殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

手抜き料理・年末編

2021年12月28日 09時58分17秒 | 手抜き料理
25日は、同級生の友人ユリちゃんの実家のお寺で料理を作った。

今月は6日に続いて二度目だ。


この数年、すっかりお寺の料理番と化したマミちゃん、モンちゃん、私の同級生3人組は

ユリちゃんの本音を知ってやる気を失い、月に一回しかやらないと決めた。

たまにお寺料理に関わる元公務員の梶田さんと我々をうまく使い分けていると知って

ゲンナリしたからだ。

しかし本当の理由は言わなかった。


我々の本心を知らないユリちゃんは、25日の予定を遠回しに、そして度々たずねる。

年末のこの日は本堂の大掃除で、檀家のおばちゃんやおじちゃんたちが来る。

ユリちゃんが最も神経を使う日だ。

ただでさえ忙しい年末に、朝っぱらから労働させたあげく

昼がコンビニ弁当では申し訳ないという気持ちはよくわかる。

田舎とコロナのため、昼間に料理を出す店が町内に一軒も無いのも知っている。


洋品店を経営するマミちゃんは、年末最後の営業日ということで最初から欠席。

けれども困ったことに、モンちゃんと私は空いている。

2人は悩んだ。

そりゃ年の瀬なんだからやることはたくさんあり、よそで料理を作るどころではない。

しかし、マミちゃんのように立派な理由を持たない我々には葛藤がある。


マミちゃんは、月1の決まりを撤回することに猛反対。

いったん決めたことを崩すと、また彼女のペースに巻き戻される恐れがあるからだ。

我々のような呑気者VSタカリのプロでは、プロの方が強いのは明白だった。


しかしその一方、用があると嘘をついて断るのも夢見が悪い。

考えた末、11月は梶田さんを動員したので我々にお呼びが無かったことを挙げ

先月分を今月2回やるということで、最後まで反対していたマミちゃんは落ち着いた。

年の最後に嘘をつくより、潔く労働して気持ちよく新年を迎えよう…

モンちゃんと私の意見は一致したのである。



メニューは前日まで決まらなかった。

大掃除やら庭の剪定やらで慌ただしかったのと

このところ、すっかりマミちゃん頼りだったので勘が鈍っていたからだ。


ちょうどクリスマスなので、豪華なメニューを期待されているのもわかっている。

しかし25日は、おばちゃんたちが台所へ湯を汲みに来るので流しが使えないことや

掃除はかったるいので午前中で早退する人が必ずいて

その人に料理を持たせるために段取りが大幅に狂うことも、去年の経験で知っている。

去年もやっぱり同じ日に、一人でやって泡を食った…

なんてことを思い出すにとどまり、メニューの決定は遅々として進まなかった。


が、いざ買い物に出るとどうにかなるもので、何とか決めることができた。

前回、品数削減で味をしめたのもあり、テキトー簡単料理の羅列さ。


マミちゃんがいないのでガス台の火は使い放題とわかっているが

一緒に行くモンちゃんは料理を作らないので時間に余裕が無い。

だから大半は朝、作って行った。

なにしろ早退組がいるので、あらかじめ仕上げておかないと

自分の首をしめることになるからだ。


去年は熱々の天丼を出したかったが

早退組のために早くから天ぷらを揚げるしかなかった。

その後は温め直す時間が取れず、会食の時には冷え切って残念だった。

今年は同じ過ちを繰り返したくないので

熱々にする必要の無い、普段作り慣れているものばかりを選んだ。


これほど準備をして望んだというのに、当日は去年よりもいっそう参加者が少なく

早退は1人、会食は総勢8人にとどまった。

この寺、大丈夫か?



スコッチエッグ


ハンバーグ種の中に、ゆで卵をしのばせてフライにしたポピュラーな洋食。

プチトマトの赤と大葉の緑で、ささやかにクリスマスを装う。


ハンバーグ種を作る時、玉ねぎのみじん切りは生でOK。

パン粉を牛乳や水などでふやかさず、つなぎの卵と生の玉ねぎの水分だけに頼り

固めに練るのがコツ。

あと、中に仕込むゆで卵には小麦粉をしっかりまぶして

周りに着せるハンバーグ種が脱げないようにしておくのと

卵の位置がわかるように、卵を仕込んだハンバーグ種を楕円形に成型しておくのが大事。


出来上がりを半分に切る時は、冷めてから切ると美しい。

切って生焼けだったら、レンジで温めれば大丈夫。

この日も生焼けだった。

とまあ、このように意外と面倒くさいが

コツさえ知れば、男や子供は確実にテンションの上がる一品。



ソースは広島名物お好みソースとケチャップに少量のカラシと蜂蜜を混ぜ

レンジで軽くチンしたもの。

ソースは温めると、酸味が飛んで美味しくなるのだ。


うっかり卵の黄身全体にかけてしまうと彩りが悪くなるので

黄身の部分を残してかけるのがミソ、いや、ソース。

別の容器にソースを取り置き、各自が自分でかけてもかまわないが

派手な彩りの料理に黒っぽい色を添えると色彩が引き締まり、見栄えがする。

中華丼のキクラゲみたいなものだ。



エビチリ


これも朝、家で作って行った。

超簡単なので、前にもお寺で出したことがある。

①白ネギを数本、みじん切りにする

②下処理をした海老に片栗粉を振りかけてサッと洗い、ザルで水分を切る

③キッチンペーパーで全体を抑え、できるだけ水分を取ったら

今度は片栗粉をしっかり全体にまぶし、油で軽く炒める

④みじん切りにした白ネギをたっぷり加えたら

市販のエビチリの素と、好みの量の豆板醤を加えて海老が赤くなるまで炒める

以上。


市販のエビチリの素は、甘いんじゃ。

だから豆板醤を足して辛くする。

皆さん、オリジナルと思って、ヒーハー言いながら喜んで召し上がる。



大根サラダ


①大根をおろし金で細くすりおろし、少量の塩でしんなりさせておく

②大根から水分が出たら軽くしぼり、油を切った小さいツナ缶、細く裂いたカニカマ

半分に切ったカイワレを混ぜたら胡椒、薄口醤油、マヨネーズで味つけ

以上。


こちらも大根の白、カニカマの赤、カイワレの緑でホワイトクリスマスを演出。

さっぱりしているので、いくらでも食べられる。

カニカマは、前回の手抜き料理のコメントでモモさんが話しておられたのを思い出し

赤色担当に任命した。




広島菜のおむすび


県内のどこのスーパーでも売っている広島名物、広島菜の漬物でまいたおむすび。

広島菜は、緑鮮やかな高菜みたいなものだ。

うちでは昼食に、このおむすびをよく作る。


①広島菜の漬物を買って、先の葉っぱの部分と茎の部分を切り分ける

②茎を粗めのみじん切りにして炊き上がったごはんに混ぜ、塩むすびにして葉っぱで巻く

以上。


おむすびは、おにぎり女王の異名を持つモンちゃんが作って

私が葉っぱを巻くという共同作業。

モンちゃんはこの夏、三角むすびは作れないと言っていた。

しかしあれ以来、ご主人の弁当を俵むすびから三角むすびに変えて練習したらしい。

見事マスターしていて、感心した。


ユリちゃんのご主人モクネン君の希望で、いつも会食前にはメニュー紹介をする。

「広島菜のおむすびを握ったのは、おにぎり女王のモンちゃんです」

そう言ったら

「え?オダギリジョー?」

モクネン君に聞き返され、一同は大いに笑った。



あと一品、酒かすを入れた豚汁も作ったが、時間が無くて撮影できなかった。

豚バラ、大根、人参、ごぼう、里芋、コンニャク、油揚げを入れたが

特に老人の好きな里芋は、大きめに切ってゴロゴロ入れた。



今回は、どの料理も好評だった。

特に広島菜のおむすびは珍しがられ、非常に喜ばれた。

お年寄りって、ベーシックなわかりやすい料理が嬉しいのよね。
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ネックレス詐欺

2021年12月21日 09時02分39秒 | みりこんぐらし
6日にあったお寺料理の際、ユリちゃんから相談があった。

その内容とは…

数日前、軽度認知症の伯母さんが、町の洋装店に勧められて

認知症に良いという健康ネックレスを注文した。

ネックレスにはペンダント・トップが付いており

その中には薬草を主原料とした液体が数滴、注入されている。

で、その液体が認知症の進行抑制に効果的だと

ナントカ大学のナンタラ名誉教授が推薦していて

ネックレスをぶら下げておけば

呼吸によって薬効が体内に行き渡るという話だ。

ネックレスにはホワイトゴールド20万円、ゴールド30万円

プラチナ50万円の三種類がある。

伯母さんは一番安価なホワイトゴールドを選んだ。


それを聞いて心配した関西在住の一人娘が、ユリちゃんに連絡してきた。

裕福とは言えない母親が無理をしたのは明白で

このまま認知症に任せて高価な買い物を続けるようになったら困るという。

「品物と納品書はまだ受け取っていないため、支払いもまだ。

本来なら自分がすぐに帰省して買い物を撤回するところだが

コロナと多忙のため、おいそれと帰れない。

近くにいるユリちゃんと兄嫁さんが事情を聞いた上で

買わないように説得して欲しい」。


親戚の中では一番親しい従姉妹に頼まれ、解決してあげたいと思ったユリちゃん。

さっそく兄嫁と二人で伯母の家に行った。

しかし本人とその旦那は気分を害し

「納得して買うんだから放っておいて」

と、すごい剣幕で追い返された。

今後、私と兄嫁はどうしたらいいのでしょうか…というのがユリちゃんの相談である。


背景を補足すると、伯母さんというのは

ユリちゃんの亡きお母さんの兄嫁マキちゃん84才。

ユリ寺の数少ない檀家であり、近い身内として

もう一人の兄嫁サヨちゃんと一緒に、長い間お寺料理を担当してきた。

が、認知症を発症した近年は何もできなくなり、サヨちゃんも腰を傷めたので

我々同級生がお寺料理を担当することになった経緯がある。


マキちゃん、お寺には依然として出入りしているが

長年の習慣で台所に来たがり、我々の料理を手伝おうとする。

気持ちはありがたいんだけど、できた料理を運ぼうとして取り落としたり

味付けを手伝うと言って除草剤のボトルを持って来たり

台所の片隅に置いてあるお供え物のお菓子や缶詰だけでなく

時には我々料理番の私物を漁って持ち帰ったりと

なかなかスリリングなことをなさる。


だからといって台所からお引き取りを願うと、ご機嫌を損ねる。

老婆は傷つきやすいのだ。

お寺としても、檀家であり近しい身内の彼女に来るなとは言えない。

難しいところよ。



さて、ユリちゃんの話を聞いた私は即答した。

「ほっとき。

これは家族の問題じゃけん、親戚は出ん方がええよ」


けれどもユリちゃんは、あさっての方角を見つめている。

「知り合いにアロマセラピーの先生がいるから

本当に効果があるのかどうかを検証してもらうことも考えてるの。

効果が無いとわかれば、伯父も伯母も納得するんじゃないかしら」

鼻息も荒いユリちゃんは、科学で対決するつもりらしい。


「効果のある無しじゃあ、ないんよ。

高いのは薬草の汁じゃなくて、ネックレスの素材。

汁のほうは、ついでの気休めよ。

買うのをやめたいんなら、消費者センターに電話すりゃ済むわいね。

マキちゃん夫婦は、ユリちゃんら第三者に認知症を知られて腹を立てたんよ」

「え…?だって伯母が認知症なのは、みんな知ってることよ?」

「本人と配偶者は、そう思ってない。

特に昔の男の人は、認めたくないもんよ。

けいちゃんのお父さんも、そうじゃった。

お母さんに認知症の症状が出て、けいちゃんが認知症外来を勧めたけど

気の病いと言い張って何年も病院へ行かさんかった。

マキちゃんがお寺に来とる時、旦那さんから早よ帰らせてくれって

たびたび電話がかかるじゃろ?

長居をさせたらバレるって思うとるんよ」

「…バレバレなのに?」

「夫婦とも、そうは思うてないけん。

今のうちにネックレスで、こっそり治すつもりなんよ」

「だけど、効果の無い物に高いお金を出さなくてもいいと思わない?

無駄遣いを止めちゃいけないの?」

「それは第三者の意見であって、本人らはワラにもすがる思いよ。

それにマキちゃんは、あの店で仕事をしてきたじゃん。

断れんわ〜」


そうなのだ。

マキちゃんにネックレスを売ったのは、洋裁師の彼女が何十年も働いた店。

オーダーメイドから裾直しまで、店から注文を受けては自宅で仕事をしていたが

認知症が進んだ2年前に辞めた。

病気で注文を間違えるようになったのもあるが

過疎化で店の商売が衰退し、お抱えの洋裁師が必要でなくなったのもある。

マキちゃんは仕事を続けたかったようだが

家族は注文を間違えたことで生じる迷惑や責任を案じていただろうし

店の方は長年勤めたマキちゃんを切る、ちょうど良い機会だったといえよう。


世話になった店から、認知症に良いとされるネックレスを勧められたことは

老夫婦にとって難しい局面だった…

長年の恩義と、秘密を知られていたショックとが相まって

いりませんとは言えないと思う…

そのようなことを話すと、ユリちゃんも軟化してきた。

「じゃあ、私たちは近くに居ても何の手助けもできないってことなのね?」

「一応の努力はしたんじゃけん、あとは娘さんに任せんさい。

親と離れて暮らすって、そういうことなんよ。

引き取るなり戻るなりして一緒に暮らすか、全てを諦めるかの二者択一しか無い。

この問題は時々ごはんを届けたり、たまに掃除を手伝うレベルとは違うんよ。

檀家兼身内と揉めたら、困るのはユリちゃんじゃん。

恨まれて嫌われるだけ損じゃが」

「そうよねぇ…」


ここで私は藤村の例を出す。

認知症の母親が宝石を買いまくって500万円の借金をこしらえ

自己破産を申請したが、母親は4年前にも自己破産していたため

5年の時効が来てないという理由で申請できなかったので

藤村が本社に金を借りて支払った顛末だ。

金額がケタ違いのこの話は効果的だったようで、ユリちゃんはようやく納得した。

藤村には、こういうことで役に立ってもらうしか使い道は無い。



今回のネックレスもだが、不景気になると気をつけるべきは

よそから来た胡散臭い輩だけではない。

地元の信用を集める商店ですら、切羽詰まると詐欺とまでは言わないけど

スレスレのことをやり始める。


何年か前の話になるが、町の老舗宝飾店が

“腰痛や関節にいい健康ネックレス”というのをお得意様に売り始めた。

特殊な金属でできているそうで、値段は60万円。


そりゃ高いから、誰でも引く。

そもそもネックレスが、ホンマに60万円の値打ちがあるかどうかも怪しい。

そこで店は言う。

「今までに私どもがお売りした貴金属を下取させてもらうと

その金額の分を値引きします」


宝石にも流行り廃りがある。

特に昔の指輪なんかは流行遅れになり果て、恥ずかしくて付けられない物が多い。

顧客の家で冬眠中の宝石を引き取り

健康ネックレスの購入資金の一部に充てるということにすれば

店は下取りに現金を出さずに済むばかりでなく

引き取った宝石は転売するなり、デザインを変えて再び販売するなり自由だ。

一方で、健康ネックレスを売った現金はフトコロに入るというわけ。

このシステムを考えたのは宝飾店ではなく、健康ネックレスの会社だろう。


店の言う通りに自分の宝石を供出してネックレスを買った人もいれば

断った人もいるが、いずれにしても商店がこんなことをやり始めたら

経営状態はかなり危ないと踏んで間違いない。

なぜなら胡散臭くて高価な品物は、利幅が大きいからだ。

経営が行き詰まっていれば、手を出さずにはいられない。

その宝飾店は、健康ネックレスを売り始めて間もなく倒産した。

認知症ネックレスを売る洋装店も、先は長くないように思う。


このような健康グッズの全てを否定するつもりは無いが

高価な品だけに後味の悪い問題へと巻き込まれやすい。

購入以前に、接触は慎重にしていただきたいものである。
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手抜き料理・品数削減

2021年12月14日 09時05分18秒 | 手抜き料理
12月6日は、同級生ユリちゃんの実家のお寺で料理をした。

月に一度か二度は必ず招集のかかるお寺料理だが、珍しいことに先月は飛んだ。

いったん招集はかかったものの、人数が少ないという理由で急遽キャンセルになったのだ。

今やお寺の料理番と化したマミちゃん、モンちゃん、私の3人は

それを聞いてもちろんホッとした。


が、中止になった本当の理由は何となくわかっている。

ユリ寺の近くに別荘を買った、料理自慢の梶田さんに作らせたのだと思う。

リフォームが済んだので、もうこっちに来ているのだ。

私の住んでいる市は、市外から移住する目的で家をリフォームする人に補助金が出る。

梶田さんはその制度を利用するために住民票を移し、こちらの市民になった。

彼女の買った家は別荘でなく、本宅になったのだった。


今まで住んでいた市外の家には、長年同居していた彼女のお母さんが残っている。

「姑と暮らすのも大変だけど、自分の母親と暮らすのも

旦那と板挟みでしんどいのよ」

時折、梶田さんは話していたものだ。

彼女は母親との同居を解消したくて、こちらに家を求めたのかもしれない。


ともあれ少人数の時は調理限界人数6人の梶田さんを呼んで

目にも鮮やかな麗しランチを作らせ、大人数の時は雑な我々を使うとは

さすが選民ユリちゃん、賢いやり方だ。

使い分けられるのは、確かにあんまりいい気がしない。

しかしそれをやってくれれば、うちらの負担は減る。

できればクソ暑い夏場に、ぜひ使い分けて欲しいところ。

でもユリ寺の宗派は夏に行事が集中していて、人数が多いから無理だろうね。


さて1ヶ月の休養を経て、我々の充電もバッチリ。

6日は月曜日でモンちゃんは仕事のはずだったが、休みを取って参加してくれた。

当日の人数は7人。

ユリちゃん一族3名と我々3名

それからお寺の整備作業を手伝う80才のおじさん1名だ。

ずっと皆勤だった芸術家の兄貴とその弟子A君も、今はいない。

大食漢のA君は偏食が高じて実家に引き取られ

兄貴は現在、あちこち飛び回る仕事をしていて多忙。

月始めの集まりはいつも少ないが、兄貴とA君が抜けてさらに減った。


よって今回も梶田さんに頼めばよかろうが

それでも我々にお鉢が回ってくるのは、手伝いのおじさんがいるから。

おじさんには認知症の奥さんと、働きながら実家で暮らす娘さんがいる。

おじさんと家族の晩ごはんが必要だ。

11月は、このおじさんが来なかったため

調理限界人数6人の梶田さんで間に合ったというわけである。



前置きが長くなったが、メニューを紹介させていただこう。



先にユリちゃんの兄嫁さん作のフラワーアレンジメント。

まる1ヶ月飛んだからか、なにげに意気込みを感じる。


メインはメズラシ料理がお得意のマミちゃん作・チーズタッカルビ。



この料理は11月にやる予定だったもの。

カットした鶏モモ肉を豆板醤と少量の醤油に和えて漬けておき

キャベツやモヤシ、キノコなどの野菜と一緒にホットプレートで炒める。

肉と野菜をホットプレートの両端に分けて、真ん中に溶けるチーズをたっぷり。

両側に具材、真ん中にチーズで川の字に仕切り

溶けたチーズに具材を付けながら食べるという韓国の料理だ。

チーズフォンデュの韓国版というところか。

見るのも食べるのも初めてだったが、すごく美味しくて身体が温まった。


予算の関係でこの日は鶏肉を使ったが、豚バラ肉を使ってもいいらしい。

辛さが足りなければ、一味を振りかける。

今回、マミちゃんは貰い物のサツマイモを処分したいということで

皮付きのまま適当に切った芋をレンジで中途半端にふかして入れた。

辛い豆板醤に、芋の優しい甘みがよく合っていた。

何を入れてもそれなりに美味しく、インパクトがあるわりには簡単な

誰にでも作れる一品。


続いてマミちゃん作・韓国風おにぎり


豚ミンチ、人参、ネギを胡麻油で炒め、豆板醤と醤油で味付けしたものに

白胡麻とたっぷりの韓国海苔を加え、ごはんに混ぜたら丸くにぎる。

つまりビビンバ味のおにぎりだ。

おにぎりを握らせたら右に出る者無し…

おにぎり女王のモンちゃんがいい仕事をした。



これもマミちゃん作・カブと柚子の酢の物


すごく美味しかったので作り方を聞いたら、市販の合わせ酢で普通に作ったという。

が、話の内容から、秘められたコツを発見した私。

通常、スライスしたカブには塩を振ってシンナリさせ

シンナリしたカブを水で洗って絞る。

しかしマミちゃんは、洗わずに絞ったらしい。

だから水臭さが無くて、味がよくしみているのだ。


ただし、シンナリさせるための塩は、かなり少なめにしなければ塩辛くなる。

そして塩が少なめだと、シンナリするまでに時間がかかるのはお約束。

いつも年末に作るカブ生酢、今年はこのやり方で行こうと心に誓う。


みりこん作・レンコン団子の吸い物


以前、ご紹介した団子の吸い物バージョン。

鶏ミンチに、レンコンとギンナンをフードプロセッサーでガ〜した物と

人参と大葉のみじん切り、ネギ、少量の片栗粉を混ぜて酒、薄口醤油で味を付け

小さいハンバーグ状に丸めたら油で揚げて汁椀に置く。


出汁は昆布と鰹節。

普通の吸い物の味付けをして片栗粉でトロミをつけたら

団子入りの汁椀に注いで三つ葉を飾る。

三つ葉は、うちの庭で自生しているものだ。


この日はお寺の薄口醤油が切れていたので、出汁を取った後

密かに持ち込んでいたヒガシマル・うどんスープの素を起用。

濃口醤油じゃあ、汁が黒くなるじゃんか。

昆布と鰹節で出汁のベースが確立しているため

味付けがインスタントでも誰も気づかなかった。


この料理は鶏肉の嫌いな人以外、本当に喜ばれる。

いつも台所のガス台を占領するマミちゃんが

今回はホットプレートを使うと聞いたので

ガス台が使えると思ってこれに決めたのだが、私はこの一品しか作らなかった。

「もう、あれこれ作るのはやめようや。

持ち帰りのパックが増えるだけで、うちらはしんどいばっかりじゃあ

これから先、続かんわ」

事前にそう話し合った。

だから今回は、全体的に品数が少ない。


が、持ち帰りのパックを避けられないことはわかっている。

だからレンコン団子をかなり多めに作り

汁物に水没させる団子と、持ち帰り用の団子に分けた。

パックに詰めれば、レンコンハンバーグさ。


しかし、それだけではユリちゃんは満足しないと思い

うちの冷凍庫に眠る小ぶりな鯛を3匹焼いて持って行った。

おじさん一家3人の晩ごはんにちょうどいい。

おかしら付きはかさばるから、これで誤魔化すもんね。

今回は季節もいいし、楽なお寺料理だった。
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現場はいま…冬の陣・7

2021年12月12日 14時56分19秒 | シリーズ・現場はいま…
常用を回避しようと屁理屈をこねる佐藤君。

一方、ヒロミの方はいっそ清々しい態度だ。

「私にあんまりきつい仕事させたら、ウチのが黙ってないじゃろうね」

どうやらソフトタッチの脅迫らしい。

“ウチの”とは、ヒロミの同棲相手である。

外見がいかにもヤンキー上がりのコワモテ風味なので

ヒロミにとっては頼りになる存在のようだ。


しかし残念ながら、ヒロミの発言に誰も反応しないので

これは脅迫にならない。

30年近く前になろうか、ヒロミのオトコの父親は義父の会社に勤めていたが

会社で酒を飲んで解雇された。

そんな男の息子だから、程度は知れている。


会社で酒を飲むなんて、一人ではなかなかできないものだ。

運転手にちょうど欠員が出たので、父親は自分の飲み友達を推薦し

何も知らない義父がすんなり入社させたため、大酒飲みが二人になった。

人数が複数になると気が大きくなるのは、愚か者お決まりのコース。

朝、会社の冷蔵庫に入れたビールは仕事が終わる頃、いい感じに冷えている。

退社前、事務所のソファーでお友達と一杯やっているところを義父に見つかり

二人共、その場で解雇となった。

父親は元々横柄で、会社を自分の物のように吹聴するところがあり

義父はかなり気に入らなかったので、厄介払いをするチャンスでもあった。

父親はその措置を恨んで、長いこと義父を悪く言い回っていたものだ。


彼はすでに亡くなり、何の因果か

義父と向かい合わせの墓で眠っているのはともかく

そのような暴挙をやらかした男の息子が

うちへノコノコ文句を言いに来られるわけがない。

知らないのはヒロミだけだ。

もっとも、ヒロミの彼氏が普通の神経であれば

ヒロミがうちで働くのも止めると思うが、その辺の無節操は父親譲りと言えよう。


自ら男性と同じ仕事に飛び込んで、男性と同じ給料をもらいながら

女性だからと手加減や特別扱いを望み、都合が悪くなると

旦那や彼氏を持ち出す女性ドライバーはけっこういる。

その厚かましい性根を叩き直さない限り、信頼は得られない。

「だから女は」の差別が続いて、女性ドライバーの地位は向上しないだろう。


とまあ、二人は抵抗を見せたが、それは主に次男に対してだけ。

気性のきつい長男には甘えにくいが、次男はまだ若くてアホなので

騙せると思っているのだ。

しかしアレらも、夫に言ったらおしまいというのはわかっているらしく

夫の前では静かな従順を装っていた。


常用に出す気満々の次男だったが、ちょうど業界全体が暇な時期だったので

仕事はなかなか取れず、アレらは落ち着かない日々を過ごしていた。

そうなると次の手として病気が繰り出されるのは、もはやパターン。

佐藤君がいつもの頭痛を訴え始め、ヒロミは腹痛だ。

無視。


やがて閑散期が終わり、ポツポツと仕事が舞い込むようになったので

配車係の次男は、納品仕事が少ない日を選んで常用を決行した。

常用の中でも軽くて簡単な仕事を選別し、まずヒロミに振る。

どっちを先に行かせるかを我々も慎重に検討していたが

不慣れなヒロミでもできそうな仕事が来たので、そうなった。

次男も同じ現場へ同行して指導を行うため、2台で臨む。

急病でドタキャンされた場合を想定し

念のために早朝から長男を補欠として待機させておいた。


けれども予想に反して、ヒロミは潔かった。

次男に一生懸命付いて行こうと頑張ったそうで、無事に終わった。

「現場の人が、私には特別に親切だった!」

ヒロミはご満悦だ。

技術的には未熟だが、自分がカバーするから叱らないようにと

次男が仕事先に根回しをしていたことなど知るよしもない。


不公平にならないよう、常用には皆が順番に行くということにしていたので

次は佐藤君の番だ。

怠け癖のついた彼は、すでに8時から5時まで働くことすら

かったるくなっていた。

いつもの頭痛では効果が薄いと感じたのか、前日、ギックリ腰になったと言い出す。

本当かどうかは、すでに謎。

しかし顔をゆがめ、足を引きずる彼に無理強いはできないので

とりあえず先送りにした。


けれどもその日、本社から永井営業部長が訪れる。

ダイちゃんのコロナ感染騒ぎが収まったので

本社からもチラホラと人が来るようになったのだ。


だけど、はるばる来たって、事務所で待っているのはあの旗野さん。

本社から人が来るのは、旗野さんが休みの水曜日と土曜日に集中するようになった。

ダイちゃんも再び来始めたが、来訪は月に一度

滞在時間は2時間程度でそそくさと帰る。

旗野さんはその間、コロナ明けのダイちゃんの隣に座っているが

何ら気にするそぶりも無く淡々としている。

その大らかさと力士並みの体型、加えてほとんど口をきかない習性から

社員は彼女を“トトロ”と呼ぶようになった。

命名は次男。


話を戻すが、夫はタイミングを見計らって佐藤君の問題を永井部長に話した。

「仕事しないので、うちはいらない」

そのタイミングとは、ヒロミが事務所に入って来た時だ。

ヒロミに聞かせれば佐藤君に伝わるからであり

ヒロミ自身もドッキリして我が身を振り返ると踏んだからである。

河野常務に話すと、アレらは終わる。

配置転換という名の肩叩きか、でなければ喜んで昇給やボーナス査定に手を加える。

人件費削減は、重役のテーマだからだ。

握り潰しが常習の永井部長に話すのは、夫なりの配慮である。


以来、佐藤君は順番が回ってくると、おとなしく常用に行くようになった。

ヒロミも同じく。

しかし、もう遅いかもしれない。

「ダンプが空き次第、入社したい」

と言って順番待ちをしている人が二人、出てきた。


一人は次男の知り合いだという、20代の男性。

どんな子か知らないし、すぐ辞めるかもしれないが

どんな会社でも若手は欲しいところだ。


もう一人は本社と合併した10年前に雇い入れた、通称タマさん。

入った時は50代後半で、2年ほど働いてくれた。

寡黙な働き者で、仕事も息子たちの教育も彼に任せておけば安心だった。

しかし彼が60才を迎えるにあたって契約の変更が行われ

彼は社員からパートに格下げされることになった。

ほんの7〜8年前だが、当時の本社は今よりずっと60才に厳しかったのだ。

「65才まで働きなさい」という、おかみのお達しが普及する直前のことである。

タマさんはダイちゃんと二人で面談した結果、退職を決めた。

我々はもちろん引き留めたが、彼の決心は固く、残念に思ったものだ。

うちを辞めた後もダンプの運転手を続けていることは、風の噂で聞いていたが

彼は遠い市外に住んでいたので会うことはなかった。


けれども2年前、常用に行った次男は、現場でタマさんとバッタリ再会。

その時、タマさんから退職した本当の理由を聞かされた。

「僕の宗教に入ったら、社員のままでいられるように本社に頼むこともできる」

契約変更の面談で、ダイちゃんはタマさんにそう持ちかけたという。

タマさんはきっぱりと入信を断り、このままパートになって続けるべきか

正社員で雇ってくれる所を探すべきかを考えることにした。

しかし翌日の夜、ダイちゃんはタマさんの家に来て

また宗教を勧めたので、彼は嫌になって会社を辞めたのだそうだ。


帰宅した次男から話を聞いた我々の衝撃は大きかった。

何も知らなかったとはいえ、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

タマさんの性格からして、パートになるのはプライドが許さず

我々に宗教の勧誘を打ち明けても、板挟みで困らせるだけだと思ったのだろう。

合併して何が一番つらいかというと、本社雇用の壁に阻まれて

腐った奴らに直接制裁を加えられないことと、社員を守る術に限界があることだ。


そのタマさんが最近、カムバックを望んでいると聞いて

素直に嬉しく、ありがたい。

本社に余裕があるので無茶な仕事をさせる必要が無いため、うちの仕事はユルいと評判で

その評判はタマさんにも届いたようだ。

こっちは合併して良かったことの一つに数えられる。


タマさんのカムバックが実現するか否かは不明だが

空席待ちが出たとなると、ますます力が湧いてくるというものだ。

以上、現場からお送りしました。

《完》
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現場はいま…冬の陣・6

2021年12月08日 10時23分31秒 | シリーズ・現場はいま…
佐藤君とヒロミは、相変わらずの二人組を続けている。

二人三脚でうまく立ち回り、楽で早く帰れる納品仕事ばかり選ぶので

少し前から常用(じょうよう)と呼ばれる仕事に交代で出すようになった。


常用とはダンプと運転手をセットにして、よその会社に貸し出す仕事だ。

納品と違って8時間拘束が基本なので、彼らがどんなに画策しても

定時の5時まで帰れない。

しかも、よその会社の知らない工事現場…

つまりアウェーなので神経を使う。

そして誰もが知っているだろうが、工事現場というのは

永遠に同じ場所で同じ工事を続けることは無い。

サグラダ・ファミリアじゃあるまいし

日本の道路や建物は、いつか必ず完成するものだからである。


よって行き先は、コロコロ変わる。

そして仕事の内容も、工事の種類によってその都度違う。

もちろん、モタモタしたりミスをしたら容赦なく叱られる。

アウェーなんだもの、そこに馴れ合った優しい人はいないのだ。

常用は、怠け者が最も恐れる仕事と言えよう。


この常用を積極的に取り入れると聞いた、佐藤君とヒロミ。

うろたえる心を隠しつつ、自分たちだけは行かなくて済むように

様々な作戦を繰り出すのだった。


まず最初にやったのは、藤村への密告。

しかし藤村はすでにヒラの営業マンに格下げされていて

こちらのことに関与できないため、不発に終わる。


しかし、一番簡単なこの手は早めに使うと予想していた。

労力を惜しむ怠け者は願望達成のために、まず周りを使うものだ。

よって本社には、前もって話を通しておいた。


どうあがいても日当が1日4万円と決まっている常用仕事と違い

注文された商品を取引先に納入する納品仕事は利益が大きい。

本社は近年、こちらを奨励していた。

しかし納品仕事にもネックはある。

その最たるものは、売上げが取引先の都合で左右されること。

「今日はちょっぴりでいい」、「明日はいらない」

なんてことがよくあって、ダンプがお茶を引く羽目になる。


そんな時に常用をうまく挟み込み、売上げの波をなだらかにしたい…

次男は河野常務にそう伝えた。

合併当初から「常用は儲からん」が口癖で

常用脱却、納品奨励の姿勢を貫いてきた常務だが

売上げの波は気になっていたらしく、次男の積極性を喜んで

常用と納品の二足わらじをコロリと認めた。


そんなことはつゆ知らずのアレら。

藤村が使えないとなると、声高に主張し始めた。

「常用は儲からんのじゃろ?」

「儲からんけん、迷惑かけるんじゃないん?」

「止められとるんじゃろ?」

「やったらいけんて聞いたよ?本社の言うことは聞かんといけんじゃろ?」

藤村の吹く夢物語を聞きかじった佐藤君が自分に都合よく解釈し

ヒロミに伝えた妄想を代わる代わる繰り返す。

お茶を引く楽ちんを覚えてしまったので

今さら8時間労働なんてバカバカしくてできないのだ。


ちなみにお茶を引くとは、昔の遊郭で使われた言葉。

お客の付かない遊女が手持ち無沙汰の状態を指す。

我々の業界では、それを“待機”と呼ぶ。

働き者の運転手にとって待機は、やるべきことを探して気を使う落ち着かない時間だ。

しかし怠け者のアレらは、何もしなくていい待機が大好きである。



さて、納品と常用の二足わらじにゴーサインが出たことを知ったアレら。

絶望に負けず次に試みたのが、うちの息子たちの兄弟仲を再び裂くというもの。

兄と弟にそれぞれ、あること無いこと吹き込んで喧嘩別れさせる

佐藤君の十八番だ。

常用に積極的な弟と、弟ほど熱心でない兄の間に亀裂を入れ

兄の方を持ち上げて反対派に祭り上げれば

常用の話は立ち消えになるというのが、今回の佐藤君の作戦だった。


しかし我々はこの事態を想定し、息子たちと打ち合わせを済ませていた。

内容は、「アレらとしゃべるな」

これだけ。

うちの子がアホなのかもしれないが、男の子って

距離を取れだの適当にあしらえだの中途半端なことを言っても

本人はよくわかってない。

距離や適当の基準を測りかねているうち、向こうの術中にハマることがある。

だから話をしなければいいのだ。


無視したり、ツンケンする必要は無い。

親しく対話すると、向こうにまだ逆転の目があると希望を持たせてしまうので

用件がある時は、一回のやり取りで終わればいい。

しかし、そんなアドバイスより効いたのはこれ。

「またぞろ奴に騙されて兄弟が分裂したら

お前らは佐藤以下の人間、決定じゃ」


兄弟間の亀裂作戦が失敗に終わると、今度は常用に行けない理由を挙げ始めた。

まず、佐藤君の主張。

「自分が乗っているオートマのダンプで常用は無理」

「自分は別の支社から出向しているので契約が違うため

早出残業代がここより高い。

常用で早出残業が発生したら、人件費が損だと思う」

行きたくない一心で、一生懸命考えたのだろう。


が、それはガキの浅知恵。

よその会社にも、オートマダンプで常用をやる人はちゃんといる。

急勾配で作業をする時など、確かにオートマ車は操作が一瞬、遅れるが

日頃から社内の誰よりも実力があると豪語しているのだから

その実力でカバーできるはずだ。


そして、わずかな時間外手当の差など損のうちに入らない。

怠け者を養い続ける方が、よっぽど損である。

むしろ冷酷な私に言わせれば、給料が我が社からでなく

別の支社から支給されている佐藤君こそ、早出残業で働かせるべきだ。

彼をナンボこき使ったって人件費はよそが払うんだから、うちに損は無い。

さも会社のためを思うような口ぶりで

もっともらしく主張する彼の理屈が正論と仮定した場合

そういうことになってしまう。

にもかかわらず、皆と同じに扱う我々の配慮に

彼は感謝してもいいくらいだ。


が、彼にそんなことを言ったって理解できないだろう。

理解できないから、分別が無いのだ。

分別が無いから、恥ずかしい浅知恵を臆面もなく披露できるのだ。

その様子は一種、あわれではある。

《続く》
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現場はいま…冬の陣・5

2021年12月03日 10時25分28秒 | シリーズ・現場はいま…
旧知のシゲちゃんが重機オペレーターとして、うちへの転職を考えているらしい…

この話に息子たちは喜んだ。

彼らはシゲちゃんが取引先にいた頃、一緒に仕事をしたことがある。

その人柄と技術が申し分ないことを知っているし

自分が楽をするための野心なんか、間違っても芽生えないのを確信しているからだ。

分をわきまえて普通に働く…

昔は当たり前だった、そんな人の数を増やしたい思いが息子たちにはあった。


けれども夫は難色を示す。

4年前、紹介した親戚の土建会社を辞めた時と同じように

すぐ逃げ出したら迷惑と言うのだ。

「逃げ癖のある人間は、必ず同じことを繰り返す」

というのが夫の主張。


しかし重機に様々な種類があるように、重機を使う仕事の内容にも様々な種類があり

それぞれに向き不向きが存在する。

オペレーターと作業員のコミュニケーションが大事な土木建築と違って

うちのような積込みの仕事は、重機とダンプがクラクションで会話する。

口で何か言ったって、お互いのエンジンの騒音で聞こえやしないからだ。

「ものを言わなくていいんだから、シゲちゃんにぴったりじゃないか」

息子たちにそう言われ、夫は押し切られる形でシゲちゃんの獲得を了承した。


以後、次男が日数をかけて、シゲちゃんからポツポツと聞いた事情は以下である。

現在の勤務先は市外の工場で、通勤が片道1時間余りかかる。

通勤は苦にならないが、一緒に暮らす高齢の母親が弱ってきたため

できれば家から近い職場がいいのではないかと考えるようになった。

独身の実家暮らしなので、給料に不満は無いものの

繊維系の産業廃棄物を扱っているため空気が悪く

身体を壊すかもしれない不安もあるという。

隣町に住んでいるので、うちなら近いこと…

やっぱり自分は重機の仕事が好きなこと…

夫や息子たちのそばなら安心して働けること…

シゲちゃんは、それらを挙げた。


そういうわけで彼の状況からすれば、うちは格好の転職先といえよう。

しかし、一つだけ問題が…。

給料だ。


スガッちは重機免許を持っていてもオペレーターは未経験のため

雇用条件はパートで給料も安かった。

シゲちゃんはスガッちの給料を本人から聞いていたので

最終決断には二の足を踏んでいる状態。

スガッちがもらっていた給料は、現在シゲちゃんがもらっている給料の半分なので

誰でも躊躇するだろう。


夫はシゲちゃんの事情を把握するうちに、4年前の怒りが薄らいできた模様。

というのも我々のいる建設業界は、粉塵(ふんじん)系や

コンクリート系の産業廃棄物と縁が深く

それらの処理免許を取得しなければ営業ができない。

一方、シゲちゃんが働いているのは、繊維系の産業廃棄物を扱う工場。

繊維系と聞いただけで、夫にはその仕事の過酷さがわかった。

繊維系は、単価が低い分を量でカバーするからだ。

けれどもシゲちゃんは、仕事のきつさにひと言も触れなかった。

夫の心を動かしたのは、そこだったと思う。


やがて正式な面接が行われ、シゲちゃんをパートでなく正社員で迎えることに決定。

社員の規定だと月給は自動的にスガッちの倍、ボーナスもあるので

むしろ彼が今勤めている工場より高くなった。

それを知ったシゲちゃんの喜ぶまいことか。

「専務(彼は夫のことを今だにそう呼ぶ)が、本社に頼んでくれたに違いない!

ありがとう!」

彼はそう言っていたが、夫はそもそも乗り気じゃなかったので

待遇の交渉に熱心ではなかった。

ただ、面接を自分一人でやらずに

例のごとく本社から永井営業部長を呼んだだけ。

こういう尊重めいたことをするとアホは喜び、暇だから飛んでくる。


それから、アレらは上場企業が大好きなので

そのOBだと吹き込んでおけば、スガッちの時と同じく採用は決まったも同然だ。

あとは、即戦力とささやけばいい。

アレらは即戦力も大好きなのだ。

なにしろ即戦力を自称するゴロつきをバンバン正規雇用して

本社グループ全体を人材の墓場にした実績がある。

これから重機を習得すると言って入ったスガッちと違い

シゲちゃんは経験豊富な即戦力なんだから、パートというわけにはいかない。

パートでなければ、正社員しか無いではないか。


こうしてシゲちゃんは、来年の1月から来ることになった。

定着すれば、重機オペレーターの分野では夫の後任を務めることになるだろう。

正社員の後任が来るということは、夫の退職が一段と近づいたことになるが

退職の日はいつか必ず来るので、しょうがない。

藤村によって毒された人事を、機会が訪れるごとに少しずつ入れ替えて

社員が働きやすい会社になればいいと思っている。

その入れ替えたい人材の台頭、約2名のことは次回でお話しさせていただこう。

《続く》
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