殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

お相撲のこと

2017年11月30日 23時41分43秒 | みりこんばばの時事
相撲、好きなのよ。

好きになったのは、最近のことなんだけどね。

生で見たことなんて無いわよ。

テレビをつけて夕飯の支度をして、振り返ったら勝負がついてることが多いから

好きとか言える立場じゃないんだけど。


昔は興味無かったわ。

うちの子が中一の時、相撲部屋から誘いがあっても何とも思わなかったもん。


言っとくけど、うちの子に才能があったわけじゃないのよ。

当時は千代の富士の全盛期、若貴兄弟も出てきて、大変な相撲ブーム。

新人のスカウトにも力を入れていた時期だったわ。

ちょっとワンパク相撲に出場して、そこそこ勝って

あとは身体が大きければ、とりあえずスカウトが来たわよ。


本人の意思より何より真っ先に、仲介する人を通して

私たち両親の身長と、靴のサイズをたずねられたわ。

今後、子供の身長が伸びるかどうか、それでわかるんですって。

体重の方は後でどうにでもなるから、とにかく身長が無いといけないらしいわ。


で、入門はどうなったか、ですって?

丁重にご辞退申し上げたわ。

うちの子が耐えられるわけないじゃないの。

親だもの、わかるわよ。


身近に前例もあったの。

その数年前に夫の従兄弟がスカウトされて

東京の相撲部屋へ両親と見学に行ったわ。

この子は小さい頃から、父親がそのつもりで養成した子。

ちょうど高校入学の直前で、馴染むようなら進学をやめて

そのまま置いて帰るつもりだったそうよ。

でも壮絶な稽古を見た両親は泣いてしまって、子供を連れて帰って来たわ。


知り合いにも前例がいたのよ。

スカウトされて入門したけど、若いから栄養のことなんてわからないまま

強くなるために食べるでしょ。

すぐ糖尿病になって、それが原因で視力が落ちて

2年もしないうちに帰ってきたわ。

眼鏡をかけて取り組みはできないもの。


幸い親が商売してたから、手伝っていたわ。

こんな時、世間って残酷なのよね。

都落ちみたいに言われて、辛かったと思うわ。

だけど短期間でも、普通の人間が知らない世界にいた人よ。

私は密かに尊敬しているの。

私たち親子が妙な夢を見なくて済んだのは、彼らのおかげ。


やる気や根性以前に、糖尿病の回避は針の穴を通すほど難しいわ。

肉体を作るためには、ひたすら食べなきゃならない。

食べたら糖尿病が待っている。

温暖な地方で生まれた身体の大きい子は

糖尿病の遺伝子を持ってることが多いの。

身体が大きいのは有利だけど、糖尿病で辞めていく人も多いそうよ。


糖尿病を免れたとしても、怪我は付いて回る。

病気と怪我を回避しながら生き残るのは、至難の技よ。

その難しい針の穴を通ったとしても、勝つことはもっと難しい。

幕内まで登りつめられる人は、すっごい運と実力の持ち主なの。

まったく、厳しい世界よ。


というわけで、自分はほんの少〜し

相撲界に近寄ったことがあると、私は勝手に思ってるの。

図々しいわね。



で、本題に戻るけど、それでも相撲には興味が無かったの。

好きになったきっかけは、日馬富士。

何年前だったか、たまたま相撲の中継を見たんだけど

勝敗が決まった時、日馬富士が相手に添える手の優しさに気がついて

「相撲って奥が深いんだな〜」

と思ったの。

それからよ。


私には、その優しさが場所ごとに深まっていくように見えて

何だか引退が近いような気がしていたの。

それで日馬富士が現役中に、ぜひ見ておきたいと思って

10月の広島巡業を観戦するつもりだったわ。

事件のあった鳥取巡業の次に行われた、広島巡業よ。


でも、行かなかったのよ。

連れがいなかった。

家族も友達も、相撲に興味が無い。

チケット代を出すと言っても、誰もなびかなかった。

一人でも行きゃあよかったのに、根性なしだったわ。

残念よ。


日馬富士の引退で、貴乃花親方は何だか悪く言われて気の毒。

自分の子が相撲部屋未遂だったので、つい親の気持ちになっちゃうんだけど

原因が何であれ、相手が誰であれ、もしも自分の子が暴力を受けた場合

親としたら、断固戦ってくれる親方の所に入れたいと思うのよね。

我が子と同じように本気で守ってくれる人じゃなければ

安心して託せないじゃないの。

その点、貴乃花親方は相撲界の将来をちゃんと見据えていると思ったわ。

いくら国技と言ったって、弟子が入門しなきゃどうしようもないわけだから。


一方で日馬富士の引退会見は悲しかったわ。

親方の涙にも胸が締め付けられた。

みんながいいように解決できる方法って無いのかしら‥って

無いとわかっていても思ったわ。


そうそ、八角理事長が私より年下と知って驚いちゃった。

滑舌の良さとブレない態度が立派だわ。

ああ、話が尽きないわ。

またね。
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マリア様のおみやげ

2017年11月25日 09時41分56秒 | みりこん昭和話
毎年、11月の終わりになると

私の通っていた幼稚園の行事を思い出す。

それは「マリア様のおみやげ」と呼ばれた。

「マリア様のおみやげ」とは幼児相手の言葉であって、実際は

供え物を持って幼稚園に行く日であった。


「マリア様のおみやげ」には、いくつかの条件があり

注意点がワラ半紙に刷られて配布された。

1・食べ物であること

2・わざわざ買わず、家にある物

3・古い物はいけない

4・腐りやすい物はいけない

5・調理した物はいけない

6・園児が気になるのでお菓子はいけない

7・登園時に幼児の力で運べる重さと大きさの物

ざっとこんなところ。


私が4才、妹が3才で同時に入園した年‥

このプリントを見た家族は当惑した。

全注意点を見事クリアしたおみやげを見つけるのは、至難の技だ。

何を持って行けば、おみやげとして認められるのか‥

家族会議は重ねられた。

難関は、2の『わざわざ買わず、家にある物』。

『家にある物』という表現に、我が家の大人たちは頭をひねった。


マリア様のおみやげを幼稚園へ持って行く日が迫った頃

父から画期的な提案がもたらされる。

「2〜3日前に買って家に置いとけば

家にある物、ということになるのでは?」

この提案は、即座に採用された。


では何を買えばいいのだろう‥ということになる。

文面を読む限り、幼稚園が望んでいるのは果物のような気がする‥

という結論に達し、祖父がさっそくバナナを買って来た。


ここで母が物言いをつける。

「バナナは庭に成らないわ」

あまりにも不自然過ぎると言うのだ。


そこで祖父、今度は柿を買って来た。

「秋だから、柿を持って来る子供は多いはず。

あんまり同じような物ばかりでは‥」

やっぱり母は気に入らない。


ミカンも同じ理由で却下され、祖父は彼の好物、干し柿へと触手を伸ばす。

「調理した物はいけないと書いてあるわ」

誰よりも生真面目な母は、バッサリ。

「干すのは調理か?」

「生じゃないんだから、広い意味で言えば調理じゃないの?」

祖父と母は言い合いをしていたが、しょぼくれた干し柿は

私の持って行きたい物ではなかったため却下。


「もういい!私が探す!」

母はそう言って、近所の果物屋へ行った。

そして買って来たのは、インドりんご。

やはりこれといった物は見つからなかったらしい。


インドりんごというのはりんごの品種の名前で、当時の流行だった。

それまで主流だった硬くて酸っぱい紅玉種のりんごとは異なり

ダイナミックに大きくて酸味が少なく、果肉が柔らかい。

入れ歯の年寄りも、乳歯が怪しくなってきた子供も食べられるため

母のお気に入りでもあった。


「インドりんご!」

祖父はせせら笑う。

「インドだぞ!インドのりんごが庭に成るもんか」

庭に成らないという理由でバナナを却下された復讐だったが

母は無視して、私と妹にこれを2個ずつ持って行くようにと言った。

私は3個を希望したが、当時はスーパーのレジ袋なんか無く

何でも茶色の紙袋に入れて持ち運んだため、安定感に乏しかった。

妹が抱えて歩けるのは2個が限界。

小さい彼女を不甲斐なく思った。


インドりんごは我が家で2日間寝かされ

私と妹はそれを幼稚園へ持って行った。

園児たちがそれぞれ持ってきた供え物は先生が受け取り、講堂の床に集められる。

キリスト系の幼稚園だったので、仏前ではなくマリア像の前に捧げられるのだ。


芋や野菜もあったが、やはり柿とミカンが圧倒的に多かった。

その中で、私と妹が持ち込んだインドりんごの赤い色は美しかった。

礼拝の時、それを眺めてうっとりした。

私が気に入ったということで、翌年からもインドりんごに決定。


山と積まれた「マリア様のおみやげ」は

園長先生たちクリスチャンの手によって孤児院へと運ばれると

牧師様のお話で聞いた。

我々園児がマリア様におみやげを持って行くのではなく

マリア様が孤児院の子供たちに贈るので、マリア様のおみやげと呼ぶそうだ。


園長先生のお話によると、孤児院は山のてっぺんにあり

険しい崖の道を車で登って届けるのだという。

そんな怖い場所に、孤児たちが本当に住んでいるのだろうか‥

4才の私は、この疑問に苦しんだ。


「お届けしたら、孤児院のお世話をする人たちが

“もう食べ物が無くなって、困っていたんですよ”

と言って、とても喜んでくださいました」

後日、園長先生の報告を聞いた私は、ますます苦しんだ。

だって芋と野菜が少しで、果物ばっかり‥

孤児はそれでお腹がいっぱいになるのだろうか‥

マリア様のおみやげが届いた時は食べられても

あとの日は、お腹をすかせて泣いているのだろうか‥

私も孤児になったら、そうなるのだろうか‥

4才の頭と心は締め付けられた。


そこで苦しい胸の内を父に打ち明ける。

「そんなわけないじゃん。

ごはんは毎日食べないと死んでしまうよ」

父は笑い、決定的な事実を述べた。

「車で行けるような近くに孤児院はありゃせん」


後で父は、母に小言を言われていた。

罪状は「口の軽い子供に本当のことを言った」というものだった。
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みりこん、寺の手伝いに行く・3

2017年11月21日 08時52分47秒 | みりこんぐらし
花は2時間ほどで片付き、その後は打ち上げだ。

檀家のおばちゃんたちが作った手料理の並ぶ大広間では

宴会に先立ち、仏前のお供え物が皆に分け与えられた。


ここで先程の戸口女、用があるから帰ると言い出す。

この瞬間を待っていたと言っても過言ではない。

長居をすれば、打ち上げの後片付けが待っている。

お供え物はゲットしたし、できあがったばかりの料理は

パック詰めで持ち帰ることができる。

早退のタイミングとしては絶好だ。

さすがである。


戸口女は亭主と分担して大荷物を抱え、そそくさと帰った。

この時点で、当然ながら彼女の伴侶も判明。

還暦前後にも関わらず、耳に銀のピアスを2個ぶら下げ

細く剃り上げた眉に、髪は心斎刈り(自由業ご用達のヘアスタイル)の

見るからに怪しげだったヤツ。

ユリちゃんから「歩く時は座布団を踏まないでね」と

何度も注意されていた男だ。

「お寺って、人を選べないから大変ね‥」

密かに思っていたら、戸口女の亭主だったとは。


女房と違い、亭主の方はよく動いていたが

慣れてないのか不器用なのか、何をやってもドタバタして

“初めてのおつかい”を視聴しているようだった。

まさに割れ鍋にとじ蓋。

非常に満足する私。


さて、打ち上げはお茶で乾杯をするということで

おばちゃんたちがお茶を注いで回った。

総勢30人ほどいるので、時間がかかる。

その光景を見て、けいちゃんが立ち上がった。

「私、手伝うわ」

この人、気働きがあってフットワークが軽いため

もてなされる側になると落ち着かないのだ。


教育係?の私はそっと止める。

「座っといたらええんよ」

「なんで?忙しそうじゃん」

「モクネン君と男性が席に着いたら、檀家さんに任せるんよ」

「そうなん?」


けいちゃんは怪訝そうだったが、これ、キモである。

何日も前から準備してきた彼女たちにとって

モクネンも参加する打ち上げの会食は、華々しいフィナーレ。

主役モクネンの目の前で、乾杯のお茶を注いで回るのは

この日に向けて頑張った女たちの晴れ舞台である。

手伝うのも善意だけど、舞台を奪わないのも善意。

引く時は引く強弱を知らずにしゃしゃり出ると、反感を買う。


それにお茶くみを手伝うと言ったって、急須はすでに出払っている。

部外者が「無い」と言い出せば、備品のありかを知る優しい誰かが

取りに行かなければならない。

急須が届いて湯を注ぐ頃には、終わりかけている。

そうまでしてお茶くみに参加した者は満足かもしれないが

作業効率の観点から見れば徒労。

黙って待つのが一番のお手伝い、ということもあるのだ。


やがて和やかな会食は、お開きとなった。

厳かに退場するモクネンを見送った一同は、広間の後片付けに取りかかる。

片付けが終わる頃、台所で食器を洗っていたおばちゃんが

血相を変えて私の所に来た。

「あなたたちの一人が台所でお皿を洗い始めてしまって

止めても聞かないの。

やめるように言ってあげて」


ひ〜!クレームよ!

そう言えば、けいちゃんの姿が見えない。

病院の厨房で働くけいちゃんは、言わば台所仕事のプロ。

何もせず座っていたため不完全燃焼だったらしく

台所までお皿を運んだついでに、そのまま中へ入って洗い始めたのだ。


通常、これは良いことのように思えるだろうけど、お寺は違う。

むしろ最悪の事態。

私たちは檀家ではないので

庫裏(くり)と呼ばれる、台所を含む舞台裏には入ってはいけないのだ。

たとえ檀家であっても、過去一年以内に身内の不幸があった人は入れない。

規則のゆるいお寺もあるけど、ユリ寺の掟は厳しい。

事前の教育?で、庫裏の掟に触れなかった手落ちを反省。


耳なし芳一の耳にお経を書き忘れた

うっかり和尚のような心持ちで、私は小走りに台所へ向かう。

「ここはいいですから‥」

「いえいえ、これくらいはやらせていただきます!」

当惑するおばちゃんたちと、元気なけいちゃんの声が聞こえてきた。

険悪な雰囲気の台所で、けいちゃんは

水を得た魚のように生き生きと働いているではないか。


「けいちゃん、帰るよ」

「なんでやねん、さんざんご馳走になったんやから

お皿ぐらい洗わせてえな」

「もう帰らんと暗くなったよ」

「せっかく手伝ってるのに」

「また今度ね」


細かいことは今後、機会があれば少しずつ話すことにして

心残りな善人けいちゃんを引っ張り、急遽おいとま。

ユリちゃんとおしゃべりしたかったけど、非常事態なので仕方がない。

皆に謝罪と礼を言い、お寺を後にする。

たいして働かず、迷惑ばかりかけた我々もまた

山ほどのお供え物や、ユリちゃんからのお土産を抱えていた。

これじゃ戸口女と変わらない。


参道を下る私たちに、ユリちゃんはお寺の門からいつまでも手を振っていた。

何も言わなくても、お互いの思っていることがわかった。



翌朝になっても赤い斑点の痒みは増すばかりなので、皮膚科へ行った。

何かのタタリか、それとも重病か‥なんて思いながら、恐る恐る診察室へ。

私の腕を見た途端、女医は言った。

「あ〜、毛虫ね」

タタリでも重病でもないと知り、拍子抜けした。

そう言われれば庭の木に毛虫がいたので、手で払った記憶が‥。


「毛虫って、近寄っただけでも毒の毛をまき散らして攻撃するのよ」

‥毛虫ったら、なんて悪いヤツなんだ。

「前ボタンの服じゃなくて、ハイネックとか、かぶるタイプの服を着てたでしょう。

脱ぐ時、首や喉に広がったのよ」

‥その通りでござる。

「お化粧してたから、顔は助かったのね」

‥素顔ならどうなっていたか、考えるだけでも恐ろしいぞ。

「カレーとか刺激物は、悪化するから控えてね」

‥お寺でカレーを食べた。

「ヒートテックなんかの化繊も、痒みがひどくなるからダメよ」

‥お寺は寒いと思い、下にヒートテックを着ていた。


飲み薬と塗り薬をもらったら、たちどころに全快。

そういうわけで、毛虫には気をつけてくださいね。

《完》
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みりこん・寺の手伝いに行く・2

2017年11月19日 18時50分46秒 | みりこんぐらし
1時間半後、お経が終わると行事は終了し、一同は後片付けに取りかかる。

やっと我々の出番だ。

今回は、この宗派の開祖が亡くなって七百何十年だかの命日ということで

お寺の境内や本堂は、ピンクの紙で作った花が何千何百と

しだれ桜のようにたくさん飾られている。

我々に与えられた仕事は、このおびただしい造花を土台から一個ずつ外す軽作業。


多勢が奉仕という労働をしている場面、私の好物である。

『妖怪・戸口女(とぐちおんな)』の発見にいそしむという悪癖があるからだ。

冠婚葬祭、PTA活動、職場や近所のイベント、選挙事務所‥

戸口女は、無償の労働現場に現れる。


戸口女とは、働くでもなく、潔くサボるでもない、厄介な女のこと。

周りが気を使って労働に誘ったとしても、それはそれで気に入らず

口ばっかりで役に立たない。

こういう女はたいてい、人が出入りする戸口に立つ。

戸口に佇んで部屋の内外を見渡していると、何かやってる気になるからだ。


戸口に立たれると邪魔になる。

「どっか行け」とも言いにくい。

自分が邪魔をしていることなどつゆ知らず

戸口女は戸口に立って、働く人々を眺め続ける。


「手水かけるな、戸口に立つな」

私たち古い女は、大人からそう言われて育った。

手水とは水仕事をした際、手についた水のこと。

パッパと手を振って水分を払う行為は、とても行儀が悪いとされている。

所在なく戸口に立つのも同じく。

これらは不作法の双璧なのである。


無意識にやってしまう些細なことだからこそ

親が教えなければ生涯気がつかない。

よって、これをやる女は

一般的な躾をされずに育った野生種と判断して、まず間違いない。


野生であることに罪は無いものの

動物でも人間でも、野生種は付き合いにくい。

ガサツで言葉がぞんざい、自己中で嫉妬深いと相場が決まっている。

うっかり親しくなると砂を噛み、雇用したら後悔し

嫁にもらえば苦労する危険な種だ。

チャンスがあったら探してみるといい。

人生が0.2%ぐらい面白くなる。



今回も戸口女はいた。

年は我々と同じくらいか。

う〜ん、さすが!

モンチッチ状のショートヘアが、シミだらけの素肌に映える。

今どきテカテカのスパッツに、柄もののレッグウォーマーが

ナウでヤングなフィーリング。

決してお友達になりたくないタイプ。

発見できて、とても嬉しい。


そんなことはすっかり忘れ、我々3人は

竹の棒に細い針金で結わえつけた花を一個一個、外していた。

作業をしながらの話題は、次の女子会。

今度は忘年会も兼ねるから、誰それにも声をかけよう‥などと話し合う。


その間にも私の赤い斑点は着々と拡張を続け

痒みのほうは、もはや尋常ではないランク。

ゾワゾワと寒気がするほどの苦しみだ。

次の女子会が行われる時分には入院中か、あるいはこの世にいないかも‥

などと思いつつ、ひたすら耐える。

騒いだら、病を押して参加したことになり、ユリちゃんに気を使わせてしまう。


そこへ戸口女が腕組みをしたまま近づいてきて、いきなり問うた。

「ちょっと聞きますけど、お宅たちの言ってる女子会って何なんですかっ?

婦人会のことですかっ?女性会のことなんですかっ?」

なぜか喧嘩腰で、マミちゃんもけいちゃんも驚いて固まっている。


今どき女子会を知らない者がおろうか。

女友達がおらず、テレビなどで情報を得る機会も無い変わり者か

または完全ないちゃもんである。

どっちにしたってロクでもない。

さすが戸口女‥法則通りの振る舞いに気を良くする私。


「私たちのは、同級生の女子の集まりなんですよ」

戸口女も一応檀家なので、私は愛想よく答え、再び作業に没頭する。

「あっそ!女子会、女子会言うから、どんな集まりかと思って!」

戸口女はそう言い捨てて、プイと向こうへ行った。


花をもぎ取る仲間に入りたくて、とっかかりを探していたのかもしれない。

私も若い頃なら「みんな仲間」「袖すり合うも他生の縁」

などと殊勝めいた偽善心で誘ったかもしれないが

何度もこういう人物に関わっては失敗してきたので、放置。

残り少ない未来は、大切に使いたい。


マミちゃんとけいちゃんは、この件について一言も触れなかった。

壁に耳あり障子に目あり‥お寺という広い場所は特にそうで

静かだし、声は通るし、フスマや障子は多いし

誰がどこで聞いているかわからない。

狭い家と同じに考えてはいけないのだ。


事実、我々の背後にある障子の裏では、檀家さんたちが別の仕事をしている。

我々が外した花から針金を抜く作業だ。

一部始終が筒抜け。

「何?あの人?」

なんて言えやしない。

事前の教育?をちゃんと実践してくれた2人を頼もしく思った。


が、喜びも束の間、アクシデント発生。

マミちゃんが、外した花を横の段ボール箱に勢いよく投げ入れるのと

その段ボール箱を取りに来た檀家のお婆ちゃんが

しゃがんだのは同時だった。

お婆ちゃんの顔面に、マミパンチ炸裂!

老眼鏡が飛び、お婆ちゃんは尻もちをついた。


「ごめんなさい!ごめんなさい!」

3人はお婆ちゃんを助け起こし、平身低頭で謝る。

「大丈夫、大丈夫」

お婆ちゃんは笑って許してくれ、我々は胸をなでおろす。

この時ばかりは、痒みを忘れた。

《続く》
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みりこん、寺の手伝いに行く・1

2017年11月17日 22時18分03秒 | みりこんぐらし
先日、同級生ユリちゃんのお寺へ出かけた。

車で1時間余りの町にある、彼女の嫁ぎ先だ。

お寺で大きな行事があり、お手伝いする人が欲しいということで

我々同級生数人は、まだ暑い頃に約束していたのだった。

当初のメンバーは、いつもの女子会仲間‥

マミちゃん、けいちゃん、モンちゃん、私だったが

モンちゃんは前日の土曜日に大腸検査が決まったので抜けた。


マミちゃんもけいちゃんも早くから張り切っていたけど

マミちゃんは、亡き両親がうちの義母ヨシコと同じ新興宗教だったので

ヨシコと同じくノーマルな仏事を知らない。

けいちゃんの方は両親とも存命で、まだ仏事と縁が無い。

これを心配したユリちゃんは、私を教育係に任命した。

初心者の2人に、ある程度の予備知識を吹き込んで欲しいというのだ。


私が立派で頼れるからではない。

親が早死にした者は、お寺との付き合いが早くから始まるため

お寺の内情をわりと知っている。

それと、うちの息子たちが通った幼稚園はユリ寺と同じ宗派だったので

行事のたびに飾り付けと会食が付いて回る、この宗派の路線に免疫があるからだ。

「お手伝いしてもらえるのは、とてもありがたいんだけど

私からは細かいことを言いにくくて‥」

と、ユリちゃんに頼まれたわけ。


そりゃ言いにくかろう。

手伝うとはいえ、行事なのでお布施が必要‥なんて言えやしないわ。

そしてお寺の手伝いにおいて最も重要なのは

一にも二にも檀家を立てることである。


お寺にとって一番大切なのは、檀家。

身分は友達より檀家の方が断然上なので、全て檀家の指示通りに動き

ユリちゃんに恥をかかせないようにしなければならない。

真っさらの2人に、この心構えを前もって話しておく必要がある。


ユリちゃんが慎重なのには理由があった。

行事のたびに準備や後片付けを手伝う檀家は、加齢や死亡で年々減少し

人手不足が深刻になってきた。

猫の手でも借りたい彼女は、地元の友達数人に手伝ってもらった。

しかし友達と檀家はうまくいかなかった。

ユリちゃんは多くを語らないが、どうも檀家を差し置いて

バリバリやり過ぎたらしい。

板挟みになったユリちゃんは

「人手さえあればいい」というわけではないと痛感したと言う。


ユリちゃんは檀家を立てられる‥

つまり、立場をわきまえた猫の手を切望しているのだった。

これを「身勝手」と思うか、「もっとも」と思うかは個人の自由。

お寺って、そういう存在なのだ。


さて、事前の教育?がひと通り終わり、いよいよ明日はユリ寺へ行くという日。

夜になって、私の身に困ったことが起きた。

首と、右腕の内側の広範囲に赤い斑点が現れ始めたのだ。

しかも、ものすごく痒い。

掻いたらますます広がる。

これはもしかして、とんでもない病気かも?!

私は恐れおののいた。


翌日、どんどん広がる斑点の不気味と、おぞましい痒みに耐えつつ

私は2人の友とユリ寺へ向かった。

道中、お布施を入れる熨斗袋を2人に渡して、用意した新札に両替してやる。

赤い斑点を見せびらかすのも忘れない。

数珠を忘れたけいちゃんには、二つ持ってきた数珠の一つを貸す。

仏事の際、私はいつも数珠をニつ持って出かけることにしているが

けっこう役に立つ。



さて、ユリ寺へ着くと受付でお布施を渡し

温かく迎え入れてくれた檀家の人々にご挨拶。

さっそく何をするかというと、檀家のおばちゃんたちに促されて

少し早い昼ごはんを皆で食べる。

メニューはカレー。


「お手伝いに来たのに‥」

と躊躇するマミちゃんとけいちゃんを連れ、席に着いてサッサと食べる。

指示が出されたら、建前はいいから素直に従う‥

これが檀家を立てる第一歩である。

「おいしい!」

と叫ぶのも忘れない。

食事を作った人への何よりのねぎらいになる。


お腹が膨れると、広い本堂へ移動。

一番後ろの長椅子に陣取り、おしゃべりをしているうちに

檀家が続々と集まってきて本堂の椅子は埋まった。

やがてユリちゃんの旦那モクネンと

他の2人の僧侶が厳かに入場し、お経が始まる。

とても長いお経だ。

耐える。


お経の途中、いきなりモクネンが後ろに向かって

色々な絵が印刷された、トランプみたいなカードをたくさん投げた。

ほとんどはモクネンの背後の床に散らばったが

その中でたまたま1枚だけが長く宙を舞い、シュッと私の上着の中に入った。

マミちゃんとけいちゃんの驚くまいことか。

その図柄が鳳凰(ほうおう)だったこともあり

2人は「奇跡を見た!」と興奮するのだった。


床に散らばったカードは、檀家の総代らしきお爺さんが拾い集め

皆に配って回った。

マミちゃんとけいちゃんは、お寺の屋根か何かが描かれたカードをもらい

私の鳳凰を羨んでいた。

取り替えてやれば良かったのだが、わたしゃ例の赤い斑点が痒くて気もそぞろ。

そこまで配慮ができなかった。

このカードみたいなものは『散華(さんげ)』と呼ばれる御守りだと

後でモクネンから聞いた。

《続く》
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動物関係

2017年11月13日 08時25分36秒 | みりこん童話のやかた
『犬のつぶやき』

人間関係って色々と面倒らしいけど、オレたちにも動物関係があって

色々面倒なんだ。

こいつは夏に生まれたインコ。

手乗りにさせるとか、しゃべらせたいとか言って

家族はみんな、こいつに夢中。

面白くないったらありゃしない。

嫉妬がメラメラ。

情緒不安定になっちゃって、アゴをかきむしってたら毛が抜けたぞ。

アイドルはオレ様だ。

新参者には渡さないからな!



『インコのつぶやき』

みんな、あたしがしゃべるのを期待してるけど

あたしってばそんなに頭良くないわよ。

犬のやつ、いつもあたしをジロジロ見てはさ

隙あらばいじめてやろうと身構えてんのよ。

それより何?

あたしの名前。

ピンコよ?

ここんちの人たちって、ほんと、名前のセンスが無いわ。

犬のやつはパピヨンだからパピ。

あたしはインコだからピンコ。

いい加減にもほどがあるわ。



『人間のつぶやき』

そして3ヶ月が経過。

すっかり家族の一員になったピンコでした。

でも10日前‥

お兄ちゃんはピンコが肩に止まっているのを忘れて

庭へ出てしまいました。

ピンコは飛び立ち、それっきり帰って来ませんでした。

数日間、捜索が続けられましたが、ピンコの行方はわかりません。



『犬のつぶやき』

やった〜!

いなくなった!

アゴの毛も生えてきた!

オレ様の天下だ!



『インコのつぶやき』

あたし、ポンコ。

ピンコと一緒に生まれたんだけど

あの子が目立つもんでノーマークだったの。

ピンコは『バードパレス』って名前の可愛い鳥かご買ってもらって

あたしはダサいお古の鳥かご。

何だか不公平を感じてたわ。

でもピンコがいなくなったから、あたしがバードパレスに引っ越しよ。

やったわ!



『人間のつぶやき』

バードパレスに引っ越して、ルンルンのポンコちゃん。

これからピンコちゃんの身代わりとして

厳しいおしゃべり教育が始まるのですが

そんなことは知らないポンコちゃんでした。

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近時事七題

2017年11月09日 10時45分04秒 | みりこんばばの時事
《アメリカ・トランプ大統領、来日》

終始和やかな雰囲気で、良かったわ。

以上。


今回は総理夫人、昭恵さんの仕事ぶりがクローズアップされたわね。

フレンドリーな長所が生かされていたわ。

ファッションの方は賛否両論だと思うけど

昭恵夫人はスタイリストを付けないみたいなので

これが精一杯だと思うし

今回の来日を『伴侶のビジネス』としてとらえたら

いい仕事をなさったと言えるんじゃないかしら。


メラニア夫人の洋服の色は事前に通達されているだろうから

昭恵夫人、すごく考えたと思うのよ。

ましてや今の日本の命運は、アメリカ次第と言ってもいい状況だから

日米ファーストレディのファッション対決になっちゃいけないのよ。


お客様より目立っちゃいけない。

お客様より格上の服装もいけない。

欧米人と日本人を並べると、どうしても日本人の方が若く見えてしまうから

お客様より明るい色を着てもいけない。

比較されること‥

つまり勝敗の批評を避けることに徹したファッションだと

私は感じたわ。


「黒系の柄もの」と言われたら、控えめな黒系の柄ものを着るしかない。





「黒」という究極の地味色を言われたら、黒を着るしかない。





「紺」という第二究極の地味色を言われたら、紺しかない。

地味な色をぶつけられたら、シロウトにゃこれしか思い浮かばないわよ。


お客様より目立っちゃいけない、豪華でもいけない、若く見えちゃいけない‥

かといって貧相過ぎてもカジュアル過ぎてもいけない‥

そしてお客様を引き立てることができれば、なおけっこう‥

数々の制約がある上に、失敗が許されないとなると

絵ヅラは暗くなるけど無難を選択するしかないわよ。

自己主張をスッパリあきらめた心意気が立派だと思ったわ。


メラニア夫人、前半を暗色に抑えて

最終日、迎賓館での晩餐会にドカン!と赤を持ってきたのはアメリカらしい選択ね。

あ、メラニア夫人はアメリカ人じゃないけどね。

昭恵夫人、ここでやっと色物‥オレンジ系の和服。


ああ、終わったのねと、見てる私も何だかホッとしたものよ。

ごめんなさいね、憶測で勝手なこと言っちゃって。


それにしてもメラニア夫人の楽しそうな笑顔、初めて見たわ。

笑うと美しいこと。

その後の韓国や中国訪問では、いつもの硬い表情に戻ってらしたわ。

表情って、全てを物語るのよね。


画像は皇室全般掲示板様より拝借させていただきました。




《高速道路で夫婦を死なせた人》

万年寝起き顔が、実家の隣の人にそっくりなんだけど。

国籍開示、求む。



《アパートでいっぱい殺した人》

死にたいって気軽に言うもんじゃないわね。

若い子の「死にたい」は「淋しい」と同義語なのかもね。

臓器売買とは無関係なのかしら。

国籍開示、求む。



《年寄りの旦那さんをいっぱい殺して死刑判決になった人》

よその女性に2千万使って、私には1円も出してくれなかったから殺した‥

これを旦那さんの殺害理由にできる思考回路、変。

認知症が争点になってるけど、仮に認知症だとしても

犯行当時の頭はスッキリしてたんだから問題ないわ。

単なる後妻業だと思っていたけど

被害者の一人が知り合いの知り合いだったと去年知って

ちょっと興味が湧いてきちゃった。

ついでに国籍開示、求む。



《秋の叙勲》

今までも今回も、知ってる人がもらったことあるけど

私には縁の無いものよ。

去年もらった知り合いがすごく立派な人で

ちょっと一緒にごはん食べたり、何か届け物をすると達筆で礼状が届くの。

勲章って本来、こういうお方がいただくものなんだな、と思ったわよ。

でも直後に亡くなって、ショックだったわ。


他に印象深いのは42年前、高一の時ね。

祖父の戦友が叙勲されて

町を挙げての大パーティーが開催されることになり

祖父と一緒に、なぜか私と妹も招待状をもらったことがあるの。

祖父は大興奮で、私たちに振袖を新調するとか騒いでいたわ。


でも戦友の住まいは遠い離島。

着付けの問題から、制服で出席することになったわ。

祖父と一緒に朝も早よから出かけたけど

着いてみたら島中が大フィーバー。

呼んでない人もたくさん詰めかけて、私と妹の席が無くなっちゃった。

友達が困ってるのを見て、祖父が辞退を申し出たわけよ。

宴会が終わるまで、ひたすら外で待ってたバカバカしい思い出があるわ。


ドクター・コトーとまではいかないけど、なにしろひなびた離島。

本当に何も無くて、最高に退屈だったわよ。

振袖なんか着て行ったら、姉妹漫才だったわ。



《フィリピン・ドゥテルテ大統領、来日》

前回の来日時に三笠宮様が亡くなられたので

天皇皇后両陛下にはお目にかかれなかったけど

今回は内縁の妻も一緒にお会いできたわ。

でもやっぱりワイシャツの第一ボタン、はずしたままだった。

やあね!


ちなみにこの人、夫の友達の友達。

前に記事にしたセレブ、吉田君よ。

フィリピンにも彼の会社があって、そのつながりらしいわ。

会ったことはないけど、別に会いたくもないわ。


吉田君には言ったの。

「第一ボタン、留めたらどう」って。

「伝えとく」

彼は笑いながら言ってたけど、伝わったら私は銃殺かもね。



《旅行会社てるみくらぶ・元社長逮捕》

私、あの女社長の名前が「てるみさん」だと思い込んでいたのよ。

それだけ。
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体験入部・4

2017年11月05日 10時05分21秒 | みりこんぐらし
ヨシコの打ち明けたケーキ事件の内容は、こうである。

半年ほど前のことだった。

当時、まだヨリトモ軍団のメンバーだったバランスのおシマは

いつものようにおトミから電話で誘われた。

ヨシコも町内のホテルで合流、4人で食事をした。


この日は聖子ちゃんの誕生日ということで

食後、聖子ちゃんだけに小さなカットケーキが出された。

彼女が自分で予約したものだ。


全員同じコース料理を食べ、会計は例のごとく割り勘となる予定だったが

問題は聖子ちゃんのケーキ。

おシマとヨシコは2人で申し合わせ、このケーキ代は自分たちで払うことにした。

「いくらだった?」

おシマがたずねると、おトミは言った。

「千円」


千円と言われれば、人は‥特に老人は、つい千円を出してしまうことがある。

おシマとヨシコも、それぞれ千円札を出した。

おトミはその2千円を自分の財布にしまい

この時点で、割り勘の計算が聖子ちゃんによって行われる。

支払いの総額には、もちろんケーキの代金も入っている。

その金額を4で割り、一人あたりの料金を伝えられた。


おシマとヨシコは違和感をおぼえたが、せっかくの誕生日

細かいことを言って雰囲気が悪くなるのもはばかられ

言われる通りの金額をおトミに払った。

つまりおシマとヨシコは、まずケーキ代の倍の料金を払わされ

さらにケーキ代の千円を4人で割った250円も払ったことになる。

おトミはそれを平然と財布にしまい

聖子ちゃんがその財布を持ってレジへ行った。

以上がケーキ事件の概要である。


「あの頃はまだトミ子さんを信じていて

かばう気持ちがあったから、あんたには言わなかった」

ヨシコは言う。

私も、こんな手口があるなんて夢にも思わなかった。

色々とレパートリーがあるものだ。

やはり感心するほかはない。



「またか、と思ったけど、算数の話でしょ。

気まずくなるから黙っていたけど

いつも後でモヤモヤするのがつらいのよ。

年を取って友達を失うのは淋しいけど

こっちだって年金でやりくりしてるんだもの。

ちょうどお父さんが病気になったし、もういいわと思って」

おシマはこう言って、ひそかにヨリトモを抜けたという。


「安心して付き合える友達って、いないのかしら」

ため息をつくヨシコ。

私は励ますつもりで、つい口を滑らせた。

「いい人は皆、早く死んだじゃん。

残っとるのは、修行が足らんけん死なれん人ばっかりよ」


ハハ‥と笑いかけたヨシコ、キッとなって言う。

「私もその一人っ?」

危なかった。


ともあれヨシコ、おトミと交際を続けるにあたり

消耗するのはお金のことだけではない。

昔からシブチンで名高いおトミだが、近頃はたまに物をくれるようになり

これがまたヨシコを苦しめるのだった。


「貰い物だけど、誰も食べないから」

そう言って、遊びに来がてら持ってきたのは

佃煮の小瓶がズラリと20個ぐらい並んだセット。

礼を言ってヨシコと共に歓待し、帰りに手ぶらじゃ悪いので

ちょうどできあがっていたキンピラごぼうを持たせた。


その後、もらった佃煮をよく見たら、消費期限は4年前に終了。

しかも瓶のいくつかは開封済みで、ドロドロに腐っていた。

ヨシコはさっそく電話で抗議。

「あの佃煮、古かったよ!」

シブチンから物をもらうのは、要注意なのだ。

はっきり言っておかなければ

いつまでも「あげた、あげた」と威張るからだ。


おトミ、消費期限については「気がつかなくて悪かった」と恐縮したが

後日、うちへ来た時にはすっかり忘れ

「あんたのキンピラ、柔らか過ぎる」とクレームをつけた。

「キンピラは歯ごたえがなきゃ。

聖子も言うとった」


また先日は

「お父さんの法事でもらったビールがたくさんあるけど、飲む?」

と言い、大きな紙袋に入れた缶ビールを携えてうちへ来た。

帰りには制作中だった巻き寿司を数本、持たせる。


佃煮の衝撃以降、おトミに厳しくなった息子たちはビールをチェック。

15個全て、消費期限は3年前に終了。

法事でもらったどころか、おトミのご主人が生きている頃じゃないか。


「うちはゴミ捨て場じゃないと言うてやる!」

ヨシコは激しく怒ったが、私は止めた。

おトミが認知症になったことを聖子ちゃんから聞いていたからだ。

お金もそうだけど、時の流れに関しても無頓着になっているのは

このところ、おトミと接触してわかっている。

責めても仕方がないじゃないか。


ヨシコはしばらくの間、自身の名誉と友情の狭間で苦しみ

心乱れる日々を過ごしていた。

そこで問題のビールを漬け物のぬか床に入れたら、落ち着いた。

発酵の加減を調整するため、ぬか床にビールを入れることがあるのだ。


食べられはしないが、ビールを捨てることにはならない‥

そんな微妙な物体、ぬか床に使用することで

彼女の名誉と友情はバランスが取れた模様。

ちなみに古ビール配合のぬか床で漬けたキュウリは、ヨシコしか食べない。


認知症になると自分に甘く、他人に厳しい性格が強調されるようで

後日、巻き寿司についてクレームがあった。

「あんたとこ、卵が多過ぎる。

聖子も言うとった」

うちへ来ている間中、聖子ちゃんに何を食べさせようかと

思案というより苦しみ続けるおトミに

うちのおかずで良ければ‥と持たせて、このザマよ。

嫁との骨肉を嘆くおトミだが、自業自得としか思えん。


「次に巻き寿司くれる時は、穴子を入れて」

おトミは付け加えたが、この次は無いと思う。

《完》
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体験入部・3

2017年11月03日 10時09分03秒 | みりこんぐらし
義母ヨシコの留守を確保したい‥

そんなヨコシマな心によって

おトミ母娘とのお出かけに参加してみた私だったが

これといった案は浮かばなかった。


私がおトミ母娘と接触したことについて

夫の姉カンジワ・ルイーゼは、珍しく所見を述べた。

「聖子ちゃん、生意気じゃろ」

ルイーゼも以前、ヨシコに誘われてこの集いに同行したことがあり

一回で辟易したのだった。

無理もない。

ルイーゼと聖子ちゃんは、ほとんど同じ性格。

女王が2人いてはいけない。


あんたとそっくりでした‥とも言えず

ヨシコ、ルイーゼ、私の3人は、おトミ母娘の話題で大いに盛り上がる。

参加した成果といったら、共通の話題が増えたことだろう。


聖子ちゃんより3つ年上のルイーゼと違い

私は聖子ちゃんより年下なので、生意気とは思わない。

高飛車なお姉ちゃんに引っ張られる妹になった感じ。

普段、一卵性母子VS嫁という猛毒生活を送る身としては

聖子ちゃんの放つ強烈が、心地よい刺激に感じられた。


また一方で、私におしぼりや箸を配るよう指示したり

座る席やバッグの置き場所をテキパキ指定する聖子ちゃんと比較すると

ルイーゼのおとなしさや控え目が際立つ。

よく似た両者であっても、結婚という理不尽を知らない聖子ちゃんより

細かくて面倒くさい旦那を持つルイーゼの方が

柔軟で大らかに思えるのは身内の欲目だろうか。


おトミ母娘は新メンバーの参加が新鮮だったらしく

「また行こう」と言ってきた。

しかし、そうたびたび行けるものではない。

うちには毎日昼ごはんを食べに帰って来る男どもが3人いて

私の外出を阻む原因になっているからだ。

また反面、この習慣は意外に説得力があり

気乗りのしない誘いを断るには最適の理由になっている。


彼らが全員帰らない昼、というのは滅多に無いため

以後はヨシコだけが、誘いの電話2回に1回のペースで参加を続け

私が参加したのは2ヶ月後、つい先日であった。


今度は違う街へ行った。

「どこか、いい所知らない?」

聖子ちゃんがまた言うので、どうせ却下だと思いながら

「しゃれたカフェができてるよ」

と言ってみる。


「カフェ?」

聖子ちゃん、今度は食いついた。

「行ってみたい」ということで、その店へ向かう。


この日、おトミからの電話がいつもより遅めだったので

ヨシコと私は昼ごはんを半分食べたところだった。

空腹でない我々はコーヒーとケーキを注文し

おトミ母娘は、聖子ちゃんの仕切りで

サラダとスープの付いた豪勢なサンドイッチセットに

別注でアイスコーヒーを頼んだ。


おトミは家を出る前に何か食べていたらしく、食事にほとんど手をつけない。

事前に何か食べたことが聖子ちゃんに知られると

規則正しい食事を推奨する彼女に叱られるので、言えないのだった。

しかし今度は、食べないといって厳しく叱られていた。

どっちにしても叱られるのだ。


食べ終わると会計。

レシートを見たら、ぴったり5千円だ。

我々が2人で千円、おトミ母娘が4千円の内訳である。


「じゃ、2千5百円ずつね」

明るく言い渡す聖子ちゃん。

これが噂に聞く不明朗会計か!

そう思ったけど、ガソリン代と思い直して素直に従う。


たまたま私の財布に5百円が無かったため

3千円を出して、聖子ちゃんがお釣りをくれるのを待った。

しかし聖子ちゃんの辞書に、お釣りの文字は無さそう。


ここでヨシコ、私に言う。

「今日は私の分は出すわ」

安い時、目立つように出しておいて

高い時にたかる“海老鯛商法”は、彼女の常套手段である。

ヨシコは財布から5百円を探すが、やはり無かったので

テーブルに千円札を置いて私からのお釣りを待つ。


細かいことを言うようだけど、この千円はたしか私のもののはず。

が‥

「お釣りが無いんだってば‥」

ヨシコに言っている間に、野口英世は聖子ちゃんにさらわれた。


私の出した3千円と、ヨシコの出した千円を掌握した聖子ちゃんは

おトミに残りの千円を出すよう命じ、合計5千円を持ってレジに向かう。

こ‥これが、かの有名な不明朗会計か!

不明朗会計に第2弾があることを知り、感動すら覚えた私であった。


‥食べきれないのに、2人で高い物ばっかり注文して

払いは割り勘にさせるのよ‥

ヨシコがぼやくのを聞いては「細かい」と非難したあげく

「免許持ってない人は、運転する者の気遣いがわからんのじゃ。

たいていのことには目をつぶりんさい」

などと、えらそうに言い聞かせていた我が身を恥じる私よ。

噂の不明朗会計は、聞きしに勝るものであった。

鮮やかな手口を目の当たりにして、もはや感心するほかはない。

敗因は、財布に5百円が無かったこと‥それだけはわかった。


その夜、ヨシコは、半年前の出来事を私に打ち明けた。

バランスのおシマがグループから抜けた本当の理由‥

名付けてケーキ事件である。

《続く》
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体験入部・2

2017年11月01日 08時50分48秒 | みりこんぐらし
「一回、一緒に来てみてよ!そしたらわかると思う」

義母ヨシコに言われ、おトミ母娘のお出かけに参加することになった私だが

よく考えれば、うちのヨシコと夫の姉カンジワ・ルイーゼ以外に

この種族と進んで交流するのは初めてかもしれない。


この種族とは、一卵性母子のこと。

ありがちな共依存や、単なる仲良しを全て一卵性母子と揶揄するつもりはない。

私の言う一卵性母子とは、その密接が親族に弊害をもたらす母娘を指す。


私がこの種族を避けていたわけではない。

実質的な被害が無ければただの人、付き合うのに何ら問題は無い。

が、知り合うことはあっても、親しくなる機会に恵まれなかった。

彼女たちはすべからく甘ったれで、何事も「人が悪い」で終わらせる。

話しても面白くないため、付き合う根気が無かったに過ぎない。


さて、おトミ母娘とのお出かけは数日後に決行となった。

当日、私は助手席、ヨシコはおトミの座る後部座席に乗り込んで出発。

「何食べる?どこか珍しい所、知らない?」

運転する聖子ちゃんにたずねられ、私は答えた。

「新しくできた洋食屋があるよ」

すると聖子ちゃんは言った。

「回転寿司にしよう」

なら聞くなや‥

と思ったが、こういうとこ、夫の姉カンジワ・ルイーゼに似ている。


走ること40分、回転寿司屋が点在する地域に到着。

「どこにする?」

聖子ちゃんがたずねるので

「Aは先月、友達と行ったけど、おいしかったよ」

と言うと

「Bにしよう」

なら聞くなや‥

再び思ったが、聖子ちゃんの頭のシステムはそうなっているらしい。

最初から揺るぎなく決めてあるけど、一応は他人の意見を聞くフリをして却下に至る。

やっぱりルイーゼと似ている。


店のカウンターには聖子ちゃん、私、ヨシコ、おトミの順に並んだ。

離れて座る母親をつぶさに観察し、イカや貝など硬そうなネタを取るたび

店の人に指示して切ってもらう聖子ちゃん。


おトミは好物なのか、イカと貝ばっかり食べるので

聖子ちゃんの指示も頻繁だ。

「これは斜めに包丁を入れて三切れにして」

「こっちは薄くスライスでお願い」

女将か社長のような口ぶりに、つい赤面してしまう私。


おトミは、まんざらでも無さそうだ。

「聖子は食通だからね」

などと目を細めてヨシコに言っている。

そうよ、一卵性母子って、こういうのが面倒臭いんだわ‥

今さらながらに思い出すが、もう遅い。


そのうち老婆2人は、馬脚を現す。

「たびたび切ってもらうのも面倒だから、噛んでぇ〜ん」

鮨を握る若い男に向かって肩を揺すり、甘えた声を出すおトミ83才。

この発言にヨシコ81才も興奮し、おトミと一緒に肩をゆすって

「噛んでぇ〜ん」を連発。

からかわれた男は、引きつった笑顔で耐えている。

誰も興味を持たないから知らないだろうけど

この年代の女性って、誰かをからかったり、はやすことが大好きなのよ。


「恥ずかしいっ!」

聖子ちゃんは吐き捨てるようにつぶやき

「セクハラじゃ‥」

私も激しく同意。

初めて価値観を共有した瞬間である。


食事が終わり、おトミ母娘と私たちの皿は別々に計算してもらったので

不明朗な会計問題は発生しなかった。

足腰の強い者がレジへ行くことになっているらしく

聖子ちゃんがおトミの財布を持ってレジへ行き、うちの方は私。

その後、いくらだったか聞こうともしないヨシコ。

あんたの方がよっぽど不明朗じゃん。


それから近くのショッピングセンターへ。

聖子ちゃんは自分の洋服選びに余念がない。

「どっちがいい?」と聞かれ、「こっち」と答えると

「これにしよう」と違う方を選ぶ。

なら聞くなや‥。


聖子ちゃんは始終キョロキョロと母親を探し

発見しては安心したような顔で次の服を選ぶ。

「お母さんが心配なんだわ‥」

幼な子のようなその姿に私は感動しつつ

おトミはなぜ、娘のそばから離れようとするのか不審に思っていた。


が‥謎はじきに解明された。

服を何枚か選び終わると、聖子ちゃんはおトミを手招きするが

おトミは見て見ぬフリをして、またも遠ざかる。

「ちぇっ、今日は買ってくれる気、無さそう」

聖子ちゃんは残念そうに言うと、手にした服を数枚、売り場に戻し

一枚だけを自分で買った。


「服でも雑貨でも、全部トミ子さんに買わせようとする」

前からヨシコが言っていたけど、こういうことだったらしい。

「あすこのお父さんは死ぬまで給料を取っていたけど

亡くなってトミ子さんの年金だけになったら、前みたいにパッパラ使えないわよ」


ショッピングセンターを回り終えると、今度は大型電気店。

ドライヤーを物色する聖子ちゃんから意見を求められ

「これがいいんじゃない?」と言うと、別のを手にして「こっちにしよう」。

なら聞くなや‥。


ドライヤーを持って、あたりを見回す聖子ちゃん。

「スポンサーがいないじゃないの!どこっ?」

と言いながら探し回るが見つからない。

聖子ちゃんは手に持ったドライヤーを戻して安い方に変え、レジに向かった。

後でヨシコから聞くところによると

この時、おトミはドライヤーを買わされまいと

見えにくい所に隠れていたそうだ。


これで帰れるかと思っていたら、フィナーレはホームセンター。

また広い店内を延々と歩く。

聞きしに勝る強行軍。


店を出る時、ヨシコはおトミ母娘にペットボトルのお茶を買って渡した。

「この前、気が利かないって聖子ちゃんに言われたんよ‥」

姑を愚痴る嫁みたいに、ヨシコはささやくのだった。

《続く》
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