5日目の夜、私は師匠に必ず会える秘策を入手していた。
友人からの業務連絡だ。
「平日の2時半から3時半頃まで、こまどり公園に
ママ友がたくさん集まっているそうよ。
幼稚園帰りの子供を遊ばせてるんだって。
平日といったら、もう明日の金曜日しか無いじゃない。
行ってみて!」
各地域に散らばった協力者からもたらされる様々な情報が
地元在住のウグイスの強みだ。
この話をナミ様の前で、候補に伝えてある。
行くのは3時と決めた。
2時半から3時半と限定されれば
未到着や早帰りのママ友を見越して
誰でも中間の3時に行くものだ。
ナミ様から情報が漏れており
さらに師匠が私の予想通りの人物であれば
必ずノコノコやって来るはず。
誰にも内緒の秘密のゲームだ。
そして午後3時。
こまどり公園に到着すると…
いたよ、いました、師匠ご一行様が!
先に来て、若いママ達の間を回っている。
「かかった!」
ひそかにガッツポーズをする私であった。
こっちに気がついて両手を激しく振りながら
ぜい肉を揺らして飛び跳ねる、大仏様が一体。
それが師匠である。
ああ、師匠!
私が間違っておりました。
腐ったココロネで、あなた様をザンネンと申し上げましたが
ザンネンどころではありません。
超越しておられます。
南無阿弥陀仏。
順番待ちのために周辺を回って、再びこまどり公園へ。
お帰りのご挨拶をなさっておられる大仏、いや師匠…
60超えの年齢にふさわしく、順調に衰えた声帯を音源に
豊富な脂肪で圧迫された各器官を通過して絞り出される
まろやかなテノール。
「…ヘタですね…」
これをつぶやいたのは私ではない。
候補だ。
「キタヤマが、シタヤマに聞こえるでしょ。
基礎ができてない」
これを言ったのも私ではない。
候補である。
「ありゃあ、人前に出ちゃいけませんな…」
重ねて潔白を主張するが、そう言ったのも私ではない。
おとなしい、ドライバーの爺さんだ。
師匠、終わった!
やがて候補同士は、近づいて話をしている。
師匠も来て、ナミ様に激励のお言葉でも
おかけになるかと思っていたら
距離を置いたまま、遠くから手を振り続けておられる。
どうやら近づきたくないらしい。
それはいいけど、手を振る時は指を閉じてね、師匠。
「師匠は県北で、すごく人気があるんです。
名物ウグイスさん、名物ウグイスさんって呼ばれて
有名なんです」
ナミ様は師匠に応えて手を振りながら、誇らしげに説明する。
先ほど、男達の発言を聞いてしまった弟子は
師匠の汚名を挽回しようと懸命なのである。
「キワモノのゆるキャラは、名物になるもんよ。
せんとくん、フナッシー…女房が妬けない人気者」
「そ…そんな…」
当惑するナミ様。
候補同士の話も終わり、師匠の選挙カーは動き出した。
「やらないの?師匠と弟子ごっこ」
「え?」
「師匠に頑張ってる姿をお見せして
感動とか緊張とか味わうんじゃないの?
後で青春だのへったくれだの、電話で盛り上がる方針なんでしょ?」
「ええ~?どうしよう、どうしよう」
「早くしないと行っちゃうよ」
ナミ様は意を決し、先に立ち去る師匠の選挙カーに向けて
涙声のエールを送る。
師匠もこちらにエールを送りながら離れて行く。
どうやら私は「ハートだけ乙女劇団」演じる
「師匠と愛弟子物語」のクライマックスシーンを
鑑賞することができたらしい。
ああ、もったいなや、ありがたや。
アーメン!
友人からの業務連絡だ。
「平日の2時半から3時半頃まで、こまどり公園に
ママ友がたくさん集まっているそうよ。
幼稚園帰りの子供を遊ばせてるんだって。
平日といったら、もう明日の金曜日しか無いじゃない。
行ってみて!」
各地域に散らばった協力者からもたらされる様々な情報が
地元在住のウグイスの強みだ。
この話をナミ様の前で、候補に伝えてある。
行くのは3時と決めた。
2時半から3時半と限定されれば
未到着や早帰りのママ友を見越して
誰でも中間の3時に行くものだ。
ナミ様から情報が漏れており
さらに師匠が私の予想通りの人物であれば
必ずノコノコやって来るはず。
誰にも内緒の秘密のゲームだ。
そして午後3時。
こまどり公園に到着すると…
いたよ、いました、師匠ご一行様が!
先に来て、若いママ達の間を回っている。
「かかった!」
ひそかにガッツポーズをする私であった。
こっちに気がついて両手を激しく振りながら
ぜい肉を揺らして飛び跳ねる、大仏様が一体。
それが師匠である。
ああ、師匠!
私が間違っておりました。
腐ったココロネで、あなた様をザンネンと申し上げましたが
ザンネンどころではありません。
超越しておられます。
南無阿弥陀仏。
順番待ちのために周辺を回って、再びこまどり公園へ。
お帰りのご挨拶をなさっておられる大仏、いや師匠…
60超えの年齢にふさわしく、順調に衰えた声帯を音源に
豊富な脂肪で圧迫された各器官を通過して絞り出される
まろやかなテノール。
「…ヘタですね…」
これをつぶやいたのは私ではない。
候補だ。
「キタヤマが、シタヤマに聞こえるでしょ。
基礎ができてない」
これを言ったのも私ではない。
候補である。
「ありゃあ、人前に出ちゃいけませんな…」
重ねて潔白を主張するが、そう言ったのも私ではない。
おとなしい、ドライバーの爺さんだ。
師匠、終わった!
やがて候補同士は、近づいて話をしている。
師匠も来て、ナミ様に激励のお言葉でも
おかけになるかと思っていたら
距離を置いたまま、遠くから手を振り続けておられる。
どうやら近づきたくないらしい。
それはいいけど、手を振る時は指を閉じてね、師匠。
「師匠は県北で、すごく人気があるんです。
名物ウグイスさん、名物ウグイスさんって呼ばれて
有名なんです」
ナミ様は師匠に応えて手を振りながら、誇らしげに説明する。
先ほど、男達の発言を聞いてしまった弟子は
師匠の汚名を挽回しようと懸命なのである。
「キワモノのゆるキャラは、名物になるもんよ。
せんとくん、フナッシー…女房が妬けない人気者」
「そ…そんな…」
当惑するナミ様。
候補同士の話も終わり、師匠の選挙カーは動き出した。
「やらないの?師匠と弟子ごっこ」
「え?」
「師匠に頑張ってる姿をお見せして
感動とか緊張とか味わうんじゃないの?
後で青春だのへったくれだの、電話で盛り上がる方針なんでしょ?」
「ええ~?どうしよう、どうしよう」
「早くしないと行っちゃうよ」
ナミ様は意を決し、先に立ち去る師匠の選挙カーに向けて
涙声のエールを送る。
師匠もこちらにエールを送りながら離れて行く。
どうやら私は「ハートだけ乙女劇団」演じる
「師匠と愛弟子物語」のクライマックスシーンを
鑑賞することができたらしい。
ああ、もったいなや、ありがたや。
アーメン!