殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

靴底事件・アゲイン

2023年12月29日 21時21分03秒 | みりこんぐらし
先日、夫と市外のホームセンターへ買い物に行った。

愛犬パピのおやつを入手するためだ。


うちには13才のパピヨン、パピと

3才のダックスとセッターのミックス、リュウがいる。

犬種が違うので食の好みも違い

おやつはそれぞれ別の物を与えているが

近頃、パピが愛してやまないおやつ…

ドギーマンというメーカーの“きらり”が町内で品薄。

“きらり”にはプレーンやチーズ入り、野菜入りなど何種類かあって

パピの好きなプレーンタイプが売られてないことが増えた。


車で40分ほどかけて、大きな町のホームセンターに行けばある。

だから、その店へ行った時にはいつもたくさん買っておくのだが

町の人口が多いため、当然、車も多い。

週末なんか芋を洗うような賑わいで、ホームセンターの駐車場は無法地帯。

何かと消耗するため、比較的近くて人影まばらな田舎の店を開拓中なのだ。


しかし、どこへ行ってもきらりのプレーンタイプは見つからない。

ネットで買えばいいようなものの

きらりを買うと言えば義母がすんなり納得するので家を出やすいため

夫婦できらりを探す旅を楽しんでいるのである。


先日は、我々が以前住んでいた山間部のホームセンターへ

行ってみようということになった。

今から30年近く前の35才の時、夫の実家から九州へ出奔した私。

結局帰って来て夫や子供たちと合流し、5年ほど暮らしていた思い出深い町だ。

世話になった大家さん夫婦はすでに亡くなり

ほとんど行くことが無くなって久しい。


というわけで行ってみたが

やはりそこのホームセンターにもきらりは無かった。

仕方がないので同じ敷地にあるスーパーへ寄って帰ろうと

広い駐車場を歩いていたら、黒い喪服の集団と遭遇。

子供から年寄りまで10人ほどいるところを見ると

身内の葬式帰りらしい。


そうだった…この町の人々は閉鎖的で

かつ、ちょっと変わったところがある。

滅多に着ない喪服を着ると、すぐに脱ぐのがもったいないのか

あるいは娯楽が少ないからか、一族郎党が喪服のまま

スーパーなど人の多い所へ繰り出してゾロゾロと練り歩き

買い物をする習性があるのだ。


その中に、おそらく我々より少し年上の太ったおじさんが一人。

きつそうな喪服を着てポケットに手を突っ込み

一族と一緒に練り歩きながら、時々立ち止まってキョロキョロしている。


この行為も、この町の男性あるある。

たまに着た喪服姿を人に見て欲しいらしいのだ。

ついでになぜか肩をいからせて、ヤクザ映画さながらに

いかつい男を表現。

私が住んでいた頃から、この摩訶不思議な行為は続いていたみたい。

最初は意味不明だったが、何度も見かけるうちに彼らの意図がわかってきた。

今でこそ豊富な休耕田を活用してスーパーがたくさんできたが

元はそれほどすさまじい田舎だったということだ。


さて、田舎のショッピングモールは、やたらと広い。

ホームセンター寄りに停めた車から、遠くに見えるスーパーの入り口を目指して 

我々夫婦は延々と歩いていた。


と、やがて“バッタン、バッタン”という

大きな音が聞こえてくるではないか。

「近所の人が布団で干していて、それがこだましているんだろう」

私は思った。

広い駐車場に響くバッタン、バッタンは

誰かが布団を叩く音だと信じて疑わなかったのだ。


しかし、そこで夫が笑いながら耳打ち。

「ワシと同じヤツがおる」

夫が指さす方角には、例のおじさんが一人で歩いている。

彼はいつの間にか一族と離れ、単独行動になっていた。

バッタン、バッタンは、そのおじさんの足元から発生しているようだ。


「おおっ!」

素晴らしい光景を目撃した感動で、私は思わず声をあげた。

彼の右足の靴と靴底は、離婚寸前。

かろうじて、爪先だけがくっついている。

古い劣化した靴で歩き回っているうちに

土踏まずとカカトの部分がペロリと決別したらしい。


その状態で歩くたび、離れた部分が大きく波打ち

反動が足の裏を太鼓のごとく、派手に打ち鳴らしている。

その大音響に、他の一族はさすがに恥ずかしく思ったのか

あっさり彼を見捨て、どこかへ散ったようだ。


バッタン、バッタンはショッピングモールの建物に反響し

高らかに響き渡る。

しかし、おじさんはどこ吹く風。

相変わらずヤクザ映画の主人公にでもなったかのように

肩をいからせて歩き回っている。

まさか自分の靴と靴底が離れかけているとは、夢にも思ってない様子。

呼吸困難になるほど笑った。


思い起こせば、何年か前にあった本社の新年会…

人並外れた甲高幅広足の夫は、履いて行く靴が無くて古いのを履き

パーティー会場で靴のカカトが落ちた。

それを次男が見つけ、近くに居た人と

「終わってるね」と話して笑ったが

終わってるのは自分の父親だったというてん末。

あの時も腹がよじれるほど笑ったが

今回は目の前で見たというのもあり、もっと笑った。


「きらりを探しに行って良かった!」

夫も私も心から、そう言い合った。

しばらくは、このネタで笑えそうだ。
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人気者

2023年12月18日 09時10分31秒 | みりこんぐらし
次男夫婦の間で今、モンちゃんが熱い。

モンちゃんは、ここでもよく登場する私の同級生。

家が近かったため、幼稚園に上がる前からの友だちだ。


彼女と私は共に商売をする家の長女に生まれ

彼女の父親はマスオさん、私の父親は養子として

義理親の家に入り、家業に従事していたこと…

彼女も私もたまたま同じ町の男と結婚し

双方の伴侶もたまたま二つ年上の同級生同士だったこと…

彼女の方は仕事が続かない旦那、私は浮気者の旦那に

それぞれ手を焼いて数十年…

そしてモンちゃんの方はすでに見送り済みだが

姑仕えに苦心した身の上など

お互いの生活基盤に共通点が多いため、心からわかり合える大切な存在だ。


次男夫婦がモンちゃんのファンになった発端は、半年ほど前。

車を運転中のモンちゃんが路上でパトカーに止められたのを

嫁のアリサが偶然目撃したことから始まる。

しかも同じ月に2回だ。


モンちゃんの罪状は、どちらも歩行者進路妨害。

7〜8年前だったか、信号の無い横断歩道の手前に

道路を渡りたい歩行者が立っている場合

車は停止して歩行者を渡らせなければいけない規則ができた。

モンちゃんはそれを怠って通過し

後方に居たパトカーに止められた様子だったとアリサは言う。


アリサは、モンちゃんと会ったことが無い。

「顔の部品が浮世絵の“ピノキオ”」

私の話したモンちゃんの人相風体から

「間違いない」と踏んだそうだ。


顔の部品が浮世絵というのは、浮世絵に描かれた美人画から。

モンちゃんは面長(おもなが)で

糸目鉤鼻(いとめ・かぎばな)の古風な顔立ちなのだ。

江戸時代なら浮世絵のモデルになって、もてはやされていたかもしれない。

あれが髪を段カットにしてトレーナーを着たら、モンちゃんになる。

ピノキオの方は、昔のアニメ“樫の木モック”でもいいのだが

身体が細くてカクカクしているのが由来だ。


私はアリサからモンちゃんの目撃談を聞いた時

「そんな偶然があるものか。

一回はモンちゃんであったとしても、さすがにもう一回は別人だろう」

と思った。

しかし後日、モンちゃん本人から告白が。

「横断歩道の歩行者が目に入らなくて、ひと月に2回もパトカーに捕まった。

財布が痛い」

やっぱりビンゴだったのだ。


それをうちの嫁に見られたと知ったらショックが倍増すると思い

「悪かったねぇ…交通事故よりマシと思おうや。

モンちゃんが無事で良かった」

と言った。

そして自分が目撃したのがモンちゃんかどうか

結果を待ち焦がれていたアリサには

「本当だった」と伝えた。


それからが大変。

俄然モンちゃんに興味を持った次男夫婦は

彼女の話を聞きたがるようになり

最新ネタが入らない時は、子供時代の思い出を話せとうるさい。


そこで、モンちゃんがお母さんの着せ替え人形で

いつもフリフリの可愛い洋服を着ていたこと…

書道、ピアノ、バレエ、絵画、日舞、茶道、華道など

たくさんの習い事をしていたこと…

遅刻の女王で、遠足や校外行事の度に大幅な遅刻をし

いつもタクシーで合流していたこと…

中学時代に『学生街の喫茶店』という歌が流行り

それを歌っていた“ガロ”というトリオに夢中だったこと…

メンバーの中で“マーク”と呼ばれていた

ロングヘアのビジュアル系に魅せられていたこと…

彼のトレードマークはレイバンのサングラスだったので

モンちゃんもマークと同じタレ目型のレイバンが欲しくなり

お母さんの協力で入手したこと…

それに近視用の透明レンズを入れて、学校で使っていたこと…

細面のモンちゃんにレイバンは似合っていたが

アメリカ製のサングラスは大きくて重いため

いつも小鼻の辺りまでずり落ちていたこと…

などを話したら、大喜びする次男夫婦。


ちなみにモンちゃんの華麗な子供時代を知る者は

頻繁に行き来していた私しかいない。

彼女が自ら人に話すことは、一度も無かったからだ。

話す以前に、彼女は自身の日常に興味を持っていないフシがあった。

口数少なく、羨望も嫉妬もライバル心も無く

ただひょうひょうと生きる姿はまさに仙人。


口うるさい田舎町で、モンちゃんだけは

何をしようと完全にノーマークだった。

他の者が派手なレイバンのメガネなんかをかけていたら

速攻で揶揄の対象になっていたはずだが、モンちゃんだけはスルー。

遅刻に至っては先生と私以外、誰もその事実を知らないままである。

あまりにも悠々と現れるので、違和感を感じないのだ。

影が薄いというのか、気配を消せる特技を持っているのか

いまだに謎。


先日も次男夫婦がねだるので、最新ネタを披露。

モンちゃんが、うどんかラーメンかで悩んでいた話だ。

私と会う前夜、彼女の家の晩ごはんは湯豆腐だったそう。

「だから今夜は湯豆腐の残りの汁に

うどんかラーメンを入れて食べるつもりなんだけど

どっちにするか、迷ってる」


湯豆腐の残りを翌日の晩ごはんにするのって

いかにも節約家のモンちゃんらしい。

旅館の娘として贅沢三昧に育った彼女だが

働かない旦那と暮らしているうちに倹約が身についたようだ。


「湯豆腐なら、うどんじゃろ」

私は言った。

しかしモンちゃんは首を振る。

「それがさ、冷凍のギョウザとシューマイも入れたのよ」

「それはもはや…湯豆腐じゃないのではっ?」

「豆腐がメインだから、私の認識では湯豆腐なのよ。

でも味は中華に寄ってるし、決められない」

ロダン作、“考える人”のブロンズ像みたいにうつむき

真剣に悩むモンちゃん。


「じゃあ、うどんとラーメンを1個ずつ買って時間差で入れたら?」

無責任な提案をしてみたが、モンちゃんは首を振って断言する。

「どっちか一袋しか買わない」

そうだった…この夫婦は食が細い。

何はさておき、まず酒なので

うちでは考えられない少食なのだった。


うどんかラーメンかの悩みは、帰るまで続いた。

その後、私と別れてスーパーへ行ったモンちゃんが

どっちを買ったかは知らない。



モンちゃんは20代の頃、あと半月で結婚式という段になって

突如相手の男が嫌になり、彼女の親が結納金の倍返しと

ホテルのキャンセル料などを支払って婚約解消した武勇伝を持つ。

その数年後に今のご主人と出会って結婚したが

彼に決めた理由はいたってシンプルだ。

「マークに似ている」

これもやはり武勇伝として、次男夫婦に話した。


ちなみにそのマークもどき

私には散髪嫌いの変わり者にしか見えなかった。

しかし、こっちも結婚を決めた理由は

「舘ひろしに似ている」だったので、人のことは言えない。


ともあれ人生を左右する大決断には躊躇せず

うどんかラーメンかではクヨクヨと悩むモンちゃん。

このギャップが、次男夫婦のハートを掴んで離さないらしい。

この人気は、しばらく続きそうだ。


『コタツでお休みになる、うちの人気者リュウ・3才』


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詐欺電話

2023年12月12日 15時43分53秒 | みりこんぐらし
近頃、誰でも知っている電力会社を名乗り

料金のシステムが変わるだの、お得なプランだのと

ひたすら自動音声を聴かせる電話が増えた。

言われるままにプッシュボタンか何か押したら

とんでもない外国へ繋がって厄介なことになるタイプだ。

他人から金銭をせしめようとしながら、自動音声に任せるとは何と横着な。

詐欺の風上にも置けない。


また数日前には、とある商店を営む知り合いの所へ

年金の還付金詐欺の電話がかかってきたそうだ。

手違いで年金を少なく支払っていたので返す…

年金事務所の職員を名乗る男が言う、その金額は23,850円。

多ければ警戒されるし、少なければ飛びつかないため

微妙な線を突いている。


相手は23,850円を振込むための確認と称して

年金を受け取っている通帳の口座番号をたずねたので

知り合いは受話器を置き、通帳をしまってある部屋へ移動しようとした。

が、そこへたまたまうちの次男が居合わせており

電話機のナンバーディスプレイに表示されている

相手の電話番号をスマホで検索したところ、“詐欺電話”と出たので

通話を打ち切らせた。

今どきは警察や一般人が、怪しい電話番号をネットで公開しているそうで

調べるのは常識なんだと。


これは、そのまま話し続けていたら銀行へ行かされ

うまいこと言いくるめて残高をどこかへ送金させられるという

今ではすでに古典となった手口と思われる。

知り合いは確かに年金受給者ではあるが

頭も身体も私よりずっとしっかりして若々しいのに

急に電話がかかると、うっかりこういうことになるみたい。

他人事ではない。

今どきは怪しげな電話がかかるため、電話を解約したり

自動音声で「この電話は録音されます」とかなんとか

長ったらしい前台詞を流して相手の気力を削ぐ措置を取る家庭が増えているのも

うなづけるというものだ。


一方、うちには電話イノチの義母ヨシコがいるので無防備を続けている。

つい先日の夕方、そんな我が家へ電話がかかり

ヨシコは何やら話していたが、代わってくれと言ってきた。

「◯◯市(うちらの居住する市)から、何か来るんだって。

私じゃようわからんから、聞いてみて」

そう言われて交代したら、生身の女性の声。

「こちらは⬜︎⬜︎⬜︎と申します」

社名らしきカタカナを並べたが、忘れた。


「この度、私どもは◯◯市と提携いたしまして

戦争や災害で被害を受けた方々への支援物資を集めております。

現在、お近くをスタッフが回っておりますので

食品や衣類など、支援に役立ちそうな物がお家にありましたら

ぜひお出しいただきたいと思います」

年の頃は30半ば、しゃべり慣れた美しい声だ。


意地の悪い私は、ここで言う。

「食品や衣類の他に、不要な貴金属なんかもでしょ?」

「はい、それはもう。

現金に換えて支援することができますので」

「支援だったら、うちがしてもらいたいわよっ!」

「えっ?あの、ホホホ…」

向こうがたじろいているうちに電話を切った。


公共機関の名をかたる手法、昔は確かにあった。

「消防署の方から来ました」と言って、高い消火器を売りつけようとしたり

「教育委員会の方から来ました」と言って

高い幼児教育の教材を売りつけようとしたり。

もちろん買わなかったが、このようなセールスに何度か遭遇したものだ。


幼児教育の教材を売りつけようとした女なんて、感じ悪かったぞ。

「文部省(当時)の決定で

来年から教育指導要項がガラリと変わるので

教育委員会の方も急いでいるんです。

この教材は即決された方が優先されるので今、決めてください。

でないとお子さんが小学校に上がられた時、勉強から置いて行かれます」

40過ぎの長男が未就学の頃だから、どんだけ昔かわかるだろう。


教育委員会という名称がお初だったらビビっていたかもしれないが

うちの両親の仲人が市役所の偉いさんだったため

聞いてはいけない内部の話など、わりと耳慣れていた。

あの教育委員会が文部省のお達しに敏感に反応し

取り急ぎ有料の教材を販売して回るなど考えられなかったのだ。

それで断ったら、「親なのに、お子さんの成績に興味が無いんですねっ」

と捨てゼリフ。

心配せんでええ。

教材を買おうが買うまいが、うちの息子はパッパラパーだ。


時代は移ってセールスはネットや電話が主流となり

相手の顔が見えなくなると、使うアイテムが大胆になった。

どこそこの方から来ました…というセリフは

後で都合が悪くなると、「あれは方角のことだった」

と言い逃れをするための伏線だ。

しかし面が割れていなければ、堂々と市役所の名前を出すことができる。

電力会社や年金事務所の件もそうだけど、まずは揺るぎない固有名詞を出すと

カモは信用してしまうのだ。


老人は加齢と共に、公共の名前に弱くなる。

年を取って心細くなると、冷たい身内より公共機関の方が

より身近で頼り甲斐があるように感じるらしい。

ヨシコも“市”と聞いて、強い反応を示した。


そして支援という言葉で、老人の心をくすぐる。

年を取っても人の役に立ちたい老人は多い。

気の毒な人たちに手を差し伸べることができたら…

公共機関と福祉のダブル攻撃で、老人のハートを鷲づかみ。

よく考えたものだ。


広島の息子に引き取られ、老人ホームに入った隣のおばさんが

まだ隣に住んでいたら、絶対に騙されていると思う。

貴金属などの金めな物を売るのは本人の自由だけど

市の名前をかたって嘘を言うヤツに騙されて売るのはシャクじゃないか。


それにしても電話をかけてきた女性は

張りがあって滑舌が良く、それでいながらソフトな

本当に美しい声だった。

ちょっとジャブを撃ったら狼狽えるところなど

人柄もそこまで悪質ではないと思われる。

これだけしゃべれるのなら、人を騙すバイトをするより

衆議院の解散も近いことだし、ウグイスをやったらどうだ。

もったいない。
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外食難民

2023年12月08日 09時08分11秒 | みりこんぐらし
気がつけば、もう師走。

先月は、ブログを3回しか更新しなかった。


11月で90才になった実家の母の体調が思わしくなく

急きょ駆けつけたり、病院へ連れて行くことが増えたのだ。

それから、私の居住するシルバーストリートのシルバーたちが

相次いで5人他界。

どの人も平均寿命前後の男性だ。


コロナ禍以降、家族葬が主流となり

通夜葬儀の参列や手伝いが無くなったので

以前ほどの慌ただしさは無く、忙しいのは気分だけなのだが

バタバタと過ごしているうち

あっという間に11月が終わってしまった。


げに、老人が衰弱したり

近所の人が競争みたいにバタバタと亡くなるのは

やっぱりこの夏の暑さが影響しているように思う。

ものすごく暑かったのが急に寒くなるという容赦の無い温度変化が

彼らの心身を弱らせたのだろう。


ともあれ短期間に5人のシルバー男性を失った、我がシルバーストリート。

「次はワシじゃ」、「いや、ワシよ」

老人たちは寄ると触るとこの話をしていて

中にはそれを言った人が実際に亡くなり、戦々恐々の状態だ。


先週まで元気に老人体操教室に来ていた86才の男性Kさんが

今週は来ないので有志が誘いに行ったら

一人暮らしの家で息絶えていたというのもあった。

一応は変死扱いなので、警察が介入。

シルバーストリートは、ものものしい雰囲気に包まれた。


第一発見者と、最後に携帯で話した相手が呼ばれて事情聴取が行われる。

玄関には数日分の新聞が溜まっていて、机に広げてあった新聞の日付けと

最後に電話をした日が同じだったので、死亡日が判明したそうだ。


その事件が起きる3日前、やはり元気そうだった84才の男性が

わずか数日の入院の後、奥さんを残してあっという間に亡くなった。

前の週にはピンピンして体操教室に来ていたので

仲間のショックは大きく、その話で持ちきりだったが

Kさんはその前に亡くなっていたらしい。


このように何かと落ち着かない日々を送る我が家では

外食の頻度が上がった。

私の時間が取れなくて、ごはんが間に合わないことが増えたのだ。

月に一度あるか無いかだったのが

月に二度は家族で食事に出るようになった。

男共は外食が好きではないため、シブシブ付いて来るが

人前に出るのが好きなヨシコは喜ぶ。


しかし夫とヨシコを同伴した外食は、非常に気を使う。

彼ら母子には、呪われし悪癖があるからだ。

それは、テーブルに座る時に起きる。

アレらはまず、テーブルに両手をつき

その両手に全体重をかけて、ドスンと椅子に座る癖。


夫はバドミントンで痛めたヒザが原因、ヨシコは持病の腰痛が原因で

椅子を手前に引きながら普通に座るのが難しい。

ゆっくりやればできそうなものだが、つい楽をしようと

短絡にテーブルを利用して座る。

すると、どうなるか。

信じてもらえないかもしれないが

テーブルが引っくり返るという大惨事が発生する。


人的要因としては、どっちも太めなので体重が重い。

さらに我が家のテーブルはその昔、ヨシコがヘソクリをはたいて買った

頑丈な無垢材。

体重をかけてもビクともしないため、その習慣が身に付いてしまい

よそのテーブルのコンディションなんて気にせず

家と同じ動作をやらかしてしまうのだ。


一方、店の物的要因も存在する。

近頃の飲食店は安上がりに作ることが多いので、テーブルがヤワなのだ。

そりゃ高級店に行けば、アレらの体重にびくともしない

重厚なテーブルがあるかもしれないが

予算には限りがあり、各自の好みもあり、田舎でもあり

しっかりしたテーブルを備えている店はほとんど無い。


最も危ないのは、テーブルの脚が真ん中に1本だけの店。

丸か四角の天板を1本の脚で支えているためバランスが悪く

夫とヨシコにかかれば、ひとたまりも無い。

テーブルは大音響と共に床へ横倒しになり、醤油や爪楊枝が散乱。

客は何事かと注目し、店の人は血相を変えて飛んで来る。

悪びれる様子もなく、テーブルに罪をなすりつける母子。

穴ったら入りたいとは、このことだ。


そのうち私にも知恵がつき、カフェや横文字料理の店は

弱々しい造りのテーブルが多いので避けるようになった。

テーブルの天板がガラスになっている店はさらに危険なので

はなから近づかない。

麺類など安価な商品を提供する店も、商品価格に見合ってヤワ。

ファミレスも重厚に見えて案外ヤワなので、要注意だ。


ここだけは大丈夫と思っていた店も

いつの間にか危ないタイプに交換していることがあるので

油断はできない。

町内のビジネスホテルのレストランが、そうだった。

バブル期の開店当初は予算がふんだんだったらしく

テーブルも椅子も頑丈なので安心していたある日

椅子はそのままでありながら、ガタのきたテーブルだけが

一般家庭で使う普通の食卓に変わっていた。

上に掛けてあるテーブルクロスはそのままだったので

気がつかなかったのだ。

4本脚なので倒れはしなかったが、アレらが座る際にグラリと傾き

冷や汗をかいた。


一番安心なのは、座敷。

テーブルの脚が短いので、倒れようが無い。

しかし足の悪い二人がいるとなると、座敷の店は選択外だ。


そこで夫とヨシコを向かい合わせに座らせて

体重バランスを分散させるように心がける。

いざ座る時は「手を椅子に」、「そうそう、ゆっくり」

などと言いながら手を添え、厳しく指導。


食事中も安心はできない。

すでに料理が運ばれているテーブルで、アレらが何かの拍子に立ち上がり

再び座ることになったら、さらなる大惨事だ。

薬を落とした…車のキーが見当たらない…

トイレ…知り合いが向こうに来ている…

そんな理由で安易に立ち上がろうとするのを全力で止める。


以前、ヨシコと近所のおばあちゃん達を連れて

町内の小洒落た洋食店に行った際

「内装が真っ白だから目が疲れる」と口々に言い出し

年寄りの外食は何と大変なことよ…と驚愕したものだが

まさかテーブルにまで気を使う羽目になろうとは思わなかった。


安全なテーブルのある店は年々減少し

私はどこへ行っても、テーブルの強度を案じている。

初めての店や、しばらく行ってない店は

先に入ってテーブルのチェックをするほどの念の入れよう。


唯一、安心できる店が市外にある。

そこは、テーブルが石なんじゃ。

大きな石の上っ面を綺麗に磨いてあるだけなので、脚すら無い。

だから絶対に倒れないし、グラつかない。

その店だけはリラックスできるが、車で40分かかるので

時間のある時しか行けないのが難点だ。

外食で楽をするはずが、かえって疲れる私である。
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