殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

アルバートの場合

2020年05月31日 15時39分30秒 | みりドラ
テレビの登場人物が、とらえ方によって

全く違うキャラクターになる…

これって、よくあることではなかろうか。

例えば『サザエさん』。

彼女については、ここでも何度か話したことがある。

フグ田サザエの持つ二面性は、それほど私を魅了してやまない。


表の顔は明るくて楽しくて、家族や近所の人気者。

しかし世間が知らない裏の顔は

一家で実家へ寄生する正当性を主張すべく

弟カツオの無能と劣性をあばき立て

家長である父親からの信頼が薄れるよう画策するのがライフワークの

怖い女。

このギャップが、たまらんわ〜!

そんな視線で登場人物を見ると、テレビが二倍楽しめる…かもよ。


『サザエさん』が日本の家族の物語なら

『大草原の小さな家』はアメリカの家族の物語。

とにかく思いっきりいい男に描かれているパパはともかく

しっかりしているようで取り乱しやすく

付き合っても面白くなさそうなママ

盲目の設定でありながら、ネイルに気を使っている長女メアリー

小さい頃から男を追いかけ回し

それ以外はヒステリーを起こして自暴自棄が習性の次女ローラ…

あ、途中から出てくる盲学校の黒人女教師が

何かっちゅうとソロで長々と歌を歌いなさるんだけど

これがちっとも良くなくて、いただけない…

などなど、思うところは多々あるが

私の視線はつい、中盤以降から登場する少年、アルバートに注がれる。




主人公のインガルス一家は、不作続きの田舎を見限って都会へ移り住み

そこで10才の浮浪児アルバートと知り合う。

彼は養護施設を脱走し、靴磨きや万引きで自活していた。


やがて都会の生活に疲れたインガルス一家は

田舎へ帰ることに決め、アルバートも連れて行く。

頭が良くてスポーツ万能、家の手伝いを頑張るアルバート…

苦しい生活の中、我が子と同じに接するインガルス夫妻…

愛情に満ちた、素晴らしい家族の図である。


が、このアルバート、見ようによっては怖い男の子。

彼を中心にしてこの作品を見ると

世界中を魅了したホームドラマ『大草原の小さな家』は

ホラーの香りが漂ってしまう。


インガルス夫妻と姓が違うことで、級友からいじめられたアルバートは

「本当の親子になりたい」と言い出し、インガルス・パパに養子縁組を要求。

この貧しい一家に資産があればの話だが

これで彼にも遺産相続の権利が発生する。

なんて抜け目の無い子だ。


お人好しのパパは、二つ返事で養子縁組を引き受けたが

手続きの過程でアルバートの実父が浮上し

農場の働き手としてアルバートを欲しがった。

パパとアルバートは粗野な実父を拒否するが

実父は法律を盾にアルバートを取り戻そうとする。


そしていよいよ引き渡されるという時、アルバートはとっさに盲目を装う。

目が見えなければ働き手にならないということで

実父は引き取りを諦め、アルバートは正式に

インガルス夫妻の養子となった。

10才かそこらで、何という悪知恵。

末恐ろしいとは、このことだ。


しかも彼には、本人すら知らない特徴があった。

悪気は無いんだけど、なぜか周りが不幸になる体質だ。

この現象が現れたのは、盲学校の火事だった。


インガルス一家の長女メアリーは

幼い頃に罹患した猩紅熱が元で、少女期に失明したが

盲学校の教師と結婚し、夫婦で新しい盲学校を作った。

赤ちゃんも生まれて幸せだったのに

ある晩、学校が火事になり、メアリーの赤ちゃんと

赤ちゃんを助けようとしたインガルス・パパの親友

ガーベイさんの奥さんが焼死。


火事の原因は、アルバートが友達といたずらで吸った

パイプ煙草の火の不始末だった。

アルバートのせいで、メアリーは我が子を

インガルス夫妻は初孫を失ったわけ。


さすがに責任を感じたアルバートは家を飛び出すが

その行き先は、盲目を装ってまで拒否した実父の家。

けれども実父はすでに他界していたので

探しに来たインガルス・パパと帰り、何事も無かったように元の生活に戻る。

何という身勝手。


そのうちアルバートに思春期が訪れ、一人の女の子と恋に堕ちる。

しかし女の子はある日、変質者に乱暴されて妊娠。

それを知った女の子の父親はアルバートを疑い、娘を監禁した。


会えないとなると、恋は盛り上がるもの。

アルバートは駆け落ちを企て、郊外の廃屋へ女の子を隠す。

それからバイトをしている蹄鉄(ていてつ)屋から金を盗み

逃走資金をゲット。

都会で自活していた頃は、盗みも生活手段の一つだったが

こういう癖は抜けないらしい。


やがて変質者の正体は、その蹄鉄屋だと判明し

インガルス・パパとアルバートは女の子の救出に向かうが

時、すでに遅し。

廃屋でアルバートを待っていた女の子は、再び蹄鉄屋に襲われそうになり

逃げようとして誤ってハシゴから転落死。

やっぱりアルバートと関わったらロクなことはなさそう。


悲しみから立ち直るのが早いアルバート。

何事もなかったかのように、その後も複数の女子と恋を繰り返すが

やがてパパと2人、都会で暮らすようになった。

悪い仲間の影響でモルヒネ中毒に。

インガルス・パパの壮絶な努力で中毒から抜け出すが

最後は白血病になる。

物語はここで終わるため、はっきりと描かれてないが

死以外には無かろうという結末。

結局のところアルバートは、たいして家の役にも立たず

胎児を含めた計4人を死にいたらしめたあげく

モルヒネ中毒と病気で家族を泣かせただけだった。


ところで、本人に悪気は無いのに関わった者がことごとく不幸になる…

いるよね、そういう男。

逆玉に乗ろうとして、アメリカの大学行ってる子とかさ。

アルバートを見ていると、顔が似てるな〜と思ってしまう。

くわばら、くわばら。
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女心

2020年05月29日 09時23分16秒 | みりこんぐらし
来週は、友人ユリちゃんの嫁ぎ先のお寺で

料理を作ることになっている。

仲良し同級生5人で結成する通称5人会、久々の活動である。


コロナのため、お寺の行事はまだ無い。

そこでユリちゃんのご主人、モクネン君の発案で

自粛の間に境内の整備をすることになった。

その奉仕作業をする檀家やブレーンの人たちに、昼ごはんを作るのだ。


境内の奉仕作業はしばらく前から始まっていて

ユリちゃんは毎日、その人たちの昼ごはんを用意していた。

が、料理の苦手なユリちゃんは当然ながらレパートリーが少ない。

しかも日によって人数が違い、身内を含めて概ね10数人という微妙な数。

カレー、ハヤシライス、冷やしうどんの他には

店屋物、買った弁当や惣菜のローテーションしかなく、彼女は疲弊していた。


そこでしゃしゃり出たのが私。

ほら、私は墓じまいの作業中じゃん。

申請の書類には、モクネン君のサインと印鑑も必要。

お陰様で、やっと書類が揃ったので

どうせ近いうちにモクネン君に会わなければならない。

「そっちのお寺でモクネン君に印鑑もらって、ついでに料理も作る」

ユリちゃんに、そう申し出た。

彼女の喜ぶまいことか。

だったらこの際というわけで、5人会で乗り込むことになった。


ここで頼みの綱が、3月まで病院調理師だった5人会のメンバー

けいちゃん。

彼女は定年退職したら即、東京で暮らす娘の所へ行き

母娘で暮らすアパートを新しく借り直す予定だった。

しかしコロナで日延べになり、失業保険が切れる9月まで

こっちに居ることになったのだ。

私はそれを聞いて舞い上がり、けいちゃんに献立を任せてしまった。

調理師にとって献立を任されるとは

トップとして認められることなので、嬉しいものなのだ。


が、これが間違いの元。

この人、調理はうまいけども、献立が惜しいタイプなのを忘れていた。

大皿、小鉢、小皿の三品で構成される薄味かつ食材がチープな…

いわば病院定食しか作らない。

しかも彼女は米が嫌いだ。

寿司系や混ぜごはん系、丼ものを嫌がり

ごはんが進むおかず系も作ろうとしない。


作ってくれてとっても嬉しいんだけど、気分は入院患者…

そんなけいちゃんの料理は、今までに何度か体験していた。

食べる人が喜んだり、華やいだり、思い出になったり

目新しくて楽しかったり、というシチュエーションは期待薄。


今回、けいちゃんの考えたメニューは

大皿・おろしハンバーグ

小鉢・揚げ高野豆腐のあんかけ

小皿・大根の味噌汁

おろしハンバーグで余った大根を味噌汁の実にしたり

おろしハンバーグと高野豆腐に

同じ餡(あん)を使う省エネぶりがけいちゃんらしい。


任せた以上、文句は言えないので

「高野豆腐を揚げた油で、何かもう一品したいね」

と、やんわり水を向ける。

するとけいちゃん、間髪入れず

「冷凍のフライドポテト買うて、揚げたらええやん。

安いし、美味しいで」

ダメだ、こりゃ。


このままではユリちゃんの失望が目に見えている。

ユリちゃんはご主人のモクネン君や檀家、ブレーンに対して

「私の友達、ここにあり!」と胸を張れる状況を望んでいるのだ。

フライドポテトなんか出したら、ユリちゃんの立場が無い。


私はけいちゃんのプライドを傷つけないよう、しかし必死に食い下がった。

「ハンバーグの付け合わせは、レタスとポテトサラダでどう?」

「せやな、ハンバーグだけいうわけにもいかんしな」

「じゃあ、そっちでジャガイモ使うけん、フライドポテトはできんね」

「せやな」

「でさ、高野豆腐とハンバーグが、どっちもあんかけになるけん

片方だけにしたら?」

「じゃあ普通のハンバーグにしたらええやん」


ふ〜、これで少し前進したような気がする。

が、ユリちゃんの密かな希望を満たすには程遠い。

ユリちゃんは、奉仕作業に参加する檀家やブレーンが

珍しくて楽しいと思うメニュー

疲れが吹っ飛んで笑顔になるメニューを嘱望しているのだ。

5人会のメンバーで、がん首揃えてはるばるモクネン寺まで行き

料理を作ったはいいけどこの程度…では笑われそう。


その晩、ユリちゃんが当日のメニューをたずねたので

今決まっていることだけ、伝える。

「ああ…そう…」

やはり反応は、かんばしくない。


「ま…また、練り直すし…」

「そう?悪いわね」

「大丈夫、大丈夫」

そう言って電話を切ったが、全然大丈夫じゃない。

困った…。


思案していたら、ユリちゃんからLINEが。

ユリちゃんから5人会の話を聞いたモクネン・ファンの一人

梶田さんという女性が

「当日はぜひお邪魔して、お料理をいただいてみたい」

と言い出しただめ、承諾したという内容。


このお方とは一昨年、モクネン君の還暦パーティーでご一緒したことがある。

60代半ばの、感じが良くて可愛らしい女性だ。

料理好きの梶田さんは、ユリちゃんの窮状を聞いて

何度か手作りの弁当を差し入れていた。

先日、その写真を見せてもらったが

綺麗で美味しそうな上、別皿でお刺身とデザートまで付いていた。


その梶田さんが、我々の作る料理を試食したいと言うからには

やっぱり女よ…お手並み拝見というところね。

ライバル心、メラメラを感じるわ。

梶田さんが来るなら、その友達2人もセットで乗り込んでくるはずだ。


私は秘策を思いつき、早速けいちゃんに電話をした。

「ちょっとちょっと、けいちゃん!

