殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

殿は最近

2014年04月24日 21時11分28秒 | みりこんぐらし
お前んとこの亭主は最近どうなんだ?

そう思う人がいるかどうかは知らないが、一応したためておこう。


殿は相変わらず青春を謳歌しておられる。

今の相手は、企業向けの保険や年金の営業ウーマン

チワコじゃ。

殿は加齢によって狩りに出る意欲が薄れ

近年はもっぱら獲物が向こうから近づくのを待つ

ワナ方式を採用している。


私は会社訪問で訪れたチワコさんに会ったことがある。

パンフレットに押したゴム印で、名前も知っていた。

まだ2人が懇意になる前だったが

ザンネンの派手好き、頑張っても漂ってしまうチープ感は

いかにも夫の好物であった。


裸の付き合いに進展したのを暴露した犯人は、ケータイである。

夫は昨年、親会社から携帯電話を支給された。

使い慣れない機種がアダとなり

スピーカーのスイッチを押したままだったのさ。

「もしもし~」

「あ、どうも毎度~」

「チワね~、今日は寄る所があるから、ちょっと遅れるかもですぅ」

「その件につきましてはですね、後ほど調べて折り返します」

「ウフ、グフフ」

「ではでは失礼します」

噛み合わない会話でごまかしたつもりが、丸聞こえだったわけよ。


思い返せば最初の相手は看護師「マユミ」

次は女教師「ジュンコ」その次は未亡人「イクコ」だった。

ここまではまあ、よくある一般的な名前といえよう。


その後もしばらく、そこそこの一般的を保つが

やがてヘルパー「ツルコ」あたりから

相手の名前が風変わりになってきた。

名前を知らないまま終わったのもいるが

「トサエ」「サダヨ」ときて、今度は「チワコ」。


夫が高齢化すると、相手も自然に高齢化するだろうから

オールディーなお名前が増加するのは自然だとは思うが

トサエ、好きだよ…(全国トサエ協会の皆さん、すいません)

サダヨ、愛してるよ…(全国サダヨ組合の皆さん、すいません)

チワコ、結婚しよう…(全国チワコ連盟の皆さん、すいません)

これでは盛り上がりそうにないような気が…。

よって、乱心とはほど遠いヨコシマライフを送る夫である。


ちなみにチワコさんはバツイチで

岡山県に置いて来た18才の息子さんがいるらしい。

どうして知っているかというと

会社の引き出しにあった履歴書を見たからである。


他人の履歴書は、我が社の引き出しに常時何通か存在している。

夫は時々、就職の口利きをするのだ。

それは夫が世話好きだからではない。

ある大企業の人事部長に、ちょっとしたコネがあるからだ。


仕事の内容は昼夜交代制の工員だが

本社が東京にあるため、給与賞与が東京価格で

福利厚生も充実している。

同じ危険できついなら、あそこへ…

そう言われる、工員界憧れの職場なのだ。


どんなコネかというと、話は夫の父アツシにさかのぼる。

アツシがマンモス墓地造成のホラ話を信じ

幾度となく大金を騙し取られた話は前に書いたことがある。

その詐欺師の娘ムコが人事部長なのだ。

表向きは、単に親しいということになっている。

しかし本当は、舅の悪事を公にされたくないため

何かと便宜を図ってくれるのだった。


人気の職場なので滅多に空きは出ないが

空きそうという情報は夫にもたらされる。

そんな時、夫は仕事を探す人に声をかけて履歴書を出させる。


過去に何度か成功例はあるものの

この数年、就職に困っている男は中高年ばかりだ。

「もっと若い人を」と言われ、多くは履歴書の段階で断られる。


その履歴書は夫に返却される。

就職活動をしたことが無い夫は、本人に落選の旨は伝えるが

履歴書を返す慣例は知らず、取り返しに来る人もいない。

すぐに捨ててしまうのもはばかられ

こうして履歴書は机の引き出しに貯まっていき

私は頃合いを見て廃棄する。


先日、新しい履歴書が1通増えていた。

「廃棄の頃合いを見る」という大義名分のもと

個人情報を盗み見る楽しさよ。


それがこの18才の坊っちゃまのものであった。

姓は違うけど、細い釣り目と四角い顔は

どう見てもチワコの息子以外のナニモノでもない。

履歴書が引き出しにあるということは

残念な結果に終わったのであろう。

今度は若すぎたか。


昔であれば、とりあえず夫をののしり、厚かましい母親を憎み

ついでにこの坊っちゃまの前途を呪いまくっただろう。

だが、そんな熱い季節は通り過ぎてしまった。

加齢によるスタミナの減少や慣れもあるが

それ以上にあるのは、夫へのねぎらいの気持ちである。


老人だから…病人だから…

全部息子に任せてあります…

会社がいよいよ危なくなった時、両親はそう言って逃げた。

あれほど可愛がっていた我が子を

土壇場で銀行や債権者に売ったのだ。


夫はその変わり身に打ちひしがれた。

取り替えのきく妻子を裏切り続け

唯一無二の親を信頼してきた夫は

最後、その親に裏切られたのだ。


誰もそんな結末は望んでいなかった。

やろうと思ってやったことではなかった。

人の気持ちを考える想像力が、少し足りなかっただけ。

守りたい愛情より、助かりたい欲が少し多かっただけ。

因果応報は、そこに下る。


しかし因果応報というのは、天罰ではない。

親の不始末で窮地に陥り、その親に逃げられ

逃げた親の介護があるという気の毒な環境でなければ

救援船が来なかったのも確かだ。

人が望むのは、老いの詰め腹よりも

若い世代を救う達成感である。

これも因果応報の一つであろう。


ともあれ安全を確認すると

親は我が子を売ったことを忘れて寄りかかる。

売られた子供は汗水流して彼らに尽くす。

売られたり頼られたり、忙しそうだが

初めて味わう理不尽と闘うその姿は、時に美しいとすら思う。

ヨコシマ人の無心は、稀少ゆえに清らかな輝きを放つ。


こんなに頑張っているんだもん…時に現実から目をそらせ

大ボラと小自慢が吐ける場所の一つや二つ、あってもいいじゃないか。

長年に渡って色に蝕まれた心身は

もはや逃げ場が無ければ生きてゆけないのだ。


逆説的に言うと、逃げ場さえ与えておけばナンボでも働く。

私は明るい老後のために、親で足腰を痛めるわけにはいかんのだ。

逃げ場もなかなかいい仕事をしてくれる。
コメント (17)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

人形たちの憂鬱

2014年04月15日 08時18分33秒 | みりこんぐらし
このところ、爺ネタはあるが時事ネタとはご無沙汰だった。

ほとぼりも冷めたことだし、また余計なことをほざいてみよう。


作曲家だったはずの人が作曲家じゃなかったとバレて

なにやら騒がしかったではないか。


以前から怪しんでいたので、驚きは無い。

彼がもてはやされ始めた頃から、私のつぶら?なお目々は

彼の体重に注がれていた。

あの肉厚な胸回りやアゴ回り…よく召し上がるお方と察する。

聞こえない耳の代わりに全身を捧げるようにして

複雑繊細な交響曲を生み出す肉体とは到底思えない。

そんなことをしていたら、とてもじゃないけど太っちゃおられまい。


現代のベートーベンと呼ばれるからにはロングヘア

「いかにも」や「それらしさ」のための黒い服

ここまではまあ、よくあるイメージサービスの範囲内。

だが、付属品が多過ぎた。

口ほどにものを言うらしき目をサングラスで隠蔽し

ピアノ演奏を求められたらヤバいから、手にはサポーター

手首のジュズは、嘘がバレないための祈り。

自信の無さに比例して、自己防衛のアイテムは増えるものだ。


あとは被爆二世であることを活用して

作品に平和祈念という付加価値をくっつければ

周りがどうにかしてくれる。

知る人は知っているが、よく知らない人の方が圧倒的に多くて

なにやら深刻そうなプロフィールは、追求を防ぐ結界にもなる。


こう言うと被爆者や平和を揶揄するように聞こえるかもしれないが

私もまた被爆二世である。

彼が自ら望み、率先して自分の出生を利用したのでないことは

感覚でわかる。

結果として、そういうことになっただけだ。


個人差はあろうが、私の場合

とりわけ核や平和に敏感なわけでもなく

体験したのは親であって、自分は聞いただけなので

声高に何か叫ぶような情熱は持ち合わせない。

放射能由来の明確な症状が出ない限り、普段は忘れている。


余談になるが小学5年の時、学年集会で原爆についての授業があった。

先生は原爆に起因する健康被害を説明した後で、こんな質問をした。

「もし結婚したい相手がいて、その人が被爆二世だったとしたら

みなさんは結婚しますか?しませんか?」

ほとんどの子供が、結婚しない方に手を挙げたものだ。

今なら新聞沙汰になりそうだが

昔はこういうことが普通に行われていた。


私は傷ついたか…いや、まったく。

将来、こいつらと結婚する気はさらさら無かったからである。

いつの日か、素敵な王子様が私を迎えに来ると思い込んでいたのだから

おめでたいではないか。

それがどんな王子様だったかは、ご存知の通りだ。



そうそう、ナントカ細胞を発見したというお嬢さんも

大変らしいではないか。

かっぽう着を本当に愛用する人は、その下にふくらんだ衣服は着ない。

バサバサして、かえって動きづらくなるのを知っているからだ。

かっぽう着の下に、上下とも黒い衣服を着ることも避ける。

葬式の手伝いのようになってしまうからだ。


衣服の袖を汚さないために

せっかくゴムで縮めたかっぽう着の袖口から

にょっきりと袖を出しているの一つをとっても

着慣れてない…つまり演出なのは見て取れる。

まあ、リケジョなんて流行語もできたし

若くて可愛いのにすごいなぁと、一応感心。


だが私の脳裏には、ある重大な懸念がよぎっていた。

「じゃあナンタラ細胞を発見した、あの素敵なお方はどうなるのさ!」

ノーベル賞に輝いたあれより、もっと簡単なナントカ細胞が出たら

私のシンヤ様(!)は、この子の前座にされてしまうではないか。

困るわ~!それは困る!

細胞のことなんてサッパリわからないけど、本気でそう思っだものだ。


それにしても理◯のお偉いさんの

アッサリバッサリ切り捨て加減は、なかなかの見ものであった。

情より結果…擁護や謝罪の手間ひまより保身と前進…

あれが科学だとしたら、科学界とは何とも厳しい世界だ。

かの有名な“リ◯ンのワカメスープ”も

この厳しい環境で作られたと思えば、今後の味わいもひとしおである。


作曲のほうも細胞のほうも

チヤホヤされてイケイケドンドン、一夜明けたら青菜に塩。

人々はこの落差に驚くが、落差は当たり前である。

後ろに人形使いがいるからだ。

操る糸を手から離せば、人形はとりあえず、首を垂れてへたり込むしかない。


なまじ弱者を演じたばっかりに

ペナルティが大きくなったおじさん…

なまじ顔が可愛いかったばっかりに

必要以上に騒がれてしまったお嬢さん…

彼らの前途に幸あれと祈るばかりであるが

そもそも人形として選ばれる条件は

まんざらシロウトではない知識や才能と並び

天性のノリの良さとシタタカさであるから、きっと大丈夫だと思う。
コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

王様の耳はロバの耳

2014年04月10日 11時30分49秒 | みりこんぐらし
10年ほど前の出来事。

病院の厨房で働いていた頃、古田さんという60才の先輩がいた。

仕事はできるが大変な負けず嫌いで、すぐ喧嘩腰になるため

皆は怖がって、彼女の定年を待ち望んでいた。


10年前といえば携帯電話がすっかり普及し

すでに無くてはならない時代となっていた。

しかし古田さんだけ持っていなかったので、緊急時に連絡が取れない。

緊急といっても仕事に関する変更ぐらいのものだが

職場の最年長者であり、最古参のパートとして

何でも人より先に知っておきたい古田さんは

そのたびに悔しがるのだった。


定年まで、あと数ヶ月…

このままアナログを通したかった古田さんだが

持ち前の負けん気には勝てず、とうとう携帯電話を入手した。

「うちのは新型じゃけのう!」

嬉しそうに携帯電話を見せびらかす古田さんであった。


数日後、いよいよ非番の古田さんに緊急連絡をする必要にかられた。

ルルルル…ルルルル…あ、これ、呼び出し音ね。


「イマリューツー、イマリューツー」

電話に出た相手から、いきなりこう言われた私の当惑を

わかってもらえるだろうか。


「ふ…古田…さん?」

「こちら古田、こちら古田」

声は確かに古田さんのダミ声である。

「リューツーツーカ、リューツーツーカ」

「ええっ?」

「アー、アー、テス、テス、テス」

「…」


そこでハタと思い当たる。

リューツーというのは

町はずれにある流通倉庫(仮名)という名前の会社ではないのか。

そこは通称「流通」と呼ばれていた。

どうやら古田さんは、ご主人の運転する車でその辺りを走っているらしい。

そして彼女の携帯デビューは、この電話だったらしい。


「あの…古田さん?」

「こちら古田、こちら古田」

「はいはい…あのね、業務連絡。

3号室の患者さんの粉末カルシウムがストップになったから…」

「接近中、接近中」

「な…何がっ!」

「◯◯橋、通過」

「はいはい、近くまで来てるのね。

電話で言うから、わざわざ寄らなくていいからね」

「こちら古田、こちら古田、アー、アー」

「わかった、わかった。

それで別の患者さんが1人始まったので

明日の朝の分の用意は同じ数だけど、仕込む患者さんを間違えないでね」

「あと1分、あと1分」

「古田さん?トランシーバーじゃないんだからね?」

「到着、到着」

何も聞いちゃおらん。


結局古田さんは病院に寄り、口頭で連絡を聞いて帰って行った。

古田さんの名誉のため、私はこのことを職場の誰にも言わなかった。

でも思い出すと、へへへと笑えてしまい

誰かに言いたくて仕方がない。
コメント (9)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

きみどり姉妹

2014年04月03日 09時07分06秒 | みりこんぐらし
「サクラ咲く」

“わざわざ出かけたのでなく、自分ちの前にあるのが唯一の推しポイント”



先日、人間ドックで異常が発見された友人ラン子の

精密検査に付き添った。


ラン子は一人暮らし。

30代後半の娘がいるが、その娘様は

昨年から介護のパートを始めてお忙しい。

ラン子の弁によれば、非常に仕事ができて

老人からも同僚からも慕われ、頼りにされ

勤務先の病院長のおぼえめでたく

今や娘様がいなければ、仕事が回らないそうである。

よって、徒食のヒマ人であるわたくしめが

スターのお母様を病院へお連れすることになったのであった。


これは、ラン子がよくやる“すり替え”である。

これまでに何度も断られているので、娘に送迎を頼む勇気が出ない。

そこで、世のため人のために頑張っている娘だから

母親にかまけている暇は無い…

ラン子は人に話しながら、自分に言い聞かせているのだった。


初心者からわずか1年で、いなければ職場が揺らぐ存在に

なれるわけがない。

孫の通う小学校や幼稚園、習い事の教室も

娘様がいなければ揺らぐという話だが

残念なことに、この娘様を私は知っている。


娘はこの辺りで言う「カバチたれ」。

さも立派げなことを口数多く声高に言う

自己主張の強い人間の意味である。

地元でそう呼ばれる人に共通するのは、礼儀知らずと横柄。

さすがラン子の娘にふさわしく、いい感じに仕上がっている。

これでラン子似の美人なら、ドスがきいてなお良かったが

生き別れた父親似である。


娘のカバチ申告を、母親なら当然信じる。

人に話す時には、もっと美しく壮大な話になり

病院や買い物に連れて行ってもらえないもっともな理由

というのが、ラン子の中で確保されるのだ。


娘もまた、依存の強いラン子にいったん関わると

厄介なのを誰よりも知っている。

楽しければ楽しいで、帰って1人になったら辛くなり

楽しくなければ楽しくないで、やっぱり辛くなる。

そんな母親を、若い彼女が仕事や子育てをしながら

1人で受け止めるのは厳しい。

そこで普段から、病院や買い物に連れて行けないもっともな理由

というのを用意して、けん制する必要があるのだった。


お互いに誰よりも愛情を持ちながら

近すぎてうまくかみ合わない関係や時期というのは、確かにある。

そこで他人の出番というわけだ。


さて、検査当日。

本人は膵臓のMRIを撮るつもりで行ったが

ドックで胃のほうの問題も見つかっており

その日はとりあえず、胃カメラでの検査をすることになった。


一応精密検査なので、意識がモウロウとする麻酔を使い

鼻でなく、口からカメラを入れる。

一昨年、義母ヨシコが胃癌の内視鏡手術をしたのと同じ方法だ。


朝から緊張していたラン子は、このモウロウ麻酔が合わなかった。

検査後に気分が悪くなり、急きょ廊下で待つ私が呼ばれた。

フラフラして意識のはっきりしないラン子と一緒に

医師の説明を聞くためだ。


ラン子を支えて診察室に入ると、若い医師が私にたずねた。

「娘さんですね?」

ハイ!…私が満面の笑みでうなづくのと

イイエ!…ラン子が必死の形相で叫んだのは、同時だった。


「ち…知人です…」

絞り出すようにそう言うと、再びモウロウの世界に戻るラン子。

チッ…ここだけ正気に戻りおって…

偽証が未遂に終わり、残念であった。


さて検査結果。

太りすぎ。

内臓脂肪が胃壁を押し上げており

そのため形状が少しいびつに見えるが

それ以外は正常という診断である。

私と同じ腹黒族のはずのラン子だが、胃はきれいだった。


肝心の膵臓は、4月1日に改めてMRIを撮ることになった。

前日は、電話でラン子の不安な心境を夜遅くまで聞く。

これも「乗りかかった舟サービス」に含まれている。


当日、ラン子を迎えに行って「ウッ」とうなる。

黄緑色のカーディガンを着ておるではないか。

この間、いつも行くおば服専門店で買ったやつだ。

去年から黄緑に凝っている私も、黄緑のロングベストを着ていた。


「あ~!かぶった!」

2人で大笑いする。

普段のラン子は、相手が着そうな色は避ける。

悪魔のような女でも付き合いが続くのは

このように、なかなか人が気づかない配慮を見せるからだ。

しかしその日は、やはり余裕がなかったらしい。


同じ店で買っているので、素材と色が同じ…

「これじゃこまどり姉妹じゃなくて、きみどり姉妹じゃん」

「もう、変な姉妹として乗り切るしかない」

などとブツブツ言う私の横で、ラン子はワハハと笑うのだった。


MRI検査の後、結果を聞くために2人で診察室に入る。

すっかり癌と思い込み、緊張で身を硬くするラン子。


中年の医師が、私に「妹さんですか?」と問う。

「知人ですっ!」

今度は先に言われてしまい、またもや残念がる私。

名実共にきみどり姉妹になるもくろみは、破れた。


悪い結果でないのは、医師の表情を見ればわかる。

私は自分が深刻な病気になった経験は無いが

付き添いに関してはベテランなのだ。


「良性の水腫ですね…白く見えるのは、お水です。

経過観察で大丈夫ですよ」

2人で手を取り合って喜び、足取りも軽く街へ出る。


癌じゃなかったらステーキをおごると約束した通り

ラン子は私にステーキをご馳走してくれた。

ステーキハウスでも店の人に聞かれる。

「ごきょうだいですか?」

今度は私が先に答えた。

「ハイッ!」

「お揃いのお洋服で、いいですね」

「ハイッ!」

ここでは、まんざらでもなさそうなラン子であった。
コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする