殿は今夜もご乱心

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ギャラリー気分

2024年10月11日 08時25分00秒 | みりこんぐらし
夫の姉カンジワ・ルイーゼの夫キクオは

コロナに感染して、先月から市外の病院へ入院中。

彼にはパーキンソン病という持病があるため、70才にして要介護2である。


コロナ感染は、キクオの生命に関わる問題だった。

なぜってパーキンソン病は、身体中の筋肉がジワジワと衰える脳の病気。

面会謝絶の隔離入院となると

衰えないように励んでいる日頃の運動ができず

熱のために食事も摂れないので悪化の一途だ。


この緊迫した状況下でルイーゼが何をしたかというと、家の片付け。

コロナ自粛でうちへ来ない期間を利用して、葬式の準備をしていたのだ。

さすがルイーゼ…私は舌を巻いた。


そのルイーゼが先週、泣きながら我が家を訪れた。

義母ヨシコと毎日電話はしていたらしいが、顔を見るのは久しぶり。

「アレが来なくなったら、どんなにせいせいするだろう…」

この40数年、ずっと思ってきたというのに

習慣とは恐ろしいもので、何だか懐かしいではないか。


あいにくヨシコは老人会で留守、家にいるのは私だけ。

母親がいないと知り、失望をあらわにしたルイーゼだったが

妥協したのだろう、キクオの病状を語り始めた。

「キクオさんが◯にそうなんよ…」

「ええ〜、そうなん?心配しようたんよ」

忘れていたけど、そう言う。


「何があってもいいように、家は片付けたけど

そしたら急に後のことが心配になってきて…」

「わかるよ、旦那さんの年金が無くなったら

一人でどうやって生活するんか思うたら、怖いよね」

「そうなんよ」

滅多に同意というものの無い嫁と小姑だが、この時ばかりは同意見である。


「昨日、病院に呼ばれて、面会はできんかったけど

先生の話があって、“胃ろう”を勧められたんよ」

キクオの罹患するパーキンソン病は筋肉が衰えると言ったが

筋肉とは、手足だけの問題ではない。

目玉を動かしたり、食べ物を飲み込むのも筋肉の仕事である。

コロナによる発熱で食事が摂れなくなり

点滴で栄養を摂る日々が続いたキクオは

喉の筋肉が衰えて食事を飲み込めなくなったのだ。


「お父さん(義父アツシ)も最後の頃は、胃ろうを勧められたじゃん。

“父のトラウマがあるから、胃ろうは絶対に嫌です”って

先生に言うたんよ」

胃ろうは、サジを投げられた病人の延命手段…

そう思い込んでいるルイーゼは

最後通告を受けたような気持ちになり、うちへ来たのだった。


胃ろうとは、食事を口から摂取できなくなった病人の胃とお腹に

小さい穴を開けてジョイントをくっつける。

そのジョイントに直径1センチぐらいのゴムの管を通して

口からでなく胃へ直接、栄養分を流し込む食事の摂り方だ。


私は病院の厨房に勤めていた時、胃ろう患者の食事を作っていた。

カロリーメイトみたいな缶入りの液体に

ほんのわずかなゼラチンを入れ、超ユルユルのゼリーをこしらえるのだ。

患者の枕元に点滴のパックみたいなのをぶら下げ

看護師がユルユルゼリーをその中に入れると

胃に繋がるゴム管を伝って、ゆっくりと胃へ流れ込む寸法。


胃ろうの患者の行く末は、二つに分かれる。

すぐに亡くなるか、元気になって退院するかだ。

同級生ユリちゃんの姑さんは一昨年だったか

大腿骨骨折で入院した際に胃ろうの措置が取られた。

退院して自宅介護になっても、胃ろうは介護士の手で続けられたが

やはり点滴でなく胃から栄養吸収するのは良かったらしく

やがて口からの食事と併用になり、3ヶ月後には胃ろうを卒業した。

今では老人カーでショッピングに出かける、不屈の93才である。

誰も彼女の延命を望んでおらず、医師の判断に任せたため

胃ろうに踏み切るのが早かった。

それが彼女にとっての勝因と思われる。


こういう例もあることだし、胃ろうのやり方も進化しているだろうから

キクオの場合、トラウマだの何だの言っていないで

1日も早く胃ろうで栄養を摂った方がいいんじゃないか…

私はチラッと思った。

が、しょせん他人事、自分の旦那だったら同じように悩むと思う。


ともあれルイーゼに、滅多なことは言えない。

もしもキクオが亡くなったら、胃ろうを勧めた私のせいにされるからだ。

「大丈夫、まだ70じゃけん、元気になるよ」

他人事なので適当に励ますにとどまったが

ワラにもすがりたいルイーゼは元気が出たらしく、笑顔で帰って行った。


それから数日後、コロナ隔離が終了したキクオは一般病棟に移り

今は地元の病院に転院する話や、退院後の介護についての話が始まっている。

今度は旦那を家で介護したくないルイーゼ。

「戻って来たらどうしよう…私はよう見んわ」

そう言いながら、不安な日々を送っている。

「ケアマネさんが施設を探してくれるんじゃない?」

また適当に励ます私。

他人の介護話って、本当に気楽だ。

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