殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

うぐいすは見た

2011年03月31日 16時35分52秒 | 選挙うぐいす日記
        「うぐいすの準備…座布団、毛布、手袋」



昨夜、ポスター貼りの係と、選挙カー搭乗員が集合して

最終的な打ち合わせをした。

爺婆だらけの陣営に似合わぬ、渋いイケメンが1人いると思ったら

このブログでお馴染みのカリスマ美容師、珍珍丸氏であった。


おおかたの人々が帰った後、私は候補と、出陣式の式次第の打ち合わせをする。

すでに届いている祝電を預かったので、忘れてはならぬと

裏の台所に置いた自分のバッグへ入れに行った。


そこで私は見たざんす。

事務局長と、消耗軍団のメンバーである清美が

薄暗い台所に、2人きりでたたずんでいるのを。


私が来たのを知ると、2人はパッと離れた。

事務局長は、そしらぬソブリで食器棚とにらめっこ

くるりと後ろ向きになった清美は、肩を震わせてすすり泣いているではないか。


    「ごめんあそべ…」

すすす…と後ずさりをして、台所を出た私は

一応、うぐいす仲間のラン子に問う。

「あんた、清美に何か言わなかった?」

潔癖症のラン子は、だらしない清美が大嫌いで

髪をなんとかしなさい…きちんとした格好をしなさい…などと

いつも口うるさく注意していたのだ。


「何も言ってないわ…だって、口きいてないもん」

    「泣いてたぞ」

「知らん、知らん、今日は無実よ」

じゃあ、あれはやっぱり…

私はその時点でやっと、すべてを理解した。        


あの光景は、淫靡(いんび)というより、むしろコント。

なにしろ事務局長は、推定120キロ超の醜い肥満男

清美はざんばら髪の、暗くて薄汚い女だ。

力士と幽霊の組み合わせは、意外性のほうが大きい。

見てはならぬものを見てしまった、この喜びをなんとしょう。


この非常時に、ホワイトデーだ、事務局長の誕生日だと騒いでいたのも

どんなにモメたって、消耗軍団を優先してかばうのも

消耗軍団を追い出さずに、2階の一角を陣取らせたのも

数日で何事も無かったかのように、皆が階下へ降りていたのも

消耗軍団のうぐいす女の名が、いつの間にか選管への提出書類に記入されていたのも

み~んな、事務局長のしわざだったのね。

事務局長の口癖「みんな家族」は、こういうことだったのね。

「一つになろう」って、こういうことだったのね。

ギャオ~!


清美は、子だくさんの未亡人。

昔から地味でおとなしく、年は私より3つ下だ。

いつも金魚のフンのように消耗夫人にくっついている。

数年前まで、ある商店主の愛人だったのは、周知の事実だ。

落ち目になった彼氏の商売のために

自殺した旦那の保険金を巻き上げられたという噂は、私も聞いていた。


いつもポーッとしているが、爺でも何でも、とにかく男と談笑する時は

「ホホホ…ホホホ…」と、耳につく甲高い声で長笑いをするので

事務所の女性達の人気ワースト1である。

私ら女から見たら、ただの小汚いオバサンだが

男はえてして、こういうネットリとした影のある女を好むものだ。

特に、かわいそうや気の毒、ボンヤリやパーは、モテない君の好物である。

不倫とまではいかないにしても

こいつらは選挙じゃなくて、青春をやっていたらしい。


というわけで、明日から選挙戦に入る。

なんだか初黒星がつきそうな予感。

でも頑張りま~す!

あ、選挙カーの運転手は、事務局長でぇ~す!
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甲子園

2011年03月25日 09時15分19秒 | みりこんぐらし
春の選抜高校野球が始まった。

選手宣誓は、すばらしかった。

どこかの国の総理にも、見習ってほしいくらい立派であった。

あれは本人の純粋で真摯な気持ちに、神が宿ったのでは…とすら思う。

チームは1回戦で敗退したが、日本中を勇気づけた彼の偉業は

長く人々の心に残るであろう。


思えば高校野球と私は、吹奏楽でつながっていた。

高校生の時は、ブラスバンドの一員として、応援に出かけたものだ。

弱小チームだったので、勝つのを見たことはなかった。


弱小なので、やはりメンバーもそれなり。

行って応援したからといって、別段ありがたがられることもない。

昔の田舎は、野球をやってさえいれば大人に信用され

立派と思い込まれて優遇される風潮だったので

野球部員は普段から横柄であった。


こっちも応援するというより、皆で楽器を吹きに行っていた。

バスを仕立ててどこかに出かけ、演奏する…それがただ嬉しいばっかりで

勝敗どころか、暑いも寒いも気にならなかった。


当たり前だが、こっちが年を取るにつれ

高校球児はどんどん年下になっていく。

今じゃ我が子より年下だ。

そのうち孫と同世代の子が活躍するようになるのだろう。


未曾有の大災害をおして開催が決定し

感動の選手宣誓で幕が開いた今年の春の選抜。

今回は出場校の中に、私の同級生の息子がいる。

我々ブラスバンドが、ブースカドンドンと応援していた

あの野球部男子の息子である。

強豪校の居並ぶ都会なら、珍しくないのかもしれないが

知り合いの子供が出場するなんて、田舎じゃ10年に1回あるか無いかだ。

めでたいことである。


私には、さらにもうひとつ嬉しいことがある。

夫の不倫相手だった女性の息子も出場しているのだ。

夫が耳の手術をした時、病院で鉢合わせした看護師の息子である。

義母ヨシコに抗議され、逆ギレした亭主と一緒に

うちへ乗り込んできた思い出がある。


町は今、その子の話題で持ちきりだ。

当時、幼稚園児だった彼をチラッと一回見たことがあったが

あれから十数年を経て、こんなに大きくなっていたのだ。

どんな関係であれ、縁ある子供が出場するのは嬉しいものである。


夫にあられもない裸の写真を贈ったインランなお母様も

「誠意を見せんかい」とユスりなすったお父様も

電話でヨシコと大喧嘩したお祖母様も、さぞ喜んでおられることであろう。

とことんまで争って、あちらの家庭をモメさせる事態にならなかったのを安堵する。


野球は、お金と家族の協力が不可欠なスポーツだ。

できれば平和な家庭環境が望ましい。

真実を何もかも白日のもとにさらすだけが、正しいわけではないのだ。

何も知らずにすくすくと成長した彼は、こうして郷土の星となってくれた。

感無量である。

なにやら私まで協力したような気がするから、厚かましいではないか。


ヨシコは、我が夫ヒロシのいる所で、イヤミっぽく言う。

「母親の尻癖が悪くても、子供はマトモに育つのねっ!」

当時の怒りが再燃するようだ。

自分のお気に入りの病院の、お気に入りの看護師であり

何も知らずに彼女の実家で売る年賀ハガキや宝くじを買っていたため

裏切られた気持ちは大きかった。


それを聞く夫はどんな気分か知らないが

複雑なことは脳が受け付けない男なので、そ知らぬ態度を貫いている。

私のような者の応援は迷惑かもしれないが

試合の日はぜひ、テレビの前で声援を送りたいと思う。
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火種うぐいす

2011年03月22日 09時44分17秒 | 選挙うぐいす日記
休み明けに事務所へ行ったら、面白いことになっていた。

候補以下陣営上層部VS消耗軍団とで、激しいバトルがあったらしい。

消耗夫人は激昂し、泣きわめいたというではないか。

なんで私が休みの時なのよ!

