殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

悪趣味

2024年02月15日 11時15分07秒 | みりこん流
洋服はほとんど、おしゃれメイト・マミで買う。

同級生のマミちゃんが経営する洋品店だ。

今では全身、おしゃれメイト・マミの商品で生きているような気がする。


それでも、たまには他の店で洋服を見る。

巷で何が流行っているか、どんな素材や組み合わせが今どき風かを

自分の目で確認し、あるやなしやのファッション感覚を養うのは

年寄りにとって大事だ。

未だバブル期のコーディネートをしていたり

娘にそそのかされて似合わぬ若作りをしている同年代を見たら

特にそう思う。


そんな私には、去年から注目しているブランドがあるんじゃ。

シンプルなデザインと比較的手頃な価格により

私が若い頃、つまり昔はけっこう人気だったものだ。


そのブランドが、隣市の大型スーパーにある。

何があったのか、今はスーパーブランドに落ちぶれたため

テナントでなく衣料品売り場の一角に置かれているのだ。

デザインは相変わらずシンプル、しかし堅苦しくなく

どことなく柔らかい雰囲気…

私の好みとするコンセプトは昔と変わらないように思う。

「アルファ・◯◯◯◯◯◯だ!」

見つけた時は、懐かしくて駆け寄ったものである。


その中に、黒のパンツスーツを発見。

このブランドの特徴の一つになるが、上下が別売りになっているので

厳密に言えば薄手のジャケットと、同じ生地のパンツ。

上下を買うと3万5千円ぐらい。


黒のパンツスーツは、近年の私が探しているアイテム。

なぜって、葬式用よ。

マミちゃんの店では買えない。

取り寄せをしても、パンツの丈が短いからだ。

しかし、パンツの喪服は動きやすくて温かいので魅力的。

通夜葬儀には老若を問わず、パンツスーツの喪服が増加の一途。

私も持っているが、ある事情によって着なくなった。

ここはひとつ、その事情を避けられるデザインのを探したいところよ。


その点、この黒のパンツスーツは良さげだ。

薄手の生地で襟が無く、前身頃が打ち合わせになっている女らしいデザイン。

そして細身のパンツは、見たところ足首までしっかり長さがありそう。


試着したかったが、夫と一緒だったので遠慮して売り場を離れた。

夫を待たせるのも気が引けるけど

亭主の目の前で洋服を買うのはもっと気が引けるからだ。

それが昨年春のこと。


そのうち季節は巡り、冬がやって来た。

この日は長男とその彼女マーコと共に、かのスーパーへ赴いた。

例のコーナーへ行ってみると、まだあるではないか…

あの黒いスーツが。

しかも半額になっとる!


長男はどこかへ行ったので、マーコと二人だ。

「試着してみてもいい?」

私はマーコにたずね、マーコは

「もちろんです!着たら見せてくださいね」

と言った。

交際中の彼女というのは、彼氏のママに寛大なものである。


着てみたら狙い通り、ジャケットは優しく身体に添い

パンツの丈もちょうどいい。

試着室から出ると、マーコは驚いたように目をパチクリさせて言った。

「お母さん…すっごく似合ってますっ!」


わかってるよ。

こういうスーツ、わたしゃ似合うんだよ。

だけど似合うって、美しいとか素敵という意味じゃないのも

わかってるんだよ。

板につき過ぎてる…

つまり葬儀場の社員みたいにピッタリってことなんだよ。


黒のパンツスーツで通夜葬儀に参列し

これまで何度、葬儀場の人に間違えられたことか。

「お手洗い、どこですか?」

「献花を申し込みたいんですけど」

「火葬場行きのマイクロバスは…」

「お弁当の数を変更したい」

そう言って呼び止められる確率100%だぞ。

だからパンツの喪服を着なくなった。


間違えられるのは嫌じゃない。

元々世話好きの出しゃばりなんだから

私でわかることなら喜んで対応するし

わからなければ、本物の葬儀場の人に繋いで差し上げる。

しかし、私がただの弔問客と知ったその人たちの

申し訳なさそうな表情といったら。

こっちが申し訳なくなるじゃないか。


人を惑わせるのは良くないと思って、パンツスーツを避けるようになった…

これが、私の言う“事情”。

マーコの反応を見ると、また間違えられそうじゃんか。

よって、この日も買わずに帰った。


さらに季節が巡った、先日の連休。

やはり長男とマーコと一緒に、あのスーパーへ。

衣料品売り場は、春の装いで溢れている。


例のコーナーへ行ってみると、あのスーツがまだあるではないか。

が、値段は半額ではなかった。

値札が付け替えられ、また定価になっとる。

生地が薄いので、再び春物扱いになったらしい。


去年、発見した時も春物扱いで定価。

着る物が厚手になる冬には半額となり

今年の春が近づいたら、また定価に戻っているというわけ。

卒業式や入学式のシーズンなので、まかり間違って買う人がいるかも…

とでも思ったのか。

何だかアパレル業界の闇を見た気分。

じゃあ次の冬が近づくと、また半額になるのだろうか。

ぜひ確認したい。


売れてしまっていたらどうするのかって?

売れるわけないじゃん。

あの上下を着られる女子は、そういないはずだ。

袖丈やパンツ丈が長くてカットしたら台無しになるので

私みたいに長身で手足の長い人間でないと無理。


そんな人間が、そうたくさんいるとは思えない。

さらにその手足の長い人間が、このように特徴的なデザインを選び

しかもスーパーで買い求めるとなると、確率はかなり低くなる。

絶対に売れ残って、次の冬にはまた半額になっているところを

ぜひ見たい。

冬が来るのが、今から楽しみだ。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

開運のコツ…かもよ

2024年01月13日 09時59分23秒 | みりこん流
遅ればせながら、明けましておめでとうございます!

元旦から能登半島で大地震、驚きましたね。

皆様のお住まいの地域は大丈夫でしたでしょうか?

被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。


しばらくお休みさせていただきましたが

何のことはない、年明けから風邪引いてましてん。

わかっとります。

色々疲れたんですわ。


それにしても年寄りっちゅうのはどうして

「迷惑かけたくない」と言いながら

迷惑なことばっかり言うんでっしゃろなあ。

こっちは車でどこかへ連れて行ったり

代わりに何かやったりするのは迷惑と思わんのですわ。

ただ、何をして欲しいという要望に到達するまでの前置きが長い。

迷惑なのは、それを延々と聞いてる時間なんだけど。

年を取るって、要望を簡潔に言えなくなることなのかもね。


とまあ、のっけから辛気臭い話ですまんことです。

もう大丈夫、こんなことで負けてはおられまへん。

今年もぶっ飛ばして行きまっせ!



さて、私は子供の頃から…

正確には11才で母親が他界してから

自分は不幸だと思って生きてきた。

母親の一人や二人亡くしたぐらいで不幸を名乗るとは図々しい…

親と早く別れた経験の無い人はそう思うかもしれないが

子供にとって母親に死なれるのはきつい。


そのダメージが精神的な方面ではなく

肉体に影響するのが、大人と違うところだ。

身体中の関節という関節が全部外れたような感じで

糸の切れた操り人形になったみたいなんじゃ。

首、手足、指…ちゃんと繋がっているはずなのに

何だかブラブラして力が入らない。

初めての感覚に、私は戸惑うばかりだった。


「悲しみに負けず頑張ろう…」

一応は、そう思う。

しかし、この関節問題だけはどうしようもない。

ともすれば脱力してヘナヘナと座り込みそうになるため

両足を踏ん張ってどうにか立ち、平然を装うのがやっと。


とにかく「関節、外れてませ〜ん」を装うのに必死なもんで

子供であることを楽しむ余裕はあんまり無い。

そんな状態で普通の小学生を演じるには

視線をやや下に落とし、歯を食いしばって行動するしかなかった。


その姿はハタから見れば、不機嫌に感じられたと思う。

「みりこんさんは、いつもダラダラしています。

みんなが頑張っている時は、もっとやる気を出して欲しいと思います」

告発の快感を覚え始めた一部の級友は、そんな私を帰りの会で糾弾した。

「うるせぇわ!好きでダラッとしとるんじゃないわい!

首やら手足がブラブラなんじゃ!」

そう言いたいけど言えない、このつらさ(ここ、笑うところよ)。


何か言い返すと、母親のことに触れられるのは決定事項。

「お母さんが亡くなって悲しいのはわかりますが

元気を出さないといけないと思います」

「僕も、私も、そう思います」

上辺の励ましに、まばらな拍手。

おお、嫌だ。

だから何も言わない。


アレらは良いことを言っているつもりだろうが

何もわかっちゃいないし、わかってもらいたいとも思わない。

このような上辺のことを言われると

死んだ母親を悪く言われているようで、子供としては耐え難いのだ。


私は悲しみを引きずっているのではない…

死んだものは仕方がないというのは、あんたらよりもわかっている…

ただ、関節がブラブラなだけなんじゃ…

じきに治ると思うから、そっとしておいてくれ…

心で叫んだものである。

上辺で小美しい口をきく人間を忌み嫌う癖は、この頃からだと思う。


中学でブラスバンドに入ると、関節のブラブラ病?は徐々に回復した。

だってブラスバンドは、音楽が好きで入部した人間ばかりだ。

彼ら彼女らは音楽というアイテムで、自分の機嫌を取るスベを知っている。

だから、家庭で貯めたストレスを外で人にぶつける必要が無いのだ。

もちろん音楽に限らず、スポーツや他の趣味も同じで

一心に取り組む者は他人を気にしない。


安心できる仲間に囲まれ、より美しい演奏を追求する楽しさを知った私は

ブラスバンドだけが生き甲斐になった。

人並みの青春を謳歌できるようになったからか

急激に背が伸びて各関節に成長痛が訪れ

ブラブラどころか痛いので、そっちに神経が行ったからかは不明だが

中2になる頃にはブラブラ病から解放された。


そんなわけで復活した私だが、ブラブラ病に対する恐怖は残った。

あの不可解な症状は消えたものの、得体の知れぬ脱力感は

その後も長く続いたからだ。

新しい人間関係も、新しく始めた何かも

どうせ途中で嫌なことが起きる…

だったらいきなり全力を出さずに、しばらく観察して様子を見よう…

私はいつもどこかでブレーキをかけ、脱力感と共存する道を選んだ。


やがていつしか、あの不快な脱力感は消えたが

ブレーキの方は癖になったまま幾星霜。

しかし50代半ばのある日

ブレーキをかけるのが急にバカバカしくなった。

正確には義父が他界した頃だと思う。

一人片付いて余裕が出たので

このままブレーキをかけ続けるのがもったいない気がしてきたのだ。


そんな私が何をしたかというと、全然たいしたことではない。

ただ、集まりに早く行くようになった…それだけ。

友人や近所の集まり、参加せざるを得ない様々な活動

通夜葬儀にも、とにかく早めに行く。


それまでは時間を逆算して、いつもギリギリに行っていた。

早く行って熱心だの暇だのと思われ、アテにされたら困るからである。

だってアテにされたら、張り切るではないか。

私は自分の性分を知っている。

張り切ったら最後、パワー全開。

火宅の家や選挙で培った強烈なものだから、容赦ない。


それが良い結果を生むこともあるけど

集団の中には、山で言えば六、七合目あたりを頂上と信じ

登頂したと思っている人や

いつまでも裾野を漂っていたい人もいるものだ。

そういった一部の人たちにとって、私は迷惑な存在。

だから首を深く突っ込まないための予防策として

あんまり嬉しげに早く行かない。

私にとっては効果的なブレーキの一環…のつもりだった。


が、変に気を遣うことをやめたのだ。

早く行くと何がいいかって、主催者が安心して喜ぶ。

そして私と同じく早く来た人も、続いて早めに来た人も

誰か居ると安心する。

その安堵が周囲の空気を変えるのか

通夜葬儀は別として、自分もゆったりと楽しめることが判明。


のめり込んだっていい、突っ走ったっていい…

だって老い先短いんだもの…

そう思って解除したブレーキだが

今のところ、のめり込むことも突っ走ることも無い。

燃えるものが無いと言った方がいいかも。

自分が年を取ったら、周りも年寄りばっかりじゃん。

楽しくて無我夢中になってしまう集まりなんて、ほとんど無いのよね。

な〜んだ。


新しい出会いもしかり。

六十何年も生きてきて、今まで知り合わなかった人って

やっぱり縁の無い人なのよ。

な〜んだ。


でも、早めの集合は続けるつもり。

誰かに安心してもらうって、こちらも安心した気持ちになる。

人と良い関係を保ち、穏やかに生活する秘訣かもしれない。


『大晦日に作ったオードブル』


毎年大晦日の夕方、夫の叔母宅に届けるのが恒例。

叔母は義父の妹で、彼ら6人兄妹の中では唯一生存している。


今年は食材がたくさんあったので

もう一軒、知り合いの家にも持って行った。

確か、これを作るまでは元気だったはず。

無理をしてはいけないと、つくづく思った。
コメント (9)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

年を取る幸せ

2023年11月16日 10時15分24秒 | みりこん流
近年、年取ったな〜と感じることが増えた。

肌はもとより、指に潤いが無くなって不便なことといったら。

スーパーのビニール袋が開けにくいのは、もはや当たり前。

財布の小銭を取り出すのにも時間がかかる。


昔は必要にかられたら、脳で「指に汗出ろ」と命令できた。

命令で滲み出た水分を利用して必要な小銭を指に吸着させ

素早く支払いができたのだ。

それが今じゃどうよ。

命令したって何も出んぞ。

若い頃はレジでトロトロする年配者を蔑視していたというのに

自分がそうなっとるじゃないか。

それどころかスマホやカードで

スマートに支払いをする年寄りまで出現している。

負けた。


それから食欲が落ちて、食べる量が減った。

周囲が驚くほどの大飯喰らいだったのが

胃もたれが怖くてセーブするのが当たり前になり

そのうち本当に食べたいのかどうかも怪しくなって

早々にやめてしまう。


バランス感覚もおかしくなって

ちょっとよろけると元の体勢に戻るのに数秒かかる。

よろけるなんて、私の辞書には無かったはず。

筋力が低下して、踏ん張りが効かなくなったと思われる。

これらの現象は、顔に増えてきた小ジワより残念だ。


が、肉体の衰退とは裏腹に心の方は年々軽くなり、幸せを感じる。

私の言動を制限していた人々の多くが、あの世へ行ったからだ。

町内に4人いた義父の兄妹たち、義父母の取り巻き、出入りの商売人…

ひと世代上の人たちって、そりゃうるさかった。

私が外で誰かに話したことや、スーパーで買った品物までが義父母に伝わり

家に帰ると、それをネタに小言を頂戴したものだ。

要するに、どいつもこいつも暇だったらしい。


一人消えるたび、その人物に同調していた人々もおとなしくなり

最後に義父が消えて以降、私はかなりの自由を手にした。

何を言っても何をやっても怒られないって、すごく楽。


完全な自由を手にするには

ラスボスの義母が消える日を待つ必要があるが

私もそこまで欲張りではない。

腹八分目で我慢…これぐらいが自分にふさわしいと思っている。

完璧を望んでそれを手にしたあかつきには

また新たな、どうにもならない厄介が訪れるものだ。

多くを望まないのが、幸せの秘訣かもしれない。


幸せと言えば、もう一つ。

夫の姉カンジワ・ルイーゼの里帰りが減った。

近所の公民館で体操教室が始まり、パーキンソン病の旦那を運動させるため

毎週木曜日には夫婦で通うようになったからだ。

そして金曜日には、義母ヨシコが近所の体操教室へ行く。

こちらへ来ても母親がいないので、金曜日も来なくなった。


さらにルイーゼの初孫、もみじ様の存在も大きい。

広島市内に暮らす2才のもみじ様はカンの強いタチらしく

しょっちゅう熱を出す。

彼女の母親マヤちゃんは去年、産休が明けて仕事を再開したが

熱が出ると保育園で預かってもらえないため

病児の身柄はルイーゼに託されるのだ。

マヤちゃんの実家も広島市内にあるが、そこには預けにくいらしい。

彼女のお母さんは再婚しているので、継父に気兼ねという話だ。


そこでもみじ様の父親であり、ルイーゼの一人息子のおみっちゃんちゃんが

高速を走って連れて来る。

おみっちゃんちゃんはアパレル関係の仕事なので、出勤が遅いのだ。

帰りはマヤちゃんの方が早いので、彼女が迎えに来る。

小さい子供を育てながら働くって、本当に大変ねえ。


そういうわけで、もみじ様はほぼ毎週ルイーゼの家に来る。

よって体操教室のある木曜と金曜、そしてもみじ様が訪れる一日か二日は

ルイーゼがうちに来ない。

つまり週の半分は、ノー・ルイーゼデーになった。

結婚以来43年、元旦を除いて雨の日も風の日も欠かさずの実家詣では

ついに途絶えたのである。


思えば長い年月であった。

小姑が毎日来たって、気にしなきゃいいじゃん…

そんな生やさしい問題ではない。

親は、娘が婚家で苦労していると思いたいものだ。

そして娘は、親が嫁に苦労させられていると思いたいものだ。

この両者が近づくことで思い込みは増幅され

そのまま他人である嫁への憎悪となる。

精神的に幼い親と、よそへ嫁いだ娘の組み合わせは

煮ても焼いても食えない凄まじい集団なのだ。


彼らは意地悪なのではない…多分。

近い血縁が集まると、そうなってしまう…

それが血の結束というやつよ。

結果、こっちは複数の上司から

監視とハラスメントを毎日受ける新入社員状態。


8年前に義父が他界して以降、遺された母と娘はかなり大人しくなり

ずっと頭の上に置かれていた漬物石は軽くなったが、鬱陶しいのは同じだ。

義母は息子夫婦を怒らせたら生活できないのをわかっているし

義姉は母親を押し付けられたら困るので、静かにしているだけである。


この鬱陶しさが週の半分無くなったのは、ひとえにもみじ様のお陰。

先はどうなるかわからないが、彼女に感謝しつつ

この隙に英気を養うとしよう。


幸せなことといえば、もう一つ。

次男の嫁と、長男の彼女の存在。

彼女らは、私を“お母さん”と呼ぶ。

親ではないから、名前を呼ぶように頼むつもりだったが

あの子らは初対面から、ごく自然にお母さん、お母さんと連発。

今さら変えてくれと言いにくくなり、そのままになった。

娘ぐらいの年齢の女の子から「お母さん」と呼ばれるのって嬉しいもんだね。


一緒に出かけて、何かと気遣ってくれるのもありがたい。

長男の彼女がスーパーのフードコートで注文した飲み物を

私の分まで運んでくれた時は、信じられなくて感動した。

長い間、こういうことは私の仕事だったからだ。

セルフサービスの店やファミレスのドリンクバーでは

両親や義姉の分を調達するために、一人で何往復もしたもんよ。


それを人がしてくれる…

手持ち無沙汰で落ち着かなくて、だけどありがたくて泣きそう。

同時に「年寄りって、気を遣ってもらい慣れて

だんだん図々しくなるんだな」

と実感し、この優遇にアグラをかくまいと心に誓った。


自分を『幸薄(さちうす)民族』と自覚して生きてきたけど

幸薄民族にもそれなりの幸せがある。

ハードルが低いもんで、感動する事柄が多いという幸せ。



『レストランでお食事中の猫ちゃん』

海外旅行が復活し、モロッコへ行った友人が現地から送ってくれた。




『サハラ砂漠の夜明け』



元々旅行があんまり好きじゃないので、自分で行く気は全然無いけど

こうして知らない所の風景が見られる時代になったのも

気にかけてくれる友だちがいるのも、幸せの一つ。
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

祖父母と同居する子供について・3

2023年09月16日 10時39分08秒 | みりこん流
ハルさん、ミツさんという“ある意味プロ”の気働きによって

祖父の悪口大会から救済された私。

父にも笑顔が増えたようで、それが一番嬉しかった。

女の力量で、家の中はこうも変わるのだ。

恐るべし、後妻業者。


そのうち、あれほど苦しんだ矛盾の渦はどこかへ消えてしまった。

お祖父ちゃんという名の巨大な存在だと思っていた祖父が

女の手のひらでいとも簡単に転がされるのを見て

彼もただの人間だと認識したことも大きい。

同じ人間なんだから、矛盾が生じるのは仕方がない…

孤独な老人であればなおさらよ…

この結論は私に余裕をもたらした。

祖父と話していて悪口へ移行しそうな時は、別の話を振って気をそらせる技も習得し

うまくやり過ごすようになった。


やがて私は大人になって結婚。

ハルさん、ミツさん直伝の男あしらいで、うまくやっていく自信は持っていた。

が、相手の男にも家族がいるのを忘れていたのは痛恨のミス。

義父は、祖父より何倍も手強かった。

それなのに数年後、同居。

バカじゃ。


彼が私に言う意地悪は、祖父が父に言っていた内容と全く同じだった。

立ち居振る舞い、能力、働きぶり、姿かたちに嫁入り道具…

口をきわめ、顔を歪め、事細かな描写をくどくどと羅列。

なさぬ仲の相手に悪意を持って何か言う時は皆、同じパターンらしい。


とはいえ自分が言われるのは、祖父に父のことを言われるより楽だった。

私は自己犠牲を尊ぶようなタマではないが、舅に当たられることで

何だか父に近づけたような気がしたことは、まんざらでもない。

父は、血の結束の中で他人が何を言っても無駄とわかっていたのだ。

不抵抗、不服従のガンジー方式さながらに、敵の繰り出す身勝手な命令に従わず

ただ黙ってポーカーフェイスを通すことが、矜持を保つ手段だったのだ。


よって私も義父には、ガンジー方式。

暴君にはこれが最善であり、また、この方法しか無いのである。

泣いて謝り、改めると約束しない私に、義父はじれてますますきつい言葉を吐いたが

これも祖父と同じ。

パターンがわかっていれば、恐怖は無い。


祖父に言われっぱなしの父を、子供心に不甲斐なく思ったこともあったが

自分が同じ目に遭って初めて父の気持ちがわかり

何かと縁の薄かった父と人生の一部を共有できた気がした。

同時に、祖父が父について言っていたのと同じ言葉を私自身が受けることで

無実の父に辛く当たった祖父の罪が軽減されたような気もした。

我ながら、おめでたい。



やがて年月が経ち、長寿の祖父が死の床についた。

実質的な看護は、祖父と二人で暮らしていた当時のカノジョが行っていたが

病院への送迎や男手の必要な用事は、父が数年に渡って淡々とこなしていた。

最後には、いじめ抜いた相手の世話になる…

このパターン、どこかで見たような?フフ。


祖父にはたくさんの愛情をもらったが、父の件に関しては迷惑千万だった。

人のせいにはしたくないけど、悪口をたくさん聞くと

私のように自己肯定感が低く

疑り深くてひねくれた子供になってしまうのは確かだ。

こうなると、周りと同調できないことが多くなって

生きるのがしんどくなる。


しかし、何もかも平和で順調な人生なんてありはしない。

お陰で今は、押しも押されもせぬオバちゃんになった。

両親の離婚に怯え、クヨクヨと悩むだけで

何も行動しなかった自分の弱さ、不甲斐なさを戒めとして持ち続けているからだ。


離婚を恐れるも何も、どうせ片方は近いうちに他界する運命だったんだから

私は遅かれ早かれ片親になっていた。

だから、怯えることはなかったのだ。

初孫の言うことなら祖父は聞いてくれたかもしれないし

たとえ返り討ちになったとしても、父の心は癒されたはずだ。

現状にとらわれるばかりで、たった一歩先を見ようとしなかった当時のザンネン…

あれを繰り返したくない思いが、現在の私の行動を決めている。

時々失敗もするが、厚かましいオバちゃんだからすぐ忘れる。



ところで我が家にも、祖父母と生活した男子が二人いる。

炎上家庭で育った、うちの子供たちはどうなのか…

ということになるわけだが、元々塩の効いた子らではなかったからか

いたってのんびりしており、これといった異変は見受けられない。

ハタから見ればそうではないのかもしれないが

私の見る限りでは能天気でだらしなく、たまに優しい…

つまり、どこにでもいるボンクラ息子にとどまっていて

自身のように複雑な歪みは感じてない。


これについては、幸運だった。

というのも義父は浮気とゴルフに忙しく、家に居ることが少なかったので

孫はあんまり眼中に無かった。

母親の悪口をつらつらと吹き込むような暇は、無かったのだ。


そして義父は、祖父に比べると語彙が少なかった。

だから孫に聞かせる内容も、「お前らのオカンはバカ」

あるいはブス、デブ、クソ…これらの短文にとどまる。

小さい男の子はそういう言葉を面白がるので、息子たちはキャッキャと笑っていた。


そのやたらハイテンションな笑いの中には

母親を悪く言われた悲しみが、わずかに含まれているような気もしたが

祖父母と暮らすからには完全無菌状態にするなんて不可能だ。

これくらいのことであれば、多大な情報の中で矛盾の淵に突き落とされ

苦しむ状況までには至らないと思い、そのままにした。

悪口を言う方と言われる方が最後にどうなるかは、彼らが見届ければいいことである。


そしてご存知の通り、家には息子たちの祖父母だけでなく

夫の姉とその子供がほぼ常駐体制。

人数の多さから、例の情報量や矛盾が気になるところだが

これも心配はなかった。

彼女はワンパクでうるさいうちの子を嫌って、あまり近寄らせなかった。

幸運であった。


やがて息子たちが大きくなると、家族は母親について滅多なことを言えなくなる。

機嫌を損ねた場合、身長や力で負けるからだ。

女の子と違う点は、ここかもしれない。


ともあれ昔と違って、今のお祖父ちゃんやお祖母ちゃんは若いので

同居したからといって、私の家のようになる可能性は低いと思われる。

近代の教育を受け、近代の職場で働いてきたので

年長者だから何を言ってもいいというおごりが無いからだ。

そして情報の重要性や危険性をちゃんと知っており

娯楽も豊富で楽しみが多いため、忙しい。

サロンパスの香る座敷へ孫を呼びつけ

嫁や婿の悪口を延々と聞かせるような祖父母は、もはや絶滅危惧種だ。


孫のほうもネットやゲームの情報を浴びるのに忙しく

親の悪口という、いらない情報はシャットアウトする。

だから私のように歪む心配は少ないはずだ。

良かった!日本!



というわけで、さらさんのコメントで思い出した昔話を

長々とお話ししてしまった。

とりあえずは、さらさんや私のように

家族の言動で小さな胸を傷める子供が絶滅することを願う。

《完》
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

祖父母と同居する子供について・2

2023年09月13日 11時20分34秒 | みりこん流
祖父の口撃から父を守る手段を考えあぐねたが見つからず

そのまま祖父の悪口を聞き続けるしかなかった私。

それでも祖父の不満を心ゆくまで口にさせることによって

父への風当たりが弱まるのでは…

そんな微かな希望は持っていた。

当時、ガス抜きという言葉は無かった。


が、この方法は失敗だった。

人の不満はとどまるところを知らない。

小学生の孫に話してもおさまるどころか、ますますひどく

そして長くなっていった。

大人になってからわかったが、誰かが聞いてくれると思ったら

不満って永遠に湧き出てくるのね。


こりゃあ、まずいことになった…

子供だって思いますとも。

私にとって祖父は、欲しい物をジャンジャン買ってくれるパトロンだったが

引き換えにひたすら悪口を聞かされる苦行は辛い。

バカよ、能無しよ、と蔑まれる悪い男の子供…

それがお前だと言われているのと同じなんだから、そりゃ辛い。


中でも子供の私を最も苦しめたのは、数々の矛盾である。

祖父の説明によると、どうやら私は悪人から生まれた子供らしい。

それなのに祖父は、私が可愛いと言う。

矛盾。


礼儀にうるさい祖父だが、彼が我々孫にかまける暇があるのは

現場と事務を取り仕切る父がいるからだ。

父がいなければ会社は回らず、祖父は社長ではいられないはずなのに

その父を悪く言うのは礼儀に反するんじゃないの?

矛盾。


「人様の悪口を言ってはいけない」

祖父は折に触れて言うが、あんたが一番言ってんじゃないの?

矛盾。


「いつも笑顔で愛想よく」

祖父はそうも言うが、あんたはどうなんだ。

鬼のような顔で父をののしり、家族の笑顔を消してるじゃないか。

矛盾。


それらの矛盾は、子供の心を痛めつけた。

孫として、この上なく愛されているのはよくわかる。

しかしそれだけに、なぜ子供が悲しむことをするのか…

喜んで聞いていると思っているのか…

疑問は膨らむ一方だ。


子供だって苦しいので、疑問を払拭し、矛盾を解消しようと懸命に考える。

が、子供の頭脳と浅い経験で解決できるわけもなく、行き着いたのがこれ。

「人間には醜い裏がある」

当時の私は、矛盾という言葉を知らなかった。



やがて1年ほど経過した頃、意外な出来事によって

突然この苦行から解放された。

母の胃癌である。

可愛い一人娘が不治の病に罹り…そうよ、当時、癌は不治の病だった…

父の悪口を言う余裕が無くなったのだ。


その2年ほど前から、母は胃の不調を訴えるようになっていた。

私は子供心に、優しかった母が怒りっぽくなって

だんだん人が変わっていく様子を感じていたが

それは父との不仲が原因だと思っていた。


後から思えば、全ては母の病気が元だったような気がする。

しんどいから周囲に当たるようになり、やがてその矛先は父に向けられた。

気ままな一人娘の母は、父に期待する事柄が多過ぎたと思う。

仕事をするのは当たり前、うるさい舅を賢くかわし

妻に優しい言葉をかけて明るい家庭作りに努めて欲しい…。


職業柄、定休日の無い会社を切り盛りしながら

無口な父にスーパーマンのような夫像を望むのは酷というものだが

このように無茶な要望を父に言い、達成されなければ母はシクシクと泣いた。

それを見た祖父は、最愛の一人娘を悲しませる父を叱咤。

ののしるだけではおさまらず、孫に延々と悪口を聞かせる。

子供には、何とも暮らしにくい家であった。


この繰り返しに疲弊していた私は、母の病気を知っても冷静だった。

むしろ、これで何かが変わるかもしれないと期待すらした。

それよりも、我が家の窮状を聞いて大阪から駆けつけてくれた祖父の元カノ…

50代のハルさんが、しばらくうちで暮らすと聞いて嬉しかった。

それまでの家政婦さんが辞めたばかりの時に、母の病気が発覚したので

我が家は人手不足だったのだ。


ハルさんの明るく温かい雰囲気は、我々子供を癒した。

彼女は父と相性が良かったらしく、30代後半の父を弟のように可愛がり

父もまた、ハルさんを信頼していた。

祖父が父の悪口を言うとハルさんがたしなめるので、祖父は何も言えなくなり

我々姉妹は人並みの子供として、安心の日々を送るようになった。


母が市外の大きな病院へ入院する前日

祖父は紙に一筆書いて居間の壁に貼り、我々姉妹に声を出して読むよう言った。

『みんな頑張る、一致協力』


それを見た私はどう思ったか。

「あんただけ、頑張れば」

9才の子供は、ここまで歪んでいた。

言行不一致の矛盾を子供に与え続けると、ひねくれるんじゃよ。

一旦ひねくれたものは、元には戻らんのじゃよ。



母の手術は手遅れで、開腹してすぐに閉じられた。

誰かに教えられたわけではない。

事前に聞いていたのより短か過ぎた手術の時間で、察しがついた。

矛盾の渦で洗濯物のように回されて来た子供は、勘が鋭いものなのだ。


それからさらに1年が経って、ハルさんは家族の待つ大阪へ帰り

交代で祖父の今カノ、ミツさんがうちへ入った。

やはり50代の明るい人で、この人も父と相性が良かった。

祖父が父の悪口を言うのを嫌ったため、我々子供の精神生活は守られた。


さらに1年後、母がいよいよ死の床についた。

近所の病院での終末期、床ずれに苦しんでいた母のために

父は山間部にある実家の協力を得て、ワラ布団を作ってもらった。

現代は床ずれに良い塗り薬があるが

昔は床ずれができたら亡くなるサインとされ

ワラを入れたクッション状の布団を使うと楽になると言われていたからである。


父が持って来たワラ布団を見て、母はつぶやいたという。

「もう、遅いよ…」

元気なうちに、優しくして欲しかったということだろう。

その数日後、母は他界した。

最後まで、わかり合えない夫婦だった。


母が亡くなると、父に対する祖父の憎しみは再開した。

一人娘を悲しませたまま逝かせた…それが祖父には許し難かったようで

実際に祖父本人から、それを聞いた。

ミツさんとの暮らしは継続していたので、以前ほどではなかったが

その頃には私も11才になり、少しは成長していた。

年齢的なものというより、ハルさんとミツさんから学んだと言えよう。

それは、男のあしらい方。


「あら、お帰りなさい、ご苦労様」

「今日の夕飯は◯◯をこしらえてみましたのよ、お好きでしょ?」

彼女らはいつもニコニコして、男がホッとする言葉を口にした。

母や、6才の時に亡くなった祖母からは一度も聞いたことのないセリフだ。


そりゃあね、年取っても人のカノジョをやるぐらいだから

男あしらいはプロだわさ。

それでも家庭の太陽として、一家を回していく女には

この気働きが必要なのだと思った。

《続く》
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

祖父母と同居する子供について

2023年09月11日 14時33分27秒 | みりこん流
前回の記事『あの世の扉』のコメント欄で

さらさんから興味深いコメントをいただいた

彼女も子供の頃、父方の祖父母と完全同居だったそうで

お母様のご苦労をしのばれている。


「父方の親戚達 おじやおばが

とにかく祖母と一緒に母の悪口ばかり言っていたので

子供である私は本当にそれが嫌で悲しく

人間の裏の部分を幼い時から見せつけてられて

人を心から信用できない捻くれた人間になってしまいました笑

子供も傷つくんです。

自分の大好きな母が、有る事無い事、同居もしてない外野から言われて。

同居って子供にも、何かしら影響があると思うのは我が家だけでしょうか?笑

だから私はあまり老人が好きではありません」

という内容。


親との同居に関しては経験上、一家言あるつもりだったが

子供の心理に関しては盲点だった。

特に、“人間の裏の部分を幼い時から見せつけてられて

人を心から信用できない捻くれた人間になってしまいました”の部分。

さらさんだけでなく、そのまんま私のことじゃないか。


老人を語らせたら長いと定評?のある私。

老人と暮らす悲喜こもごもに興味の無い人には苦痛でしかなかろうが

祖父母と同居する子供の心理についてお話しさせていただきたいと思う。

そしてついでに申し上げれば、この手の話題に興味の無い方々は

ご自身の幸運に気づいていただけるとありがたい。



さて祖父母と同居する子供って、今どきは滅多にいない。

我々、そして我々の子世代あたりが最後ではないかと思う。

代わりに親世代の敷地に子世代家族が家を建てるという

敷地の広い田舎ならではのケースは現在も見受けられる。


いずれにしろ私の世代までは、以下のようなことが

まことしやかに言われていた。

「祖父母と同居する子供は、優しい子に育つ」


どこがじゃ!

祖父母と同居して育った私はどうだ。

優しくないことにかけては自信がある。

そのような家庭環境の子供が皆、優しくなるわけではないぞ。


ともあれ祖父母と同居して育った子供と、核家族の子供…

この二者の違いは、ひとえに情報量だと思う。

家族の人数が多い分、情報量も多いということだ。

家族の人数が多ければ、各自の親戚や友人知人の出入りも多くなり

家庭内を飛び交う情報量は

核家族の何倍、何十倍になるというわけである。


しかし、もたらされる情報は玉石混淆。

躾けや礼儀作法から愚痴や悪口まで、さまざまだ。

子供は望むと望まないに関わらず、それらの情報をキャッチする。

そしてキャッチした情報について、色々なことを考える。

祖父母と同居する子供は考える機会が豊富な分だけ

核家族の子供より大人びているかもしれない。


これら豊富な情報が良い結果を生むケースはもちろんあって

私の周辺にも実例は存在する。

美容師を何人も抱える美容院を経営していたお母さんに代わり

母方のお祖母ちゃんの細やかな薫陶を受けて育った同級生のみーちゃんは

その成功例の際たるものだ。

美しいのは心だけでなく、子供の時分から礼儀、所作、話し方も美しく

成績まで良かった。

女の子ならこうありたいという見本のような人物だ。


しかし、ここでも話したが数年前、59才の時に病気で亡くなってしまった。

あんまり完璧だと早く召されるのかも…

私はそう思い、自分の性悪に安堵したのはさておき

他にも祖父母、あるいはどちらか一方と同居していた友だちはたくさんいる。

5人会の仲間で旅館の娘モンちゃん、肉屋の涼子ちゃん

両親が共働きで歌の上手いサヨちゃんなどなど…

我々が子供の頃は、そういう家が多かったのだ。

そして素直で優しい、安心感の持てる子が多かった。


が、私はそうはならなかった。

持って生まれた資質かもしれない。

しかし、それに加えてさらさんがおっしゃるように

人間の裏の部分を幼い時から見せつけてられて

人を心から信用できない捻くれた人間になってしまったのだ。


その裏の部分とは、祖父の壮絶な婿いびりである。

婿養子だった父に対する祖父の態度は最悪。

物心がついて以降、祖父から父の悪口を聞かされるのが私と妹の日課で

その内容は仕事の仕方や言動だけでなく、顔立ちや婿入り道具にまで及んだ。


大好きなお祖父ちゃんから

もっと大好きなお父ちゃんの悪口を延々と聞かされる日常は

私の心を二つに分割した。

黙って祖父の話を聞き続ける自分と

「もうやめてくれ!」と叫んで暴れたい自分だ。


やめてくれ!と言いたかったよ、そりゃあ。

が、誰よりも大好きな母は、祖父の一人娘。

母と祖父は仲の良い父娘ではなかったが、父に関しては同じ意見だった。

それは両親の夫婦仲が冷え切っていたからだ。

早い話が、離婚寸前よ。

もちろんその原因は性格の不一致もあるが

父に対する祖父の態度も大きかったと確信している。

父にすれば、自分を目の敵にしていじめる男の娘を誰が愛せるというのだ。


両親が表立って喧嘩をすることはなかった。

生真面目な母が不満を訴え、父が取り合わないという形の冷戦だ。

それが目立つようになったのは、私が小2の頃からである。

祖父が父の実家から長兄夫婦を呼び

本格的な話し合いが行われたことも複数回あった。

父の長兄は座持ちの良い人で、祖父をうまく取りなしてくれたが

大好きな父と離れ離れになるのではないか…

そう思うと8才の私の心は震えた。


そのような関係性の中で、私が父の味方をすれば

祖父と母は嘆き、父はますます辛い目に遭うのではないか。

私の抗議行動が、父と母を完全に決別させてしまうのではないか。

幼い私はそう思い、身を切られるような思いで祖父の話に耐え続けた。


私が小3になると、祖父と母VS父の関係はさらにヒートアップした。

一方的な母の訴えを聞いた祖父が、声を荒げて父を叱ることが日常。

しかし父は、やはり取り合わない。

祖父と母は反省どころか無反応を貫く父にいきり立ち

悪口に拍車がかかる一方だった。


父の何がいけないのやら、私には皆目わからなかった。

いつも一生懸命、働いている父

出張に行けば素敵なお土産を買って来てくれる父

目が合うとニッコリ笑ってくれる父

抱き上げて「高い高い」をしてくれる父

背が高くてカッコいい父

町の人たちに好かれている父

やっぱり大好きだ。


「それなのに、お祖父ちゃんとお母ちゃんはどうして?」

私の軽い頭の中は、ずっとその疑問でいっぱいだった。

この状況を何とかしたかったが、考えたって名案が浮かぶわけもなく

結局は現状維持。

これまで通り、祖父の聞き苦しい悪口に耐えるのさ。

今で言う、ガス抜きの役割をしようと考えたのである。

《続く》
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

あの世の扉

2023年08月31日 09時12分17秒 | みりこん流
高齢化社会と言われる昨今、周りの老人たちを眺めていて

つくづく思うことがある。

語弊満載を承知で言うなら

彼ら彼女らは、ただの長生きではないのではないか…と。

長生きには二通りあって、まだこの世に必要な人と

あの世の扉が開かない人に分かれるのではないか…と。


“まだこの世に必要な人”という意味は、誰でもわかると思う。

人格卑しからず、誰かの精神的あるいは経済的な支えになっていたり

各分野で活躍していて、当面、いなくなったら困る人のことだ。

そして“あの世の扉が開かない人”の方は

「こんなのに来られたら困るから、そっちでもうちょっと修行せぇ」

ということで、あの世へ行く時期を先延ばしにされている人のことだ。


あの世で「いらん」と言われる人が、この世でいるわけないじゃんか。

どっちの世界にも歓迎されぬまま、不平不満を口にしながら生きながらえるのが

“あの世の扉が開かない人”である。

「ああ、あの世の扉を開いてもらえないのよね。

扉が開くまで、この世でのたうち回るしかないのよね」

周囲の年寄りに翻弄されっぱなしの私は、そう思うことにしているのさ。

そうでもしなきゃ、やっとられんのさ。


なんてひどいことを…明日は我が身じゃないか…

私の本心を知った人々は言うだろう。

しかしそれは、親と暮らしてないから言えるのだ。

いっぱしのことが言いたかったら、イメージではなく

まず老親と同居するという人生を棒に振る大チャレンジを

やらかしてからにしてもらおうではないか。


長生きをするとは、愛する家族や気の置けない友を

一人、また一人と見送る悲しみを重ねることだ。

それでなくても年を取ると孤独感が増し、大勢の中にいても寂しくなって

自分だけが取り残されているような気持ちになる。

自動的にそうなるらしいのは、自分の祖父で知っているつもりだ。

饒舌な彼から、そういう気持ちを日々延々と聞かされて成長した。


それでも健気に自身を鼓舞し、明るく楽しく生きたいと願うのが人間というもの。

しかし、周りがそうはさせてくれない。

「ささ、おじいちゃんは、おばあちゃんは、あっち」

「その話はもういいから、ね?」

愛想笑いの向こうに透けて見える、「邪魔なんだよ」。

年寄りの勘は、若い者の何倍も鋭いのでわかるのだ。


経験を重ねて勘が磨かれた人もいるだろうけど

あの世が近づく年齢になると、勘は自然に鋭くなっていくもの。

あの世は感覚の世界だからだ。


そのための準備として、勘を含む感覚が徐々に敏感になっていく。

道路標識や道しるべなんか無いのに

方向音痴でも漏れなくあの世に到達できるところをみると

そうとしか思えない。

昔、記事にしたことがあるが、40年以上前

家庭内のアクシデントによって

図らずもそういうことになった私はそう思っている。


今はナビがあるかもしれない。

携帯電話だって普及しているかもしれないので

現在地と目的地を調べることができるかもしれない。

その分、研ぎ澄まされるべき感覚は偏り

勘も敏感も必要な箇所には働かず、不要な箇所にはやたらと働いたりする。


特に自分が中心でない時、その感覚は過敏に働く。

そりゃ情けない。

腹が立つ。

我慢ならない。

文句を言いたくなる。

周囲の我慢によって細々と保たれていた上辺の平和は

一瞬で崩壊。

冷たい空気と置かれた距離に、寂しさはますますつのり

その気も無いのに「早く◯にたい」とまで口にする。


言い方を変えれば、自分がいつまでも中心でいたい人に

このような誤作動が起こるのではなかろうか。

あの世の扉が開かない人は、自分がいつまでも主役でいたい人ではないのか。

年を取っても脇役に回りたくない老女優…

周りを見回すと、そのような人ばかりである。

その根性は見上げたものだ。

長生きがしたければ、そうなればいい。

皆に愛され、尊重され、健康で、そこそこ幸せで…

そんな長寿はまず無いと思うことだ。


どうしてそんなことになるかというと

アレらの日常は「気が済まない」を軸に回っている。

行かなければ気が済まない、やらなければ気が済まない

言わなければ気が済まない…。


気が済まないという感情は、気持ちの中で最も強い。

強気はけっこうなことなのだが、問題はこの“気が済まない”が

周囲にとって不都合な場面で発動することだ。


家事をしなければ気が済まない、お小遣いを上げなければ気が済まないなど

良いところで発動するのであれば周囲は喜ぶ。

しかし、それは起きない。

“気が済まない”の発動は、必ず誰かの協力や忍耐を必要とする事柄に限定。

しかも急で頻繁。

そして言い出したらきかない。

これが老化というものなのである。


車でどこそこへ連れて行ってもらわなければ気が済まない。

気になった片付けや作業を人にやってもらわなければ気が済まない。

つまらぬことや言ってはいけないことを口に出さなければ気が済まない。

言うなれば我々子世代の生活は、老人の“気が済まない”に支配されているのだ。


そしてアレら自身もまた、この世の残留期間が長引くにつれて

“気が済まない”に支配される割合が増えていく。

肝心なところで発動せず、見当違いの場面で急に気が済まなくなるのだから

関わったらロクなことは無いということで、周囲から敬遠される。

それでも“気が済まない”の気持ちはおさまらない。

願いが叶って気が済む状況を身悶えしながら欲する。

その気持ちは辛くて苦しいと思う。

しかしこれが老化なので、どうしようもないのである。


その痛みを知りつつも、こっちは支配なんてされたくない。

せっかく生まれてきたんだもの、私も自分の人生を生きたいよ。

年取ったらなおさらだよ。

だけどその生は、そもそもアレらに授けられたもの。

諦めて支配される身の上に甘んじ、何とか折り合いをつけて

アレらにあの世の扉が開かれ、静かになるまでと歯を食いしばりながら

どうにか息をしているというのが、紛うことなき現実である。


これほど頑張ったんだから

扉のオープン後はさぞや幸せな晩年が待っているだろう…

なんて思ってない。

「親を大切にしてると、いいことあるよ」

そう言ってくれる人もいるけど、無責任なこと言うな…と思ってしまう。

いいことなんか、あるもんか。

長い長い同居や介護生活の果てに、待ち構えているのは自身か伴侶の病気だ。

同じ境遇の人々を観察してきたが、おしなべてそういうことになっている。


ここでもお馴染み、一回り年上の友人ヤエさんも半世紀以上に渡り

大舅、大姑、舅、姑を看取るという大仕事をやってのけたが

全てが終わるとすぐに精神を病んだ。

心だけでなく、身体の方もボロボロだ。

もう会っても私がわからない。


だからそうならないように、一生懸命をやめた。

真面目に取り組まない。

観察から、「我慢したら後でいいことがある」という考えこそ

自分の心身を追い詰めるとわかったので、絶対思わない。

アレらがキレて、「もう◯にたい」なんて口走ったら

「どの方法がお好み?」

「失敗したらどうするん?自◯は健康保険証きかんよ」

と言う。


そんな一生懸命を辞めた私と義母ヨシコが今、ハマってるのはミョウガの収穫。

庭の片隅に自生してるんよ。

長いこと気がつかなかったんだけど、今年、ひっそりと成っているのを発見。

二人で見つけるの、楽しい。



もう終わりで、花が咲き始めてる。

ミョウガは私の大好物、そしてヨシコの大嫌いな食品。

自分は嫌いなのに、私が喜ぶから探す…

その姿を見て、ありがたいと思う…

私に許されているのは、そんな小さな幸せ。

それでいいと思っている。

私には、小さな幸せがお似合いだ。


ミョウガの親というか葉っぱはこれ。

コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

耳を疑え

2023年07月14日 10時48分44秒 | みりこん流
前回の記事、「お勝手相談室・他人の就職」で

しおやさんから身につまされるコメントをいただいた。

彼女も私と同じく、ご主人に先立たれたお姑さんと実家のお母さんがいて

その対応に追われているそうだ。


『怒りと諦めフォルダ』

『理解不能。20代女子か?フォルダ』

『おんどれら批評するだけで動かんでよくてええのう!フォルダ』

『「80代にならないとあんたもわからないんよっ!」

ハア?60代でもそう言っとったじゃんかフォルダ』

これら、老人を相手に四苦八苦する我々次世代のフォルダは

増えることはあっても減ることはなく、これから続くのが怖い…

もちろん良いことフォルダもあるが

今までとこれからの労力&気苦労で残念ながら相殺されてしまう…

そんな内容。

私と全く同じ心境である。


うちの場合は義父が他界して8年

介護が無くなって一息つけるかと思いきや

残った方がモンスター化するとは考えてもみなかった。

義父がいなくなることで

確かに意地悪や罵倒は無くなり静かになったが

伴侶という歯止めを失った女が、ここまで厄介な生き物に変貌するとは

想像だにしていなかったのだ。


が、私もこの8年、色々と考えた。

身内はもとより、周辺の他人も見回した。

明日は我が身、自分も夫を見送ったら

ああなるかもしれないのだから、その視線は真剣だ。


で、観察と研究の成果、いたって平凡な結論に到達。

「程度に個人差はあるものの、ほぼみんな、ああなる」。


人間は加齢と共に理性が薄れ、本来の人格が露呈していく。

それを「子供に帰る」と美しく表現する人もいるが

見た目が子供とは違うので、可愛いとは思えない。

加齢によって背中が曲がると、自動的にアゴを前に突き出すようになり

そうなると目線が下がるので

やはり自動的に上目使いで睨むような目つきになる。

するとバランスの問題で、口の方もやはり自動的にへの字になり

その口から延々と出るのは命令、不満、自慢。

可愛いわけがなかろう。

自分もああなるのだ。

こわっ!


じゃあ、少しでもマシな年寄りになるにはどうしたらいいのか…

私のテーマはこれに絞られ、あの人たちを反面教師に

外見や心がけを磨こうと考えもした。

まあ、横着な私のことだから、80才ぐらいになったら

そうしようと思う程度。


それにしても現実問題として困るのは

あの人らと接触するにつけ痛感する、とある症状だ。

その症状とは、こちらの生気を吸い取られるような疲労感。


残り少ない若さや水分をモンスターたちに吸い取られ

カラカラになって◯ぬしか無いのか…そんな絶望感が頭をよぎる。

私のような、VS老女生活を送る者にとって

これはゆゆしき問題であるから、早急な解決が望ましい。

何しろ「いつまで」という期限が未定なのだ。

カラカラになるのをまんじりともせずに待つわけにはいかない。


そこで、この疲労感の原因を考えるようになったが

ひとまずの答えが出るまでに、さほどの時間はかからなかった。

その答えとは、これだ。

「もしかして、耳が聞こえてないんじゃないのか」


結論が早かった理由には、同級生の友人けいちゃんの存在がある。

彼女も50代の前半あたりから、耳が遠くなりつつあるのだ。


彼女の場合、病院や老人ホームで調理の仕事に携わった年月が長いため

換気扇で耳をやられている。

家庭や飲食店と違って病院や老人ホームなど大型の施設は、設備の規定が厳しい。

調理場の規模に見合った大型の換気扇を取り付けるため

「ゴ〜」という換気扇の爆音を一日中、聞かなければならない。

大丈夫な人もいるが、中には聴力にダメージを受ける人が出てくるのである。


そのけいちゃんと会うと、彼女はしゃべり通しにしゃべる。

同級生5人で結成する5人会の女子会は

彼女のおしゃべりで始まり、そして終わったものである。


けいちゃんの声は、年々大きくなっていった。

万象繰り合わせて集まる楽しいはずの女子会は

黙ってお話しを聞く傾聴会と化す。

私はノンストップの大音響とうなづき過ぎで

女子会がお開きになる頃には頭が痛くなり

疲れが数日後まで残るようになった。

さりとて、それを指摘することはできない。

間違いなく傷つけてしまうからだ。


そのうちけいちゃんは東京、それから横浜へと転居。

会えなくなった寂しさを感じながら、ホッとしたのも事実である。


余談になるが、先月の彼女の帰省では

おしゃべりにとことん付き合う覚悟をして臨んだ我々。

彼女の高くて大きい声が周囲の迷惑にならないよう

食事の店は、さりげなく個室を選んで対応。

もっとも彼女は現役で働いているし、住まいも遠い横浜となれば話のネタは豊富だ。

こちらもそのうち会えなくなる期限付きとあって、楽しく過ごすことができた。



ともあれ老女と接触した時と、けいちゃんがいた頃の女子会…

この二つに共通点を発見した私だった。

身体にまとわりつくような疲れが、同じ種類なのだ。

彼女らが自分勝手なのではなく

聴力という物理的問題と考えるようになったきっかけである。


老女も機関銃のようにしゃべりまくる。

壊れたレコードのごとく、同じ内容の話を延々と聞いて

相づちを打つのは疲れるものだ。

が、聴力の衰えと仮定すると、気持ちはわかる。

人の話が聞こえないのは、つらい。

彼女らが最も恐れる孤立や疎外感に繋がるからだ。


これを回避するには、自分がしゃべる側になるしか無い。

自分がしゃべってさえいれば、人の話を聞かずに済む。

だから息継ぎもそこそこに、しゃべりまくるのではないのか。


さらに彼女らは、たまにこちらが話すと

「え?」、「はあ?」、「何?」…何度も聞き返す。

そのため、こちらは何度も同じ言葉を言い直す。

一回で終わることは滅多に無いので

聞き返される度に声のボリュームを上げる羽目に陥る。


そうしてやっと伝わったかと思えば、すでに向こうは無関心。

「フ〜ン…それでね、私はね」

こっちはハ〜ハ〜言ってるのに、早くも次の話題に移っとるし。

長いおしゃべりの傾聴と言い直しの繰り返し…

これで体力を消耗し、ヘトヘトになっているのかも。


しかも大きな声で何度も言い直すと、彼女らは機嫌が悪くなる。

こちらは親切のつもりでも、プライドが傷つくらしいのだ。

うちの義母ヨシコなんて、バカにしていると言い出し

キレて暴言を吐く。


かと思えば、私の話は聞こえなくて何度も聞き返すのに

医者の話すことは聞き返しもせず、ハイ、ハイと素直に聞いている。

もしかして、嫌いな人間の声は聞こえにくくて

好きな人の声だけ聞こえるのか。

何という勝手な耳じゃ!

どおりで聴力検査に引っかからんはずじゃ!


…と思っていたが、聴力の衰えという観点で見ると

男性の声の方が聞き取りやすいのかもしれない。

女性の声はキーが高くて早口だが、男性…特に医者は

適度な低音でゆっくり話す人が多い。

彼女らの耳には、その方がよく聞こえるのかも。


で、以後は低めでゆっくり話すことを心がけるようになった。

「え?」、「はあ?」、「何?」は相変わらずだが

言い直す回数は減ったように思う。

しかし今度は「機嫌が悪いのではないか」という疑惑を持たれ

「同居は苦労」などとこぼす。

やっとられん!


とまあ、何かと難しいのがVS老女生活。

彼女らの扱いにくさが、本人の性格や生き方に由来していると思えば

解決法が見当たらないので情けないが

聴力という物理的な問題だと考えたら、少しは気が楽になったように思う。

私は彼女らの魔力ではなく、聴力に疲れているのであった。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

春爛漫・7

2023年04月12日 10時39分56秒 | みりこん流
会社は日々、生きて動いている…

愛人の一人や二人、入れたからといってキーキー言ってる場合じゃない…

前回の記事では、そう結んだ。


「それで虚しくないのか…」

人はそう思うだろう。

慣れというのは恐ろしいもので、虚しいと思わない。

それ以上に、会社が面白いというのもある。


利益の問題ではない。

夫は月給制なので、利益の増減が収入に影響することは無いのだ。

面白いのは、こちらの気分がどうであろうと

会社が人間と全く違う意志を持って自転していることである。

もちろん良いことばっかりじゃないし、面倒なことや嫌なこともたくさんある。

それを含めて、私には面白い。

毎日が塞翁が馬なんだから、どうせ別れる男と女に構っちゃおられん。


その面白さは、夫と結婚しなければ入手できなかった。

これには心から感謝している。

夫が色々やらかしてくれるからではなく、彼の業種という物理的なことだ。


製造業や小売業であれば、私は安く使える猫の手の一本として

労働に駆り出されているだろうから、また違った人生を歩んでいたことだろう。

しかし夫の家は、輸送業を兼ねた建設系の卸業。

輸送(広い意味で実家と同じ)、建設(高単価かつ男社会)、卸(利幅が大きい)…

これは私が好みとする業種だ。


得意分野だからこそ、義父は私を警戒して寄せ付けなかった。

未来を託すのは血を分けた娘と息子だけ…

他人の私に触らせるものかという気迫すら感じていた。

夫が駆け落ちしていなくなった時、短期間ながら関わったことはある。

やはり自分に向いていると思ったものだ。


それから約20年後、義父の会社を閉じて本社と合併した以降は

これまた私の得意分野、継子や嫁の身の処し方や

本社側の心理の読み取りが生命線となる。

これがわかる者は滅多といないので、発言権は増した。

好きな仕事に関わることができ、好きなことが言える…この喜びは大きい。

その幸運を手にしながら、夫の行動に目くじらを立てるのは傲慢というものよ。

人は全てに満足することはできない。

皆、「これさえ無ければ」という苦しみや悲しみを抱えて生きているものだ。


ちなみに私の「これさえ無ければ」は、夫の浮気に義姉の里帰りに嫁舅だった。

これらが三つ巴となって、私を苛んだものだ。

けれども40数年の結婚生活を経た今、はっきりとわかったことがある。

三つ巴の三重苦なんかじゃない。

全ては義姉の里帰りが根源。

それを許す甘い親、弟から会社を奪いたい姉、姉の罠に泣く弟、小姑を嫌う嫁…

これで家庭がうまく行くはずが無いのはともかく

私が本当に嫌だったのは彼女の日参だと気づいた。

浮気より、よっぽど嫌だで。


あ、介護と姑仕えも浮気よりきついで。

義父が他界して、一人減ったどころじゃねえぞ。

伴侶というブレーキを失った年寄りは、かなり手強い。


とは言いながら、その代替えなのか、私は健康に恵まれてきた。

明日はどうなるかわからないが、一番大切な健康に恵まれ

好きなことができるのはありがたい。


さらに二人の息子という子宝まである。

この子たちも明日はわからないが、今のところ健康で仕事ができているのだ。

この上、妻として愛されたいだのと、寝言を言ってはいられない。

亭主のオンリーワンになったからといって、それが何になるのだ。

死ぬ時はどうせ一人じゃないか。


オンリーワンが一番大切だと思う人は

それを目指して愛し愛される人生を送ったらいい。

私には必要無い。

要は個人それぞれの優先順位なのである。


この私とて、愛し愛され信頼し合う夫婦に憧れはあった。

しかしこの結婚生活で入手できないことは、わかっていた。

自営業は時間が自由になる。

8時から5時まで拘束されて働き続けることが無いので、疲れない。

つまり夫には暇があり、体力が余っている。

人間、暇があると良からぬことを考えるものだし

体力が余っていれば女でも追いかけようかという気にもなる。


この傾向は夫だけでなく、義父もそうだったし

周囲の自営業者やその二代目たちにも多く見られた。

婚外子を作った知人も、一人や二人ではない。

田舎の自営業者って、浮気するかしないかの二種類しかいないと思う。


そして13年ほど前、義父の会社が危なくなった。

社長が遊んでいるとこうなる例には、すでに事欠かない。

高度成長期とバブル、人生で二つの恩恵を受けて

すっかり傲慢になった町の社長たちは、次々に倒産や廃業へと追い込まれていた。

とうとう、うちの番が来たと思っただけ。


そんな薄氷を渡るがごとくのある日、次男はダンプの給油を突然、止められた。

仕事終わりにガソリンスタンドへ行ったら

「現金でしか給油できない」と言われて、帰るしかなかったのだ。


契約しているガソリンスタンドには、約束手形で支払いをしていた。

ダンプは乗用車と違って、一度に数百リッターの軽油が必要になる。

料金の方も1回の給油が1台につき数万円になるため、それが複数台となると

支払いは1ヶ月で数百万円にのぼる。

それを現金払いでしか受け付けてもらえなくなったということは

会社の信用が地に落ちたことを意味していた。


輸送系の危ない会社を察知し、真っ先に取引を停止するのは

銀行でも車両のディーラーでもなく、いつもガソリンスタンド。

大手のガソリンスタンドは帝◯データバンクなどの情報会社と契約していて

危ない取引先を随時、知らせてもらうシステムが取られている。


危ない取引先とは、一回目の不渡りを出した会社や支払いが遅れている会社のことだ。

その情報を知ることで、ガソリンスタンドは取引停止を決める目安にし

不払いで損益を被らないよう自衛するのである。

私はガソリンスタンドではなく食品会社で事務をしていたが

その時も危ない取引先の情報が、毎日のようにFAXで送信されてきたものである。


ともあれダンプ屋にとって燃料が注げないということは

明日から仕事ができないということだ。

燃料の補給ができなければ、カラで帰るしかない。

ただでさえ経営が厳しいのに、仕事ができなくなったら

「潰れろ」と言われたも同じである。


「現金でしか給油できない」の口上は、取引停止、ひいては出入り禁止を告げる

円滑な言い回しに他ならなかった。

次男がどんな気持ちで帰って来たか。

本人は言わないが、涙が出るほど恥ずかしくて辛かったと思う。


その少し前には、資金繰りのために突然、長男のダンプを売却した。

私はまだ義父の会社がそこまで大変になっているとは知らず

長男が出勤しなかったことで事情をはっきりと把握したのだが

この時も長男の気持ちを思うと、親としてかなり情けなかった。


プータローになった長男は数日後、別のガソリンスタンドでアルバイトを始めていた。

止められたダンプの給油は、そこの社長が「うちで注げ」と言ってくれたので

からくも命拾いをした。

しかしグズグズしていたら、ここにも遅かれ早かれ迷惑をかけることになる。

それを避けたいのに加え、二度と我が子に同じ思いをさせたくないと思った。

この一件が、今の本社との合併を決める決定打となった次第である。


当時の苦労話を聞いてもらいたいわけではない。

性懲りも無く浮気を繰り返す義父と、それを我慢できなくて女に電話をかけたり

薬を飲んで自◯の真似事を繰り返す義母…

夫婦の怒号が響くマイホームがどうなったかを言いたい。

見よ!

彼らが本能のおもむくままにやって来たことが、どんな結果を招いたというのだ。

大切なはずの会社を消滅させて全てを失い、子孫を泣かせただけじゃないか。


彼らの真似はしない…

その決意の前には、たかが浮気、たかが愛人よ。

女の幸せ?妻のプライド?

