殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

詫びる人

2018年08月27日 09時11分31秒 | みりこんぐらし
前回の記事、『新・墓騒動』で

ユウキさんから「タイプ別対処法」というご希望があった。

いっぱいある。

ぜひ書きたい。

が、わかるように詳しく書いたら、語弊の羅列。

育ち、国籍、経済状況、精神の病い‥

パッと見ではわかりにくい部分が浮き彫りになる瞬間‥

それが謝罪の場面なのだとつくづく思う。


我が家が遭遇した厄介の双頭は、ヤクザかぶれと公務員。

かぶれの方は推して知るべし。

同じようなお仲間や、いけないお薬も手伝って

針小棒大に持ち込む示談金狙い。


公務員の方は、ただ公務員だからというわけではない。

どんな職業だろうと、普通じゃない人はいるものだ。

ただ職業柄、我々の個人情報を知り得る立場にあり

加えて口が回るのと知識が豊富なのとで、謝罪は困難を極めた。


公務員への謝罪は、こちらの落ち度が原因ではない。

親しい女性が車で、うちへ遊びに来る途中

そいつの妻の両親と、バンパーがこすれ合った程度の

ごく軽い接触事故を起こしたのが発端。

幸い両者に怪我は無く、ひとまずは物損事故として処理された。


女性は独身で、近くに身寄りが無い。

うちの近所で事故が起きたため

彼女に呼び出されて駆けつけたのが運の尽き‥

相手が、物損処理に不満を訴え始め

我々夫婦も巻き込まれてしまった。


人身事故になると、罰金の大きさもさることながら

免停処分がある。

不便な場所に通勤する彼女は、免停を恐れていた。

何とか物損で済ませてもらえないだろうかと

うっかり相手に頼んだのが、やっぱり運の尽き‥

相手の老夫婦は、急にあちこちが痛くなった。


男は妻とその両親と共に、蛇のごとく執拗な粘りを見せ

女性に頭を下げさせる行為に酔っていた。

その中で、男の妻が口走った一言にピンときた。

「この人ならやってくれると、私たちは期待してるんです」


その発言の意味に疑問を感じた瞬間

男が妻をものすごい目つきで睨んだ。

女性が高給取りであることは

男の職権によって、すでに調べがついていると感じた。


最終的には、彼らの言動に辟易した保険屋の勧めで

不本意ながら人身事故扱いに切り替え

女性は罰金と免停処分を受けた。

保険会社から慰謝料をせしめると、彼らは静かになった。


その直後、そいつの暴力によって妻が病院送りとなり

夫婦は数ヶ月後に離婚した。

金のためなら団結するものの

家庭としての機能は早くから失っていたらしい。


「義父と義母の苦しみをわかって欲しい!」

妻の両親を気遣うふりをし、身をよじっての大芝居だったが

実情はこんなもの。

今となってはお笑いぐさだ。

彼は今も、市役所に勤めている。


今回起きた墓騒動は、少なくとも相手がマトモだった。

こちらが100%悪い上に、誠意を見せればわかってもらえた。

このマトモに、清涼感すら感じる。



思い返せば、私が人生で初めて

このようなゴタゴタに遭遇したのは23才の時。

当時3才の長男が幼稚園へ通い始めて、ほどないある日のことだった。


小さい子供を連れた知らないおばさんがうちへ来て、いきなり言った。

「私、幼稚園で一緒の◯◯ですけど

通園カバンのヒモを取り替えてくださいっ!」

意味がわからず、呆然と立ち尽くす私。


それにイライラしたのか、相手は語気を強めてまくし立てた。

「意味がわかりませんかっ?

お宅の息子さんがね、うちの息子のカバンをハサミで切ったんです。

カバンは名前が書いてあるから交換できないけど

ヒモは替えられるでしょ?

だから、取り替えてもらいに来たんですっ!」

おばさんは、さも名案のように言う。


目の前に立っているのは中年のおばさんだけど

長男の同級生の親らしい‥

そのおばさんが、腹を立てているらしい‥

ヒモを替えて欲しいらしい‥

私の頭では、それを理解するのがやっとだった。


「ほら!これを見てくださいっ!

カバンのヒモがメチャクチャになってるの、わかるでしょっ?」

彼女が私に突きつけた証拠の品、黄色い通園カバンは

なるほど、肩にかけるヒモの両端がギザギザ。

そのギザギザは、長さ50センチほどのヒモ全体に

びっしりと施されている。

手間と時間のかかった丹念な作業であり

かつ、粘着性を感じさせる仕上がりであった。


「よくもまあ、こんなひどいことができるもんです!

うちの子に謝ってください!

そしたら、お宅のカバンとうちのカバンのヒモを取り替えます」

おばさんは布のバッグから、大きな裁ちバサミを取り出した。


「ちょっと待ってください‥」

言われっぱなしだった私は、初めて口を開いた。

「ヒモは金具で留めてあるので、簡単には取り替えられないと思いますが‥」

「え?‥」

ハサミを持ったまま、固まるおばさん。


おばさんの脇に立つ『被害者』の幼稚園児は

心配そうな顔で、ずっと母親を見上げている。

その表情を見るに、この子が自分でやったに違いないと思った。

誰がやったのかと聞かれ、ついうちの子の名前を言ったら

あれよあれよという間に連れて来られたのだろう。

予期せぬ展開に、一番困っているのは彼のようだった。


しかし、怒っている相手にそんなことは言えない。

なにしろ、よく切れそうな裁ちバサミを持っているのだ。

この騒ぎに、うちの長男も玄関へ出てきて

おばさんの子供と、のん気に手なんか振り合ってる。

「お前の子供がやったんだ!」

なんて言おうものなら、母子もろとも流血かも‥。


命の惜しい私は、やんわりと言った。

「うちの子は左利きなので

幼稚園のハサミは、うまく使えませんから

こんな技術は無いと思います。

でもカバンを切って気がすむなら、今、お持ちしますね」

切られたら、新しいのを買えばいいや‥

私は思いながら、カバンを取りに行こうとしたら

おばさんは子供の手を引っ張り、無言で帰って行った。


この一件は、残念な思い出として長く私の心に残った。

急だし、初めてのことだし

戸惑ったあげく、はっきりさせないまま逃げられてしまった。

ああ、残念だ。


万一、刃傷沙汰になったところで

力では長身かつ若い私の方が強かったに違いない。

救急車が来ようが、パトカーが来ようが

濡れ衣は濡れ衣として、はっきりさせればよかった‥

その忸怩たる思いは、長く私を支配した。


以後、ワンパクな男の子二人と、世慣れぬ亭主を一人持つ私は

盛りだくさんの謝罪経験をしてきた。

それらで知ったのは、まずこれ。

「一方聞いて沙汰するな」。


人は誰でも自分が可愛いので、嘘をつくつもりは無くても

つい自分に有利な説明をしてしまう。

これを鵜呑みに信用すると、問題が悪化してしまうのを

何度も経験した。

片方だけでなく、双方の言い分を客観的に聞き

まず事実を把握するまでは、簡単に謝らないこと‥

素早い判断、毅然とした態度が以降の明暗を分けること‥

これらを学習したように思う。


それから二十数年後、とある新聞記事が目にとまった。

一人の青年が、車で故意に歩道を走り

街路樹をなぎ倒して逮捕されたという文面。

通園カバンの、あの幼稚園児であった。

わずか3才にして、カバンのヒモに施したギザギザ同様

ずっと心に抱えていたものがあったのかもしれない。
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新・墓騒動5

2018年08月25日 09時28分20秒 | みりこんぐらし
「悪気があったんじゃない」

お詫びの場面において、謝るばかりでは手持ち無沙汰になる。

ふと訪れた沈黙の瞬間に堪えかね

苦しまぎれに誰もがつい口走りたくなるこの言葉。

けれどもこれは、禁句中の禁句である。


相手はこちらの行いを

悪意と受け止めたゆえに怒っているのだ。

相手のその判断を否定しつつ、さらに犯人をかばうという二重の刺激が

この言葉には潜んでいる。


悪意が無かったとしたら、天然で行われたことになる。

そうであるなら、天然で悪事を行える異常かつ危険な人間を

野放しにしているということになる。

となると、今後はどこかに閉じ込める約束をするなり

いっそ息の根を止めるなりしなければ、スジが通らなくなる。


しかしそんなことができないのは、ナンボ怒っている相手でもわかる。

となるとこれは、相手の怒りや傷心を軽視したテキトーな発言でしかない。

「お詫びに来たと言いながら、バカにしに来た」

相手は‥特に理屈先行の論客は、そう受け止めて怒りが倍増するのだ。

出かける前に注意はしたものの

忘れっぽいヨシコが覚えているわけがなかった。


「悪気じゃなかったら、何だったと言うんだ!」

Kさんは再び怒り出した。

お叱りは最初から巻き戻しとなり、私は平身低頭を繰り返す。


「いえ、そんなつもりで‥ホホホ‥

言ったんじゃないんですよ‥ヘッヘ〜」

ヨシコは取りなそうとするが、なにしろ緊張すると笑ってしまうお方。

言えば言うほど火に油。


「笑いごとか!

僕への仕打ちは、お宅らにとって笑いごとですか!

人格が否定された!」

ついに人格否定発言まで登場。


けれどもヨシコは、どこ吹く風で言った。

「ここはね、水に流して、仲良くしましょうよ‥ホッホッホ」

うっかりしていてヨシコに釘を刺すのを忘れていたが

「水に流して」は、「悪気は無い」と並ぶ禁句。

水に流すか流さないかを決める権利は相手にしか無く

詫びる側は、絶対に口にしてはならないのだ。


Kさんがそのことに引っかかるのは、必然であった。

「水に流せだと?

よくもまあ、勝手なことが言えるもんだ!」

また最初から巻き戻し。

ヨシコを家に置いて来ればよかった‥私は心から後悔した。



「常識が無い」

「人間性を疑う」

「神経が異常」

ともあれ、これらがKさんにとって最終兵器のようで

一連の罵倒が終了すると、落ち着いた。

言われたヨシコの方は、耳が遠くなっているためケロッとしている。

恐るべし、老人力。



Kさんが静かになり、「今後は気をつけて」と言ったところで

メロンを差し出す私。

メロンの一つや二つでおさまりそうな問題ではないため

始めに出したらもつれると予測したので、この時になった。

「お詫びの気持ちでございます」


しかしKさんは、頑として受け取らなかった。

「物が欲しくて怒ったんじゃないよ。

受け取ったら、僕の男がすたる」

と笑うので、早めに引っ込めた。


笑顔が出たところで、やっとこさ和解となり

謝り隊3名はKさん宅を後にした。

車のそばで待つ洋子ちゃんの姿が見えると、ヨシコが手を振って明るく言う。

「や〜れやれ!洋子ちゃん、お待たせ〜!」

耳が遠いもんだから、やたら声が大きい。

「シ〜‥静かに‥帰るまでが遠足です」

私が小声で注意したのは言うまでもない。


Kさんに言われたことには無反応でも

友達の前で嫁に注意されたのは腹が立つらしく、不機嫌になるヨシコ。

彼女の常識や人間性、神経を疑いたいのは、Kさん以上に私である。


謝罪も大事だが、その後も同じく大事。

急速に復活したさまを本人、あるいは近所の誰かに見聞きされて

怒り再燃の事態に陥り、最初よりこじれてしまった実例を

私はいくつか知っていた。

反省しながらしょんぼり帰った印象を残さなければ

謝罪が終わったことにならないのだ。


ついでに話すが、謝罪の最中に“ドラえもん”の着メロが鳴ってしまい

相手をますます怒らせたケースもある。

謝罪には、携帯電話を切って臨むことが肝要。



さても4人は、義父アツシの墓へ向かった。

洋子ちゃんが、どうしても謝罪に付いて行くと言ったのは

土砂崩れで地獄絵図と化した墓地を見たかったらしい。

元は自分の持ち物だったのを、ヨシコに転売して災難を逃れたのだ。

そりゃ、見たかろう。


私はKさんと村井さんの墓地をチェック。

しかし最初がどんなだったか覚えていないため

本当に現状復帰しているのかどうか、よくわからない。

日も暮れてきたことだし、気に入らなければ

また電話がかかってくるだろうと思い、合格ということにした。


ヨシコにとって本日のメイン・イベント、お参りを済ませ

一行は墓地を引き上げる。

が、ここで事件発生。


墓地の駐車場は土砂や流木で埋まっているため

夫は路上駐車して、皆が乗り込むのを待っていた。

足の悪い洋子ちゃんを先に乗せようと介助していたら

そこへ対向車が‥。


道路が狭いため、離合は難しい。

と、夫はここでなぜかアクセルを踏み、前進した。

彼のガラスのハートはKさんへの謝罪で粉々に砕け

もうこれ以上、何かに配慮するのは無理だったらしい。


「ヒ〜!」

私は推定体重100キロ超の洋子ちゃんを支えきれず

あわれ洋子ちゃんは車から転落。

どんぐりのようにコロコロと転がった。


「謝り隊、再結成か!」

転がる洋子ちゃんを呆然と眺めつつ、私は一瞬そう思った。

しかし洋子ちゃん、何回転かしたあげく

最後は偶然にもダルマのごとく、華麗に立ち上がったではないか。

「おおっ!七転び八起きとは、このことだ!」


幸い、怪我は無い様子。

「大丈夫、大丈夫。

どうせ使い物にならない身体なんだもの。

あさっては股関節の手術なんだから

どっかいためてたって、ついでに治してもらうわ」

平然と言う洋子ちゃんであった。


対向車がそのまま待ってくれたので

ヘビー級の洋子ちゃんを何とか車に乗せ

墓地から200メートルほどの家に送り届ける。

Kさんに渡すはずだったメロンは

お詫びの気持ちを込めて洋子ちゃんにあげた。


やっと家に帰り着いたら、暗くなっていた。

誰もいなくなった台所で夕食の後片付けをしていると

夫がそばへ来た。

「お世話になりました」

そう言ってお辞儀までするではないか。

初めてのことだ。

今日は何回もお辞儀をしたので、コツをつかんだのか。


「どういたしまして」

私は答え、それ以外は何も言わない。

そしてこの一件には、生涯触れないつもりだ。


夫はこの先も、いろんなことをやらかしてくれるだろう。

が、それでいいと思っている。

お互いに欠けたところを補い合ってジタバタしているうちに

お迎えがくるだろう。

ただし、お迎えが来ても

やっぱりアツシの墓に入るのはよそうと思う。

《完》
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新・墓騒動4

2018年08月23日 19時37分28秒 | みりこんぐらし
洋子ちゃんの案内で、車はKさん宅まで来た。

そのままKさんの駐車場へ乗り入れようと

右ハンドルを切る夫を制し

何軒か通り過ぎた先の草むらに停車させる。


「え?」「何で?」「足が悪いのに‥」

謝り隊の3名は、いぶかしんだ。

83才のヨシコと79才の洋子ちゃんは、共に足腰が弱っている。

特に洋子ちゃんは著しい肥満が原因で

ヒザと股関節をいためており、杖が無ければ歩けない。

老婆たちは、Kさんの敷地へ乗り入れるのが当然と思っているし

夫もまた、そんな彼女らに配慮しているつもりだった。


が、真の謝り隊員ならば、そんなことをしてはいけない。

隊員の中に年寄りがいるのは、こちらの一方的な都合である。

歓迎されない身の上で、車をいきなり乗り入れることは

相手の領域を無断で侵犯することであり、大変な失礼にあたる。

ここから間違って、問題が悪化することは多い。


会社でもそうだが、初めての訪問の時

一流の営業マンは車をよそに停め、徒歩で敷地に入るものだ。

ついでに言うが、そういう社員教育のマニュアルだけ身について

中身はパッパラパーというのも中にはいる。



さて車から降りたものの、グズグズする夫とヨシコ。

洋子ちゃんはこの時点で謝り隊から抜け

杖をついて辺りをブラブラし始めた。

彼らを尻目に、私はKさん宅の駐車場へ到着。

Kさんらしき人物は、駐車場の横にある納屋の前に佇んでいた。


「申し訳ありません、おたずねさせていただきますが

こちらはKさんのお宅でしようか?」

最初に申し訳ありませんと言うのが、私なりのコツ。


「はい、そうですが」

答えるKさんは小泉元首相のような、真ん中分けで長めのヘア。

顔も何となく似ている。

理屈先行、反論厳禁‥私はそう判断した。

得意分野である。

選挙にゃ、こんなのがウジャウジャいるからだ。


他の安心材料は、身なり。

アイロンのかかったシャツをきちんと着ている。

普段から几帳面なのだろう。

ねちっこい理屈はこねるが、それは正論であり

主張を認めれば軟化すると踏んだ。


ちなみに最も厄介なのは、ボロいTシャツやジャージを着た理屈屋。

自身は楽な服装に甘んじながら、独りよがりの規律で人を縛りたがる。

こういうのはたいてい、精神がイカれている上に強欲なので

関わると消耗が激しい。



私は続ける。

「墓地の件でお電話いただきました、隣の墓の◯◯ですが」

「はい」

硬い表情だ。


「このたびは大変失礼なことをいたしまして

誠に申し訳ございませんでした。

家族共々、お詫びにうかがいました」

深く一礼。

後ろに立つ夫とヨシコもそれにならう。


Kさんはおもむろに、コトの経緯を話し始めた。

豪雨災害で土砂に埋まった自分の墓地を

何日もかけてやっと綺麗にした‥

と思ったら昨日、土砂が山積みにされていた‥

反対側の村井さんの墓地も同じ状態で

あんたとこだけ、綺麗になっている‥

お宅がやったことは明白だ‥

電話番号を調べて抗議したら

婆さんはヘラヘラ、電話を代わった息子は

後で綺麗にするつもりだった、とほざく‥

「これで怒るのは、当たり前だと思いませんか?」


「当たり前だと思います」

「そうでしょ?誰だって怒るでしょ?」

「はい、本当に申し訳ありません」

「あんまりひどいことするから、わざとかと思ったんだよ。

もしあなたが同じことをされたら、そう思わない?」

「絶対思います。

本当に申し訳ありません」

「ね?思うでしょ?

自分とこの墓を直すんなら、ちょっと汚すかもしれませんが‥

と一言、連絡してくれればいいことでしょう。

それがあったら、僕もここまで怒りませんよ。

それを黙ってメチャクチャにしておいて

後で綺麗にするつもりだったなんて、普通の神経じゃないですよ」

「おっしゃる通りです。

ごめんなさい」

「何であんなことができるかなあ」

「返す言葉もございません。

すみませんでした」


「あなたは一生懸命、謝ってくれるけど

そもそも誰がやったの?」

私は、後方2メートルに立つ夫を振り返る。

すみませんでした‥夫とヨシコも頭を下げる。


「弟?兄貴?」

「主人です」

「‥あなた、苦労だねえ」

Kさんの眼差しから怒りの炎が消え、同情が宿った。

どうやら、頭のおかしい旦那の代わりに謝る妻‥

という設定に切り替わったらしい。


「いい年をして、こういうことをする人間はそんなにいないよ?

親の顔が見てみたい」

吐き捨てるように言うKさん。

その親も後ろにいるが、黙ってひたすら謝る私。


「今後は気をつけて。

縁あって隣同士の墓になったんだから

僕もこんなこと、言いたくはないんですよ」

「ありがとうございます。

お墓の方は今朝、主人が現状復帰させていただきましたが

これから現地へ行って確認する予定でおります。

もし不備がございましたら、いつでもご連絡くださいませ」

「わかりました。

でも、こうしてわざわざ謝りに来てくれたんだから

元通りにしてもらえたら、僕もこれ以上言うつもりは無いんですよ」

「ありがとうございます。

広いお心に感謝いたします」


和解成立が見えてきた。

が、雰囲気が和らぐと、黙っていられないのがヨシコ。

「まあねぇ、息子も悪気があったんじゃないんですよ。

アッハッハ〜!」

「何?」

Kさんの表情が、再び硬化した。

《続く》
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新・墓騒動3

2018年08月22日 09時45分07秒 | みりこんぐらし
Kさんから電話があった翌朝、夫はまだ暗いうちに

再び一人で墓へ行き、両側の墓地に積み上げた土砂を撤去した。

「完全に現状復帰しました」と私に報告するが

夫にとっての完全と、人の思う完全は大きく違うことがよくある。

さりとて朝の忙しい時間、すぐに山奥まで確認に行けない。

ひとまず信用することにして

正式な確認はKさんの家へ謝罪に行った後で、と決めた。


ヨシコは朝から、気分が優れない様子だった。

無理もない、夕方には神経質で気難しい人の所へ謝りに行くのだ。

彼女にとっては刑罰に等しい事態であった。


これまでの60年余り、夫婦が直面した面倒なことは

旦那のアツシがヤクザまがいの脅し文句で

ギャーギャー言って済ませていたし

相手もまた、アツシにねじ込まれたり、人を送り込まれて

ギャーギャー言われるのが嫌で、我慢してくれていた。

けれどもアツシ亡き今、それは通用しない。

ヨシコはそれを嘆くのだった。


アツシが他人に多くの我慢をさせてきた分

遺された者がその返礼を受けなければならないのは

生きる上での法則だと、私は思っている。

ヨシコや夫には何を言っても通用しないが

子供たちには何度も、覚悟して生活するようにと教えてきた。

そして私自身も、微力ながら家族を守ってきたと自負している。


「パパと私の二人で行くから、来なくていいよ」

ヨシコに言ってみた。

それは思いやりではない。

ヨシコを連れて行くと、逆効果になる恐れがあるからだ。

元々、口ぶりが上から目線で

緊張するとヘラヘラ笑いながらしゃべってしまう彼女の癖は

今回のようにデリケートな問題の場合、危険であった。


が、ヨシコ、どうしても行くと言う。

それは責任を全うする決意もあるが

◯◯堂で和菓子を買うついでに店の奥さんと久しぶりに会い

ついでに洋子ちゃんにも会い、さらなるついでに

帰りにはアツシの墓参りをしたいという願望の方が大きかった。

和菓子案は却下して今朝、メロンを買ったと言うと

ひどく残念そうだったが、願望はあと二つ残っているので

やはり行くと言った。



こうして迎えた夕方、夫は暗い顔で帰宅した。

水よ、線香よと、いそいそ墓参りのセットを用意するヨシコを横目に

夫は私に問う。

「何て言おうか‥」

「はあ?」

「途中で体調が悪くなって、そのまま帰ってしまった‥」

「ええ?」

「そうだ‥ギックリ腰なんか、どうだろう」

この時点で、夫が謝罪の言い訳を考えていると知った私は

あきれて叫んだ。

「雅子様か!」


この潔ぎ悪さが夫なのだ。

昔は卑怯ぶりに腹を立て、時には殺意すら起きた。

が、夫と長い年月を過ごすうちに、私は気がついた。

彼が真性の卑怯人であれば

謝罪に行かないための言い訳を全力で考えるはずだ。


けれども夫は最初から行くつもりで

行ってからの言い訳を考えている。

彼の頭の中では、行くことが謝罪であり

頭を下げて謝るところまで、流れが繋がっていない。

ここが理解しにくい部分であり、私は長年

この理解しにくい部分に腹を立てていたのだった。



ともあれ、夫とヨシコは謝罪初心者。

このまま連れて行ったら火に油を注ぐと思い

二人を並べて講習を始めた。


「進行は私に任せてください。

すみませんとごめんなさい以外は、絶対に口を開かないように。

反論や言い訳はダメ。

特に、“悪気は無かった”というのは禁句。

つい言いたくなるだろうけど、絶対に言わないように。

向こうは悪気を感じたから抗議したんです。

それを無かったと言えば反論することになるので

相手はますます怒って事態は悪化します。

まず、相手の言いたいことを全部聞く。

相手が気持ちを全部吐き出すまで、さえぎらない。

あとは頭を下げる。

お辞儀は長く。

いいですねっ?」

二人はおとなしく聞いて、「ハイ」と言った。


洋子ちゃんにはKさんの家を教えてもらって

謝罪には我々だけで向かおうと思い、出がけに電話をした。

しかし彼女はどうしても行くと言うので

迎えに行くことにした。


お詫びの品を持って謝罪に向かうこの状況、何だか懐かしい。

幼い息子たちがしでかした、いたずらの後始末‥

夫の女絡みや世間知らずによって迷惑を被った人の所‥

さんざん謝ってきたものだ。


最初の頃は死んでしまいたい気分だったが

慣れとは恐ろしいもので、もう何も感じない。

わたしゃ、もはや謝罪のエキスパートではなかろうか‥

などと思うから、困ったものではないか。


さて夫、ヨシコ、私、それに洋子ちゃんで結成された『謝り隊』は

Kさんの家を目指す。

とはいえ洋子ちゃんの家も、Kさんの家も同じ町内にあるので

車はすぐに着いた。


《続く》
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新・墓騒動2

2018年08月21日 09時11分16秒 | みりこんぐらし
「譲り墓は良くないのよ」

一昨年、義父アツシの墓地を購入する時に

三つ年上の友人ラン子が言った言葉をつくづく思い出す

今日この頃の私である。

浮世のことには疎いのに、こういうことには詳しい女

ラン子は、得意げに言ったものだ。

「よその家が買っていた墓地を譲り受けると、先祖が戸惑うんだから」


けれどもそのことを義母ヨシコに伝える気は無かった。

墓地を所有していた古い友人の洋子ちゃんから

転売の話を持ちかけられ、それが父親の故郷の近くだったため

飛びついたヨシコの喜びに水を差すのは、はばかられた。

娘の言うことなら何でも聞くが、嫁の言うことなんて聞きやしないし

私もまた、「譲り墓が良くない」とは、どのように良くないのか

「先祖が戸惑う」とは、どのような状況になるのか

証明する根拠を持たなかった。


が、それがほどなく証明されたことは、以前『墓騒動』の記事にしたためた。

洋子ちゃんの譲りたい墓地は広すぎて、ヨシコが躊躇していたら

同じ墓苑にご主人の墓がある村井さんという人が

子供のために半分買いたいと言い出した。

僥倖ではあったものの、そこへ村井さんの息子が出てきて

半分にすると自分の所が少し狭くなると言い出し、一悶着あった。

この件は岡野石材(仮名)の仲裁でおさまった‥というてん末である。



さて、以後の村井の奥さんは『墓姑』となる。

何につけ、うちの墓が気になる様子で

「墓にあじさいの花を生けてはいけない」

「花が枯れているのに、お参りに来ない」

などと、共通の友人である洋子ちゃんを通じてたびたび連絡が来る。

姑仕えの経験が無いヨシコにとって、これは消耗する出来事であった。

まさか墓で姑に出会おうとは、夢にも思っていなかっただろう。


そこへ今回の土砂災害。

山奥にある辺境の地なので、当然と言えば当然。

頼みの岡野石材は倒産。

義父の墓が無事だったのが、せめてもの救いだ。

しかし、これだけでは終わらなかった。



ヨシコがあんまり墓のことを気にするので

夫は一昨日の早朝、一人でアツシの墓の復旧に向かった。

墓苑も、よその墓もメチャクチャで手がつけられないので

無事な自分の家の墓限定である。

「墓石の周りに流れ込んだ土砂を撤去して小石を敷き詰めて

復旧は完了した」

得意げに話す夫に、ヨシコは目を潤ませて喜び、私もほめたたえた。


その夜、電話が鳴った。

私は二階の自室に居たので、詳しいことはわからなかったが

「うちの墓地をどうしてくれる!」

電話に出たヨシコの話によると、ものすごく怒っていたらしい。

夫が電話を代わり、何やら話していたが

やがて電話は向こうから一方的に切られた。


その後、ヨシコは洋子ちゃんに電話をかけて事情をたずねた。

その話によると、夫はアツシの墓は綺麗にしたものの

アツシの墓に積もった土砂を両側の墓地に積み上げたまま

帰ったようだ。

目先のことだけ必死になり、あとのことは見えない‥

いかにも夫らしい所業である。


右隣は墓姑、村井さんの持ち物で、墓石はまだ建っていない。

左隣はKさんという人が今年になって購入した墓地で

片隅に小さなお地蔵さんが置かれていた。

我々はそれをオブジェと認識しており、墓の数には入れていなかった。

怒って電話をしたのは、そのKさんだそう。


洋子ちゃんが言うには、Kさんは60代後半。

とても気難しく神経質な人で

小さなお地蔵さんは、昔亡くなった身内の子供の供養だという。

「ヨシコ姉さん、とにかく菓子折りか何か持って

謝りに行っておいた方がいいと思うわ。

私、Kさんの家を案内するから明日行きましょうよ」


気難しく神経質と聞いて、震え上がるヨシコ。

右に同じく夫。

こういう人種を最も苦手とする二人であった。


「あんた、一緒に行ってよ」

ヨシコは私を誘う。

楽しい所には娘と行くが、楽しくない所に嫁を誘うのは昔から変わらない。

「◯◯堂の和菓子でも買って‥ねえ」

私が同行するとなると、ヨシコはすっかり増長し

ついでに自分のお菓子を買う気満々だ。

ヨシコは「ついで」と称して、こういうことをよくやる。

人に何か届ける時は、必ず自分の好物。


が、甘党でなければ、日持ちのしない和菓子は迷惑なだけ。

こういう場合、水に流してもらうという意味で

お酒かビールが妥当だけど、相手が飲む人かどうかもわからない。

となると、残る候補は果物。

私は翌朝、懇意の八百屋にメロンを頼み、無地のしをかけてもらった。


《続く》
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身近な脅威

2018年08月17日 19時35分07秒 | みりこんばばの時事
今から30年近く前のこと。

長男が小学生の頃

私はPTA役員で研修部長という役をやっていた。

この役はそもそも、夫が引き受けたもの。

でも彼、PTA活動に勤しむうちに

長男の副担任と不倫関係に陥り、短期間ながら駆け落ちしやがった。


このことは学校の内外で評判となったため

PTA会長以下、役員が激怒したのは言うまでもない。

当時のPTA活動は活発で、縦の関係が運動部並みに厳しかった。

彼らは夫がしでかした行為の善し悪しよりも

「会長以下三役の監督不行き届き」という事態になるのを恐れていた。


問題が問題だけに、先生たちも困っていた。

「駆け落ちで、役員が一人抜けました」

では、全校の父兄に申し訳が立たないからだ。


そこで私に夫の身代わりを務めるよう、P&Tからお達しが。

仕方なく引き受けた。

自分の亭主の不始末なんだから、そうするしか無いではないか。


夫がいなくなったのは夏休み中のこと。

夏休み明けの9月には、研修部長率いる研修部主催の

大きな行事が待っていた。

その行事ってのが、体育館に集めた全校児童と親に向けて

研修部が何か出し物をするというもの。


これまでやってきたのはアマチュアの指人形や紙芝居、演奏会など。

テーマは道徳や差別など、年ごとに決められていて

その年は平和教育だった。

「できれば戦争のこととか‥」

研修部付きの教師は言う。


何をやるかは、研修部長に一任されていた。

そこで私は「児童書を元に影絵でも作ったれ‥」と考えた。

ところが、会長以下三役からストップがかかる。

著作権がどうのこうの言い出したのだ。


その数年前、研修部は当時流行した

『一杯のかけそば』という紙芝居をやった。

父親を亡くした母子が3人で蕎麦屋に入って

一杯のかけそばを3人で分けて食べた話。

日本中が泣いた!みたいな大宣伝で、一大ブームが起きたものだ。


余談になるが、私はこの話、好きじゃない。

蕎麦屋へ一緒に入れるお母さんがいるのだ。

うらやましい話ではないか。

どこが泣けるというのだ。



話を戻すが、その『一杯のかけそば』を紙芝居にするにあたり

著作権をお気になされた思慮深いPTA会長様は

作者のおじさんに会いに行って、本人から直接承諾を得たと言う。

それは武勇伝めいた伝説になっており

これをやらなきゃ著作権侵害になってしまうと、彼らは口々に言う。


亭主の不始末で女一人、役員に紛れ込んだ私を

彼らは温かく迎えてくれはしたが

こういう時は、女がどこまでできるか

薄笑いを浮かべながら試している雰囲気を感じた。

男って面倒くさい。


はるばる作者に会って許可を得る気なんて、怠け者の私にはさらさら無い。

「作りゃええんじゃ、作りゃ」

と思い立ち、一晩でオリジナルのシナリオを作った。

母親の被爆体験を元にした、ほぼドキュメンタリー。

子供の頃からさんざん聞かされていたので、簡単だ。

これで影絵を作って、スライド上映をするつもり。


こっぱずかしいので自作というのは言わずに

役員会で原稿を配り、この計画を発表した。

影絵の方は、統一感を出すために私が何十枚かの下絵を描き

それを皆に塗ってもらえば全員参加になると提案した。


どうなったと思う?

私は三役を始め、役員の人たちに詰め寄られた。

「著作権をちゃんしておかないと、後で厄介なことになる」

「これを公にしたら、この体験をした人は傷つくのではないか」

「本人の許可は取ってあるのか」

めんどくさ。

自分で作ったと言い、本人はもう死んでいるので

許可は取れないと言ったら静かになった。


ここで、読み聞かせの会で活躍している学校事務の女性が

「どうしてもこれを子供たちに読み聞かせたい」

と言い出してナレーターに立候補。

さらに役員の一人の職業カメラマンが

影絵を撮影してスライドにしてやると言った。

その人たちの援護もあって、研修部主催の影絵は

すんなりと実行が決まった。


良かった良かった。

これで行事は楽勝よ!

と言いたいところだけど、そうは問屋が卸さない。

私の前に立ちはだかったのはサヨクという生物。


この人、うちの子と同級生の母親だが、確固たる思想をお持ち。

夫婦共に在日枠の中途採用、無試験の地方公務員とご紹介すれば

その厄介な品質がわかるだろうか。


一家はその前年、いずこからか引っ越してきた。

夫婦が国を相手取って複数の訴訟を起こしているのは

報道によって周知の事実。

係争中の案件や裁判費用の出どころを考えれば

強大な組織の一員ということも、やはり周知の事実。


授業参観後の懇談会では、人の言葉尻を取りまくり

自分の演説に持ち込もうとするので、毎回そりゃもう大変だった。

下手に関わると、いつ、何を理由に訴訟を起こされるかわからない。

周りは遠巻きにして、様子をうかがうしかないのだった。


シナリオの添削会議で、その人が得意げにおっしゃるわけ。

「昭和という元号の使用は認められませんっ!」

「お嫁入りという言葉は、使ってはいけないんですっ!」

キャンキャン、うるさいのなんの。


吠えるモンチッチみたいなこの人

当時は自費出版で童話を出したばかり。

これも組織のバックアップなのか

新聞やテレビがもてはやしたので、皆知っていた。

だから本人はプロのつもりで

「私が出版した童話なら、表現に問題はありません」

と言い出した。

つまり自分の作品を取り上げて欲しかったらしい。

それならそうと、早く言ってくれればいいものを。


が、しかし‥

「元号を認めない」などと

上から目線で言う権利がどこにあるのか。

しかもそのついでに自分の作品を売り込もうとする小ズルさ。

私はこれに反発し、絶対にやらせるものかと心に誓った。


とはいえ相手は、百戦錬磨の組織的思想人。

教師たちは日教組の方針で彼女寄りの思想を持っていて

君が代を歌わないの国旗は揚げないのと騒いでいたが

この時はモンチッチの剣幕にたじろいで無言。

日頃、そんな教師たちに批判的な三役もおし黙り

チュンタローに甘んじる構え。


そこで私も討論を避け、昭和は「今から◯十年前」に変えて

「お嫁入り」のフレーズが出てくる部分はバッサリ割愛した。

自作だから、どうにでもできるもんね。


彼女の繰り出す思想発言に、皆もうんざりしていたのか

腕組みをしながら次々と難癖をつける彼女を置き去りにして

影絵の製作は盛り上がった。

塗り絵は楽しかったらしく、日が暮れると学校に集まっては

役員一同、嬉々として取り組んだ。



影絵の上映は、リハーサルを経て本番を迎えた。

事務先生のナレーションは観客の涙を誘い

カメラマンの作ったスライドは見事な出来栄えで

行事はまずまずの成功をおさめた。


私は大任を果たし、ホッとすると同時に

公平や平等を振りかざし、特殊な思想を強制しようとする人間が

組織によって身近に配置され始めていることを改めて思い出した。

世の中がおかしくなっていることに気づいた、最初の出来事だった。
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一枚の葉書

2018年08月15日 20時37分35秒 | みりこんばばの時事
友達の友達が、自衛隊の方から受け取った葉書をご紹介します。

復旧作業と入浴支援に訪れていた自衛隊の方々に

彼女は畑で作った野菜を差し入れました。

そのお礼状です。

個人情報が入っているため、写真を載せられないのが残念です。

写し書きでご容赦願います。



『暑中お見舞い申し上げます。

猛暑が続きます折から、◯◯様におかれましては

いかがお過ごしでしょうか。

西日本豪雨災害派遣の際、◯◯市の活動中はひとかたならぬご厚誼を賜り

厚く御礼申し上げます。


私たちは◯◯市を離れました後、△△市に拠点を移し

現在は大阪の◯◯に帰っております。

◯◯様から差し入れを頂きました日は、大変暑く活動自体も大変困難で

訓練された隊員もレトルト食の毎日で徐々に疲労が蓄積している状況でした。

そんな時にご好意により頂きました差し入れのトマトやきゅうりは

野菜を食べていなかった隊員にとって大変嬉しい差し入れでした。

更には励ましのお言葉まで頂き、隊員一同大変嬉しく心強く感じ

元気をもらうことができました。


時節柄、くれぐれもご自愛のほどお祈り申し上げ

1日も早い◯◯市の復旧と、被災されました皆様の平穏無事を

願っております。

ありがとうございました』


伏せ字以外は原文のまま。

差出人は第一中隊長・一等陸尉の個人名。

最後の「ありがとうございました」は手書きで

葉書の中心には陸上自衛隊・普通科連隊のマークが入っています。


ちゃんとしてるって、こういうことなのね‥

心がこもっているって、こういうことなのね‥

そう思いました。

日々の忙しさに甘えて

人の恩に報いるという大切なことを

忘れてはならないと思いました。


今日は終戦記念日。

いい日になりました。
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新・墓騒動

2018年08月13日 16時11分46秒 | みりこんぐらし
お盆休み、いかがお過ごしでしょうか?

私はお墓参りに行って来ました。

皆さん、ご先祖を大切にね‥


‥で終われないのが我が家。

7月の豪雨で義父アツシの眠る墓地、被災。

後ろの山が崩れ、土砂や大木が墓地に流れ込んで

極楽浄土どころじゃない。

地獄絵図。


十基余りの墓石や灯篭は大量の土砂に埋まり

ボーリングのピンみたいに転がっているが

一番隅っこにあるアツシの墓だけ

スプリットを待つピンのごとく立っている。

座って拝むスペースは少し土砂に埋まっているが、墓石は無傷だ。

生前はギャンブラーだったアツシらしい。

いや、この位置を選んだ義母ヨシコが実はギャンブラーなのか。

いずれにしても笑える。



さっそく墓地を管理する岡野石材(仮名)に

復旧してもらいたいところだが

岡野石材、この春、倒産。

社長は認知症で前後不覚、若い二代目は精神の病で療養中。

よって墓地は、そのままである。


正式な入り口はメチャクチャになっているため

我々は固まった土砂を登り、墓地に入ってお参り。

お参りができるって、本当はありがたいことだったのね。

他の墓石は全部倒れて、お参りどころじゃないもの。


土砂崩れの後って臭いというけど、本当に臭くてびっくりした。

動物の死体級の信じられない香り。

気分が悪くなった。


自分の選んだ墓地がこの有様となり、ヨシコは気が気でない。

年寄りは墓のことが気になるものではあるが、ヨシコの場合

父親の生まれ故郷に近いという理由で我を通したことを

密かに後悔している模様。


この気分を払拭するには1日も早く元通りにするしかなく

岡野石材があてにならないなら、お前らが復旧させろといわんばかりの勢い。

自分はやるつもりが無いので、このクソ暑い時にそんなことが言えるのだ。


生きた人間は、ああ、うるさい。

黙って待つ死人の方が可愛げがあるというものだ。

丁重にお断りした私の心は、早くも墓の移転に向けられている。

墓地に入る門も通路も駐車場もズタズタだし

一度崩れた所は、またいずれ崩れる。

ヨシコがいなくなり、静かになったら考えるつもり。



ところでアツシの墓を作る時

『◯◯家の墓』と彫刻してもらうよう注文した。

しかし、できあがった墓石には『◯◯家』としか書かれてなかった。

それを知ったのはアツシの骨入れの時。

今さら違うとも言えず、そのままになっていたが

ヨシコはずっと気にしていた。


「よその苗字を彫られたわけじゃなし、別にいいじゃん」

我々家族は、彼女がこの件を持ち出すたびにそう言ったが

注文したものと違う‥

この現実は、気ままなヨシコの性格上、受け入れがたいものだった。

受け入れがたいが、作り直す経済的余裕は無い‥

これが彼女の苦しみをより深くしていた。

今にして思えば岡野石材の二代目

この頃からちょっとおかしかったのかも。


ヨシコは今年になって、うちに来るお坊さんにたずねた。

「よその墓石には皆、『‥の墓』と書いてあるのに

うちの墓石には無いんですが、このままで大丈夫でしょうか?」


彼が見事な解答をしたので、したためておきたい。

「墓石は家の表札と同じです。

おうちの表札に『◯◯の家』とは書かないでしょ?

だから、それでいいんですよ」

ヨシコの不安はたちまち解消された。

墓の方はナンだったが、お坊さんは当たりだったと思っている。
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爺さん&とっちゃん坊や

2018年08月10日 14時07分27秒 | みりこんばばの時事
『ボクシングの爺さん』

ずいぶん前になるけど、友人夫婦の息子がプロを目指して

高校と大学でボクシングをやってたのよ。

大学で拳を骨折して夢は終わったけどね。


その夫婦から、この爺さんの名前は何度か聞いたことがあったの。

当時は会長じゃなくて、協会のえらい人の一人だったと思うけど

この辺りにもよくある苗字だったから、名前だけ覚えてたのよ。


話の内容は聞き流していて、残念ながら覚えてないわ。

だって、子供自慢ってウザいじゃない。

上の空よ。

ただ、裏社会との繋がりが深い人‥

そんなニュアンスがあったことは覚えてるわ。


驚きゃしないわよ。

プロレスとか、興行収入が発生するスポーツは芸能界と似てて

どこかで裏社会が関与してるものだし

その前段階であるアマチュアに手が伸びることは

不思議でも何でもない。

だから今回の件で、「ああ、この人のことだったんだ」。

顔と名前が一致したわけ。


私、これね、ワガママな会長さんがゴタゴタのあげく辞めさせられた‥

そんな話じゃないと思ってんの。

在日外国人に、日本の権力を与えたことによる

失敗のてん末なのよ。


こういうこと、たくさんあるわ。

ちょっと前の、レスリングコーチのパワハラもそうじゃない?

その前の悪質タックルも、どの人がそうなのかで

問題の性質はガラッと変わるわ。


スポーツに限らず何か騒ぎが起きて、しつこく長引いている時は

まずそれを考えながら眺めると、本当のことが見えてくるのよ。

日本人同士のもめごとだと思うから、わけがわからなくなるだけで

外国人が日本で起こした騒ぎだと知ったら納得できるわよ。

密入国して日本人に成りすました移民や、その子孫たちによって

日本がいかに食い散らされ、いいようにされているかが

よくわかると思うわ。



全員とは言わないけど、あの国の人たちって

権力を握ると、自己中心的で横暴な本当の姿が出てしまう。

そういう国民性なのよ。


上に上がって権力を握ったら最後、好き勝手のやり放題。

日本の品性や道徳は通用しないわ。

王様を脅かす者は、怖〜い同胞を差し向けて黙らせる。

で、身内やお気に入りを引き上げ、同胞で甘い汁を吸う。

パターンよ。


起承転結を用いた論理的な日本語が話せないから

すぐ大声で恫喝して強制終了。

困ったら「男の道」だの「歴史の男」だの、ご大層なセリフで誤魔化す。

凝視に努力の必要なお顔立ちや、金ブチのメガネと共に

これもパターンよ。


告発した人や反旗をひるがえした人たち、よくやったと思うわ。

でも油断は禁物。

こういう人は、執念深く干渉を続けるわよ。

一度チヤホヤされた味は忘れられないもの。

日本を取り戻せ!




『とっちゃん坊や、アメリカに行く』

取り戻しついでに、例のあの子も日本の品性や道徳が通用しないのよね。

「ここまで言えばわかるだろう」が効かなくて

周りは困り果ててるってところかしら。


女性側のお祖母様‥「二人には、それぞれ別の道を歩んでもらいたい」

本家の兄嫁さん‥「あの方で大丈夫でしょうか」

直系の男性はお立場上、言うわけにいかないから

配偶者の口を借りて、全力拒否の構えを表明。

「生命を狙われる危険性がある」

警備関係者は、なにげに怖がらせてみたり

「現状のままでは結納は行えない」

ご両親もかなりはっきり言ってみたけど、馬の耳に念仏。


で、本人はしれっとほざく。

「あちらのお母様は帰国子女だから

日本語があまり理解できないのでしょう。

僕の話もわかっていないご様子なんですよ」

もうね、ナメきってるわ。

お手打ちにすりゃいいのにさ。


その後、「現状のままでは‥」を勘違いしたのか

「現状打破」を目指して明るく渡米。




私、出発の時、ちょっと期待していたのよ。

この子のお母さんの元交際相手が空港に現れて

「金、返せ!」と叫ばないかしらって。

それが怖くてSPゾロゾロ、お母さんも見送りに来ないのかなって。

でも何も無くて、ただの大名行列だったわ。

残念。
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イソップ君・5

2018年08月08日 08時36分27秒 | みりこんぐらし
資材とダンプの調達が暗礁に乗り上げ

大ピンチの永井部長に、田辺君から電話が‥。

「部長、困ったことになりました。

後から割り込んでおいて挨拶が無いと、C興業の社長がご立腹です」

永井部長がおねだり商法で割り込んだ仕事に

もう一つ、別の会社が絡んでいたのをご記憶だろうか。

その土木施工会社『C興業』は、本社から遠くて不便な山奥にある。


C興業との連携は、永井部長が直接取る‥

田辺君とは、そういう約束だった。

約束通り、永井部長はC興業へアポを取ろうとしたが

復旧で多忙な時である。

向こうのスケジュールが合わないうちに

資材やダンプが確保できないという問題が起き

遠いのもあって、C興業への訪問は保留になっていた。


C興業を片田舎の土建屋と思い込み

後回しになっても問題は無いと考える永井部長に

田辺君は優しく教えるのだった。

C興業はその昔、広い敷地を求めて都会から移転したこと‥

社長は田舎住まいの素朴なおじさんではなく、任侠出身であること‥

「だから、スジは通しておいた方がいいと思いますけど

もう手遅れかもしれませんね」


永井部長は、震え上がった。

それからどうしたか。

急に忙しくなった。

忙しくて行けそうにないということで、部下にC興業の訪問を命じる。

指名されたのは夫が可愛がっている本社の若き営業マン、野島君。

目ぼしいのは彼しかいないので、当然ではある。


野島君はC興業へ行き、挨拶と打ち合わせを済ませた。

部下が無事に帰って来たのを確認した永井部長は

「そろそろ君にも、責任ある仕事を与えないとな」

そう言って、この仕事を野島君に丸投げした。


危うくなったら「後進の育成」と称して部下に押し付けるのは

永井部長の得意技。

資材とダンプの確保という初動で、完全に行き詰っている今回は

ここで逃げるのが得策であった。


状況次第では、一旦部下に振った仕事を再び取り上げ

自分の手柄にするのも得意技ではあるが

田辺君が吹き込んだC興業の社長のプロフィールに

恐れおののいているため、その心配は無さそうだった。


永井部長は、なぜこんなに腐っているのか。

その理由を説明しておこう。


彼は長らく、本社の母体である生コンクリート部門の営業に携わってきた。

町でミキサー車を見かけたことがあるだろうか。

あの中に詰まっているのが生コンクリートである。


生コン業界は、我々と同じ建設業界の仲間ではあるが

システムが異なる。

どこが異なるかというと、組合方式で運営されている点だ。


農協組合、生協組合など、組合というイメージを思い起こしてもらいたい。

組合員の出資金で営まれ、強い結束のもと

みんなで助け合い、みんなで分け合う‥

組合には、そんな印象があるのではなかろうか。


生コン組合も同じで、仕事や利益を組合員が分かち合う。

極端に言うと、たとえ営業の成果が上がらなくても

会社が組合に入っていれば、ある程度の仕事と利益は回ってくる。

食いっぱぐれのリスクが少ないため、こちらの業界よりもユルくて上品。

食うか食われるかの我々とは、緊張感が違うのだ。


もちろん生コン業界にも優秀な営業マンはいて

会社と組合全体のために奮闘している。

我々のボスである河野常務もその一人。

けれども共産思考の弊害と言おうか

やり手の陰に潜んで、自分も営業をした錯覚に陥る者も出現する。


こういうのが年を取ってくると、実力の代わりに悪知恵がつく。

嘘とおべんちゃらが磨かれ

働いたフリ、援護射撃をしたフリがうまくなった月給泥棒‥

それが永井部長。


ついでに合併当時、営業課長として本社から我が社に差し向けられ

失敗続きのあげく別の生コン工場へ飛ばされた松木氏も

昔は別の生コン会社の営業。

彼は仕事ができない代わりに、幹部たちが好むタバコを常時持ち歩き

サッと差し出して慣れた手つきで火を点けてやっていた。

宴会で彼の上着をハンガーに掛けてやったことがあるが

同席している取締役のタバコがポケットというポケットに入っていた。

ひたすら上に媚びるという一点集中主義に、舌を巻いたものだ。


永井部長に松木氏、彼らが歩んだ後には

多くの犠牲者が累々と積み重なる。

その根拠を考えた時、両者とも生コンの営業という共通点は無視できない。



さて、永井部長の尻拭いをすることになった野島君。

資材とダンプの確保を難なく済ませ、仕事は順調に進んでいる。

資材は田辺君の会社から仕入れ、ダンプは我が社が集めるのだから

順調なのは当たり前だ。


田辺君の会社は、永井部長に売る資材は不足しているが

他の人に売る品物は、たくさんある。

我が社も、永井部長に回すダンプはタイヤ1本見つからないが

野島君に回すダンプは、何としてもつかまえる。


田辺君、夫、野島君の3人は最初からグルだった。

3人だけではない。

最初に倍の価格を提示した資材卸業のB社も

災害特別価格を要求したダンプ屋も

アポが取れなかったC興業も同じく。

「僕に直接何かしたら、その時はやる」

そう言っていた通り、これは田辺君の罠なのだ。


格下の相手が無理を言ってきた時は、まず一歩引いて相手の要求を呑む。

そして、簡単にこなせそうな条件をつける。

相手は喜んで承諾するが、その条件が満たされることは無い。

裏で工作して、動きを封じるからだ。


展開によっては、もっと広範囲に網を張る。

惑わせ、困らせ、時に手を差し伸べ

至近距離まで近寄らせておいて、目の前で扉を閉じる。

この繰り返しで、どこまでも追い詰める。


これは単なる意地悪や懲らしめではない。

簡単な約束すら守らなかった事実は

縁切りの理由として誰もが納得する公正なものだ。

公正な理由を手に入れたら最後、次からは容赦しない。

それが田辺君のやり方である。


復旧の仕事はこれだけではない。

復旧とは無関係の仕事も出てくる。

田辺君は永井部長の行く先々に手を回し、彼の動きをことごとく封じた。


これで永井部長は思い知ったか。

全然。

何につけうまくコトが運ばないのは田辺君が原因‥

そう気がついた永井部長は、田辺君でなく我が社を憎み始めた。

「〇〇建設と△△産業の仕事は断るように」

昼あんどんの藤村を通じて、我が社にそう伝えたのだ。

どちらも田辺君の紹介で、今回の災害復旧から取引が始まった

手堅い会社である。

永井部長は、田辺君と我が社を切り離す策に出たのだった。


断る理由として、本社の予診が通らない‥

つまり支払いが悪そうという予測が述べられ

「変な所と勝手に付き合わないように。

新規はまず営業部に報告して、許可を得てください」

との伝言も添えられた。


これは厳密に言えば越権行為。

立場上、我が社の取引先を選別する権限は河野常務しか持っていない。

この二社と取引が始まったことを河野常務が喜んだのは

つい最近のことである。

「うちの営業が何回行っても門前払いの会社だ。

よく入れたもんだ!」

河野常務はご満悦であった。

永井部長がこれに嫉妬したのは明白である。


よって我々は無視する所存だが

この伝言をそのまま田辺君にしゃべるかどうかは、家族で思案中。

自分が紹介した会社を「変な所」と言われ

支払いを懸念されたと知ったら、田辺君は何をするかわからない。

イソップ寓話のオチには、わずかながら救いがあるものの

田辺君にそれは無い。

寓話でなく、サスペンスになる。


これが昨日までの経過。

面白いことになったら、またお話するとして

今回はここまでで終わらせていただこう。

《完》
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イソップ君・4

2018年08月04日 07時37分15秒 | みりこんぐらし
つかの間の勝利に酔う永井部長は、翌日からさっそく打ち合わせに入る。

途中参加を認めた田辺君が、提示した条件は二つ。

「そちらが担当する仕事に必要なダンプと資材は、自己調達してもらいたい」

「一緒にやるもう一つの会社には話を通しておくが

あとの連携は直接やってもらいたい」

これは、一つの仕事に複数の会社が絡む場合、ポピュラーな条件である。


永井部長は二つ返事で了承し、まずダンプの確保に取り掛かった。

取り掛かかるといっても、我が社に言えばいいだけなので簡単だ。

うちのダンプと人員を使い、それで足りなければ

うちのネットワークを使って県内各所から集められる。

楽勝。


が、そうはいかなかった。

なにしろ災害復旧の混乱期である。

我が社は多忙につき、現場をもう一つ増やすのは無理。

別の同業者に依頼しようにも、今は県内どこも同じ状態なので無理。


困った永井部長は、お得意の“兄弟分”に泣きつく。

彼の兄弟分の一人が、地方営業所の所長をやっているA社だ。

A社は、地元のダンプ会社と共有の事務所を構えている。

つまり田舎のダンプ屋が、癒着のあげくA社の地方営業所に入り込み

一蓮托生の関係を築いているわけ。


A社の所長は快く、一蓮托生のダンプ屋に打診してくれた。

そしてダンプ屋も、快く引き受けてくれた。

「困っておられるなら、お役に立たせていただきます」


心強い言葉に安心した永井部長は、次に資材の調達へと進んだ。

資材の調達には、何ら問題は無さそう。

だって、田辺君の会社から仕入れたらいいんだもん。

楽勝。


が、そうはいかなかった。

「こんな状況なので資材が不足していて、自分とこの仕事だけで手一杯。

だから、資材は自己調達でとお願いしたんです。

申し訳ないけど、他をあたってください」

田辺君からそう言われ、あてが外れた永井部長。

部下に命じて県内各地の資材業者をあたらせたが、どこからも断られた。

需要が急増して取り合いになっている品物を

普段の付き合いが無い所へ売るバカはいない。


途方に暮れた永井部長は、田辺君に泣きつく。

「それは困りましたね、じゃあB社に行ってみてください。

下話はしておきますから、価格交渉などの細かい話はそちらで」

田辺君は親切にそう言った。


永井部長は喜んで、B社を訪問。

「話は田辺さんから聞いています」

歓待された永井部長だが、価格交渉で行き詰まる。

通常の倍の単価を提示されたのだ。


永井部長、得意の値切りに入るが、B社は一歩も引かない。

「この非常事態に、田辺さんのご紹介だからお分けするんです。

嫌なら他へどうぞ」

と言われ、考えるために数日の猶予を取り付けるのがやっとだった。


意気消沈の彼をさらに突き落としたのが、先のダンプ屋。

「ダンプと運転手のセットで、1日6万円になります」

そう言われて驚愕した永井部長だった。


通常の日当は、4万円前後。

永井部長は「行く」と言ってくれた時点で

交渉は終わったと思い込んでいた。

けれども相手にとって価格交渉は未遂で

非常時の特別価格を提示したのだった。


法外な値段に驚いた永井部長は、通常価格を主張。

するとダンプ屋は言った。

「この値段で来てくれと言う所は他にもたくさんあるんです。

断ってくれてけっこう」

ダンプ屋は言い、永井部長はやはり数日の猶予を頼んだ。


永井部長は、そのダンプ屋をすっかりあてにしていたため

他の会社は眼中に無かった。

その間に県内各地のダンプは、向こう何ヶ月のスケジュールが決まってしまい

すでにどこを探しても残っていない。

完全に出遅れたのだ。


数日が過ぎたが、永井部長の結論は出なかった。

資材とダンプの高額な要求を呑めば、大損害は必至。

上層部から大目玉をくらうのは火を見るより明らかで

損害の程度によっては降格処分になるかもしれない。

さりとて自分からねだって割り込んだ仕事を放り出したら

笑い者になるばかりか、最悪、契約不履行で訴訟問題だ。


彼が思案しているうちに、もう待てないということで

結局は両社から断られてしまった。

もう資材もダンプも、永井部長には調達できない。


行き詰まった彼は、高速を駆って我が社へふらりとやって来た。

顔色が悪い。

元々色黒なのに、ますますどす黒い。


何か言いたげだが、言えない永井部長。

プロポーズをためらっている人みたい。

いつものように夫を利用して、頭を下げずに何とかならないか

模索に来たのは一目瞭然である。


親の代から何十年、資材とダンプの両方を生業としてきた夫は

それなりの裏技を持っている。

しかし、何も知らないふりを続けた。


手を差し伸べて窮地を救っても、砂を噛むだけ。

永井部長は救われた事実を隠すため、夫を悪者に仕立てる。

そして、夫の失敗を自分が救ったという

真逆のストーリーを作り上げる。

詐欺と同様、あまりにも事実からかけ離れると

周りはかえって信じやすいものなのだ。

関わらないに限る。


永井部長は本題に触れないまま、力無く帰って行った。

翌日、さらなる不幸が訪れることなど

知るよしもない彼であった。

《続く》
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イソップ君・3

2018年08月02日 08時00分52秒 | みりこんぐらし
永井部長が、田辺君にちょっかいを出すはずがない‥

なんぼアホでも、それくらいはわかるはず‥

我々は、そうタカをくくっていた。

けれども豪雨災害の非常時というのは、思いもよらぬ事態をもたらした。


業界各社は営業の者が仕事を取り

現場の者が作業することを繰り返しながら復旧を進めていた。

田辺君はある会社と組んで、ある大きな復旧工事を獲得。

それは、二つの会社がそれぞれの特性を活かして取り組まなければ

できない仕事だった。


一方、永井部長は近年、新しい技を編み出していた。

人呼んで『おねだり商法』。

今までは、誰もやりたがらなくて

たらい回しになっている工事を拾っては

「獲った!獲った!」と得意満面の『こじき商法』が主流だったが

『おねだり商法』の方が楽だと気づいたらしい。


おねだり商法とは、すでに他社が獲得した仕事に

「うちも一枚かませろ」とおねだりすることだ。

電話一本でできる、楽で効率のいい商法だが

これはとても卑怯な行為とされる禁じ手。

主婦で言えば、自分の欲しい物を買いに出かけた知人を待ち構え

買い物袋をあさって分けてもらうのと同じである。


永井部長は、田辺君にこれをやった。

「お宅が獲った例の工事、うちも入れてもらえませんかね?」

永井部長は電話で、田辺君にそう言ったという。


当然ながら、田辺君は即座に断った。

単独の工事でなく、別の会社が絡んでいるので

勝手にもう一社、それも電話で頼んできた者を

介入させるわけにはいかないからだ。


しかし永井部長、ここで粘りを見せる。

翌日、大手ゼネコンの地方営業所で働く課長職を伴い

田辺君の会社を訪問した。

全く無関係の人を連れて来て、いったい何の目的かと思ったら

ただの「口添え」。

ゼネコンの課長さんは、工事に本社を参加させてくれるよう

一緒に頼んだという。


永井氏にも一応は人脈らしきものがあり、日頃から会社の接待交際費で

飲ませたり食べさせたりしている相手が存在する。

酒や飯に釣られる者はどこにでもいるが

特に大企業の地方営業所には、たくさん生息している。

「そちらの態度によっては、仕事を振ってあげないでもない‥」

この雰囲気を匂わせて、田舎者から接待や優遇を受けつつ

地方ライフをエンジョイするのだ。

時にはこうして頼まれるままに同行し、大手風を吹かすのも

後のお礼が豪華になるからである。


中にはまともな人も確かに存在する。

そういう人は地元民と癒着しないが

本線から外れて地方で終わる人は

癒着の美酒でも浴びなければ、やっていられないだろう。

が、そのようなことをする人は

美酒のお返しに仕事を与える権限が無い。

できるのはせいぜい、頼まれてどこかへ同行する程度のものであり

永井部長に同行してくれたゼネコン課長は、まだ人の好い部類である。


彼らに惑わされ、さんざんおごらされるのと引き換えに

「〇〇社の誰それと仲がいい」

という勲章を欲しがる田舎者の一人が、永井部長。

この勲章の輝きは仕事でなく、社内の上層部向けとして有効である。

大手に食い込む可能性をほのめかし、期待されている間は

成績を上げなくても安全だからだ。


相手が自分の人柄に惚れ込んでいるという舞台設定で

今にも大仕事が舞い込みそうな小芝居をして見せ

「〇〇社の誰それさんと会って来ます」

と言っておけば、どこへ行って怠けようとノーチェック。

経費も使い放題だ。


そのうち転勤の辞令と共に勲章は去り

後には使い捨てられた田舎者が残る。

その田舎者は、新たに着任した者とお近づきになりたがり

接待交際費で酒や飯をおごる。

この繰り返しである。


それで大丈夫なのか?

ここが心配なところだろうが、ノープロブレム。

なにしろ彼の人柄には、大手ゼネコンマンが何人も惚れ込んで

兄弟のような付き合いをした‥

ということになっている。

中央、あるいは再び別の地方へ赴任した人々も

兄弟分の永井部長を後押ししてくれるに違いない‥

ということになっている。

長年に渡って刷り込まれたイメージは、簡単に消えはしない。

会社組織というのは、こうしたイメージや勘違いによって

回っていると言っても過言ではない。


それでも時折、成果らしきものを上げる格好をしなければ

イメージや勘違いは続かない。

積み重ねた知識や実力が無く、イメージのみで生きる永井部長は

他の誰もやらない禁じ手を使うしかないのだ。

それが業界の禁じ手ということすら、彼は知らない。

禁じ手のデパートは、こうしてできあがったわけだが

彼はそれを新戦略と豪語している。



さて、ゼネコンの課長に口添えしてもらい

再度、田辺君に頼んだ永井部長。

しかし今度も、やはり田辺君は断った。

大手を連れて行ったら言うことを聞くと信じている永井部長を

心から軽蔑したと、後で夫に電話があった。


それでも永井部長はあきらめなかった。

何度も電話をかけては、参加をねだり続けるという。

その執拗は、わかるような気がする。

口添えしてもらったゼネコン課長に赤っ恥をかかせたまま

終わらせるわけにはいかないからだ。

何が何でも参加を決め「お陰で獲れました!」と報告しなければ

嫌われてしまう。

永井部長にとっては死活問題である。


ただでさえ忙しい復旧のさなかだ。

あまりのわずらわしさに、田辺君はとうとう承諾した。


永井部長の喜ぶまいことか。

社内では「田辺に粘り勝ちした!」と言いふらし、我々は

「忙しくなるから、ここにも仕事を振ることになると思います。

しっかりやってください」

とのお言葉をちょうだいした。

それが田辺君の罠とも知らず、つかの間の勝利に酔う彼であった。

《続く》
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