の職員のミスが発端だそうだけど

やらかしちゃった職員は生きた心地がしなかったでしょうね。

もちろん今もだろうし、お金が全額戻ってくるまでつらいと思うわ。

想像だけど、振り込まれた青年とグルだったのでは?なんて疑われたりもしたんじゃないかしら。

だって変死体の第一発見者だって、まず最初に疑われるじゃない。

30年近く前になるけど、夫の叔父が自宅で亡くなってた時も

発見した彼の妹、つまり叔母が疑われて警察で取り調べを受けたわ。

結局は糖尿病の低血糖が死因だったけど、兄妹間の確執の有無を何回もたずねられて

その時はずいぶん嫌な思いをしたって、叔母は今だに言ってるわ。


誤送金をやらかしちゃった町役場の職員も

私生活や借金の有無、青年との関連性なんかを調べられたと思う。

実際はどうだか知らないけど、私が警察なら調べ上げるわ。

ミス自体もつらいけど、こういうことが追い打ちをかけるわよね。

だけど人間、本当にうっかりすることって、あるのよ。

お気の毒としか言えないわ。


で、公共機関のミスによる誤送金だけど、まんざら信じられないことでもないの。

実際にあるのよ。

20年ぐらい前の古い話で金額も小さいけど、遭遇したのはひとつ年下の妹。


彼女は一時期、市立の保育園で臨時採用の保育士をしてた。

出産や病気で長期休暇を取る公務員の保育士の代わりに、その保育園で働くのよ。

数ヶ月後、休んでいた先生が復帰したら終わりという不安定な仕事だけど

時給が良くて各種の手当もわりと手厚いので、子育て中の妹は気に入っていたわ。


やがて私立の幼稚園に勤めることになったため、市とは縁が切れて数ヶ月。

妹の口座に、市から約15万円が振り込まれた。

記帳でそれを知った妹は、もらいそびれていた何かの手当だと思ったんですって。

明細は後日、送られてくるんだろう…

手違いで、明細より振込が先になったんだろう…って。

「人間、こういう時は、つい良い方に考えちゃうのよね」

妹は言ってたわ。


そしたら市から電話。

「別の臨時採用者の給料と間違えて振り込んだので、返してください」

さらに

「お金を下ろして明日、窓口へ持って来てください」

とまで言う。


間違えておきながら謝罪もなく、上から目線な口調にムッとしたものの

妹は言われるまま、お金を市役所に持って行って終了。

市にはこの間まで世話になっていたから、妹にしてみれば当たり前なんだろうけど

現実問題、公共機関ってこんなモンなのよ。

公務員だって人間だもの、失敗する時はすると学んだわ。

そして失敗した時は平身低頭で謝るより、高飛車かつ事務的な方が

相手はうっかり従いやすいというマニュアルの一種かもね…とも思ったものよ。


ついでに話せば、誤送金じゃないけど私、年金手帳が2冊あるのよ。

10年ぐらい前だったかしら、ある日突然、年金事務所から封書が届いて

「あんたの年金手帳のデータが情報漏えいで、よそへ漏れちゃったから

新しい年金手帳と新しい年金番号を送ります。

前の年金手帳は処分してちょ」

みたいなことがサラッと書いてある紙と、新品の年金手帳が入ってた。


そういえば、その少し前に年金事務所の情報漏えい事件が

全国ネットで報じられていたわよ。

まさか自分も漏れた一人だったなんてね。


処分しろったって、古い方を捨てる気にはなれないわ。

妹の件以来、お役所仕事は信用してないもの。

「あれは間違いでした、やっぱ古い方を使ってちょ」

なんてことになったら嫌だからね。


そのまま年月が経ち、年金受給の手続きは新しい番号で済ませたけど

あのサラッとした文書と古い年金手帳は、今も持ってる。

年金受給の手続きをしてくれた銀行員に見せたら、驚いてたわ。

若い子だから、この事件があった頃には子供じゃん。

全く知らなかったそうで、扱うのも初めてだってさ。




そういえば、山梨県で発見された小倉美咲ちゃんの白骨遺体。

美咲ちゃんもご家族も、かわいそうでならないわ。

これもどうなってるのかしらん。

発見された状況が不自然なことから、謎が謎を呼んでミステリー状態だけど

変質者の手にかけられたとは思いたくないのが本音。

あんまりだもの。

美咲ちゃんのご冥福を祈ると共に、早期の解明を願うばかりよ。
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お出かけ本番

2022年05月09日 16時23分09秒 | みりこんぐらし
7日の土曜日は、以前から予約していた某ホテルでランチだった。

4日に義母ヨシコ、それから夫の姉カンジワ・ルイーゼ夫婦の4人で

思わぬ行楽に出かけはしたが、私にとってのゴールデンウィークは

この日に絞られていたと言っても過言ではない。


ランチのメンバーは、いつもの同級生モンちゃんとマミちゃん。

ユリちゃんも行きたがっていたが、お寺に代わりの留守番がいないので不参加。

来てもらっちゃ困るかも。

この日のうちらは、来月初旬に予定されているユリ寺の夏祭りに向けて

料理の打ち合わせをするつもりなのだ。


話の中には当然、換気扇もエアコンも無い台所の暑さから

どうやって自分の身と料理を守るかも含まれる。

そのためにはまず、メニューや作る時間帯の計画を立てなければならない。

やみくもに作りたい物を作っていたら、台所の熱が上がってすぐに熱中症だ。

お祭りの食事は昼から夜中まで続くので、時間差をつけて作らないとたちまち食中毒だ。

「貧乏寺だからクーラーは設置できないの!」

暑さのことを言うと不機嫌になるユリちゃんに一刀両断されたら

打ち合わせにならない。


他人にタダ働きをさせるつもりなら、相応の設備投資は必要だと思う。

そうでなければ、暑さに強い国の人に頼むべきだ。

きっと、ユリちゃんの好きなカタカナ料理を作ってくれるだろう。

タロイモとか。


ともあれ目的地は、いつぞや記事にしたお茶の師範…

同級生のリッくんがバイトしているホテル。

ここらじゃ珍しい高級な所である。

あえて古い建物に泊まり、古き良き日本の風情を満喫したい都会の物好きや

外国人がターゲットだ。

悠々自適のリッくんは茶道のかたわら、そのホテルの雑用をしている。

最初にお茶席に行ったのは確か去年の10月だったが

その時に「来月からバイトに行く」と言っていた。


あれからしばらくリッくんとは会っていなかったが

先月、モンちゃんと久しぶりにお茶席に顔を出すと

ホテルの同僚の若い女の子が何人か来ていた。

リッくん、持ち前の紳士的な人懐こさで、すっかりファンを増やしている様子。


我々もそこに混じって盛り上がり、その場でホテルのランチを予約した。

お茶席に来なかったマミちゃんは、事後承諾だ。

年寄りに「いずれまた」は無い。

行きたいと思ったら即決しなければ、先がどうなるかわからん。

楽しみにしていたその日が、とうとう来たのだった。



ランチは3千円と6千円のコースがあるということで、迷わず6千円の方にした。

知人から聞いた評判は「ありきたり」というものだったが

彼女は3千円の方だと言っていた。

値段が二種類あるなら、客単価を考えた場合、高い方が店の推(お)しであろう。

推しを食べてみないと、料理の真価はわからない。

紹介者であるリッくんの顔を立てる意味でも、安い方の選択肢は無かった。


当日の昼前、我々3人はさっそくホテルに向かう。

どう見ても、古びた民家だ。

靴を脱いで、昔ながらの急な階段で二階に上がり

通された部屋は当然ながらフスマで開け閉めする八畳の和室。

畳の上にテーブルと椅子が置かれた、よくある形式だ。

個室ではなく、もうひと組、我々と同年代の夫婦連れが後から来た。



6千円コースのランチ。

前菜《山海の幸》


ここの料理は和洋折衷らしい。

弁当箱に並べられたお猪口(ちょこ)に、あれこれ入っている。

味には工夫が見られたが、品物は法事の会席弁当に詰められた箸休めと

さほど変わりはない。

知人はこれを「ありきたり」と表現したのかもしれない。



椀もの《湯葉と菜の花の吸い物》


シンプルだが、出汁は深みがあって美味しかった。



魚料理《 黒鯛のポワレ・春キャベツのソース》


どこへ食べに行っても黒鯛、つまりチヌが出てくるとガッカリする。

こやつは、うちの冷凍庫にたくさんいるからだ。

おしゃれな緑の帽子は被せないけど、このようにカリッと焼くこともある。

しかし味の方はさすがプロ、うちの息子が釣ってくるのと違って魚の身が厚く

香ばしい仕上がりだ。

鮮やかなキャベツのソースは少し濃いめに味付けしてあり

魚と一緒に食すと相性がぴったり。

ソースに凝ればかなり違うとわかったのは、収穫だった。



肉料理《牛ロースの天火焼き・しいたけのグランメール》


本来のコースでは、焼いた鶏だった。

しかし2,400円を余計に出せば、鶏を牛に変更できるという。

客単価を上げるための罠だと思ったが、そこまで言われたら変えたくなるのが人情。

鶏への未練は残るが、変えた。


出てきたのは、醤油味のキノコの上に

ベビーチーズより一回り大きい牛ロースがふた切れ。

肉の焼き加減は申し分なく、料理人の技量が感じられる。

醤油味のソースはまろやかで、慣れたポピュラーな味とはいえ美味しかった。



飯もの・吸い物《タコ飯と味噌汁》


色は美しかったが、味は普通の薄味。

ユリ寺のお仲間、公務員OGの梶田さんが作るタコ飯の方が旨い。

味噌汁は絹ごし豆腐の入った、やはり普通の薄味。

とはいえ、もうここらまで来るとお腹がふくれているし

その前の肉が濃いめの味付けだったので、味覚が横柄になっていると思われる。


付いてきた漬物は普通のタクアン2枚と、出汁を取った後の刻んだ昆布というカジュアルさ。

力抜いた感あり。



デザート《苺とピスタチオのシブースト》


ケーキの上に横たわる長いのは、ピンクに染めたメレンゲ。

甘くてシャリシャリして美味しかった。

ピスタチオと生クリームと苺の三層になっているケーキは、普通。

苺の下に敷かれているのは、単に崩したクッキー。

いらん。


あとはコーヒー。

普通。


などとえらそうに言っているが、総合的に美味しくて楽しめる食事だった。

盛り付けも器も、田舎のおばさんである私には垢抜けて見えた。

一品ずつ、あれこれと語れる…これは良い食事の証しである。

おばさんは美味しい物ももちろん好きだが

後で楽しく語り合うネタを拾うのはもっと好きなのだ。


しかし何と言っても良かったのは、生野菜のサラダが無かったこと。

あらかじめ作り、出番まで冷蔵庫で保存できるサラダは

調理の手間と仕入れのコストが低い便利な一品だ。


それでいて一皿に数えてもらえ、客の腹はふくれるので店の方には都合がいいが

客の方は、「どこそこの誰べえが作った有機野菜でございます」

なんて言われたって味の差はよくわからない。

そのどこそこの誰べえに酸っぱいドレッシングをかけられて

モサモサパリパリと食べるわけだが、年を取るとそういう食べ方が乱暴に感じられる。

美味しいとも思わないし身体は冷えるし、大人はサラダに辟易しているのが本音だ。


そのためかどうかは知らないが

近年、何でもかんでもサラダを付ける方針から抜け出す、脱サラの店が増えつつある。

ここもそうらしい。

サラダを割愛した分、手間とコストが増えて企業努力が必要だろうが

客にはノーサラダがありがたい。

客に対する店の思いやりと真摯な姿勢…それを感じるのもご馳走のひとつである。



デザートの途中で出されたのが、このサプライズ。


リッくんからのメッセージプレート。

文字と模様は、ソースで手描きしてある。

食べられるのかと思ったら、皿だった。

それにしても“上品に”って、私に言ってるよね。

しゃべりまくった後じゃ手遅れだよ。

ケーキに乗っかったピンクの棒を見て、「魚肉ソーセージ!」

なんて大きい声で言っちゃったし。



さて食事が終わって玄関、いやフロントに降りて支払い。

リッくんの社員割引だかで、15%引きだった。

かなり嬉しいサプライズ。


で、帰ろうとして振り向いたら、リッくんが立っていた。

仕事中だそうだが、フロントが連絡したらしい。

これもサプライズ。

フロントも、入れ替わり立ち替わりお給仕をしてくれる人も若いが

みんなリッくんのことを好きなのは言葉の端々に感じられる。

彼のホスピタリティが、自然に人を惹きつけるのだろう。

良い一日だった。


ユリ寺の夏祭りの打ち合わせ?

すっかり忘れて終わった。
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前代未聞のお出かけ

2022年05月08日 06時52分11秒 | みりこんぐらし
ゴールデンウィークも終わりますね。

皆様はいかがお過ごしでしたか?

今年は3、4、5日の連休が週の真ん中にはまったため

会社の休みがカレンダー通りになって、私は何だか中途半端な気分ですが

気候が爽やかだったのが儲けものでした。


若い頃と違って、まとまった休みに燃えなくなり

人が多い所も苦手なので、どこへも行かなくなった私ですが

今年は4日に出かけました。

山奥村の観光地。


行くつもりはなかったんです。

夫の姉カンジワ・ルイーゼ夫婦が、義母ヨシコを連れて4日に出かけることは

早くから聞いていました。

「やった!静かな家でパラダイスを満喫だ!」

そう思った私は、当日を楽しみに待っていたんです。

嫁が一番嬉しいのは姑の留守。

その留守の理由は外出でも入院でも、あの世でもかまいません。

とにかく留守が嬉しいのであります。


しかし、当日になって気がつきました。

ルイーゼの旦那はパーキンソン病。

近頃は症状が進行し、上半身が横に40度ぐらい傾いてきて

歩行はできますが、かなり困難な様子です。

山奥は基本、歩きが多く、ルイーゼを始めとする一行は土地に不案内。

そこへ病人と、腰の悪い老人を連れて行って大丈夫か…

私の悪い癖、老婆心というやつです。

ひとたび行くと言いだしたら変更や妥協は受け付けず

そのために犠牲者が出たとしても、そのシカバネを乗り越えて進むルイーゼの性格は

亡き義父アツシと同じなので、私は危険を感じたわけです。


ちょうど夫が出かけたため、私は思い切ってルイーゼたちに付いて行くことにしました。

この思い切りは、ちょうど良い季節柄というのもあります。

暑い時期や寒い時期であれば、はなから行かず

訃報を期待しながら家に居たでしょう。


私の急な参加は、ヨシコの説明によって

「一人で淋しいから付いて行く」という形になりました。

私はヨシコのような淋しがり屋ではありませんが

まあ、そういうことにしておきます。


こうしてヨシコと共に、ルイーゼの運転する車へと乗り込んだ私です。

思い返せば結婚して42年、この4人で1台の車に乗ることも

一緒にどこかへ行くことも、一度たりとてありませんでした。

夫とルイーゼが犬猿の仲なので、仕方のないことです。


さて、前代未聞の行楽は始まりました。

車酔いするヨシコは助手席、義兄のキクオと私は後部座席です。

けれども出発してすぐに後悔しました。

久しぶりにルイーゼの車に乗りましたが、彼女の運転がヘタなのを忘れていたのです。

アクセルを強く踏み込んで加速しては急ブレーキで減速する動作を小刻みに繰り返す

激しいドライビングテクニックは変わっていませんでした。


ルイーゼは去年から軽自動車に変えたので

数秒おきの加速と減速が後部座席へとダイレクトに伝わります。

前につんのめったり後ろへ引き倒されたり、激しいドライブでしたが

隣のキクオは慣れたもので、天井の窓際にある持ち手に両手でつかまり

無表情で揺れているのでした。



目的地に着いて花など鑑賞したら、今度は別の観光地に移動してランチです。

ルイーゼは、そこでバーベキューを食べると決めていました。

ちょうど昼どきなので、バーベキューのレストランは長い行列になっています。

老人と病人がいることだし、30分ほど走った場所に

バーベキューではありませんが穴場があるので案内したいのは山々でしたが

ルイーゼの決定を覆すことは許されません。

気ままなヨシコもルイーゼと一緒だとおとなしく並んでいるし

キクオも慣れている様子なので、大丈夫ならいいやと思い、黙っていました。


1時間半後、やっと席に着くことができました。

色々とコースがありますが、メニューの決定権は奢る立場のルイーゼにあります。

彼女が迷わず注文したのは、3人分がセットになって5千円のファミリーコース。

大半が豚肉と羊肉で、牛肉が少しある一番安いやつです。

値段はともかく、3人分を4人で食べるところが感動もの。

レストランも、よく許してくれたものです。


やがて3人分の皿が来ました。

ヨシコは羊肉が食べられないし、他の肉は硬いと言って野菜を

ほぼ菜食主義のルイーゼも野菜を食べていました。

キクオは病人とはいえ、日頃から食欲はかなりのものです。

皆の野菜や肉を焼いているうちに、元々少なかった肉らしい肉は全て彼に食われました。

食べる物が無くなった私は、ごはんに焼肉のタレを付けて食べました。


あ、全然嫌いじゃないです、こういう状況。

むしろ好き。

芋を洗うような所で不味い解凍肉より、笑える思い出。

これこそが大事。

ごはんとタレで、元は十分取れました。


食後は外でソフトクリームを食べる…これもルイーゼが決めていたことです。

こちらも長い行列です。

1時間並んで、やっと買うことができました。

この時、ヨシコとキクオはベンチに座らせましたが、ルイーゼは私と一緒に並んでくれました。

これは、すごいことです。

以前であれば、私はソフトクリームを4個持ち、日陰で待つ彼らに届けるのが当たり前でした。

長い道のりをずっと運転してくれたのもそうですが、ルイーゼは相当丸くなったと思いました。


帰りはルイーゼのナビが仕事をしなくなり、道に迷いました。

そこでこの辺りに詳しい私が、おそれながらと申し出て

口頭にて道案内をさせていただきました。

素直に聞くルイーゼを見るのは、珍しい体験でした。


というわけで、非常に楽しい一日でした。

ルイーゼは、秋にも一緒にどこかへ行こうと言いました。

この4人、けっこう面白い組み合わせかもしれません。
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手抜き料理・マミちゃん復帰

2022年05月05日 08時20分07秒 | 手抜き料理
5月2日は、同級生の友人ユリちゃんのお寺で恒例の料理をした。

この日、お寺料理のメンバーであるモンちゃんは仕事で欠席したが

マミちゃんの方は久々の復帰。

去年の12月初旬以来なので、5ヶ月ぶりの参加である。


この日の人数は7人。

もう一人、公務員OGの梶田さんが来るかもしれないという話だったが

結局来なかった。

だからユリちゃん夫婦に兄嫁さん、そしていつもの芸術家の兄貴と

いつも整備作業を手伝うK老人、そして我々2人である。


「人数分しか作らん!」

マミちゃんは早くから宣言していた。

「しんどい思いをしてたくさん作ったって、ユリちゃんたちの晩ご飯になるだけじゃん!」

ごもっともです。

檀家さんの来る行事で手が足りないならともかく

身内の飲み食いに我々を引っ張り出さなくても、コンビニ弁当でいいじゃないか…

その上、晩ご飯用の折り詰めも欲しいなんて厚かまし過ぎる…

それがマミちゃんの主張。

ごもっともです。


とはいえ兄貴とK老人は、ユリちゃんにとって最も大切な存在。

兄貴は彼女の心の支えであり、しかも去年からユリ寺の総代を引き受けている。

そして元大工のK老人は檀家の中でただ一人、整備作業の要。

このツートップを手作りランチでもてなしたい気持ちはわかる。

来るやら来ないやらわからない気まぐれな檀家とは、扱いが違って当然である。

人数でなく、重要性の問題なのだ。


それほど大事な大事な二人だから、手ぶらで帰らせるわけにはいかない。

兄貴は独り者だし、K老人には認知症の妻と、銀行勤めで帰宅の遅い娘がいるので

晩ご飯を持たせたい気持ちは私にもよくわかる。

それを自分でやらずに他人に作らせるから、ゴタゴタするのだ。

このあたりの微妙なところを調整するのが、私の存在価値ではなかろうかと思うのである。


ともあれマミちゃんが人数分しか作らないと言ったので

私は自ら進んで持ち帰りの分を担当することにした。

だって持ち帰りの折り詰めは、飾らなくていいから楽だもんね。



では料理をご紹介させていただこう。

マミちゃん作『メンタイフライ・タルタルソース』


メンタイフィーレという名称で売られている冷凍の白身魚だ。

が、このメンタイはスーパーで売られている物とはひと味違う。

うちらの地元の魚屋さんが予約販売していて、すごく美味しく、そして高い。

私はこれが食べられると聞いて、楽しみにしていた。


タルタルソースもマミちゃん特製。

マヨネーズに、ゆで卵、玉ねぎ、キュウリ、パセリなどが入っている。

彼女はそれらをとても細かく刻んでいるので口当たりが良く

感動的に美味しかった。

しかしそれよりも感動的だったのは

人数が8人と聞いて、本当に8切れしか作っていなかったことである。



マミちゃん作『ロールキャベツ・トマトソース煮込み』


ハーブやスパイスを多用するマミちゃんの美しい料理には

ちょっと長い名前を付けたくなる。

この日も斜めに飾ったタイムの葉が、おしゃれ。

これも8個だけ作ってある。


味は…半生のトマトの酸味が立って、ひたすら酸っぱかった。

けれどもこの辺にはなかなか売られてないタイムの葉によって

かなりあか抜けた印象になっているため

激しい酸味すら、ひょっとしておしゃれなのか?

この酸味を賛美できない者は、田舎者丸出しのダサい味覚なのか?

と思ってしまう。

つまるところ、裸の王様の心境に陥るのだ。

おそるべし、ハーブの威力。



マミちゃん作『シイタケの肉詰め・ハーブ風味』


9個作ってあるが、私に2個食べさせるつもりだと言った。

マミちゃんの強い決意を感じる。

鶏ミンチの中に、タイムやローズマリー、イタリアンパセリなどのハーブを仕込んであるそうだ。

肉もシイタケも彼女の決意に共鳴したのか、ものすごく硬かったが

とても美味しかった。



マミちゃん作『タケノコと豚バラのピリ辛炒め』


茹でたタケノコをもらったので、作って来たそうだ。

これもあえて少なめの分量。

薄切りにしたタケノコと豚バラを胡麻油で炒め

味付けはオイスターソースと酒、醤油、唐辛子。

タケノコが柔らかくて、すごく美味しかった。

家に帰り、タケノコも豚バラも無いので白菜とベーコンと油揚げで真似してみたら

やはり美味しかった。

マミちゃんには教えられることが多い。

8個の決意とかさ。



今度はみりこん作『アコウ(ハタの仲間)の煮付け』


アコウはこの地方で、鯛より珍重される高級魚。

去年から今年にかけて、アコウがよく釣れた。

そうよ、これは長男が釣って来た。

冷凍していたのを解凍し、生のまま持って行った。


お寺で煮て持ち帰り用にするつもりだったが、ユリちゃんの指示で食卓に出すと

皆、夢中で食べていた。

もちろん「美味しい!」の連発だったが、それは私の技術ではない。

煮魚は一度にたくさん煮ると旨味が倍増し、誰がどうやっても美味しくなるのだ。



『ブリの南蛮漬け』


これも、冷凍庫にあったのを解凍して作った。

いつ釣ったのか、すでに記憶が定かではない。

次男の鮎釣りが始まるので、今のうちに冷凍庫を整理しておかなければならない…

それだけである。


南蛮漬けは前日、あるいは二日前でも作り置きできるので会食には便利だ。

魚を漬ける甘酢に、八角とシナモンをほんの少々仕込む。

すると美味しいわけではないが、不思議な香りに包まれて面白い。


話は飛ぶが、この正月、ユリ寺で開催されたお雑煮会での出来事である。

私は朝っぱらからブリとチヌ(黒鯛)の刺身を作って持参した。

会食が始まるとユリちゃんの姪、つまり兄嫁さんの娘…26才独身…が申しなさった。

「年末に従兄弟が魚をたくさん釣って、料理もしてくれて、すごく美味しかった!

お刺身に、昆布締めに、鯛めしに、南蛮漬けに…」

指を折りながら料理の名を挙げる彼女に、ユリちゃん夫婦と兄嫁さんも激しく賛同し

盛り上がっていた。


こういう時に、こういう思い出を口走るものではない。

「だったらその従兄弟に作らせろよ」

ということになるからだ。

繊細な人であれば

「お刺身だけ持って来たんじゃいけなかったの?」

なんて考えて、気にするだろう。


私は彼女が値打ちの低い娘だと知っているし、ユリちゃん一族も同じなので何とも思わなかったが

この状況をライブで見た夫は驚いたらしい。

「人がこしらえたモンをムシャムシャ食いながら、別の人間の料理をほめるのって有りか!」

帰りにプリプリ怒っていたので、アレらはいつもああなのだ…

感じが悪いから、だんだん人が離れて行くのだ…

と教えてやったら、あきれていた。


そういうわけで八角とシナモン入りの南蛮漬けは、私なりのささやかな復讐。

スパイスやハーブの苦手なお嬢様は、食べられん。

フフ…。



みりこん作『鮎の甘露煮』


これも冷凍庫の整理の一環。

次男が去年釣った鮎は、これで終了。



みりこん作『肉じゃが』


行きがかり上、食卓にも少し出したが、持ち帰り要員として山ほど作った。



みりこん作『ワンタンスープ』


“マルちゃんワンタンスープの素”を使用。

乾燥したワンタンも入っていて、けっこう旨い。

家ではモヤシ、キャベツ、チンゲン菜などの野菜を足すが、この日は面倒くさいのでニラ。

汁碗にはあらかじめ、ネギと細かく切った瓶詰めのザーサイを入れておき

そこにワンタン入りのスープを注ぐ。

ザーサイが、いい仕事をする。


汁物を持ち帰るために自分用の瓶を用意していたユリちゃんだが

残念ねぇ…注ぎ残したワンタンが汁を全部吸っちゃって

会食が終わる頃にはブヨブヨのワンタンだけが残留。



みりこん作『おむすび』



他には小ぶりの鯛が冷凍庫から12尾出てきたので焼いて冷まし

一軒に3尾ずつジプロックに分けて持って行ったが、撮影し忘れた。



ラストは兄嫁さん作のデザート『ヨーグルトポムポム・アイスクリーム添え』


ヨーグルトポムポムなんて、ふざけた名前…と思っていたら

ヨーグルトとりんごで作る、れっきとしたレシピがあるんですってね。

りんご入りの硬い蒸しパンみたいなものでござんした。



やっぱりマミちゃんが参加してくれると、心身共に楽。

マミちゃんがいると、ホンマに手抜き料理になる。

こうして楽しいお寺料理は終わった…と言いたいが

男性陣が帰り、後片付けが終わると、ユリちゃんの愚痴を延々と聞かされた。

愚痴も少々なら聞くが、4時起きで料理をした後、ぶっ続けで3時間はきつい。

次は中断して帰ると心に誓った。
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