見たかったのに、ああ残念、残念。


私は何もしていないわ…無実よ。

休みの前日、皆様の前で、ちょっとした提案はさせてもらった。

「今日から、食事をおむすびと味噌汁だけにさせてください。

 浮いた時間、我々炊出しの者は外に出て、戸別のお願いに歩きます。

 事務所待機の女性は、すみませんが食事の後片付けをお願いします」


選挙が近付いたこの時期、外回りは重要である。

予定では、それは主に消耗軍団がやることになっており

各自、名刺まで作って張り切っていた…初めて行くまでは。

しかし一度で「恥ずかしい」「しんどい」とネを上げ

何かと理由をつけて行かなくなった。

このまま事務所に待機して、お茶にお菓子におしゃべりで

雰囲気を盛り上げるというハイレベルなお仕事が続くようなので

我々が出ることにしたまでだ。


それに、裏で炊出しをするお婆ちゃん達のほうが

消耗軍団より、よっぽど美しくて見映えがするのだ。

中には、昔、生保レディを30年やっていた人もいて

知り合いの多さは、私のような若輩者の比ではない。

裏に引っ込めておくのは、もったいないぞ。

さあ行こう、行こう…昼食後、炊出し部隊は洗い物の山をほっぽらかし

揃いのジャンパーを着こんで、にぎやかに出発だい。


自称女子のリーダーである消耗夫人としては

シモジモの者に勝手なことをされては、立場が無いらしい。

台所仕事を押しつけられるのにも腹を立てたようで

血相を変えて私に駆け寄り、訴える。

「言ってくれないとわからない!聞いてたら、私達だって外に出たわ!」

    「フフ…いらんし」
「…」

あれ?なんだか無実じゃないかも。


火種をまき、翌日、私は休む。

きついのがいると、言いたいことが言えないだろうからさ。

予定通り、私のいない事務所では、消耗夫人の厳重抗議があった。

「恥をかかされた」「台所はしないはずだったのに、約束が違う」

そこから、衝突は勃発した。

料理自慢の炊出し隊長が、プライドとの葛藤で粗食案に抵抗したため

説得に思わぬ時間がかかったが、まずまず計画通りの進行だ。

あれ?やっぱり無実じゃないみたい。


モメた翌日、消耗夫人は出所せず、候補夫人にメールが届いた。

“パソコンを返さないと横領罪になるよ”

成り行きで、名簿は消耗夫人主宰の不登校サークルのパソコンで作成していた。

どうってことないけど面倒臭いので、早々にお返しする。

こんな発想しかできないのが、あわれである。


消耗軍団に自称プロのうぐいすが1人いることは、前にお話しした。

パソコンで動じないとなると、今度は

「うぐいすが1人減ってもいいの?」と言ってきた。

上層部には、すでに意向を伝えてある。

     「私1人でも大丈夫。

      もしうぐいすについて何か言ってきても、気にしないで」

フフ…こっちもいらんし。


脅しがきかないとなると、さらにその翌日、今度は男を連れてやって来る。

消耗夫人と仲良しの、例の50代独身男である。

人払いがされ、また候補と陣営上層部VS消耗夫人と独身男とで

長い膝詰め談判が持たれた。


この男、ある大企業に属する団体の幹部で

自称当落のキーマンという触れ込みであった。

今度はその団体の撤退を武器に脅しをかけたが

元々その団体がついていると、有権者に妙な誤解を与えやすく

ありがた迷惑だったので、陣営としては渡りに船であった。


この時、消耗夫人と独身男は、自分達ではどうにもならないと

団体のトップを呼んだ。

しかしそれによって、都合の悪い事実が判明。

理由は知らないけど、とにかく独身男は

1ヶ月前に退職して、現在有休消化中だったのだ。

団体のトップは、呼ばれて来るには来たものの、退職者に対して冷淡だった。

職を失った独身男は、消耗夫人と組み

選挙をメシの種にしようとしていたのだ。


それでも消耗夫人は、ひるまなかったという。

活動しやすいよう、自分達にまとまった金を預けろと

候補夫妻に再三ねだり続けたおばかさんなので、引き際を見極める能力が無い。

消耗夫人は「名簿を持って対立候補の所へ行く」と候補に息巻いて

「どうぞ」と言われた。

次は「慰謝料を払え」「土下座して謝れ」になり、また断られた。

そして両者は、完全な決裂に至った。


決裂即撤退ではないのが、彼女達らしいところ。

皆で座布団やら菓子鉢やら、つまらぬ荷物を建物の2階に運び始めた。

今までよっぽど楽しかったらしく、2階の一角を陣取って

様子を見ながら、戻れるチャンスを狙うつもりなのだ。

これを許してしまうのが我が陣営の甘い所だが、男にはそれで精一杯であろう。

私なら、たたき出してやる。


彼女達が2階に消えると、事務所はにわかに活気づいた。

選挙まであと十日という時期的なものもあるが

新しいお客様や、消耗軍団が帰った日暮れ以降に事務所を訪れていた人達が

昼間に続々と来始めた。

陣営も和気あいあいとしている。


こうして書いていると、消耗軍団だけが陣営のガンみたいだけど、実は違う。

まだまだ、ウブでかわいいもんよ。

もっと厄介なのは、昔の選挙で甘い汁を吸った勘違い老人である。

一昨年参謀が他界し、今回は参謀無き選挙となってしまったため

我こそは年金の足しに…と次々に変なのが湧いてくる。


この種の老人に、マトモなのはいない。

彼らは、ただ執拗にゴネ続ける。

他人の悪口を書いた原稿を持ち込み、配れと言う“怪文書じいさん”や

日に何十回と電話をかけてきて、自分では指示を出しているつもりの

“電話魔じいさん”もいる。


どれも老人特有の症状かアル中の嫌われ者だ。

参謀として迎えられる夢を見、それが無理でも

黙らせるための金一封を狙っているので、異様にしつこい。

そうはいくか。


彼らのお相手は、消耗軍団どころではなく消耗するが

投票日が来れば、すべて終わる。

終わるとわかっていれば、たいていのことはしのげるものだ。
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豆板醤

2011年03月15日 18時00分17秒 | みりこんぐらし
義父アツシは、今年に入ってから、ご難続きだ。

正月明けに風邪をひき、かなりヤバかった。

風邪は長引いて、2月下旬まで苦しんだ。


持病の糖尿病もすでに末期で、腎機能が低下している。

風邪など小さな疾患でも、免疫力が無い上に

薬の投与に制限があるので、治りが遅い。

入院だけはしたくないという思いが強く、妻子に体を支えられながら

病院へ点滴に通い、気合いで回復した。


と思ったら、ヘルニアで足が立たなくなった。

関連性は不明だが、年末に起こした交通事故の後遺症ではないかと思われる。

痛みは腰でなく足に出て、神経痛ということになった。

付け根がひどく痛むらしいが、腎臓に負担がかかるので

強い痛み止めが使えない。

七転八倒というのは、このことであろう。


とは言いながら、病院で知り合いに会うと

慌てて車椅子から立ち上がり、ヨロヨロと気力で歩くのだという。

若い頃から、あんまりええかっこばかりしていると

衰えた自分を見られるのが死ぬよりつらいらしい。


アツシは、私が選挙の手伝いをしているのが大変不満である。

なぜなら、彼は対立候補を支持しているからだ。

今回は、珍しく割れた。

「いい加減にしとけ」「行くな」

などと、痛みで唸りながらもけん制する。

無視。

立って歩いて投票に行くのも危ぶまれているのに

支持どころの騒ぎではないじゃないか。


やっと立ち上がれるようになり、私の活動に

いちだんとうるさくなり始めた先日、今度は台所で転んだ。

低血糖によるふらつきはしょっちゅうだが

風邪とヘルニアで寝込んだので、足腰がすっかり弱ってしまったのだ。


転んだ所には、ちょうどストーブがあった。

ストーブには、ヤカンがかけてあった。

はい、ヤケド。

顔と左手を負傷し、腕には大きな水ぶくれができた。


以前から、義母ヨシコには口を酸っぱくして注意していた。

「石油ストーブは、つけるだけで水分が出るから

 わざわざヤカンをかける必要は無いのよ。

 お義父さんが倒れでもしたら大変だから、よしなさい。

 ハイハイし始めの赤ちゃんがいるつもりじゃないと、危ないよ」

しかし何度言っても「肌が乾燥するもん!」とムキになって拒否した。


糖尿病患者に外傷は禁物だ。

治りにくい上、そこから壊死が始まる恐れが濃厚だからである。

ヨシコ、旦那の壊死より、お肌のほうが大事らしい。

自分より具合の悪い者を認めないという性質もあるが

正月からこっち、一日中「痛い、辛い」と騒ぎ

当たり散らす亭主にウンザリして、意地になっている部分もあるのだ。


そして、しれっと言う。

「ヤケドには、豆板醤(とうばんじゃん)がいいと聞いたわ」

ヨシコ、マジかよ…。

皆さんご存知だろうが、一応説明しておこう。

豆板醤とは、唐辛子がたっぷり入った、中華料理で使う味噌である。


「確かに聞いたわ…ヤケドに塗ったらいいそうよ」

ヨシコ、それはリンチだぞ。

でも、好きだな~、ヨシコのそういうとこ。

アツシ、いいと聞くと反応し「持って来い」と言う。

ここは止めるべきなのだろうが、成り行きが見たくて

つい口をつぐむ私よ。


「そうそう、これこれ、豆板醤」

ヨシコは薬箱から、小瓶を取り出した。
     
なんでぃ…ソンバーユというお馬さんの油であった。

間違えただけじゃんか。


卑怯な私は、さんざん笑いまくった後で

糖尿病患者に民間療法はいけない…などと、えらそうにくどくど言って聞かせるが

二人はわかったのやら、わからないのやら。

とにかくソンバーユは、再び薬箱にしまわれた。


あれから5日、アツシは毎日病院で、ヤケドの手当てをしてもらっている。

依然としてヤカンはストーブにかけてあり、ヨシコのお肌のために

シュンシュンと湯気を出している。

アツシ、頑張れ…ストーブの前で転ぶな。
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ポーズうぐいす

2011年03月08日 13時17分02秒 | 選挙うぐいす日記
「名簿ができあがったので、明日から電話作戦に入ってもらいたい」

事務局長は言う。

電話って、誰がするんじゃい。

消耗軍団、名簿を作るのと事務所でタムロはやりたいが

別室に隔離されて電話をかけるのはおイヤだそうよ。

しかたがないので、電話部隊は急遽、こちらでご用意させていただいた。

あの人達がすればいいじゃん、なんてガキみたいにゴネてるヒマは無い。


皆さんご存知のように、芸能人は歯が命だそうだが

選挙は名簿が命と言っても過言ではない。

告示まであと一ヶ月を切ったこの時期に、名簿ができあがるのは

そもそもとんでもなく遅い。

消耗夫人率いる消耗軍団が、不登校サークルの活動の合間にやったんだから

遅いのは当たり前なのだ。

急げと催促したって、急ぎ方なんてわかりゃしない。


さて、できたてホヤホヤの名簿を見ながら、電話部隊が電話をかけ始める。

しかし、すぐに電話室からクレームが。

「名簿が使い物にならないので、ハガキそのものを渡してほしい。

 そっちを使って電話をします」

ダブリが多く、フリガナは違い、この名簿を信じて電話をしたら危険だと言う。

そのくせご丁寧に、年賀状発送チェックは

干支のイラストと一緒に、3年先までしっかり入っている。

そんなのは、当選してから考えぃ。


消耗軍団が必要以上に長い月日をかけ

自称身を粉にして作成した、言うなれば渾身の名簿のはずである。

名簿を握られていたからこそ、陣営は今まで好き勝手を許していたとも言えよう。

が、この程度。


質はどうあれ名簿ができあがったのだから、消耗軍団はひとまず手が空く。

こいつらをどうするかが、陣営上層部の次の課題なのであった。

信じられないだろうが、本当だ。


    「あの人達も、このまま嫌われて浮いたままだと、かわいそうよ。

     何をやるべきか、導いてあげないと」

秘密会議で意見を求められ、一応そう言う。

わたしゃ男性陣と違って、こんな女どもにかまけているヒマはないが

多忙を極める中で、彼女達の突飛な言動に

多少の癒やしみたいなもんは感じている。


とりあえず消耗軍団には、外に出てお願いに歩いていただくこととなった。

枯れ木も山の賑わいとして、事務所の中に7~8人で座らせていると

来客から苦情が来るからである。

揃いも揃って白髪まじりのざんばら髪に、色あせた毛玉だらけのボロをまとい

つまらぬことで興奮しては、キャーキャーと嬌声をあげるので

選挙大好き老人なんぞは、あからさまに眉をしかめる。

外で頭を下げて歩けと言われた途端「主人が…子供が…」と、お休みが多くなった。

それでいいのだ。


消耗軍団は、自称パソコンのプロ、自称事務のプロなどで構成されている。

いずれも、昔そういう仕事に携わっていたことがあり

現在は長く無職というかたがたである。


自称うぐいすのプロというのもいて、近年、市長選で落選した人と

選挙違反で議席を失った人のを続けてやったことがあると言う。      

百戦錬磨の真のプロなら、多くの選挙の中で、時にそういうこともあろうが

その2回しかやったことは無いと、胸を張って言うではないか。

縁起が悪いので、辞退してほしいくらいだ。


それを束ねる消耗夫人は、自称選挙に詳しいということになっている。

この陣営の過去2回の選挙でトラブルメーカーだったのは、私もよく存じておる。

どうせなら、自称でいいから炊出しのプロや電話のプロも揃えてもらいたかった。

そうすれば私がしゃしゃり出て、恐れ嫌われながら

くそ忙しい目に遭うことは無かったのだ。

うぐいすとして、選挙期間だけチャラチャラしておればよかったものを。


そうこうしているうちに、再び対立候補の地盤へお邪魔する日がやってきた。

今回は、尾行がついた。

対立候補を支援する人達の嫌がらせである。


私をマークするのは、中年の女性。

歩く私を鬼のような形相で睨みつけながら

携帯電話をかけかけ、車で路地や住宅街をどこまでも執拗に追ってくる。

ギリギリまで接近して、ひき殺さんばかりの勢いだ。

尾行がつくなんて、運動員みょうりに尽きるではないか。

写真も撮っているので、ついポーズをとってしまうの…ホホホ。


しかし、住民に直接声かけをする現場を見られたら

後でその人に嫌がらせをするのはわかっているので

おとなしくハガキのポスティングだけして、適当な所で巻く。

向こうは興奮しているので、刺激して事故でも起こされたら面倒だからだ。


尾行されているのを知り、消耗軍団は恐れおののいた。

遠出と聞いて、みかんやお菓子を抱えていそいそ付いては来たものの

まさかこんなツアーだとは、夢にも思わなかったらしい。


私と組んだのは、消耗軍団の中でも、わりとマシなランクの子だった。

「どうして向こうはこんなことをするんですか?恐くないんですか?」

などと、あれこれたずねる。

   「末端はトップ。トップは末端。

    こんなこと平気でするような人間囲ってる候補が

    世のため人のために、良い政治をするわけがないでしょ。

    怖がっていたら、勝てない」 


戦いだから、ボロをまとっていたらナメられる…

身仕舞いをきちんとするのが最大の防御…

女の質は、候補と事務所の質…

同じ来るなら、事務所の華になれ…

あなたなら、それができる…

この際だと思い、えらそうにウンチクをたれる私よ…ああ、お恥ずかしい。

だが、その子は翌日からスーツで事務所に来始めた。

なんていい子だ。


敵陣訪問の翌日、消耗夫人のご子息は救急車で病院に搬送された。

かねてより精神的ダメージで休職中であったが

数日前に職場復帰しており、仕事中に倒れたそうである。


消耗夫人が事務所へ長時間いられなくなったので、軍団はバラけた。

バラ売りだと、なかなか素直で使えるのよ、この子達。

冷蔵庫の食品や、コーヒーの買い置きが消えることも無くなった。

細かいことをとがめるつもりはさらさら無いんだけど

朝来て、あるはずの物が無くなってると、ますます忙しいのよね。

買物は私達の仕事だからさ。
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ママうぐいす

2011年03月02日 23時37分25秒 | 選挙うぐいす日記
対立候補の地盤へ乗り込むメンバーは

1号車に候補、運転手、候補の娘、私の4人。

2号車に運転手、消耗夫人、山岡夫人の3人。


同行したからといって、何か立派なことができるわけではない。

しかし私が行かなければ、1号車には消耗夫人が乗りこみ

また消耗語を並べ立てるだろう。

1号車を満員にして、消耗夫人を乗車させないためには

うぐいす隊長という誰もが納得する身の上が必要であった。

守るったって、車の人数の割り振り…ただそれだけさ。


消耗夫人と共に、2号車に乗り込む山岡夫人…

彼女のことを覚えておいでだろうか。

以前書いた記事に出てきた、風呂で毎晩1時間お経を唱えるおかたである。

詳しくは、2010年10月17日『なんの山・1』

21日『なんの山・2』を見てちょ。


この山岡夫人、古風な感じの美人である。

以前電話で話した時、あんなにキーキーと不平不満をタレまくって

よく離婚されないものだ…と思っていたが

今回初めて実物を見て、納得した。

単身赴任中の旦那が、たまに帰って眺めるだけなら

甲高い声で放たれる機関銃のような愚痴と差し引きしても

おつりが来そうな美貌だ。

実家の旅館で女将をしていた若い頃は、さぞ美しかっただろうと思う。


この人、消耗夫人とは大親友なのだった。

すべてが昭和に包まれている山岡夫人と、服だけ若者の消耗夫人…

二人並べば、なんだか不思議なオーラが漂う。


出馬が決まった去年、山岡夫人は、消耗夫人と連れだって候補の家を訪れ

自分のやっているマルチの健康食品を売りつけたそうだ。

「買ってくれたら支援すると言って、すごく高いのを

 うちのお祖母ちゃんに買わせたの」

候補の娘さやかちゃんは言う。


風呂でおとなしくお経を唱えてればいいものを

こんなモン売ってるとは、夢にも知らんかった。

あの時「私も熱烈な支持者ですの」と言ったのは、これが元だったのだ。


現地に到着し、候補があちこちで街頭演説をしている間

他の者はハガキのポスティングをしたり、家々を訪問して、お願いに歩く。

消耗夫人おっしゃる、現職の地盤をひっくり返すほどの

充実した訪問先もありはせず、飛び込み営業を続けて走り回る。

まだ告示前なので、言い回しに気をつける必要があるが

美しい娘を連れていると、話も優しく聞いてくれて、こっちまで気分がいいぞ。


消耗夫人達の乗る2号車の運転手は、やはり消耗夫人が連れて来た

50がらみの独身男である。

消耗旦那と同じ職場だそうで、消耗夫人と異様に仲がいい。

不倫ではないけど、日常においても「2個イチ」とささやかれる関係だ。

独身なので、食事に招いたり、何かと世話を焼いているのだろう。

消耗夫人は、決して悪い子ではないのだ。

世話好きで優しいところもあるから、それを慕って群れる者がいる。

仲良しさんばかりで回りをかため

選挙という暇つぶしを楽しみたがるから、色々あるだけなのだ。


この男、1号車がいたくお気に召したらしく

2号車の運転中以外は、何かっちゅうとこっちに来たがる。

頭を下げるわけでもなく、お願いをするでもなく

ただ皆にくっついて歩いているだけ。

役に立たんなら、来るなよ。


しかもなぜ?!なぜレイバン型の遠近両用メガネ?!

悪魔のような同級生Kと同じじゃないか!

(詳しくは、右のカテゴリー「異星人」を見てちょ)

ああ、不気味!


運転手が一緒に来てしまうから、消耗夫人と山岡夫人もこっちに来て

ゾロゾロと練り歩くことになる。

二手に分かれて効率良く行動するために、2台に分乗したはずが

何もならんじゃないか。

やる、やる、と言う者に限って、動き方を知らないのは

どこの陣営も同じである。


それにさ、うるさいババアどもより、若くて美人のさやかちゃんがええわいな。

消耗夫人、気が気でないご様子。

くっくっく…。

    「さやかちゃんが、あの方はどなたですか?って、聞いてましたよ~ん」

なんて、男にこっそり言ってやると、喜ぶ、喜ぶ。

けっけっけ…。


この日の昼食の時に知ったんだけど、消耗夫人と山岡夫人は下の名前が同じ。

とある著名人の名だ。

さらに偶然とは恐ろしいもので、私の下の名は

その著名人の母親と同じである。

    「まあ!あなた達、私の娘ってわけね!」

そう言うと、2人は急におとなしくなり、顔を見合わせて恥じらう。

2人とも、少女期に母親を亡くしていた。


「みりこんさんは、いいわね…妹さんがいるんだもん」

一人っ子の消耗夫人は言う。

山岡夫人も

「弟だけじゃ、話し相手にもならないのよ…」

と、外の景色に目をやる。


    「じゃ、これからは、私がママになってあげるわ!

     さあ、お乳をあげよう!」

はにかんで微笑む2人。

海辺の町に吹く早春の風は、一瞬とはいえ

強気なハートを溶かしたようだった。

一瞬よ、一瞬。


夕方、陣営に戻ったら、その町在住のある議員さんから

さっそく激励の電話が入っていた。

「こっちの縄張り荒らしやがって!おぼえてろ!」

ご声援、ありがとうございます。

また行かせていただきます。
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