殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

まさかさま・報道篇

2016年11月23日 14時35分36秒 | みりこん童話のやかた
森の高貴なお屋敷の嫁、まさか様のご病気が長引くにつれ

村人たちの心配は増えていきました。

まさか様のご体調を案じる者は、すでに誰一人いません。

お屋敷と、村の未来への心配です。

その心配の中で、最大なのがこれ。

「ご主人であるご長男をそそのかして、お屋敷のしきたりを変え

一人娘のサイコ様を女性当主にまつり上げてしまうのではなかろうか」


単なる取り越し苦労とは言えません。

何しろご長男は、まさか様のために

公の席で爆弾発言をなさった実績があります。

「まさかのキャリアと人格が否定される言動があったということです」


父親のコネで就職したものの、使えないと評判で

主な仕事がコピー取りだったキャリアと

周囲がこぞって首をかしげる人格に

少々の否定があったとしてもどうってことなさそうなものですが

年取って迎えた女房がかわいいのは、世の常です。

奥様に崇高なキャリアと人格が存在すると信じ

お屋敷といえど、たかだか一組の夫婦仲のために

村中を巻き込んでどや顔のご長男に

人々はいちまつの憐憫を感じると同時に、多くのことを理解しました。


まさか様がご婚約発表の席で暴露なさった

「僕が一生お守りします」とは

このように短絡で稚拙なものだと知った脱力‥

この分だと先で何を言い出すか、わかったもんじゃない危惧‥

やがて人々は、こう言うようになりました。

「次期当主様には、ご次男の方がふさわしい!」


自称・お屋敷観察家のみりこんさんは

この現象をもっともなことだと認めつつ

「より多くの人がお屋敷に注目するようになったのは

とても良いことですが

報道に踊らされないよう、注意が必要です」

と、したり顔で言います。

この人は戦争に行ったお祖父さんと、軍人の娘だったお祖母さんが

筋金入りのお屋敷尊敬派だったため

ごく小さい頃からお屋敷に注目して育ったのをひけらかす

口うるさいおばさんです。


そう言うと、このおばさんは怒るのです。

「何を言う!

祝日には玄関に旗を掲げ

お屋敷のことが報道される新聞やテレビの前では正座に座り直し

わたくしごとよりもまず、お屋敷の弥栄をお祈り申し上げる

トラディショナルな家庭で育った私じゃ!

お屋敷がおかしくなった今になって興味を持つ者は多いが

うちでは祖父母の代から興味しんしんだったのじゃ!

控え、控え〜い!」

まったく、面倒臭いおばさんです。



そのみりこんおばさんは言うのです。

「ご次男を当主様に、と望む村人は増えています。

私とて、淡い期待が全く無いとは言い切れません。

美しく、賢く、どこへ出しても恥ずかしくないご次男夫妻が

村の代表としてすっくと立たれるお姿を想像してごらんなさい。

考えただけで誇らしい気持ちになります。

ドタキャン、ドタ出も無く

無期限で温かく見守って欲しいなんて甘ったれたことは

口が裂けてもおっしゃらないはずです。


しかし高貴とは元々、理不尽で非合理なもの。

序列の前には、人柄や能力など関係ありません。

あっちがダメだからこっちという、利便と合理性は通用しないのです。

すでに存在しているものを却下して

新しいものを持ってくるという道は、高貴にはありません。


あるものは使います。

ザンネンだろうがナンだろうが、何が何でも使います。

お屋敷が高貴なのは、反逆や下剋上による

当主交代の歴史を持たないからです。

野望、陰謀で穢れていない、無傷の座だから玉座なのです。

人気や人望でどうにかなる類いのものではありません。

逆説的に言えば、あるものは使うわけですから

今はお小さいご次男のお坊ちゃんが

やがて当主様になられることも明白です。


村民の意見が高まったからといって

ご次男は、“そうですか?それじゃ‥”と玉座に座られるでしょうか?

そのようなお方でないことは、皆さんも本当はご存知のはずです。

男子輩出という大手柄を立てながら

ご自身のはたすべきお役目を熟知され、ナンバー2に徹する‥

そのお姿に武士道を見るからこそ、ご次男に惹かれるのではありませんか。


ご長男の方は、あれはあれでしょうがないのです。

良妻や優秀性は、高貴の必須アイテムではありません。

あればなお良いですが、そこまで望むのは欲張りというものです。


当主様は、社長業とは違います。

リーダーを求めてはいけないのです。

打てば響くような性質であれば、精神的に無理がきます。

ご次男はお若い頃から、お兄様の特徴をちゃんとお察しで

今までも、これからも、サポートを続けられます。

それが使命だからです。


ご静養もご鑑賞もお仕事としてカウントされ

大々的に発表されるご長男夫妻と

ハードワークをこなされるが、報道は地味なご次男夫妻との不公平に

危機感を抱く必要はありません。

ご長男一家のことを報道すると、村民は先行きが心配になり

不安を感じます。

保険業に代表されるように、不安は商売になります。


次の当主様が、ご長男で大丈夫なのか

まさか様は、ずっとこのままのおつもりか

どれが本当のサイコ様なのか

男系のしきたりを破って、ザ・サイコ様シスターズのどれかの子が

女性当主になったりしたら、村は終わりじゃないのか‥

たくさんの人が心配し、不安になります。


人は不安に対してお金を惜しみません。

自分の抱く不安がどの程度なのか、知りたくなります。

不安をあおると、新聞雑誌や関連本が売れます。

テレビは視聴率が上がるので、スポンサーが付きやすくなります。

安心、安定のご次男一家より

不安を感じさせるご長男一家を出した方が儲かるのです。

報道の内容が物議をかもせば、なお儲かります。


人はセレブも好きですが、疑惑と不幸も大好きです。

この3点セットが不安をかもし出せは、もはや立派な“商品”。

売りたい商品を目立つ所に陳列する、それが商売というものです。

商売を念頭に置きながら観察すれば、より楽しめると思います」


どっとはらい。


この物語はフィクションであり

実在する団体や人物とは一切関係ありません。
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まさかさま・ご病気篇

2016年11月17日 09時43分31秒 | みりこん童話のやかた
森のお屋敷に嫁がれて、心のご病気が長引くまさか様。

何年経っても相変わらず、乗り気なことには絶好調。

そうでないことには、ご体調の波が訪れる様子に

不審がる村人たちが増えてきました。


「理解できないもどかしさを

心のご病気で片付けるから

おかしなことになるんじゃないでしょうか」

村に住む、自称・小姑研究家のみりこんさんは言います。

この人は、ご主人のお姉さんが

ちょっとばかり変わり者なのを鼻にかけ

すっかり研究家気取りのおばさんです。


そう言うと、このおばさんは怒るのです。

「何を言う!

うちの義姉は、まさか様にそっくりだぞよ!

見た目は違うが、中身は同じなのじゃ!

控え、控え〜い!」

まったく、厄介なおばさんです。


そのみりこんおばさんは主張します。

「あれは病気じゃなくて、性格です。

まさか様と義姉とでは、周囲のとらえ方が異なるだけです。

庶民であれば変人ですみますが

注目を浴びるおうちに変人がいては、何かと不都合。

始末に困って病気ということになったのです」



みりこんさんの義姉こすずさんは、36年前

一人っ子の銀行員と結婚しました。

田園地帯の兼業農家で、ご主人の両親と同居です。

両親は、こすずさんに多産と農作業への期待を明言する

伝統的な田舎の人。

この結婚は続かないと、誰もが思いました。


が、案ずるより産むがやすし。

こすずさんは新婚早々、この悪条件を見事に打破します。

ご主人の安月給と、自分の弟の嫁が無能であることを理由に

実家の会社を手伝う正当性を主張。

毎日の里帰りを承認させ、日常の農作業は免除されました。


何かと慌ただしい農繁期には、病気で対処。

風邪、疲労、頭痛、胃痛、腰痛‥体調の波は頻繁で

その都度実家へ泊まり込み、長期に渡るご静養です。

もちろん仮病ですが、農業に不向きな虚弱と印象付けることで

就農問題は片付きました。

虚弱の印象操作と、1年の半分以上はご主人と別居という

生命誕生における物理的事情により、子供も一人っ子ですみました。


こんなことをすると、居心地が悪いのでは?

人はそう思うでしょうが、心配ご無用です。

こすずさんは両親と口をききません。

商業大学を卒業した経理のプロに多産と農業継承を強要して

人格とキャリアを否定する相手は敵だからです。


役立たずもいっそ突き抜けると、周りが遠慮して機嫌をうかがい

腫れ物に触るがごとく丁重に扱うようになるものです。

頼りの息子は妻の言いなり‥

何か言えば若夫婦の家庭を壊すことになりかねず

可愛い孫と会えなくなるかもしれない‥

この環境に耐えかねたご主人の両親が

母屋を出て新築した離れに移るまで、2年もかかりませんでした。


「こうして義姉は、農家の嫁という伝統に打ち勝ち

ぬるい生活を手に入れたのです」

みりこんさんは言います。


「やがてお屋敷にまさか様が嫁がれ、ご病気が噂されるようになると

この手段が義姉に似ていると思いました。

よく見れば、キョロキョロおどおどした態度も似ていますし

黒人を異様に恐れ、病人や老人などの弱者をひどく嫌うところや

人の不幸をことのほか喜ぶ、会話が続かない、お辞儀がヘタ

気に入った異性には執拗に話しかけ、そうでない相手は徹底無視

普段は人目を気にするおしゃれさんなのに

ここぞという時にボロをまとって現れるなど

まさか様と共通点が多く、同じ性格だと確信しました」


「まさか、衣装ストーカーまで同じじゃあるまい」

村人はせせら笑いますが、みりこんさんはかまわず続けます。

「なんとおっしゃるウサギさん。

義姉は昔から、人の服装や持ち物を真似る習性があります。

記憶しているところでは、田丸美寿々さんというキャスターが発端です。

名前が似ていることもあり、彼女の服装や髪形、仕草まで

徹底的に模倣していたものです。

田丸さんがテレビに出なくなると、別の人を何人か経由した後

ここ十年は黒木瞳さん一筋。


この習性は憧れの対象だけでなく

時にライバルや、見下げている相手にも摘要されます。

同じような服装をしたり、似た品物を手に入れて

“私の方が素敵”と知らしめるためです。

こういうところが、理解しにくい部分なのです。


私も彼女の見下げメイトの一員ですから

結婚前の嫁入り箪笥(たんす)を皮切りに、何度かありました。

見下げメイトに対する模倣の場合、相手より少し高い物を選びます。

箪笥の場合、店も材質もデザインも同じでしたが

取っ手の細工の違いにより、金額に数万円の差が出ました。

この差が、生涯彼女を満足させます。


“私の方がちょっと高い”

何度も独り言のように繰り返す義姉の真意に

若かった私は気づきませんでした。

お揃いの箪笥を選んだのは友好の印だと思い込み

近づいては痛い目に遭いました。

長い誤解の旅でしたが、義姉が悪いのではないのです。

普通の女性だと思い込んだ私がいけなかったのです。

まさか様は、そのことに気づかせてくださった恩人です」


そしてみりこんおばさんは、笑顔でこう結ぶのでした。

「お屋敷の方々はお育ちが良く、お優しいため

一生懸命まさか様を理解しようとなさいましたが

上品な方々には無理というものです。

そこで平和的解決のため、ご病気ということになったのです。


考えてもごらんなさい。

本当にご病気なら、お立場がお立場だけにご自分を責めて苦しまれ

申し訳なくて人前にヘラヘラ出られませんよ。

いつまで待っても治りゃしません。

病気じゃなくて性格なんですから」


どっとはらい。


この物語はフィクションであり

実在する団体や人物とは一切関係ありません。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まさかさま・ヤフオク篇

2016年11月07日 10時10分16秒 | みりこん童話のやかた
森のお屋敷に嫁がれて

心のご病気になられたといわれるまさか様。

ご病気なのか、あるいは仮病なのか

見分けがつかないままに長い年月が経ち

まさか様は「ロイヤル・ニート」という

なんとも気高い称号で呼ばれるようになりました。


それでも村人たちは、祈る思いを捨てきれませんでした。

本当にご病気であっても、あるいは仮病だとしても

「いつかきっと、目覚めてくださる」

そう信じていたのです。

けれども皮肉なことに、目覚めたのは

まさか様ではなく一部の村人たちでした。


「まさか!」

ある時、彼らは叫びました。

見てはならぬものを見てしまったからです。

誰でも参加できるオークションに

勲章、刀剣、小物、お召しもの

乗り物のお籠(かご)、調度品など

ご先代様やごー族の遺品が、たくさん並んでいたのでした。


「トプカプ宮殿」「菊栄」と名乗る二人の人物によって出品された

数十点の品々は、総額数千万円にのぼる珍品揃い。

それもそのはず、お屋敷に伝わり

大切に保管されているはずの品々ですから

珍品しか無いのでした。


このような物を個人が大量放出できるとなると

さしあたって考えつくのは泥棒です。

盗品であれば、大変なことです。

お屋敷に泥棒が入り、窃盗が行われたことになります。

警備の行き届いたお屋敷に忍び込み

大小さまざまの品をまんまと盗み出せるのは

ルパン三世並みの大泥棒に違いありません。

しかし警察は、なぜか動きませんでした。


泥棒でなく、承知の上で行ったとすると

お屋敷の経済がひっ迫していることになります。

財政難で売却に踏み切ったとすれば

これもやはり大変なことです。

村を挙げて救済しなければなりません。

しかし村長以下、村議会は知らん顔です。


泥棒でも財政難でもないとすると

お屋敷のどなたかのしわざということになります。

これは最も大変なことでした。

伝統を現金に変えようとする大馬鹿者が

高貴なお屋敷に生息していることになるからです。

しかしお屋敷は、沈黙したままです。


村人たちが騒ぎ出したためか

オークションに出品されたおびただしい品々は

取り下げられました。

出品に至る経緯を詮索されると都合が悪いことは

間違いないようです。


これをやったのが誰なのか

一部の村人たちには想像がついていました。

出品された品の幾つかに、それをカメラで撮影する人影と

撮影された部屋の様子が写っていたからです。


写り込んだ背景は普通の家屋ではなく、洋風の豪華な御殿。

一般的でない家に住み、鏡面加工の金属が

文字通り鏡の役割をしてしまうことに気づかず

オークションなんかに出したら大変なことになるのも知らない

世慣れぬ人物であることは確かです。


カメラを持つ手つきとヘアスタイルが

カメラ好きと言われるあのお方に似ていること‥

別の出品物に写り込んでいた顔が

あのお方の奥様の妹様に似ていること‥

出品されたポートレートのうち

あのご夫妻の写真だけがケタ違いに高値のスタート‥

全ては闇に葬られたため、真相は謎ですが

例のご夫妻ではないかとささやかれるようになりました。


この一件以来、一部の村人が前々から

何となく抱いていた疑惑は

彼らの心の中で大きくなっていきました。

お屋敷が、何やら大きな勢力に取り込まれ

いいように操られているような疑惑です。


けれどもそれを口に出し、問題にすることははばかられます。

ナンなのは知っていても、まさかここまでとは

誰しも思いたくありませんし

これほどの大問題をなぜ皆が揃って黙認しているのかを

薄々は知っていたからです。


あのお方の奥様の元カレと言われる男性が2人

偶然にも海外で非業の死を遂げています。

海外に強いといえば、奥様のお父様‥

などと言っている場合ではありません。

余計なことを言っていると

自分の所に偶然が訪れるかもしれないので

滅多なことは言えないのでした。


誰もオークションのことを究明しないまま

時効が満了になった翌年

お屋敷の当主様が村民に向けて

お気持ちを発表されることになりました。

村民一同は固唾を飲んで見守り

「年だから退職して譲りたい、摂政制は嫌」

という内容に、賛同したり異を唱えたりしました。


オークションの一件を知る一部の村人たちも

同じく固唾を飲んで見守り、そしてうなだれました。

まさか「長男一家がナンで困る」とか

「オークションとは何の関係もありません」

などとはおっしゃらないだろうけど

少しは次代を考慮したご発言が

あるかもしれないと思っていたからです。


血統と序列で織られたカーテンの向こうには

人柄や能力とは無関係の

庶民に計り知れない世界が存在するようです。

それを高貴と呼ぶ者あり。

闇と呼ぶ者あり。


どっとはらい。


この物語はフィクションであり

実在する団体や人物とは一切関係ありません。
コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まさかさま・芸風篇

2016年11月03日 10時00分46秒 | みりこん童話のやかた
森のお屋敷に嫁がれて、心のご病気になられたまさか様。

「少しずつ快方に向かっている」

「徐々に回復の兆し」

「次第に回復してきている」

「回復の兆候が見える」

これを十何年も繰り返しますと

真面目に聞く人は誰もいなくなりました。

バカにしているのか!という声も

次第に大きくなりました。


「バカにしておられるのではありません」

村に住む、自称・芸能評論家のみりこんさんは言います。

この人は以前、ちょこっとエキストラをやったのが自慢で

すっかり芸能界に詳しいつもりのおばさんでした。


そう言うと、このおばさんは怒るのです。

「何を言う!

私はこ◯らけ◯ごのブサイクな女付き人から

“役作りの邪魔になりますから話しかけないでくださいねっ!”

と注意を受けたのだ!

ヤクヅクリ、だぞよ!

こんなに古典的な注意を受ける者は滅多といないぞよ!

しかも朝ドラ見てなかったもんで

話しかけるどころか芸能人と知らず

無視っていたのに、だぞよ!

控え、控え〜い!」

まったく、食えないおばさんです。


「あれは芸風です」

そのおばさんは言うのです。

「たまに出てきて、手を振られるのが

すっかり芸風として定着したのです。

ごらんなさい。

いかにもやっつけ仕事に見せる、あの技術!

あれは生半可な芸ではありません。


目線とおへそを同じ方向に揃えると

上品で誠実な印象を与えてしまいます。

ご次男の奥様が、常にこれをやっていらっしゃいます。

ですが、オリジナリティを追求なさるまさか様の場合

おへそは進行方向に向けたまま、首だけ動かして

目線だけを村人に向け、手を振られます。

これがいかにも横着そうな雰囲気をかもし出し

“来てやったぞ、喜べ!”

と言いたげな、やっつけ仕事の芸となるのです。


目線をあえて、おへそと別の方向に向けることによって

目つきはどうしても、横目や上目遣いになります。

それが物欲しげや媚び、やぶにらみといった

えもいわれぬ表情を作り出します。

この技術は、一朝一夕では身につきません。


それもそのはず、その昔

ご婚約が整って村人が騒ぎ出した頃のことです。

まさか様のお母様は、お向かいの老婦人にお願いされたそうです。

“まさかが家に出入りする時は、お二階のバルコニーから

手を振ってやってください。

高い所を見上げると、あの子の目が大きく見えるから”

品性よりも目の大きさにこだわる家風が

まさか様に受け継がれ、あの芸風が確立したのです」


「まさか!」

村人たちはせせら笑いましたが

嘲笑をものともせず、みりこんおばさんは自論を展開します。

「まさか様が何をお召しになり、どんなことをやってくださるのか。

今度は何と言い訳して病欠するのか。

次はどこの子をサイコ様だと言って連れて来るのか。

世間をなめくさった人間が、先でどうなるのか。

楽しみな人は多いはずです。

民衆に見たい気持ちを起こさせ、楽しみを与える存在‥

これこそが芸能の真髄ではありませんか」


呆れて、ため息を漏らす村人たちに向かい

みりこんおばさんはこう結ぶのでした。

「お出ましに、“笑点”や“お笑い花月劇場”のテーマ曲が似合うのは

お屋敷にあの方しかいらっしゃいません!」


どっとはらい。


この物語はフィクションであり

実在する団体や人物とは一切関係ありません。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする