殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

コロコロボール

2009年07月31日 19時02分31秒 | 検索キーワードシリーズ
あしあとサービスの利用を始めて、はや100日を経過した。

検索キーワードは、相変わらず好調だ。

子供の頃、川でメダカをすくい

網に数匹ピチピチ跳ねているのを見た時の喜び…いつもそれを思い出す。


いつもながら、真面目に検索して来られたかたには

心からお詫びしたいと思う。

『いま咲く夏の花』

夏の植物のことがお知りになりたかったんですよね。

うちで咲いたのは、季節を問わないクソ花です…ごめんなさい。


『小話 子供向き』 『子供に聞かせる即興小話』

夏休みのお子様に楽しいお話を聞かせたかったんでしょうか。

教育には良くないと思います…お役に立てず、すみません。


『組体操 大技 やり方』

神聖なる組体操を

公衆の面前で行う不倫のスキンシップとして表現してしまいました…

申し訳ございません。


ブログのテーマが夫婦のドロドロなので、キーワードもドロドロ系が多い。

『義母と婿養子の不倫告白』 『禁断の関係 妹の旦那』 

『合格くと引き換えに不倫(原文ママ)』 『女王妻とマゾ亭主』

『妻の浮気の後始末』 『女房をその気に』 『今夜の妻味』…

などが並び、思わず突っ込むことがある。


『パートのおばさんと不倫告白』…正社員じゃあいかんのかい…とか。

『喪服妻の浮気』…うちにも喪服で浮気するのが好きなのが一人いるから

二人で葬儀屋でも始めたらどうだろう…とか。


『寂れた商店街の活気を取り戻すには』というのがあった。

心配になってくる。

だって…取り戻したいなんて思ってる時点でアウトじゃん。

死んだ子の年を数えているうちは、前に進めない。


ああ…と我が町の商店街を思い浮かべる。

相変わらず主催者だけが盛り上がるイベントに余念がない。


ショーウィンドーには本業の品とともに

マルチ商法のサプリメントが飾られ

少ない商品の代わりに趣味の盆栽や金魚鉢が置いてあるような所へ

誰が行きたいと思うであろう。


先日行った和洋菓子の製造直売の店。

使い物はここで買うようにしている。

“新発売!コロコロボール”というのがあった。

チョコレートのかかったピンポン球くらいの、丸くて可愛らしいお菓子。


「新製品!一押し!チョコとスポンジの甘い誘惑」

手書きのポップからも、コロコロボールに対する意気込みが伝わってくる。

値段…50円。


おお!これじゃ、これ!

私は嬉しくなる。


我が町のケースに限ってだが

常日頃、この商店街を救うのは、食品を扱う店だと思っている。

やれ朝顔咲かせ競争だ、それくじ引きだ、と騒いでいるヒマがあったら

新商品の開発をすればいいのだ。


開発にさほど金と時間のかからない食品系は

買う方も買いやすく、繁栄のキーマンだと思う。

どこか一軒ブレイクすれば、集客の機動力になる可能性があるからだ。

みんなで一丸となって…なんてほざいてるうちは、どうやっても無理だ。


ホームページを充実させ、地方発送のシステムを整えて…私の空想は広がる。

なにより、その心意気が良いではないか。

ひとつ食べてみて…と渡してくれる心遣いも嬉しい。


ガビ~ン!

一口食べて、甘い誘惑にクラクラしちゃう。

王者!これ、王者!


難しいだろうが、想像してもらいたい。

カステラと、ケーキスポンジの切れ端を…。

持ち前の弾力で自己主張するカステラと、つぶされて瀕死のスポンジ…

それをいっしょくたにしてキツい香料をまぶし、力一杯丸められた物体を。


強弱入り乱れた不気味な舌触りの中味を

固くて味のないチョコレートが優しく包み込む魅惑のコラボレーション…。


コロコロボールとは、毎日出る切れ端を集めて丸め

チョコでコーティングした、産業廃棄物の甘い誘惑であった。

さすが我が町!ブラボー!


折に触れ、言っている…私は食べ物にいやしいが、うるさくはない。

廃棄物であろうと、落ちてたモンであろうと、まずくなければ文句はない。

捨てるもので人気商品が出来れば、一石二鳥の喜ばしいことではある。


勧められたが、買えない。

タダで食べておいて、まことに申し訳ないのだが、たとえ50円でも惜しい。

「また今度…」と言って、そそくさと店を出る。

「今度」は、もう無いかもしれない。
コメント (12)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

名前

2009年07月28日 13時50分03秒 | みりこんぐらし
長男がお腹にいた時から、夫と相談して名前は決めてあった。

「岬(みさき)」

いつも呼びかけて、抱っこできる日を楽しみにしていた。


しかし、生まれて病院にいる間に

義母が知り合いの紹介で、あるお寺の僧侶に名付けを頼んでしまった。

ガ~ン!

ほどなく、いくつかの名前を書いた紙が届き

その中から好きなのを選べと言う。


好きもなにも…

「頼益(よります)」「経稀(けいき)」「常時(つねとき)」

我が理想から百万光年ほどかけ離れた微妙な名前が並び、絶望。

おすすめは「房太郎(ふさたろう)」らしい。

房太郎だけ、大きな字で書いてある。

ミサキ…一夜にしてフサタロウ…。

あんまりじゃ…。


ハッ!隅に小さく「マコト(仮名)」とある。

選ぶも何もない…平凡そうなのはこれのみ。

うっうっう…さようなら…ミサキ…こんにちは…マコト。


今の私ならフサタロウも有りだけど

若かったもんで、イメージ先行だったわけよ。

見も知らん坊サマに付けてもらうよりは、自分たちで付けたかったしさ。

悲しかったぜっ!

でも名前は生涯つきあうもの…

もめて嫌な思い出になるのは避けたかったのよぉぉ~!


それでもまぁ呼んでりゃ慣れてくるもんで、悲しみも薄れたある日…

名付け親の僧侶から、決まった名前を書いた額が届く。

アフターサービスみたいなものであろう。


      父 ヒロシ

      母 ヨシコ

      長男 マコト


ヨシコ…?なんでヨシコ?

「あ~ら!間違えちゃった~!」

義母が叫ぶ。


この僧侶は、両親の名前を考慮して子供の名前を決めるという。

仲介してくれた知り合いに頼む時

お父さんの名前は?と聞かれて「ヒロシ」

お母さんの名前は?と聞かれて、義母はつい自分の名前を言った。


確信犯ではない。

この人、本当にうっかりそういうことをやってのける。

フサタロウだろうと、マコトだろうと

夫とその母親の間に生まれた、それこそ禁断の子供用の名前である。

事故だ…事故。

ひたすら自分に言い聞かせる。


さて6年後、ひょっこり二人目が出来る。

胎児が男とわかってから、私は密かに決意していた。

「この子は卓郎(タクロウ)じゃ!」


前回は失敗したが、今度こそ!

夫の初浮気も発覚して、つらかった妊娠期間…

これくらい許されてもよいはずじゃ!


お腹のタクロウちゃんは、月満ちて元気に生まれた。

生まれて数日後、初めて見舞いに来た夫に言う。

       「名前は決めてるからね」

愛人のために、女房のお腹の子はよその子だ…などと世間に吹聴した男に

名前なんぞ付けさせないもんね~!


あ~、それ…夫はのんびりと言う。

「もう決まってるよ」

       「ええっ?」

「ヨシキ(仮名)。お袋が自分のヨシの字をつけて、ヨシキになった」

       「タクロウよ!この子はタクロウ!」

「オレは構わないけど、もう届けは出したみたいだぜ」 


くっそ~!またもや失敗に終わった~!

なにしろこっちは入院中…身動き出来る者が有利なのだ。

夫と完全に和解しないまま出産に至ったため、連絡ミスが敗因であった。


もう何を言っても遅い。

名付けの段階で汚点を残すより

おばあちゃんにかわいがられるほうが、この子にとって幸せだ。

わ~ん!さようなら…タクロウ…こんにちは…ヨシキ。


呼んでいると、また慣れてきた。

ヨシキもかわいいじゃないか…。

半ばヤケにも似たあきらめを道連れに生きるようになったのは

この時からだと記憶している。


余談ではあるが、夫は子供たちの名前を正しく書けない。

棒が抜けたり多かったりする。

たまたまこの二つの名前に、夫が勘違いしたまま覚えた漢字が含まれていた。


練習させたこともあるが、直らない。

指摘されると、意固地な反抗心が芽生えるようだ。


子供たちも成長し、何かの機会に夫が名前を書くことも無くなったので

これはこれで安全、と放置することにした。

成人した子供の名前を悪用する懸念が無いからである。

この男ならやる。


愛情の有無を問うよりも、心配がひとつ減ったことを喜ぼうではないか。

図らずもこれらの名前になったのは、そのためだったのかもしれない…

子供たちも無事大きくなったしね。

これぞプラス思考!と、満足する私である。
コメント (22)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

四丁目の夕日

2009年07月27日 09時31分28秒 | みりこん昭和話
昔むかしの話。

「助けてっ!」

商店街のヒコ兄ちゃんが、裸足で駆け込んでくる。

親父さんが包丁を持って追いかけて来て、二人で家の中を走り回る。


「父ちゃん!カンベンしてっ!」

「いいや!今日という今日は許さんっ!」

いつものことなので、うちの家族は気にせず晩ごはんを食べている。


お菓子屋の跡取り息子、高校生のヒコ兄ちゃんは生意気盛りなので

しょっちゅう親父さんと喧嘩になるのだ。


ひとしきり走り回ると、疲れたのか二人で帰って行く。

裸足で来たヒコ兄ちゃんは、帰る時いつもうちの履き物をはいて帰る。


時々、ヒコ兄ちゃんのお姉さんも来る。

店を手伝っていて、やっぱり親父さんと喧嘩したと言う。

家出して来た…と泣いている。

普段着に、よそ行きのハンドバッグを持って来るのがお決まりだ。

黒いエナメルのハンドバッグは、蛍光灯の下でピカピカ光り

私はうっとりしてしまう。

このバッグを持ちたいから家出するのかな…と思っていた。


「泊まればいいのに」

と言うと

「女の子は、簡単によその家に泊まるもんじゃないんだよ」

祖母が言う。

母がなだめて連れて帰り、10メートルの家出は終わる。


家から3軒隣りの「中華そば さらしな」には

私の大好きなスミ姉ちゃんがいる。

両親の店を手伝う看板娘だ。

働き者のべっぴんさん…と大人たちに評判であった。

おはじきやお絵かきでよく遊んでくれた。


幼稚園の夏休み…ラジオ体操に行く時

大きなカバンをさげて、一人駅に立つスミ姉ちゃんを見た。

いつものエプロンと三角巾じゃない。

長い髪をたらし、花柄のワンピースを着て、とても綺麗だった。


駆け寄ろうとしたが、行ってはいけない気がして

そのままラジオ体操に行った。

スミ姉ちゃんが、真っ赤なハイヒールを履いていたからだ。

都会へ行くのだ…そしてもう帰って来ないのだ…と思った。


「さらしな」は、それからしばらくして閉じられた。

スミ姉ちゃんは遠くへ行ったのだと母が言った。

好きな人がいたけど、親に反対されて家を出た…

かわいそうに…つらかったろうねぇ…

近所のおばさんたちが話しているのを聞いた。


銀行の前の広場で、タヌキを一匹売っているおじさんがいた。

山でつかまえたと言う。

人だかりの中で「誰か買ってくれ~」と叫んでいた。


初めてタヌキを見た。

タヌキというものは、立って笠をかぶっていると思っていたので

そりゃもうたまげた。


母に「買って」と言うと

「あんなもん連れて帰ったら、ばかされるよ」

と断わられた。


小学校に通い出すと、時々帰り道に不思議なものを売る露店が出現する。

ヒヨコや型抜きなどポピュラーなものもあったが

試験管に入っている、やたら派手な色のゼリーや

うまく育てたらガメラに成長する亀…なんてのもあった。


中でも圧巻は、人体にかざすと骨が透けて見えるという

手のひらサイズの黒い箱「レントゲーン」。

骨が折れていたらすぐ見える…とおじさんは言う。

これは便利だ!買わなければ!と走って帰ってねだるが、あえなく却下。


「これさえあれば、みんな助かるのにっ!」

などと泣いたりわめいたりする。

どう助かるのかは、本人にも不明。

やっとこさお金をもらって駆けつけてみると、店はもう無かった。

「そんなもんなんだよ」

父が言った。


懐かしいとか、戻りたいとは思わないけど

一生懸命生きている者を笑う習慣は無かった。

いい時代だったとすれば、そこかな。
コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

お葬式

2009年07月25日 11時39分19秒 | みりこんぐらし
先日、夫の祖父の法事があった。

亡くなって十数年になる。

みんな忘れていたので、日にちが過ぎてしまい

早逝した誰かと一緒に営んでお茶をにごす。


「ご法要やお墓参りで、皆さんご先祖様におっしゃいます。

 “安らかに眠ってください…そしていつまでも私達を見守ってください…”

 寝てていいのか、起きてないといかんのか、どっちにせぇ言うんじゃ~!

 …とまあ、仏様になられたかたも、なかなか忙しいわけですが…」

お坊さんの話も最近はくだけていて、我が一族もバカウケ。

「忙しい…わはは!忙しいだって!」

叔母は、何度も繰り返して大笑いしている。


この法事の主人公である亡きじいちゃんは

若い頃から妻と長年別居したまま、放蕩にいそしんだ。

年老いて妻の元に戻ってからは、入退院を繰り返す。

帰ってきたのは、家族の大切さに気付いたからではない。

最後の愛人と別れ、行く所がなくなったのだ。


祖母は昔の女なので、あれこれ恨みがましいことは言わない。

しかし、母親の苦労を知っている子供たちは

馴染みの薄い父親に、強い肉親の情を持てないようだった。


祖父が入院しても、我々孫世代は

それぞれの親から見舞いをきつく止められていた。

行ったのが知れると、心配していることになり

他の兄妹やその配偶者から、祖父を押しつけられる可能性が高いと言う。


やがて祖父は、長い闘病の末、病院で亡くなった。

享年100才。


「もう危ないから、すぐ来てください…」

病院から何度も催促されたが、年老いて動けない祖母はもちろん

子供たちは誰も行かなかった。

最期に立ち会った者が遺体を引き取り、葬式を出す羽目になるからだ。


危ないと聞いた義母と、夫の姉カンジワ・ルイーゼは

○○町に行くと私に言い残し、急いで出かけた。

祖父の病院のある町だ。

いいとこあるじゃん…と思っていたら

その町へ新しい喪服を買いに行っただけだった。


ほどなく臨終の連絡が入る。

兄妹6人で一昼夜に渡るなすり合いの末

シブシブ義父が、業者を伴って遺体を引き取りに行った。


しかし、困ったことになっていた。

祖父の口が、ぽっかり開いて閉まらない。

死人の口が開いているのは

看取った身内が誰もおらず、一人で死んで放置されていたのを意味する。


少々ならいいが「あ~!」と叫んでいるように全開なのだ。

明日の葬儀には、遠くから祖父の兄妹もやって来るので

見られると都合が悪いらしい。


「病院も、少しは気を利かしてくれりゃいいのに」

などと言ってうなづき合っている。

遺体を引き取りに行く、行かないで一時険悪だった兄妹仲も、これで元通り。


一同、遺体のまわりで頭を寄せ合い、思案。

「ヒロシ、あんた、ちょっと両手ではさんでごらんよ」

そう言われて、夫が頭とアゴを両手ではさみ

力任せに閉じようとしたが、びくともしない。


「そうだ!蒸しタオル美容法は?」

叔母の提案で、熱いタオルで温めても効果なし。

なにしろ死人なもんで、思うようにいかないのだ。


「アゴの骨をどうにかしてはずして、いったんブラブラにしてみたら…?」

などと過激な意見も出る。

「あんまりやると、死体損壊とかになるんじゃないのけ?」

「なぁに、明日にゃ焼くんだから、大丈夫じゃ」


準備や配慮を怠っておいて、結果にジタバタするのは血筋らしい。

最終的には、おたふく風邪の時みたいに

アゴから頭頂部にかけて、タオルできつくしばり

一晩置いておこうということに落ち着く。


頭のてっぺんで結ばれたピンクのタオルを見て

小さいひ孫たちが「リボンちゃん!リボンちゃん!」と興奮する。

吹き出しても、とがめる者はいない。

老いも若きも皆、はははは…と一緒に笑っている。


翌朝…努力の甲斐もなく、改善は見られなかった。

「だめじゃ~…」落胆する一同。

最後はあきらめ、全開の口に大輪の菊の花を突っ込んで葬儀に臨んだ。


喪主の挨拶を誰がするかで、直前までもめる。

長男がするのが筋だろうが

この人、昔から持病を理由に面倒なことは何かと避ける。

よって急遽、次男である義父がすることになったが

日頃の口達者はどこへやら、上がってしまってしどろもどろ。

「病魔に冒され…病魔と戦い…病魔に勝てず…とうとう病魔に…」


…100まで生きといて、病魔もなんもあったもんじゃないわよ…

叔母たちがささやいて、ヒヒヒ…と笑う。

愛する旦那を小姑に笑われて、義母は機嫌が悪くなる。

双方の中間に座っていた私は、両方から「ねぇ~!」と相づちを求められ

へへへ…とにごす。


夫一族の葬儀は、内容に違いはあれど

たいていこのようなことがあって、わりと楽しい。

長生きの家系なので、めったに人が死なず

仏事に慣れたこうるさい仕切りたがり屋がいないからであろう。


死ぬ方も、もう充分生きたので、惜しまれつつ去る感じではない。

天寿を全うした人の葬儀は

お互いに「はい、ご苦労さん」というようなさっぱりした雰囲気がある。


私の時も、ぜひこんなふうにしたいものだ。

ウケるためなら、タオルでもパンツでもかぶるぞぃ。


なお、これは決して死者をあざ笑い冒涜するものではなく

根底に愛情が存在することを一応明記しておく。
コメント (13)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

スタァ・にしきの

2009年07月23日 09時54分40秒 | みりこん昭和話
子供の頃、友達の家に遊びに行って

びっくりしたことがある。


その子には、当時高校生のお姉ちゃんが一人いた。

お姉ちゃんと共有の子供部屋に入ると

天井を含むスペースの半分が

当時の人気アイドル「にしきのあきら」で覆われている。


大小のポスターや切り抜きが隙間なく貼られ

どこを向いても「あきら」「あきら」「あきら」…。


本棚に「明星」やら「平凡」やらの雑誌が

ずらりと並んでいるのも圧巻であった。


極めつけは、机の正面に貼られた手書きの大きな紙。

“あきらとアケミの約束”

  「一生あきらを愛します」

  「あきらのお嫁さんになります」

  「ごはんは4杯でやめます」

  「お菓子は一回2袋まで」

  「絶対やせます」


こ…これは…!

小さく、食の細かった私(当時)にとって

その数字は衝撃であった。

芸能人とはいえ、よその男を「愛します」と書いて

親に怒られないのも衝撃だった。

今にして思えば、どっかの国の将軍様みたいな扱いであろうか。


遊んでいると、ドス…ドス…と足音が近付いてきて

おすもうさんのようなお姉ちゃんが部屋に入ってきた。

さらに衝撃。


     「こ…こんにちは…」

「こんにちは」

お姉ちゃんはぶっきらぼうに答え、大きなため息をつきながら

あの約束が書いてある机の前に座る。

椅子がギギ~ッと苦しそうな音を立てる。


「外で遊ぼう…」

友達に促され、私達は部屋を出る。

お姉ちゃんが部屋に入って来たら、妹は外に出ることになっているらしい。


庭へと続く廊下を歩いていると、部屋から

「あきらぁ~っ!」

という叫び声が聞こえた。

私は衝撃の嵐に疲れ果て、早々に退散した。


その後、あきらは女優さんと結婚し

お姉ちゃんの夢は破れた。

体重もそのままだ。

残る約束は「一生愛します」だが

空に太陽がある限り、継続しているかどうかは不明である。

たずねる勇気は無い。
コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

うどん屋事情

2009年07月21日 10時58分40秒 | みりこんぐらし
知人の息子さんが数年前に始めたうどん屋さんは

今、存続の危機に瀕している。

その親に「行ってやって」と頼まれたこともあり、夫婦で出かけた。


「まだ大丈夫だよ。だって息子の車、新車じゃん」

などと言いながら、店に入る。

お客の車は当然ながら青空駐車だが

店主の車だけは、立派なガレージに入っている。

続かない店というのは、構想の段階から、その片鱗が出ていると思う。

ガレージも結構だが、奥ゆかしさやへりくだりの有無が

そのまま経営に現われるような気がする。


しゃれたファミリーレストランを意識したという

金をかけた大きな店舗は、日曜の昼時だというのに閑散としている。

これも危ない店の特徴で、どことなく薄暗い。

雰囲気に加え、電灯を節約しているのと

大きな窓の掃除が行き届いてないからだ。


おすすめのメニューは、開店当初から同じ、かやくごはん定食。

野菜の炊き込みご飯と、かき揚げうどん、昆布の佃煮のセットだ。

以前よりも、品数も彩りもぐっとお地味な組み合わせ…

わりと高級なお値段は据え置き。


うどんのダシで炊いたごはんと、ダシを取った後の昆布

小さなかき揚げは、かやくごはんの具の何点かを使用。

3品が、それぞれお互いの「使用後」で出来ている。

利益率が高いからであろう。

助け合いは歳末だけにしてくれ。


夫は、大好きなタマゴが入っている鍋焼きうどんを注文。

作るほうの気持ちや都合が多少わかるので

できるだけおすすめ品や、同行者と同じものを注文するのが私の主義だが

この時期に鍋焼きうどんは無理だった。


鉄鍋の中から、なぜかカンピョウあらわる…。

頭をひねる夫。

さらに糸こんにゃくもお出ましになる。

プププ…と笑う私。

夏にそんなもん食べるからじゃ。


もっと掘って!と言ったら、牛肉のかけらとニンジンも発掘された。

わたしゃ、もう大喜び。


ちょっと分けてもらって、さらに興奮。

元々濃すぎる味に、カンピョウや牛肉のダシが出て

思いっきりくどいお味。

うひゃひゃひゃ!味の物置小屋や~!


そこへ親登場。

「あら~!来てくれたの?ありがとう~!」

息子の店の様子を見に来たらしい。


「味はどう?

 なんでお客さんが来ないのかしら…やっぱり不況だからかねぇ…」

などと矢継ぎ早に言われるが

「そうねぇ…不況だからかねぇ…」

とオウムのように答えてごまかすしかない。


「何か気が付いたことがあったら、言ってね!」

…言えるわけがない。

かわいい息子のために土地を譲り、店まで建ててやったのだ。

えらそうに余計な口をたたこうものなら、絶対怒る。


自分のことならまだしも、我が子に関するあれこれを

他人から言われるのはつらいものである。

長くないであろうこの店の歴史に

瀕死の病人をムチ打った者として刻まれるのはゴメンだ。


知人は厨房へ入り、小鉢を持って戻って来た。

「これ、まかないなんだけど、よかったら食べて」

…肉じゃがだった。

爆笑したいのを必死でこらえる。

鍋焼きうどんに入っていたのは、この肉じゃがの一部であった。


残り物をまかないにするのは聞いたことがあるが

逆のケースは初めてだ。

どうせなら、いっそじゃがいもも入れて欲しかった。


肉じゃがは、うどんよりずっとおいしかった。

コメント (18)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みりこんのよくある一日

2009年07月19日 10時33分26秒 | みりこんぐらし
知りたくないだろうが、私のごく一般的な日常をお話ししよう。


7月○日晴れ

朝…家族を送り出してから、家事と化粧。

“壁”は早めに塗っておかないと、日が高くなってからでは面倒になる。


顔の次は、次男に頼まれた仕事用車両のバックミラーに色を塗る。

今日は真っ赤をセレクト。

あ~目がチカチカする…と後悔。


昼…夫と昼食。

暑いから食欲がないわ…と言いながら、おかわりをする。


午後…毎週無農薬の野菜を届けてくれる友人と談笑。

ミラー塗りを仕上げ、その後長い休憩に入る。

夫の実家での食事作りは、先日無事終了したので

最近はタラタラしていることが多い。


夜…家族で夕食。

今日の出来事などを楽しく談笑。

その後、夫はサウナへ。

残った者は、思い思いの余暇を楽しみ

ああ、今日も平穏だった…と感謝しながら就寝。


…内訳をお話しようではないか。


朝…出社したら車両のミラーがひとつ、何者かに盗まれていたそうだ。

「このところミラー泥棒が続くから、またスペアを買った。

 変な色を塗っといて」

      「げ~!」

「暇なんだろ?」

ミラー泥棒…ありそうな話だが、我が家の場合は少しニュアンスが違う。


トラック系のバックミラーは

乗用車と違ってドライバー1本で簡単に取りはずせる。

泥棒が増えたのではない。

泥棒なら、もっと金目の物を狙う。


一番簡単で、しかも無いと公道を走れず現場に入れない。

破壊と違って警察沙汰になりにくく、罪の意識も軽い。

足止めには最も効率が良いとわかっている同業者の嫌がらせである。


皆が潤っていた昔とは違い、今は少ない仕事の奪い合いだ。

生き延びるには、回りを蹴落とすしかないと思ってしまうのであろう。


ミラーが無くなる前日の深夜、敷地に入るのを見た者がいるので

どこの誰かはわかっているが

寝ずの番をして捕まえたところで

この程度の窃盗では、弁償で不起訴になってしまう可能性が高い。

いちいち気にするのは、ばからしい。


家に運びこむと、たかがミラーといえどもデカい。

新品のままでは、万一再利用されたらしゃくだと男どもは言う。

はずしたら即座に海へポイなのはわかっているが、せめてもの抵抗。


夫など「嫌がらせをされてるうちが花」と言う。

私も「するようになったらおしまい」と思う。

何回でもやるがいい。

何回でも付け直したるわい!


夜…家族で楽しく談笑した内容は、まあこんなところ。

昼間次男は、ミラー泥棒とは違うもうひとつの同業者ご一行に囲まれたと言う。


こっちはちょっと暗黒の世界の息がかかっているので

やることが強気でストレート。

今日は、取引先が推奨する安全面を考慮した上着を

いち早く着ていたのにインネンをつけられたそうだ。


「おまえが着たら、うちが着てないと言われるじゃないか!」

それで言い合いになったと言う。

なんと幼稚だこと。


まあ、それもわからないではない。

経営難のベテラン、左前にかけてはオーソリティーの我が家は

昔から被服費は出ないので、仕事着が欲しけりゃ自費だが

数年前まで暗黒のお力で羽振りのよかったその会社は

仕事着を経費で買って配布する習慣がついてしまっている。

よそが着たら、自分のところも買ってやらないといけない。

社員の数が多いので、死活問題であろう。


兄がいたら、絶対こういうことにはならない。

次男はゆるいキャラなので、向こうもつっつきやすいようだ。

理由はなんでもいい。

兄と入れ替わる形になった若い次男をつぶそうとしているのである。


のんき者の次男は、さほど気にしてない。

「次から着て来るなって言われたけど、どうしようかな~。

 この服、気に入ってるのに。

 母さんだったらどうする?」

    「着る」

「7対1でも?」

    「迷わず着るね。

     ニコニコして着るね」       

「喧嘩になったら?」

    「チャンスじゃん。

     無抵抗で殴ってもらって、傷害に持ち込むね。      

     警察沙汰になったら、とうぶん公共事業には入れないもん。     

     相手が多少でも賢かったら、口だけで絶対手は出さないはず。
          
     どう転んでも、大丈夫。

     怯えて着なくなったと思われて、喜ばすことはないわい」

「そうか…。次はそうしてみる」

     「健闘を祈る」


仕事を取るということは、よその食いぶちが減ることだ。

これからは命がけでないと、この世界では生きていけない。

長引く不況で、近隣の業界はそれほどすさんでしまった。

好きな仕事をしたければ、因縁すらつけられない男になるしかないのだ。


夫 「これからはすぐオレに電話しろ!駆けつけるから」

次男「無理だよ、父さん。今の現場、会社から30分かかるよ。

   来る頃にはボコボコにされて、オレは倒れてるね」

私 「このでっかいお腹から“どこでもドア”が出てくるかもよ」

長男「そのドア、ホテルへ直結してるから

   おまえ、喧嘩になったらどっかホテルの前まで走れよ」

次男「父さんのは“どこでもドア”じゃなくて“誰でもドア”だと思うけど…」

夫 「多少は選ぶぞ」

あはは…おほほ…楽しく談笑。


我が子が理不尽なことをされて、気持ちのいい親はいない。

愛用の、例の出刃包丁が脳裏をかすめるくらいだ。

しかし現場で囲むなどと短絡的な行動に出るのは

相当焦っているからだと思われる。


傾き初心者は、初めて体験する八方ふさがりに夜も眠れないであろう。

誰かを攻撃していなければ、いてもたってもいられないと思う。

しかし傾き歴の長い我が家は、すでに慣れている。

いまさらジタバタすることが無いのは、不幸中の幸いである。


今後も何をしでかすかわからない。

各社、生き残るために毎日が戦いなのだ。

我が家は昔から守備一筋…それでいいと思っている。

ガンジー主義のような、立派なもんではない。

火の車に乗車中なので、よそのことまで気にしてはおられませんのよ。


…私の平凡な一日は、こうして終わる。
コメント (12)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

夏に花散る

2009年07月17日 10時14分01秒 | みりこんぐらし
夫の相手は、近場のしろうとがメインである。

車を廃車にしたと言う○○オートサービスも町内の修理工場だ。

ウソをつき慣れている人間は、信憑性にこだわるあまり

話の中にたいていわずかな事実を織り交ぜる。

翌日、この工場に電話してみることにした。


電話をしてナンバーを言い、その車に関わっていないか

それとなくたずねてみるつもりだったのだが

その前にすべてのことが判明した。


「○○オートサービスに、あの車があった!」

長男が、そこに勤める知り合いに聞いたのだった。


先月の末…つまり車検期日の直前

事故車として運び込まれたが

持ち主である隣町の中年女性は、現在わけあって動けないそうで

せかすのもナンだし…ということになり

まだそのまま置いてあるという。


「じゃあ、名義変更はしてたんだね?」

私はホッとする。

なんていい人なんだ!…とまで思ってしまう。


結果として、住所氏名も知ることになったが

そんなこたぁどうでもええわい。

どこで知り合った、なんでこうなった…

何べん言おうが考えようが、な~んもなりゃせん。


猿に「どうして木に登った」

ヘビに「どうしてタマゴを飲んだ」と責めるのと同じなんじゃ。

それが自然、それが習性なんじゃ。

登ったのがウルシの木であろうと、飲んだのが腐ったタマゴであろうと

わしゃ知らん。

長男に責任がないとわかりゃええんじゃ。


「一人相撲で川へ落ちたんだってさ」

「あら、あら」

「レッカーで引き上げて来て、そのままらしい。

 廃車にするしかないってよ」


転落事故はたいしたことなかったのだが

水のない川から這い上がる時に、足をすべらせて落ち

腰を骨折したという。


昔から、夫と付き合う女性はよく事故に遭う。

それは決して天罰ではない。

ヒマと体力だけは豊富な夫の

積極的で過密なデートスケジュールに合わせていると

仕事や家事育児のついて回る女性は

どうしても疲労するし、睡眠不足になるからだと思われる。

気を付けていただきたい。


腰にダメージを受けたら、不倫どころではなかろう…

不器用な上、弱者には冷たい夫が

介護デートまでするとは到底思えない。

残念ながら、恋の花は早々に散るであろう。


車を調達してやる愛があるなら

廃車手続きも夫が代わりにしてやればいいようなもんだが

有形無形にかかわらず「後始末」が苦手な性分…いたしかたない。


私も家庭を警察にしたくないと言いながら

今回は我が子が関わっていたのについ興奮して

いつもより少々強めに出てしまったかもしれぬ。

悲しいウソをつかせないために、次回からは気を付けたい。


そもそも最初から夫を警戒し、要望を否定しておけば

こんな事態にはならなかったのだが

すべて無視、すべて却下…

ツンケン殺伐では、せっかく与えられた人生、あまりにも味気ないではないか。


夫の両親の食事作りに励んでいた間

あわただしさにかまけて

つまらぬことを知る暇がなかったのは、幸運であった。


急に決まるゴルフコンペ、時々消える外出着…

あら?と思ういくつかは確かにあったが、正直どうでもよかった。

こういうことは何回練習しても

「まあステキ!よかったわね!」

という気には、なかなかなれない。

知らなかったことは、無かったことだ。


今後も知りたいと願う予定はない。

どうせショボい内容に決まっている。

もうちょっと…華麗やら、優雅やら、出てこんかい。


お見舞い代わりに税金を支払い、私の中でこの件は終了した。
コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

夏に花咲く

2009年07月15日 14時30分49秒 | みりこんぐらし
先日、我が家ではとある問題が勃発した。

ことの発端は長男の車。

長男は普通車と、趣味の釣りに使うボロい軽自動車の2台を所有している。

先月、軽の車検が近付いたので、ひとまず廃車にすることにした。


こういう時には鼻のきく夫…

その軽を自分の知り合いに譲ってやってくれ…と言い出した。

長男も父親が尋常でないのは熟知している。

子供の頃から、私とは別の意味で煮え湯を飲まされてきたのだ。


しかし、あまりに熱心なのでしぶしぶ承諾し

その代わりに…と条件をつけた。

即座に名義変更をして任意保険に入り

廃車の時に払うつもりだった税金を払って領収を返して欲しい…。

夫は「自分が責任持って、必ずちゃんとする」と約束した。

ピンとくるものはあったが、せっかく父子が親しく話しているし…

と思い、口を出さなかったのが悪かった。


こういう時にはやることの早い夫…

長男の承諾を得ると

軽はさっそく現金7200円を添えた税金納入用紙と共に

夫によってどこかへ運ばれて行った。

税金の支払いを条件付けたのは

車のその後を知るための唯一の手がかりだからである。


何回か夫に「領収は?」とたずねたが

「会ってないから、まだもらってない」と答えていた。

そして先日、税金の督促状によって、約束が履行されてないのを知った。


税金を払ってないということは

先月受けるはずの車検を受けてないということになる。

このぶんだと、名義変更も怪しい。

車検を受けていない、税金も払ってない長男の車が

堂々と公道を走行していることになってしまう。


これには長男も甘いところがあった。

この子は車が好きで、名義変更や車検にも自分で行くため

誰もが出来ると軽く考えているふしがある。

民間で勝手なことをすると経済効果も上がらないし

責任の所在が不明瞭になりやすくて危険だ…セコいから足を洗え…

とよく言っていたのだが、今回こんな事態になってしまった。

何を言ってもあとのまつりだ。


もちろん、夫に厳重抗議。

こういう時には逃げ足の早い夫…

「うん、うん、わかった…聞いてくる」

と出かけてしまった。

税金のお金は、おそらく使ってしまったのだろう。

領収が返ってくるまで、任意保険は残しておいたことに胸をなでおろす。


「責任持ってちゃんとやるって約束したじゃん!」

なんて、今さら子供っぽいセリフをガタガタ言う気は無い。

責任だのちゃんとだの、無しで生きている男なのだ。

よ~くわかっているつもるなのだが

時々「普通の人」と錯覚してしまう我々が悪かった。


まだ起きてもいないことを心配するのは、無駄なこと。

たいていのことは、起きてから考えればいいのだ。

起きないに越したことはないが、それでも起きてしまうことはままある。

心配して待っていても、突然降ってわいても、起きた時のショックは同じだ。

「やっぱり…」と言うか言わないかの違いだけである。

しかも突然のほうが、後から考えれば良い判断が出来ているものだ。


亭主の浮気や自分に関わる問題なら、それもよかろうが

今回は、うかつだった自分たちの問題だけではすまない。

車を譲ったことで、見知らぬ相手もろとも

面倒なことに巻き込まれるのはごめんだ。

聞いた名前が本当なのかどうかも、今となっては怪しい。


「聞いて来る」と出かけた夫の答えは

「壊れたから、○○オートサービスで廃車した」だった。

我が子が絡んでいるだけに

怒鳴り散らして、ついでにぶんなぐりたいのはやまやまだが

大事なことなので、感情でうやむやにしてはならぬ。


なごやかに「では、相手から廃車証明書をもらって来て」ということになる。

「必ずだよ」…長男もいつになく強く言う。

「わかった。明日もらってくる」


廃車するにも納税証明がいる。

税金を払っていないのだから、廃車証明書なんぞあるわけがないのだ。

そんなことで夫を責め、勝者になる気はさらさらない。

夫にとっての「明日」は

「今でない」という意味であり、永遠に来ない日でもある。


こういう時にはカンが冴える夫…

自分の発言で墓穴を掘ったのを察知したようだ。

「なんで関係ないオレが責められにゃならん!」

と席を立つ。

関係、大ありじゃん…と顔を見合わせる長男と私。


「父さん、待って!大事なことだから、ちゃんと最後まで話し合って!」

長男が追いかける。

「僕が○○オートサービスに電話して確認するよ。

 相手の人にも連絡するから、電話番号を教えて」


こういう時には逆ギレして怒鳴る夫…

「電話なんかせんでええんじゃ!しつこいんじゃ!おまえら!」


我々はこの時点で追撃をやめた。

正義をふりかざして結束した母子に

2対1で責められるのはいやなものだろうし

誰も見てはいないが見苦しい。


言動から察するに、車が壊れて今は乗ってないというのだけは

事実であろうと思われる。

だから、夫にとっては「終わったこと」なのだ。


乗ってさえいなければ、こちらはとりあえずかまわない。

そしてこれは、すでに車だけの問題ではないことを感じた。

また、車の買えないような相手とつきあっているのだ。


車関係の費用を会社任せにしてきた夫は、維持費にうとい。

車一台にいろいろ面倒臭いことがついて回るのがよく理解出来ていない。

しかも隠したい部分があるので、明確な説明ができない。

よって、その場を逃れるためにウソにウソを重ねさせるだけだ。

手負いのゴリラに…気の毒ではないか。

自白を待ってイライラするより

念のためにこっちで停止の手続きをすればすむことである。


現実から完全逃避して、恋に全力投球できるのが夫。

その天真爛漫が、結果的に家族を傷つけることになるわけだが

傷つくのは家族の勝手であって、夫にはなんらその意思はない。

だから、わざわざ傷つき嘆いてやる必要はないのだ。


起きたことは起きたこと。

その都度、緊急性のある問題だけに対処していれば

そのうちどちらかに“お迎え”が来て、静かになるであろう。


ま、夫の好きな夏が来て、まがりなりにも恋の花は一応咲いたようだ。

めでたし、めでたし。
コメント (15)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

禁断の恋

2009年07月12日 13時33分12秒 | みりこんぐらし
「○○産業のことですけどね…」

電話に出た途端

低くしゃがれた女性の声は、前置きもなくいきなり本題に突入。


「妹さんが、お姉さんの旦那さんを奪ったんですよ…」

そこは、ヤンキーがそのまま50半ばに老化したような

姉妹夫婦4人で経営している会社だった。

たまに取引がある。


姉妹夫婦で経営…とはいっても、姉のほうは先に嫁ぎ

残った妹が婿養子を迎えて取締役になった。

そこへ姉夫婦も戻って就職したという経緯なので

4人の関係は微妙なものがあるとは前々から思っていた。


電話の主は続ける。

「ですから、取引には充分気を付けてくださいねっ!」

         「…なんで?…」

「姉の旦那を寝取るような女が社長ですよ?

 泥棒じゃないですかっ!」

         「…タダなのに…泥棒?…」


電話の主は、イライラしてきた様子で声を荒げる。

「近所じゃ、みんな噂してますよっ!

 禁断の恋、禁断の恋って!」

         「…禁断の恋!」


ようやく我が意を得たり…というような口調で、電話の主は続ける。

「禁断の恋をするような女です。

 お宅も仕事でつきあいがあると聞いたもんで

 気を付けるように電話したんですよ…」


       「あの…血がつながってないんだから

        禁断の恋ではないのでは…?」

「禁断ですよっ!なにせ、きょうだいなんだから!」

       「本当のきょうだいなら禁断でしょうけど…」

「だって、不倫じゃないですかっ!

 しかも姉の旦那ですよ!

 そんなとんでもない会社へ仕事を回さないように

 親切で忠告してるんですよっ!」


電話は切られた。

しばらく「禁断の恋」の響きに酔いしれるワタクシ…。

めくるめく昭和の世界…。




子供の頃、実家の裏手に、小さな長屋があった。

行きがかり上、我が家が管理していた時期があり

そこの住民へかかってくる電話は、うちが取り次ぐ。

家の者は忙しいので、その担当はもっぱら私だ。


住民の一人に美しい若妻がいて

あまりお似合いではない年の離れたご主人と

幼稚園くらいの男の子、それに女の赤ちゃんと一緒に暮らしていた。

小汚い長屋に舞い降りた一羽のツル…

うらぶれた路地に咲く一輪の花…といったふぜいであった。


その若妻に、同じ男性からよく電話がかかってくる。

電話の後、若妻は一人でよく出かける。
     
電話のウキウキ加減、出かける時のおしゃれ加減から

子供なりに「嵐の前」を感じていた。


ご主人が帰って来て

「うちのがどこへ行ったか知りませんか?

 上の子に子守りをさせて、出かけているんです」

と聞かれたことも何回かある。

男から電話があって出かけた…

などと余計なことを言ってはいけない気がして

知りません…と答えた。


そのうち、若妻は消えた。

自分の姉の夫と駆け落ちしたのだった。

ご主人がうちへ来て、泣きながら話しているのを聞いた。

「何が悔しいといって、自分の連れ子だった上の子だけを連れて

 自分たちの間に生まれた赤ん坊は置いて行かれたことが情けない…」


身内と変なことになるのは罪深い…後で母が言っていた。

電話を取り次いでいた私も、なにやら悪事に荷担していたような気がして

少々後ろめたく、誰にも言えなかった。


その時はわからなかったが、子供を二人とも連れて出ても

両方置いて出ても、それはそれで

悔しさ情けなさは同じであろうと思う。

ただ、人は似合わぬ場所には居着かないものなのだ…

ということは理解した。

 
ご主人は赤ちゃんを遠い実家に預け

長屋を出て、都会へ働きに行った。

その後、大人になってから偶然ご主人を見かけた。

都会で修行し、その後始めた商売が成功しているようで

自分の名字を店名にしたハッピを着て

生き生きと働いていた。


あの赤ちゃんだろうか…ご主人によく似た若い女の子も一緒だ。

私のかすかな罪の意識も、ようやく消えた一瞬であった…。



話は戻るが、電話をかけてきたのはたぶん…というより絶対

妹に旦那をとられたお姉さん自身だと思う。

二、三度見かけた程度だが

酒とタバコでつぶれた声にも聞き覚えがあった。


生き地獄で苦しんでおられるのであろう…

あまり親しくもないうちにまで電話してくるほどだから

知り合いという知り合いに

片っ端からこんなことをしているに違いない。

何軒やっても、苦しみからは逃れられないはずだ。

やればやるほど、つらくなると思う。


お姉さん…どうかお心やすらかに…

こういうことは、あなたにだけ起きることじゃないんですよ…

これをバネにしてください…


祈りもむなしく、その会社はやがて倒産した。

ま、いっか…お姉さんの望み通りになったし。
コメント (20)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

無理矢理相談室

2009年07月10日 16時27分03秒 | 検索キーワードシリーズ
あしあとサービスの「キーワード」がお気に入りなのは

以前お話しした。

どんな単語で検索して、うちのブログにたどり着いたか…を示すものである。


これは、自分しか見られない。

かなり笑えるのもあるが、中にはいたって真面目なものもある。


『逆告訴するには』 『パン焼き釜 図面』 『履歴書 印鑑欄』

『犬 飼うには』 『バレーボール 9人制 守備範囲』

『イブファーレ 公式サイト』 『双子 初潮』

『会社の先輩 義母 香典』などなど…


そんな言葉で検索し、私のブログへ来てしまった方々に

深くお詫び申し上げる。

何の役にも立たなかったであろう。

ごめんなさいね。


そんな中で、ちょっと心配なものもある。

『子連れ 住み込み』と『小学生 子連れ住み込み 就職』。

一人で二つ検索したのか、二人いるのかはわからない。


年端もいかないお子様を連れて、住み込みで働ける所をお探しか…

もしや私のような、特技無し、資格無し、帰る場所も行く場所も無し

もちろん金無し…

無い無い尽くしの境遇なのだろうか…

検索の目的も定かでないのに、私の中ではそんなことになる。


しかし、なんとなく男性ではないような気がする。

「子連れ」とは、母親特有の表現ではなかろうか。


若く、愚かだった私と重なる。

家を出ることばかり考えていたあの頃。

泣き出したいのは自分のほうなのに、じっとこらえ

翻弄されるしかなかった子供たち。

…ああ、想像はどこまでも広がっていき、反応せずにはいられない。


子連れで住み込み就職できる所は限られる。

ホテルや寮などの宿泊施設、風俗及び遊技場関係、医療機関などであろう。

その気になれば何でもできる…とよく言うが

自分はその気でも、子供が一緒にその気になってくれるとは限らない。

転勤ならあきらめもつこうが、環境が変わるというのは

大人が考えるよりも子供にはコタえるものだ。


子供を生み育て、なおかつ連れて就職しようかと思う人ならば

おそらく五体満足であろう。

パソコンが使えるという、能力的、経済的に恵まれた環境にあるとも言える。


それくらい、誰でもできるわい…とお思いの方もおられようが

住居があるからこそ回線が引けるし

さらにパソコンが買え、各種料金が支払っていけ

うちのようなつまらぬブログにたどり着くこともたまにはあろうが

居ながらにして多くの情報を得られるというのは

とても恵まれているのだぞ。

なにしろ、無くても死なないものに金が払えるのだ。

携帯も同じである。


人に頼んで検索してもらったとしたら

そんなことをしてくれる人間が回りにいることを喜んでほしい。

このキーワードでうちへ来るには、多少の時間と根気も必要であったろう。

時間があって根気があるなら、たいていのことは出来るものだ。


以上の条件が満たされているなら、現状に耐えることをおすすめする。

それどころではない深刻さだったら、シェルターや生活相談窓口などの

公的機関も今は豊富だ。

覚悟を決めれば、道は必ず拓ける。

しかし、これが私の身勝手な想像であり、杞憂に終わることを強く望む。



『入院中の患者のチン○を見て興奮する掃除のおばさん』

というのも、はなはだ心配である。

そんな掃除のおばさんがいるのであろうか。


病室に出入りするとはいえ

看護面では部外者のはずの清掃員が

患者のイチモツを目撃するチャンスのある病院が存在するとしたら

これは大変心配なことである。

プライバシー、ゼロじゃん。

枕元の財布や見舞金が消える日も近いと思われる。


看護師から聞いた話だが、死期の近い男性患者は

まずその部位から冷たくなっていくそうだ。

大事な所…というのは、それを示しているという側面もある。

確認のため、一度自分で病院へ就職してみてはいかがだろうか。


『愛人 手切れ金 相場』というのも心配だ。

相場など無い。

盗っ人を追いかけて、まだ金を払うつもりか。


そんな金があるなら、赤十字かどこかに寄付をしたらどうであろう。

香典返しのように

「長らくのご厚情、まことにありがとうございました。

 手切れ金は、慈善団体へ寄付させて頂きました」

なんて書いたハガキが届いたら面白いと思うのだが。


いや、浮気した本人かもしれない。

こういうことを心配するのはコモノなので

こじれてもたいしたことにはならない。

勤め先で注意されるか、女房になぐられるくらいだ。


いや、愛人本人かもしれない。

もらったモノが、あんたの相場だ。

相手が渋るようなら、その程度だ。



『浮気夫 操縦法』…これも大丈夫か?と思ってしまう。

だって、ハンドルの無い車を買ってしまったのだ。

操縦どころか、乗ったら最後

泣こうがわめこうが、どうしようもない。


ここはいっそ、激動や恐怖、不安に動じない

命知らずのレーサーを目指してもらいたい。

レーサーの散り際は、潔いものだ。

私もそれを目指しているので、共に頑張ろうではないか。


とっても身勝手、かつ想像のみ。

しかも誰からも相談されてない。

自分の頭の蝿も追えないみりこんの、無理矢理相談室でした。
コメント (16)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

モテ道

2009年07月09日 14時21分43秒 | みりこんぐらし
同い年の友人チヒロが、最近結婚した。

熟年の結婚は、若い時と違って地味で自由がきくぶん、急である。

久しぶりに聞く、景気のいい話ってもんだ。

もう一人の友人ハルミと一緒に、心ばかりの結婚祝いを届けた。


7才年下で初婚の彼は、家を建てて彼女を迎えた。

チヒロの成人した子供たちも一緒に迎えるのだから

アパートでは狭かろう…という理由からである。


独身が長かったので、お金持ちの彼ではあるが

狭かろう…と言ったって、普通、家まではなかなか…。

チヒロがいかに愛されているか、それだけでもわかるというものだ。


30代で夫を亡くし、2人の子供を育てながら

仕事に、そしてさまざまな恋にいそしんできた。

今回、優しい…しかも安定した高収入つきの

彼の熱意が実り、ついに結婚を承諾したのだ。


チヒロは、飛び抜けた美人!というのではない。

愛される女になるために、格別の努力をしているわけでもない。

ぽっちゃりしたかわいらしいタイプなので、多少若く見えるが

それだけではこういうことにはならない。


だったら…と私はチヒロの新居に向かう道すがら、ハルミに宣言する。

「今回はもう間に合わんけど

 次に女で生まれた時のために、今日は勉強するっ!」

「私もっ!」


チヒロの好みで設計したという新居は

新婦の老後に備えた、ステキなバリアフリー。

こんな気配りにも、うっとりしてしまう。


長身でスポーツマンタイプのご主人も交え

「今度、みんなで何か食べに行こう」

などと談笑する。


「行く行くっ!」

「なんでも食べるよっ!」

と即答する私たち。

しかし、チヒロはちが~う。


「和食?洋食?」

ご主人は、赤ちゃんに問いかけるように言いながら

真新しい結婚指輪を光らせ

“考える人”みたいなポーズで、隣に座るチヒロをじっと見る。


「ン~…」

チヒロはロングヘアを揺らし、小首をかしげて考える。

体をくねらせると、大きくあいた胸から谷間がチラリ…。

媚びているのではなく、自然にそういう仕草になるのだ。


こりゃ、たまらんわ…男だったら!


カックンカックンうなづきながら

「肉!肉!」と叫ぶ我が身のあさましさ…。


ご主人の前でメモ帳を出すわけにもいかず

そろそろ怪しくなってきた頭にインプット。

“即答しない”

“まず、ン~…って言う”

よっしゃ!これで来世はバッチリじゃ!

ハルミと私は目配せし合う。


チヒロは声が小さく、ポツポツと話す。

小さな声って、聞くために一生懸命になるものだ。

そして、口数の少ない者の話すことは、聞き入るものだ。

ご主人なんてもう、雨に濡れた子犬を見るような目で

チヒロを見つめる。


ふだん我々が認識しているチヒロの「おっとり」が

本当はすごい武器なのだと発見。


ささ、メモメモ。

“小さい声で話す”

“おっとり”


すでに我々の前途には、暗雲が立ちこめていた。

“おとなしい”

“口数が少ない”

これはもう、我々の辞書には存在しない言葉だ。

男(夫…ね)に飽きられ、そこにいるかとも言われなくなった女は

自身の存在を知らしめたい本能が表面化する。

腹から発声して、機関銃のようにまくし立てるのが習慣になっているのだ。


そりゃあね…薄々気付いてはいましたよ。

なんか、遺伝子からして違うんじゃないかな…と。


「いや!まだ物理的方法があるっ!」

帰りの車中で私は叫ぶ。

「胸の開いた、女らしい服を着るんじゃ!」


そうじゃ!外見で勝負じゃ!…

口々に言ってはみたものの、それはすぐにむなしい響きとなる。


「胸の開いた服って…あんた…尻はあるけど胸無いじゃん…」

「くっそ~!配分を間違えたか!」

「私もどっか行っちゃったんだよぉ!」

「探せよ!」

「ねぇよ!」

あらぬモノを探す二人。


「おお!そうじゃ!髪じゃ!髪さえ長ければ、ボロが隠れる!」

「全身隠れるまで伸ばさにゃ!」

「…化け物じゃん!」

「う~ん…今から伸ばしたって、白髪しか生えてこんだろうしなぁ」

「今回はもういいよ~。半分以上終わってんだから!」


“あるべきモノが、有るべきところに末永く滞在する”

もう、頭のメモに書き加える気は起きなかった。
コメント (16)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

シルク・ドゥ・女房

2009年07月07日 16時25分48秒 | 女房シリーズ
「あら、いいシャツ!」

ミエは、まずそう言ってほめてくれる。

「よく似合うわ!」

ここまではいい。


「…シルク?」

ミエは必ず聞く。

いまどきシルクのシャツなんか着るモンがいるものか。

「ううん、化繊よ」


ここからがミエならではのリアクション。

「ええ~っ?」

この世の終わりのように、おおげさに驚く。

「ごめんなさいっ!失礼なこと聞いて!」

てっきりシルクだと思った…

私はいつもシルクだから、あなたもそうだと思った…

ミエの中では、シルクでないシャツを着ている者は恥ずかしいらしい。


また、別の日。

スーパーで、子供の好きなアイス…ガリガリ君をカゴに入れていた私。

ハーゲンダッツを手にしたミエとばったり。

お互いに、子供の好物だと話す。


「え…!」

ミエは、口に手を当てて立ち尽くす。

「ごめんなさい…目の前でこんなもの買って、恥をかかせてしまって…」

本当に申し訳なさそうに言う。

ま、こんなふうにミエと会うと

誰もがたちどころに「貧乏」「あわれ」の方角へ誘導されるのであった。


悪い子ではないのだ…悪い子では。

優しくて気の利く、4つ年下の知人は

つきあうのにちょっとした心の準備が必要なだけだ。


お互いがまだ若い頃、夫の職場と彼女の家が近所だったので

顔見知りになった。

かわいい「腰かけ事務員」だったミエから

交際中の彼と、最近交際を申し込まれた男性2人のうち

どっちにしようか…と相談された。


どっちも知らないので、金持ちで兄妹が少ないほう…と適当に答えたら

本当にその通りにして、じきに結婚してしまった。

以来、その責任?から、付かず離れずの関係である。


結婚して、旦那は普通だが親戚が金持ちという一族に

仲間入りしたミエは、どんどん変貌していった。


自称「ええとこ」へ嫁いだ自負から

両親二人で、職人系の家内工業を営む実家のことも

いつしか「事業」と形容するようになった。

「実家の事業が忙しくて…」

「やっぱり実家が事業をしている関係上…」


やがてその「事業」に、ミエも参画することとあいなる。

同居の嫁姑関係が深刻なので、見かねた実家の親が

「昼間だけでも息抜きに…」と招き入れたのであった。

以来、小遣いをもらいながら実家を手伝うという

どこかの娘さんと同じ生活を続けた。


「みりこんさん、まだパートに行ってらっしゃるの?パートに」

「パートは大変よねぇ…私には無理だわ…人に使われるパートは。

 体、気をつけてくださいね」

そんないたわりの言葉も忘れない。

気配りの人なのだ…ミエは。


嫁いだ娘が実家の商売を手伝う…この形態は

我が町においては、夫の姉…うちのカンジワ・ルイーゼが草分けだと思う。


30年近く前の昭和、それは田舎ではタブーであった。

朝から晩まで滞在するルイーゼの車が見えないように

父親はガレージのシャッターを閉める係…

来客に見つかった時は「今、たまたまちょこっと来たところ」と

全力で隠蔽するのは母親の係であった。


苦節二十有余年…

彼らの努力は実を結び、嫁いだ娘が実家で働く行為は

晴れてメジャーとなった。

雨の日も風の日もコツコツと実家に通い続け

その道を切り拓いたルイーゼは努力の人であり、先駆者なのだ。


「あの家もやってるんだから」という安心感は

幾多の事業主に、嫁いだ娘や外孫を手元に置く喜びをもたらしたであろう。

給料を他人にやるより、娘にやったほうがよっぽどいいし

娘のほうもよそで働くよりずっと楽で、子守りとごはんもついてくる。

有るものは、利用するべきだ。


ミエもまた、その一人であった。

それを容認した最初の嫁として

私までもが少々誇らしい気分である(冗談だよ)。


さて、やがてミエの弟が結婚。

娘もかわいいが、しょせん他家の嫁…

息子夫婦もそばに置きたくなったミエの両親は

再三にわたって、自分たちとの同居をうながした。

しかし、嫁いだ娘が入り浸る家へ、誰がのこのこ戻るというのだ。

そんなことをするバカは、私くらいのもんじゃ。


嫁がどうしても首を縦にふらなかったので

母娘して「ボロ嫁」「バカ嫁」とさんざんであった。

言われるままに同居していたら

「クソ嫁」くらいには昇格できたかもしれない。


やがて弟夫婦に子供が生まれた。

母娘は、さっそく産院へ駆けつける。

嫁は、母娘が部屋に入ってからお祝いを置いて出て行くまで

何を話しかけてもひと言も答えず

背中を向けて、ずっと窓の外を見たままだったと言う。


この話をミエから聞いて、その場に居合わせた者たちは大爆笑。

ミエはなぜ笑われるのか意味がわからず、ポカンとしていた。

私にこの嫁さんほどの根性があれば

人生はもっと違ったものになっていたかもしれない。

しかしながら、実家の手助けがあったとはいえ

姑を最期まで看取ったミエを尊敬もしている。


先日、久しぶりにミエ母娘と会った。

「バカ嫁が弟をそそのかして、自分の実家のそばに家を建てやがったから

 これからお祝いを持って行く」

のだそうだ。


「あれほどこっちへ帰って来るように言ったのに

 実家にばっかりくっついて!」

と母娘で怒っている。

「私のように、事業を手伝っているならいざ知らず!」


これで2~3日は笑える…と喜んだ私であった。
コメント (16)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

10年ひと昔

2009年07月06日 14時12分28秒 | みりこんぐらし
「あんたが10年後も同じ気持ちだったら、ほめてやるよ」

そう言って、友人ユミコと喧嘩別れしたのは、10年前であった。


当時ユミコは、飲み会で知り合ったという

会社社長との不倫に夢中だった。

止めてもきかないので、しばらく疎遠になっていたが

「彼の子供が出来た…」

と告白しに来た時、てっきり相談に来たのだと思っていた。

しかし、それは私の思い上がりであった。

ユミコは、のろけに来ただけだった。


「どうしても生みたいの」

今の夫とは離婚し、子供たちも置いて実家に帰ると言う。

その言葉に、胎児の母としての想いよりも女の打算を感じる。

「いずれ離婚して、私と再婚すると言ってくれてる」

…アホか!

どんなに言葉をつくしたところで(つくしてないが)無駄であった。


毎日工場へ出勤する夫の弁当を作り

子供たちを学校へ送り出してからパートに出る…

単調な日々に飽き飽きした、贅沢で楽しい暮らしがしたい…と臆面もなく言う。


わからないでもない。

ユミコは、人が振り返るほどの美貌なのだ。

中年になって、いかにもったいないことをしていたかに気付いたのだろう。

が、それをどうやったら

「彼を冷たい奥さんから救ってあげたい」

という正義の味方めいた方向へ持って行けるのだ。


「子供も彼の親も丸め込んで、彼をのけ者にしている」

「家に居場所が無いから、私が必要なんだって」

「ブスで、ダサくて、きつい奥さん」

盗っ人たけだけしいとは、このことである。


「生まれちゃったら、彼も覚悟を決めるでしょ」

どうでもこうでもお腹の子を生んで

略奪の手段にするつもりなのが、ありありとわかった。

その罪の子を「運命の子」と美化するあたり、もう処置無し。


渦中の者にはわからないが、はたで見ているとよくわかる。

避妊に失敗して子供ができ、今度は中絶費用が惜しくて

判断を女に任せているのだ。


出産となったら、もっと金がいりそうなもんだが

手当も出るし、その時はその時…と思っているのだろう。

現代社会において、うっかりよその女をはらませるような亭主は

先を見ることの苦手な、刹那的快楽に弱い人間が多い。


そんな男が、この厳しい情勢の中

どうやって会社を経営できるというのだ。

きっと家も会社も火の車だ…贅沢どころか、ろくなことはない…

と言うと、せせら笑いながら腕の時計を見せる。

「妊娠のお祝いに、買ってもらったもん」

    「彼が用意してくれたの?」

「ううん。私が記念におねだりして~、一緒に買いに行ったのよ」

    「現金で?」

「カードよぉ」

ロレックス買わされたばっかりに、中絶費用が出せないに違いないのだ。


うちにいる間も、再々携帯が鳴る。

「出ないと、彼、機嫌が悪くて…」

束縛される喜びに顔を輝かせるユミコ。

…この…大バカもんが…

自分のバカは棚に上げ、腹を立てる私。


「私たちはソウルメイトだから、離れられないのよね。

 心もつながってると感じるし、体もね…相性がいいのよ」

…ナンか取り憑いてるんじゃないの?…

そして「10年経っても同じ気持ちなら…」を口にした私であった。


ユミコは捨て台詞を残して帰って行った。

「やっぱり旦那に浮気されてる人って、私たちの敵だもんね」

私たちってなんだ!私たちって!

おまえら、組合でもあるんかっ!


ユミコは言葉どおり離婚して、子供たちを夫の元へ残し

月満ちて女の子を生んだ。

彼は離婚しなかった。

数年後、認知してもらって間もなく、彼の会社は倒産した。


今、ユミコは彼と別れ、働きながら一人で子供を育てていると聞いた。

別れたにしても、美貌を武器にまた誰か見つけて

のんきに暮らしているだろうと思っていたので、これは意外だった。


愛人稼業をしていた長いブランクの後、40代後半で就いた仕事は

せっかくの美貌のユミコに似つかわしくない業種に思えたが

久しぶりに町で見かけて納得。


ユミコは、少なくとも3倍にふくらんでいた。

同じ人間かと驚き、がく然とするばかりであった。

年老いた母親と、小学生くらいの女の子を連れて歩いていたが

見覚えのある母親と、抜けるような色白で判断するしかなかった。

高齢出産のせいだろうか…

彼と別れて食欲に走ったのだろうか…


あれから、ちょうど10年経っていた。

ほめてやることは出来なかったが

せめてこの言葉を贈ろうではないか。

ソウルメイトじゃなくて、残念だったねぇ!
コメント (12)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

占い師

2009年07月04日 16時33分00秒 | 前向き論
スピリチュアルという言葉が一般普及するずっと前

占いと霊能が流行した時期があった。

自分の現状が今ひとつ満足でない者は

我が身の至らなさに目をそむけ、こういうものに強い興味を示す。

私もまた例外ではなかった。


不倫を繰り返す夫との結婚生活は、今後どうなっていくのか…

離婚することで、この生き地獄から抜け出せるのか…

今を我慢さえすれば、幸せが隠れて待っているのか…

先のことが知りたければ、占いしか思いつかなかった。


書店で買った著書に感想を送ったら、自筆の返信が来たことをきっかけに

私は遠方の都会に住む占い師(細○さんではない)と懇意になった。

「先生」は、初老の女性であった。


勧められるまま、月に1~2度、新幹線で彼女の主宰する講座に通う。

私は占いを習って、占い師になろうとしていた。

占いそのものよりも、仕入れや支払いがいらず

長く続けられるところが魅力だった。

不審がる義父母を尻目に出歩くのも、小気味よかった。


講座の料金は、私にとって高額だ。

新幹線代と受講料で、一回6万は飛ぶ。

痛い出費ではあるが

私は痛み止めの麻薬を手に入れるような気持ちだった。


先生の弟子には、有名企業の社長夫人、テレビ局の重役夫人など

ちょっと普通でない金持ちが多かった。

田舎ではお目にかかれない宝石や衣装を見るのも楽しいが

本当の金持ちは決して自慢もしないし、心が清らかなことも知った。


彼女たちは占い師志望ではなく

お稽古ごとの一つとして、講座に参加している。

私のように幸せになりたいのではなく、すでに幸せなので

この幸せを持続させるために心を磨き

ご主人のビジネスのために、時流の流れを読むのが目的だ。


先生は講座が終わると、数人ずつ順番に弟子を占ってくれる。

その頃はすでに、一般のお客を占うのはやめていた。

何回か通ううち、やっと私の番になる。

そもそもこれが、受講の第一目的でもあった。


私、夫、子供たちについて、いろいろと教えてもらう。

一人につき1万…計4万。


それから、今後の流れを見るという。

さらに一人1万…計4万。

持って行った金が足りなくなり、2万値切る。


値切っておきながら

「なんちゅうボロ儲けの商売じゃっ!」という驚きと

「その価格設定はいずこから?」という疑問が

同時に浮かんでくる。


こんな形のないものにお金を払うなら

子供の欲しがっている新しいグローブでも買ってやりゃあよかった…

どこかへ連れて行って、おいしいもんでも食べさせりゃあよかった…

と激しく後悔する。


それは、占いの結果が自分の望んでいたものと違ったからかもしれない。

「離婚なさい…幸せが待っていますよ」

と背中を押して欲しいという、いやらしい魂胆があった。


後々のことを考慮して、公的記録にはっきり残ることは

出来るだけ勧めないという「技術」も習っておきながら

自分のこととなったら、このていたらく。


やがて講座は終了…

私は晴れて免許皆伝、占い師になれたのか…というと

そう簡単にはいかんのだ。


占いは技術でなく、人の気持ちをくみ取る思いやりと

深い慈悲の心が最も重要だということだ。

ま、私に一番足りないものでもある。

よって次回からは

神仏及び霊能について研究する講座が始まるとおっしゃる。


占う方法を知ったところで、それは単なる統計学上の多数派にすぎない…

誕生日や名前や手相人相が、何かの幸不幸を示したところで

当てはまらない人が少なからず存在する…

先生は、占いを研究すればするほど、その疑問が膨らんでいったと言う。

そしてたどり着いた極意……すべては心のあり方…ということであった。


最終的には世界平和や地球環境問題に行き着くらしい。

それは立派なことだが

世界平和より先に家庭平和を願う私はどうなる…

地球環境より、家庭環境をなんとかしたい私はどうなるのだ…


おのれの周辺すらどうにも出来ない者が

世界や地球をなんとか出来るとは到底思えない。

えらそうにひとさまのことを占うどころの騒ぎではないじゃないか。


しかも早急に自立の道を探したい私である。

悠長に神仏や霊能の研究なんぞしていたら、日干しになってしまう。

自分がホトケさんか霊になるじゃんけ。

…気分はほとんど、玉手箱を開けた女浦島…。


そしてもう一つ…決定的なことがあった。

その日初めて見た、先生の愛娘である。

年取って出来た一人娘を溺愛していたが

極度の肥満児の上、取り巻きにチヤホヤされて勘違いしているふしがあった。

神のようにあがめられる先生が

娘の体重管理ひとつ出来ない不思議に興ざめしたのも事実であった。


この上、大枚はたいて

わけのわからないものをはるばる勉強しに来る気にはなれなかった。

突き詰めた結果は「心」だと言いながら

後戻りして占いを教える矛盾も解消できなかった。


帰りに次の講座の申し込みをしなかったら

事務局の人に「途中で辞めたら“良くない”ですよ」と言われる。

“良くない”というのは、具体的にどういうことなのか…

病気か?さらなる不幸か?

この上にさらなる不幸…

どんな良くないことになるのか、知りたくなる。


もしも本当に良くないことが起こり

もしもそれが途中下車したせいだと確信できたなら

ごめんなさいと言えばよい。

思いやりと慈悲の心を説く先生なら、きっと大丈夫。

腐った根性丸出しで、私はそう考えた。


あれから20年ぐらい経つが、今のところは私も家族も無事である。

何を基準に“良くない”と思えばいいのかもわからなくなったし

泣きつこうにも、先生はすでにお隠れあそばした。

先生には心から感謝している。

優しかったし、面白い話をたくさん聞かせてくれた。


先を知るには今を見ろ…

世界を救う前に自分を救え…

本人にその気があったかどうかはわからないが

それを身を持って教えてくれたのだと思う。


自ら会得した極意を胸に、私は生きる。

その極意とは…「占いはあてにならない」
コメント (16)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする