殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

近時事あれこれ

2022年03月19日 14時00分51秒 | みりこんばばの時事
ザ・四つ葉のクローバーズ。

うちの前に生えてんの。

何個あるか、わかります?


摘んでコップに挿したり、押し花に…

しませんよ。

珍しくないんだもの。

四つ葉に成長しやすい株って、あるのよ。


散歩する人たちに見つけてもらうの。

時々、発見した人の歓声が上がってるわ。

フフ…良かったじゃん…って思いながら聞いてる。


とはいえ、私も昔は見つけて喜んでたクチ。

何だか幸せになれるような気がして、期待しちゃうの。

だけど何枚見つけても、幸せなんか来なかったわ。


今にして思えば、あれは幸せが訪れるサインじゃなかったのね。

春の陽射しを浴びながら、幼い我が子とクローバー探しに興じる…

それこそが幸せの瞬間だったのよ。

若い頃にはわからなかったわ。

早く帰って洗濯物入れなきゃ…ごはん作らなきゃ…

なきゃ、なきゃって、義務ばっかりが気になってね。

バカだね。


だけど、あの頃に色々わかってたら…とは思わない。

人にはそれぞれ、気づくのにふさわしい時期があると思う。

それまではジタバタしていいんじゃないかしら。

ジタバタに育てられることって、多いのよね。



あ、そうそう、時事だったわ。

東北で、また大きな地震。

どんなに怖かったでしょう。

お見舞い申し上げます。

災害はもうたくさん。

起きないで欲しいと願うばかりよ。




ロシアとウクライナも、どうなってるんだか。

もちろん戦争は悪いことよ。

何の罪もない一般市民を巻き込んで、犠牲にするのは許せない。

早期の停戦と解決を願ってます。


それとは別に、真実をちゃんと報道してないような気もしてる。

あの頭良さげなプーチン大統領が、北のふっくらさんのお株を奪って

こうもあからさまにやっちゃうだろうか?

爆撃されたという建物、何だか古そうなのが多い感じだし?

そんな疑問を持ってしまう。


それからウクライナの大統領。

元コメディアンと知った、先入観がいけなかったのかもしれない…

何とな〜く芝居じみてる気がしてさ。

若くて見栄えがいいから絵になるけど、沈痛な面持ちで窮状と平和を訴えながら

やってることは寄付集め?あれれ?…

ごめんなさい、どうしてもそう思ってしまうの。

どっちが善で、どっちが悪と割り切れる問題じゃないのかも。

私にはわからないけど、後ろに色々あるんでしょうね。



愛子さまの成年会見、爽やかで輝いていらしたわ。

スキャンダルの多かった昨今を払拭する清涼剤みたいだった。

お小さい時分から、ほんの少し前まではスリリングな面もあったけど

立派にご成長あそばされたわね。

これぞ国民が求めていたものよ。


恐れ多いけど、お姿や話し方が少し前の記事『駅ピアノ』に登場した

歌のうまい友だち、サヨちゃんを彷彿とさせたわ。

サヨちゃんには、学校の先生もうちの家族もメロメロだったものよ。

大人が「若い娘さんはこうあって欲しい」と願う形、そのまんまだからね。

良かった、良かった。



さて、私の住む広島県では

河井元議員夫妻の贈収賄事件による議員辞職が相次いで

辞職ドミノが止まらない状況。

これから補欠選挙が次々に行われる予定だけど、それも税金だからね。

よくもまあ、ここまでやらかしてくれたものよ。

行き詰まったら『平和』と『カープ』に走って

思考停止しちゃう県民性ではあるけど、もう笑うしかないわよ。


問題の発端は、河井元法相の“値踏み”にあると思ってる。

渡した金額に、差があり過ぎるのよ。

上は300万や200万で、下は10万。

票をたくさん持つ人に多く渡すのは心情的に当然なんだろうけど

あとは50、30、20、10とばらつきが激しい。

市長や大物議員には多めで、雑魚や小物には少しと

河井さんの値踏みによって金額がそれぞれ大きく違うわけよ。

相手の実力、つまり立場や票の数を算段して決めた金額を渡してる。


後で、人より少なく見積もられたことがわかったら、バカにされた気分でしょうね。

議員ってプライド高いもの。

時の大臣からお金の入った封筒を渡されて、返しにくい気持ちはわかるけど

値踏みで決められた金額をヘラヘラと受け取ったばっかりに失職。

目も当てられないわ。


人を値踏みする権利が、自分にあると思ってる…

こんな恐ろしい考えの人が大臣を続けられなかったことのみ

今回の事件では良かったことになるのかしら。



事件といえば数日前、我々一家が遭遇したすさまじい料理も

一種の事件かしら。

これは最初、夫の知人が知り合いからもらったの。

で、くれた人が帰った後、知人はそこへ居合わせた夫に押し付け…

いや、くださった物どすえ。


問題のブツは、大きな皿に乗ったホットケーキ。

それだけならいいわよ。

ホットケーキの上に、ブロッコリーと白菜とシーチキン

それからなぜか魚の干物らしき断片で構成された塩味の炒め物が

こんもり乗っかってんの。

そしてホットケーキを囲んで

パイナップル、プチトマト、ゆで卵のスライスがぐるりと飾られてる。


多分、おかず系のクレープのイメージで

ホットケーキを使って作成されたんじゃないかと思うけど

魚の干物とパイナップルって、匂いが合わさると壮絶よ。

味?

激マズに決まっとるじゃないか。

すぐ捨てたわ。

写真撮る気も起きんかった。


知人も同じ人から似たような料理を何度かもらって、辟易してたんでしょうね。

だから皿ごと夫に持ち帰らせたんだと思う。

ひどいと思わない?

ともあれ、こんなシロモノを他人におすそ分けできる自由な精神に

感動したのは事実よ。


あ〜あ、今日も勝手なこと言っちゃって、sorry!
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現場はいま…新たな展開なのか?・6

2022年03月13日 12時03分28秒 | シリーズ・現場はいま…
「お父さんとお兄ちゃんと、3人でこっちにおいでよ」

F社長は言った。

今度は父子3人、セットでの勧誘だ。

けれどもこれは、「捨てる神あれば拾う神あり」と喜ぶ類いではなさそう。

F社長は永井部長と、彼を重用する本社に復讐するつもりだと思う。


彼が前回、夫と次男を誘ってくれた時から約1年の間に

彼の会社は山陰への進出をはたしたが、県内にも数ヶ所の拠点を増やしていた。

その拠点は、我々の住む町の近くまで来ている。

我が家の男3人は当面、それらのどこかへ投入されるだろう。

F社長は、とにかく人手が欲しいのだ。


元々人数の少ない会社から、中枢を担う3人がまとめて抜けると会社は回らない。

行く所の無い佐藤君とヒロミは残るだろうが

3人に付いて来る社員もいるだろうし、これを機に辞める者も必ず出る。

その際、キーマンになるのは重機オペレーター見習いのシゲちゃん。

運転手は探せばいくらでもいるが、重機オペレーターは滅多にいないからだ。


まだ誰にも言ってないので、彼がどうするのかは不明だが

付いて来る、あるいは辞める場合

積込みをする者がいなくなるので、その日から商売はできない。

残ったとしても、彼の技術と精神力が出荷のスピードに追いつかないため

彼には耐えられないだろう。


働き手が減ると売り上げが上がらないので、会社は早晩、閉鎖される。

会社を枯らすには、まず人から枯らして行くのが早いのだ。

閉鎖と言ったら大ごとのように聞こえるかもしれないが、今どきは普通。

支店が複数ある会社は、人員を他の所へ移動させればいいので

経費だけかかって儲からない部門は気軽に閉鎖する。


本社も昭和から平成にかけて吸収や合併を繰り返し

県の内外に拡げた支社支店を次々に閉鎖している。

中途で合併した会社には愛着が無いため

利益が出なくなったら容赦なく切り捨ての対象となるのだ。

もちろん、我が社も例外ではない。


で、閉鎖したらどうなるか。

F社長はかねがね、我々と同じ建設資材の卸業を始めたいと考えている。

そして地の利を考えた場合、我が社の立地がぴったりだとも言っている。

そこで閉鎖された跡地を入手し、同じ商売を始めたとしたら…

しかも同じ場所で同じ仕事をするのが、まさかの3人だとしたら…

本社と永井部長に対する、ものすごい嫌味だ。


それが万一うまく行って、前より発展したら…

今までのやり方がまずかったと証明されたのと同じだ。

本社にとっては赤っ恥、ハンカチを噛んで悔しがるだろう。

F社長は最終的に、これを狙っているような気がする。


そんな回りくどいことをしなくても、永井部長が憎たらしければ

貸した150万の請求書を持って本社へ乗り込み

彼の所業を社長や取締役にぶちまければいいようなものだが

そうはいかんのよ。

このような場合、返済の容易い150万では少ない。

話を聞いた本社はその場で、永井部長の代わりにお金を返し

F社長は領収を切って帰るしかなくなる。


するとどうなるか。

F社長は、貸したお金に困って回収に来たチンピラに仕立てられる。

たとえ真相は違っていても、「結局はそういうことでしょ?」ということになり

ひどく残念な形で終了してしまった前例には事欠かない。


そんな憂き目に会って評判を落とすより、この件を有効に利用する方が賢い。

借金のままにしておけば、永井部長にとっては生涯、脅威であり続ける。

二度とF社長に近づけないため、仕事の邪魔をしなくなるだけでなく

本社が獲得を狙う仕事に競合し、勝ち取ることができる。

F社長と接触したくない永井部長が、先に引くからだ。

やろうと思えばの話だが、本社の絡んだ仕事に

永井部長お得意の飛ばしや割り込みを用いるのも自由自在。

結果的に永井部長が踏み倒した150万は

何倍もの収益になってF工業に返ってくるというわけである。


ところで転職対象の3人は、どう思っているのか。

永井部長の弱みを知った余裕からか

「返事をせかされるわけでもなし、急ぐことはない」

などと言いつつ、淡々としたものだ。

「チャーターは地元の業者を使え」という彼の命令にも従わず

依然としてF工業をガンガン呼んでいるが、不思議と何も言って来ない。


それもそのはず、次男が永井部長の発言をF社長に伝えた後

腹に据えかねた社長は彼の携帯に電話をかけた。

しかし、何度かけても出なかったという。

以来、出ないとわかっていても、時々かけているそうで

これが牽制になっていると思われる。


ともあれ、どっちへ身を振るにしても、鍵になるのは河野常務の進退…

などと話し合っていた先週の始め、その常務がコロナ感染。

いつぞやのダイちゃんに続いて、嘘のような本当の話だ。


今回も本社では数人が感染したが、常務以外はごく軽症。

抗癌剤を使用しているからか、常務だけが重症に陥り

会社の進退どころか生命の進退が問題になっている。

このシリーズに取りかかった時には、予想もしていなかった。


年老いて頼りにならなくなったとはいえ、一応は恩人の危篤だ。

建て前が含まれているが、こんな時に動くわけにはいかない。

しばらくは彼の全快を祈りつつ

一方で全快しなかった場合のことも考えながら

静かに過ごそうと思っている。

《完》
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現場はいま…新たな展開なのか?・5

2022年03月07日 18時40分08秒 | シリーズ・現場はいま…
永井部長と業者の仲裁に入ったF社長が

総額150万円の豪勢な接待を行ったことで、対立はひとまず白紙になった。

ここは金を使わなければおさまらないという、F社長の判断による措置だった。

とはいえ、酒を飲ませれば解決するというわけではない。

山陰地方でも一目置かれるF社長に敬意を払う形で

業者は矛(ほこ)を収めたのだった。


誰が見ても向こうが悪い場合、警告をした上で争いを仕掛けた側は

何らかのもっともな理由が無い限り、自分から引くわけにはいかない。

これは業界におけるスジの一つ。


穏便に解決するには、問題のサイズに見合うか

あるいはそれ以上の人物が出てきて和解を提案する必要がある。

問題の性質にもよるが、誠意と呼ばれる各種のサービス…

つまり和解を円滑に行うための“飴”が必要になる場合もある。

結果、その人物の顔を立てるという建て前によって

仕掛けた側は振り上げた拳を下ろすことができるのだ。

これも業界のスジといえばスジだが

このスジを取り違え、はなから飴を目的に争いを仕掛けること…

あるいはそれを行う人を“外道”と呼ぶ。


余談になるが、うちの夫が70才まで勤務する確約を

本社からもらっているのは、今回のF社長のように仲裁役となり

手打ちの話ができる複数名の人物と親しいからだ。

速やかに問題を解決し、無事に帰って来るのは難しい仕事なので

誰でもいいわけではない。

相手が納得して迎え入れ、話し合いの席に付いてくれるランクの

経歴、知名度、人望、交渉能力が必要になる。

建設資材関係の同業者に勤める夫の親友、田辺君もその一人だ。


彼らとは仕事で知り合ったり、親の代からの付き合いだったりと

出会いはそれぞれながら、交流は長きに渡って継続している。

しかし、あのように塩の効いた人々が

なぜ甘ちゃんの夫を相手にするのかは謎の域を出ない。

塩の効いた人というのは、何も考えない人間に会うとホッとするのかもしれない…

などと想像する程度だ。


そのようなわけで、夫は各種の情報源と

使ったことは無いものの、万一のセーフティネットを保持している。

けれども本社は、それを持っていない。

複数の顧問弁護士を雇っているが

この方面の問題で訴訟や裁判ばっかりやるわけにもいかず

予防、あるいは火を小さいうちに消すための手段として

夫の交友関係をあてにしているフシは折々に感じられる。


定年という便利な制度があるんだから、お情けで合併してやった極小会社の二代目なんか

一日も早く切り捨てたいのが人情であるにもかかわらず

夫を手放さないのは、以上の理由からだ。

だったら丁重に扱えよ、と言いたいところだが

普段は粗末にして、いざという時に泣きつくのが本社である。



さて、問題が白紙になったとはいえ、F社長には

今後、永井部長と業者がうまくやって行けるとは思えなかった。

また何か問題が起きるに違いない…

その度に泣きつかれたら面倒くさい…

ということで、業者とは手を切らせることにした。

向こうも二度と永井の顔を見たくないと言っているので、話はすんなり決まった。


となると、本社はこれからどこで資材を仕入れるか、ということになる。

F社長は自分の会社が仕入れている業者から、一緒に仕入れをさせることにした。

方法がそれしか残ってないのもあるが、彼の目が届く所であれば

予防も後始末も容易いというのもあった。

げに人の世話をするとは、消耗と苦渋が付いて回るものである。


永井部長は喜び、仕入れ先を変えた。

企業舎弟の業者と手を切り、後始末をしてもらってルンルンだ。

しかし、問題は残っている。

F社長が立て替えた、150万円の接待費。

解決した当初はF社長を泣いて拝み、必ず払うと約束した永井部長だが

喉元を過ぎるとF社長に会わないよう逃げ回り、電話にも出なくなった。


不義理の見本のような行為だが、その気持ちはわからないでもない。

永井部長は一応、取締役の肩書きが付いてはいるものの、取締役の中では一番下っ端。

経理部に150万円の接待交際費を請求したって

下っ端には大き過ぎる金額なので簡単に出してもらえるわけがない。

経費から支出してもらうには、取締役会で説明の上

社長と5人の先輩取締役の同意が必要になる。

包み隠さず説明しても金の出る可能性は低く、彼の落ち度だけが明るみになる恐れ濃厚。


そうなると自腹ということになるが、マンションのローンを抱え

二人の子供は大学生となると、そんな余裕は無さそうだ。

よって身銭を切るぐらいなら、一生逃げ回った方がマシということで

彼は居直ったと思われる。


ともあれF工業の仕事は今も山陰で継続しているが

永井部長が割り込んだ工事は小さかったので、じきに終了。

彼の山陰通いも終わり、F社長の影に怯えることは無くなった。


そして年が明け、2月が来て、永井部長は急に

地元のチャーターを使えと言い出した。

つまり、F工業の排除を主張し始めたのだった。


市外のチャーターを使ったらいけないと永井部長に言われた…

配車係の次男はF社長に相談した。

F工業にはほぼ毎日、仕事を依頼していたので

お互いに翌日の配車の段取りがある。

早めに伝えて、善後策を考える必要が出てきたからだ。


次男の訴えに、F社長は笑って答えた。

「永井には金を貸してるからね。

僕が邪魔なんだよ」

F社長はこの時点で、次男にコトの経緯を詳しく説明した。


永井部長が山陰で何かやらかして迷惑をかけたのは聞いていたが

土下座やお金のことは、この時に初めて知った。

汚点を知られたF工業が出入りするのは困るんだ…

次男から話を聞いた我々は、そう理解した。


「金はいいんだ。

僕が勝手に決めたんだから、今さらゴチャゴチャ言うつもりはない。

いい勉強になったよ」

F社長は言ったが、内心ではかなり怒っている様子だったという。


「やっぱり、うちへ来ない?」

F社長は次男に言った。

「あんなのが次のトップになったら、本社は続かない。

君の所も無くなるよ」


F社長は去年にも次男を誘ってくれ、次男もすっかりその気だった。

しかし当時は事故で体調が思わしくなかったので

期待に応える自信が無くなり、断っていた。

その時に夫も誘われ、良い条件を提示してもらったが

次男が断ったので話は立ち消えた。


私は何も言わなかったが、よその会社の人に夫の働きが認められたことは嬉しかった。

しかし次男の方は、長男と2年余りに渡る冷戦中。

兄との決別と、転職を混同するのは良くないと思っていた。

引き抜きだ、スカウトだと浮かれたって

その実は、憎たらしい兄と顔を合わせたくないだけだったりする。


憎しみを原動力に転職したって、あんまりいい結果にはならないものだ。

うちの次男の性分からすると、兄より優れている所を周囲に見せようと

寝る間も惜しんで張り切りまくるに違いない。

そしてやがては身体を壊し、使い捨てられる可能性大。

よって、ひとまず話が消えてホッとしたものだ。


兄弟の仲はそのうち元に戻って、現在に至っている。

そして今回、F社長は再び次男に言った。

「お父さんとお兄ちゃんと、3人でこっちにおいでよ」

《続く》
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現場はいま…新たな展開なのか?・4

2022年03月03日 14時48分08秒 | シリーズ・現場はいま…
発注元のゼネコンとF工業の間に割り込むことで

仕事を獲得した気になり、有頂天の永井部長。

けれども喜びは束の間だった。

山陰は遠いため、資材の運搬費用がかかり過ぎることが判明。

大量仕入れで安く買い付けても、それを運ぶ経費で大赤字だ。


「そんなことは最初からわかっているはず…」

普通は思うだろう。

しかし、それがわからないのが彼なのである。

どこへでも押しかけて無知と非常識を撒き散らす永井部長のやり方では

次の仕事に繋がらないと思い、我々はいつもハラハラしてしまう。


それでも知らない所でやるなら構わない。

けれどもうちに関わる仕事や

田辺君、F工業といった我々の関係者にまで触手を伸ばし

不義理を重ねる彼の所業は屈辱以外のなにものでもなかった。


とはいえ、我々も気づいてはいるのだ。

あちこちで嫌われると、顔を合わせられない人や出入りできない会社が増えて

行動範囲は自然に狭まっていく。

そのため、畑違いの業種である我々のテリトリーに侵入して

新しい相手に永井砲を繰り出すしかなくなってきたのだ。

本人に自覚は無いが、はたで見る限り、その光景は憐れに映る。


一方で本社の重鎮たちは、彼の営業姿勢を機動力と呼んで高く評価し

永井、永井と寵愛を続けている。

我々はその様子を眺めつつ、人を見る目が無いにもほどがあると苦笑してきたが

よく考えれば、じきに引退する70代の重鎮に次は無い。

次に繋がらなくても、お爺ちゃんたちは困らないのだ。

今さえ良ければいいという考えは、若い人だけかと思っていたけど

一部の老人もそうなのかもしれない。



さて、資材の件で壁にぶつかった彼は、取り急ぎ現地調達をすることにした。

これは禁じ手の得意な永井部長には珍しく、オーソドックスな方法だ。

とはいえ、知らない土地なのでツテが無い。

彼らがあると信じて疑わない本社のネームバリューだが、山陰では全く通用せず。

金額が大きいため、取引実績の無い一見さんには

おいそれと売ってもらえないのだった。


そこで頼ったのが、F工業。

F工業は最初から、資材を現地調達していたからだ。

「お宅が仕入れてる所を紹介してください」

永井部長は平然と言った。

一部とはいえ仕事を横取りしておきながら、こういうことを平気でやるのが彼である。


F社長は、さすがに断った。

「うちの仕事を奪ったんだから、もういいでしょう」

恨みや意地悪ではない。

こんなに危ないヤツを紹介したら、自分が恥をかくからだ。

我々の業界は、ゴメンじゃ済まないことがたくさんある。

その状況を予防するために、スジと呼ばれる掟もたくさんあるのだ。


F社長にすげなく断られた永井部長は、しかしメゲなかった。

しょんぼりしてはいられない。

せっかく割り込んで仕事を奪ったというのに

資材が入手できなければ、手を引いて広島へ帰るしかなくなる。

世間から卑怯と言われるのは平気でも、社内の目は気になる彼であった。


F社長に断られた後、数少ない資材販売業者を飛び込みで当たった彼は

やがて販売してくれる所を見つけて意気投合。

売買の話をつけ、資材供給の面ではことなきを得た。


しかし他の面では、ことなきというわけにはいかなかった。

そこが反社系の会社だったからである。

昭和の映画の影響もあって、反社といったら広島の地名が上がりやすいが

山陰をあなどってはいけない。

広島には無い、有名かつ大きな組織が入っており、その本拠地である関西にも近い。

何も知らない永井部長は、その企業舎弟と仕入れの契約を結んでしまったのだ。


この業界には我々のようなカタギもいるが

反社系や元反社系、あるいはそれらの企業舎弟も混在している。

相手にもよると断っておくが、ひとたび縁を結んだら

ジワジワと身ぐるみ剥がされるケースは実際にあるし

今は聞かなくなったが、誰それが埋められただの沈められただのと

真偽不明の物騒な噂がまことしやかに流れていた時代もある。

トラブルを避けながら営業していくには、それなりの知識と経験が必要だ。

知らなかったでは済まされない。


さて、最初のうちはうまく行っていた永井部長と資材業者だが

ほどなくトラブルが発生した。

困っているのを助けてやったのに

いかにも「買ってやる」みたいな態度は何ごとだ…これが業者の主張だった。

つまり永井部長の尊大な姿勢が、そもそもの原因らしい。


ここで永井部長が素直に謝り、態度を改めればよかったのだが

「うちのような大手と取引できるんだから、お宅も良かったでしょ」

と、彼がよく言う口癖をほざいた。

こんなことを言われたら、反社でなくても怒る。

自分の働く会社に誇りを持つのは悪いことではないが、それを言っちゃあおしまいよ。

聞いた方はムッとし、そして思うものだ。

「お前の会社じゃなかろうが」


業者とは当然のごとく話がこじれ

怒った相手は即日、資材の供給をストップした。

再開するにも契約解除するにも、もう話し合いだけでは済ませないという意思表示だ。


資材が無いので、工事も止まる。

工事が止まるって、業界では一大事。

工期を始め、全ての計画が狂ってしまうからだ。

しかも天災などの不可抗力ではなく人災となると、永井部長の責任問題。

長引くと、賠償が発生するかもしれない。


困った永井部長は本社の取締役にそれとなく相談してみたが

こうなると、お爺ちゃんたちは冷たい。

「自分で解決しろ、君ならできる」

励ましの言葉を添えて、ていよく突き放された。


万事休すの彼が駆け込んだのは、F工業の山陰支店。

そこにはちょうど、F社長が滞在していた。

彼はこちら山陽地方で社員と共に現場で働きながら

時折、山陰支店にも赴いているのだった。


「助けてください!」

F社長の顔を見た永井部長は泣き出し、土下座をした。

藤村といい、彼といい、土下座が趣味か。

我々の業界には、簡単に土下座をする者を信用してはいけないという

暗黙の了解があるが、無知なアレらはそれを知らない。


床に頭をすりつけ、泣きながら助けを乞う永井部長を見て

F社長はいい気味だと思った。

しかし不案内な土地で困っている者を助けるのは人道的措置と思い直して

相談に乗ることにした。

古くからの鳶(とび)職の家系に生まれた彼は、任侠の精神を持っている。

真の任侠とは、人相の良くないおニイさんがひけらかすものではなく

漢(おとこ)の心意気なのはともかく

そういう流れを汲むF社長は、物腰の柔らかい50代前半の紳士だが

この問題を解決する種々の実力があった。


「どんな結果になっても従う」

永井部長に約束をさせたF社長は単身、件(くだん)の業者を訪問。

そして業者と話し合い、接待で手打ちにすることとなった。

その接待費用に150万円かかったが、急場ということで

とりあえずF社長が立て替えた。

相手は永井部長個人に、解決金としてその倍額をほのめかしていたので

半額で済ませたことになる。

《続く》
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