いらんわ、そんなモン。

私には、我が子と会社という大切なものがある。

この上、女の幸せや妻のプライドまで欲しがるのは欲張り過ぎじゃ。


今回は、たまのサービスのつもりで記事にしてみた。

私は今で十分、幸せだ。

《完》
コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

春爛漫・6

2023年04月10日 08時22分25秒 | みりこん流
話は少し戻るが、最初に「知っている」と言うことが

なぜ礼儀になるのかを説明しておきたいと思う。


あんたらが、ただならぬ関係なのを知っている…

これは浮気者にとって、一番聞きたくない言葉。

これを聞いた途端、アレらが楽しんでいる桃色の世界は消える。

いつまでも、どっちつかずの桃色ワールドで漂っていたいのに

知られてしまったとなると否が応でも現実に引き戻されるのだ。


一方で言う方は「知っている」と短く伝えるだけで、それ以上言わない。

そして以後は、普段通りに接する。

山ほど文句を言いたいだろうが、それでスッキリすることはない。

言葉で追い詰められた浮気者はキレて暴言を吐き、逃げる。

すると、ますます辛くなるだけだ。


黙って耐えろというのではない。

こちらの情報を与えないという、れっきとした戦法である。

戦いは戦略が全て。

どう思っているかを自らしゃべり、情報を与えてしまったら

向こうに余裕ができるので長引くばっかりだ。


妻がどう思っているかがわからなければ、アレらは対処のしようがない。

表向きは平静を装っても、内心はビクビクしているものだ。

妻は、ヘビの生殺しを眺められるというわけ。

生殺しなんて悪趣味!と思わないでもらいたい。

そもそも浮気をして妻を苦しめ、不安地獄に突き落として

生殺しにしているのは向こうだ。

「関係を知っている」という宣言は、“忍法生殺し返し”である。


知っているということを伝えれば、今度は向こうが身の振り方を考える番。

秘密だから、誰も知らないと思うからこそアレらは楽しかったのに

知られたとなると、先行きを考えなければならない。

旦那にボールを預けるとは、そういうことだ。


離婚、慰謝料、噂、あるかどうかわからんが信用失墜による社会的制裁…

そういった現実的なことを考えて、楽しいわけがない。

アレらから楽しさを奪ったら、妻の溜飲も少しは下がって冷静になれる。

冷静な頭で対応すれば心の健康が保てるので、自ら生命を断つなんて考えないし

恨みつらみを泣き叫んで旦那を責め、子供を怖がらせたり悲しませなくて済む。


知っていると告げ、こちらの情報を与えず、普通に接する…

それは、お互いが不必要に傷つかないための技術。

だから礼儀なのである。

これで全てのケースが解決するとは言えないが

文句を言いまくって家庭を修羅場にするよりも

圧倒的にリスクが少ないので、試しにやってみて損は無い。



さて、3日から出勤を始めたノゾミ。

息子たちが言うには社員は皆それぞれ、夫と彼女を見比べて

小指を立てるゼスチャーをしたという。

やっぱり隠せんか。


長男は無関心を通しているが

次男は「トトロより頭がいいから大分マシ」と言っていた。

さらには仕事を教えると言い、張り切って本社から訪れたダイちゃんに

「教え方がヘタだからわかりにくい」などと厳しく連発し

意地悪なダイちゃんがコテンパンにされるのを見て、次男は胸がすいたそうだ。

頼もしい限りである。


「あんたが気に入ったんなら、良かった」

私も喜んだ。

いつまで続くかわからないが、夫の支えになってもらいたいものだ。

家に持ち帰って私にやらせる面倒くさい書類も、ぜひお任せしたい。


ちなみに夫と私は平常運転。

いつもと変わらずよく話し、よく笑い、楽しく生活している。

知っている発言以降、私に「おはようございます」と敬語を使ったり

朝食の後、自分の食器を洗うようになったので、しめしめと思っていたが

しょせん続かない男…

私が言った通り、ノゾミの就職を邪魔する気配が無いとわかったら元に戻った。


夫は、というか浮気者は、女を守りたいわけでは無いのだ。

そんな力なんて無いのは、本人が一番よく知っている。

無いからこそ、装ってみたくなる…それが浮気者。

私が河野常務に電話をかけてノゾミのことをぶちまけたら

自分はものすごく怒られ、ノゾミの就職がオジャンになるのは明白だ。

浮気者というのは自分で自分の顔に泥を塗るような行いをしておきながら 

自分の顔に人から泥を塗られるのを異常に恐れる。

それをされたくいない一心であり、女のことなど実はどうでもいいのである。



ところで、ノゾミの初出勤を待つばかりとなった3月末日。

会社ではちょっとした事件が起こった。

昼が近づき、会社に戻ってきた社員の一人が、敷地内で倒れている男性を発見。

てっきり夫かと思ったら夫のアシスタント、シゲちゃんだったという。

その日の午前中、夫は本社命令で

統一地方選の立候補者の事務所へ顔を出していて留守だったのだ。


未亡人イク子以来28年ぶりとはいえ

愛人を会社に入れる行為を二度までもやらかした夫は

長生きをしないのではないか…

つまりは冥土の土産のコレクションにラストスパートかと思っていたのだが

今回は違ったというわけ。


50代半ばのシゲちゃんも、トトロと同じ頃に入ったので入社2年。

人間は悪くないが、要領が悪いので夫をアシストするどころか

夫にアシストされながら、一向に上達する気配も無いまま何とか勤めている。


意識不明で倒れているのを発見された所へ、ちょうど夫も帰って来た。

シゲちゃんは糖尿病なので、夫は低血糖だと思い

ジュースを飲ませたら気がついたそうだ。

どうして倒れたのか、本人は全然わからないという。


彼は救急車を呼ぶのを嫌がり、自力で病院へ行った。

とりあえず低血糖の処置をしてもらい、その日は早退して数日休むことになったが

2日経っても頭痛が治らないため、夫の提案で市外の脳神経外科を受診。

倒れた衝撃で頭蓋骨を骨折していたことが判明して、そのまま入院となった。

原因は低血糖でなく、脳の細い血管に不都合があったらしい。

幸いにも軽症で、彼は数日の入院を経て先週末に退院し

2週間ほど自宅療養することになっている。


これで一件落着…とはいかない。

仕事中に社員が倒れたとなると、会社はどうなるか。

ただの怪我ではなく、労災として扱うことになる。

各種の手続きを開始して、シゲちゃんの医療費や休んでいる間の手当を

労災保険から出してもらうのだ。


しかし本社の回し者として会社に居る松木氏は

何か勘違いをしているらしく、労災にすまいと必死だった。

これは労災にすると色々調べられて面倒だし、会社の恥になるという

大昔の小さい会社の経営者の考えだ。

今はさっさと労災扱いにして

社員の生活が立ちゆくよう便宜をはかるのが常識であり

労災隠しが発覚したら重い罪が課せられ、社名と責任者の名前が新聞に載る。

そっちの方が、よっぽど恥ずかしくてリスキーだ。


そんなことを知らない松木氏は、病床のシゲちゃんに電話をして

治療費は自分の保険を使うように言った。

経営者でもないのに知ったかぶりをする松木氏は

自分が労災になるのを未然に防いだという手柄が欲しかったのだ。

67才の彼の頭は、永遠にバブル期。

時代錯誤の思考を独断でゴリ押ししては、人に迷惑をかけるのが仕事である。


いくら要領の悪いシゲちゃんでも、この発言には違和感を持つ。

そこで話しやすい次男に相談したところ、次男はとんでもないことだと怒り

即座に本社へ言いつけた。

労災隠しが発覚した松木氏は本社に呼ばれ、社長から激しく叱責された。

怒られただけで、クビにならなかったのが残念なところよ。


このように会社は日々、生きて動いている。

愛人の一人や二人を入れたぐらいで、キーキー言ってはいられないのが実情だ。

《続く》
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

春爛漫・5

2023年04月07日 13時52分20秒 | みりこん流
スギヤマ夫人と自分の関係が、バレてないと思い込んでいる夫。

彼女の入社が私の検疫を無事にクリアしたと感じてホッとしたのか

たずねもしないのにスギヤマ夫人のプロフィールをペラペラと話す。

名前はスギヤマノゾミさん…

年齢は41才…

子供はいない…

教師の資格を持っている…などなど。

また教師だよ、ケッ!


「資格持っとるんなら、うちなんかへ来んでも先生をやればよかろう」

「いや、公務員試験になかなか通らんけん、とりあえずうちへ来ることになった」

「公務員試験通らんのなら、教師じゃないじゃん」

「そりゃまあ…」

「頭のええモンは旦那の給料が減ったら、どこ行って何してもええ、いうことか」

「いや、トトロと違うて仕事の覚えが早い思うて」

「そりゃ頼もしいことで」

「トトロみたいにタバコ吸わんし、ゲームもせんし」


私は唐突に、無表情で言った。

「あんたらの関係は、知っとりますけん」

「…アハハハハハ…」

しばし沈黙した後、夫はうわずった声で不必要に長く笑った。

笑い飛ばして窮地を脱しようとするのは、バレた時にやるいつものパターンだ。

「何か、勘違いしてない?」

さも可笑しそうに言うが、目は真剣でやんの。


「もう嘘つかんでええよ。

スギヤマさんは、バドミントンのお仲間じゃろ」

「……」

びっくりしとる。


最初に京子さんの名前を出した時から

バドミントンを一緒にやっているのはわかっていた。

現在の夫には、バドミントン以外に出会いのチャンスが無い。

京子さんの親戚と言い出したのも、バドミントン繋がりでひらめいた言い訳だ。

ちょっとした共通点を大嘘に発展させるのは、浮気者の常套手段である。


夫は体制を整え直し、説明に入った。

旦那が専務をしているスギヤマ工業の給料が減ったため

仕事に就く必要性を感じた彼女から相談された…

ちょうど空きが出たと言ったら行くというので誘った…

女に何かされたり、就職をパーにされたら立場が無いので夫も必死だ。

空きも何も、こいつが来たがるからトトロを辞めさせたんじゃないか。

浮気が原因で離婚する妻はたくさんいるけど、浮気そのものよりも

醜い芝居や聞き苦しい言い訳が嫌になって別れるのかもしれない。


夫は最終的に、こう主張した。

彼女の入社は本社からもOKが出ているため、今さら無かったことにはできない…

未亡人イク子を入れた前科があるので、私が傷つくだろうと思い

嘘をつくしか無かった…。


聞きたまえ、これが浮気者の優しさというやつである。

本当に優しいのであれば、愛人を会社に入れなければいい。

しかし先に入れてしまう暴挙をやらかしておいて、それがうまくいったとなると

急に妻のショックを心配する優しさが芽生えたというわけだ。

どこかズレているのが、浮気者なのである。


「そういう情けは、かけていらんよ。

あんたが心配しとるのは私じゃなく、私がスギヤマさんの就職を潰すことじゃろ。

そんなことせんけん、安心して」

オトコに就職を頼むようなダサい女、相手にしたらこっちが恥ずかしいわい。


「ホンマにそういう関係じゃないんよ…バドミントンで頼まれただけじゃけん」

最後まで関係を認めない…それが浮気者。

例え今はそうであったとしても、気に入っているから雇ったのであり

バドミントンも一緒、会社も一緒となると、遅かれ早かれ発展するのは決定事項だ。


「バドミントンで就職の斡旋して、藤村みたいにハーレム作りゃええが」

そう言いながら、プッと吹き出してしまったワタクシ。

妻の笑顔にホッとしながらも、藤村発言は衝撃だった様子の夫。

しかし同じことをした夫に、衝撃を受ける権利は無い。


「あと…」

長くなるのは不本意だったが、これは言っておかなければならないので続けた。

「子供に恥をかかしたら、許さん。

それから旦那の会社の景気が悪いんなら、セクハラで訴えられんように。

ええお金になるけんね」


こっちの本社は大きいので、お金が取れると思ったら

そこは夫婦、いつどう変わるかわからない。

スギヤマ工業程度の会社であれば、慰謝料で倒産危機の一度や二度は救えるだろう。


現に一昨年の藤村事件…自分が目をつけた女を運転手として雇い入れ

結果的にセクハラとパワハラで労基に訴えられた事件…以降

本社は顧問弁護士を倍の人数に増やしてハラスメント対策を強化した。

対策は対策でも、訴えられた時の準備ではない。

ハラスメントを行って訴訟を起こされ、会社に損害を与えた社員を

今度は会社が訴えて賠償責任を問うためである。


会社で起きたハラスメントは、やらかした社員本人だけでなく

ついでに会社も訴えられるのが常識。

訴えられたからには、被害者が休んでいる間の給料や慰謝料など

払うものを払わなければ、会社は営業を続けられない。

だから会社は加害者個人に、その損害賠償を請求するのだ。

世の中は、このように変わりつつある。

愛じゃ恋じゃと浮かれる前に、まずそこを考えなければならない時代になったのだ。

本社もこれに倣い、弁護士を増員したというわけ。


藤村の時はお初だったため、何だかんだで合計800万かかった費用は

本社が全額支払って尻拭いをした。

しかし損害賠償システムが発足した現在は

初回の見せしめとして大変な金額を請求されるだろう。


夫が誰を会社に入れようと、私にとって大きな問題ではない。

どうせ、あと数年の社会人生命…

愛人を入れたことが本社にバレてクビになったとしても

退職がちょっと早まるだけよ。

しかし、こやつのせいで損害賠償を負う責任は回避したい。

老後資金どころの騒ぎじゃなくなる。


そうなったら、一応は離婚を視野に入れるかも。

婆さんをほっぽり出して、どこかへ行く…これも魅力的な人生よ。

するとブログの名前はみりこんじゃなくて、おりこんに変えようかの。

気になるのはその程度のことだ。


夫には、最後のひと花を咲かせてやってもいい。

性懲りも無くここまでやるからには

この人、やっぱり長生きしないんじゃないかという予感もある。

そうなった時に、やりたいことを止めた後悔より

思いっきりやらせた満足の方が良い思い出として残ると思うのだ。


それは私の寛大さではない。

年取ってくると、マジでどうでもよくなる。

夫が働いてくれたお陰で子供も大きくなったし、あとは死ぬのを待つばかり。

不安が無いとなると、怒りも湧かない。

今はのぼせ上がっていても、やがて嫌になるか、なられるかで終わる…

これを何十回も繰り返されてごらんよ。

家庭を揺るがすはずの浮気も、ただの習慣に成り下がるぞ。

ああ、浮気を知ってカッカしていた昔が懐かしい。
 
恋ができるのは元気な証拠、「せいぜいお気張りやす」が正直な本心である。


そういうわけで、私はノゾミの入社を承諾した。

ノゾミは4月3日から、元気に出勤している。

《続く》
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

春爛漫・4

2023年04月06日 08時37分44秒 | みりこん流
ともあれ夫が私に内緒で面接を済ませ

スギヤマ夫人の就職を決めてしまったのは、はっきりした。

就職も名前も全部内緒にしたいが、会社へ入れるとなると秘密にはできない。

仕事や宴会で、関わる可能性があるからだ。

そのためには、スギヤマという名をどうしても私に伝えておく必要がある。

そこで夫なりに考えたあの手この手だが、込み入り過ぎてボロが出たというところ。


その名前を聞いた私は、どう思ったか。

ありゃりゃ…である。

それ以外に何と言えよう。

だってスギヤマ工業の社長の姉は、義父アツシの愛人だったサキ子。

つまり今度の事務員にとっては、旦那の伯母にあたる人物だ。

サキ子と今度の事務員に血の繋がりが無いとはいえ

同じ一族に、またゴタゴタを持ち込まれたのは事実である。


ついでに話すが、アツシの愛人サキ子…

嫁ぎ先も実家と似たような製造業で、ボンヤリ亭主に代わって社長を務めていた。

男まさりの目立ちたがり屋で、能力もあったのだろう

商工会を始め様々な団体で名誉職を歴任し、地元の女名士を気取っていた。

アツシより一回り以上年下だが、共通の趣味であるゴルフを通じて懇意になり

お互いの会社も近いことから、アツシは毎日のように彼女の事務所へ入り浸っていたものだ。


そのサキ子も今では後期高齢者となり、病気をして老け込んでしまったが

アツシと付き合っていた中年の頃は小生意気で気位が高く

何につけ実家の名前を出して威張るという、どこぞの娘と同じ人種だった。

たまに選挙で会うことがあったが

「祖父が議員をしていたので選挙には詳しい」

と言って、選挙事務所を束ねようとするのが恒例。

この人の祖父ったら明治の人だで。

偉そうに腕組みをし、口を歪めて小理屈を並べるさまは見苦しく

モンチッチのような外見共々、私は嫌いだった。


もっとも彼女が私に意地悪だったのは

アツシからさんざん悪口を聞いていたため

彼に代わって私に天誅を下していたつもりだったかもしれない。

そういう軽薄な女が、人の旦那と遊ぶものだ。


付き合い始めて何年も経った頃

アツシと彼女の仲を知って怒り狂う義母ヨシコの元へ

友だちを連れて弁明に来たこともある。

私もその場に居たが

「誤解させたみたいで、ごめんなさいね。

私、心が男だからさぁ!アハハ!」

そう明るく誤魔化した後は、全然別の話でヨシコを丸め込んだ気になり

意気揚々と帰ったので呆れたものだ。

田舎の名士という立場上、関係を認めて謝るわけにもいかず

さりとて身の潔白を訴えるわけにもいかず、笑って誤魔化すしか手は無かろうよ。


男だと言うなら、一人で来い。

それでも男だと言い張るなら、短い足でミニスカートはやめい。

私はこの人が、前にも増して大嫌いになった。


アツシとサキ子の仲は10年以上、続いたと思う。

最後の頃になると、サキ子は自分が持っていた宅地をアツシに売りつけた。

軽自動車しか通れない狭い道路が入り組んだ、ややこしい場所にあり

ひと目で値打ちの無い土地とわかる。

そこを高値、かつ現金でアツシに買わせ、自分はその金で別の土地を買った。

そこには程なくスーパーが建って、彼女はボロ儲け。

彼女は買った土地に大型スーパーが来ることを、知っていたと思われる。

その利益で便利な所へ土地を買い、自分の住む豪邸を建てた。


一方、サキ子にそそのかされ、借金をしてまで買ったアツシの土地は

いつまで経っても二束三文。

やがて会社をたたむ時、この土地を買うためにアツシが借りた借金が出てきて

彼が騙された詳しい経緯を知った。

私はサキ子の狡猾を改めて憎憎しく思ったが、悪いのはアツシなんだからどうしようもない。

彼女の方が、アツシよりずっと頭が良かったということだ。
 

が、そんなことはどうでもいい。

とにかくこの名前を、ヨシコに聞かせるわけにいかない。

未だサキ子に恨み骨髄のヨシコ、彼女の身内と聞いただけで逆上するからだ。

近頃のヨシコは、心臓が弱ってきている。

逆上してポックリいったら、うれ…いや、どうするのだ。

ポックリならいいけど生焼けで介護生活に突入したら、どうするのだ。

持ちこたえたとしても、どこへ電話をして何を言うやらわからない。

絶対やる。

これが一番、面倒くさそう。


「たかがそんなことで、大袈裟な…」

経験の無い人は言うだろう。

女房を甘く見ちゃいかん。

生涯忘れない深い恨みと憎しみ…それが浮気の果実である。


そういうわけで、元々この件をヨシコに言うつもりは無かったが

ますます細心の注意を払って秘密を守ろうと決めた。

ヨシコと私は嫁姑、お互いに嫌なことはたくさんあるけど

浮気亭主に苦しめられたという仲間意識も、お互いに持っている。

こんなしょうもないことで、悲しみを与えるのは残酷だ。


それにヨシコが知ると、娘にしゃべらずにはいられまい。

聞いた義姉が手を打って喜ぶのは目に見えている。

絶対に言わんもんね。

前回、会社に入り込んだ未亡人イク子の時は

腹を立てて騒いだ私も今ではオトナ、それぐらいのことはできますけんね。


もっとも私の冷静は、相手の身元がはっきりしていることに由来していた。

時代遅れの製品を製造し続け、12年前の我々のように倒産寸前の会社とはいえ

創業が明治だか大正の裕福な名家として、一応は老舗のプライドを持つスギヤマ工業。

そこの嫁となると、さほど下卑た家から嫁いではいまい。

未亡人イク子を始め、その後も何人か出現したが

親の代から貧乏育ちの流れ者、とにかくどこかの後妻に収まって

何とか生き延びようとするガツガツしたのがいるものだ。

そういう所は無いだろうから静かなだけマシであり、安心感がある。



『礼儀』

相手の素性がわかったところで、妻にはやるべきことがある。

「あなた方の関係を知っています」

夫にはっきりと、そう告げるのだ。

釘を刺すとか、喧嘩のゴングではなく

これは浮気された妻の礼儀だと思っている。


妻としては、色々と考えるものだ。

言ったら何もかもメチャクチャになってしまうのではないだろうか…

このまま黙って耐えて、嵐が過ぎ去るのを待った方がいいのではないか…。


しかし経験上、どっちも無駄な考えよ。

何もかもメチャクチャになるという未来形ではなく

事態はすでにメチャクチャ、過去形である。

そして黙って耐えるのは無理というもの。

初心者は特に無理。

抑えに抑えた感情は、ふとした瞬間に必ず爆発する。

浮気者はつい、そうなるような言動をするものだ。

何も言われない=気づかれてないと思い、だんだん大胆になっていくからだ。


そうなったらもう、感情を抑えることはできない。

売り言葉に買い言葉の怒鳴り合い、罵り合いになる。

それを聞く家族はどんな気持ちがするか。

言いたいだけ言ってしまうので、夫婦の修復も難しくなる。


向こうが悪いのだから、こっちが一方的に責めて終わりと思ったら大間違い。

旦那もやられっぱなしではないぞ。

普段から拾い集めていたこっちの落ち度…

家事の仕方や義理親への態度なんかをデフォルメし

「おめえ、ここまで言うんか?!」というランクの細かいことや

とんでもないことを言い出す。

追い詰められた男は何を言い出すか、わからんのだ。


最初から自分の勝ち戦だと思っていた妻は

旦那の本心を知って大いに驚き、そして傷つく。

そして絶対に許せなくなる。

離婚するのであれば構わないが、どうせ元のサヤに収まるのなら

知っているということは早めに、はっきり伝えた方がいい。

ボールを浮気旦那に預けるのだ。

《続く》
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

春爛漫・3

2023年04月04日 09時44分32秒 | みりこん流
自分のカノジョを会社の事務員として雇う…

夫の目論見を知った時、俄然興味の対象となるのは

誰しもそうだろうが、女の素性。

不倫相手の会社へノコノコ就職する図々しい女は、いったいどこの誰ぞや。

他人の亭主と必要以上に親しくなる女は、そもそも図々しい生物なので

今さら驚きはしないけど、人並みの好奇心はあるってもんよ。


ともあれ現時点ではっきりしているのは、女が亭主持ちであること。

独り者や母子家庭であれば、うちの事務員の給料ではやって行けない。

もっと条件の良い所を狙うはずだ。


トトロの場合は離婚して実家に戻り、自分と子供の生活費は親頼りだったので

小遣い程度の給料でも大丈夫だった。

また、不倫相手の会社に入り込むといったら

思い出されるのは28年前、夫の愛人だった未亡人のイク子。

夫が弁当を忘れて出社したので会社に届けたら

彼女が出てきて受け取ったという、ほとんど喜劇の幕開けにより

私の知るところとなったため、初給料まで滞在できなかったのは気の毒だが

職種は運転手なので給料形態は男と同じ。

経済的に困窮する可能性は無かったはずだ。


よって今回のは扶養家族として配偶者に養われながら

小遣い程度の給料をせしめ、ついでに恋を楽しむクチと断定。

つまり俗に言うダブル不倫というヤツよ。


チッ…

いまいましく思うワタクシ。

だってダブル不倫だと、慰謝料が取れんじゃないか。

何でって、慰謝料請求の訴訟を起こしたら

向こうの旦那もうちの夫を訴えるじゃんか。

非を突かれてお金を取られるとなったら

人はどんなことをしてでも取られないように防御するものよ。

で、弁護士同士で話し合って相殺

あるいは有責割合の多い方が差額を払うことになり

弁護士費用で赤字になる可能性も出てくる。


そして罪は同じ不倫でも、男と女では女の方が有利。

セクハラされた…嫌だったけど怖くて言えなかった…

女は、そんな後出しジャンケンという手がある。

そうなったら、あたしゃ浮気者の女房だけでなく、変質者の女房じゃんか。

バカバカしい。


そういえば変質系でもダブル不倫でもなかったが

その昔、夫が女教師ジュン子と浮気した時は

彼女の父親が婚約不履行で夫を訴えると言ってきた。

児童の父親と知った上で関係を結び、自分たちが不利になるとこれだ。

まだおぼこかった当時の私は、その身勝手な言いぐさに脱力し

人はここまで汚くなれるのかと驚いたのはともかく

女の方が持ち弾は多いことを知った。

こうして一歩ずつスレて行き、今の私ができあがったというわけである。



『劇場への招待』

ゴールデンウィークの不倫旅行は、納骨にかこつけてOKが出た…

就職の方も親しい京子さんの親戚ということにして、無事にクリアできそう…

およそのメドが立ったところで届くのは、舞台への招待状である。


京子さんの紹介だと今一つ弱いのは、私も懸念していた。

なぜなら私が彼女と次に会った時、話が事務員の紹介に及んだら困るではないか。

嘘なんだから言うつもりは無いけど、夫としては心配なはずだ。


親戚どころか何も知らないとなると、気性の真っ直ぐな京子さんは当然、怒る。

誠実なご主人も怒る。

青果店に出入りできなくなったり、店に集まる仲間にそっぽを向かれたり

京子さんとの共通の趣味、バドミントンまで続けられなくなったら

夫は耐えられまい。

それを回避するためには、もうひと押しが必要だった。


そして先日、正確には3月28日、夫は私に言った。

「今度、商工会に新しい制度ができたらしい。

異業種交流制度ってやつ」


その内容を簡単に説明すると…

例えばAという会社があり、そこは人員が余っている。

そして例えばBという会社があり、そこは人を募集している。

そこで商工会はA社とB社を仲介し、人員の余っているA社から

人員の足りないB社へ1年契約で人員を派遣するという。

そしてこの制度を使った場合、B社へ派遣された人員の給料の一部が

国からの補助金で賄われるという話だ。


あるか、そんなモン。

商工会は、いつからハローワークの邪魔をするようになったっちゅうんじゃ。

さあ、国まで巻き込む壮大な舞台の始まりである。


夫は異業種交流制度の説明をした後、おもむろに述べた。

「うちも別の会社から一人、派遣されて来ることになった。

うちは本社が大きいけん、制度のモデルケースになってくれということで

永井部長の所へ話が行ってしもうた。

で、永井部長がすごい乗り気になってしもうて

事務員の就職はワシを飛ばして本社と商工会の話になったけん

ワシはノータッチよ」

今度は夫の天敵、本社の永井営業部長まで登場。

つまるところ、夫は事務員の就職に関与してないことを主張したいらしい。


「それで?」

「それで…スギヤマ工業(仮名)から事務員が来ることになったけん」

スギヤマ工業というのは、とある建築材料の製造工場。

昭和までは元気が良かったが、時代の流れと共に

その製品を使用する建造物がほとんど無くなったため

別の用途を探し求めながら細々と営業している会社だ。


「スギヤマ工業は人が余っとるん?危ないと聞いとるけど、余裕じゃね」

「余っとるというか…これはスギヤマ工業の社長が希望したことで 

事務員を派遣する代わりに本社を紹介してもらいたいらしい。

売上が落ちるばっかりじゃけん、本社のネットワークで販路を拡大したいんだって」

あるか、そんなモン。

自分とこの取引先をよその会社に紹介して

商売の手伝いをしてやるようなお人好しが、どこの世界にいるのだ。


「京子さんの親戚の人は、どうなったん?」

「じゃけん、その人が来る」

「京子さんの親戚が、たまたまスギヤマ工業の事務員で

たまたま商工会の制度ができて、たまたまその事務員がうちへ来る…

すごい偶然」

「ワシはわからんけど、そういうことになったけん」

「名前は?」

「スギヤマさん」

「スギヤマ工業の家族?」

「息子の嫁」

「あそこは嫁が事務しよったっけ?」

「いや、無職で仕事探しよったけん…」

「は〜ん」


夫は何が言いたいか。

自分の女がスギヤマ工業の嫁だと、うっかり自白しているのだ。

2割の事実に8割の嘘を混ぜる…それが浮気者。


最初は京子さんの親戚に決まったと言っておきながら

次は商工会の制度が出てきて、話は広島の本社へ飛び

今度は本社と商工会が決めたと言う。

辻褄が合わないにもほどがある。

そして来るのはスギヤマ工業の事務員でなく、無職の嫁。

様々な登場人物を引っ張り出して撹乱したつもりだろうが

話が長くなって、最初についた嘘を忘れたらしい。


京子さんの名前を出したのは、私を信用させるため。

商工会の名前を出したのは

夫の意思でなく制度だから仕方がないということにするため。

永井部長の名前を出したのは、私の手が及ばないようにするため。

女を守るために考えた、渾身のストーリーだ。

家族は守らないが、よその女は二重三重に手厚く守ろうとする…それが浮気者。


その光景を見るのは、鼻の奥がむず痒くなるような気恥ずかしさを伴うが

本人は演技に一生懸命である。

しかし彼らが、女を最後まで守り切ることは絶対に無い。

女は必ず、途中でいきなり放り出される。

彼らは誰かを守るという、滅多にしない珍行為をする自分に酔っているだけで

女を愛しているわけではないからだ。

酔いが冷めたらいとも簡単に、そしてふいに手を離す…それが浮気者。

いずれにしても大根役者、アカデミー賞は獲れそうにない。

《続く》
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

春爛漫・2

2023年04月02日 09時24分14秒 | みりこん流


『このボケがっ!もとい、庭に咲いてるボケの花』


夫に帰れと言われたトトロは、そのまま来なくなった。

本社が退職手続きに入ろうとしたが電話に出ないので

彼女の親が手続きを代行し、うちとは縁が切れた。


トトロが入社して2年。

今まで辛抱しておきながら、ここに来て強行手段に出た夫。

辞めさせるならもっと早くてもいいはずなのに、何で今頃になって急に?

私は違和感を覚えていた。


2年も勤続させれば、彼女のような子はこのままでいいんだと勘違いしてしまう。

それをいきなり切ったら本人や家族から恨まれて、こじれる可能性が高まる。

仕事や掃除をしないなら根気よく教え、それでも駄目でどうしても向かないとなれば

次の就職が見つかる若いうちに、一日も早く解放してやるのが経営者側の常識ではないか。

それを怠っておきながら、いきなり容赦なくコトを運ぶ…

しかも後から不当解雇で問題にならないように

くわえタバコでゲーム中の姿や睡眠中の姿を密かに撮影して保存する念の入れよう…

これが違和感でなくて何であろう。


夫は普段、思い切ったことをあんまりやらない。

人を退職させるなど、もってのほか。

それができる男であれば、松木氏や藤村なんぞとうに辞めている。

自ら手を下すことができないから、市議のO氏にやらせようとして

長年の友情を壊したのだ。


しかしそんな夫でも、たまに周りがびっくりするような思い切ったことをやる。

ただし、それをやる原動力はただ一つ。

女のためだ。


今回のトトロに対する策は、夫にすればかなり思い切った行動なので

それがどこかの女のためであることは明白だった。

よその女のためなら家出もするし、ヤクザとも争うし、人も辞めさせる…

それが夫である。


ゴールデンウィークの納骨計画と、トトロの急な解雇。

この二つの伏線から、私の出した結論を申し上げよう。

夫は自分の女を会社へ入れるつもりである。


女は仕事を探していて、希望の職種は人気の事務職であろう。

ややこしいことは本社がやってくれるので、資格も経験も必要無い。

給料は少ないが、誰でも…そう、あのトトロでもできるんだから仕事はチョロい。

うちに二人も事務員はいらないので、女の希望を叶えるためにはトトロが邪魔。

そのためにトトロを排除したと見て、間違いない。

可哀想なトトロ。



『始まりはいつもベタ』

始まりはいつも雨…と歌ったのはチャゲ&飛鳥だが

うちの場合、始まりはいつもベタだ。

伏線を張る→突然、大胆な行動に出る→何か厄介なことが起きる。

昔から、このパターン。


そして大胆な行動はすべからく、夫と女には都合が良くても

周りが大迷惑する事態になるのが決定事項。

もはやマンネリの域だ。

我々夫婦の戦いは、いつもこうして幕が開く。


私は夫以外の男性と結婚したことが無いので、浮気者の皆が皆そうだとは言えないが

義父やその兄弟たちを始め周囲の浮気者を観察してきた限り

家庭の浮気問題は、このベタなプロローグによって始まると確信している。

とんでもないことをやらかして家族がびっくりする頃には、邪恋の関係は深まっている。

深まるのは、愛情ではない。

女の前でええカッコしてしまった男が後に引けなくなり、前に進むしか無くなるのだ。


ともあれ、それらを知ったところで私は何も言わない。

この時点で、浮気者が口を割ることは無いからだ。

脳内麻薬によって、恋の予感やら実感やらに有頂天なので、元気いっぱいに抵抗する。

嘘八百並べて、こちらの勘違いに持ち込むべく全力を尽くす醜いあがきを

わざわざ聞いてやるのもアホらしいではないか。


自白して赦しを請い、二度としないと誓うなんて、死んでもやりゃせんぞ。

これを知らずして先走り、感情のままに喧嘩をしたら勝ち目は無い。

嫉妬による、ただの夫婦喧嘩にされてしまう。


その上、一回派手にドンパチやったら、二回目以降が難しくなる。

言い争いが度重なると、こっちが「しつこい」、「疑り深い」ということにされ

あげくは「女房がこれじゃあ、よその女に走るのも無理はない」と

本人からも周囲からも浮気を正当化されて終わりなのは経験で知っている。

憐れな妻は払拭できない疑惑に苦しみつつ、異常者の濡れ衣まで着せられるという

ダブル不倫ならぬダブル理不尽に痛めつけられるのだ。


だから、コトを焦ってはならない。

魚釣りだってそうだろう。

針にかかってすぐに引き揚げたら、逃げてしまう。

糸を巻きながら泳がせ、疲れさせてから一気に引き揚げるのが正しい。


慣れないと、火を小さいうちに消したくて、伴侶を口うるさく問いただしたいものだが

これで消火できると思わない方がいい。

妻に疑惑を持たせてしまうような旦那は、女房が騒ぐ程度のことで

自らの楽しみを葬りはしないのだ。



さて、事務員がいなくなると、新しいのを募集することになる。

水面下では後釜が決まっているにせよ…

いや、実際は後釜が決まっていたからトトロを辞めさせたのだが

夫としては一応、次を探すフリをしなければならない。

ご苦労なことである。


腹は立たない。

私は全くもって冷静だ。

どんな演技をするか、むしろ楽しみにしていた。


疑いを持たれてないと思い込んでいる夫は、これから素晴らしい演技に入る。

バレてないという安堵は、浮気者を俳優にしてくれるものだ。

アカデミー主演男優賞ばりの名演をぜひ見たいではないか。

松木氏、藤村、永井部長…本社のアレらもかなりの名優だけど

夫はそれを超えられるだろうか。


ここでわかる人にはわかると思うが

夫がいつもアレらから煮え湯を飲まされ続けるのは、自分も同類の名優だからだ。

アレらは給料をもらうため、夫は女のためという目的が違うだけである。


ついでに言えば、そんな夫をいつも助けてくれる親友の田辺君を始め

数々の実力者はおしなべて、奥さんを複数回、取り替えている。

我々の業界で、これは珍しいことではない。

如才ない彼らは支払うべきものを支払って上手に取り替えるし

人前でプライベートを話さないので

奥さんと年が離れていて子供が小さめなのを知らなければ、誰も気がつかないのはともかく

彼らと夫は自身の中にある似た部分が共鳴し合い、ウマが合えば最強の絆になる。

だから不器用な夫がアレらにやられたら、全力で助けてくれるのだ。



さて、それから10日ほどが経ち、夫は私に言った。

「新しい事務員が決まった。

京子姉さんに頼まれて、親戚の人を入れることになった。

年は40過ぎらしい」


京子姉さんというのは、夫が親しくしている町内の青果店の奥さん。

年が一つ違いの夫とはバドミントン仲間であり

私も子供が幼稚園の時、一緒に役員をした仲だ。

元銀行員のご主人も、夫とは旧知の仲で、夫婦双方の両親と夫の両親も親しかった。

つまり家族ぐるみで付き合える気のおけない人たちで

夫は毎日、店の事務所でおしゃべりをするのが日課になっている。

「京子姉さんの親戚なら、安心じゃね」

私はその報告を喜んで見せたものである。

《続く》
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

春爛漫・1

2023年03月31日 15時23分18秒 | みりこん流

『庭にある、しだれない枝垂れ桜』


春は爛漫、殿は乱心。

今回の記事は、久々の乱心モノじゃけん。

記事にするのは久々だけど、それらしきことはちょこちょこあったわよ。

色情の悪癖は、一生治らないのよ。

病人と生活してるようなもんだから、木の芽どきになると持病がね。


夫も65才、最後のひと花やふた花は咲かせたい年頃さ。

絶対やらかすと思ってたわ。

だからブログのタイトル、変えてないでしょ。

シロウトだったら途中で変えるわよ。

姑日記とか、老夫婦の穏やかな日々とかさ。

伊達にこんなタイトル、付けてるわけじゃないけんね。


とはいうものの、何だかホッとしてるのは確か。

いい人のまま死なれると、こっちが辛いじゃんか(自分の方が長生きする気でいる)。

あ、カラ元気や負け惜しみじゃないの。

相手の女の不倫体験なんて、たかが1回か2回、多くて数回程度だろうけど

こっちは百戦錬磨、そこまでスレたということよ。

まあ連戦で鍛えられたというより、介護と姑仕えの方が

亭主の浮気なんかより断然きつくて、今さらどうでもいいというのが正解かも。


夫も親に振り回されて、はや12年。

1月の交通事故以来、ワガママ放題の母親と毎日一緒に病院通いだし

ガラスのハートは限界だったと思う。

彼を救うのは、恋しか無さそう。


義父もそうだった。

年取って病気で動けなくなるまで、女性関係は細々と続いてたわ。

義父の場合、商売が左前になって、膨らむ一方の借金を忘れるためだけど。


年寄りになってもまだ女がいるんかい…

そう思うだろうけど、これは体質だからどうしようもない。

アレらが求めるのは性的関係じゃなく、脳内麻薬。

恋をするとウキウキワクワクするのは、脳内麻薬のせい。

あれが出てる間は、一時的に恐怖や苦しみが消える。

その一瞬が欲しいのよ。


それには奥さんじゃダメ。

よその人じゃなければ、脳内麻薬は出ない。

万引きとか、こっそり悪いことをしたらドキドキするのと同じだと思うけど

この背徳心が、脳内麻薬の噴出量を高めるみたいよ。


今、実際に悩んでいたり、過去の恨みが忘れられずに苦しむ方はいらっしゃると思う。

そんな方々や、これから経験するかもしれない方々に向けて

何かの参考になればと思い、テキスト形式にしてみました。

さあ、張り切って行くわよ!



『伏線』

後で思い出すと、必ず伏線はあるもの。

これは気づいても気づかなくても、どうでもいい。

うちの夫は社会経験が少なく、一般常識に疎い所があるため

わかりやすいだけである。


今回の例だと、最初はゴールデンウィークの計画。

まだ3月の半ばだというのに、夫の頭は早くも5月に飛んでいた。

その内容は「広田や同級生と車で、カズヨシの納骨をしに京都へ行く」というもの。

広田とは夫の同級生の僧侶で、夫はいつも彼のお寺の行事を手伝っている。

一方、カズヨシとは1月に亡くなった同級生。

そしてカズヨシ君は、広田君のお寺の檀家である。

つまり僧侶の広田君はお寺の慣習にのっとり

カズヨシ君の遺骨の一部を京都の本山へ納めに行くそうだ。


ここでピンとこなければ、熟練者とは言えんよ。

分骨した遺骨を本山へ納めに行く…この行為自体は怪しげなものではない。

禅宗、真宗など、様々な宗派で行われていることだ。

宗派によってやり方が違うと言われればそれまでだが

いくら同級生でも僧侶が自ら京都へ持ち込むのは親切過ぎる。


京都くんだりまで行く交通費は、途中の食事代は

宿泊費その他の必要経費は誰が持つのだ。

寺か、それとも遺族か。

檀家が減って同級生に手伝ってもらうしかない貧乏寺が

自腹を切って行くはずもなく、遺族がスポンサーというのも不自然極まりない。


それに本山への分骨は家族の手で運ばれ、納められるのが一般的だ。

そして家族は納骨が終わると、京都を観光して帰途につく。

私は身内の分骨で京都へ行ったことがあるが

夫の一族は死人に無頓着なので、彼は知らないまま

寺で聞きかじった分骨云々を悪用したと思われる。


さらに私はカズヨシ君の奥さんを知っていた。

旦那の分骨をお寺に任せるような人物ではない。

しっかりしていて旅行好きなので、身内をゾロゾロ引き連れ

観光がてら絶対に自分で行く。


しかも夫が運転手だなんて、命知らずにもほどがある。

加齢で目の衰えた夫に、京都まで行く実力は無い。


「怪しい」が複数重なると、ビンゴ。

これは以前から私が主張している事柄だ。

つまり夫は、ゴールデンウィークに車で一泊旅行がしたい。

この願望を満たすため、納骨と運転の言い訳が必要になったらしい。

友だちのための仏事と言えば、私が奨励するのを知っており

2日間、夫の車が家から消えても、運転手として皆を乗せて行ったことにすれば

何ら違和感を持たれないと踏んだのだろう。


誰とどこへ行こうと、好きにすればいい。

しかし、この程度の嘘で騙せると思われているのは気に入らん。

少しは闇バイトを見習うがいい。

ともあれ「広田や同級生と車で、カズヨシの納骨をしに京都へ行く」 

この一行を聞いた一瞬で、ここまで察知しなければ熟練者とは言えまいよ。



さて伏線は、もう一つあった。

納骨発言と同時期の今月半ば 

夫は事務員のトトロ35才、推定体重100キロ超をついに辞めさせたのだ。


仕事をほとんどしない彼女を雇い続けるのは、そろそろ限界ではあった。

彼女を紹介したのは夫の友だちであり、市会議員のO氏。

どこに勤めても続かないトトロを心配した親が、O氏に頼み込んで実現した就職だ。

精神が不安定と聞いた夫は、接し方がわからないので難色を示したが

紹介者が市議と聞いて、議員に弱い本社の河野常務が食いつき

その場で入社を認めてしまった。


ただし条件は良くない。

最低時給、社保厚生年金無しのアルバイト扱い。

常務、こういう所はシビアなのだ。


で、トトロのようにメンタル弱めの子は、暑い真夏や寒い真冬も不安定になって休むが

木の芽どきは重症化するので、春は特に休む。

それで誰も困らないのはともかく、たまに出勤すれば

寝るか、くわえタバコでスマホのゲームをするのが日課。


夫は何度かO氏に紹介の責任を問い、親に言って引き取ってもらうよう依頼した。

けれどもO氏は、自分の支持者が減るのを恐れて逃げ回るので

夫とO氏の友情は終わった。

昨年、私がウグイスをやっている別の市議、Y君の選挙ドライバーを

夫が買って出たのは、それまで選挙を手伝ってきたO氏への当てつけである。


ともあれトトロの不安定はこの春も例外ではなく

珍しく出勤したその日はずっと寝ていたらしい。

「しんどいなら家に帰って寝ろ」

夫はそう言って帰宅させた。

そして彼女は、それっきり辞めた。

《続く》
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする