殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

週刊ヒロシ

2017年07月30日 09時05分01秒 | みりこんぐらし
我が夫ヒロシに人気?があるようなので、特集してみようと思う。


夫ヒロシとの38年に渡る結婚生活を振り返ると

ほとんどの期間を彼、私、そして夫の愛人の

3人4脚で歩んできたように思う。

愛人は時々交代し、今はもう数えるのも億劫な人数である。

おそらく15、6人から20人未満というところか。


数にすると、さも大変そうだが

離婚だの別居だのと泣いたりわめいたり

家族や親戚友人まで登場して、すったもんだを執り行う文字通りの大変は

最初の数人まで。

当時、3人4脚のメンバーはまだ若く、未来が豊富だった。

夫と愛人の将来設計に、私という人間は邪魔であり

私もまた、その身勝手に憤りつつ、幼い2人の子供と歩む未来を模索していた。

が、小さい子を2人連れての自活が無謀であることは

いくら向こう見ずの私でもわかっており

悶々と苦しむうちに月日だけが経つのだった。


そうしているうちに、焦れた愛人側から提案を出されるのが恒例。

「奥さんが子供を連れて出て行かないなら、自分が育ててもいい」

それは本人から直接、または夫から間接的に私へと伝えられた。


夫と愛人にとっては、これが起死回生の隠し球であるらしかったが

身をもってなさぬ仲の理不尽を知る私は、その気軽さに怒り狂い

死んでも思い通りにさせるものかと居座った。

この言葉を聞かなければ、あるいは早い段階で

彼女たちの望みを叶えてやったかもしれない。


しかしやがて、人数をこなすうちにどうでもよくなった。

仕事をしながら年を重ねるうち、浅学無知なオバさんなりにではあるが

経済に少々明るくなった私はハタと気付いたのだ。

「どうしても離婚して一緒になりたかったら

ゼニを積めば済むことじゃないか」


2人でおもむろに風呂敷包みの札束を捧げ

「いかがでしょうか」とたずねられれば

金額によっては考えないでもない。

品質が品質なので、法外な高値をつけるつもりもない。


夫と愛人が、お互いしか無いと言い切れるほど

深く愛し合っているのであれば、2人仲良く有り金をはたき

あとはサラ金、闇金をハシゴして借り歩けばすむことだ。

今後の人生は返済に追われるだろうが、愛し合う2人なら大丈夫。

きっと耐えられる。


それを怠り、彼らがおしなべて精神的攻撃を用いるのは

タダだからだ。

タダで済ませようとするからモメるのだ。

タダでコトを成そうとするのは、ただのダダ。

目の前にいるのは、パンツを脱ぐのが好きなダダっ子2人。

対等に向かい合う相手ではない。


皮肉なことに、それを理解した頃には

夫と結婚したがる女性はいなくなった。

夫と愛人、双方の加齢によって情熱が失せ

将来を語り合う楽しみが無くなったのもあるが

義父の経営する会社が傾き始めたことや

義父母の高齢化も大きく関係していたと思われる。

貧乏&介護というわかりやすい不幸を前にして蜜月を夢見るのは

どんなにバカでもさすがに無理だろう。


そうこうしているうちに、まず介護が着々と近づいてきた。

私が夫の両親の世話をし始めたのは、この数年だけではない。

義父は50代前半から重い糖尿病になり

義母も50代後半から癌や心臓疾患で、それぞれ入退院を繰り返していたので

長男の嫁として、できる限りのことをしたつもりだ。

その過程でわかった。

愛人なんか、チョロい‥

愛人より老人の方がよっぽど大変だと。


愛人は、夫と寝るだけだ。

時たま攻撃してくるのもいるけど

腹が立つとか憎たらしいという感情を別にすれば

こっちは痛くも痒くもない。


しかし老人は違う。

朝から晩まで干渉に次ぐ干渉、ワガママに次ぐワガママ。

嫁が常に働いていないと気に入らない。

休んでいると用事を思いつく。

足が替わらなくなるまで、家事をしたことがあるだろうか。

私はしょっちゅうだ。


季節の模様替え、家具の移動、絨毯の交換、不用品の処分‥

以前なら大掛かりな用事は、銀行員やデパートの外商が複数で駆けつけ

手伝っていた。

義父の会社が落ち目になると、当たり前だが誰も寄りつかない。

そうよ‥介護に追いつくように、貧乏も忍び足で近づいていたのよ。


しかし老人は落ちぶれたからといって、習慣を変えることはできない。

そこで老人が思いつく重労働は、家族で唯一の他人‥

つまり私が任命の栄誉を得る。

春夏秋冬、こまめに掛け軸や絨毯、座卓を取り替えさせ

そこに鎮座してご満悦だ。

「会社は火の車なのに、それどころじゃなかろうが!」

と思いながらも、ついやってしまうのは老人の魔力としか言いようがない。


しかも老人は、ちょっと機嫌をそこねると、根に持って倍返しを企む。

さらに愛人はたいてい1人だが、ここの老人は2人だ。

普段は仲が悪いのに、こういう時の結束はすごい。

やっとられん。


老人の恐ろしさを実感するにつれ、愛人の株が上昇。

時々登場して生意気をほざくぐらい、何じゃ。

げに老人ほど厄介な生物はいない。

老人、最強。

老人、愛人を超える。


というわけで、愛人への耐性ができた私は

夫に対してかなり寛大になった。

寛大になると、見えてくるものがたくさんある。

それをお話ししたいと思ったが、長くなったので次回にさせていただく。


《続く》
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魔の火曜日

2017年07月23日 10時21分46秒 | みりこんぐらし
今日は日曜日だけど、火曜日のことを話したい。

毎週火曜日は、慌ただしいのだ。

まず、生ゴミを出す日。

最近、ゴミにかぶせるカラス除けの網が劣化したため

行政が無料でくれる網に変えたところ、ものすごく大きい。

今までの6倍ぐらいある。


あんまり大きいので取り扱いに困り

義母ヨシコに頼んで半分に縫い合わせてもらった。

すると今度はひどく重い。

大柄な私でも手こずる。


週に2回、ゴミ収集車が立ち去った後で網を片付けるのは

数年前から私の仕事になっている。

誰もやらないからだ。


今回、網が重たくなったので、ますます誰もやりそうにないが

文句を言うつもりはない。

近隣住民の大半は後期高齢者。

暑かったり寒かったり、雨や雪が降る日もあるので

年寄りにやらせるのは気の毒だ。


網との格闘が終わった頃、魚屋さんが来る。

近隣の住民も出てくるので、週に一度の交流。


午後は、クリーニング屋さんと生協さんが訪れる。

今は木曜日に変わったが、以前はヤクルトさんも火曜日だった。

そういえば、月に一度のダスキンさんも火曜日。

包丁の研ぎ屋さんも同じく。

このように火曜日は、主婦の私にとって社交の日。


そんな火曜日の私を苦しめるのは、夫のバドミントン。

日曜日の午前中も練習だが、火曜日の夜にもあるので

夫は4時半に夕食を食べ、5時過ぎに出かける。


早めに食べておかないと動き回れないそうだが、迷惑な話よ。

出勤がほぼ自由とはいえ、一応は仕事を持ち

5人家族の主婦をやりながら姑仕えをしていたら

食事の時間を早めるのは嫌がらせに等しい。

私は調理師の経験があるので何とか回せるけど、本音はしんどくて嫌だ。

シロウトなら、退部か離婚かを迫るランクだと思う。


こうしてバタバタと出かけ、10時を回って帰宅したら

おびただしい洗濯物も一緒に帰ってくる。

洗濯機の一杯や二杯でゴチャゴチャ言いたかないけど

ホンマに尋常じゃない量。

汗を吸うと着る物が重くなるので、しょっちゅう着替えるという。

まあ、他にワガママを言う男でもなし、黙って耐えていた。

まさに魔の火曜日。


ところが最近、息子たちが父親の火曜日を怪しみ始めた。

火曜日の夜、たまたま会社の前を通りかかったら

父親の車があって、電気が点いているのを何度も見かけたと言う。


浮気者の亭主と添うて38年、すぐにピンときた。

何らかの事情により、いつの頃からか

おデートが火曜日の夜になったのだ。


夜、怖がりの夫が一人で会社に居ることはまず無いというのもあるが

ここしばらく、火曜日に持ち帰る洗濯物の変化を感じていた。

汗でなく、水に浸したような、ムラのある湿り具合。

つまり工作である。

火曜日は、別のスポーツをしていたらしい。


私に希望の光がさした。

ひよっとして、早メシと大洗濯からの解放か!

魔の火曜日とおさらばできるかも!


週に2回、激しいバドミントンを何時間もやって

ちっとも痩せない不思議も解明できた。

手足は多少細くなったが、腹は出腹のままだ。

バドミントンに行くという設定で家の夕飯を食べ

おデートでまた食べていれば、痩せないはずである。


相手は、一昨年あたりから交際中のおばちゃんだ。

会社の近所の公的機関で事務のパートをしており

お互いの職場が近いので

彼女の仕事が終わって合流するには好都合。


が、誰だっていい。

誰だって同じだ。

生まれた時から、生活も心も貧しいヨゴレちゃん。

首がすげ変わるだけである。


ちなみにこの人は、上司の愛人歴が長かったため

ベテランとしてのわきまえがあり

結婚や略奪の野心を出さないので、静かでかわいげがある。

亭主持ちのため扶養と駆け落ちは無用、閉経後のため妊娠不可能と

安定感はあるものの、スリル不足が難点。


ともあれ私はさっそく夫に交渉し

火曜日の早メシと大洗濯の自粛を勝ち取った。

もちろん初心者みたいに「よくもだましたわね!」

などと幼稚なことは言わない。

あくまで自身の体力低下が理由であり

無理のない範囲内での対応は行うという、ユルいものである。

夫はギョッとしつつも、平静を装って承諾した。


あれから‥

火曜日の夜のバドミントンには相変わらず行っているが

晩ごはんが遅くなっても、時に間に合わなくても不問となり

練習着の洗濯物もめざましく減少。


ただし減少であって、ゼロではない。

洗濯物を無くしてしまったら

嘘をついて女と会っていることを白状したのと同じなので

絶対にやめるわけにはいかない。

だから夫婦の間では、一応バドミントンをやっていることになっている。


私にも異存はない。

一緒に会社を経営するようになってわかったが

夫は仕事の相棒として、素晴らしい人物である。

働き者で温厚、時に良き相談相手、時に極上の執事。

その上、控えめで無口という美点がある。

まったく、女房にしたいくらいだ?


これに何十年も気付かず

彼の長所を引き出してやれなかった私こそ、大バカ者だ。

浮気ぐらい、何だ。

浮気より、年寄りの方がよっぽど手強いぞ。

それを思い知ったこともあり、ビジネスパートナーとして

夫という人材を大いに買っている私は

彼に付いて回る付属品に目くじらを立てるより

褒めて伸ばす方が得策と踏んでいる。



さて、夫は贖罪(しょくざい)のつもりか

昼ごはんに帰った時、生ゴミの網をたたんでくれるようになった。

私は網の片付けからも解放されたのだった。


夫は身長と腕力があるので、網をたたむのがすごくうまい。

「すごい!エキスパート!さすが!」

早くやらせりゃよかった‥とは決して言わずに

私は毎回、たたまれた網を見学に出て拍手する。

そのかたわらにたたずむ夫は、まんざらでもない様子で微笑む。

愛情に満ち溢れた、平和な夫婦である。
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誤送

2017年07月19日 13時08分13秒 | みりこんぐらし
本社の経理部長ダイちゃんは、このところ元気がない。

実家のお母さんの認知症が進んでいるそうだ。

「去年の暮れに、住み慣れた家を引っ越したのが良くなかったみたいだね」

ダイちゃんは言う。


ダイちゃんの実家は古くから続く農家で、築150年の古民家。

今ではもう手に入らないと言われる太い柱や梁(はり)

田づくりと呼ばれる間取りの部屋、大きな掘りごたつ‥

ダイちゃんは時々、実家の話をしていたが

その懐かしそうな口ぶりは、いつも遠く離れた故郷の話に聞こえる。


しかし、彼の実家は同じ市内にあるはずだ。

近くて遠い、その感じ‥私は確信した。

「ダイちゃん、実家とは疎遠なんだ‥」

そしてその原因は、ダイちゃん夫婦が信仰するカルト宗教に違いなかった。



ともあれ80才を過ぎた老人が、知らない場所で暮らすことになると

認知症が進むのはよく聞く話。

「こういうのって、彼の信じる宗教の“おチカラ”とやらでは

どうにもならんのか‥」

心の中でそうニヤつきながらも

同じ年代の年寄りと暮らす我ら一家は

ダイちゃんにうわべの同情を示すのだった。


それにしても、長年住み慣れた古民家をなぜ引っ越したのか。

先祖伝来の田畑もあろうし、墓だってあるはずだ。

さしあたって思い当たるのは改築しかなかった。


が、改築のための一時的な引っ越しも不可解ではある。

古い農家には、必ず離れや農機具小屋があるものだ。

トイレやちょっとした水場もあるので、わざわざ引っ越さなくても

そこで寝起きできるはず。


いや待てよ‥

ダイちゃんのお兄さんは脱サラして始めた事業が順調で

たいそう羽振りがいいと、以前聞いたことがある。

私は励ましのつもりで言った。

「改築が終わって戻られたら、また元気におなりですよ」


するとダイちゃんは、困ったような顔をして答えた。

「それが‥改築じゃないんだよ‥」

こういうところが彼の誠実な面で

なぜ引っ越すことになったのかを話し始める。


「兄貴が事業に失敗して、大借金を負ってね。

返済ができなくなって倒産したんだ。

抵当に入っていた家は、差し押さえられて競売。

昔は誰も見向きもしない田舎だったけど、今はベッドタウンとして人気があって

すぐに売れたから、一家でアパートへ移るしかなかったんだよ」


あれ?どこかで聞いたような話‥。

事業に失敗し、大借金で倒産

抵当に入った家が競売で売れて

引っ越したら、おばあちゃんがボケた‥

それは我ら一家がたどるはずのコースだった。

本社と合併したため、このコースを歩まずに済んだのだ。


余談になるが、私は両親の家に愛着も執着もなかった。

嫁にとっては、よその家だ。

そこの住人からさんざんコケにされた思い出しかない魔窟が

どうなろうと知ったこっちゃない。

無くなればせいせいする。


義父は病院で寝たきりのため、身の振り方についての心配はいらない。

義母だけうちへ引き取るつもりだった。

そりゃ嘆くだろうが、自業自得、身から出たサビ、自己責任。

あきらめてもらう。


夫の方も自分の育った家を失うことや、両親の恐怖と絶望に

何ら感傷は持ち合わせていなかった。

「こすず(夫の姉)が来なくなる!」

結婚して37年間、毎日里帰りを続ける姉の習慣が途絶えることを

彼は明らかに喜んでいた。


が‥。

「両親の家のことを心配してくださるのは大変ありがたいのですが

どうかお気になさらず」

という我々の主張を遠慮と受け止めた本社は

会社と家、両方の救済に乗り出し、どちらも無事という現在に至る。



「僕が知っていれば何とかできたのに、兄貴から聞いたのが先月だよ。

どうして早く話してくれなかったのかと思うと残念でね」

実家が競売にかかり、引っ越しを余儀なくされた状況を

ダイちゃんは悔しがる。


そりゃ悔しかろう。

本社はうちの両親の家を残すことに尽力してくれたが

顧問弁護士や税理士の知恵を借りながら

煩雑な事務処理を行ったのは、他でもないダイちゃん。

借金で家を失う流れを知る彼なら、どこかで阻止できたはずだ。


競売にかかった家は、親族が買い戻せる。

まとまったお金が無ければ、本社の住宅資金貸付制度がある。

この制度の窓口も、ダイちゃんの仕事だ。

実家と疎遠だったため、お兄さんの借金のことも

実家が競売にかかったことも知らなかったので、全てあとの祭り。


あの宗教をしていたら霊感が備わって

不幸を回避できるんじゃなかったんかい‥

などと思っても口には出さず、我々は言う。

「それは残念でしたねえ」


これで終わらないのがダイちゃん。

「君たちがまぬがれたのは、すごい幸運だよ。

だからこれからは、世の中に恩返しをしていかないとね。

この宗教に入るとパワーアップするから、効率良く社会貢献できると思うよ」

社内での宗教勧誘がばれて昇進話が消えても、相変わらずだった。


けれども我ら一家は、そんなカバチを聞いちゃいない。

不況の昨今、倒産や競売は珍しくないとはいえ

家族構成や状況がよく似ている。

うちで起こるはずのことがダイちゃんの実家で起き

うちの家族がたどるはずの道をダイちゃんの家族が歩んだとしたら‥

安易な宗教の勧誘が、相手の不幸を背負い込むことになるとしたら‥

ちょっとしたホラーだ。

そう考えると、何やら背筋がうすら寒くなるのだった。
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珍味

2017年07月12日 10時29分59秒 | みりこんばばの時事
帝王のお宅が大変らしいではないか。

二時間ドラマの帝王、船越英一郎さんの不倫で

妻の松居一代さんが騒いでいるという。

憎い旦那と憎い愛人に対する彼女の言動の数々は

その昔、私が夫や女にしてやりたかったことと同じだ。

恥をかかせてダメージを与え、ボコボコにして葬ってやりたい‥

浮気された妻の本心は、時代が変わっても似通ったものらしい。


が、うちは庶民。

当時はツイッターやYouTubeなんて無かったし

夫と女の非を何らかの方法で広く世間に訴えたところで

彼らには失うものが無い。

恥知らずに恥をかかせるのは不可能であり

葬るもなにも、うだつの上がらぬマイナーカップルを

これ以上、葬りようがないではないか。

第一、自分の子供や親きょうだいが笑い者になる。

だから辛抱するしかなかった。

いっときの激情を行動に移す快感と

自分の負うリスクとを天秤にかけた打算の結果であり

私が忍耐強かったわけではない。



さて本題に戻って帝王のお宅。

二人が結婚する前、松居一代さんの買った欠陥マンションが

話題になったことがあった。

松居さん、裁判で戦って最終的には勝訴。

ゼネコン相手にたいしたものだが

そのことを話す彼女の目つきと口ぶりに狂気を感じた。

民主党(当時)の蓮舫議員とそっくりだとわかったのは、ずっと後。


人気絶頂だった船越さんが、彼女と結婚した時は正直思った。

「帝王は珍味がお好き?」

年上で連れ子があり、性格は並外れてきついとわかっている‥

火中の栗拾いという印象は否めない。


それからしばらくして船越さんは

当時、これまた人気絶頂だった江原啓之さんの霊視番組に出演した。

松居さんの連れ子が可愛いくてしかたないと目を細める船越さん。


「他人の子が可愛いわけないじゃん」

私はそう思ったが、江原さんは優しく言った。

「このお子さんとは、前世で実の親子でした‥

お子さんがあなたを引き寄せたのです‥」

それを聞いた船越さんは、手放しで泣くのだった。


継父(ままちち)の鑑(かがみ)として

おそらく世間も感動したことだろう。

しかし私は、船越さんの涙に別の感情を垣間見た気がした。


家族の猛反対を押し切っての結婚。

反対が強ければ強いほど「やっぱり無理でした」

とは言えないものだ。

彼は他人の子供を一生懸命、可愛く思おうと努力していたはずで

その努力は“錯覚”という境地で、何とか安定を保っていたと思う。


しかし本能とは正直なもの、必ず無理やひずみは出てくる。

それを感じると自身を責め、反省し、また錯覚の境地へ立ち戻る。

なぜか。

このコースを踏み外したら、後悔という名の本心へ転落してしまう。

帝王としては、決して踏み外すわけにはいかない。


張り詰めた船越さんの心に、江原さんの言葉は沁みたはずである。

「前世で実の親子だった」

「お子さんがあなたを引き寄せた」

さすがはスピリチュアルで商売をするプロ‥私は感心した。

スピ業界では真実よりも、相手を喜ばせる方が尊ばれる。

江原さんに後悔への道筋を消してもらった船越さんは

安堵の涙を禁じ得なかった‥

それが真相だと思う。


この時と前後して、松居さんはお掃除の大家として名を馳せるようになった。

しかしメディアに彼女の露出が増加するにつれ

「やっぱり珍味」

と再認識した。

部屋の汚い芸人の住まいに行き

叱咤しながら掃除をしてやるのだが

耳を覆うばかりの罵詈雑言は聞き苦しいものであった。


最も衝撃だったのは、キッチンの掃除指南。

どこの家にもある、シンクに備え付けのカゴ状のゴミ入れ‥

ほら、水道の蛇口の下にある、ステンレスでできた円筒形のやつ‥

あれの掃除の時、彼女は高らかに言い放つ。

「うちはお野菜ゆでたら、ここへ流すの。

だからザルは使いません」


それだけ綺麗にしているということだろうけど、物には上下の区別がある。

ゴミ入れですすがれたほうれん草、私は食べたくないし

家族にも食べさせたくない。

「この人、日本人なんだろうか?」

疑問が湧いたのは、この時だった。

帝王、苦労しているのではなかろうか‥

余計なことだが、そう思った。


そのうち松居さんは、プロ野球の始球式に出ることになり

キャッチボールの練習をしていて鼻を骨折した。

気丈にも始球式には出ていたが

「いずれ本当に鼻をへし折られることになる」

そんな警告に思えてならなかった。


で、時は流れ、今回の不倫騒動。

「お掃除好きなしっかりした奥さん」の路線で

イメージを固めてきた松居さんにとって

絶対にあってはならないこと。

家が綺麗でも浮気は起こり

しっかりしてても家庭不和が訪れるとなれば、死活問題である。

が、やればやるほど逆効果。

民衆は帝王の苦難の年月をしのぶようになり

松居さんの思惑に反して、彼の株は上昇するばかりだ。


悩みやつれた姿を人前にさらし

本能のおもむくままに激情を吐露する女性

私の周囲にもいたが、やがて多くは心身の健康を害し

激しい性質から持て余されて、孤独な老後へと向かう。

身体には良くなさそう。


が、転んでもタダでは起きない女性のようなので

いずれ落ち着いた頃には、不倫相談の大家として

ひと儲けなさるかもしれない。

楽しみなような、もう見たくないような。
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野球観戦

2017年07月07日 21時24分17秒 | みりこんぐらし
昨日、芋を洗うごときのマツダスタジアムから無事に帰ってまいりました。

ご心配いただいた皆様、ありがとうございました。

感想‥くたびれました。


同級生のけいちゃん、一回り年上のエミさん、そして私‥

病院の厨房で同僚だった3人は、けいちゃんの運転する車で

午前11時に田舎を出発した。

前日も姉夫婦と観戦したけいちゃんは、その時の負け試合を解説。

「誰それがフォークを取られて‥あのフォークで流れが変わった」

野球を少しでも知っている人なら、この発言がおかしいのはおわかりだろう。

フォークは取られるものではなく、投げるものだ。


噛み合わない話の流れから

「ひょっとして、それは“ボーク”ではないのか」

とたずねる。

「ボーク?何?それ」

「ピッチャーが投球フォームに入ったにもかかわらず

走者の盗塁をさすために塁へ送球すること」

「何?それ‥別にええやないの」

「いったん投球フォームに入ったら、それやっちゃいけんのよ」

「何でやねん」

「ルールだから」

「ええ〜?」


釈然としないけいちゃん、気をとり直して再び解説するが

「誰それがフライを打ったのに点が入ってね、すごい奇跡よ!」

この子、犠牲フライも知らないらしい。

ルール無用の大ファン‥

これはこれで、すごいことなのかもしれない。



昼過ぎに都会へ到着し、ランチとショッピングの後

車を置いてタクシーにて、マツダスタジアムへ到着。

人間がいっぱい‥田舎の子である私は、それだけでクラクラしそう。

が、耐える。


お席は、内野自由席という名の崖。

恐ろしく高い所にある。

私にとってはほぼ登山だが

老若男女の皆さんは買った食べ物や荷物を抱えて、スイスイ動いておられる。

尊敬に値する。


おしゃべりをしている間にカープの選手がちらほら出て来た。

「あら、今日はカープ、白いユニフォーム着てるやん。

私も白に着替えて来るわ」

赤いユニフォームを着ていたけいちゃん

さっき買ったばかりの白いユニフォームを持って

いそいそとトイレに向かおうとする。


ここでさすがにエミさんが言った。

「ホームで試合する時は、選手は白を着るんよ」

「えっ?!」

「どこのチームもよ」

「本当?」

「よその球場で試合をする時は、赤いのを着るんよ」

「嘘やん、たまたまやろ」

「嘘じゃないよ」

「そんなん、聞いたことあらへんで!」

「常識‥」

けいちゃんは声が大きい。

このやり取りに周囲は注目している。

私は下を向いて沈黙していた。


けいちゃんは着替えを済ませ、応援グッズを持ってスタンバイオーケー。

いよいよ巨人との試合が始まるという時、彼女の携帯が鳴る。

病院からだ。


電話は事務員からだった。

けいちゃんのお父さんが、今病院に来ている‥

鍵を無くしたから家に入れない‥

すぐ来て欲しいと言っていらっしゃる‥

そんな用件。


けいちゃんは仕事のかたわら

一人暮らしの父親が住む実家に通って世話をしている。

90才を越えてもピンピンしているお父さんだ。


年寄りというのは、どうにもならない時に

どうにもならないことを言い出す。

その日、けいちゃんが遠出したのを知っているお父さんは

あえて彼女の携帯に連絡せず、わざわざ娘の勤務先へ行って

部署違いの受付係に窮状を訴えた。


普段はつまらぬ用でジャンジャン電話をしてくるのに

こんな時は好んで人前に出て、あかの他人を巻き込む。

それは結果として娘に恥をかかせることになるが

本人は知ったこっちゃない。

エミさんも私も経験がある。

これが年寄りを引き受けるということなのだ。


けいちゃんはすぐに帰れない事情を説明し、近所の親戚へ行って待つように言った。

「単独でどっか行くと、必ずこういうことするんやわ。

少しは思い知らせてやった方がええんよ」

一同、お父さんのことはそのまま忘れて試合に集中。

点を取ったり取られたりの面白い試合で、最終的に勝った。


けいちゃんの携帯にお父さんから電話がかかったのは10時。

試合が終わってタクシーを待っている時だった。

ほら、公衆電話からだって、娘にちゃんと電話できるのだ。


遅くなったので親戚の家に居づらくなり、電車で出て来たという。

「お父ちゃん、ガスト、わかる?

ガストで待っとって。

1時間ほどで帰れるから」


はたして地元に帰ってきたら、ガストの窓にお父さんの頭が見えた。

「ちょっとお父ちゃんに会って、白い目で見てやってよ!」

けいちゃんは言うが、エミさんも私も彼のことは大嫌い。

病院で働いている時も、しょうもない用事でしょっちゅう来ては

厨房の窓を叩いていた。

娘以外の者が出ると睨みつけて挨拶もしない、変わり者の爺さんなのだ。

我々は丁重にお断りし、そこで解散した。


けいちゃんは車で15分ほどの家にお父さんを送り届けて

また自分のアパートに帰り、翌朝は5時起きで仕事に行く。

韓流、カープ‥何かに夢中にならずにはいられない

けいちゃんの気持ちがわかったような気がした。

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初心者

2017年07月01日 10時59分41秒 | みりこんぐらし
5月のことである。

同級生の友人けいちゃんが、厳かに発表した。

「7月のスタジアム、3人取れたから!」

スタジアムが取れた‥それは広島人にとり、天の声であるらしい。

広島カープの観戦チケットを入手したという意味。


「都合を聞いてたら売り切れると思って、独断で買ったよ」

昨年のリーグ優勝以来、カープ人気はすさまじく

チケットが取りにくいらしい。

病院の厨房で同僚だったけいちゃん、エミさん、私の3人で

観戦に行こうというのだ。


「ワー!」

手を叩いて喜ぶ、一回り年上のエミさん。

彼女は昔からカープファンで、プロ野球にすごく詳しい。


けいちゃんは昨年の秋以降、にわかにカープファンとなった。

甲状腺の手術で広島市内の病院へ入院したのは

ちょうどカープの優勝が決まるかどうかの時期だった。

病室の窓からスタジアムの灯りが見え

耳をすませると歓声が聞こえたという。

今週は横浜、来週は東京と、追っかけをしていた韓流スターは兵役中‥

萌えるものを欲していたけいちゃんはその瞬間、カープに目覚めた。

試合を録画して、何度も見る熱の入れよう。


「私が運転するから、行こうね!」

「嬉しいっ!ありがとう!」

当惑する私をよそに、けいちゃんとエミさんは盛り上がる。


「野球、知らなくてもスタジアムは楽しめると思うよ?」

けいちゃんは、今ひとつの反応の私を気にかける。

そうよ、私は広島県人でありながら

プロ野球に全く興味の無い不調法者。

昨年の優勝以来、寄ると触るとカープ、カープ‥

この雰囲気の県内で、生きにくくなった一人である。


でも野球を知らないわけではない。

うちの父はプロ野球が大好きで

私が子供の頃は、時々父娘でキャッチボールをした。

高校では、コーラス部とブラスバンドの他

人数が足りなくてほとんど活動しないソフトボール部に籍を置いていた。

父の弟は紀元前の大昔、カープにスカウトされたと聞く。


夫の趣味は野球、見るよりやる方。

息子2人は少年野球をやっていた。

義父アツシは元選手の何人かとゴルフ仲間だったし

義母ヨシコは毎年知人の催す行事で、今現役の何人かと面識がある。

だから人様よりは多少、野球というものに触れる機会は多かったと思う。

席の方も本社の年間指定席があり、いつでもというわけにはいかないけど

空いている日を選んで希望を出せば無料で座れる。

このように環境は充分なんだけど、興味が無いというのはどうしようもない。


断ればよかったものの、皆が行くというマツダスタジアムに

一生に一度くらいは行っておいてもいいのではないか‥

そんな欲から、ついウンとうなづいてしまった私に、けいちゃんは言う。

「当日までに勉強しとくんよ!」

この人、私たちと行く前日も姉夫婦と観戦する。

観戦だけならまだしも、高速を使っての往復もあるのだ。

午前中の仕事を済ませて駆けつけるという。

すごい情熱と体力。

「わかった‥」

力なく答える私であった。


その時は5月だったので、まだまだ先のことと思っていた。

しかし月日はまたたくように流れ

観戦はいよいよ来週となってしまったではないか。


私はカープの勉強以前に、スタジアムの道徳から学ぶ必要があった。

30年近く前、長男の少年野球の行事で

昔の市民球場へ行ったことが一度だけあるが

今の新しい球場のことは何も知らない。


市民球場の時は、下の子がまだ小さくて手がかかったし

あとは弁当やかき氷を食べているうちに終わった。

意気込んでミニスカートをはいて行った母親の一人が

姿勢を崩せなくて、ものすごく苦しんでおり

野球観戦にスカートをはくもんではないな、と思ったのと

中日の落合が打席に入ってバットを構えたら

とても大きく見えた記憶しかない。


そこでまず、会社へ立ち寄った夫の従姉妹の旦那に習う。

「缶のジュースやビールは持ち込み禁止」

「水筒はオーケー」

缶の持ち込みが何でわかるのか聞いたら

手荷物検査があると言われ、その段階ですでに震え上がって意気消沈。


けいちゃんからは、時々質問される。

「勉強してる?」

「う‥うん‥」

「神ってる人は?」

「ま‥前田‥」

「もうおらんわ!」

そして鈴木誠也の魅力というのを延々と講義。


「じゃあ最近注目の外国人選手はっ?」

「バ‥チスタ?」

「心臓手術じゃないのよっ!

バティスタ!言ってごらん!バ・ティ・ス・タ!」

厳しい修行は続く。


着る物にも注文がつく。

「赤いユニフォーム、着てないと恥ずかしいよ?

貸そうか?」

しかし、これはうちにある。

他にもタオルやらウチワやら、応援セット一式は長男が貸してくれるという。

彼はそこそこのカープファンなのだ。

本選だけでなく、二軍の試合もよく見に行っている。

この子に色々習えばいいんだろうけど、ほら、男の子って

面倒臭がりじゃん。

他人の方が、まだ優しいわけよ。


わずかな知識を少しずつ蓄え、あとは当日、暑くないことを祈るのみになった。

長時間、屋外にいるなんて、もう何年もしたことがない。

けいちゃんは70才のエミさんを案じているが

私の方が危ない気がする。

スタジアムデビューより、雨天中止を願う私である。
コメント (8)
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