先日、夫と二人で外にいたら
お派手な美女が親しげに会釈する。
こちらも会釈を返すが、夫はあきらかに彼女を知っており
私には心当たりがまったくない。
「誰だっけ?」
「ヨシダさんの奥さんだよ…これからスナックに出勤するんだ」
「ええっ?!」
近所に住むヨシダさんとこの奥さんは
いつもスッピンにジャージで子育て中の
言っちゃあナンだが子豚ちゃんのようなおかた…
お世辞にも美しいとは…
「化粧したらああなるんだ」
「ええっ?」
そう言われれば、ピアスだらけの耳に見覚えが…
「うお~!たまげた~!ああまで化けられるもんかい!」
「最初は地味だったけど、だんだん濃くなってきたからわかる」
夫は得意げ。
ごっついツケマツゲにカツラまでかぶっているから、まったくの別人。
のっぺりしてる分、化粧映えするのかもしれない…などと考える。
エベレスト級のハイヒールで、背まで高くなっておりなさる。
原形をとどめない高度な技術は、梅沢富美男クラス。
いやはや、見事な化けっぷりだ。
近頃私の住む町では
赤ちゃんを持つ若妻のスナック勤めが増えたように思う。
旦那さんが帰宅したら、タッチ交代で子供を預けて行くのだ。
水商売も景気は最悪だろうが、雇う側にとって人妻は
ヒマな時に休んでもらえて便利に使える。
人妻のほうも、家でおむつを替えているよりはお金になる。
旦那が子守りなら託児所もいらないし
オシャレも出来て、つかの間の開放感を味わえるかもしれん。
この場合、たいていそのうち離婚する。
奧さんに彼氏が出来たり、衣装や装飾品でかえって家計が圧迫され
旦那が子守りに飽きたところで喧嘩が増えるのだ。
まあ、乳飲み子置いてのスナック勤めを容認する旦那のほうも
それなりの人物であろうから、これは正しい判断かもしれない。
それはそれで各自の生き方…けっこうなことだが
これが後日、意外な方向から私に関与してくる結果となった。
…このところ、夫の愛用する百円ライターが美しい。
白地に細密な花の絵がプリントしてあるものだ。
アマリリス、アヤメ、ツバキなど、いくつか種類がある。
裏を見ると、どれもつるりと真っ白で何も書かれていない。
しかしその真っ白は、何かで文字を削り取られてツヤを失った白である。
どうやら私が見てはいけないものが書かれているらしい。
だったら持たなきゃいいものを
せっせと消してまで身近に置いてしまうのが、夫らしいところである。
ライターはだんだん増えていき
ほどなく12種類の花のコレクションが完成した。
元来うかつな夫のこと
中にはうっかり裏を消し忘れたものも出現するようになった。
“スナックR(仮名)”。
電話番号もある。
数年前、駅前に出来た店だ。
はは~ん。
この習性は夫特有のものなのか
好きな女の店のライターを集めるのは、以前もやっていた。
そういえば…と、学習能力の無い私は思い出す。
思い起こせば、まず最初にゴルフコンペありき。
流れで行った店で、獲物をゲットしたらしい。
お酒を飲まない夫は、こういうチャンスを実にうまく活用する。
以来数ヶ月、またパチンコを始めただの
父親の代理で商工会の集まりだのと言っては
帰りが遅くなる日が増えたように思う。
すでに確認の必要は無い。
このところ見え隠れしていた女性は、そこにお勤めなのであろう。
昼間は地味でも、夜になったら美しく変身なさるのかもしれない。
ヨシダさんとこの奧さんも、その店にいるのだ。
だからあれほど変貌していてもわかるのだ。
世事にうとい夫が、近所だからというだけで判別できるはずがない。
しかし、そんなことに目くじらなんて立てない。
どうせそのうち飽きて捨てられる。
それに、これは使えるのじゃ。
…テーブルにライターをずらりと並べておく。
この間から、近所の空き地で古い電化製品を
無料で引き取る催しをやっている。
そのチラシを眺めながら
「年末で色々処分したいけど…五十肩が痛くて」
と言ってみる。
夫は「オレが持って行く」と言い出し
汗びっしょりになって、納戸に押し込んでいた古い電子レンジや食器洗浄機
壊れた扇風機や掃除機などをすっかり処分してくれた。
ブラボー!スナックR!
感謝しますっ!
長年、頭痛のタネだったガラクタは一掃され
涙が出そうなほどありがたかった。
次にやった時は、パチンコで勝ったと言ってお金をくれた。
本当かどうかは知らない。
とても嬉しい。
大掃除も手伝ってくれた。
本当にありがたい。
そんなどさくさにまぎれて、ライターはいつの間にか姿を消す。
でもまた、脱いだ服のポケットから
いくらでも出てくるのだ。
これを今、時々やっている。
そうねぇ…さりげなく、ひょっこりやるのがコツかしら。
なにしろ五十肩なもんで。
お派手な美女が親しげに会釈する。
こちらも会釈を返すが、夫はあきらかに彼女を知っており
私には心当たりがまったくない。
「誰だっけ?」
「ヨシダさんの奥さんだよ…これからスナックに出勤するんだ」
「ええっ?!」
近所に住むヨシダさんとこの奥さんは
いつもスッピンにジャージで子育て中の
言っちゃあナンだが子豚ちゃんのようなおかた…
お世辞にも美しいとは…
「化粧したらああなるんだ」
「ええっ?」
そう言われれば、ピアスだらけの耳に見覚えが…
「うお~!たまげた~!ああまで化けられるもんかい!」
「最初は地味だったけど、だんだん濃くなってきたからわかる」
夫は得意げ。
ごっついツケマツゲにカツラまでかぶっているから、まったくの別人。
のっぺりしてる分、化粧映えするのかもしれない…などと考える。
エベレスト級のハイヒールで、背まで高くなっておりなさる。
原形をとどめない高度な技術は、梅沢富美男クラス。
いやはや、見事な化けっぷりだ。
近頃私の住む町では
赤ちゃんを持つ若妻のスナック勤めが増えたように思う。
旦那さんが帰宅したら、タッチ交代で子供を預けて行くのだ。
水商売も景気は最悪だろうが、雇う側にとって人妻は
ヒマな時に休んでもらえて便利に使える。
人妻のほうも、家でおむつを替えているよりはお金になる。
旦那が子守りなら託児所もいらないし
オシャレも出来て、つかの間の開放感を味わえるかもしれん。
この場合、たいていそのうち離婚する。
奧さんに彼氏が出来たり、衣装や装飾品でかえって家計が圧迫され
旦那が子守りに飽きたところで喧嘩が増えるのだ。
まあ、乳飲み子置いてのスナック勤めを容認する旦那のほうも
それなりの人物であろうから、これは正しい判断かもしれない。
それはそれで各自の生き方…けっこうなことだが
これが後日、意外な方向から私に関与してくる結果となった。
…このところ、夫の愛用する百円ライターが美しい。
白地に細密な花の絵がプリントしてあるものだ。
アマリリス、アヤメ、ツバキなど、いくつか種類がある。
裏を見ると、どれもつるりと真っ白で何も書かれていない。
しかしその真っ白は、何かで文字を削り取られてツヤを失った白である。
どうやら私が見てはいけないものが書かれているらしい。
だったら持たなきゃいいものを
せっせと消してまで身近に置いてしまうのが、夫らしいところである。
ライターはだんだん増えていき
ほどなく12種類の花のコレクションが完成した。
元来うかつな夫のこと
中にはうっかり裏を消し忘れたものも出現するようになった。
“スナックR(仮名)”。
電話番号もある。
数年前、駅前に出来た店だ。
はは~ん。
この習性は夫特有のものなのか
好きな女の店のライターを集めるのは、以前もやっていた。
そういえば…と、学習能力の無い私は思い出す。
思い起こせば、まず最初にゴルフコンペありき。
流れで行った店で、獲物をゲットしたらしい。
お酒を飲まない夫は、こういうチャンスを実にうまく活用する。
以来数ヶ月、またパチンコを始めただの
父親の代理で商工会の集まりだのと言っては
帰りが遅くなる日が増えたように思う。
すでに確認の必要は無い。
このところ見え隠れしていた女性は、そこにお勤めなのであろう。
昼間は地味でも、夜になったら美しく変身なさるのかもしれない。
ヨシダさんとこの奧さんも、その店にいるのだ。
だからあれほど変貌していてもわかるのだ。
世事にうとい夫が、近所だからというだけで判別できるはずがない。
しかし、そんなことに目くじらなんて立てない。
どうせそのうち飽きて捨てられる。
それに、これは使えるのじゃ。
…テーブルにライターをずらりと並べておく。
この間から、近所の空き地で古い電化製品を
無料で引き取る催しをやっている。
そのチラシを眺めながら
「年末で色々処分したいけど…五十肩が痛くて」
と言ってみる。
夫は「オレが持って行く」と言い出し
汗びっしょりになって、納戸に押し込んでいた古い電子レンジや食器洗浄機
壊れた扇風機や掃除機などをすっかり処分してくれた。
ブラボー!スナックR!
感謝しますっ!
長年、頭痛のタネだったガラクタは一掃され
涙が出そうなほどありがたかった。
次にやった時は、パチンコで勝ったと言ってお金をくれた。
本当かどうかは知らない。
とても嬉しい。
大掃除も手伝ってくれた。
本当にありがたい。
そんなどさくさにまぎれて、ライターはいつの間にか姿を消す。
でもまた、脱いだ服のポケットから
いくらでも出てくるのだ。
これを今、時々やっている。
そうねぇ…さりげなく、ひょっこりやるのがコツかしら。
なにしろ五十肩なもんで。