梶田さんトリオが、うちらの料理を食べに来るらしいで」

「え〜?偵察みたいで、なんか嫌やな」

けいちゃんも女よ…梶田さんの思惑が、すぐにピンときたみたい。


「偵察みたいじゃのうて、完全に偵察じゃ。

あんた、適当なモンで済ませられんで。

目にもの見せたろやないかい」

「わかった!

うち、献立を最初からやり直すわ」


それからのけいちゃんは、献立を考えるのに余念が無く

内容は格段にレベルアップしてきた。

主菜は今のところ

病院食の中で一番ゼニのかかる『牛肉の野菜巻き』

(下茹でした人参とインゲンを牛肩ロースの薄切りで巻き、甘辛く焼いたもの)

病院食の中で一番手間のかかる『鶏の八幡巻き』

(下味をつけて煮たゴボウと人参とインゲンを鶏モモで巻き

タコ糸でグルグル巻きにして、甘辛く煮込んだもの)

これら病院食の双頭が、候補として上がっている。

どちらも切って並べると美しく、食卓が華やぐ料理だ。

恐るべし、女心。
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墓じまい・儀式編

2020年05月27日 08時09分24秒 | みりこんぐらし
前回の記事で、実家の墓じまいについてお話しした。

その時、気が向いたら話すと言っていた

「墓石をただの石に戻す儀式」。

こんなことをしゃべったところで何の役にも立たないだろうが

早くしないと忘れそうなので、お話しさせていただこうと思う。


この儀式は「閉眼式」と呼ばれ

我々一般人に向けては「お性根(しょうね)抜き」

あるいは「魂抜き」と、わかりやすく表現される。

ちなみに新しく建立した墓を起動?させるために行う儀式は

「開眼式」と呼ばれる。


儀式を執り行う僧侶は、同級生ユリちゃんのご主人モクネン君。

彼は市外にある自分のお寺と

後継者のいないユリちゃんの実家のお寺で住職を兼任しているからだ。


当日、母と私は早めにユリ寺の墓地へ行き

花や水、線香の準備をしていた。

するとお寺から、儀式用の僧服を着たモクネン君が

やって来るではないか。

準備を済ませてからモクネン君をお迎えに行こうと思っていた我々は

彼の姿を発見して少々慌てた。

と、モクネン君、私に笑いかけながら、全力で手を振るではないか。

「はて、モクネン君と私って、こんなにフレンドリーだったっけか?」

当惑しつつ、私も全力で振り返す。


口をきかない歴、何十年のモクネン君とユリちゃん夫婦…

その憎たらしい女房の友人である私に

モクネン君は社交上の挨拶はするものの

名前も知らず顔も記憶せずの、どうでもいい存在のはずだ。

しかも今回は彼のお寺の墓地から出て、よそのお寺へ引っ越す。

彼にとって喜ばしいわけがないというのに、この上機嫌。

私はいぶかしんだが、疑問はすぐに消えた。

「カツ丼、次はいつ作ってくれますか?」

挨拶もそこそこに、モクネン君がたずねたからである。


お寺の夏祭で出す屋台と賄いの試食会を3月に行った。

肝心の祭はコロナで中止になったが

彼は試食会で作ったカツ丼のことを言っているのだ。

しかもモクネン君、私のことを親しげに「みりこんちゃん」と呼ぶ。

これはミホトケのなせる技か、それともカツ丼の威力なのか…。


ともかくモクネン君のリードで、儀式は開始された。

モクネン君はまず、墓の隣に設置された墓銘碑をしげしげと凝視。

それから刻まれた一人一人の名前を呼んで

「早くに亡くなられましたね」

などと、各自にしみじみとしたコメントを付ける。

父のところでは

「お父さんは、苦労なさいましたね」

「わかるんですか?」

「法名をたくさん見させていただいていると

わかるようになるんですよ」


ハハ〜!

私の心は、彼にひれ伏すのだった。

彼の持つ霊性というよりも、プロの仕事にである。

墓をしまうというのは、故人や遺族それぞれに様々な思いがあるものだ。

その思いを一つ一つ、敬意を含んだ柔らかい言葉で溶かしていく…

この行為にプロの真髄を見たからであった。


ユリちゃんにとっては冷酷な夫であっても

彼を心から慕うブレーンはたくさんいる。

そしてユリちゃんもまた、夫としては彼を憎みながらも

僧侶としての彼を尊敬している。

その様子は一種不思議な光景に見えていたが

今、謎が解けたような気がした。



さて儀式の手順としては、まず線香に火をつける。

本数は、墓に入っている5体の遺骨×2本で計10本。

それを2本ずつに分け、線香立てに立てる。


線香が立つとモクネン君の読経が始まり

最初に彼から教わった通り、母と私はヒシャクを手にする。

墓石の文字が彫ってある面から始め

墓銘碑、石灯籠、石のベンチに、ヒシャクで静かに水を流すのだ。

それが終わると儀式は終了。

お布施を渡して解散という運びである。


儀式が終わったところで、モクネン君が言った。

「灯籠とベンチは、お寺で引き取ろうと思いますが

いかがでしょう」

「えっ?…」

考えてもいなかったので、母も私も驚いて聞き返す。

半世紀前、祖父が張り切って灯籠やベンチを設置したために

処分の費用が余計にかかるのを覚悟していた母にとって

モクネン君の提案は、願ってもないことだった。

私もまた、墓が無くなることにせいせいするような

寂しいような複雑な気持ちを抱いていたため

何かの形で残してもらえるのは、願ってもないことだった。


「ふさわしい場所を考えて、境内に設置したいと思います」

「そ、そんなサービスが…?」

私が思わず言うと、モクネン君がハハハと笑うではないか。

彼が笑うのを初めて見たような気がする。


「灯籠とベンチで、みりこんちゃんを引き寄せるんですよ。

みりこんちゃんは灯籠を眺めたり、たまには磨くために

度々ここへ来ることになります。

カツ丼を作ってくれる機会も増えることでしょう」

「そういうこと…ですか…」

「そういうことです」


さすが、合理主義のモクネン君。

灯籠とベンチを引き取ることで

お寺の万年人手不足を解消する算段である。

が、計算高いばかりではない。

そうすれば母も私も、それぞれの立場で心が安らぐのを

長い経験から見抜いているのだ。


こうして閉眼式は無事終わり

その後、お寺でモクネン君と懇談。

我々が行き詰まっている「死者の死亡時の本籍」

について相談し、的確なアドバイスをもらって帰った。

「今度入る納骨堂の住職さんより

よっぽど人間ができてて頼りになるじゃん」

母は感心しきりだった。
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墓じまい

2020年05月23日 16時16分25秒 | みりこんぐらし
実家の母が墓じまいを言い出してから、1年ほどになる。

それまでは「入りたい子は、うちの墓へ入ったらいい」

と言っており、仏道上、それが可能かどうかを菩提寺にたずねて

「全く構わない」という回答をもらっていた。

そこで我々三姉妹は漠然と、死後の再会を楽しみにするのだった。


私はおそらく婚家の墓へ入るだろうから

そのお楽しみが叶わないのはどこかでわかっている。

わかってはいても、永遠の眠りに際して選択肢があるというのは

そこはかとなく嬉しいものだ。


私なんぞ、うっかり義父母の墓へ入れられたら

死後も働かされそうな気がする。

夫の姉カンジワ・ルイーゼも

嫁ぎ先でなく実家の墓へ入りたがっていて

義母も歓迎しているため、うかうかしていたら

今の環境が墓の下までも続きそうな感触。

彼らから永遠に解放されることが無いとなると

いくら呑気な私でもゾッとしてしまう。

死んだら、ごはんも掃除も洗濯もいらないだろうから

心配するほどでもないとは思うが

どこまでも我を通す彼らに、死後も屈する自分が嫌なのだ。


かといって今度は私が我を通し、義父母とは別の墓を作るとなると

子供たちの墓参りが増えて負担になる。

散骨や永代供養などの別ルートの他に

実家の墓へ入る手段もあるというのは

私にとって、一つのともし火であった。


しかし去年、菩提寺が納骨堂を作ることになった。

それまで菩提寺には墓地が無かったので

檀家は別の墓地に墓を建てるのが慣例だった。

例えばうちの場合、宗派の違う別のお寺の墓地に墓を置いた。

その宗派の違うお寺というのが、仲良しの同級生ユリちゃんの実家である。


母は菩提寺の納骨堂に魅力を感じ、申し込んだ。

一軒あたり6体まで納骨可能、永代供養付きなので

子孫が絶えても大丈夫というシステム。

うちの墓にはすでに5個の遺骨があるので、母が最後の6体目になる。


今年87才になる母は

自身の生命の終わりを気にするようになり

ちょうど同じ頃、何百年も墓地を持たずに来た菩提寺が

納骨堂を作ることになった…

こういうことは全て、巡り合わせという縁であり

生きた人間の気持ちでどうにかなるものではない。

そのことは家族が死にゆくたびに実感してきた。


先着6体なので、我々姉妹の入る余地は無い。

天だか、み仏だかは、我々姉妹が入ることを良しとしなかった。

「あんたはあんたの道を行きなさい」ということなのだ…

私はそうとらえた。

同時に母の意志を尊重し、できることを手伝おうと決めた。



改葬作業は母の希望により、先週から開始の運びとなった。

まず新しい納骨堂を見学に行って、入る場所を決め

住職の説明を聞くところからだ。

噂には聞いていたものの、墓を移転させるとは

人間の引越しと違って大変なことらしい。

墓のあったお寺と、新規に受け入れるお寺同士が

了解し合えばいいというものではなかった。


①まず墓のある自治体、つまり市役所で

改葬申請書や承諾書というタイトルの紙をもらう。

②同時に死者の死亡時の本籍がわかる戸籍謄本を

1人分ずつ発行してもらう。

③戸籍謄本を参考にして、改葬申請書と承諾書に

遺骨の主、つまり死者の死亡時の日付、本籍、住所、氏名を全員分

一体ずつ記入する。

④現在の墓地を管理するお寺から

改葬申請書と承諾書に住所、氏名、印鑑をもらう。

⑤受け入れ先のお寺に、遺骨受け入れ許可書をもらう。

⑥こうして仕上がった書類に戸籍謄本を添えて市役所に提出する。

⑦書類に不備が無ければ、後日市役所から改葬許可書が交付される。

⑧今までの墓から遺骨を取り出し、石材店に依頼して墓石を撤去し

更地にする。

⑧市役所から交付された改葬許可書を

遺骨を受け入れるお寺に提出し、納骨。


改葬の行程は以上の8段階だが、④の段階で

今の墓地の僧侶に読経をしてもらう必要がある。

墓石を単なる石に戻す儀式だ。

ユリちゃんのご主人モクネン君のスケジュールに合わせたので

儀式は先日、先に済んでしまった。

この時のことは、気が向いたら記事にしたい。

そしてもちろん新しい納骨堂へ入居したら

新居となったお寺の僧侶に読経をしてもらう手順も加わる。


さて、戸籍謄本の収集だが、1人だけや夫婦だけなら簡単でも

うちの場合、戦前から何十年にも渡ってポツリポツリと死んでいるので

その間に住所の改訂があったり、本籍を今住んでいる町に移したりで

死亡時の本籍の表記がそれぞれ異なる上

本籍や住所が市外に及ぶものもある。

難航するのは明白だった。


怠け者の私は、自力で取れそうな謄本だけ取り

難しそうなのは司法書士か行政書士に依頼して

戸籍を追ってもらおうと提案した。

しかし母は、家のことが他人に知られるのを嫌がる。

だからあっちの市役所、こっちの市役所とハシゴをするしかない。

やっと探し当てたら、今度は該当する謄本を発行するためには

私が直系の子孫である証明が必要だという。

役場の人が言うには、母は父の妻なので父の謄本は取れるが

亡き祖父母にとっては嫁という義理の関係であり

私の実母となると、赤の他人ということになるため

直接血の繋がった私の方が簡単に取れるという話だった。


そこで父以外の謄本は私が取ることにしたが

結婚で苗字が変わっているので

旧姓から今の名前になったことを表す謄本を提出しなければならない。

また最寄りの市役所へ戻って自分の謄本を取り

再度、別の市役所へ持って行く…

ここしばらくは、そんな作業をしていた。

そしてごく簡単だった父と祖父

ちょっと難航した私の実母と祖母の4人分の謄本までは

ようやく集めることができた。


残るは出生後、間もなく死亡した私の叔母、京子ちゃんの謄本。

遺骨はあるものの、出生届を出しているか…

つまり戸籍があるのか無いのか

それを知る人は皆死んでいるのでわからない。

母と祖母の謄本から

おそらく京子ちゃんも生まれたであろう町の名前が判明したので

今度はそこの区役所へ行ってみる予定。

私の心は早くも司法書士に傾いているが

顔を知らない叔母に、姪としてできることを

やってみたい気もしている。
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ゆったりウィーク・その後

2020年05月15日 09時45分16秒 | みりこんぐらし
前回の記事で、夫が社用車を返したことをお話しした。

これは我々が思っていた以上に影響が大きかったようで

先日、河野常務から

「頼むけん、乗ってくれ」

と電話があった。

常務は詳しいことを話さないが

会社から貸与された車を放置したままというのは

都合が悪いらしい。

常務は、夫が反抗心ありとみなされるのを心配し

また、ダイちゃんの越権行為が問題になるのも心配しているのだ。


常務は決して情無なんかではなく、大変情に厚い人である。

が、情に厚い分、人を見る目が無い。

営業のできない営業課長、松木氏も

仕事のやり方すら知らない昼あんどんの藤村も

彼が面接して中途入社させた。

仕事のデキる芝居がうまい永井営業部長を重用するのも

腐りきった宗教バカのダイちゃんをかばうのも

人を見る目が無いからであろう。


しかし、常務に人を見る目が無いことで

一番恩恵を受けているのは他でもない、我々一家だ。

彼に人を見る目があったなら、我々は鼻にも引っ掛けられないだろうから

合併は無かったはずだ。

よって、松木氏や藤村を会社に送り込まれ

取引や信用を滅茶苦茶にされたり

永井営業部長の嘘や芝居で煮え湯を飲まされたり

ダイちゃんの宗教勧誘に疲れ果てても

救済された代わりに起こる副作用だと思い、黙って我慢してきた。


だから今回も、恩人である常務を苦しめるつもりは無い。

しかし夫は、すぐに社用車を使う気になれない様子。

ダイちゃんの行いは、それほど陰湿であった。

膨大な請求書の中から

夫が過去1年間に使ったガソリン代を抜き出して一覧表を作成し

「1年間でいくら使った」なんてネチネチと責められたら

感じが悪いのを通り越して気色が悪いじゃないか。

そこで気色の悪さが収まったら、再び社用車に乗る予定でいるが

いつ収まるのかは不明である。


この一件でワリを喰ったのが、昼あんどんの藤村。

彼は昼あんどんでもあるが、おしゃべりでもある。

先月はうちの次男が風邪の症状を訴え、受診のために休みを取ったら

本社を始め支社支店のことごとくに

「とうとうコロナが出た」と言いふらした。

単に口数が多いだけでなく、わざと騒ぎを大きくするタイプ。


その彼が、ここ数日はしおらしい。

かなりガックリきていて

「ワシ、いつまで持つかな…」

などとつぶやく。

原因は、やっぱりダイちゃん。


夫のガソリン代にいちゃもんを付けたダイちゃんの話が

藤村によって拡散されたことはお話しした。

藤村のことだから、いつものように尾ひれを付けて吹聴したのは

聞かなくてもわかる。

彼は60才を過ぎた年寄りの夫を蹴落とし

自分が成り代わる野望を持っているため

その内容はいつもより割り増しでオーバーだっただろう。


藤村は夫の落ち度をアピールしたかったが

思惑は外れ、ダイちゃんの陰湿と越権が知れ渡った。

こうなるとダイちゃんは、非常に困る。

かといって、自分が現にやっていることなので

表立って藤村に抗議するわけにもいかない。


ダイちゃんは、藤村に言ったそうだ。

「君の行動は携帯のGPSで、全部わかっている」

そして藤村が仕事中に

関係ない店や歯医者へ行った日時を伝えたという。


ダイちゃんにしてみれば

「サボってるのは黙っておいてやるから、余計なことを言いふらすな」

と釘を刺したつもりだったのだろうが

藤村は、GPSで追跡されている事実にゾッとしたそうだ。

過去1年分のガソリン代を一覧表にされた夫の気持ちと同じく

感じが悪いを通り越して気色が悪いというやつである。

同じ人物から同じ目に遭わされた藤村と夫は

珍しく意気投合して傷を舐め合うのだった。


藤村の受難は、それだけではない。

本社が大阪にある船舶関係の会社を買収し

藤村がその会社の専務に抜擢されたことは以前記事にしたが

買収の際、間に入ったのが四国のブローカー。

藤村は、70もつれのブローカーと親しくなり

彼の案内で大阪の挨拶回りをしていたが

そのうちコロナ騒ぎで大阪通いは中断したまま1ヶ月が過ぎた。


そして先月末。

聞くところによると、本社に一通の請求書が届く。

差出人は、例の老ブローカー。


本社の買収作業が終わった直後、彼は御祝儀代わりに

大阪で一件の取引をまとめ、右も左もわからない藤村に進呈した。

藤村はこのことで、すっかり彼を信用していたが

請求書に記載された請求金額は、取引をまとめた手数料だった。

その金額は、この取引で本社が得る利益とぴったり同額である。


つまり本社には1円の利益も出ず

ブローカーだけが儲けていた。

藤村は、この老ブローカーに騙されたのだ。

ポンと気前よく仕事をくれたことに舞い上がってしまい

金額についての細かい詰めを怠ったのが敗因だが

そもそも藤村に交渉能力は無い。


藤村はもちろん、大目玉をくらう。

辞表を出す出さないというところまで行った。

しかし藤村は辞めるわけにはいかないのだ。

なぜなら本社に金を借りていて、毎月返済しているからだ。

あと数年は退職できない。


借金の原因は、彼の母親。

認知症の母親は買物依存の傾向が強く出て

着物や宝石を買いまくり、500万円の借金を作った。

それを一人息子の藤村に隠していたため

クーリングオフもできず、自己破産するしか無くなった。


そこで藤村は弁護士に依頼し、手続きに入ったものの

母親はすでに3年前、藤村に内緒で自己破産していた。

やはり着物や宝石を買いまくっていたらしいが

認知症は、すでに自己破産していたことを忘れさせたようだ。


一度自己破産したら、5年以内に再びやることはできないため

藤村は本社からお金を借りた。

本社には、社員が家や車を購入する際や

よんどころない事情で大金が必要になった場合に備えて

融資の制度があり、給料から天引きで返済するシステムだ。


仕事はうまくいかない…

ダイちゃんからはいじめられる…

借金はある…

藤村の頭には、とうとう10円ハゲができた。


うちの次男が、悩むと毛が抜けるタイプなので

私は藤村に軽く同情した。

しかし夫は、藤村の髪の毛には冷たい。

「ええ年して、ソフトモヒカンにするけん目立つんじゃ」

それには同意した。
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ゆったりウィーク・2

2020年05月10日 14時46分52秒 | みりこんぐらし
ダイちゃんが夫に注意を与え、指導するという日が…

実際には◯◯園の背脂ギトギトラーメンを久しぶりに食べる日が

やってきた。


定年を迎えて役職を退き、パートになったダイちゃんは

自由に外出するわけにいかなくなった。

遠く離れた◯◯園へ行くためには

不審な点があるということで夫の所へ出向き

実態を把握して注意するという、もっともな理由が必要。

たかが知れているガソリン代について小言を言うために

会社の車を使い、高速料金とガソリンを消費する矛盾には

気づいていないらしい。


その前夜、夫はダイちゃんから命じられたレポートを書こうとして

私に書き方をたずねたが、止めた。

「書かんでええ!」


何で?とたずねる夫に、私は言った。

「ダイちゃんはガソリン代にいちゃもん付けて

あんたを脅しようるんよ。

宗教に入ったら穏便に済ませてやるって、絶対どこかで言うつもりよ。

あの人、小物じゃんか。

ガソリン代を制限されたり、車を取り上げられたら

あんたが困ると思い込んどるんよ。

言うこと聞いてレポートなんか出したら

今度は走行距離とガソリン代をネチネチ計算して

“合わん”じゃの、“虚偽がある”じゃの言い出して

ずっといじめられる。

事務屋ってね、クレームつけようと思ったら

どんなことでもネタにできるんよ」

「そうか…」


「車、返しんさい」

私は言った。

「え…?」

「あんなダサい車、いらんわ。

突き返してやり」


本社には営業マンと、ある程度の立場の者に

社用車を与える慣例があるため、夫にも車を与えたに過ぎないが

元々、夫に社用車は必要ないのだ。

会社は町内にあるので通勤距離は知れているし

お客は夫と話すために向こうから来るのだから

わざわざ営業に駆け回る必要は無いじゃないか。

ゴチャゴチャ言われるくらいなら、いらんわい。


「返したら、もっとゴタゴタせんか?」

夫は、本社の親心に立てつく結果になるのを懸念していた。

「相手が考えてないことをやらんにゃ」

私は説明する。

ダイちゃんに、夫を罰する権限は無い。

無論、社用車を没収する権限も無い。

夫が車を返したら、越権行為が明るみに出て

困るのはダイちゃんだ。


「わかった…やってみるわ」

「そうし。

絶対に慌てるよ」


翌朝、社用車を返す決意を胸に夫は出社した。

が、その朝、ダイちゃんは発熱。

時節柄、こちらへは来られないと本人から連絡があった。

夫は勝負する気でいたので、肩透かしを食った形になるが

その時の電話でダイちゃんに伝えた。

「車はお返しします」


夫の話によると、ダイちゃんは案の定

ひどく慌てた様子だったという。

「いや、僕はもう少し節約したほうがいいと言っただけで

返せなんて言ってないよ」

「いえ、いいんです」

「ちょっと待って…」

「ご迷惑をおかけしました」

夫は電話を切った。


ダイちゃんは我々のボスである河野常務に

夫の“車返す発言”を報告したらしく、すぐに電話がかかってきた。

「うちはガソリンぐらいでゴチャゴチャ言うような会社じゃないぞ。

何か言われたって、気にするな」

常務は優しく言ったそうだ。

夫の不快感も考慮しているが

宗教の勧誘が原因で、幹部候補からパートに転落した

ダイちゃんへの配慮も含まれている発言だと思った。


が、夫はやんわりと辞退。

「疑いを持たれた僕が悪いんです。

今まで、ありがとうございました」

これも打ち合わせ済みだ。

仕事の本線から外れ

燃料やメンテナンス関係の事務をするようになったダイちゃんと

夫を繋いでいるのは、今やガソリンだけ。

車を返したら、ダイちゃんは完全に我が社と無関係になる。

このチャンスを逃す手は無い。


社用車の処遇は、しばらく保留となった。

社用車を返すなんて前代未聞の上

夫の返した車を本社へ引き揚げるには、それなりの理由が必要となり

ダイちゃんの越権行為が問題になるのは目に見えている。


新卒から目をかけてきたダイちゃんと

弟分である夫との板挟みに悩んだ河野常務は

内密に他の支社へ問い合わせ、車の引き取り手を探した。

が、欲しがる者はゼロ。

燃料を使い過ぎたらダイちゃんからネチネチと責められ

下手をすると宗教を勧められる…

この噂はすぐさま昼あんどん、かつおしゃべりの藤村によって

拡散されていた。

そんな恐ろしい車に手を出す者はいない。

車は今もそのまま、会社の駐車場に放置されている。


説明が長くなったが、そういうわけで

ひとまずダイちゃんの魔の手から逃れ

せいせいした我々は、連休を満喫した次第であった。

《完》
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ゆったりウィーク

2020年05月08日 15時59分02秒 | みりこんぐらし
外出自粛のゴールデンウィークが終わり

会社にも日常が戻った。

我ら夫婦にとって今年のゴールデンウィークは

例年に無いゆったりとしたものであった。


思えば結婚以来40年、ゴールデンウィークには

あまり良い思い出が無い。

結婚して最初の年はつわりでゲーゲー

翌年からは誰かの結婚式や引っ越しの手伝いが続き

以後は夫がよそのおネエちゃんと

おデートをするようになったため、別々に過ごすようになった。

合間には家族で九州の親戚の家へお邪魔して

楽しく過ごしたこともあり、その思い出のみ光り輝いているが

それはたまたま夫がフリーの時か

たとえ一日でも離れがたいような相手でなかった時である。


やがて時は過ぎゆき、義父の会社が左前になると同時に

夫の両親が弱ってくると、夫婦で実家へ通い

世話や家の片づけ、庭仕事の手伝いに

休みを費やすのが6年ぐらい続いた。

船が沈みそうになると、まずネズミが逃げ出すというが

ゴキブリもそうであるらしく、会社が潰れそうになると

アパートへ泊まらせてくれるほどの親密を許す女子が

いなくなったに過ぎない。


本社と合併して倒産を免れて以降は

ゴールデンウィークといえば仕事。

ちゃんとした出勤ではなく、完全なるサービスだ。

我が社の経理をサポートする本社の経理部長

ダイちゃんが原因である。


新興宗教の信者である彼は、毎年ゴールデンウィークに

滋賀県だかにある『本山』へ行きなさる。

夜行バスで行き、雑魚寝しながら修行をして

ゴールデンウィークの最終日に帰って来るのが習慣。

強行軍なので疲れるらしく、休み明けはドライブがてら

我が社に来て、一日ゆっくりすることになっている。


それでも一応、請求書作成のための〆は行われるので

私は夫に手伝わせ、その前日までに集計を終わらせる必要がある。

会社の方は4月末日まで稼働しているので

休みの間に何日か出勤してケリをつけておくのだ。


そのため過去8年、連休を満喫したことは無かった。

本社に助けてもらったのだから

「休みでもゆっくりできない」なんて言ってはいられない。

せめてもの誠意と思って、黙ってやらせていただいていた。


が、ダイちゃんは去年、定年を迎えてパートになり

我が社の経理は彼の後輩がやるようになった。

その人たちは本山なんか行かないから疲れないし

立場上、まだ自由な外出を許されていないので

休み明けにこっちへ来たがることもない。

よって、初めて仕事をしないゴールデンウィークになった。


私もホッとしていたが、夫はもっとホッとして

伸び伸びと休みを過ごしていた。

というのも、連休直前にひと悶着あったのだ。


原因は、やはりダイちゃん。

パートになって、我が社の仕事から外された彼は

何につけ夫に嫌がらせをするようになった。

気持ちはわかる。

宗教の勧誘が社内で問題になりさえしなければ

彼は今頃、取締役の一人になっていたはずだった。

我々が彼の熱心な勧誘を断ったのも恨みの対象で

塩のきいていない…つまり逆襲の爪を持たない夫は

ダイちゃんのやるせない気持ちをぶつける格好の的であった。


事務系の人間が、自分を守りながら社内で意地悪をするには

数字で責めれば簡単だ。

ダイちゃんは我が社の仕事から外れたとはいえ

本社全体の経費に係わる仕事をするようになったため

全体の中の一社として、我が社に関わることもままある。

そこで重箱の隅をつつくように

注意だの指導だのと言っては夫にいちゃもんをつけていた。


数字にシロウトの夫は、なぜそんなことを言われるのか

わからないままのことも多かったが

事務経験のある私は、夫から話を聞くたびに

嫌がらせだとはっきりわかった。

昔、夫の姉がやっていたのと同じ手口。


しかしこの時は、夫にもわかりやすかった。

ダイちゃんが、夫に貸与されている社用車の

ガソリン代にクレームをつけたからだ。

暇になったダイちゃんは、過去1年間に

夫が使ったガソリン代の集計を出して、使い過ぎだと言った。

そして、毎日どこへ行って何をしているのか

レポートを提出するように命じた。


レポートと言われて、意気消沈の夫。

こやつは数字も苦手だが、字を書くのも嫌い。

ラブレターだけは昔、どこかのおネエちゃんに書いていて

どうやったのか美しい字だったのを見たことがあるが

基本、普段は字や文章は下手だ。


このことを聞いた私は、「事務あるある」と思った。

経理事務をやってる人の中には

勘違いをする者がよくいるのだ。

会社のお金なのに、なぜか自分が出しているように錯覚するのと

節約の精神とを混同し

そこへ個人的感情を混ぜ込めば、こういう嫌なヤツになる。


夫のガソリン代がかさむのは当たり前だ。

彼は昼に家でごはんを食べるので、人より1往復多い。

それに夫の車は社内で唯一、ハイブリッド車ではない。

ダイちゃんの宗教勧誘を断わった直後だったので

彼の差し金により、ダサいガソリン車が購入され

夫に貸与されたのだ。

そもそも夫のようないい加減な男に

社用車を与えるのが間違っている。


ともかく4月の末、ダイちゃんは夫に注意すべく

久しぶりに我が社へ来ることになった。

裏はわかっている。

口実をもうけてやって来て、しばらく食べてない〇〇園の

背油ギトギトラーメンを食べたいのだ。

その証拠に定休日の木曜日を避けていた。

《続く》
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家人間(いえにんげん)

2020年05月06日 08時58分15秒 | みりこんぐらし
緊急事態宣言出令中のゴールデンウィークも

過ぎ去ろうとしています。

皆さま、いかがお過ごしでしょうか?


私の暮らす田舎町は、閑散がノーマルだし

うちには姑がいるので

外出を始めとする生活全般において

常に規制がかかっているみたいなもの。

今さらどうってことはない。

だから、いつもと変わらずマイペースで暮らしている。


それでも世の中の変化は感じる。

まず新聞が薄くなり、折り込みチラシも1枚か2枚になった。

新聞が薄いのは

お出かけ情報などの記事が無くなったのもあろうが

新聞広告が減ったのが最大の要因。

何だか寂しいような気は…しない。

今まで、広告の出し過ぎだったんとちゃうんか。


中国に工場を持つ、製造業の友人知人たちは頭を抱えていたが

我々のようなド庶民に何かできようはずもなく

この頃は連絡も来なくなった。

人件費や物価が安いからと、猫も杓子も中国工場を建設し

彼らも当時は「中国進出」と意気揚々であったが

あれは本当に進出だったのだろうか。

あの巨大な国に飲み込まれ、滋養となったのではなかろうか。

もう中国とは決別する時期が来ているんじゃないのか。

その機が熟したのではないのか。


観光も大打撃だというが、そりゃ当たり前だろう。

観光は、すでにある物を見せるのだから

元手があまりかからない。

大きな収入源の無い地方は

こぞって外国人観光客の呼び込みに精を出した。

彼らは宿泊するし、お土産の買いっぷりも違うしで

落とすお金が大きいからだ。


が、私は「インバウンド」という耳新しい言葉を

得意顔で連発する議員さんや知事さん、市長さんを見ながら

思っていた。

何がインバウンドだ…

正社員と同じに働いても正規雇用の望みは無く

生活が苦しくて旅行どころじゃない日本の若者が

たくさんいるんだよ…

外国からのお客さんを待つのもいいけど

先に日本人のその子らを

たまには旅行できるようにしてやってちょうだいよ…。


思い起こせば2003年の小泉政権時代。

内閣府特命担当大臣…選挙で国会議員になった人ではない…

として怪しげな経済学者・竹中平蔵氏が

経済担当大臣になった時から、日本はこうなった。


彼は日本の企業から正社員を無くせばいいと豪語し

正社員を減らして

派遣や契約社員を増やすことに血道をあげる。

経済学者に経営者、大学教授までやっているとなれば

ゼニの道に精通していると思い込まれ

肩書だけは一流の彼を皆が信じてしまった。


人件費がおおっぴらに削減できれば

大企業は喜んで献金が増え、政治家は嬉しい。

けれども庶民は置き去り。

少子化の原因はこれだと言っても、過言ではない。

食べるのがやっとで将来への希望を持てない若者の増加は

結婚や出産の大きなブレーキとなった。


竹中氏を大臣に任命して好き放題をさせた小泉さんも

同罪である。

任命責任を問うならば、フリフリドレスの防衛大臣や

失言大臣を任命した現首相より先に、小泉さんだ。


さて、タイトルの「家人間」は

仲良しの同級生女子5人で結成する

通称「5人会」の一人、マミちゃんの名言。

洋品店を経営するマミちゃんの趣味は

旅行と歌舞伎見物と食べ歩きで

暇さえあれば店を閉めてどこかに出かけている。

主な同行者は彼女の娘か妹で、どちらも独身。

身軽な女家族がいると、フットワークが軽くなるようだ。


けれども一昨年の7月に起きた西日本豪雨の際

道路が寸断されて、マミちゃんは外出ができなくなった。

「ずっと家に居たら頭が変になりそう!

私、やっぱり家人間じゃないわ」

マミちゃんは3日で音を上げ、LINEでそうつぶやいた。

これを見た私は、自分が家人間だと知った。

外に出なくても苦にならないのは、家人間の証明であろう。


引きこもりじゃないので、外に出たくないわけではない。

が、出て遊んだら、留守中の用事が溜まるのが悩ましいところ。

帰宅後の忙しさを考えると、出かける回数は自然に減ってしまう。


仕事にはたまに出るが、こっちはもっと厄介だ。

「会社、行ってくるね」

出る時は姑に言うが、これを言うと彼女は機嫌が悪くなる。

その昔、そう言って会社へ行っていたのは彼女の娘だった。

立場が変わったことを思い知らされ、心が乱れるらしい。


とまあ、どうやっても面倒くさいので

家人間でいるほうが安全。

ということで普段から、買い物は主に生協の宅配と

週に2回来る魚屋さん頼りで

足りない物や宅配では入手できない物を補充するために

スーパーへ行っていた。


ところがこの3月、魚屋さんのご主人が亡くなってしまった。

家に居ながら鮮魚を買うという習慣は終わる。

ガ~ン!


生協の方もこのところ、欠品や購入数の制限が増えてきた。

外出自粛のため注文が殺到しているそうで

特に冷凍食品は1個ずつしか買えない。

冷凍食品というと

チンしてすぐ食べられる物を想像するかもしれないが

生協は肉や魚も冷凍だ。


冷凍した肉や魚はあんまり買わないが

国産冷凍ミンチと、ノルウェーだかの塩サバ

冷凍シシャモはおいしいと思っているので

1袋しか買えないとなると献立に支障をきたす。

5人の大人の胃袋を満たすには足りないのだ。

よって、コロナ前よりも買い物に出かける機会が増えてしまった。

どういうことだ。
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