その夜、夫はひどくうなされていました。
昔から深夜2時半を過ぎると、よくうなされます。
声が大きいので、こっちも目が覚めます。
いつもは、うるさい!と怒鳴りに行くか
機嫌の悪い時はキックか
調子のいい時は、胸の上に重たい本など重ねてさらに苦しめてあげますが
今夜は別の方法を試みることにしました。
「○○○~…」
耳元に近づいて、低くかすれた声で夫の名前を呼びました。
「○○○~…」
夫は「う~ん…う~ん…」とうなされ続けています。
「来い~…来い~…こっちへ来い~…」
「うう~…うう~…」
うなり声はだんだん大きくなっていきます。
「おまえは地獄に堕ちるんだ~…」
「うあ~!…○☆◎×★※~」
夫が無意識に唱えるのは、義母に仕込まれたいつもの新興宗教のお経です。
「そんなものが効くものかぁ…」
「○☆◎×★※~…」
「おまえは地獄へ行くのだ~…」
「いやだ…」
「もう遅いのだ~…」
「許してください…」
「だめだ~…」
子供たちも起きて来て、楽しそうにのぞき込んでいます。
目で合図して、夫の手足をそれぞれ軽く押さえさせます。
二人は吹きすさぶ風に似せた口笛を吹き、地獄のムードを演出。
「うわぁ~!」
夫は叫んで飛び起きました。
しかし、まだ完全には覚醒していません。
起き上がって正座し、手を合わせて
目を固く閉じたままお経を唱えています。
これもいつものことです。
義母は、自分の子供たちに信仰の強制はしませんでしたが
これさえ唱えていれば、すべてうまくいく魔法の呪文として教えていました。
オロナイン軟膏みたいに
困った時は早めに何でもこれなので
彼らは物事を深く考えることも無いまま育ってきたのです。
そんなもん、役に立たんわいっ!
夫はそこでやっと目が覚めました。
「大丈夫?すごくうなされてたよ」
「そうだよ。僕たちの部屋まで聞こえたよ」
「夢か…」
「どんな夢?」
「おまえのおじいさんに…手を引っ張られた…」
「あら~、今日はそっちへ出たのね」
「どこかに連れて行かれるところだった…」
「行けばよかったのに」
「おじいさん、生きてる時もおっかなかったけど
死ぬとなお怖いな…」
「悪いことしてると、怖く見えるんだよね。
きっとまた来るよ」
「もう来ないように頼んでくれよ…」
「どうかなぁ~?怒ってたんでしょ?
私、霊能者じゃないし~」
それから何回か、同じようなことがありました。
夫は毎晩のようにうなされていたようですが
私も毎回付き合うわけにはいかないので
気が向いた時だけ、祖父のもの真似をしていました。
このいたずらは効き目がありました。
やがてすっかり参ってしまった夫は
「何もかも白状するから、助けてくれ…」
と言い出し、私の仕置きはひとまず成功しました。
入院中に、介護士として老人につきそって来ていた婆姫と
喫煙室で知り合い
お互いの趣味がパチンコだとわかって
つきあうようになったそうです。
婆姫の夫はすでに老人で、夜のコトが無理なのだそうです。
そんなことはどうでもいいが
私は自分の車のことと、14万を欲しがった理由だけは
聞きたかったのでたずねました。
「妊娠したというから…。孫もいるし、生めないと言うから…」
「ひ~!まだアガってないのけ?」
「結局、お前がくれなかったので金は渡さなかったけど
本当かどうかは、わからない。
それから機嫌が悪くなって、車を買えとうるさいから
手切れ金代わりにおまえの車を…」
「別れてないなら、手切れ金じゃないじゃん」
「別れるから…。
あんな婆さんと、なんで…って、本当はいつも思っていたんだ」
「いいえ。別れなくてけっこう。
恵まれない人に愛の手を…って言うでしょ。
でも、私の物をあげるのはもうやめてね」
言いたいことはもっとあったはずでしたが
夫を震え上がらせたことですっかり満足し
そのために感情を昂ぶらせることすら面倒臭くなりました。
「生きてる身内より、死んだ身内のほうが本当は怖いんだからね。
よ~く覚えておおき」
昔から深夜2時半を過ぎると、よくうなされます。
声が大きいので、こっちも目が覚めます。
いつもは、うるさい!と怒鳴りに行くか
機嫌の悪い時はキックか
調子のいい時は、胸の上に重たい本など重ねてさらに苦しめてあげますが
今夜は別の方法を試みることにしました。
「○○○~…」
耳元に近づいて、低くかすれた声で夫の名前を呼びました。
「○○○~…」
夫は「う~ん…う~ん…」とうなされ続けています。
「来い~…来い~…こっちへ来い~…」
「うう~…うう~…」
うなり声はだんだん大きくなっていきます。
「おまえは地獄に堕ちるんだ~…」
「うあ~!…○☆◎×★※~」
夫が無意識に唱えるのは、義母に仕込まれたいつもの新興宗教のお経です。
「そんなものが効くものかぁ…」
「○☆◎×★※~…」
「おまえは地獄へ行くのだ~…」
「いやだ…」
「もう遅いのだ~…」
「許してください…」
「だめだ~…」
子供たちも起きて来て、楽しそうにのぞき込んでいます。
目で合図して、夫の手足をそれぞれ軽く押さえさせます。
二人は吹きすさぶ風に似せた口笛を吹き、地獄のムードを演出。
「うわぁ~!」
夫は叫んで飛び起きました。
しかし、まだ完全には覚醒していません。
起き上がって正座し、手を合わせて
目を固く閉じたままお経を唱えています。
これもいつものことです。
義母は、自分の子供たちに信仰の強制はしませんでしたが
これさえ唱えていれば、すべてうまくいく魔法の呪文として教えていました。
オロナイン軟膏みたいに
困った時は早めに何でもこれなので
彼らは物事を深く考えることも無いまま育ってきたのです。
そんなもん、役に立たんわいっ!
夫はそこでやっと目が覚めました。
「大丈夫?すごくうなされてたよ」
「そうだよ。僕たちの部屋まで聞こえたよ」
「夢か…」
「どんな夢?」
「おまえのおじいさんに…手を引っ張られた…」
「あら~、今日はそっちへ出たのね」
「どこかに連れて行かれるところだった…」
「行けばよかったのに」
「おじいさん、生きてる時もおっかなかったけど
死ぬとなお怖いな…」
「悪いことしてると、怖く見えるんだよね。
きっとまた来るよ」
「もう来ないように頼んでくれよ…」
「どうかなぁ~?怒ってたんでしょ?
私、霊能者じゃないし~」
それから何回か、同じようなことがありました。
夫は毎晩のようにうなされていたようですが
私も毎回付き合うわけにはいかないので
気が向いた時だけ、祖父のもの真似をしていました。
このいたずらは効き目がありました。
やがてすっかり参ってしまった夫は
「何もかも白状するから、助けてくれ…」
と言い出し、私の仕置きはひとまず成功しました。
入院中に、介護士として老人につきそって来ていた婆姫と
喫煙室で知り合い
お互いの趣味がパチンコだとわかって
つきあうようになったそうです。
婆姫の夫はすでに老人で、夜のコトが無理なのだそうです。
そんなことはどうでもいいが
私は自分の車のことと、14万を欲しがった理由だけは
聞きたかったのでたずねました。
「妊娠したというから…。孫もいるし、生めないと言うから…」
「ひ~!まだアガってないのけ?」
「結局、お前がくれなかったので金は渡さなかったけど
本当かどうかは、わからない。
それから機嫌が悪くなって、車を買えとうるさいから
手切れ金代わりにおまえの車を…」
「別れてないなら、手切れ金じゃないじゃん」
「別れるから…。
あんな婆さんと、なんで…って、本当はいつも思っていたんだ」
「いいえ。別れなくてけっこう。
恵まれない人に愛の手を…って言うでしょ。
でも、私の物をあげるのはもうやめてね」
言いたいことはもっとあったはずでしたが
夫を震え上がらせたことですっかり満足し
そのために感情を昂ぶらせることすら面倒臭くなりました。
「生きてる身内より、死んだ身内のほうが本当は怖いんだからね。
よ~く覚えておおき」