殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

組長・10

2011年01月09日 12時20分19秒 | 組長
隣組の組長の任期を終えて、この3月末で、はや1年になる。

次の役員の人達も、つつがなく仕事をこなしている。

とても平和な日々だ。

この最終平和が、どのようしてもたらされたかを書き留めておこうと思う。


あれは、長引く残暑に草木も人も、じっと耐えていた頃の夕暮れであった。

けたたましいサイレンを鳴らして、パトカーが2台、近くへ停まった。

物見高い私のことである。

ちょうど、両親の家に行こうと外へ出た時だったので

走って見に行ったのは言うまでもない。


そこで私の目に飛び込んだのは…

日本刀を持った、見知らぬ男であった。

40代半ば、がっしりした体つきのおっさんだ。


刀は抜いてない。

最初は木刀と思ったのだが、先が細くなっておらず

手元に黒っぽいツバもついていて、白木のサヤに収まっていた。

真剣ではなく、みやげ物に毛が生えた程度のしろものだと察する。


そして、そのそばにいるのは…Sじじい。

休めの姿勢で平静を装い、しきりに日本刀男を説得しているが

その足元は裸足であった。

男に追いかけられ、裸足で外へ逃げて来たのだ。


そこへ警官が数人、忍び寄る。

サスマタも持ってる。

サスマタは、悪い人を壁際に追い込んで、ウエストあたりを押さえつけ

身動きできなくする器具だ。

持ち方は、虫取りの網を持つ感じ。

初めてちゃんと見た。

感動。


何年か前、組員が覚醒剤で暴れ出した場面に出くわしたことがあった。

その時、警官が持っていたのは警棒であった。

いまどきの警棒は、コンパクトになっていて

必要時には、シャーッと3倍ぐらいに伸びる。

それを目撃した時以来の感動である。


日本刀男は、すでにおとなしくなっており

サスマタを使用されることなく、パトカーで連行されてしまった。

ちょっと残念。

使うところを見てみたかった。

男も男だ。

せっかく刀を持っているのに、バッサリやらないなんて。


どうしてこんなことになっちゃったのか…

物見高い私としては、ぜひとも知りたいところよ。


「許せん、謝れ!って叫んでたわよ…」

「Sじじいのほうは、泣きそうな顔して

 そんなつもりで言ったんじゃない~!とか言ってたよ…」

いくつかの証言を総合すると、酒の上での口喧嘩が元らしい。

怒った男は、後日あらためて日本刀を持参の上

Sじじいの家を訪問したのだった。


Sじじい、以前はよく、暴力を振るう息子から逃れるために

外をウロウロしていた。

その息子もいつの間にかいなくなり、自宅で酒盛りをするようになったのだ。

今や近所の者は、誰も寄りつかないので

その男とつるむようになったと思われる。


酒が好きで、子供の頃はパシリだったであろうその男…

いかにもSじじいと同類の雰囲気である。

口喧嘩はいつも、双方の食い違いから始まるけど

本格的な喧嘩に発展してしまうのは、どっちも似たようなもんだからだ。


夜になって、こっそり交番へ見に行った。

事件から3時間も経つのに、本署へ行かずにしぼられている。

刀がチャチなもんで、銃刀法違反にならなかったのか

説諭の上、釈放の路線らしい。


奧さんらしき女性が、きょとんとした表情で横に座っているのが

交番の窓から見える。

まるまると太って、赤いリボンのカチューシャをしている。

男よりかなり年下だが、娘には見えない。

嫁の来手が無くて、ずいぶん年を取ってから

ちょいと浮世離れした若いのをもらう。

Sじじいのところと同じケースだ。

どこまでも、似た者同士であった。


あれから数ヶ月、Sじじいの姿を見かけることもまれになった。

醜いものを目にしなくてすむのは、快適である。


この一件は「…らしい」の憶測が多いので、書かずに葬るつもりであった。

しかし、この正月。

日付が変わって、新年を迎えた12時過ぎのことである。

よせばいいのに、ふらりと近くのコンビニへ出かけた夫。

じっとしていられないタイプなのだ。


帰って来て、残念そうに言う。

「年が明けて、最初にSじじいに会ってしまった…」

入り口でバッタリ出くわし、無言ですれ違ったそうだ。

「考えることが同じだったのが、なさけない」

夫は、とても悔しそうであった。

向こうもそう思っているかもしれない。

そこが面白かったので、書いた。
コメント (28)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

組長・9

2010年05月31日 07時07分18秒 | 組長
組長シリーズは、任期終了と同時に終わるはずだった。

しかし、相変わらず組長もどきをやっているのはどうしたことか。


「組長さん…組長さん…」

先週は、一人暮らしのおばあちゃんがうちに来て

エアコンの室外機をいたずらされたと訴える。

組長はもう終わったと言っても、おばあちゃんを苦しめるだけなのだ。


さっそく現場検証。

配線をカバーしているホースみたいなのが切られて

中の線がむきだしになっていると言う。

確かにちょびっとむきだしになっているけど

これ、取り付けた時から、こんなだと思うよ…。


しかし、年寄りは言い出したらきかない。

水の出るホースまで「誰かが切って短くなってる」と言い出す。

ああ、そう、悪い人がいるねぇ…と合わせておく。


「それに夜、誰かが玄関のドアをガチャガチャ回すのよ」

おばあちゃんは、恐怖に怯えた顔でそう言う。

それ、ドアにぶら下げた飾りが、風に吹かれてるだけだと思うよ…。

老人会で作ったらしき、かわいげのないマスコット人形だ。

人形の手足の先に付いている金属製のオモリが

揺れるとドアに当たって、音を立てるのだ。


    「縁起が悪いから、ドアには何も下げないほうがいいよ」

と、適当なことを言ってはずさせる。

どう縁起が悪いのか、私にもわからん。

真面目に昭和を生きてきた老人は、勘違い=恥をかいたことになってしまう。

その思いは、若い頃のように日々のせわしさの彼方へ、なかなか消えない。

こっちも老人に近くなってきているので、なんとなくそう思う。

一応気を使ったつもりなのだ。


とにかく室外機の線が出ているのが気に入らないようなので

家からクッション付きのテープを持って来て

形だけ、ちょろっと巻いてやる。

私は機械に詳しくないので、本格的には取り組めない。

ほんのおしるし。

それでもおばあちゃん、すごく喜ぶ。


     「怖いことがあったら、夜中でもいいから、電話して。

      すぐ行くから。

      これを電話のそばに貼っておくのよ」

と電話番号を大きく書いて、渡しておく。


     「しばらくは夜、うちの旦那に見廻りさせるから」 

などと、かなりいい加減なことも言う。

嘘ではない。

ゴミを出したり、散歩したり、夫は毎晩1回はおばあちゃんちの前を通る。


翌日は、道ばたに花を植えようと約束していたおばちゃんが、誘いに来る。

こないだ、そんなことを企てた気もするが、すっかり冷めていた私よ。

しかたなく、一緒に種なんぞまく。


そこへ、若いお母さんが二人来る。

「Sさんが去年、街路樹をバンバン切ってたんです。

 幹を切ってるから、今年は花が咲かないの。

 子供が楽しみにしていたのに」


去年の秋だったか、Sじじいがまだ威勢の良かった頃、街路樹を刈る姿は見た。

脚立に登って、電動ノコギリなんぞ振り回していたっけ。

「ああして、自分をアピールしたいのよ」

「落ちろ」

「あんまり見てたら、注目されてると勘違いして喜ぶから、よそう」

我々はささやき合ったものだ。


今回改めてよく見ると、枝落としじゃなくて

どれも真ん中の太い幹をちょん切っている。

    「あれれ、いかにもって感じだったから

     庭師の経験でもあるのかと思ってたよ」

「あるもんですか!高い所に登りたいだけよ!」

「ほら、ナントカと煙は…って言うじゃない」

しばらく悪口で盛り上がる。


彼が自治会長の座を狙って暗躍していた頃

巻き舌から繰り出される意味不明の主張には

「子供達のために」のフレーズが、多く混入されていた。

それさえ言えば、格好がつくと思い込んでいるらしい。


その口で、夏休みのラジオ体操がうるさいとネチネチ言う。

一貫性が無いにもほどがある。

この一件で彼は、それまで無関心だった

子供会の若い親達まで敵に回したのだった。


共通の敵というのは、結束を深める。

この次に見たら止めようということになったが

バッサリいっちゃってるので、何年後になるやら。


その日の夕方、ごく初期にSじじいの一味だった男が

我々夫婦に近付いて来て、いきなり言った。

「土建屋アツシって、知っとるか?」


このあたりで“誰それを知っているか”と話しかけるのは

教養乏しき人間が行う、威嚇を含んだ挨拶の一種である。

こんにちは…いい天気ですね…と話しかければよいものを

出来ない人間というのは、案外多いのだ。


この類の生物は、口うるさそうな者の名前を出し、どちらがより近いかを探る。

その遠近によって、本格的な威嚇になったり、自分なりの友好手段になったりする。


この人は酒好きが高じて

一時期、Sじじいの白昼夢につきあって活動した過去から

いまだに周囲に避けられていた。

このまま残党として生きるか否か、進退を見極めたいのだと察する。


     「ああ、知ってますよ」

「俺はアツシの同級生で仲がいいんだ。

 あんたら、親戚か何かか?」

     「父ですけど、何か?」

呆然として、きびすを返すおじさんを見送り

我々はいつも通り、夕食を持って両親の家に向かう。


     「ねえねえ、お義父さん、Yさんって知ってる?

      同級生で、仲がいいって言ってたよ」

アツシの反応は鈍かった。

「さあ…知らん、覚えてない」

これはアツシの記憶力の問題ではない。

幼少期をこの町で過ごしていないため、同級生に対する印象が薄いのである。


この日曜日は、年に一度の総会があった。

今年は何を言い出すか、楽しみにしていたんだけど

人数もいないし、おとなしかった。

待っていたのに…とても残念だった。
コメント (25)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

組長・8

2010年04月08日 15時19分16秒 | 組長
組長の任期が終了した。

ここに1枚の回覧が残っている。

自治会を混乱させ、会長になり代わろうともくろんだSじじい…

彼が想像をはるかに越えたウルトラ級のわからんちんだと知り

近所に回覧板として回したものである。


最初は、言いなりになったら図に乗ると思い、総会はやらないと決めていた。

しかし、前年度の決算に異議を訴えている以上

このまま放置しておくのはマズい…という前任者の意見が出た。

そこで、バカを野放しにするより、ここらで1回叩いておく方針に変えた。


『総会のおしらせ…

 8月某日、総会を開催いたします。


 これは、5月に中止となりました総会を業務上引き継いだものであり

 現在、一部住民から再三に渡って出されている執拗な要求に屈したものではないことを

 ここに明記させていただきます。

 現状をご理解いただき、安心して暮らせる町にするために

 多数のご参加をお願い申し上げます。 


 なお、今後このような要求は

 みりこん宅で一括対応することに決定いたしました。

 ご意見のあるかたは、みりこん宅へお越しの上

 わかりやすくご説明いただきますようお願い申し上げます』


総会は盛況であったが、Sじじいは欠席した。

回覧板が回って、出るに出られなくなったのであった。

敵前逃亡…の声、多数。


他の一味は参加して、作戦どおり決算報告書にケチをつける。

内容はどうでもいいのだ。

巻き舌でお下品に責められたら、誰でも「やりたくない」と思う。

そこで「ワシらがやってやる」と大いばりで引き継ぐ…いう方向へ

持ち込む手はずになっている。

そのために、彼らは総会を開く必要があった。


なぜそうまでして三役になりたいか…

我々には理解し難いところであるが、彼らにとっては権力の象徴らしいのだ。

そして最大の魅力は、親睦会と称して、自治会費で飲むタダ酒である。

3年前、たまたまこのメンバーで三役をやり、味をしめた。


最初こそ、皆に呼びかけがあったが

彼らと親睦をはかりたい人間はいないので、参加者は限られる。

集会所の大画面液晶テレビとエアコンも、いつの間にか黙って買っていた。

それらを不問にしたのは、彼らの次に役員をした者達の臆病もあったが

情けでもあった。


さて、総会で司会をする私は

彼らの言う「不審な点」がどうしても理解できない。

     「損失補填(そんしつほてん)があるとおっしゃりたいんでしょうか?」

「そ…そうじゃ…損失補填じゃ…」

損失補填というフレーズがいたく気に入ったらしく

「損失補填、損失補填」と口々に繰り返す。


     「あら?でもこの場合、損失補填とは違うかも」

「そうじゃ、そうじゃ…損失補填じゃない…」

     「じゃあ、粉飾決算?」

「そ…それじゃ…粉飾決算じゃ」


もうここらへんになると、住民の間から忍び笑いが漏れてくる。    

私も吹き出しそうなのをこらえ、真摯に取り組む姿勢をキープ。

     「あ、違う、単なる二重計上かも」

「…二重計上、二重計上」

     「そうじゃなくて、記載漏れ」

「記載漏れじゃ、記載漏れじゃ」

     「でもちゃんと記載はありますね。

      この記載のしかたが“一部住民”にはわかりにくかったということですね。

      では今後、気を付けるということで、よろしければ拍手をお願いします」

多勢に無勢の抵抗は、むなしいものであった。

以来、やつらはずいぶんおとなしくなった。


もう1枚、去年の冬に回した回覧がある。

『お知らせ…

 集会所に、おびただしい私物(酒・食品・寝具等)が放置してあります。

 集会所は子供会も使用するため

 私物による事故(飲酒・食中毒・ダニ等)が懸念されます。

 お心当たりのあるかたは、すみやかに撤去をお願いいたします。


 なお、個人的に作られた集会所のスペアキーは

 すみやかに返却または処分していただきますよう

 また、今後集会所を使用する際は、従来の取り決めどおり

 事前に自治会に申し出て、使用許可を得ていただきますよう

 重ねてお願い申し上げます』


これで、一味の生き甲斐…会費が流用できない今、自費で続く親睦会…は終わった。

もっともその頃には、一味はすでにバラバラであった。

こちらとしては、タイミングを見計らい、有終の美を飾ってやったつもりだ。


私は感情のままに、ヒステリックに言い合うのを好まない。

口で負けるとは思わないが、それでは相手と同類になってしまう。

それにこの種の人間もどきは、自分で怒りの処理が出来ないので

また誰か弱い立場の者にあたり、解決にならない。

よって段階的にジワジワと追い詰め、自滅を促すほうが、私の好みである。


さて、最近はどうか。

一味の一人、Sじじいを影で操っていた男は

ヒザに水が溜まって、かねてより通院中だった。

先月、弱った足で転倒し、頭を切る。

なかなかの重症である。


救急車で運ばれるところを窓から見た。

その光景は去年の春、彼らにいじめられて倒れた

あのじいちゃん会長を彷彿とさせた。

もう一人は、不治の病で未だ闘病中。


Sじじいの家では、年老いて出来た一人息子の家庭内暴力が始まった。

息子の機嫌が悪い時は、放心状態でフラフラ徘徊している。

目が濁って白くなり、視線も定まらない。

心も体も、かなり危ない状態だ。

静かになったらもの足りず、ひそかに彼らの回復を願う

慈悲深い!私であった。


新しい組長は、信仰に大変熱心なご夫婦のお宅にお願いした。

きちんとした服装で家々を訪問して布教活動をする、かの有名なあの宗教だ。

もしSじじい一味が復活しても、温かい人柄のご夫婦のこと…

神と精霊の御名(みな)において、優しく諭していただけるであろう。 

暇が増えたので、今年度はバンド活動に本腰を入れたいものである。
コメント (34)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

組長・7

2010年01月04日 12時45分44秒 | 組長
自治会の組長の仕事も、残すところあと3ヶ月となった。

実はあれからも細かいイザコザが何度かあったのだが

あまりにも馬鹿馬鹿しくて面倒なので書かなかった。

かいつまんで言うと、問題が起こるたびに

Sじじい一味は人数を減らし、最終的には2人になった。


Sじじいに荷担し、自治会を牛耳ろうとたくらむ最後の友…

飲み仲間のOじじいは

下品な巻き舌で、我々役員に精一杯の威嚇を試みていた。

しかし元ヤンの若妻たちと

“日常会話オール喧嘩腰”の義父に慣れきっている私のこと…

そんなのは痛くもかゆくもない。


いくらワーワー言ってもこたえないので

Oじじい、そのうち疲れたのか病気になってしまった。

近所どころか、この世の住人でなくなる日も近いと思われる。


ひとりぼっちになったSじじい、仲間がいないとチュン太郎。

共に戦った役員仲間や近隣住民は、今回のことで一層親しく結束し

静かな日々が続いていた。


さてそんな年末のある日、面白い出来事があった。

なんと、Sじじいが社交ダンスのクラブに入会しているというのだ。

あのツラと、優雅な社交ダンスがマッチしない驚きもあったが

入会したのが義母ヨシコと同じ、公民館のものであったことにも驚いた。


クラブは高齢化で存続の危機に瀕しているという。

そこで、町内の経験者に片っ端から声をかけているそうだ。

やはり平均寿命の差であろうか、男性が不足しているということで

Sじじいにも声がかかったらしい。


去年の夏から、ヨシコがよくこぼしていた。

「誰が誘ったのか、小汚いへたくそなおっさんが入会した」

「みんな、誘った人の人間性まで疑ってんの」

それがSじじいのことだとは、夢にも思っていなかった。


ステップを間違えてはヤケになって投げ出す…

汚れた作業着のまま平気で来る常識知らず…

会話のキャッチボールが成立しないトンマ…

昔は一流店の板前だったなどと大ボラを吹く…


「あんれまあ、うちの近所の変なおっさんとそっくり!」

私もそう言ったものだが

それが同一人物と立証されたのは

社交ダンスクラブの忘年会であった。


忘年会で、くじ引きにより

ヨシコとSじじいは隣り合って座った。

そこでヨシコの胸の名札を見たSじじいは

「うちの近所にも同じ名字の悪魔みたいな女がいてなぁ」

と話し始めたそうである。


背がやたら高くてオカマみたいな女…

年下のくせに目上の自分の言うことを聞かん…

旦那までデカい図体してワシを見下ろしやがって

にらみつけやがるから住みにくい…


うちの名字は、この地方では珍しい。

市内で同じ名字を名乗る者は一族のみである。

ヨシコは着火した。

「あんたっ!そりゃうちの息子と嫁だがねっ!」

「ええっ?!」

Sじじいは顔を真っ赤にして絶句したという。


ヨシコは追撃する。

「あの子たちが何したって言うのよっ!

 こんな所で人に悪く言われるような夫婦じゃないわよっ! 

 あんたが悪いんじゃないのっ?」


Sじじい…そこでどうしたかというと

「あ~、酔った酔った」

と席を立ち、逃げようとしたという。

いかにもヤツらしい。


「待てっ!卑怯者!言ったことの責任取れ!」

ヨシコはSじじいをふんづかまえ

回りにいた人たちも加勢して

Sじじいにさんざん文句を言いまくったそうだ。


「これであの人はもう、クラブには来られないわっ!」

ヨシコは私にすべてを報告し終えると、勝利の笑みを浮かべた。


それにしても…と、再びキッと宙を見つめるヨシコ。

ヒロシのことまで言うなんて!

何がヒロシの図体がデカいよっ!

あの人がチビなんじゃないのっ!


嫁のアクマもオカマも聞き流すが

息子の悪口は許せないヨシコであった。


でかした!ヨシコ!
コメント (35)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

組長・6

2009年06月09日 09時53分17秒 | 組長
組長のことなどどうでもよかろうが、このところ事態が変化したので

書いておかないと忘れてしまうため、とりあえず記録しておく。


前年度の決算に異議を唱えて総会を開かせ

そこで一味に推薦されて、めでたく自治会長になるというSじじいの計画…

総会を開くには、会長不在の今、組長の私という難関を越える必要がある。

うしろ暗い野心がないならうちへ来て、納得のいく説明をすればいいのだ。

奴の襲撃を楽しみに待っていたのに

いっこうにその気配はないまま日が経っていった。


しかしついに先日、奴は動いた。

近所のT子がうちに来る。

「昨夜Sさんが来て、総会を開くのに賛成してくれって…。

 役員さんに言ってください…と言っても聞かないの。

 自分が自治会長になる予定だから、悪いようにはしないと…」


T子の家は女しかいない。

Sじじいにとって、格好のターゲットであった。

うちを避けて脅しやすい家を狙い、草の根運動を始めたようだ。


「子供が何かされたらと思うと怖くて…。

 総会がしたいと言うんだから、開いてもらえないかしら?」

T子は心配そうな顔つきで言う。

弱い者を責めて、総会を招集せざるを得ない状況に持って行く構えである。


正直なところ、Sじじいがなりたいんなら、ならせてやりたい。

幼少の頃から、ザンネン村の住人だったと見て取れるSじじい…

値打ちのないものに執着の炎を燃やすのは、その証拠であろう。

冥土のみやげに望みを叶えてやるほうが、よっぽど楽だ。


しかし、さすがに子供には何もしやしないだろうが

万が一にもそんな懸念を抱かせる人間が

自治会長になるのを黙認するわけにはいかない。

少なくとも、私が役員の間はあきらめてもらおう。


これで言うことを聞き、総会を開いたら終了ではないのだ。

もっと面倒な支配の始まりとなる。

Sじじいが会長だった一昨年までは、事実そうだった。

“メンズ”の存在に守られ、自身もタチの悪いオバタリアンである私には

知ったこっちゃないが、おとなしい者は住みにくくなるであろう。


実家へ行く時間だったので、そのまま家を出た。

そこで今まさに、老人一人暮らしの家に入ろうとするSじじいを発見。

ここでまた「総会のススメ」をする気に違いない。


「ちょっと!Sさん!言いたいことがあるんなら、私に言いなさいよ」

普通、いきなり他人にそう言われたら喧嘩が始まるもんだが

よこしまな野望に溢れるSじじいのハートには響かなかったようだ。


「…若いもんじゃあ話が進まんから…」

「話って何の話?自治会のことはSさんに関係ないでしょ?」

それには答えず、Sじじいはニヤつきながら突飛なことを言う。

「Cさんは、オレに会長になれと言うんだ…」

Sじじいはこれを言いたくてたまらなかったようで、さも嬉しげに発表する。

筋金入りのバカだ。


「役員でもないCさんが口出すのはおかしいじゃん」

「Cさんはここに長く住んでるからなぁ…」

「長い人の言うこと聞くの?

 じゃあ、Sさんより長い私の言うことも聞いてくださいよ。

 自治会のことは、役員で決めます。

 あちこち行って変なこと言うのやめてくださいね」

Sじじいを残し、そのまま私は実家へと急いだ。


しかし、早急に決着をつけなければ

またSじじいにねじ込まれる犠牲者が増えるばかりだ。

封印するつもりだったワザを思い切って使うことに決めた。


その夜、私は会計の子と作戦を練り、Cの家におもむく。

「Cさ~ん、いらっしゃるぅ~?」

うへっ…相変わらず醜く太ったおっさんだ。


「Cさん…自治会長の件なんですけどぉ…

 実は私たち、SさんじゃなくてCさんにやっていただきたいんですぅ」

「え…?」

Cは、細い目を精一杯見開く。


「オ…オレは…ここをまとめるにはSのほうがふさわしいと思うけど…」

「人望に問題が…。現にSさんが怖いと言う人もいますしぃ~」


打ち合わせどおり、会計の子も続ける。

「私も、Sさんが怖くてぇ…」

“怖い”という形容詞は、非常に便利である。

主観の問題なので、説明の必要がない。


Cの嬉しそうなこと!

「イヤ…オレは…そんな…無理だよ…。

 まあ…確かにSはガラの悪いところがあるから…

 女性は怖いかもしれんなあ…」

「そうなんですぅ~!Cさんだったら、私たち大丈夫ですぅ~」
 
「オレは…だめだよ…Sを押した手前…。

 誰かほかの人に頼んでよ…」


「えぇ~っ?」

私たちはさも残念そうに身をよじり、そそくさと帰る。

“ほかの人”という言葉を引き出したら、こいつにもう用はない。


自治会長は、来年度の順番の中から

近所づきあい?なんのこっちゃ?の若夫婦に下話をしてあった。

もちろん、我々の全面サポートサービス付きである。


翌日、私はさっそく新メンバー紹介の回覧板をまわした。
 
その後の噂によると、SじじいとCはやはり仲間割れをしたという。

回覧板を見て、野望を打ち砕かれたのを知ったSじじいがCのところへ行った。

“自分のほうがいい”と言われて“辞退”したと思い込んでいるCが

「人望」を持ち出して喧嘩になったらしい。


しょせん酒から芽生えた仲良しごっこ…

ザンネンな方々の友情なんて、そんなモンだ。

口ではきれいごとを言っても、腹では自分こそ…と思いながら

つまらぬ生涯を終えるのだ。


あれ以来、Cの熱い視線が少々不快ではあるが

とりあえず身を挺して?Sじじいの野望は葬った。

コメント (16)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

組長・5

2009年05月16日 16時11分55秒 | 組長
あれは去年の今頃だったろうか。

近所の掲示板に汚い字で貼り紙がしてあるのを見つけた。


“Y山Y美について

 この女はある男性をだまして500万円の金を巻き上げた上

 自殺に追いやった恐ろしい女。

 この町から出て行け!”


一緒に見つけた隣の若妻と二人

「ドラマではよくあるが、実際にこんなものを見ようとは…」

と狂喜乱舞。


Y美さん…近所に住む、セクシーな年増である。

自慢の足を惜しげもなく出して

長い髪をなびかせ、スナックへご出勤あそばされるお姿は…

とっても後ろべっぴん。


あまり話したことはないが、会えばいつもにっこりと挨拶する

気さくな人だ。

彼女からはいつも香ぐわしいコロンの香りが漂い

私はいつもうっとりと

鼻の穴をいっぱい広げてクンクンしてしまう。


「派手だとは思ったけど、そんなに怖い人だったなんて…」

若妻はつぶやく。
 
私は叫ぶ。

     「何を言う!ちょろっとだまして500万!

      すばらしい!ぜひ弟子入りさせていただきたいっ!」  
 
後ろだろうが前だろうが、わたしゃ美しいものには寛大なんじゃ。


弟子入り志願しようにも、それ以来ぱったり姿を見かけなくなった。

そしてこの春…自治会の掃除の日に知った

会費持ち逃げ事件へと続くのであった。


Y美さんは、貼り紙がされる少し前から

いけないお薬にハマッていたというのが、もっぱらの噂である。

家の郵便受けにタバコの空き箱を入れる自由業の男性の姿が

何度も目撃されている。

家に閉じこもることが多くなり

急激に痩せて、うつろになったのも噂になっていた。

支払いが滞ったので、貼り紙で嫌がらせをされたらしい。


そういえば深夜、ご主人が家の前で

自由業の男性に強い口調で何か言われていたのを見たことがある。

すれ違った時、甘酸っぱいような

動物の体臭のような複雑なニオイがして

「コロンをワイルドなやつに変えたのかな?」

と思ったこともある。

あれが、いけないお薬のニオイだったのかも?


とにかく、Y山夫妻は姿を消した。

先日ご主人の姿を見たので、無事でいることは確かだ。

少なくともご主人は…。


会費は持ち逃げしたんじゃない…人聞きの悪い…

集金したまま通帳に入れずに引っ越しただけ…。

美しいものに甘い私は、よその金なので

痛くもかゆくもないゆえ、そう思うことにする。



さてさて、前回のSじじい一味の伝言。

「総会を開け。Sを自治会長にしろ」


2~3日のうちに返事をする…言いたいことがあれば直接来い…

という内容だけ、月番夫人に託したまではお話しした。


月番夫人、私の返答をSじじいの子分、Cに伝えたところ

「そんなことを聞いてるんじゃない!」

とわめき、もう一回行って来いと言われた…と再びやってきた。


「何か答えを持って行かないと、どうも納得しないみたいで…」

なるほど…と私は彼女に二つだけ覚えて伝えるように…と言った。

我々一味で出した結論である。

総会は開かない、自治会長は順番、これを変えるつもりは無い。

異存があれば、必ずみりこん宅へ来るように。


「いいんですか?そんなことを伝えたら…大変なことになるんじゃ…」

奴らが正当に自治会のためを思っており

やましい考えが無いなら、総会を開く効用を説明しに来るはずである。        

私が直接Cのところへ出向いて伝えてもいいようなもんだが

「こちらから行った」と「来られた」では

万一もめた時に大きな差が出てくる。

ことをうまく転がすには「怒鳴り込んだ」より

「怒鳴り込まれた」のほうが、人聞きが悪くて都合が良いものだ。


私の伝言を再度伝えに帰った月番夫人が

それきり来ないところをみると、今度こそ伝書鳩から解放されたようだ。


しかしである!

SじじいやCが何か言ってくるのを

手ぐすね引いて待っているのに!

夜遅くまで化粧も落とさず待っているのに!

いっこうに来ないではないか!
   
あ~あ、とても残念だ。
コメント (15)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

組長・4

2009年05月11日 13時38分41秒 | 組長
昨日、月番の女性が我が家に来た。

「あの、Cさんからの伝言なんですが…」

Cというのは、我が自治会の平和をかき乱すあのじじい、Sの一味である。


「自治会長さんがまだ入院中でしょう。

 ご本人も辞めたいと言われてるので

 新しい自治会長を決める必要があるそうなんです」


それは私も聞いていた。

聞いていたが、めんどくさいので保留にしていた。

老会長はダミーで置いておき、実質的な仕事は我々でこなそうと思っていたのだ。


「それでCさんがおっしゃるには、まず総会を開けと…」

また総会かよ…。

「その席で“みんなのために”CさんがSさんを推薦するそうです。

 そして、今後は毎年Sさんに会長をやってもらうように

 話を持っていくから、同意してほしいとおっしゃってました。

 それが“みんなのため”だと…」


この月番夫人は、Cの隣に越して来て年月が浅い。

仕事が忙しくて事情を何も知らないので

それはいい話だと思ってうちに来たらしい。

「熱心な方がいてくださると、助かりますわねぇ」


私は月番夫人に、奴らの悪行三昧を話してやった。

「まあ!そんなこと、ちっとも知らなくて!」

    「やりたい人にやらせてあげたいのはやまやまだけど

     そうはいきません」


直接言って却下されたら元も子もないので

何も知らない他人を月番だからと理由をつけて使い

こちらの出方を見るつもりであろう。

いかにも肝が小さく、セコい手だこと…。


前年度の決算にしつこく異議を唱えているのも

その口実で総会を開き、Sじじいを推薦して会長に据えることが目的なのだ。

推薦され、頭を下げられ、しぶしぶ引き受けるの図を夢見て…。


CとSの間で、話はすでに出来上がっていたらしい。

バカどもの考えそうなことだ。

うまいこと老会長を葬ったまではよかったが

我々役員が言われるままに総会を開き

Sじじいをすんなり承認するとでも思っているのだろうか。


自治会費の集金や決算が公正でないといちゃもんをつけておきながら

同じ人間を半永久的に会長に据えるのはOKという

主張そのものに無理がある。

そうはいくかい…。


「じゃあ私、Cさんになんてお返事したらいいんでしょうか…

 隣だし、もめるのは怖いです…」

    「2~3日待ってと言っておいてください。

     必ずCさんに直接お返事します。     

     それから、次回から言いたいことがあれば

     又聞きではわからないのでうちへ直接来てくださいと。

     それだけ伝えてください」   


じゃかましい!寝言言うな!と伝えたいところだが

あまり過激な内容をだと、図らずも伝令となった月番夫人に

被害が及ぶ恐れがある。


「あの…私…ガキの使いと思われませんかね?」

   「Cさんから頼まれた伝言自体、ガキの伝言ですから

    バランスがとれてちょうどいいでしょう」

それとも、私が今話したことを全部Cさんに伝えてもいいですよ…

「いえ!役立たずと思われて本望ですっ!」


私は前年度の三役と、今年一緒にやる会計の子に招集をかけた。

…絶対に総会は開かない。

…会長は現行のまま、または来年の順番で。

という即決の結論と共に

万一奴らが予期せぬ強行策に出た場合の対策も検討。


なにしろ普通の考えが通用しない者どもが相手なので

各自に個人的な攻撃が来ても同じ返答ができるように

打ち合わせをしておく。


しかし実際に表立って攻撃を受けるのは、おそらく今年度の役員である

私と会計の子であろう。

出産したばかりだし、出来ればこういうことには巻き込みたくなかったのだが

こうなってはいたしかたない。

つまらぬことでガタガタするのは、あほらしくてみっともないが

そのつまらぬことに心血を注いでこだわる者がいる限り

いつまで経ってもこのままなのだ。


この女の子は、偶然にも長男の友達の妹である。

小さい時からよく知っていて我が子同然、しかも威勢がいい。


「おばちゃん!戦おう!あいつら、常識がないんじゃ!」

彼女は言う。

ヤンキーな彼女から常識という言葉が出るとは思わず

我々おじさんおばさんは大ウケ。


さらに

「…追い込んでやる…」

なんとたのもしい!

我々は、固い絆を確かめ合って解散した。


家に帰ると、夫が言う。

「さっき誰か来て、何か用事があると言ってたぞ~」

    「誰?」

「知らん。また来るって」

    「男?女?」

「どっかのおばさん」

    「名前くらい聞いてくれればよかったのに…」

「知らんわいっ!なんでオレがそこまでせにゃならんのじゃっ!」

と逆ギレして大声で叫ぶ。

ガキの使いとは、こういうことを言うのだ…。

この役立たずめが…!
コメント (16)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

組長・3

2009年05月05日 13時23分34秒 | 組長
昨日は、我が自治会にとって

運命の日となるはずであった。


先日、自治会をあげての掃除の日に

前年度会計報告への異議をとなえた

例のじじい率いる一部住民は

その後、水面下で暗躍していた。


あの時、やつらを置き去りにして

隣の組の会費持ち逃げ事件に心奪われた私であったが

やつらはターゲットを自治会長に移していた。


会長は、私が何も知らずのんきに家で遊んでいる間

やつらの抗議に一人苦しんでいたらしい。


そして昨日…

会長から、やつらの要求を飲んだ旨の連絡があった。

緊急会議を開けという要求だ。

「すまんね…わしがもう少ししっかりしていればいいんだけど

 あんまりしつこいので、一回やっておけば静かになるだろうと思って…」


三役以外に住民の招集権は無い。

そこで一人暮らしの老会長を責めて

自治会の人々を集めたいのだ。

そしてそこでまた、ワーワー言いたいに違いない。

理由は何でもいい。

自分たちが三役だった時に味わった

人前ですごむ快感をたまに反芻したいのである。


会長が連休の最中を選んだのは

不愉快を感じる人数をできるだけ少なくしたい配慮だ。


「人生最後のご奉公」と言って引き受けた会長職を

一生懸命やっていた優しいじいちゃんを

やつらは陰でいじめていたのだ。

おのれ、どうしてくれよう…。


会議は夜7時から。

私は断固戦うつもりだった。


そして夕方…ごく近所で救急車が止まる。

物見高い私としては、当然のぞいてみる。


「ああっ!会長さん!」

倒れたじいちゃん会長が、運ばれるところだった。


じいちゃんには持病がある。

次に倒れたら危ないと言っていた。


そこで初めて、近所の人々の口から

じいちゃん会長が心底悩んでいたことを知る。

じいちゃんは、私や会計の子がかよわい女だと信じて疑わなかった。

自分一人でやつらの矢面に立って、耐えていたのだ。

やつらを刺激しておいて

すっかり忘れていた私は、少々心が痛む。


「あいつらのせいだ…」

私達は口々に言いながら、救急車を見送った。


とりあえず時間になったので、集会所へ行ってみると

じじい派と、反じじい派の戦いがすでに始まっていた。


「会長さんが倒れたのはあんたたちのせいだ!」

「いや、たまたまだ!」

「あんた達が責めたからだ!」

「俺たちはただ、説明が聞きたかっただけだ!」

の言い合いである。


面白いので、しばらく聞いていたが

説明する立場にある前年度の三役は欠席しており

現会長も病院送りとなれば、話し合っても仕方がない。

元気になるまでこの問題は保留し

今夜はひとまず解散しようということになった。


私はかわいく質問する。

「あの~、会長さんは大丈夫なんでしょうか?」

「う~ん…それはなんとも…病状がはっきりするまでは…」

長老は、難しい顔で答える。


やつらは心なしかおとなしくなっていた。

バカとはいえ、多少は良心の呵責を感じているようだ。

じいちゃん会長は、結果的に身を挺して我々住民を守ってくれたのだ。


私は大きな声で独り言を言う。

「もしものことになったら、一種の殺人ですよね~。

 どうやってつぐなうのかしら~。

 怖いわ~!病人を責めるなんて」

皆、口々に怖い、怖い…と言いながら解散した。
コメント (12)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

組長・2

2009年04月27日 10時21分06秒 | 組長
昨日は、地区の掃除があった。

組長主催で行われる、年に一度の大きな行事である。


近隣住民を悩ませる例のじじいは

同じヨゴレ仲間と共に、掃除もせずに付近をうろつく。

ここは静かでいい所だが

住民意識の落差が激しいのが難点といえば難点だ。


掃除も終わりに近づくと、出欠の確認のために住民が集まって来る。

じじいの出番だ。


人が集まったところを見計らって、じじいがグズグズ言い始める。

「前年度の会計報告に不審な点があるから

 みんなを集めて一回話し合いしろよ」

事前に打ち合わせをしていたらしく

ヨゴレ仲間も口を揃える。

「そうだ。自治会費の合計がおかしいのに、気が付かないのか」

新しく組長になった私への軽いジャブである。


おまえらが会計報告について、ナンカ言える身の上か。

しかし会計報告に引っかかりたいヤツは、どこにでもいるものだ。

数字についてナンカ言えば、頭がいいように思われるのではないかと

信じているからだ。

数字に弱いからこそ憧れる行為といえよう。

賢いヤツは、こんなみみっちいことに時間を費やさない。


「グズグズせずに、はよ集まる日をみんなに言わんかい!」

「今言っとけば、手間がはぶけようが!わからんのか!」


   「そのようなお話のしかたは、おうちでどうぞ」

私はにこやかに言う。

   「外で他人の奥さんに言う言葉ではないでしょう」

こういう時だけ、人妻を強調。

   「意見があれば、最低限の礼節を持ってお話しください」


使い慣れない人間語で、やつらが言うには

去年、自治会費を納めないまま引っ越した家があり

一軒分足りないままの金額でシメが行われている…

それを転居先まで行って回収するなり

あきらめてそのままにするなり

いずれにしても会計報告を修正して、再度承認を得なければならないと主張。

財政難なんだから、甘くしていたらいずれ破綻する…と言う。

馬鹿馬鹿しい。


財政難が聞いてあきれる。

こいつが自治会長の時

自分たちが毎週飲み会をするだけで誰も使わない集会所に

エアコンと液晶テレビを買ったのはどうなるんだ。

承認もなにも、会費を勝手に引き出して取り付け

発表したのはその後だった。

今年は、集会所での飲酒禁止令をしいてやるつもりだ。


こいつらは、とにかく人の注目を浴びながら

ギャーギャー威嚇したいだけなのだ。

     「なるほど。じゃ、回収はSさん、お願いしますね」

私はじじいの名を呼ぶ。

「なんでオレが!」

じじいは叫ぶ。

     「だって~私、女だも~ん。そんなこと出来ません~」

こういう時だけ女を強調。

じじいは、単に前年度と今年度の三役に

「回収できませんでした」

と頭を下げさせたいだけなのだ。

     
「だいたい、お前らはなぁ…」

言い返そうとするので、すかさずやんわりと言う。

     「お前らとか言うの、やめてくださいね~」


チッと舌打ちして、話題を変えるじじい。

「今日用意したゴミ袋は小さすぎるんじゃないのか」

これも打ち合わせをしていたらしく、ヨゴレ仲間も賛同する。

「そうだ。あんなに小さいのは、かえって手間だ」


ああ、あれは…私はにっこりと言う。

      「私の家にあったのを出しました」

じじいどもは、鬼の首でも取ったようにまくしたてる。

「大きいのを買えば良かったじゃないか!怠慢だろうが!」

「あんな普通サイズのじゃあ、迷惑だろっ!」


私は優しく微笑み、礼儀正しく言う。

       「…誰に向かってモノ言うとるんじゃ」

財政難なんでしょ?我慢してくださいね~

エアコンとテレビの支出が、まだ響いているのでね~…


そしてやつらを残し、隣の組の面々が集まっている場所へ急ぐ。

アホどもにつきあっている暇はないのだ。

隣の組では、会計係が数十万の会費を引き出して

夜逃げしたと言うではないか。

しかも、奥さんが覚醒剤に手を出したためで

発覚したのは、つい最近だと言うではないか!

大興奮。

早く真相を詳しく聞きたいっ!

ああ、忙しい。
コメント (20)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

組長

2009年04月08日 10時13分51秒 | 組長
4月から組長になった。

襲名したのではない。

順番で回ってくる、自治会のやつだ。


問題がひとつ。

近所のオッサンだ。

50半ばの小汚いバカだが、こいつが普通ではない。


3年前に順番で引き受けた自治会長の味が忘れられず

よっぽど気分が良かったのだろう…翌年は立候補しやがった。


昔は田舎の自治会長といえば

ここらへんで言う「旦那氏(だんなし)」…

生活に余裕のある、尊敬に値する人物が

皆に請われて就任するのが一般的だったが

そんな人たちはもう死んでしまった。


近頃は順番で受け持つので、当然変なのも出て来る。

本業で残念な者ほど

にわかに手にした権力をふりかざす傾向にあるようだ。


バカのやることは、たいてい底が知れている。

やはり似たようなバカ数人と組んで

罰金や、無い頭を寄せ合って新しく作った

しょうもない規則で

近隣住民をひたすら縛るのみ。


住み良い自治会を作るのではなく

日頃の自分と真逆の行為…

自分の命令で他人を動かすという

初めて味わう快感に酔いしれているのだ。

薄くなった頭を金髪に染め、やせこけた餓鬼のような顔で

怒鳴り散らすさまは、醜悪このうえない。


反論する者がいれば

チンピラのような口をきいて、その家にねじこむ。

一人暮らしの老人や、女所帯でもお構いなし。


うちのような大男の揃っている

反撃が怖い家には、何も言って来ない。

そのかわり、陰湿な手口で嫌がらせをする。


うちの場合は、息子の趣味方面の車を置くのに

借りている駐車場の持ち主を調べ

「自治会」を名乗って

「貸さないように」と電話をかけられたことがあった。


持ち主は良い人なので、なにごとにもならなかったが

無関係の他人に被害を及ぼすのがいまいましい。

ヤツだとわかっているが、匿名なので逆襲ができない。


ヤツのちょっと頭のおかしい女房が

すれ違いざまにいきなり

「いや~会長夫人は大変です~。おほほほ~」

と自慢げに言うので

「大変なら、やらなきゃいいじゃん。おほほほ~」

と言ったのを根に持っているのだ。


その後、誰も何も言ってないのに

「3年休ませてくれ…」という名言を残し、ひとまず引退。

一同ホッとしたものの、今度は新しい役員の足を引っ張り

連日嫌がらせの嵐。

自分でないとつとまらない…という形に持っていきたいのだ。


今年も色々仕掛けてくるだろう…と踏み、家族会議。

「いい?なんか言って来たら、ハイ、ハイと聞いちゃダメよ!

 ギャーギャー言って追い返すのよっ!」

「ラジャー!」


戦いに向けての切り札はある。

今年は組長のサポート役として会計係になったコが

3人目を生んだばかりなので

会計の仕事も実質私がやることになる。


帳簿を引き継いで目を通したところ

ヤツが会長だった2年間のものに、不明瞭な点を発見。

そこにはヤツの捺印があるから、逃げられない。

大げさに表現すれば「業務上横領」の類いである。


バカは詰めが甘い…

それは、我が結婚生活でいやというほど熟知している。

しかし、バカを追い込むと思わぬ行動に出る…

それも熟知しているので

出来れば関わらずに終わりたいが

春の陽射しの中で、少し楽しみな組長である。 
コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする