殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

地獄案内人

2008年12月23日 13時33分41秒 | 不倫…戦いの記録
その夜、夫はひどくうなされていました。

昔から深夜2時半を過ぎると、よくうなされます。

声が大きいので、こっちも目が覚めます。


いつもは、うるさい!と怒鳴りに行くか

機嫌の悪い時はキックか

調子のいい時は、胸の上に重たい本など重ねてさらに苦しめてあげますが

今夜は別の方法を試みることにしました。


             「○○○~…」

耳元に近づいて、低くかすれた声で夫の名前を呼びました。

             「○○○~…」


夫は「う~ん…う~ん…」とうなされ続けています。


       「来い~…来い~…こっちへ来い~…」


「うう~…うう~…」

うなり声はだんだん大きくなっていきます。


       「おまえは地獄に堕ちるんだ~…」

「うあ~!…○☆◎×★※~」

夫が無意識に唱えるのは、義母に仕込まれたいつもの新興宗教のお経です。


       「そんなものが効くものかぁ…」

「○☆◎×★※~…」


       「おまえは地獄へ行くのだ~…」
 
「いやだ…」

       「もう遅いのだ~…」

「許してください…」

       「だめだ~…」


子供たちも起きて来て、楽しそうにのぞき込んでいます。

目で合図して、夫の手足をそれぞれ軽く押さえさせます。

二人は吹きすさぶ風に似せた口笛を吹き、地獄のムードを演出。

     
「うわぁ~!」


夫は叫んで飛び起きました。

しかし、まだ完全には覚醒していません。

起き上がって正座し、手を合わせて

目を固く閉じたままお経を唱えています。

これもいつものことです。


義母は、自分の子供たちに信仰の強制はしませんでしたが

これさえ唱えていれば、すべてうまくいく魔法の呪文として教えていました。

オロナイン軟膏みたいに

困った時は早めに何でもこれなので

彼らは物事を深く考えることも無いまま育ってきたのです。


       そんなもん、役に立たんわいっ!


夫はそこでやっと目が覚めました。


      「大丈夫?すごくうなされてたよ」

「そうだよ。僕たちの部屋まで聞こえたよ」


「夢か…」
 
         「どんな夢?」


「おまえのおじいさんに…手を引っ張られた…」


      「あら~、今日はそっちへ出たのね」


「どこかに連れて行かれるところだった…」


       「行けばよかったのに」


「おじいさん、生きてる時もおっかなかったけど

 死ぬとなお怖いな…」


      「悪いことしてると、怖く見えるんだよね。
    
       きっとまた来るよ」

「もう来ないように頼んでくれよ…」

      「どうかなぁ~?怒ってたんでしょ?

       私、霊能者じゃないし~」

     

それから何回か、同じようなことがありました。

夫は毎晩のようにうなされていたようですが

私も毎回付き合うわけにはいかないので

気が向いた時だけ、祖父のもの真似をしていました。


このいたずらは効き目がありました。

やがてすっかり参ってしまった夫は

「何もかも白状するから、助けてくれ…」

と言い出し、私の仕置きはひとまず成功しました。


入院中に、介護士として老人につきそって来ていた婆姫と

喫煙室で知り合い

お互いの趣味がパチンコだとわかって

つきあうようになったそうです。

婆姫の夫はすでに老人で、夜のコトが無理なのだそうです。


そんなことはどうでもいいが

私は自分の車のことと、14万を欲しがった理由だけは

聞きたかったのでたずねました。


「妊娠したというから…。孫もいるし、生めないと言うから…」

     「ひ~!まだアガってないのけ?」

「結局、お前がくれなかったので金は渡さなかったけど

 本当かどうかは、わからない。

 それから機嫌が悪くなって、車を買えとうるさいから

 手切れ金代わりにおまえの車を…」

       「別れてないなら、手切れ金じゃないじゃん」


「別れるから…。

 あんな婆さんと、なんで…って、本当はいつも思っていたんだ」

   
       「いいえ。別れなくてけっこう。

        恵まれない人に愛の手を…って言うでしょ。
     
        でも、私の物をあげるのはもうやめてね」


言いたいことはもっとあったはずでしたが

夫を震え上がらせたことですっかり満足し

そのために感情を昂ぶらせることすら面倒臭くなりました。


    「生きてる身内より、死んだ身内のほうが本当は怖いんだからね。

     よ~く覚えておおき」


             
コメント (6)
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