森の高貴なお屋敷の嫁、まさか様のご病気が長引くにつれ
村人たちの心配は増えていきました。
まさか様のご体調を案じる者は、すでに誰一人いません。
お屋敷と、村の未来への心配です。
その心配の中で、最大なのがこれ。
「ご主人であるご長男をそそのかして、お屋敷のしきたりを変え
一人娘のサイコ様を女性当主にまつり上げてしまうのではなかろうか」
単なる取り越し苦労とは言えません。
何しろご長男は、まさか様のために
公の席で爆弾発言をなさった実績があります。
「まさかのキャリアと人格が否定される言動があったということです」
父親のコネで就職したものの、使えないと評判で
主な仕事がコピー取りだったキャリアと
周囲がこぞって首をかしげる人格に
少々の否定があったとしてもどうってことなさそうなものですが
年取って迎えた女房がかわいいのは、世の常です。
奥様に崇高なキャリアと人格が存在すると信じ
お屋敷といえど、たかだか一組の夫婦仲のために
村中を巻き込んでどや顔のご長男に
人々はいちまつの憐憫を感じると同時に、多くのことを理解しました。
まさか様がご婚約発表の席で暴露なさった
「僕が一生お守りします」とは
このように短絡で稚拙なものだと知った脱力‥
この分だと先で何を言い出すか、わかったもんじゃない危惧‥
やがて人々は、こう言うようになりました。
「次期当主様には、ご次男の方がふさわしい!」
自称・お屋敷観察家のみりこんさんは
この現象をもっともなことだと認めつつ
「より多くの人がお屋敷に注目するようになったのは
とても良いことですが
報道に踊らされないよう、注意が必要です」
と、したり顔で言います。
この人は戦争に行ったお祖父さんと、軍人の娘だったお祖母さんが
筋金入りのお屋敷尊敬派だったため
ごく小さい頃からお屋敷に注目して育ったのをひけらかす
口うるさいおばさんです。
そう言うと、このおばさんは怒るのです。
「何を言う!
祝日には玄関に旗を掲げ
お屋敷のことが報道される新聞やテレビの前では正座に座り直し
わたくしごとよりもまず、お屋敷の弥栄をお祈り申し上げる
トラディショナルな家庭で育った私じゃ!
お屋敷がおかしくなった今になって興味を持つ者は多いが
うちでは祖父母の代から興味しんしんだったのじゃ!
控え、控え〜い!」
まったく、面倒臭いおばさんです。
そのみりこんおばさんは言うのです。
「ご次男を当主様に、と望む村人は増えています。
私とて、淡い期待が全く無いとは言い切れません。
美しく、賢く、どこへ出しても恥ずかしくないご次男夫妻が
村の代表としてすっくと立たれるお姿を想像してごらんなさい。
考えただけで誇らしい気持ちになります。
ドタキャン、ドタ出も無く
無期限で温かく見守って欲しいなんて甘ったれたことは
口が裂けてもおっしゃらないはずです。
しかし高貴とは元々、理不尽で非合理なもの。
序列の前には、人柄や能力など関係ありません。
あっちがダメだからこっちという、利便と合理性は通用しないのです。
すでに存在しているものを却下して
新しいものを持ってくるという道は、高貴にはありません。
あるものは使います。
ザンネンだろうがナンだろうが、何が何でも使います。
お屋敷が高貴なのは、反逆や下剋上による
当主交代の歴史を持たないからです。
野望、陰謀で穢れていない、無傷の座だから玉座なのです。
人気や人望でどうにかなる類いのものではありません。
逆説的に言えば、あるものは使うわけですから
今はお小さいご次男のお坊ちゃんが
やがて当主様になられることも明白です。
村民の意見が高まったからといって
ご次男は、“そうですか?それじゃ‥”と玉座に座られるでしょうか?
そのようなお方でないことは、皆さんも本当はご存知のはずです。
男子輩出という大手柄を立てながら
ご自身のはたすべきお役目を熟知され、ナンバー2に徹する‥
そのお姿に武士道を見るからこそ、ご次男に惹かれるのではありませんか。
ご長男の方は、あれはあれでしょうがないのです。
良妻や優秀性は、高貴の必須アイテムではありません。
あればなお良いですが、そこまで望むのは欲張りというものです。
当主様は、社長業とは違います。
リーダーを求めてはいけないのです。
打てば響くような性質であれば、精神的に無理がきます。
ご次男はお若い頃から、お兄様の特徴をちゃんとお察しで
今までも、これからも、サポートを続けられます。
それが使命だからです。
ご静養もご鑑賞もお仕事としてカウントされ
大々的に発表されるご長男夫妻と
ハードワークをこなされるが、報道は地味なご次男夫妻との不公平に
危機感を抱く必要はありません。
ご長男一家のことを報道すると、村民は先行きが心配になり
不安を感じます。
保険業に代表されるように、不安は商売になります。
次の当主様が、ご長男で大丈夫なのか
まさか様は、ずっとこのままのおつもりか
どれが本当のサイコ様なのか
男系のしきたりを破って、ザ・サイコ様シスターズのどれかの子が
女性当主になったりしたら、村は終わりじゃないのか‥
たくさんの人が心配し、不安になります。
人は不安に対してお金を惜しみません。
自分の抱く不安がどの程度なのか、知りたくなります。
不安をあおると、新聞雑誌や関連本が売れます。
テレビは視聴率が上がるので、スポンサーが付きやすくなります。
安心、安定のご次男一家より
不安を感じさせるご長男一家を出した方が儲かるのです。
報道の内容が物議をかもせば、なお儲かります。
人はセレブも好きですが、疑惑と不幸も大好きです。
この3点セットが不安をかもし出せは、もはや立派な“商品”。
売りたい商品を目立つ所に陳列する、それが商売というものです。
商売を念頭に置きながら観察すれば、より楽しめると思います」
どっとはらい。
この物語はフィクションであり
実在する団体や人物とは一切関係ありません。
村人たちの心配は増えていきました。
まさか様のご体調を案じる者は、すでに誰一人いません。
お屋敷と、村の未来への心配です。
その心配の中で、最大なのがこれ。
「ご主人であるご長男をそそのかして、お屋敷のしきたりを変え
一人娘のサイコ様を女性当主にまつり上げてしまうのではなかろうか」
単なる取り越し苦労とは言えません。
何しろご長男は、まさか様のために
公の席で爆弾発言をなさった実績があります。
「まさかのキャリアと人格が否定される言動があったということです」
父親のコネで就職したものの、使えないと評判で
主な仕事がコピー取りだったキャリアと
周囲がこぞって首をかしげる人格に
少々の否定があったとしてもどうってことなさそうなものですが
年取って迎えた女房がかわいいのは、世の常です。
奥様に崇高なキャリアと人格が存在すると信じ
お屋敷といえど、たかだか一組の夫婦仲のために
村中を巻き込んでどや顔のご長男に
人々はいちまつの憐憫を感じると同時に、多くのことを理解しました。
まさか様がご婚約発表の席で暴露なさった
「僕が一生お守りします」とは
このように短絡で稚拙なものだと知った脱力‥
この分だと先で何を言い出すか、わかったもんじゃない危惧‥
やがて人々は、こう言うようになりました。
「次期当主様には、ご次男の方がふさわしい!」
自称・お屋敷観察家のみりこんさんは
この現象をもっともなことだと認めつつ
「より多くの人がお屋敷に注目するようになったのは
とても良いことですが
報道に踊らされないよう、注意が必要です」
と、したり顔で言います。
この人は戦争に行ったお祖父さんと、軍人の娘だったお祖母さんが
筋金入りのお屋敷尊敬派だったため
ごく小さい頃からお屋敷に注目して育ったのをひけらかす
口うるさいおばさんです。
そう言うと、このおばさんは怒るのです。
「何を言う!
祝日には玄関に旗を掲げ
お屋敷のことが報道される新聞やテレビの前では正座に座り直し
わたくしごとよりもまず、お屋敷の弥栄をお祈り申し上げる
トラディショナルな家庭で育った私じゃ!
お屋敷がおかしくなった今になって興味を持つ者は多いが
うちでは祖父母の代から興味しんしんだったのじゃ!
控え、控え〜い!」
まったく、面倒臭いおばさんです。
そのみりこんおばさんは言うのです。
「ご次男を当主様に、と望む村人は増えています。
私とて、淡い期待が全く無いとは言い切れません。
美しく、賢く、どこへ出しても恥ずかしくないご次男夫妻が
村の代表としてすっくと立たれるお姿を想像してごらんなさい。
考えただけで誇らしい気持ちになります。
ドタキャン、ドタ出も無く
無期限で温かく見守って欲しいなんて甘ったれたことは
口が裂けてもおっしゃらないはずです。
しかし高貴とは元々、理不尽で非合理なもの。
序列の前には、人柄や能力など関係ありません。
あっちがダメだからこっちという、利便と合理性は通用しないのです。
すでに存在しているものを却下して
新しいものを持ってくるという道は、高貴にはありません。
あるものは使います。
ザンネンだろうがナンだろうが、何が何でも使います。
お屋敷が高貴なのは、反逆や下剋上による
当主交代の歴史を持たないからです。
野望、陰謀で穢れていない、無傷の座だから玉座なのです。
人気や人望でどうにかなる類いのものではありません。
逆説的に言えば、あるものは使うわけですから
今はお小さいご次男のお坊ちゃんが
やがて当主様になられることも明白です。
村民の意見が高まったからといって
ご次男は、“そうですか?それじゃ‥”と玉座に座られるでしょうか?
そのようなお方でないことは、皆さんも本当はご存知のはずです。
男子輩出という大手柄を立てながら
ご自身のはたすべきお役目を熟知され、ナンバー2に徹する‥
そのお姿に武士道を見るからこそ、ご次男に惹かれるのではありませんか。
ご長男の方は、あれはあれでしょうがないのです。
良妻や優秀性は、高貴の必須アイテムではありません。
あればなお良いですが、そこまで望むのは欲張りというものです。
当主様は、社長業とは違います。
リーダーを求めてはいけないのです。
打てば響くような性質であれば、精神的に無理がきます。
ご次男はお若い頃から、お兄様の特徴をちゃんとお察しで
今までも、これからも、サポートを続けられます。
それが使命だからです。
ご静養もご鑑賞もお仕事としてカウントされ
大々的に発表されるご長男夫妻と
ハードワークをこなされるが、報道は地味なご次男夫妻との不公平に
危機感を抱く必要はありません。
ご長男一家のことを報道すると、村民は先行きが心配になり
不安を感じます。
保険業に代表されるように、不安は商売になります。
次の当主様が、ご長男で大丈夫なのか
まさか様は、ずっとこのままのおつもりか
どれが本当のサイコ様なのか
男系のしきたりを破って、ザ・サイコ様シスターズのどれかの子が
女性当主になったりしたら、村は終わりじゃないのか‥
たくさんの人が心配し、不安になります。
人は不安に対してお金を惜しみません。
自分の抱く不安がどの程度なのか、知りたくなります。
不安をあおると、新聞雑誌や関連本が売れます。
テレビは視聴率が上がるので、スポンサーが付きやすくなります。
安心、安定のご次男一家より
不安を感じさせるご長男一家を出した方が儲かるのです。
報道の内容が物議をかもせば、なお儲かります。
人はセレブも好きですが、疑惑と不幸も大好きです。
この3点セットが不安をかもし出せは、もはや立派な“商品”。
売りたい商品を目立つ所に陳列する、それが商売というものです。
商売を念頭に置きながら観察すれば、より楽しめると思います」
どっとはらい。
この物語はフィクションであり
実在する団体や人物とは一切関係ありません。